関連審決 | 不服2000-4 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 周知技術 / 上位概念 / 発明の概要 / 遡及 / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / 独立特許要件 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
93号
審決取消請求事件
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原告 鹿島建設株式会社 訴訟代理人弁理士 久門知、久門享、久門保子 被告 特許庁長官太田信一郎 指定代理人 嶋矢督、大野克人、林栄二 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/10/24 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
特許庁が不服2000-4号事件について平成14年1月10日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「既存建築物の制震補強構造」とする発明について特許出願したが(平成8年3月1日出願、特願平8-44598号)、平成11年11月15日に拒絶査定を受けたので、平成12年1月4日に拒絶査定を不服とする審判(不服2000-4号)を請求し、同年1月26日付けで本願明細書について特許法第17条の2第1項第3号の規定による手続補正(本件補正)をした。 特許庁は、平成14年1月10日、「平成12年1月26日付けの手続補正を却下する。」旨の決定(補正却下決定)とともに、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その審決謄本を同年1月22日に原告に送達した。 2 特許請求の範囲の記載 (1) 出願時の明細書 (請求項1〜9の発明を総称して「本願発明」という。) 【請求項1】 既存建築物の外部または内部における既存建築物と干渉しない領域に既存建築物とは独立して、制震装置を組み込んだ平面架構あるいは立体架構の制震架構を構築し、既存建築物と前記制震架構とを連結してなることを特徴とする既存建築物の制震補強構造。 【請求項2】 既存建築物の外部または内部における既存建築物と干渉しない領域に既存建築物とは独立して、平面架構あるいは立体架構の耐震架構を構築し、 既存建築物と前記耐震架構とを制震装置を介して連結してなることを特徴とする既存建築物の制震補強構造。 【請求項3】 既存建築物の外部または内部における既存建築物と干渉しない領域に既存建築物とは独立して、制震装置を組み込んだ平面架構あるいは立体架構の制震架構を構築し、既存建築物と前記制震架構とを制震装置を介して連結してなることを特徴とする既存建築物の制震補強構造。 【請求項4】 請求項1、請求項2、または請求項3に記載の制震補強構造において、制震架構または耐震架構は、地上部のみからなることを特徴とする既存建築物の制震補強構造。 【請求項5】 請求項1、請求項2、または請求項3に記載の制震補強構造において、制震架構または耐震架構は、地上部と地下部からなることを特徴とする既存建築物の制震補強構造。 【請求項6】 請求項1、請求項2、または請求項3に記載の制震補強構造において、制震架構または耐震架構は、地上部と地下部からなり、前記地下部は既存建築物の地下部に一体化されていることを特徴とする既存建築物の制震補強構造。 【請求項7】 請求項4、請求項5、または請求項6に記載の制震補強構造において、制震架構または耐震架構は、既存建築物の各階において連結されていることを特徴とする既存建築物の制震補強構造。 【請求項8】 請求項4、請求項5、または請求項6に記載の制震補強構造において、既存建築物と制震架構または耐震架構が最頂部で連結され、あるいは既存建築物と制震架構または耐震架構のうちの高さの低い方の頂部と、他方の同等の高さ位置において連結されていることを特徴とする既存建築物の制震補強構造。 【請求項9】 請求項4、請求項5、または請求項6に記載の制震補強構造において、既存建築物と制震架構または耐震架構とは、平面上の任意の位置において、高さ方向の任意の高さにおいて連結されていることを特徴とする既存建築物の制震補強構造。」 (2)本件補正による補正後の明細書(補正後の各請求項の発明を、請求項番号の順に「補正第1発明」、「補正第2発明」等といい、総称して「補正発明」という。補正箇所を下線表示。) 【請求項1】 既存建築物の外部または内部における既存建築物と干渉しない領域に既存建築物とは独立して、ダンパーからなる 制震装置を組み込んだ平面架構あるいは立体架構の制震架構を構築し、既存建築物と前記制震架構とを連結部材を介して 連結してなることを特徴とする既存建築物の制震補強構造。 【請求項2】 既存建築物の外部または内部における既存建築物と干渉しない領域に既存建築物とは独立して、平面架構あるいは立体架構の耐震架構を構築し、 既存建築物と前記耐震架構とをダンパーからなる 制震装置を介して連結してなることを特徴とする既存建築物の制震補強構造。 