関連審決 | 審判1998-35034 |
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関連ワード | 発明者 / 製造方法 / 公然実施(29条1項2号) / 容易に発明 / 相違点の認定 / 慣用技術 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / パリ条約 / 優先権 / 実質的に同一 / 参酌 / 技術的意義 / 均等 / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 構成要件 / 同意 / 設定登録 / 訂正の許否 / 請求の範囲 / 減縮 / 拡張 / 変更 / 独立特許要件 / 訂正明細書 / 合理的な理由 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
170号
審決取消請求事件
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原告 大同工業株式会社 訴訟代理人弁理士 近島一夫,相田伸二 被告 ボーグワーナーインコーポレーテッド (審決上の名称 ボーグーワーナー オートモーティブ インコーポレーテッ ド) 訴訟代理人弁理士 高崎健一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/10/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が平成10年審判第35034号事件について平成12年3月29日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
主文1,2項と同旨 |
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前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「動力伝達用チェーン,ガイドリンク及び動力伝達用チェーンの製造方法」とする特許第2632656号の特許権者である。 本件特許は,平成7年2月14日に特許出願され(パリ条約に基づく優先権主張1994年2月15日米国),平成9年4月25日に設定登録された。 原告は,平成10年1月23日に本件特許の無効の審判を請求し(平成10年審判第35034号事件),被告は,平成11年1月19日に明細書の訂正請求をしたところ(本件訂正),平成12年3月29日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」とした審決(本件審決)がされ,その謄本は同年4月19日に原告に送達された。 2 本件発明の要旨 本件訂正後のもの(以下,各請求項に係る発明を「訂正発明1」などといい,発明を総称して「訂正発明」という。下線部が訂正又は追加事項)【請求項1】 複数のチェーンリンクを有する動力伝達用チェーン10において,各チェーンリンクが,a.二つのガイドリンク20と,b.複数の内側リンク50と,c.ガイドリンクを連結する枢支部材80と,を備えるとともに,a′.ガイドリンクの各々が,ある厚み及び硬度を有するとともに,間隔をあけて配置された一対の開孔24,26と,間隔をあけて配置された一対のつま先部28,30とを有し,該各つま先部が,開孔を囲むとともに,外側フランク面36,38及び内側フランク面32,34を有し,内側フランク面は,その基部が開孔最上部の下方まで垂れ下がっている丸いクロッチ部40で結合されており,b′.内側リンクの少なくとも一部がガイドリンク間に配置されるとともに,内側リンクの各々が,間隔をあけて配置された一対の開孔54,56と,ある厚み及び硬度とをそれぞれ有しており,c′.一つの枢支部材が,各ガイドリンクの対向する開孔内で支持されるとともに,各内側リンクの少なくとも一つの開孔内を挿通しており,各ガイドリンクが,内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように,内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有し,かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有しており,さらに ,チェーン 組立後 に前記内側 リンク の降伏荷重 よりも 大きな 荷重 でチェーン にプリストレス をかけ ,これにより ,ガイドリンク 及び内側 リンク を塑性変形 させて各列 のガイドリンク 及び内側 リンク の塑性伸 びを 同じにし ,その 結果 ,連結 ピン の曲がりを 防止 して 各連結 ピン を実質的 に互いに 平行 に配列 させるようにして いる,ことを特徴とする動力伝達用チェーン。 【請求項2】 各ガイドリンクが,内側リンクの降伏荷重の約半分の降伏荷重を有している,ことを特徴とする請求項1記載の動力伝達用チェーン。 【請求項3】 内側リンクが内側リンクのガイド列及び内側リンクのノンガイド列を構成するように組み合わされ,ガイド列内側リンクの開孔がガイドリンクの開孔と一直線上に揃えられている,ことを特徴とする請求項1記載の動力伝達用チェーン。 【請求項4】 ガイドリンクが変形するときには,ガイドリンクの端部44,46に最小量の変形を伴いつつ,ガイドリンクの実質的にすべての変形がクロッチ部近傍の領域で発生する,ことを特徴とする請求項1記載の動力伝達用チェーン。 【請求項5】 リンク50の組立体及び枢支部材80から構成されるチェーンとともに用いられる側部ガイドリンク20であって,該チェーンは,隣り合う組が交互に組み合わされた内側リンクの組が差し込まれる複数組の側部ガイドリンクを有し,該各リンクは,間隔をあけて配置された一対の開孔を有し,一つのリンクの組の一組の開孔は,隣接するリンクの組の一組の開孔と横方向に整列して配置されており,各ガイドリンクは,a.底部22と,b.間隔をあけて配置されかつ上方に延びる一対のつま先部28,30とを備え,b′.前記つま先部は,開孔24,26を囲むとともに,外側フランク面36,38と,丸いクロッチ部40で連結された内側フランク面32,34とを有し,クロッチ部の基部が開孔最上部の下方まで延びており,内側リンクがある厚み及び硬度を有し,ガイドリンクが,内側リンクの降伏荷重の約半分の降伏荷重を有するように,内側リンクの厚みより薄いある厚みと,内側リンクの硬度より低いある硬度とを有している,ことを特徴とするガイドリンク。 【請求項6】 実質的にすべてのリンクが実質的に同一のピッチ長を有している動力伝達用チェーンの製造方法であって,a.無端状のチェーンを形成するように複数のチェーンリンクを連結することと,b.第1のガイドリンクピッチと異なる第2のガイドリンクピッチと,第1の内側リンクピッチと異なりかつ第2のガイドリンクピッチと実質的に等しい第2の内側リンクピッチとが得られるように,内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけ, これにより ,ガイドリンク 及び内側 リンク を塑性変形 させて 各列 のガイドリンク 及び内側 リンク の塑性伸 びを 同じにす ることとを備えており,前記チェーンリンクは,i.間隔を隔てて配置されかつ第1のガイドリンクピッチを定める一対の開孔24,26を備えるとともに,各開孔 24 ,26 を囲みかつ クロッチ 部40 で連結 された 一対 のつま先部 28 ,30 を有する 複数の側部ガイドリンク20と,ii. 少なくともその一部がガイドリンク間に配置され,間隔を隔てて配置されかつ第1の内側リンクピッチを定める一対の開孔54,56をそれぞれ有する複数の内側リンク50と,iii.そのうちの一つが各ガイドリンクの対向する開孔内で支持され,各内側リンクの少なくとも一つの開孔を挿通するとともに,各々内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているガイドリンクを連結する枢支部材80とを含んでおり,プリストレス 後に各枢支部材 80 が実質的 に互いに 平行 に配列 されている ,ことを特徴とする動力伝達用チェーンの製造方法。 【請求項7】 請求項6において,a.ガイドリンクの各々が,ある厚み及び硬度を有するとともに,開孔24,26を囲みかつ外側フランク面36,38及び内側リンク32,34を備える,間隔を隔てた一対のつま先部28,30を有しており,b.ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように,ガイドリンクの厚みが内側リンクの厚みよりも薄く,かつガイドリンクの硬度が内側リンクの硬度よりも低いような,ある厚み及び硬度を内側リンクの各々が有している,ことを特徴とする動力伝達用チェーンの製造方法。 【請求項8】 ガイドリンクのクロッチ部基部が開孔の水平方向中心線の下方まで延びている,ことを特徴とする請求項7記載の動力伝達用チェーンの製造方法。 【請求項9】 複数のチェーンリンクを有する動力伝達用チェーン10において,該各チェーンリンクが,a.間隔をあけて配置されかつガイドリンクピッチを定める一対の開孔24,26を有する一対のガイドリンク20と,b.少なくともその一部がガイドリンク間に配置されるとともに,間隔をあけて配置されかつ内側リンクピッチを定める一対の開孔54,56をそれぞれ有する複数の内側リンク50と,c.ガイドリンクを連結する枢支部材80とを備え,c′. 一つの枢支部材が各ガイドリンクの対向する開孔内に支持されるとともに,各内側リンクの少なくとも一つの開孔内を挿通しており,各ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有し,ガイドリンクピッチが,前記内側 リンク の降伏荷重 よりも 大きな 荷重をチェーン にかけることにより ガイドリンク 及び内側 リンク を塑性変形 させる プリストレス運転後に内側リンクピッチに実質的に等しくなっている,ことを特徴とする動力伝達用チェーン。 3 審決の理由 本件審決の理由は,末尾添付の別紙「審決の理由」(以下「審決書」という。)に記載のとおりである。要するに,訂正発明1ないし9は,甲第1号証(本訴甲4-1)又は甲第2号証(本訴甲5-1)に記載された発明であるとも,甲第1号証及び甲第2号証ないし甲第4号証(甲3は本訴甲6,甲4は本訴甲7)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるとも認められず,独立特許要件を満たすものであり,本件訂正は,特許法134条2項ただし書1号に掲げる事項を目的とし,同条5項で準用する同法126条2項ないし4項の規定に適合するので,訂正を認める,そして,訂正発明1ないし9について請求人(本訴原告)の主張する無効理由及び提出した証拠によっては,訂正発明1ないし9の特許を無効とすることはできない,というものである。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決が本件訂正を認めたのは,独立特許要件の認定判断を誤ったもので,違法として取り消されるべきである。大別すると次の3点である。 @ 訂正発明1ないし9について,各訂正発明と特開平4-46241号公報(甲4-1・審判甲1,以下「引用例1」という。)記載の発明(以下「引用例発明1」という。)との相違点の認定判断の誤りを犯した上,引用例である中込昌孝著「ローラチェーンの安全設計」(1989年9月5日養賢堂発行,甲7・審判甲4,以下「引用例3」という。)記載の技術及び特開平2-278040号公報(甲5-1・審判甲2,以下「引用例2」という。)記載の技術の認定を誤り,その結果,訂正発明1ないし9は,引用例1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとは認められないとの誤った認定判断をした(審決書U3(2)(2-3)(B)(B-1)〜(B-4),取消事由1〜4及び取消事由5,6)。 