審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成13ネ959損害賠償請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明の詳細な説明 / 援用権(援用) / 実施 / 交換 / 構成要件 / 侵害 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
14年
(ネ)
1304号
損害賠償請求控訴事件
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控訴人(原告) 太陽工業株式会社 訴訟代理人弁護士 松尾栄蔵,森崎博之,佐藤真太郎,三谷英弘 補佐人弁理士 稲葉良幸,保坂延寿 被控訴人(被告) 不二サッシ株式会社 訴訟代理人弁護士 田倉 整,鈴木 宏,堀 晴美 補佐人弁理士 小山武男,小山欽造,中井 俊 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/10/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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控訴人の求めた裁判
原判決を取り消す。 被控訴人は,控訴人に対し,金1535万4800円及びこれに対する平成13年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 |
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事案の概要
(本判決においても,原判決の用語例に従って,「本件特許権」,「本件発明」,「本件特許明細書」,「本件工事」,「被告装置」などの用語を使用する。) 1 本件は,控訴人が被控訴人に対し,被控訴人が原判決別紙物件目録記載の太陽光発電装置(被告装置)を製作設置した行為が,控訴人が有する太陽光発電装置との名称の特許権(登録番号第2857581号,本件特許権)を侵害すると主張して,控訴人が被った損害の賠償を求めた事案である。 原判決は,被告装置が,本件発明の構成要件E及びFに係る「カバー」及び本件発明の構成要件Eに係る「開閉自在」の各要件を備えているということができないとの理由で,控訴人の請求を棄却した。そこで,控訴人が本件控訴を提起した。 2 「争いのない事実」及び「本件の争点」等は,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」(原判決2頁4行目〜4頁4行目)のとおりであるから,これを引用する。 また,「当事者の主張」は,次の3及び4のとおり,当審における当事者の主張の要点を付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に関する当事者の主張」(原判決4頁5行目〜7頁15行目)のとおりであるから,これを引用する。 3 当審における控訴人の主張の要点(控訴理由の要点) (1) 争点(1)@の本件発明の構成要件E及びFに係る「カバー」について (1-1) 原判決が「サッシ本体」とは透明板及び組立板を挟持する1つの完成された構造体であるとした点の誤り。 (1-1-1) 本件発明は,サッシ本体26のみで透明板9及び組立板18を挟持することを要件とはしていない。本件特許明細書の図6及び図8から明らかなように,透明板9及び組立板18は,サッシ本体26とサッシ本体以外の外側部材44の矢印が指す箇所の部材で挟持されているのである。したがって,「サッシ本体」が「透明板及び組立板を挟持する1つの完成された構造体をさすもの」との判断が導かれることはなく,原判決には事実誤認がある。 (1-1-2) 本件特許明細書の請求項1において,透明板を支持するのは,「サッシ」と規定されており,「サッシ本体」が透明板を支持するとは規定されていない。「サッシ本体」と「カバー」とで構成される「サッシ」により,透明板が支持されることで足りるのであり,サッシ本体が完成された構造体であることは要求されていない。この点でも原判決は誤っている。 (1-1-3) 上記請求項1によれば,「サッシ」は「サッシ本体」と「カバー」で構成されており,「サッシ本体」とは「サッシ」から「カバー」を取り除いたものを意味するにすぎず,「本体」にそれ以上の意味はない。原判決は,「サッシ本体」の意義についても誤った判断をしており,この点からも,原判決が「サッシ本体」が「透明板及び組立板を挟持する1つの完成された構造体をさすもの」と解釈したことが誤りであることは明白である。 (1-2) 原判決が,「カバー」とは,上記構造体に影響を与えることなく開閉し得るものであるとした点の誤り。 サッシは「サッシ本体」と「カバー」とで成り立っているのであるから,本件特許明細書の図6及び図8における上記外側部材44の矢印が指す箇所の部材は,「カバー」に相当する。