【請求項3】 既存建築物の外部または内部における既存建築物と干渉しない領域に既存建築物とは独立して、ダンパーからなる 制震装置を組み込んだ平面架構あるいは立体架構の制震架構を構築し、既存建築物と前記制震架構とをダンパーからなる 制震装置を介して連結してなることを特徴とする既存建築物の制震補強構造。 (【請求項4】ないし【請求項9】は、出願時の明細書と同一。) 3 審決の理由の要旨 別紙1審決の理由のとおり、「出願人により、本願の願書に添付した明細書について、特許法第17条の2第1項第3号の規定に基づいて平成12年1月26日付手続補正書が提出されたが、これは補正の却下の決定により却下された。」として、前記2の(1)のとおり本願の請求項1ないし9に係る発明の要旨を認定した上、請求項1、2、4、5、7〜9に係る発明は、引用例1(特開平7-252967号公報、甲第4号証)及び引用例2(特開平3-199582号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、とした。 4 補正却下決定の理由の要旨 別紙2補正却下決定のとおり、補正第1、第2発明は引用例1、2に記載された発明に基づいて、補正第4、第5、第7ないし第9発明は引用例1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件補正は、特許法17条の2第5項において準用する特許法126条4項(独立特許要件)に適合せず、却下すべきものである、とした。 |
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原告主張の審決取消事由
補正却下決定(別紙2)は、補正第1発明及び補正第2発明と引用例1記載の発明(以下「引用例発明1」という。)との一致点の認定を誤り(取消事由1、 2)、相違点の認定判断を誤る(取消事由3〜5)ことにより、補正第1発明及び補正第2発明の独立特許要件の判断を誤り、この誤った判断に基づいて、本件補正後の請求項4、5、7〜9に係る発明の独立特許要件の判断をも誤ったものであって、違法である。 審決は、この違法な補正却下を前提としたため、本件請求項1、2、4、5、7〜9に係る発明の要旨の認定を誤り、これら発明に進歩性がないと誤って判断したものであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(補正却下決定における補正第1発明、補正第2発明と引用例発明1との一致点の認定の誤り1) 補正却下決定は、「立体架構が建物の一種であることは明らかである」(補正却下決定4、5頁)と認定したが、誤りである。この誤った認定に基づく「両者(注.補正第1発明と引用例1発明)は、既存建築物の外部における既存建築物と干渉しない領域に既存建築物とは独立して、制震装置を組み込んだ建物を構築し、 既存建築物と前記建物とを連結してなる制震補強構造である点で一致している」(同4頁)との認定、及び「両者(注.補正第2発明と引用例1発明)は、既存建築物の外部における既存建築物と干渉しない領域に既存建築物とは独立して建物を構築し、既存建築物と前記建物とを連結してなる制震補強構造である点で一致している」(同5頁)との認定も誤りである。 「架構」とは、辞典類の説明によれば、建物の骨組を指し、建物の構成要素となるものである。 本件補正後の明細書(以下「補正明細書」という。)においては、「既存建築物」と「平面架構」、「立体架構」を用語的に明確に区別して用いており、「架構」が建築物とは異なる独立した構造体を表わしていることは明白である。 被告は、「補正明細書には『架構』が『狭義の架構』であるという明示はなく」と主張するが、「狭義の架構」とは、被告が独自に定義したものである。「架構」は、被告の定義する「狭義の架構」に限定されるものではないので、そのような限定が補正明細書にないことは当然である。 また、補正明細書の「耐震架構に床が伴わない場合は床面積の増加がないため、 建築基準法上、増築にならないことから、建ぺい率や容積率の増加がなく、既存建築物の遡及が避けられる効果もある。」(段落【0019】)との記載は、「架構」に「屋根」が加われば、建築基準法第2条第1号に規定される「建築物」になり得ることから、床面積の増加の問題が生じる得ることを述べたにすぎない。 被告が提出した「改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修設計指針同解説」(乙第8号証)にも、「架構」に「床」と「壁」を加えて補強計画を行う場合の説明がされているとおり、この説明は、被告の主張とは反対に、「架構」は骨組を構成する部材で構成されているもので、建築物それ自体ではないとの認識に立った説明とみるべきである。 以上のとおり、補正第1発明及び補正第2発明における「平面架構」や「立体架構」は、補正却下決定でいうような「建物の一種」ではない。 2 取消事由2(補正却下決定における補正第1発明と引用例発明1との一致点の認定の誤り2) 補正却下決定は、引用例発明1の「免振装置」が補正第1発明の「制震装置」に相当すると認定したが、誤りである。 