A 訂正発明6及び9については,@の事由のほか,引用例2及び3記載の技術の認定を誤った結果,公然実施をされた発明ではないとして,判断を誤った(審決書U3(2)(2-3)(A),取消事由5,6)。 B 訂正発明9については,上記@,Aの事由のほか,その記載不備を看過し,独立特許要件を充足するものとして,判断を誤った(取消事由7)。 1 取消事由1(相違点ア,イの認定判断の誤り) (1) 審決は,訂正発明1ないし4と引用例発明1との相違点アについて,「訂正発明1では,各ガイドリンクが,内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように,内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有し,かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有しているのに対し,甲第1号証(本訴甲4-1,引用例1)に記載されたものでは,各ガイドリンクが,内側リンクの剛性よりも低い剛性を有するように,内側リンクの厚みより薄い厚みを有することは記載されているものの,それぞれの降伏荷重及び硬度についての記載がない点」と認定した上で,「甲第2・・・号証(本訴甲5-1,引用例2)においても,・・・各ガイドリンクが,内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように,内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有し,かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有するものは記載されておらず,さらに甲第4号証(本訴甲7,引用例3)にもそのような降伏荷重に関する記載はない。したがって,相違点アに係る訂正発明1の構成は,甲第2ないし4号証に記載されたものから,当業者が容易に想到し得たものとも認められない。」と判断した(審決書U3(2)(2-3)(B)(B-1))。 引用例発明1は,「ガイドリンクプレート3は駆動リンク2よりも厚さが薄くなっていて,背縁側・・の中央には・・クロッチすなわち切欠き35が形成されている。」(甲4-1の3頁左下欄)のであり,かつその目的は,「チェーンの引っ張り方向に対するガイドリンクプレートの剛性を小さくして多数のリンクプレートにかかる荷重を均等化」する(同1頁右欄)ことにある。このように,剛性を低くする手段として,クロッチの形成及び板厚を薄くすることを採用しており(すなわち断面積を少なくしている。),かつリンクプレートである以上,ゴム,銅等の特殊な材料を用いることは,その機能上不可能であることが相まって,剛性の低いものは,降伏荷重も低くなることは技術常識である。そして,引用例2にも示されているように,ガイドリンクを内側リンクに対してその剛性(したがって降伏荷重)を低くする要因は,断面積に係るプレート厚さ,形状並びに材質に係る硬度であることは公知(又は周知)であり,相違点アは,引用例1などに示唆されているのである。 なお,訂正発明1におけるガイドリンクの「背面えぐり形状」,「厚さが薄いこと」及び「硬度が低いこと」は,いずれもガイドリンクの剛性及び降伏荷重を低くする方向であって,相反する方向のバランスを問題としているものではなく,単に低くなる方向を並列的に重ねたものであって,引用例1(及び引用例2,甲5-2)に示す,「背面えぐり形状」及び「厚さが薄いこと」に,さらに同一方向にある慣用技術である「硬度が低いこと」をだめ押し的に付加したものにすぎず,この点に発明性は存在しない。 (2) 審決は,訂正発明1ないし4と引用例発明1との相違点イについて認定した上,「甲第2・・・号証(本訴甲5-1,引用例2)にも,ガイドリンク及び内側リンクを備えた動力伝達用チェーンにおいて,プリストレスをかけ,これにより,ガイドリンク及び内側リンクを塑性変形させることについての記載はなく,さらに,甲第4号証(本訴甲7,引用例3)についても,・・チェーンのリンクに対して塑性伸びを生じさせるような大きさのプリストレス(予荷重)をかけることは記載されていない。したがって,相違点イに係る訂正発明1の構成は,甲第2ないし4号証に記載されたものから,当業者が容易に想到し得たものとも認められない。」と判断した(審決書U3(2)(2-3)(B)(B-1))。 しかし,相違点イは,引用例2である甲第5号証の1(同号証の2)に明確に(むしろ訂正発明1ないし4より具体的に)示唆されており,この点に関する審決の上記認定は失当である。すなわち,引用例2(甲5-1)の優先権の基となる出願である甲第5号証の2における「プリストレス作動中におけるこわさの減少」(訳文)とは,弾性域にあっては,同じリンクプレートに作用するこわさ(剛性)は同じであるが,塑性域(降伏点以上)になると,こわさ(剛性)が弾性域に対して低下することは,金属材料力学にあっては技術常識であり,かつ「各リンクにおける応力の臨界点」(引用例2である甲5-1の8頁右下欄)とは,降伏点を意味することが明らかであり,上記プリストレスがガイドリンクを塑性変形する荷重を作用することは明記されている。そして,ガイドリンクは,腎臓形状及びプレーンリンクより薄い板厚により,少なくともプレーンリンクと同等の剛性からなる以上,プレーン(内側)リンクの降伏荷重よりも大きい荷重でチェーンにプリストレスをかけていることも明らかである。そして,甲第5号証の2(訳文)には,ガイド列の内側(プレーン)リンクをノンガイド列のそれより薄くして,ガイド列の各リンクを例えば弾性限界に合わせるなどにより,最良の結果が得られるサイレントチェーンのプリストレス(当然に塑性領域までの)が開示されている。この場合でも,少なくとも,訂正発明1ないし4よりはサイレントチェーンにおける普遍的な課題であるピッチの均等化及びピンの曲がり防止に対して設計的に容易であり,訂正明細書(甲10)に開示されている以上の解決手段が,引用例2である甲第5号証の1(同号証の2)に具体的に記載されている。したがって,前記相違点イは,引用例2である甲第5号証の1(同号証の2)に明確に(むしろ訂正発明1ないし4より具体的に)示唆されている。引用例3である甲第7号証については,後記5のとおりである。 2 取消事由2(相違点ウの認定判断の誤り) 審決は,訂正発明5と引用例発明1との相違点ウについて,「訂正発明5では,ガイドリンクが,内側リンクの降伏荷重の約半分の降伏荷重を有するように,内側リンクの厚みより薄いある厚みと,内側リンクの硬度より低いある硬度とを有しているのに対し,甲第1号証(本訴甲4-1,引用例1)に記載されたものでは,ガイドリンクの板厚を内側リンクの板厚の1/2まで薄くすることは記載されているものの,ガイドリンク及び内側リンクの降伏荷重及び硬度についての記載がない点。」と認定し,「甲第1号証(本訴甲4-1,引用例1)には,上記相違点ウに係る訂正発明5の構成である,ガイドリンクが,内側リンクの降伏荷重の約半分の降伏荷重を有するように,内側リンクの厚みより薄いある厚みと,内側リンクの硬度より低いある硬度とを有していることが記載されているものとすることはできない。」と認定した(審決書U3(2)(2-3)(B)(B-2))。 しかし,引用例1(甲4-1)に記載されている「ガイドリンクの板厚を内側リンクの板厚の1/2に薄くする」ことは,ガイド列とノンガイド列では,ガイド列ではノンガイド列に比してリンクプレートが1枚多いので,ガイドリンクの剛性を内側リンクの半分として,ガイド列とノンガイド列との引張り強度を均等にすることを意味するものであり,上記板厚を1/2にすることは,ガイドリンクを内側リンクに対して剛性を半分にすることを意味し,その結果,断面積が半分になるので,降伏荷重も半分になるのである。また,リンクプレートの厚み,硬度,形状は,引用例2(甲5-1)において,「動力伝達チェーンにおける2個の案内リンクとプレーンリンクとの間の歪みを均等化するためには,考慮すべきいくつかの要因がある。・・・案内リンクの厚さ,プレーンリンクの厚さ,・・・案内リンクとプレーンリンクとの間の相対的弾性関係,案内リンクとプレーンリンクの相対的形状関係・・・がある。」(甲5-1の8頁右下欄)との記載があり,「相対的弾性関係」とは,他に厚さ及び相対的形状が挙げられていることから,材質の相違を意味するものであり,それは一般に硬さの変更を伴うものである。さらに,実公平6-8357号公報(甲6)にも,材質の変更についての記載がある。 上記の点に関し,被告は,剛性と降伏荷重とは異なる概念で,剛性が半分になるからといって降伏荷重が半分になるとは限らないと反論するが,ガイドリンク及び内側リンクは,同種の鋼材を用いるのが技術常識であるので,反論は当たらない。 3 取消事由3(相違点エ,オの認定判断の誤り) (1) 審決は,訂正発明6ないし8と引用例発明1との相違点エについて認定した上,「相違点イにおいての検討と同様に,・・・甲第2号証(本訴甲5-1,引用例2)ないし4号証(本訴甲7,引用例3)においても,上記相違点エに係る訂正発明6の構成(第1のガイドリンクピッチと異なる第2のガイドリンクピッチと,第1の内側リンクピッチと異なりかつ第2のガイドリンクピッチと実質的に等しい第2の内側リンクピッチとが得られるように,内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけ,これにより,ガイドリンク及び内側リンクを塑性変形させて各列のガイドリンク及び内側リンクの塑性伸びを同じにしている点)について記載されていない。したがって,上記相違点エに係る訂正発明6の構成は,甲第2ないし4号証に記載されたものから,当業者が容易に想到し得たものとも認められない。」(審決書U3(2)(2-3)(B)(B-3))と判断した。 しかし,前記のとおり,プリストレス後にガイド列とノンガイド列とのピッチを一致させることは,引用例2である甲第5号証の1(同号証の2)に示唆されているのであり,審決の上記判断も誤りである。 (2) 審決は,訂正発明6ないし8と引用例発明1との相違点オについて,「訂正発明6では,チェーンリンクが,各々内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているガイドリンクを連結する枢支部材とを含んでおり,プリストレス後に各枢支部材が実質的に互いに平行に配列されているのに対し,甲第1号証(本訴甲4-1,引用例1)に記載されたものでは,各々内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているガイドリンクを備えたチェーンリンクにプリストレスをかけることについての記載がない点。」と認定した上,「甲第2(本訴甲5-1,引用例2)ないし4号証(本訴甲7,引用例3)においても,上記相違点オに係る訂正発明6の構成について記載されていない。したがって,上記相違点オに係る訂正発明6の構成は,甲第2ないし4号証に記載されたものから,当業者が容易に想到し得たものとも認められない。」と判断した(審決書U3(2)(2-3)(B)(B-3))。 しかし,上記のプリストレス後の枢支部材が実質的に互いに平行になることについては,引用例2である甲第5号証の1に示唆されている。 4 取消事由4(相違点カ,キの認定判断の誤り) (1) 審決は,訂正発明9と引用例発明1との相違点カについて,「訂正発明9では,各ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているのに対し,甲第1号証(本訴甲4-1,引用例1)に記載されたものでは,各ガイドリンク及び内側リンクの降伏荷重についての記載がない点」と認定した上,「甲第2(本訴甲5-1,引用例2)ないし4号証(本訴甲7,引用例3)においても,上記相違点カに係る訂正発明9の構成について記載されていない。