この部材を取り外すと透明板及び組立板を挟持することができなくなる。よって,原判決が,「カバー」は「上記構造体に影響を与えることなく開閉できる」ものとした判断は誤りである。 (1-3) 原判決が,被告装置における「押し縁」は,それ自体が網入りガラスパネル及び太陽電池を保持させた複合ガラスパネルを挟持しているため,接着性のあるシール材を切断して「押し縁」を開くと,これらのパネルが外れてしまう構造になっていると判断した点の誤り。 ガラスパネルは,4方向から「押し縁」をもって挟持されているのであり,通電体の収められている1つの「押し縁」を外したとしても,残りの3方において,パネルは挟持されている。仮に,すべての「押し縁」を開いたとしても,パネルは,開く前の位置に保持されたままであり,外れてしまうことはない。 (2) 争点(1)Aの本件発明の構成要件Eに係る「開閉自在」について (2-1) 原判決が,本件特許明細書の図7(実施例3)においてカバー31とサッシ本体26との間に充填されているシール材が接着性を有するかは直ちに明らかでないとした点の誤り。 本件特許明細書の図7は,サッシ本体26とカバー31,32との間に通電体を配設した実施例であるから,カバーは「開閉自在」である。図7において,カバー31とサッシ本体26との間に接着性を有するシール材(甲7における符号Yで示される部材。以下「部材Y」という。)を充填してあることは,カバーとサッシ本体とを接着性を有するシール材でシールした場合でも「開閉自在」であることを明瞭に示すものである。 なお,部材Yが接着性を有するシール材であることは,以下のとおり明らかである。すなわち,通電体50を覆うカバー31とサッシ本体26との間にある充填部材である部材Yが,通電体50を収納する空間29内に雨水等が入らないようにするシール材であること,したがって,接着性を有するシール材であることは当業者にとって常識であるからである。 さらに,部材Yには,本件特許明細書の図面上,斜め格子状のハッチングが施されているが,接着性を有するシール材であることが明らかな部材63(甲2の段落【0072】)にも,斜め格子状のハッチングが施されている(甲2の図7,図8)ことからすれば,本件特許公報において,斜め格子状のハッチングが施されている部材が,接着性を有するシール材を表すことが明らかである。なお,このような表示の仕方は一般的でもある。 (2-2) 原判決がシール材を切断する必要があることから開閉自在にあたらないとした点の誤り。 原判決は,上記判断の前提として,@本件発明の作用効果は,サッシ本体からカバーを取り外して,収納空間の通電体の配設作業や,この通電体に対する保守点検作業を容易にすることができるという点にあること,A実施例では,カバーは,係止フックと係止凹部によってサッシ本体に係止されていること,B本件特許明細書及び弁論の全趣旨によると,本件特許明細書の図7(実施例3)においてカバー31とサッシ本体26との間に充填されているシール材が接着性を有するかどうかは明細書及び図面の記載によっては直ちに明らかでないことからすると,本件発明にいう「開閉自在」には接着性を有するシール材でシールさせているようなものは含まれないと解すべきである旨を述べる。 しかし,上記@の点に関していえば,本件発明にいう「開閉自在」とは,要するに「サッシ本体からカバーを取り外せば,収納空間が建築物の外方に開放される。」(本件特許明細書の段落【0083】)という「作用」を生じさせるためのものであって,開閉を容易にさせるという「開閉の容易性」の概念を含ませたものではなく,単に「開き得るもの」という意義を有するにとどまる。「開閉自在」との文字からしても「開き得るもの」であることは当然であり,本件発明にいう「開閉自在」とは,「開閉の容易性」にかかわらず,単に「開閉できるもの」を意味している。被告装置の「押し縁」は,「開閉できるもの」である以上,シール材でシールされていたとしても「開閉自在」に含まれる。 また,上記Aに関していえば,実施例において,カバーが係止フックと係止凹部によってサッシ本体に係止されている図が記載されているとしても,このことは,接着性を有するシール材でシールした場合も「開閉自在」であると解することの妨げとなるものではない。むしろ,「係脱自在」という別の文言が用いられていることからすれば(本件特許明細書の段落【0040】),上記係止されている場合だけでなく,接着性を有するシール材でシールした場合も「開閉自在」に当たると解釈することは当然である。 上記Bに関していえば,前記(2-1)のとおり,本件特許明細書の図7からすれば,接着性を有するシール材でシールした場合も「開閉自在」であることを当然予定している。 よって,原判決の上記判断は誤った前提に基づくものであり,明白な事実誤認が存する。 (2-3) 原判決が着脱自在の意義が開閉自在の認定に影響を与えることはないとした点の誤り。 