分類の仕方によっては、「免振装置」が「制震装置」の一種であることは認めるが、補正第1発明の「ダンパーからなる制震装置」は、構造的にも機能的にも引用例発明1の「免振装置」ではあり得ず、比較の対象となり得るものではない。 3 取消事由3(補正却下決定における補正第1発明と引用例発明1との相違点1の認定・判断の誤り) 補正却下決定は、補正第1発明と引用例発明1について、「補正第1発明では『制震装置を組み込んだ立体架構の制震架構』であるのに対して、引用例1に記載の発明は立体架構の制震架構であるのか不明である点(相違点1)」(補正却下決定4頁)で相違すると認定した上で、「多層の建物を建てる場合に、骨格部分として立体架構の骨組みを構築することは普通のことであるので、引用例1に記載の発明において、後から構築される建物を制震装置を組み込んだ立体架構の建物、即ち立体架構の制震架構である建物とすることは当業者が容易になし得ることと認められる。」(同4頁)と判断したが、誤りである。 まず、取消事由1で述べたように、引用例発明1は立体架構の制震架構を用いるものではないから、「不明である」との上記認定は誤りである。 また、「多層の建物を建てる場合に、骨格部分として立体架構の骨組みを構築することは普通のことである」ことは認めるが、補正第1発明は建物ではなく「平面架構または立体架構」を構成要素とするものであり、引用例1にはかかる補正第1発明の構成や効果を示唆する記載はない。 したがって、補正第1発明と引用例発明1との相違点1についての上記判断も誤りである。 4 取消事由4(補正却下決定における補正第1発明と引用例発明1との相違点2の認定・判断の誤り) 補正却下決定は、補正第1発明と引用例発明1について、「補正第1発明では、 制震装置がダンパーからなるのに対し引用例1に記載の発明は制震装置についてそのような限定がない点(相違点2)」(補正却下決定4頁)で相違すると認定した上で、「引用例1には、制震装置(免振装置)として、『積層ゴム7』と『油圧シリンダ(減衰装置)8』(油圧シリンダは補正第1発明の『ダンパー』に相当する。)とで構成されたものが挙げられているが、これは一例を示したものであって引用例1で使用される制震装置がそれに限定されるというものではない。又、振動エネルギーを吸収できる『ダンパー』(・・・)は、建築分野では制震装置として周知のものであるから、引用例1に記載の発明において、制震装置として周知のダンパーからなるものを選んだ点には格別の創意は認められない。そして、制震装置としてダンパーを採用したことにより生じる効果も引用例1に記載のものから予測できる程度のものである。」(同4頁)と判断したが、誤りである。 まず、取消事由2で述べたように、引用例1の制震装置はダンパーからなるものではないから、「限定がない」との認定は不正確である。 次に、「油圧シリンダは補正第1発明の『ダンパー』に相当する。」との認定も誤りである。すなわち、補正第1発明の「ダンパーからなる制震装置」との構成は、「ダンパー」が「制震装置」そのものであることを意味するものである。 これに対し、引用例発明1の制震装置は「チューンド・マス・ダンパー」であり、これは、付加質量と水平バネからなるものであって、引用例発明1の「油圧シリンダ」(ダンパー)は免振装置の一構成要素として補助的に設けられているにすぎない。引用例発明1の構成が実施例に「限定されない」としても、それはせいぜい「積層ゴム7」の代わりに何らかの「水平バネ」を用い、「油圧シリンダ8」の代わりに何らかの「減衰装置」を用いることが想定される程度であり、「ダンパーからなる制震装置」が適用される余地は全くない。 したがって、補正却下決定の上記判断は誤りである。 5 取消事由5(補正却下決定における補正第2発明と引用例発明1との相違点の認定・判断の誤り) 補正却下決定は、「補正第2発明では、連結手段が『ダンパーからなる制震装置』であり、該連結手段により『立体架構の耐震架構』が既存建築物に連結されているのに対し、引用例1に記載の発明では、制震装置(免震装置)を設けた建物が『連結梁』により連結され、該建物は『立体架構の耐震架構』であるのか不明である点で相違している。」(補正却下決定5頁)と認定した上で、上記相違点について、「引用例1に記載の発明において、『制震装置を組み込んだ建物』と『連結梁』とからなる構造を引用例2(注.特開平3-199582号公報)に記載の『鉄骨構造の高層建築物』(立体架構)と『振動抑制部材』(ダンパーからなる制震装置)とからなる構造に置き換えることは当業者が容易になし得ることと認められる。」(同5頁)と判断したが、これら認定判断は誤りである。 まず、上記認定のうち、「建物は『立体架構の耐震架構』であるのか不明である」との認定は、補正第1発明について取消事由3として主張したのと同様の理由により誤りである。 また、補正却下決定は、上記判断の前提として、「『鉄骨構造の高層建築物』は当然骨組みを備えるから立体架構であると解せられる。」(同25頁)と認定したが、取消事由1で述べたのと同様の理由により誤りである。 さらに、取消事由4で述べたように、引用例発明1における制震装置は、「チューンド・マス・ダンパー」であり、その構成要素たる「油圧シリンダ8」の代わりに引用例2に記載された発明(以下「引用例発明2」という。)