したがって,上記相違点カに係る訂正発明9の構成は,甲第2ないし4号証に記載されたものから,当業者が容易に想到し得たものとも認められない。」とした(審決書U3(2)(2-3)(B)(B-4))。 しかし,相違点カについては,既に述べたとおり,引用例1である甲第4号証の1に明記されているほか,引用例2である甲第5号証の1,同号証の2,甲第6号証にも記載されている。 (2) 審決は,訂正発明9と引用例発明1との相違点キについて,「訂正発明9では,ガイドリンクピッチが,前記内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重をチェーンにかけることによりガイドリンク及び内側リンクを塑性変形させるプリストレス運転後に内側リンクピッチに実質的に等しくなっているのに対し,甲第1号証(本訴甲4-1,引用例1)に記載されたものでは,そのようなプリストレス運転についての記載がない点」と認定した上,「甲第2(本訴甲5-1,引用例2)ないし4号証(本訴甲7,引用例3)においても,上記相違点キに係る訂正発明9の構成について記載されていない。したがって,上記相違点キに係る訂正発明9の構成は,甲第2ないし4号証に記載されたものから,当業者が容易に想到し得たものとも認められない。」と判断した(審決書U3(2)(2-3)(B)(B-4))。 しかし,相違点キに係る構成は,引用例1である甲第4号証の1,引用例2である甲第5号証の1,同号証の2,及び甲第6号証に記載されたものと実質的に同じであり,特に,引用例である甲第5号証の1と同号証の2には,この点が明記されている。 5 取消事由5(引用例3〔甲7〕記載の技術の認定の誤り) (1) 審決は,「局部的な降伏応力を問題とするものであるから,甲第4号証(本訴甲7,引用例3)での『予張力(予荷重)』は,チェーンのリンクに対して塑性伸びを生じさせるような大きさの荷重をかけるものとは認められず」と認定し(審決書U3(2)(2-3)(A)),また,前記のとおり,引用例3には,前記各相違点(特に,イ,エ,キの点)に係る構成について記載がないとしたが,誤りである。 (2) 引用例3には,「2≦ασp/σ y」(甲7の81頁)と示されており,降伏応力σyの2倍以上の予応力が作用することが明記されている。 引用例3の「余り大きな予荷重をチェーンにかけると,チェーンに永久伸びが発生するため好ましくない」(同号証79頁)との記載は,チェーンピッチが予め設定された規定値以上に伸びてしまうような大きな荷重を作用することは好ましくない,との意味であって,残留応力の基となる塑性変形を前提としているものである。 本件の訂正明細書(甲10に添付)にも「プリストレス運転中におけるように,内側リンクへの荷重が内側リンクの降伏荷重よりも大きい場合には,ガイドリンクは弾性変形に留まるが,内側リンクは塑性変形する。」(段落【0023】)と記載されているとおり,プリストレスは,内側リンクに塑性伸びを生じるような大きな荷重を作用するものである。 すなわち,予荷重は,「製作後,組立て時のピッチ誤差及びねじれなどの矯正をするために」(甲7の77頁〜78頁)行われるものであるから,予荷重(プリストレス)は,少なくとも一方のリンクプレートの降伏荷重(比例限度荷重)より大きい荷重であることがその目的上必須のものである。 (3) 被告は,「引用例3に記載されたピッチ誤差矯正のメカニズムは,予荷重をローラチェーンに作用させることによって,ローラリンクプレートの穴底部に応力集中を生じて穴底部が局部的な降伏を起こし,その結果,各ローラリンクプレートのピッチ誤差が矯正されるというものである。」と主張する。 ここで,上記「穴底部の局部的な降伏」とは,少なくとも穴部分に塑性変形を生じることを意味するものであり,該穴部分の塑性変形は,多数のリンクプレートが連なって構成されるローラチェーンにあって,チェーンの伸びとして表われることは明らかである。 しかも,訂正後の請求項4には,「ガイドリンクが変形するときには,ガイドリンクの端部44,46に最小量の変形を伴いつつ,ガイドリンクの実質的にすべての変形がクロッチ部近傍の領域で発生する,ことを特徴とする」と記載されており,このことは,サイレントチェーンにあっても,形状係数αが介在し,そのクロッチ部の局部最大降伏応力を超える程度の荷重をプリストレスとして作用することを意味している。ローラチェーンにあっては,ローラチェーンの機能に起因するリンクプレートの形状により,その応力集中部分が穴部分であるのに対し,サイレントチェーンは,その機能に起因するリンクプレートの形状により,その応力集中部分がクロッチ部となるだけの差であり,両者は,結果としてチェーンの塑性伸びとして表われ,リンクプレートの塑性変形として同様に機能する。 したがって,予荷重に基づきチェーンに塑性伸びが生じる以上,それが局部的な降伏応力に起因するか否かは,訂正発明の構成の差として識別することができるものではなく,まして慣用技術に対して発明に足りる差異が存在するものではない。 (4) 被告は,「プレス打抜きにより,リンクプレートの孔に形成されたバリを,チェーン組立後に予荷重を作用させてチェーンを引っ張ることにより,穴内周面のバリを押しつぶして,ピッチ誤差の矯正をしている。」との趣旨の主張をし,また,「ピッチ誤差矯正は専ら該軽荷重によるものであって,それ以上の大きな予荷重(穴底部に局部的な降伏を起こす荷重)は,塑性変形が前提となる表面圧縮残留応力を生成するためのものであり,これによりローラチェーンの疲労限度が向上する。」と機能を分離して説明する。 しかし,チェーン一般における予荷重は,上記のように機能が分離しているものではなく,リンクプレートに塑性変形を生じさせるような予荷重により,ピッチ誤差等を矯正するとともに疲労限度を向上するものである。 6 取消事由6(引用例2〔甲5-1〕記載の技術の認定の誤り) (1) 審決は,「甲第2号証(本訴甲5-1,引用例2)の「硬さ」は,・・「剛性」を意味するものと解するのが妥当であり,・・「硬度」を意味するものとは認められず,そして,「剛性」は,一般的には弾性変形に対する場合に用いられることより,甲第2号証には,サイレントチェーンに対して,降伏荷重を問題とするようなプリストレスを行うことについて記載されているとすることはできない。」と認定し(審決書U3(2)(2-3)(A)),また,前記のとおり,甲第2号証(本訴甲5-1,引用例2)には,前記各相違点(特に,イ,エ,キの点)に係る構成について記載がないとした。 しかし,上記認定は誤っており,その理由は,既に各相違点に関する取消事由で触れたところでもあるが,次のとおりである。 (2) 引用例2の「プリストレス動作中に減少した硬さによりチェーンリンクにおける引っ張りを和らげ,より均一にする。」(甲5-1の13頁右上欄)との記載は,対応する米国特許第4915675号明細書(甲5-2)の“The decreased stiffness during the prestress operation produces an easier, more even pull in the chain links.”(甲5-2の10欄末行〜11欄2行)の翻訳であって,審決も認定するとおり「硬さ」は「剛性」又は「こわさ」の誤訳であり,より正確に訳すと「プリストレス作動中におけるこわさの減少は,チェーンリンクにおける引張りのより容易で更なる均一化を作り出す。」となる。 「こわさ」(stiffness)とは,「外力による変形に対する抵抗の大きさ」を意味する(甲9「JIS工業用語大辞典」596頁)。「こわさ」は,剛性(物体の荷重に対する変形抵抗(同545頁))と同意語であり,弾性域にあっては,引張剛性の場合,EA(Eとは縦弾性率(ヤング率)でAとは断面積)で表される。したがって,同じリンクプレートに対する荷重が弾性域にあっては,上記の縦弾性率と断面積が一定であるので,剛性(こわさ)は,一定であって変化しない。そして,荷重(引張応力)を更に増大すると,応力が増加することなく伸びが急に増加する点が降伏点であって,それに対応する荷重が降伏荷重であるが,塑性域になると,剛性(こわさ)が,弾性域に比して減少することは,材料力学上の常識である。したがって,引用例2の上記記載中の「プリストレス作動中におけるこわさの減少」とは,プリストレスが,こわさが減少する領域,即ち塑性域まで作用することを意味することは明らかである。この点審決は,「『剛性』は,一般的には弾性変形に対する場合に用いられることより」と認定したが(審決書U3(2)(2-3)(A)),剛性の減少とは,明らかに塑性域での現象であり,誤りである。 被告は,上記英文の解釈として,「厚みや形状の変更により「こわさ」が減少した(すなわち,弾性変形し易くなった)弾性案内リンクがプリストレス運転中に弾性変形することにより,チェーンリンクの引っ張り状態が均等化される」ことであると主張するが,この部分は,「プリストレスを受けた後においてより良好なピッチの均等化を可能とする」ことを受けているのであるが,ガイドリンクと内側リンクとの間にピッチ誤差がある場合,プリストレスがガイドリンクの降伏荷重以下(弾性域)であれば,プリストレス後においてガイドリンクは元のピッチに戻ってしまい,内側リンクとのピッチ誤差はそのまま残ったままとなって「ピッチの均等化」に対して何ら影響しないのである。 プリストレスは,塑性変形する荷重(降伏荷重)以上の荷重を作用することを意味するのである。 なお,争点は,引用例2(甲5-1)のプリストレスが塑性域まで作用するか否かにあるので,これに関係しない被告の主張は当を得ていない。 7 取消事由7(訂正発明9の記載不備) 訂正後の請求項9には,ガイドリンク及び内側リンクの機能的記載及び製造方法後のピッチ関係の記載はあるが,該請求項9に規定される構成要件では,上記機能的及び製造方法自体の特定が明確でなく,発明の外延が不明確である。したがって,請求項9の記載は,特許法36条5項に規定する要件を満たしていない。 |
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被告の主張の要点
1 取消事由1(相違点ア,イの認定判断の誤り)に対して (1) 相違点アについて 原告は,「剛性の低いものは,降伏荷重も低くなることは技術常識である。」と主張している。 しかし,一般に,剛性が低いからといって必ずしも降伏荷重が低くなるとは限らない。例えば,ガイドリンクと内側リンクとがいずれも同一の形状及び材質を有する場合に,ガイドリンクの板厚を内側リンクの板厚よりも薄くすれば,ガイドリンクの剛性は内側リンクの剛性よりも低くなるが,この場合に,ガイドリンクの硬度の方が内側リンクの硬度よりも高ければ,ガイドリンクの降伏荷重は内側リンクの降伏荷重よりも低くなるとは限らない。 したがって,審決が審決書U3(2)(2-3)(B)(B-1)において,甲第5号証の1(引用例2)及び甲第6号証に関し,「各ガイドリンクが,内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように,内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有し,かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有するものは記載されていない」と認定したこと,及び,甲第7号証(引用例3)に関し,同号証にそのような降伏荷重に関する記載はないと認定したことに誤りはない。 原告はまた,訂正発明1ないし4について,ガイドリンクの「背面えぐり形状」,「厚さが薄いこと」及び「硬度が低いこと」は,いずれもガイドリンクの剛性及び降伏荷重を単に低くする方向に並列的に重ねたものであると主張しているが,上述したように,剛性と降伏荷重とは全く別個の概念であって,剛性を低くする方向がそのまま降伏荷重を低くする方向につながるのではない。また,上記3つの要素を単に並列的に重ねるだけでは,上述のように例えばガイドリンクの構成材料のいかんで,降伏荷重が逆に高くなる場合もあり得る。