控訴人は,「自在」の意義の解釈として「着脱自在」の記載内容を斟酌すべき旨を主張しているのであり,何ら「自在」の意義について判断していない原判決には重大な審理不尽の違法がある。 (2-4) 原判決が判例(大阪地裁判決及び大阪高裁判決,甲8)について何ら言及しなかったのは,判断遺脱である。 上記地裁判決は,「『自在』の解釈として,結合に手間を要しないという意味での『着脱の容易性』の概念は含まれない。」と述べており,上記高裁判決に支持されて確定している。本件でも同様に解釈されるべきである。 4 当審における被控訴人の反論の要点 (1) 争点(1)@について サッシ本体についての技術内容は,原判決の示すとおりであり,控訴人の主張は争う。 本件特許公報の図面中には,サッシ本体を表す符号26が図2を除き断面形状を表すすべての図面に付されている。この符号26の引き出し線は,すべて矢印で表され,当該部分の全体を表す。この符号26と矢印の引き出し線で結ばれた部材は,「押縁」に相当する部材を指示している。特許権者はが「押縁」を「サッシ本体」の一部と認識していたことは明らかである。 本件特許明細書の「発明の詳細な説明」の欄では,「押縁」を「サッシ本体26」の一部としていることは明らかである。したがって,本件特許明細書の「特許請求の範囲」中に記載された「カバー」なる部材は,「サッシ本体」の構成部材以外の部材,すなわち「押縁」以外の部材でなければならない。そうすると,被控訴人が実施した構造は「カバー」を備えていないことになり,特許権を侵害するものではないことは明らかである。 外側部材44の矢印の先端に存する部材がカバーに相当するとの控訴人の主張は見当違いである。この部材がカバーであれば,カバーによって覆われるべき通電体が存在しているはずであるが,存在していない。通電体を覆うカバーという従来からの控訴人の主張と矛盾している。カバーに相当するとされた外側部材44が描かれた図面には,別途,カバー32が描かれている。少なくとも,特許権者である控訴人は,本件出願当時には,この外側部材44をカバーと認識していなかった。 争点(1)@に関する控訴人のその余の主張に対しては,原判決の判断によって見解が示されたとおりであり,これを援用する。 (2) 争点(1)Aについて 本件特許明細書中で「自在」なる語に明確かつ客観的な定義がなされていない。 そうである以上,「自在」なる語の意味が,国語辞典に記載されている「普通の意味」すなわち,原判決が認定した意味であることは明らかである。また,明細書,図面全体の記載を勘案するとしても,本件の場合,「日常の保守点検作業を容易に行えること」「古くなったカバーを新しいものに容易に交換し得ること」との関係で「自在」なる語の解釈を行うべきである。これらの作業に関して,一般的に許容されると思われる程度に比べて,煩雑化,コスト高,作業時間の長期化等が考えられる場合,当該構造は,どうみても「自在」な構造であるとはいえない。 被控訴人が実施した被告装置の構造をみた場合,「押縁」を固定しているシール材は,「押縁」の両側に存在し,非常に接着性の強いものであって,簡単に除去することはできない。仮に除去した場合には,再び設置することは面倒である。しかも,1枚のパネルの四周を囲むシールは,同時に連続して施工することが,シール性を確保するために重要である。 控訴人は,他の部分で記載された「自在」なる語や,「自在」なる語の意味について判断した判決を持ち出しているが,無意味である。「自在」なる語の意味は,もし普通に用いられる意味からはみ出して解釈するとすれば,前記のとおり,「自在」にするための必要性との関連で決められるべきである。 |
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当裁判所の判断
1 争点(1)Aの本件発明の構成要件E「このサッシをサッシ本体と,このサッシ本体の外面側を開閉自在に覆うカバーとで構成し,」に係る「開閉自在」について検討するに,当裁判所も,被告装置は,本件発明の構成要件Eに係る「開閉自在」の要件を備えているものと認めるに足りないものと判断する。 その理由は,下記2のとおり付加するほかは,原判決が「第4 当裁判所の判断」中の原判決7頁17行目ないし8頁23行目,9頁9行目ないし19行目,10頁15行目ないし11頁10行目に判示するとおりであるので,これを引用する。 2 争点(1)Aに関する控訴人の主張(控訴理由)について (1) 控訴人は,まず,原判決が,本件特許明細書の図7(実施例3)においてカバー31とサッシ本体26との間に充填されているシール材が接着性を有するかは直ちに明らかでないとした点の誤りを主張する。 控訴人が上記シール材として主張するのは,本件特許明細書の図7のカバー31とサッシ本体26との間にあるシール材,すなわち控訴人が甲第7号証で図示して主張する部材Yをいうものである。 (1-1) そこで,検討するに,甲第2号証により,本件特許明細書を精査しても,部材Yに関する具体的な記載は存在しないこと,ましてや,部材Yが接着性を有する旨の記載は存在しないことが認められる。そして,上記図7自体から部材Yに接着性があることを認めることができるものでもない。 (1-2) 控訴人は,「部材Yが接着性を有するシール材であることは,以下のとおり明らかである。すなわち,通電体50を覆うカバー31とサッシ本体26との間にある充填部材である部材Yが,通電体50を収納する空間29内に雨水等が入らないようにするシール材であること,したがって,接着性を有するシール材であることは当業者にとって常識であるからである。」と主張する。 しかし,「部材Yが,通電体50を収納する空間29内に雨水等が入らないようにするシール材であること」自体が,本件特許明細書を精査しても記載されていないことは上記のとおりであり,明細書に基づかない主張として,採用の限りではない。仮に,この点をおくとしても,「シール材であること,したがって,接着性を有するシール材である」というのは,論理が飛躍している。すなわち,「シール材」ということと「接着性がある」こととは別次元のことであり,シール材であれば直ちに接着性を有するといえるというのが当業者の常識であることについては,これを証明するに足りる的確な証拠はない。 (1-3) さらに,控訴人は,「部材Yには,図面上,斜め格子状のハッチングが施されているが,接着性を有するシール材であることが明らかな部材63(甲2の段落【0072】)にも,斜め格子状のハッチングが施されている(甲2の図7,図8)ことからすれば,本件特許公報において,斜め格子状のハッチングが施されている部材が,接着性を有するシール材を表すことが明らかである。」とも主張する。 確かに,本件特許明細書である甲第2号証の段落【0072】には,「・・・シール材63が介設されている。このシール材63は空隙19への水55の侵入をより確実に防止する。」との記載はあるが,接着性を有することの記載はなく,明細書の記載に基づかない主張であるというほかない。結局,この主張も(1-2)と同様に「シール材であれば接着性を有する」というに帰するのであり,この主張が採用することができないことは,(1-2)に判示したとおりである。 また,「本件特許公報において,斜め格子状のハッチングが施されている部材が,接着性を有するシール材を表す」との主張も,これを証明するに足りる証拠はない(なお,本件特許明細書の図1,4ないし8における42,43などのシール材は,斜め格子状のハッチングとはなっていない。)。 (1-4) 以上のとおり,原判決が,本件特許明細書の図7(実施例3)においてカバー31とサッシ本体26との間に充填されているシール材が接着性を有するかどうかは直ちに明らかでないとした点に誤りはない。 (2) 控訴人は,次に,原判決が,シール材を切断する必要があることから開閉自在に当たらないとした点の誤りを主張する。そこで,控訴人が具体的に主張する点について,以下に順次検討する。 (2-1) 控訴人は,本件発明にいう「開閉自在」には,「開閉の容易性」の概念を含ませたものではなく,単に「開き得るもの」という意義を有するにとどまり,「開閉自在」との文字からしても「開閉の容易性」にかかわらず,単に「開閉できるもの」を意味している旨を主張する。 本件発明における「開閉自在」の意義については,まず,本件特許明細書の記載が検討されるべきであるところ,甲第2号証によれば,同明細書の「特許請求の範囲」欄においては,「・・このサッシをサッシ本体と,このサッシ本体の外面側を開閉自在に覆うカバーとで構成し,・・」とあるが,特に,「開閉自在」についての意義を明示する記載はなく,念のため,同明細書の「発明の詳細な説明」の欄をみても,「開閉自在」について定義をする記載は見当たらない。また,技術的な用語として「開閉自在」が特定の意味を有していることを認めるに足りる証拠もない。 そこで,「自在」の一般的な意味をみると,原判決認定のとおり,「束縛も支障もなく,心のままであること,思いのまま」というものである。本件特許明細書をみても,これと特に異なった意味に使用しているものとは認められない。 控訴人は,「開閉自在」とは,「開閉の容易性」の概念は含まれず,単に「開閉できるもの」を意味している旨を主張する。しかし,前記の「自在」の意味に従えば,「開閉自在」とは,「開閉が支障なくできること」,「開閉が思いのままにできること」などということになるのであって,単に,「開閉できる」という意味を表そうとすれば,極めて日常的なその表現を使用するのが通常であるのに,それをあえて「開閉自在」と記載したのは,「自在」に上記のような意味があるからにほかならないと認められる。したがって,「開閉自在」には,少なくとも,上記のように,「開閉に支障がない」「開閉が思いのまま」とのニュアンスを含むものと解されるところ,これらのニュアンスは,通常の場合,「開閉の容易性」をも示すものとみることができる。 