の「振動抑制部材」を適用するならともかく、「チューンド・マス・ダンパー」を引用例発明2の「振動抑制部材」で置き換えることはあり得ない。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1に対して 原告は、「『平面架構』や『立体架構』が、審決でいうような「建物の一種」ではない」と主張するが、補正明細書には「建築物」と「架構」が区別することのできる概念であることを明確にした記載はない。 すなわち、補正明細書には、「なお、独立架構2(制震架構・耐震架構)の構造自体は、立体架構または平面架構で構築され、トラスで構成してもよいし、柱・梁のみのフレーム、あるいはそれに壁やブレースが接続した構造でもよい。」(甲第6号証4欄32〜36行)と記載があり、この記載によると壁等を備えるものまで架構に包含される。 さらに、補正明細書には、「耐震架構に床が伴わない場合は床面積の増加がないため、・・・既存建築物の遡及が避けられる効果もある。」(甲第6号証5欄2〜6行)との記載があり、この記載は、耐震架構には床も含まれることを示すものである。 したがって、補正明細書においては、「架構」は、建物の「骨組」(但し、床、 壁を備えない。)(以下「狭義の架構」という。)よりも広い意味で用いられていることは明らかである。 また、「広辞苑第三版」によると、「架構」は「材を結合して作った構造物。」(乙第1号証434頁上欄参照)と記載されており、「架構」の通常の意味は限定的なものではない。さらに、「改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修設計指針同解説」(乙第8号証)には、「フレームの増設による補強は、・・・床面積を増して、新しい機能を付加する事が可能である・・・機能的にも増築を要するような建物の補強方法としては最適である。」(175頁14〜19行)との記載があり、「フレーム」と「架構」は同義であり、図3.5.3(177頁)によれば、増設部分は建築物の既存部分と一体化されているから、「架構」は「建築物」を含むものであり、両者には明確な区別はない。 これらを総合すれば、補正第1発明及び補正第2発明の「架構」は、床、壁を備える骨組構造の建物を排除していないと解さざるを得ない。 よって、「立体架構が建物の一種であることは明らかである」との補正却下決定の認定に誤りはなく、これに基づく補正第1発明及び補正第2発明と引用例発明1との一致点の認定にも原告が主張する誤りはない。 2 取消事由2に対して 「建築大辞典第2版」(乙第2号証、株式会社彰国社発行)には、「制震構造」の説明として、「構造物全体または床などの部分に、地震や強風時に作用し振動を生じる外力に対して、何らかの装置または機構を設けて構造物の生じる加速度や変形を制御しようとする構造。制震構造では、地震時の振動エネルギーを吸収するダンパーを構造物と基礎との間に設けて、構造物の鉛直荷重は常時支持するが地震などによる入力を絶縁し、もしくは抑制しようとする支承、および・・・などを、それぞれ単独に、あるいは組み合わせて、構造物に生じる振動を制御している。・・・」(884頁右欄参照)と記載されている。 また、補正明細書には、「制震装置」について、「ダンパー(弾塑性ダンパー、 摩擦ダンパー、粘性ダンパー性、粘弾性ダンパー、オイルダンパーなど)等の制震装置3を組み込んで制震架構2Aとし、」(甲第6号証3欄50行〜4欄3行)という記載と、図1における「制震装置3」部分の簡単な図示がされているだけであり、「制震装置」に包含される範囲を明確に定義する記載はない。 そうすると、補正第1発明の「ダンパーからなる制震装置」における「制震装置」は、前記「建築大辞典第2版」に記載されるような普通の意味での「制震」のための装置であり、ダンパーは「制震構造」に取り付けられるものであるから、 「制震装置」を構成し得る要素であると解される。 一方、前掲「建築大辞典第2版」には、「免震構造」の説明として、「制震構造の一。・・・」(乙第2号証1638頁右欄)と記載されていることから、補正第1発明の「制震装置」は引用例発明1の「免震装置」の上位概念である。したがって、「引用例1における・・・『免震装置』・・・が、補正第1発明における・・・『制震装置』・・・にそれぞれ相当する。」との補正却下決定の認定に誤りはない。 3 取消事由3に対して 引用例発明1において、補正第1発明の「立体架構」に対応するものは、「建物」又は多層の「建屋」であるが、「建物」又は「建屋」の建物構造、その用途等の説明はなく、それが「骨組」を有する構造であり、「免震装置」がそれに組み込まれていることは明記されていないので、引用例1にはこのような記載がないという意味で、補正第1発明と引用例発明1との相違点1として認定したのであり、この認定に誤りはない。 原告は、「補正第1発明は建物ではなく『平面架構または立体架構』を構成要素とするものであり」と主張するが、補正第1発明における「架構」が「骨組」(狭義の架構)に限定されないことは1で述べたとおりであるから、原告主張は失当である。 