したがって,原告の上記主張は失当である。 (2) 相違点イについて 原告は,「ガイドリンクは,・・・少なくともプレーンリンクと同等の剛性からなる以上,プレーンリンクの降伏荷重よりも大きい荷重でチェーンにプリストレスをかけていることも明らかである」と主張している。 しかしながら,剛性と降伏荷重とは一般に異なる概念であり,また引用例2のいずれの個所にも,プレーンリンクの降伏荷重よりも大きい荷重でチェーンにプリストレスをかけるとの記載はない。すなわち,引用例2には,「プリストレス」という文言は1箇所だけ存在するが,当該箇所の正確な日本語訳は後記6で詳述するとおりであり,引用例2の「プリストレス」は,訂正発明1ないし4で用いられるのとは異なり,弾性案内リンクを塑性変形させることまでは含んでいないのである。 したがって,原告の主張は失当である。 2 取消事由2(相違点ウの認定判断の誤り)に対して 原告は,ガイドリンクの板厚を内側リンクの板厚の1/2にすることは,ガイドリンクの剛性を内側リンクの剛性の半分にすることを意味する結果,降伏荷重も半分になる旨主張している。 しかし,剛性と降伏荷重とは一般に異なる概念であり,剛性が半分になるからといって降伏荷重が半分になるとは限らず,原告の主張は失当である。例えば,ガイドリンクと内側リンクとがいずれも同一の形状及び材質を有する場合に,ガイドリンクの板厚を内側リンクの板厚よりも薄くすれば,ガイドリンクの剛性は内側リンクの剛性よりも低くなるが,この場合に,ガイドリンクの硬度が内側リンクの硬度よりも高ければ,ガイドリンクの降伏荷重は内側リンクの降伏荷重よりも低くなるとは限らないのである。そして,訂正発明5では,ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように,ガイドリンクの硬度を内側リンクの硬度よりも低くしたのであり,これに加えてさらに,ガイドリンクの厚みを内側リンクの厚みよりも薄くしているのである。 審決の前記認定に誤りはない。 3 取消事由3(相違点エ,オの認定判断の誤り)に対して 原告は,プリストレス後にガイド列とノンガイド列とのピッチを一致させること,及びプリストレス後の枢支部材が実質的に互いに平行になることは,引用例2に示唆されていると主張している。しかしながら,引用例2(甲5-1)には,プリストレスをかけることにより,ガイドリンク及び内側リンクの双方を塑性変形させることについての記載はなく,引用例2に記載されたピッチとは,弾性案内リンク及びプレーンリンクが弾性変形した場合のピッチを意味している。したがって,原告の主張は失当である。 4 取消事由4(相違点カ,キの認定判断の誤り)に対して (1) 相違点カについては,前記のとおり,剛性が低いからといって必ずしも降伏荷重が低くなるとは限らないのであって,審決の認定に誤りはない。 (2) 相違点キについては,引用例1に記載されたサイレントチェーンは,「内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重をチェーンにかけることによりガイドリンク及び内側リンクを塑性変形させるプリストレス運転」されたものでなく,審決の認定判断に誤りはない。 その他,原告は,相違点カ,キの点が各甲号証に示されているというが,いずれも失当である。 5 取消事由5(引用例3〔甲7〕記載の技術の認定の誤り)に対して (1) 引用例3(甲7)は,ローラリンクプレートの穴底部の局部的な応力を問題としており,ローラリンクプレートの穴底部に応力集中による表面圧縮残留応力を生成させるために,穴底部の局部最大応力が降伏応力を超える程度の大きさの予荷重をローラチェーンに作用させる点が記載されているにすぎない。そして,引用例3には,「余り大きな予荷重をチェーンにかけると,チェーンに永久伸びが発生するために好ましくない。」(甲7の79頁)と記載されていることから,引用例3では,リンクプレート自体に塑性伸びを生じさせるような大きな予荷重をかけることまでは想定していないことは明らかである。リンクプレートの降伏荷重よりも大きな予荷重,すなわちリンクプレート自体に塑性伸びを生じさせるような大きさの予荷重を作用させる点は,引用例3のいずれの箇所にも記載されていない。 引用例3(甲7)に記載されたピッチ誤差矯正のメカニズムは,予荷重をローラチェーンに作用させることによって,ローラリンクプレートの穴底部に応力集中を生じて穴底部が局部的な降伏を起こし,その結果,各ローラリンクプレートのピッチ誤差が矯正されるというものである。 原告は,この点に関し,引用例3(甲7)に記載された「穴底部の局部的な降伏」とは,少なくとも穴部分に塑性変形を生じることを意味するものであり,該穴部分の塑性変形は,多数のリンクプレートが連なって構成されるローラチェーンにあって,チェーンの伸びとして表われることは明らかである旨を主張する。 しかし,上記のとおり,引用例3では,チェーンに塑性伸びを生じさせることまでは意図していない。そして,このチェーンの塑性伸びは,これを構成する個々のリンクプレートの塑性伸びによって生じるものであるので,引用例3では,各リンクプレートに塑性伸びを生じさせることまでは意図していないことは明らかである。 引用例3に記載された予荷重の第1の目的は,「組立て時のピッチ誤差及びねじれなどの矯正をする」(甲7の77頁〜78頁)ことにあり,第2の目的は,「疲労限度を向上させる」(同78頁及び79頁)ことにある。 そして,ピッチ誤差矯正のメカニズムに関しては,技術常識を加味して判断する必要がある。一般に,リンクプレートはプレス打抜き加工により製作されるが,プレス打抜き加工では,打ち抜かれたリンクプレートの外周面や穴内周面に,微小凸部である「ばり」が生じるため,リンクプレートのピッチが規定値よりも若干小さくなってしまう。このため,チェーン組立後に予荷重を作用させてチェーンを引っ張ることにより,穴に挿入されたピンによって穴内周面のばりを押しつぶし,規定値のピッチに矯正しているのである。したがって,このようなピッチ誤差矯正のためにチェーンに作用させる予荷重としては,大きな荷重である必要はなく,当然チェーンの破断荷重に比較して相当小さな荷重である。ピッチの誤差の矯正に必要な予荷重よりも大きな荷重によると,リンクプレートの穴底部が応力集中を起こし,穴底部が局部的な降伏を起こすことになる。これにより,穴底部に表面圧縮残留応力が生成される。そして,この生成により,ローラチェーンの疲労限度が向上する。この状態からさらに予荷重が増加すると,リンクプレートの穴全体が塑性変形を起こしてリンクプレートに塑性伸びが生じ,その結果,ローラチェーンに塑性伸びが発生するが,このような塑性伸びが発生する状態は好ましくない。以上のことが甲第7号証(引用例3)に記載されている。このように,単なるピッチ誤差矯正のためには,リンクプレートの穴底部に局部的な降伏を起こさせ,リンクプレートに塑性伸びを生じさせる必要はないのである。 また,引用例3では,あくまで穴底部の局部的な降伏を問題としており,これに対して,訂正発明では,プリストレス後にガイドリンク及び内側リンクを含むリンクプレート自体を塑性変形させて該リンクプレートに塑性伸びを生じさせる,すなわち,内側リンク及びガイドリンク双方に塑性伸びを生じさせることを主眼としている。このため,訂正発明では,ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように各ガイドリンクを構成するとともに,内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけているのである。 (2) 原告は,訂正発明4に関し,ローラチェーンとサイレントチェーンとの違いは,その機能に起因するリンクプレートの形状の違いにより,サイレントチェーンの応力集中部分がクロッチ部となるだけの差であると主張している。 サイレントチェーンにもローラチェーンと同様に枢支部材挿入用の穴が形成されている以上,プリストレスの作用時には,リンクプレートの穴底部にも応力集中が生じるが,訂正発明では,プリストレスをかけることによって,リンクプレートの穴底部の局部的な降伏にとどまらず,リンクプレート及びガイドリンクの双方に塑性伸びを生じさせようとしている。このため,訂正発明1では,各ガイドリンクのクロッチ部の基部を開孔最上部の下方まで垂れ下がるように設け(構成@),ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように,ガイドリンクの厚みを内側リンクの厚みよりも薄くしかつガイドリンクの硬度を内側リンクの硬度よりも低くし(構成A),さらに,内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけており(構成B),これにより,ガイドリンク及び内側リンクの双方を塑性変形させて各列のガイドリンク及び内側リンクの塑性伸びを同じにしている(構成C),との構成を採用し,さらに訂正発明4は,構成@〜Cに加えて,ガイドリンクの実質的にすべての変形がクロッチ部近傍の領域で発生すること(構成D)を構成要件としており,これら構成@〜Dをすべて備えることにより,作用効果を奏するのであるから,引用例3とは全く異なるものである。 (3) 以上の点から,引用例3記載の技術についての審決の認定に誤りはない。 6 取消事由6(引用例2〔甲5-1〕記載の技術の認定の誤り)に対して 原告は,甲第5号証の2の訳文中の「プリストレス作動中におけるこわさの減少」という記載について,プリストレスを塑性域まで作用させることを意味していると主張するが,同文は「厚みや形状の変更によってこわさが減少した(すなわち,弾性変形しやすくなった)弾性案内リンクがプリストレス運転中に弾性変形することにより,チェーンリンクの引張状態が均等化される。」との意味であり,“decreased stiffness”は前文中の“less stiffness”と置き換えることが可能である。 原告は,「剛性の減少とは,明らかに塑性域での現象である」と主張するが,JIS工業用語大辞典第3版に「剛性・・・引張剛性はEA・・〔E:縦(引張)弾性率・・〕で表される.」(甲9の545頁左欄)と記載されており,縦弾性率Eとは,物体に引張荷重が作用した状態で応力がひずみに比例しているときの比例定数を意味し,弾性域でのみ用いられる概念であるから,剛性という概念も,当然に弾性域でのみ用いられる概念である。 なお,塑性域においても変形抵抗という概念が存在することは事実であるが,この場合の変形抵抗に相当する英訳は,“deformation resistance”(乙4の118頁)であって,“stiffness”ではない。 また,原告は,ピッチを均等化するためには,ガイドリンクが塑性変形していることが前提であると主張している。しかしながら,引用例3(甲7)に関して主張したように,リンクプレート自体が塑性変形するほどの大きさの荷重が作用していなくても,リンクプレートのピン穴底部が応力集中によって局部的に降伏する程度の荷重が作用していれば,ピッチ誤差を矯正することが可能なのであって,プリストレス荷重がガイドリンクの降伏荷重より小さい場合であっても,ピッチの均等化を図ることができるのである。引用例2で降伏点とせず,「臨界点」という造語が用いられたのは,リンクの降伏点を超えない荷重であって,ピン穴底部に局部的な降伏を起こさせるような応力集中を生じさせる必要最小限の荷重が作用したときのリンク内部の応力を臨界点と呼んだものと考えられる。 以上の点から,引用例2記載の技術についての審決の認定には誤りはない。 7 取消事由7(訂正発明9の記載不備)に対して 原告は,訂正発明9に関し,発明の外延が不明確である旨主張している。しかしながら,「各ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有し」という記載も,また「内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重をチェーンにかけることによりガイドリンク及び内側リンクを塑性変形させる」という記載も,いずれもガイドリンクの構成を限定したものであって,原告の主張は失当である。 |