控訴人は,「開閉自在」には「開閉の容易性」の概念を含まないと主張するが,本件特許明細書では,容易の意味をうかがわせる記載がある。すなわち,特許権者である控訴人は,本件特許明細書(甲2)の段落【0084】において,「また,カバーを古くなったものから新しいものに交換することが容易にできるため,この点でも建築物の見栄えの向上が達成される。」と記載している。カバーの交換は,古いカバーを取り外し新しいカバーを取り付けることにほかならないところ,同明細書では,カバーの開閉自在とは,カバーの取り外し(開閉であるから,元の状態に戻す取り付けも必然的に含む)についていうものであることが明らかである(例えば,段落【0020】,【0040】,【0083】等)。そうすると,上記記載は,「開閉が容易」というに等しいものであると認められる(なお,同明細書の段落【0041】には「カバー31は新しいものに交換可能」との記載もあるが,これは1実施例の説明であり,上記段落【0084】は,本件発明における「発明の効果」として記載されている。)。 以上によれば,控訴人の上記主張は採用の限りではない。 (2-2) 控訴人は,また,カバーが係止フックと係止凹部によってサッシ本体に係止されている実施例に関連して,むしろ,上記係止されている場合だけでなく,接着性を有するシール材でシールした場合も「開閉自在」に当たると解釈することは当然である旨を主張する。 しかし,上記実施例は,カバーをフックと凹部によって係止するという例を示すものであり,接着性を有するシール材でシールされ,カバーを開く場合には,シールを切断する必要のあるもの(被告装置)とは,異なることが示されていると解すべきものであり,これと同旨の原判決は相当であって,控訴人の主張は,採用することができない。 (2-3) 控訴人は,本件特許明細書の図7からすれば,接着性を有するシール材でシールした場合も「開閉自在」であることを当然予定している旨主張する。 この主張は,前記(1)で検討した主張を前提とするものであるところ,これが採用することができないことは,前判示のとおりであるので,この主張もまた採用の限りではない。 (2-4) 以上を要するに,本件発明にいう「開閉自在」には,接着性を有するシール材でシールされているようなものは含まれないと解すべきであるとした上,被告装置における「押し縁」は,接着性のあるシール材でシールされているため,「押し縁」を開く場合には,シール材を切断する必要があるのであるから,仮に「押し縁」が「カバー」に当たるとしても,「開閉自在」であるとは認められないとの原判決の認定判断は,是認し得るものであり,控訴人主張のような事実誤認等があるとは認められない。 (3) 原判決が,着脱自在の意義が開閉自在の認定に影響を与えることはないとした点につき,控訴人は,「自在」の意義の解釈として「着脱自在」の記載内容を斟酌すべき旨主張する。 しかし,「自在」自体の意味については,原判決も判示しているところである上,「開閉自在」,「着脱自在」のように,「○○自在」といった場合,何が自在というかによって,文言はもとより,どの範囲のものが当該用語における自在に含まれるかなど,技術的意味が異なることはいうまでもない。原判決は,これと同旨を説示するものと解される(ちなみに,控訴人が甲7で符号Zとして主張する部材が接着性を有するシール材であることが,本件特許明細書に示されているものと直ちに認めることが困難であることは,前記(1-3)と同様である。)。 (4) 大阪地裁判決及び大阪高裁判決(甲8)を引用する控訴人の主張について検討するに,そもそも,上記裁判例は,当該事件における明細書に記載された「着脱自在」という文言の解釈として判示されたものであり,本件における「開閉自在」とは事案を異にするだけでなく,本件における裁判所の判断を拘束すべき筋合いもない。したがって,控訴人の主張は採用することができない。 (5) 以上のとおり,争点(1)Aに関する原判決の認定判断は相当であり,この点に関する控訴人の主張は,いずれも採用の限りではない。 3 以上によれば,仮に,控訴人主張のとおりに被告装置の「押し縁」が本件発明の「カバー」に当たるとしても,被告装置は,本件発明の構成要件Eに係る「開閉自在」の要件を備えていないといわざるを得ない。そうすると,争点(1)@に関する控訴人の主張(控訴理由)について判断するまでもなく,控訴人の本訴請求は理由がないとした原判決の判断は,相当として是認し得るものである(なお,争点(1)@に関する控訴人の主張をみても,本件特許明細書では,「カバー」と「外側部材」を明確に書き分けているにもかかわらず,44の矢印が指す箇所の部材を「カバー」に相当する旨主張するなど,直ちに首肯し得ないものであり,この争点に関する原判決の判示についても,直ちにこれを覆すべきものとすることは困難である。)。 4 結論 よって,本件控訴は理由がないことに帰するので,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 田中昌利 |