4 取消事由4に対して (1)引用例1には「免震装置5は、上層階部3を支える積層ゴム7と油圧シリンダ等の減衰装置8とにより構成されるものであって、」(甲第4号証2欄34〜36行)という記載があるが、記載された例は1実施例であるから、引用例発明1の「免震装置」がこの例に限定されるというものではない。 一方、補正第1発明における対応する構成は「ダンパーからなる制震装置」であるから、両者を対比すると、引用例1には「ダンパーからなる」の限定がない点でのみ相違することになる。 したがって、「補正第1発明では、制震装置がダンパーからなるのに対し引用例1に記載の発明は制震装置についてそのような限定がない」との補正却下決定の認定に誤りはない。 (2)原告は、「油圧シリンダは補正第1発明の『ダンパー』に相当する。」との認定も誤りである。」と主張するが、引用例1に実施例として記載される「免震装置5」の構成部分である「油圧シリンダ8」が「ダンパー」であることは明らかである。 (3)原告は、「『油圧シリンダ8』の代わりに何らかの『減衰装置』を用いることが想定される程度であり、『ダンパーからなる制震装置』が適用される余地は全くない。」とも主張するが、補正明細書の請求項1には、「ダンパーからなる制震装置」に関しては「組み込んだ」という記載があるだけであり、それ以外に特段の限定を付すものではない。そして、制震のため建物に組み込まれて用いる「ダンパーからなる制震装置」は、周知である。したがって、建物への「制震装置」の組込みを意図したときにこのような周知の「ダンパーからなる制震装置」を採用することは何ら格別のことではない。 したがって、補正第1発明と引用例発明1との相違点2の判断には誤りがない。 5 取消事由5に対して 原告は、「建物は『立体架構の耐震架構』であるのか不明である」(補正却下決定5頁)との認定、及び、「『鉄骨構造の高層建築物』は当然骨組みを備えるから立体架構であると解せられる。」(同5頁)との認定を非難するが、前者については、補正第1発明について3で述べたと同様の理由により、認定に誤りはない。後者については、1で述べたとおり、補正第2発明における「架構」は、狭義の架構ではなく、床、壁を備える骨組構造の建物を含むと解すべきであるから、引用例発明2の「高層建築物」は、補正第2発明の「立体架構」に含まれるものである。 そして、引用例1には、「2つの建物を1つの単位として、これら建物全体が、 振動、転倒することを防止し、・・・を目的とする。」(甲第4号証1欄34〜37行)とあり、引用例発明1において、「免震装置を組み込んだ建物」と「連結梁」の連結構造は、他方の建物の振動を抑制する機能をもたらす構造であると考えることができる。また、引用例発明2においては、「1つの建造物」と「振動抑制部材」の連結構造は、他方の建物の振動を抑制する機能をもたらす構造であると考えることができる。 補正却下決定では、引用例発明1における「免震装置を組み込んだ建物」と「連結梁」とからなる構造を、引用例発明2における「高層建造物」と「振動抑制部材」とからなる構造に置き換えることは容易になし得ることであるとしたもので、 この判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 補正第1、第2発明の概要 (1)甲第3号証(平成12年1月26日付け手続補正書)及び甲第6号証(本願公開公報:特開平9-235890号)によれば、補正明細書に以下の記載が認められる。 【0001】【発明の属する技術分野】この発明は、既存建築物に対して制震装置を組み込んだ制震架構を付加し、あるいは既存建築物に制震装置を介して耐震架構を付加することにより既存建築物を制震補強する既存建築物の制震補強構造に関するものである。 【0002】〜【0004】【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】・・・建物内部に補強工事を必要とし,建設資材の重量・運搬の動線の確保、 作業スペースの確保などに建物新築の場合とは異なった問題が生じる。即ち、建物内での居住者の業務遂行や生活に大きな制約が生じ、補強工事に先立って建物各階の居住者などの引っ越しなどを余儀なくされる問題点が生じる。所謂「居抜き工事」が困難である。 【0005】この発明は、前述のような問題点を解消すべくなされたもので、建物を使用状態においたまま既存建築物に制震補強を施すことを目的とする。 【0006】【課題を解決するための手段】(実質上、補正後の請求項1〜3(補正第1ないし第3発明)と同等の文章が3文記載されている。) 【0012】以上のような構成において、新たに構築される制震架構または耐震架構と既存建築物が連結されることにより連結部分が既存建築物に作用する水平力を耐震架構に流すバイパスになり、既存建築物と制震架構または耐震架構が水平力を分担するため、さらに制震装置の制震作用により、既存建築物の架構に応力が集中することが回避される。その結果、既存建築物に対する補強の必要がなくなる(施工上の煩わしさ、それに伴う内部生活者の煩わしさがなくなる)。 