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当裁判所の判断
1 原告主張の審決取消事由は,前記のとおり,審決の説示に対応して,概ね,訂正発明1ないし9の順にそれぞれ個別に主張されている。しかし,取消事由とされている点には共通点が多いので,以下においては,当事者が中心的に争う点について,横断的に検討を進めることとする。 2 各ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有していることについて 審決は,引用例1(甲4-1・審判甲1)には,各ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有していることについての記載がないものと認定し,原告は,その点は引用例1には明記されており,審決の認定は誤りであると主張するので,以下に検討する(なお,上記の点は,訂正発明1ないし4における相違点アの一部(取消事由1の一環),訂正発明5における相違点ウの一部(取消事由2の一環),訂正発明6ないし8における相違点オの一部(取消事由3の一環),訂正発明9における相違点カ(取消事由4の一環)において,取消事由として主張されている。)。 (1) 引用例1には従来技術として「ガイドリンクプレートは・・・クロッチ(股部)が形成されておらず,駆動リンクプレートよりも引張力に対する剛性が大きく伸び変形が少ない」(甲4-1の2頁右上欄)との記載,並びに実施例として「ガイドリンクプレートとしては第6図に示されるように駆動リンクプレートと同じ形状3’として,向きを逆にして使用することもできる。」(同3頁左下欄),及び「ガイドリンクプレート3のある列はそれがない列よりもリンクプレートの枚数が1枚多くなるので,ガイドリンクプレートの板厚は駆動リンクプレートの板厚の1/2まで薄くしてもチェーンの引張り強度は変らず」(同右下欄)との記載が認められる。 ここで,ガイドリンクプレート(訂正発明の「ガイドリンク」に相当)の板厚を駆動リンクプレート(訂正発明の「内側リンク」に相当)の板厚の1/2とすることは,ガイドリンクプレート3のある列とない列の全板厚を等しくすることであり,この場合にチェーンの引張り強度が変わらないのであるから,ガイドリンクプレートの剛性が駆動リンクプレートの剛性の1/2であると認められる。そして,ガイドリンクプレートは,駆動リンクプレートと同形状で,板厚及び剛性が1/2であるのであるから,その材質は同一であるということに帰する。引用例1の上記従来技術の記載に照らしても,引用例発明1は,ガイドリンクプレートの形状及び板厚を上記のように選択したものというべきであって,材質を変更することにより剛性を小さくしたものでないことは明らかである。そうすると,ガイドリンクプレートは駆動リンクプレートと同材質かつ同形状で厚さが1/2であるから,その降伏荷重も駆動リンクプレートの1/2になることは当然である。 そうすると,引用例発明1は,「各ガイドリンク(各ガイドリンクプレート)が内側リンク(駆動リンクプレート)の降伏荷重よりも低い降伏荷重を有している」との構成を有するものと認められる。 (2) 被告は,「剛性が低いからといって必ずしも降伏荷重が低くなるとは限らない」と主張し,確かに,ガイドリンクと内側リンクの材質が異なるのであれば,被告の主張にも一理ある。しかし,前判示のとおり,引用例発明1においては,材質ではなく板厚によって剛性に差異を設けているものと認められるのであり,材質及び形状が同じであれば降伏応力もほぼ同一であるから,板厚の小さなものの降伏荷重が小さくなることは当然であり,上記主張は採用することができない。 (3) 以上によれば,審決が,「甲第1号証(本訴甲4-1,引用例1)に記載されたものには,各ガイドリンク及び内側リンクの降伏荷重についての記載がない」との点が訂正発明との相違点である旨をいう部分,具体的には,訂正発明1ないし4における相違点ア(一部)の「各ガイドリンクが,内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように」との点,訂正発明5における相違点ウ(一部)の「ガイドリンクが,内側リンクの降伏荷重の約半分の降伏荷重を有するように」との点,訂正発明6ないし8における相違点オ(一部)の「各々内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているガイドリンク」との点,訂正発明9における相違点カの「各ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有していること」との点が,いずれも引用例発明1の構成と相違する旨の認定判断は,誤りである。 3 ガイドリンク及び内側リンクを塑性変形させるプリストレス運転について 審決は,引用例1(甲4-1・審判甲1)には,ガイドリンク及び内側リンクを塑性変形させるプリストレス運転についての記載がないものと認定し,さらに,引用例2(甲5-1・審判甲2),甲第6号証(審判甲3)及び引用例3(甲7・審判甲4)に記載されたものから,当業者が容易に想到し得たものとも認められないと認定した。これに対し,原告は,上記の点は,引用例1に明記されているほか,引用例2,甲第5号証の2,甲第6号証に記載されたものと実質的に同じであって,審決の上記認定は誤りであると主張するので,以下に検討する(なお,上記の点は,訂正発明1ないし4における相違点イ(取消事由1の一環),訂正発明6ないし8における相違点エ及びオの一部(取消事由3の一環),訂正発明9における相違点キ(取消事由4の一環)において,取消事由として主張されているところに関係する。)。 (1) 相違点か否かについて 引用例1(甲4-1)に上記の点が記載されているとの原告の主張について検討するに,引用例1には,「プリストレス」又はこれと同義の用語の記載がない。よって,「甲第1号証(本訴甲4-1,引用例1)に記載されたものでは,そのようなプリストレス運転についての記載がない」旨の上記審決の認定には誤りはない。 すなわち,上記プリストレス運転の点は,訂正発明1ないし4及び訂正発明6ないし9と引用例1との相違点となる。 (2) 容易想到性について 原告は,上記の点が相違点であったとしても,「引用例2(甲5-1・審判甲2),甲第6号証(審判甲3)及び引用例3(甲7・審判甲4)に記載されたものから,当業者が容易に想到し得たものとは認められない」旨の審決の認定判断は誤りである旨争う。そこで,各訂正発明について検討する。 (a) 訂正発明9の相違点キに関する容易想到性について 審決は,相違点キとして,「訂正発明9では,ガイドリンクピッチが,前記内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重をチェーンにかけることによりガイドリンク及び内側リンクを塑性変形させるプリストレス運転後に内側リンクピッチに実質的に等しくなっているのに対し,引用例1(審判甲1)に記載されたものでは,そのようなプリストレス運転についての記載がない点」を挙げた上,「相違点キに係る訂正発明9の構成は,引用例2(甲5-1・審判甲2),甲第6号証(審判甲3)及び引用例3(甲7・審判甲4)に記載されたものから,当業者が容易に想到し得たものとも認められない」旨をいう。 以下に検討するが,まず,想到する基礎となる引用例3(甲7)記載の技術の認定の誤り(取消事由5)と,引用例2(甲5-1)記載の技術の認定の誤り(取消事由6)が前提として問題となる。 (a-1) 取消事由5(引用例3〔甲7〕記載の技術の認定の誤り)について (a-1-1) 「技能ブックス20 金属材料のマニュアル」(甲11)には,「引張試験機には,引張荷重(引張る力),応力に対応する伸びが自動的に記録されるようになっています.この記録されたグラフを“応力・ひずみ”といいます.・・・荷重を試験片の平行部のはじめの断面積で割ったものが応力です.」(同38頁左欄),「図2の左の端に急角度で立った直線部分があります.ここは,引張る力と伸びとが比例しているのです.・・・この比例部分の限界点Pを“比例限度”といいます.比例限度のすこし上にあるのが“弾性限度”Eです.これは,引張った力を取り去りされば,もとの長さにもどる限度です.・・・一般に比例限度と弾性限度とは近く,実際上はほとんど同じと考えてよいようです.」(同38頁右欄〜39頁左欄),「弾性限度をこえて引張り続けますと,まだ伸びますが,このあたりでは力を抜いてももとへはもどりません.ある量ですが,伸びっぱなし(永久ひずみといいます)になります.そしてある限度をこすと,急に応力がへって,しかも急に伸びます.この限度を“降伏点”といいます.」(同39頁左欄),及び「弾性限度をこえてから荷重をとり去って永久伸びが0.2%になる点を“耐力”として,降伏点に代えています.つまり,降伏点をこえた金属はもう使いものにならない,0.2%も伸びたままになったような金属は使用に耐えない,というところを現しているのです.」(同39頁右欄)との記載がある。 一方,訂正明細書には,「内側リンクへの荷重が内側リンクの降伏荷重よりも大きい場合には,ガイドリンクは弾性変形に留まるが,内側リンクは塑性変形する。」(甲10添付,段落【0023】),及び「『降伏荷重』という語は,塑性変形が起こりはじめる引張荷重を意味している。」(同段落【0045】)との記載があり,ここでの「降伏荷重」は,甲第11号証における「降伏点」ではなく「弾性限度」に対応するものであり,ただし甲第11号証にいう「応力」ではなく「荷重」を意味することが明らかである。 (a-1-2) 引用例3である中込昌孝著「ローラチェーンの安全設計」においては,「ローラチェーンには,製作後,組立て時のピッチ誤差及びねじれなどの矯正をするために,予張力を負荷する作業が行われる.この予張力は,当然チェーンの破断荷重に比較して相当小さな荷重であるから,チェーン自体の強度や精度に影響を及ぼすものではないが,荷重の大きさによっては,疲労強度にかなりの影響を及ぼすことになる.」(甲7の77頁〜78頁),「ローラチェーン及びローラリンクプレートを用いて予荷重を施こすと,・・・疲労限度の向上が認められる.」(同78頁),及び「チェーンに予荷重を施こしたときの効果は,ローラリンクプレート穴底部の応力集中による表面圧縮残留応力の生成と,・・・とみなして説明することができる.」(同79頁)との各記載があることが認められる。 これらの記載によると,ローラチェーンにおいては,組立て時のピッチ誤差等の矯正及び疲労強度の向上を目的として予荷重を施すものであり,予荷重を施すことにより,ローラリンクプレート穴底部には表面圧縮残留応力が生じるのであるから,同穴底部には残留ひずみが生じているものと認められる。そうすると,この予荷重は,ローラリンクプレート穴底部に対しては弾性限度を超えているのであるから,訂正明細書にいう「降伏荷重」を超えるものであり,ローラリンクプレートは予荷重時において塑性変形しているものと認められる。審決は,「局部的な降伏応力を問題とする」ことを理由として,「甲第4号証(本訴甲7,引用例3)での「予張力(予荷重)」は,チェーンのリンクに対して塑性伸びを生じさせるような大きさの荷重をかけるものとは認められず」と認定したが(審決書U3(2)(2-3)(A)),「局部的な降伏応力」したがって局部的な残留ひずみであっても,それが生じている限り,弾性変形にとどまらず,塑性変形に当たることは明らかであるから,この審決の認定は誤りである。まして,訂正発明4は「ガイドリンクの実質的にすべての変形がクロッチ部近傍の領域で発生する」ことを構成要件としていることに照らせば,訂正明細書における「塑性変形」は,局部的にのみ発生する塑性変形を包含することは明らかであって,局部的である点では,引用例3記載のものと何ら変わるところはないのである。 