【0013】新たな制震架構または耐震架構を外部に構築した場合には、 補強工事に伴う建築物内部の居住者への影響を与えないこと(引っ越しなどの移動の必要がないこと、生活の制約がないこと)や建築利用計画の制約がない利点が挙げられる。 【0014】【発明の実施の形態】・・・【0015】図1(a)に示すように、既存建築物1の領域外に独立して構築した独立架構2を、架構内にダンパー(弾塑性ダンパー,摩擦ダンパー,粘性ダンパー,粘弾性ダンパー,オイルダンパーなど)等の制震装置3を組み込んで制震架構2Aとし、既存建築物1と制震架構2Aとを連結部材4により連結する〔α-1タイプ〕。あるいは図1(b)に示すように、独立架構2を耐震架構2Bとし、既存建築物1と耐震架構2Bとをダンパー等の制震装置5を介して連結する〔α-2タイプ〕。あるいは図1(c)に示すように、両者を組み合わせて既存建築物1と制震架構2Aとを制震装置5を介して連結する〔α-3タイプ〕。 【0019】【発明の効果】この発明は以上のような構成からなるので、 既存建築物と制震架構または耐震架構が水平力を分担するため、さらに制震装置による制震作用により、既存建築物の架構に応力が集中することが回避され、既存建築物に対する補強の必要がなくなる。既存建築物に対する補強工事が不要となることから、耐震架構の構築によっても建物内での利用計画に制約を加えることはない。また、耐震架構は既存建築物の外部に構築されるため、建物を使用状態のまま工事を遂行することが可能で、建物内の居住者を退去させる必要がない。耐震架構に床が伴わない場合は床面積の増加がないため、建築基準法上、増築にならないことから、建ぺい率や容積率の増加がなく、既存建築物の遡及が避けられる効果もある。 (2)上記記載によれば、補正発明は、いわゆる居抜き工事を可能とした既存建築物の制震補強構造についての発明であり、具体的には、既存建築物自体には格別の工事をせず(新たに構築される架構との連結のみ)、近傍に架構を構築してこれと既存建築物とを連結部材を介して連結するものであるが、その架構を制震架構(「ダンパーからなる」との条件が本件補正で付加された。)とするか(補正第1発明)、その架構を耐震架構とし制震装置(「ダンパーからなる」との条件が本件補正で付加された。)を介して連結するか(補正第2発明)、補正第1発明と補正第2発明を併用する(補正第3発明)というものであると認められる。 2 取消事由についての判断(補正第2発明について) 原告は、審決は、本件補正が却下されたことを前提として補正前の請求項1ないし9の記載に基づき本願発明の要旨を認定したため、発明の認定を誤ったと主張し、補正却下決定における認定・判断の誤りを取消事由1ないし5として主張する。 以下では、補正第2発明について、原告主張の取消事由(取消事由1及び5)の当否を検討する。 2-1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について 原告は、補正却下決定における「立体架構が建物の一種であることは明らかである。」との認定は誤っており、この誤った認定に基づく補正第2発明と引用例1発目の一致点の認定も誤りであると主張する。 (1)「架構」についての説明として、建築大辞典(甲第7号証)には、「建物を構成する骨組のこと。部材の組み方により、ラーメンやトラスあるいはそれらの併用などの方式に分かれる。」(238頁右欄13〜16行)と記載され、図説建築用語事典(甲第8号証)には、「建築物に作用する種々の外力を安全にささえる目的で、部材を接合してつくった骨組。〔種類〕部材の組み方によって、ラーメン・トラス・アーチなどがある。」(73頁右欄下4行〜74頁左欄1行)と記載されている。 これらの説明によれば、「架構」とは、建物(建築物)を構成する骨組を意味し、「架構」のみをもって建築物ということはできないが、建物(建築物)は一般にそれを構成する骨組みとしての「架構」を有するものと認められる。このことは原告も認めるところである。 (2)甲第3号証及び甲第6号証によれば、補正明細書には、「既存建築物」、 「建築物」、「建物」、「架構」などの用語が用いられている。これらの用語については、次のとおり認めることができる。 ア 補正明細書には、「既存建築物」という用語が多数使用されているが、 単なる「建築物」という用語は、「新たな制震架構または耐震架構を外部に構築した場合には、補強工事に伴う建築物内部の居住者への影響を与えない」(段落【0013】)として、一箇所で使われているだけである。この一例についても、「既存建築物」の意味であることは明らかである。 イ 「建物」という用語については、補正明細書に、「・・・補強工事範囲が建物各階平面で広範囲に及ばざるを得ないことである。・・・建物利用計画の面で制約が大きいことである。・・・建物内部に補強工事を必要とし,建設資材の重量・運搬の動線の確保、作業スペースの確保などに建物新築の場合とは異なった問題が生じる。即ち、建物内での居住者の業務遂行や生活に大きな制約が生じ、補強工事に先立って建物各階の居住者などの引っ越しなどを余儀なくされる問題点が生じる。所謂「居抜き工事」が困難である。・・・建物を使用状態においたまま既存建築物に制震補強を施すことを目的とする。」