なお,引用例3には,「余り大きな予荷重をチェーンにかけると,チェーンに永久伸びが発生するために好ましくない。」(甲7の79頁)とも記載されているが,過大な予荷重は,ピッチ誤差矯正等に必要とされる以上の永久伸びを発生するため,それを「好ましくない」と表現した趣旨であると認められ,この記載があるからといって,ローラリンクプレートが塑性変形していないことになるものではない。 (a-1-3) 被告は,引用例3記載のピッチ誤差が「ばり」に起因するもので,矯正に必要な予荷重はわずかである旨を主張するが,そのことを認めるに足りる証拠はない。なお,仮に上記のようなわずかな荷重でよいとすれば,予荷重を施すまでもなく,実際の運転中に「ばり」を除去することができるとも考えられる。 いずれにしても,被告の上記主張は採用することができない。 被告は,訂正発明4は構成@〜Dをすべて備えることにより,作用効果を奏するのであるから,引用例3とは全く異なるなどとも主張するが,ここでは,訂正明細書における「塑性変形」が局部的変形を包含するかしないかを問題としているのであるから,被告の上記主張は,この関係では的を射ていないものと考えられる。 (a-1-4) よって,取消事由5の原告の主張には理由がある。 (a-2) 取消事由6(引用例2〔甲5-1〕記載の技術の認定の誤り)について (a-2-1) 引用例2には,「チェーンに荷重が加わるとき前記案内リンクの形状及び厚さにより案内リンクが前記案内リンク列の各々における前記プレーンリンクとほぼ同程度に伸び,連結ピンの変形を防止し,かつピン相互をほぼ平行に維持することができる」(甲5-1の9頁右下欄),及び「弾性案内リンクは案内リンクとして良好に機能し,硬さが少なくプリストレスを受けたのちにもピッチの均等化を良好にする。プリストレス動作中に減少した硬さによりチェーンリンクにおける引っ張りを和らげ,より均一にする。」(同13頁右上欄)との記載があり,ここでの「硬さ」が「剛性」又は「こわさ」の誤記であることは,当事者間に争いがなく,審決も「剛性」を意味するものと解している(審決書U3(2)(2-3)(A))。この記載によれば,案内リンク(訂正発明9の「ガイドリンク」に相当)の剛性は,プリストレス動作中に減少するものと認められる。 JIS工業用語大辞典(甲9)によれば,剛性とは「物体の荷重に対する変形抵抗」,こわさとは「外力による変形に対する抵抗の大きさをいう」であるから,「剛性」又は「こわさ」が減少するとは,荷重を加えたときに変形しやすくなることを意味するものである。前掲甲第11号証によれば,比例限度までの力に対しては応力とひずみの関係は直線であり「剛性(こわさ)」は一定であるが,それを過ぎると変形しやすくなることが図2及び図3に示されており,「剛性(こわさ)」が減少するのは,加えた力が甲第11号証にいう比例限度を超えた場合であると認められる。さらに,甲第11号証によれば,「比例限度と弾性限度とは近く,実際上はほとんど同じと考えてよい」のであるから,比例限度を超えることは弾性限度を超えることにほかならず,引用例2において,案内リンクはプリストレス動作中に塑性変形するものと認められる。 (a-2-2) 被告は,甲第9号証の「引張剛性はEA・・・E:縦(引張)弾性率・・・で表される.」との記載を根拠に,「剛性」が塑性域では用いられない用語であると主張するが,甲第9号証の同記載は,弾性域においては引張剛性がEAで表されることを示したにすぎないとも解され,被告主張のように弾性域に限定して解したのでは,「剛性(こわさ)」が減少するとの引用例2の記載を理解することができないのである。 この点につき,被告は,甲第5号証の2の10欄末行ないし11欄1行に記載された“decreased stiffness”は前文中の“less stiffness”と置き換えることが可能であるとして,「厚みや形状の変更によって『こわさ』が減少した(すなわち,弾性変形しやすくなった)弾性案内リンクがプリストレス運転中に弾性変形することにより,チェーンリンクの引張状態が均等化される。」との意味であると主張する。しかし,「減少する(decrease)」という言葉は,何らかの操作により値が小さくなるという経時的変化を観念させるものであり,厚みや形状の変更によって「剛性(こわさ)」が小さくなることを「減少」と表現するのが通常であるとはいえない。また,被告主張のように「減少」を「少ない」と同義に解釈すれば,「弾性案内リンクは・・・,硬さ(前記のとおり「剛性」の誤記)が少なくプリストレスを受けたのちにもピッチの均等化を良好にする。」との前文と「プリストレス動作中に減少した硬さ(「剛性」の誤記)によりチェーンリンクにおける引っ張りを和らげ,より均一にする。」とが,同一の意義にしか解し得ず,後文が無用記載となってしまうのである。 (a-2-3) また,引用例2には「案内リンクの形状及び厚さにより案内リンクが・・・プレーンリンクとほぼ同程度に伸び」(甲5-1の9頁右下欄)及び「案内リンクを案内列におけるプレーンリンクよりも薄くし,」(同13頁右上欄)との記載があり,ここにはリンク材質についての記載がないことから,この案内リンクは「形状及び厚さ」のみを選択すること,特に厚さを選択することで,弾性リンクとしているものと解される。そのことは,甲第6号証の「ガイドリンク1の板厚は噛合いリンクプレートの板厚の1/2としたから,ガイドリンク1は・・・噛合いリンクプレート4の1/2の剛性を有することとなる。また,ガイドリンクを噛合いリンクプレートの1/2の剛性にする他の実施例として材質を変更することもある。」(甲6の2頁右上欄)との記載に照らしても明らかといえ,引用例2の案内リンクとプレーンリンクは同材質であると認められる。そして,同材質である以上,引用例2の案内リンクは,案内リンク列のプレーンリンクよりも薄いのであるから,降伏応力が変わらないとしても,それに断面積を乗じた降伏荷重は小さくなっているものと認められ,仮に,プリストレス動作中に案内リンクが塑性変形しないのであるとすれば,それよりも降伏荷重の大きいプレーンリンクが塑性変形するとは考えられず,プリストレスを加えることの技術的意義があるとは認められないのである。 すなわち,訂正明細書には「プリストレス運転中におけるように,内側リンクへの荷重が内側リンクの降伏荷重よりも大きい場合には」(甲10添付,段落【0023】)と記載があるように,プリストレスは,内側リンクの降伏荷重よりも大きいことを前提としたものである以上,引用例2のプリストレスはプレーンリンクの降伏荷重よりも大きいものと解するのが合理的であり,この点からも,降伏荷重のより小さな案内リンクは,プリストレス動作中に塑性変形するとみるのが自然である。 (a-2-4) したがって,「『剛性』は,一般的には弾性変形に対する場合に用いられることより,甲第2号証(本訴甲5-2,引用例2)には,サイレントチェーンに対して,降伏荷重を問題とするようなプリストレスを行うことについて記載されているとすることはできない。」との審決の認定は誤りである。 (a-2-5) よって,取消事由6の原告の主張にも理由がある。 (a-3) 以上を基に検討する。 訂正明細書には,「ガイドリンクの硬度が内側リンクの硬度よりも約8単位分低い場合には,チェーンリンクにおける各リンクのピッチ長伸びの度合いは,図18に最もよく示されるように,ほぼ均等に近くなっている。」(甲10添付,段落【0099】),及び「図19は,ガイドリンクの硬度が内側リンクの硬度より約11単位分低い場合において,チェーンリンクの各リンクのピッチ長伸びの度合いを図示している。図18のチェーンリンクと同様に,ピッチ長伸びの度合いは,とくに図17のチェーンリンクと比較すると,ほぼ均等に近くなっている。」(同段落【0100】)との記載があり,添付図面(甲2)の【図17】においては,ガイドリンクがピッチ伸びを生じていない様子が,【図18】及び【図19】においては,ガイドリンクもピッチ伸びを生じているが,その度合いは内側リンク中央部よりも小さい様子がそれぞれ図示されている。 そうすると,相違点キに係る訂正発明9の構成のうち「ガイドリンクピッチがプリストレス運転後に内側リンクピッチに実質的に等しくなっている」とは,プリストレス運転後にガイドリンクにもピッチ伸びを生じていれば足りるものであり,その伸びの度合いが内側リンクのピッチ伸びの度合いと一致することまでも要件とするものではないと解すべきである。 そして,上記(a-2)に判示したように,引用例2には,プリストレス動作中に,案内リンク及びプレーンリンクが塑性変形すること,すなわち,プリストレス運転後にこれらリンクにピッチ伸びが生じることが記載されているのであり,前判示のとおり引用例発明1のガイドリンクプレートは駆動リンクプレートよりも降伏荷重が小さいのである。しかも,ローラチェーンを塑性変形させる程度の予荷重,すなわち,プリストレスを施すことがチェーンの疲労強度向上に資することが引用例3に記載されていることは,(a-1)で説示したとおりであり,プリストレスの有効性は,ローラチェーンに限ったものではなく,引用例発明1においても同様であることは容易に予測し得ることと認められる。そうである以上,引用例発明1において,引用例2及び引用例3記載のものと同様に,プリストレス運転を実施し,駆動リンクプレートとガイドリンクプレートの双方にピッチ伸びを生じさせることが,当業者にとって困難であるということもできない。 したがって,「ガイドリンクピッチが,前記内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重をチェーンにかけることによりガイドリンク及び内側リンクを塑性変形させるプリストレス運転後に内側リンクピッチに実質的に等しくなっている」との構成について,「引用例2(甲5-1・審判甲2),甲第6号証(審判甲3)及び引用例3(甲7・審判甲4)に記載されたものから,当業者が容易に想到し得たものとは認められない」旨をいう審決の認定判断は誤りである。 (b) 訂正発明1ないし4の相違点イ並びに訂正発明6ないし8の相違点エ及びオ(一部)に関する容易想到性について 審決は,相違点イとして,訂正発明では,「チェーン組立後に前記内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけ,これにより,ガイドリンク及び内側リンクを塑性変形させて各列のガイドリンク及び内側リンクの塑性伸びを同じにし,その結果,連結ピンの曲がりを防止して各連結ピンを実質的に互いに平行に配列させるようにしている」のに対し,引用例1に記載されたものでは,そのようなプリストレスについての記載がない点を認定する。 審決は,相違点エとして,訂正発明では,「第1のガイドリンクピッチと異なる第2のガイドリンクピッチと,第1の内側リンクピッチと異なりかつ第2のガイドリンクピッチと実質的に等しい第2の内側リンクピッチとが得られるように,内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけ,これにより,ガイドリンク及び内側リンクを塑性変形させて各列のガイドリンク及び内側リンクの塑性伸びを同じにしている」のに対し,引用例1に記載されたものでは,そのようなプリストレスについての記載がない点を認定する。 審決は,相違点オとして,訂正発明では,「チェーンリンクが,各々内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているガイドリンクを連結する枢支部材とを含んでおり,プリストレス後に各枢支部材が実質的に互いに平行に配列されている」のに対し,引用例1に記載されたものでは,各々内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているガイドリンクを備えたチェーンリンクにプリストレスをかけることについての記載がない点を認定する(この点は,審決の説示ぶりからすると,前記のリンクの降伏荷重に関するものに尽きるとも考えられるが,念のためここでも検討しておく。)。 