(甲第6号証段落【0003】〜【0005】)、及び「・・・耐震架構の構築によっても建物内での利用計画に制約を加えることはない。また、耐震架構は既存建築物の外部に構築されるため、建物を使用状態のまま工事を遂行することが可能で、建物内の居住者を退去させる必要がない。・・・」(同号証段落【0019】)との記載があり、「建物」が「建築物」と同義の用語として使用されていると認めることができる。 ウ 補正明細書には、「既存建築物」と独立して構築される「平面架構あるいは立体架構」について、「建築物」又は「建物」との用語を用いた例は認められない。 そして、「独立架構2(制震架構・耐震架構)の構造自体は、立体架構または平面架構で構築され、トラスで構成してもよいし、柱・梁のみのフレーム、あるいはそれに壁やブレースが接続した構造でもよい。」(甲第6号証段落【0018】)との記載によれば、補正明細書において、「架構」は、骨組を有する構築物であればよいという意味合いで使用されていることが認められ、その限りでは、構築物を意味する「架構」と「建築物」とは、用語的に区別して用いられているといってよい。 エ しかしながら、補正明細書には、「耐震架構に床が伴わない場合は床面積の増加がないため、建築基準法上、増築にならないことから、建ぺい率や容積率の増加がなく、既存建築物の遡及が避けられる効果もある。」(甲第6号証段落【0019】)との記載があり、この記載によれば、「架構」には床が伴う場合と伴わない場合があると認めることができる。そして、耐震架構が床を伴う場合には建ぺい率や容積率の増加につながる旨の記載があることに照らすと、補正明細書にいう「架構」は、骨組のみの独立構造であって建築物の一部となっていないもの(被告主張による「狭義の架構」)に限定されるものではなく、建築物の一部になっている「架構」をも包含することが明らかである。 (3)補正却下決定は、「立体架構が建物の一種であることが明らかである」(補正却下決定5頁)と認定した。この認定は、「立体架構」に屋根・壁・床等が加わると建築物となることから、そのような状態にある立体架構も含むものとして「立体架構が建物の一種である」ということを述べたものと解される。 そして、「立体架構が建物の一種である」との上記認定は、その後に続く、補正第2発明と引用例発明1とが「既存建築物の外部における既存建築物と干渉しない領域に既存建築物とは独立して建物を構築し、」の点で一致するとの認定の前提となっているところ、引用例発明1において、後に建設される建屋(甲第4号証の図1における新設建屋2)が既存建築物(同図における既設建屋1)とは独立して、 既存建築物の外部における既存建築物と干渉しない領域に構築されることについては、原告もこれを争っていない。 そうすると、立体架構に屋根・壁・床等が加わったものが建物(建築物)であるから、補正第2発明と引用例発明2とは、「既存建築物の外部における既存建築物と干渉しない領域に既存建築物とは独立して立体架構(建物の骨組みとしての場合を含む)を構築」する点で一致するということができるのであって、補正却下決定における一致点の認定も、ややまぎらわしい点はあるものの、その論旨においては十分理解し得るところであり、誤りであるということはできない。 (4)以上のとおりであるから、補正第2発明について、原告主張の取消事由1は理由がない。 2-2 取消事由5(相違点の認定・判断の誤り)について (1)相違点の認定(立体架構)について ア 原告は、補正却下決定における相違点の認定中、「引用例1に記載の発明では、・・・該建物は『立体架構の耐震架構』であるのか不明である」(補正却下決定5頁)との認定は誤りであると主張する。 しかし、補正却下決定において補正第2発明と引用例発明1との相違点の認定を行ったのは、その相違点に係る補正第2発明の構成が想到容易であるかどうかを判断するための前提であるところ、相違点に係る補正第2発明の構成、すなわち、 「補正第2発明では、連結手段が『制震装置』であり、これにより『立体架構の耐震架構』が既存建築物に連結されている」(補正却下決定5頁)ことは、原告も認めるところである。 そして、引用例発明1において「『立体架構の耐震架構』であるのか不明である」場合と、原告が主張するように「引用例1には『立体架構』を用いた制震補強構造は一切記載されていない。」とで、相違点に係る補正第2発明の構成の容易想到性の判断に差異が生じると認めるべき理由はない。 原告の主張する認定の誤りは、補正第2発明の独立特許要件の判断の結論に影響を及ぼすものではないから、この点に関する原告の主張は採用することができない。 イ 原告は、補正却下決定における認定中、引用例2記載の「鉄骨構造の高層建築物」について、「骨組みを備えるから立体架構であると解せられる。」(補正却下決定25頁)との認定が誤りであると主張する。 しかし、2-1で説示したとおり、補正第2発明の「架構」は、建築物の一部としての骨組を包含するものである。補正却下決定の上記認定の趣旨も、「鉄骨構造の高層建築物」が備える骨組が補正第2発明の「立体架構」に相当するとの趣旨と解されるから、この認定に誤りはない。 (2) 想到容易性の判断について ア 引用例1(甲第4号証)には、「2つの建物を1つの単位として、これら建物全体が振動、転倒することを防止し、これによって制振のためのコストを低減させることが可能な振動防止構造の提供を目的とする。」(段落【0004】)、及び「新設建屋2の上層階部3と下層階部4との間に免振装置5を設けるとともに、該新設建屋2の下層階部4の側部と、既設建屋1との間を水平な連結梁6により連結したものであるので、・・・免振装置5及び連結梁6により2つの既設建屋1、新設建屋2を共に制振、転倒防止可能な構成であるので、個々の建物について制振対策を施していた従来の振動防止構造と比較してコストの点でも有利であるという効果が得られる。」(段落【0011】)との記載が認められる。 これらの記載によれば、引用例発明1は、「既設建屋」と「新設建屋」の振動防止構造を同時に実現するため、「新設建屋」に「免振装置」を設けるとともに、 「2つの建物を1つの単位」とすること、すなわち、既設建屋と新設建屋を「連結梁」で連結する構造を採用することにより、振動防止構造の施されていない「既設建屋」には連結以外特段の工事を不要とした発明であると認めることができる。 そうすると、2つの建物の振動防止構造を同時に実現する構成であって、その一方の建物に連結以外の特段の工事を必要としない構成であれば、引用例発明1の課題(段落【0004】の上記記載)を達成し得ることは明らかであり、そのような構成が、「新設建屋」に「免振装置」を設けるとともに「連結梁」の連結構造を採用するという引用例発明1の構成に代替し得るものであることは明らかというべきである。 イ 引用例2(甲第5号証)には、「風力あるいは地震力等の外力により隣り合う建造物が振動して横方向の相対変位が生じた場合、振動抑制部材4における中心軸力部材2の履歴による減衰効果により、建造物の振動が抑制される。」(2頁左上欄7〜11行)、及び「隣り合う建造物5,6を、振動抑制部材4を介して連結するだけでよいので、簡単な手段によって建造物の振動を抑制することができる。」(3頁左上欄6〜9行)との記載がある。 上記記載によれば、引用例発明2は、「隣り合う建造物5,6」を「振動抑制部材」を介して連結し、その「振動抑制部材」における「中心軸力部材」の減衰効果により、2つの建造物5,6の振動を同時に抑制する発明であると認めることができる。そして引用例発明2の「振動を抑制」と引用例1に記載の「振動防止」に格別の差異を見出すことはできず、「簡単な手段によって」とは、建造物には連結以外特段の工事を必要としないことを含む意味であることが明らかである。 そうすると、引用例発明2は、上に説示したとおり、引用例発明1の「2つの建物を一つの単位として、これら建物全体が振動、転倒することを防止し、これによって制振のためのコストを低減させる」との課題を達成するに足りる構成を備えた発明であるというべきであるから、「新設建屋」に「免振装置」を設けるとともに、「連結梁」の連結構造を採用するとの引用例発明1の構成に代えて引用例発明2の「振動抑制部材」を介して連結する構成を採用することに困難性がないことは明らかである。 そして、引用例発明2の「振動抑制部材」が補正第2発明の「ダンパーからなる制震装置」に相当することは原告も争わないから、「引用例1に記載の発明において、『制震装置を組み込んだ建物』と『連結梁』とからなる構造を引用例2に記載の『鉄骨構造の高層建築物』(立体架構)と『振動抑制部材』(ダンパーからなる制震装置)とからなる構造に置き換えることは当業者が容易になし得ることと認められる。」(補正却下決定5頁)との補正却下決定の判断に誤りがないことも明らかである。 ウ 原告は、要するに、引用例発明1における制震装置は、「チューンド・マス・ダンパー」であることから、それ以外の制震装置に変更することが容易でないと主張するのであるが、引用例1に記載された制震装置が「チューンド・マス・ダンパー」のみであるとしても、他の公知の制震装置であって引用例発明1の課題を達成し得るものであれば「チューンド・マス・ダンパー」に替わるものとして採用し得ることはいうまでもないから、原告の主張は採用することができない。 (3)以上のとおりであるから、原告主張の取消事由5にも理由がない。 3 結論 原告の主張する補正第2発明についての取消事由は、取消事由1及び5のみであり、これら取消事由はいずれも理由がないから、補正第2発明が独立特許要件を有さないとした補正却下決定の判断は正当である。 したがって、審決が本願第2発明の要旨を補正前の請求項2の記載に基づいて認定したことに誤りはなく、結局、審決が「本願第2発明は、引用例1、2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」としたことにも誤りは認められない。 そうすると、本願は、その余の取消事由につき判断するまでもなく、特許出願に係る発明のうち、請求項2に係る発明(本願第2発明)が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願を拒絶すべきものであるとした審決に誤りはない。 よって、原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 古城春実 |
裁判官 | 田中昌利 |