そして,審決は,以上の相違点イ,エ,オにつき,いずれも,引用例2(甲5-1・審判甲2),甲第6号証(審判甲3)及び引用例3(甲7・審判甲4)に記載されたものから,当業者が容易に想到し得たものとも認められないとする。 しかし,前記(a)に判示したように,「ガイドリンクピッチが,前記内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重をチェーンにかけることによりガイドリンク及び内側リンクを塑性変形させるプリストレス運転後に内側リンクピッチに実質的に等しくなっている」との構成は,容易に想到し得たものと認められるのであるから,上記相違点イ,エ,オに関する審決の認定判断は,誤りを含むものであるといわざるを得ない。 4 以下,2及び3で検討したところに立って,本件訂正を認めた審決の当否を検討するが,まず,複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正の許否の判断をすべきか否かの問題がある。 本件特許は,いわゆる改善多項制下での出願に係るものであり,本件訂正は,本件無効審判手続における訂正請求であって,訂正が不適法であった場合に当該訂正を特許の無効理由とし,この場合も含め,審判で請求項ごとに無効の判断がされるようになった制度下における訂正請求である。そして,本件訂正請求の内容は,訂正請求前の特許請求の範囲の請求項1,同5,同6及び同9につき訂正をするものであり(前記第2,2「本件発明の要旨」の記載参照。なお,請求項9は,訂正前の請求項9を削除し,訂正前の請求項10を独立項としたものであり,請求項2ないし4は同1を,同7は同6を,同8は同7をそれぞれ引用している。),明細書の「発明の詳細な説明」欄については,上記訂正に伴って必然的に生じる各請求項の記載の引用部分のみを訂正するものである(甲10)。このように,本件訂正請求は,それぞれ請求項ごとに別個独立のものとして理解し得るものであり,本件において請求項ごとに訂正の許否を判断するのに特段の支障は認められない。 以上のような事情に照らせば,本件訂正請求の許否の判断は,請求項ごとにすべきものと解するのが相当である。なお,最高裁第一小法廷判決昭和55年5月1日民集34巻3号431頁の判示するところは,前提となる制度が本件とは異なっており,上記の本件のような制度下においては,特定の請求項に関してされた複数箇所の訂正請求につき一体として許否の判断をすべきとの点では当てはまるとしても,別個の請求項に関する別個独立の訂正請求の許否についてまでも及ぶものではないと解される。 そこで,訂正を認めた審決の当否につき,訂正発明(請求項)ごとに検討する。 (1) 審決は,訂正発明9について,引用例発明1との相違点を前記カ及びキと認定した上,これらについて容易想到性もないとして,独立特許要件を肯定した。 しかし,相違点カとされた前記リンクの降伏荷重の点には,前記2で判示したように,相違点ではないのに相違するものとした誤りがあり,相違点キとされた上記プリストレス運転の点は,前記3で判示したように,当業者が容易に想到し得たもので,容易想到性を否定した点には誤りがあるのであって,結局,訂正発明9は,独立特許要件を満たさないものというべきである(なお,3(2)(a-1)及び(a-2)のとおり,取消事由5,6に理由があることは,訂正発明9に関する公然実施についての審決の認定判断(審決書U3(2)(2-3)(A))の誤りにも通じるものである。)。 よって,訂正発明9に関する本件訂正を認めた審決は,誤りであって,取消しを免れない(取消事由7については判断するまでもない。)。 (2) 訂正発明1並びにこれを引用する訂正発明2,同3及び同4についての審決の認定判断をみるに,相違点アのうち,前記リンクの降伏荷重の点に関する部分は,相違点ではないのに相違するものとした誤りがあり(前記2参照),相違点イの前記プリストレス運転の点に関する容易想到性についての判断には,前記3のように誤りを含むものであって,これらの誤りは,独立特許要件の判断の結論に影響を与え得るものであり,上記各訂正発明に関する本件訂正を認めた審決は,取消しを免れない。もっとも,審決取消後に再開される審判においては,相違点アにおける,各ガイドリンクが内側リンクの硬度よりも低い硬度を有している構成の技術的意義などについて,更に審理を尽くした上,訂正の許否を判断すべきである。 (3) 訂正発明5についての審決の認定判断をみるに,相違点ウのうち,前記リンクの降伏荷重の点に関する部分は,相違点ではないのに相違するものとした誤りがある(前記2参照)。この誤りは,訂正発明5の独立特許要件の判断の結論に影響を与え得るものであり,上記訂正発明に関する本件訂正を認めた審決は,取消しを免れない。もっとも,審決取消後に再開される審判においては,上記(2)と同様に,相違点ウにおけるリンクの硬度の点について,更に審理を尽くした上,訂正の許否を判断すべきである。 (4) 訂正発明6についての審決の認定判断をみるに,相違点オのうち,前記リンクの降伏荷重の点に関する部分は,相違点ではないのに相違するものとした誤りがあり(前記2参照),相違点エ及びオのうちの前記プリストレス運転の点に関する容易想到性についての判断には,前記3のように誤りを含むものであって,これらの誤りは,独立特許要件の判断の結論に影響を与え得るものである(なお,公然実施についての審決の認定判断については,上記(1)と同じである。)。よって,上記訂正発明に関する本件訂正を認めた審決は,取消しを免れない。 (5) 訂正発明7及び同8についての審決の認定判断をみるに,同7は同6を,同8は同7をそれぞれ引用する発明であるので,上記(4)に判示した訂正発明6に関する認定判断と同様の誤りがあり,これらの誤りは,訂正発明7及び同8の独立特許要件の判断の結論に影響を与え得るものである。よって,上記各訂正発明に関する本件訂正を認めた審決は,取消しを免れない。もっとも,審決取消後に再開される審判においては,上記(2)と同様に,訂正発明7及び同8におけるリンクの硬度の点などについて,更に審理を尽くした上,訂正の許否を判断すべきである。 5 結論 以上により,審決が本件訂正を認めたことは誤りであり,審決全体を取り消すこととする。なお,本件については,審決取消後に再開される審判においても,ある特定の請求項に関する訂正請求を認めるべきでないと判断する場合でも,各請求項に関する訂正請求の許否を請求項ごとに判断すべきものである。 よって,主文のとおり判決する。 |
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【別紙】審決の理由平成10年審判第35034号事件,平成12年3月29日付け審決(下記は,上記審決の理由部分について,文書の書式を変更したが,用字用語の点を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)理由I.手続の経緯本件特許第2632656号に係る発明は、平成7年2月14日(パリ条約による優先権主張1994年2月15日、米国)に出願され、その後、平成9年4月25日にその特許権の設定の登録がなされ、これに対し平成10年1月23日に無効審判が請求され、平成11年1月19日に訂正請求がなされたものである。 II.訂正請求について1.訂正の内容被請求人が求めている訂正の内容は以下のとおりである。 ア.特許請求の範囲の請求項1を、 「【請求項1】複数のチェーンリンクを有する動力伝達用チェーン10において、各チェーンリンクが、 a.二つのガイドリンク20と、 b.複数の内側リンク50と、 c.ガイドリンクを連結する枢支部材80と、 を備えるとともに、 a′.ガイドリンクの各々が、ある厚みおよび硬度を有するとともに、間隔をあけて配置された一対の開孔24,26と、間隔をあけて配置された一対のつま先部28,30とを有し、該各つま先部が、開孔を囲むとともに、外側フランク面36,38および内側フランク面32,34を有し、内側フランク面は、その基部が開孔最上部の下方まで垂れ下がっている丸いクロッチ部40で結合されており、 b′.内側リンクの少なくとも一部がガイドリンク間に配置されるとともに、内側リンクの各々が、間隔をあけて配置された一対の開孔54,56と、ある厚みおよび硬度とをそれぞれ有しており、 c′.一つの枢支部材が、各ガイドリンクの対向する開孔内で支持されるとともに、各内側リンクの少なくとも一つの開孔内を挿通しており、各ガイドリンクが、 内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有し、かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有しており、さらに、 チェーン組立後に前記内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけ、これにより、ガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させて各列のガイドリンクおよび内側リンクの塑性伸びを同じにし、その結果、連結ピンの曲がりを防止して各連結ピンを実質的に互いに平行に配列させるようにしている、 ことを特徴とする動力伝達用チェーン。」と訂正する。 イ.特許請求の範囲の請求項5を、 「【請求項5】リンク50の組立体および枢支部材80から構成されるチェーンとともに用いられる側部ガイドリンク20であって、該チェーンは、隣り合う組が交互に組み合わされた内側リンクの組が差し込まれる複数組の側部ガイドリンクを有し、該各リンクは、間隔をあけて配置された一対の開孔を有し、一つのリンクの組の一組の開孔は、隣接するリンクの組の一組の開孔と横方向に整列して配置されており、各ガイドリンクは、 a.底部22と、 b.間隔をあけて配置されかつ上方に延びる一対のつま先部28,30とを備え、 b′.前記つま先部は、開孔24,26を囲むとともに、外側フランク面36,38と、丸いクロッチ部40で連結された内側フランク面32,34とを有し、クロッチ部の基部が開孔最上部の下方まで延びており、内側リンクがある厚みおよび硬度を有し、ガイドリンクが、内側リンクの降伏荷重の約半分の降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みより薄いある厚みと、内側リンクの硬度より低いある硬度とを有している、 ことを特徴とするガイドリンク。」と訂正する。 ウ.特許請求の範囲の請求項6を、 「【請求項6】実質的にすべてのリンクが実質的に同一のピッチ長を有している動力伝達用チェーンの製造方法であって、 a.無端状のチェーンを形成するように複数のチェーンリンクを連結することと、 b.第1のガイドリンクピッチと異なる第2のガイドリンクピッチと、第1の内側リンクピッチと異なりかつ第2のガイドリンクピッチと実質的に等しい第2の内側リンクピッチとが得られるように、内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけ、これにより、ガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させて各列のガイドリンクおよび内側リンクの塑性伸びを同じにすることとを備えており、 前記チェーンリンクは、 i.間隔を隔てて配置されかつ第1のガイドリンクピッチを定める一対の開孔24,26を備えるとともに、各開孔24,26を囲みかつクロッチ部40で連結された一対のつま先部28,30を有する複数の側部ガイドリンク20と、 ii.少なくともその一部がガイドリンク間に配置され、間隔を隔てて配置されかつ第1の内側リンクピッチを定める一対の開孔54,56をそれぞれ有する複数の内側リンク50と、 iii.そのうちの一つが各ガイドリンクの対向する開孔内で支持され、各内側リンクの少なくとも一つの開孔を挿通するとともに、各々内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているガイドリンクを連結する枢支部材80とを含んでおり、 プリストレス後に各枢支部材80が実質的に互いに平行に配列されている、 ことを特徴とする動力伝達用チェーンの製造方法。」と訂正する。 エ.特許請求の範囲の請求項9を削除するとともに、請求項10を独立項として新たな請求項9とし、 「【請求項9】複数のチェーンリンクを有する動力伝達用チェーン10において、該各チェーンリンクが、 a.間隔をあけて配置されかつガイドリンクピッチを定める一対の開孔24,26を有する一対のガイドリンク20と、 b.少なくともその一部がガイドリンク間に配置されるとともに、間隔をあけて配置されかつ内側リンクピッチを定める一対の開孔54,56をそれぞれ有する複数の内側リンク50と、 c.ガイドリンクを連結する枢支部材80とを備え、 c′.一つの枢支部材が各ガイドリンクの対向する開孔内に支持されるとともに、各内側リンクの少なくとも一つの開孔内を挿通しており、各ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有し、ガイドリンクピッチが、前記内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重をチェーンにかけることによりガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させるプリストレス運転後に内側リンクピッチに実質的に等しくなっている、 ことを特徴とする動力伝達用チェーン。」と訂正する。 2.訂正の適否についての判断(独立特許要件を除く)上記訂正事項ア乃至エは、特許請求の範囲に、構成要件を追加するものであり、 また、上記訂正事項エは、特許請求の範囲の請求項を削除するものでもあるから、 いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。 また、上記訂正事項ア、ウ及びエにおいて追加された「プリストレス」及び「塑性変形」に係る構成要件についての訂正は、願書に添付された明細書第16頁第21〜26行(特許公報第7頁第13欄第36〜42行)の「チェーンには、内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でプリストレスがかけられ、これにより、第1のガイドリンクピッチとは異なる第2のガイドリンクピッチと、第1の内側リンクピッチとは異なる第2の内側リンクピッチとが得られ、また第2のガイドリンクピッチは、実質的に全ての内側リンクのピッチと実質的に同一である。」という記載及び、願書に添付された明細書第30頁第12〜22行(特許公報第12頁第23欄第24〜39行)の「好ましくは、内側リンクおよびガイドリンクがともに塑性変形するように、チェーンには内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でプレストレスがかけられる。このようにして、内側リンクもガイドリンクも、それぞれ元のピッチ長つまり第1のピッチ長と実質的に同一かまたはそれ以上の「新しい」ピッチ長つまり第2のピッチ長を得ることになる。チェーンの実質的にすべてのチェーンリンクに、このプリストレス運転後において実質的に同一のピッチ長を与えることによって、枢支部材が互いに実質的に平行になり、枢支部材の残留曲げ応力が減少することが分かるだろう。本発明のガイドリンクを使用することによって、枢支部材が実質的に平行に保たれ、これによって、ガイドリンク近傍のピン破損の発生が最小限に抑えられる。」という記載を根拠とするものであり、 上記訂正事項イの「内側リンクの降伏荷重の約半分の降伏荷重を有する」とする訂正は、願書に添付された明細書第28頁第1〜2行(特許公報第11頁第21欄第37〜40行)の「ガイドリンクの降伏荷重は内側リンクの降伏荷重よりも低い。 好ましくは、ガイドリンクの降伏荷重は内側リンクの降伏荷重の約半分である」という記載を根拠とするものであり、 そして、上記訂正事項ウの「一対の開孔24,26を備えるとともに、各開孔24,26を囲みかつクロッチ部40で連結された一対のつま先部28,30を有する複数の側部ガイドリンク20」とする訂正は、願書に添付された明細書第15頁第5〜8行(特許公報第6頁第12欄第27〜32行)の「好ましい実施態様では、ガイドリンクは、底部と、上方に延びる一対のつま先部によって囲まれ、間隔を隔てた一対の開孔とを備えた形状を有している。つま先部は、内側フランク面と、該内側フランク面が丸いクロッチ部で連結された外側リンクとによって形成されている。」という記載を根拠とするものであるから、上記訂正事項ア乃至エは、 いずれも願書に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内での訂正である。 さらに、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3.独立特許要件について(1)訂正発明本件訂正後の請求項1乃至9に係る発明(以下、それぞれ訂正発明1乃至9という。)は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載された次のとおりのものと認める。 「【請求項1】複数のチェーンリンクを有する動力伝達用チェーン10において、各チェーンリンクが、 a.二つのガイドリンク20と、 b.複数の内側リンク50と、 c.ガイドリンクを連結する枢支部材80と、 を備えるとともに、 a′.ガイドリンクの各々が、ある厚みおよび硬度を有するとともに、間隔をあけて配置された一対の開孔24,26と、間隔をあけて配置された一対のつま先部28,30とを有し、該各つま先部が、開孔を囲むとともに、外側フランク面36,38および内側フランク面32,34を有し、内側フランク面は、その基部が開孔最上部の下方まで垂れ下がっている丸いクロッチ部40で結合されており、 b′.内側リンクの少なくとも一部がガイドリンク間に配置されるとともに、内側リンクの各々が、間隔をあけて配置された一対の開孔54,56と、ある厚みおよび硬度とをそれぞれ有しており、 c′.一つの枢支部材が、各ガイドリンクの対向する開孔内で支持されるとともに、各内側リンクの少なくとも一つの開孔内を挿通しており、各ガイドリンクが、 内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有し、かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有しており、さらに、 チェーン組立後に前記内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけ、これにより、ガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させて各列のガイドリンクおよび内側リンクの塑性伸びを同じにし、その結果、連結ピンの曲がりを防止して各連結ピンを実質的に互いに平行に配列させるようにしている、 ことを特徴とする動力伝達用チェーン。 【請求項2】各ガイドリンクが、内側リンクの降伏荷重の約半分の降伏荷重を有している、 ことを特徴とする請求項1記載の動力伝達用チェーン。 【請求項3】内側リンクが内側リンクのガイド列および内側リンクのノンガイド列を構成するように組み合わされ、ガイド列内側リンクの開孔がガイドリンクの開孔と一直線上に揃えられている、 ことを特徴とする請求項1記載の動力伝達用チェーン。 【請求項4】ガイドリンクが変形するときには、ガイドリンクの端部44,46に最小量の変形を伴いつつ、ガイドリンクの実質的にすべての変形がクロッチ部近傍の領域で発生する、 ことを特徴とする請求項1記載の動力伝達用チェーン。 【請求項5】リンク50の組立体および枢支部材80から構成されるチェーンとともに用いられる側部ガイドリンク20であって、該チェーンは、隣り合う組が交互に組み合わされた内側リンクの組が差し込まれる複数組の側部ガイドリンクを有し、該各リンクは、間隔をあけて配置された一対の開孔を有し、一つのリンクの組の一組の開孔は、隣接するリンクの組の一組の開孔と横方向に整列して配置されており、各ガイドリンクは、 a.底部22と、 b.間隔をあけて配置されかつ上方に延びる一対のつま先部28,30とを備え、 b′.前記つま先部は、開孔24,26を囲むとともに、外側フランク面36,38と、丸いクロッチ部40で連結された内側フランク面32,34とを有し、クロッチ部の基部が開孔最上部の下方まで延びており、内側リンクがある厚みおよび硬度を有し、ガイドリンクが、内側リンクの降伏荷重の約半分の降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みより薄いある厚みと、内側リンクの硬度より低いある硬度とを有している、 ことを特徴とするガイドリンク。 【請求項6】実質的にすべてのリンクが実質的に同一のピッチ長を有している動力伝達用チェーンの製造方法であって、 a.無端状のチェーンを形成するように複数のチェーンリンクを連結することと、 b.第1のガイドリンクピッチと異なる第2のガイドリンクピッチと、第1の内側リンクピッチと異なりかつ第2のガイドリンクピッチと実質的に等しい第2の内側リンクピッチとが得られるように、内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけ、これにより、ガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させて各列のガイドリンクおよび内側リンクの塑性伸びを同じにすることとを備えており、 前記チェーンリンクは、 i.間隔を隔てて配置されかつ第1のガイドリンクピッチを定める一対の開孔24,26を備えるとともに、各開孔24,26を囲みかつクロッチ部40で連結された一対のつま先部28,30を有する複数の側部ガイドリンク20と、 ii.少なくともその一部がガイドリンク間に配置され、間隔を隔てて配置されかつ第1の内側リンクピッチを定める一対の開孔54,56をそれぞれ有する複数の内側リンク50と、 iii.そのうちの一つが各ガイドリンクの対向する開孔内で支持され、各内側リンクの少なくとも一つの開孔を挿通するとともに、各々内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているガイドリンクを連結する枢支部材80とを含んでおり、 プリストレス後に各枢支部材80が実質的に互いに平行に配列されている、 ことを特徴とする動力伝達用チェーンの製造方法。 【請求項7】請求項6において、 a.ガイドリンクの各々が、ある厚みおよび硬度を有するとともに、開孔24,26を囲みかつ外側フランク面36,38および内側リンク32,34を備える、 間隔を隔てた一対のつま先部28,30を有しており、 b.ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、 ガイドリンクの厚みが内側リンクの厚みよりも薄く、かつガイドリンクの硬度が内側リンクの硬度よりも低いような、ある厚みおよび硬度を内側リンクの各々が有している、 ことを特徴とする動力伝達用チェーンの製造方法。 【請求項8】ガイドリンクのクロッチ部基部が開孔の水平方向中心線の下方まで延びている、 ことを特徴とする請求項7記載の動力伝達用チェーンの製造方法。 【請求項9】複数のチェーンリンクを有する動力伝達用チェーン10において、 該各チェーンリンクが、 a.間隔をあけて配置されかつガイドリンクピッチを定める一対の開孔24,26を有する一対のガイドリンク20と、 b.少なくともその一部がガイドリンク間に配置されるとともに、間隔をあけて配置されかつ内側リンクピッチを定める一対の開孔54,56をそれぞれ有する複数の内側リンク50と、 c.ガイドリンクを連結する枢支部材80とを備え、 c′.一つの枢支部材が各ガイドリンクの対向する開孔内に支持されるとともに、各内側リンクの少なくとも一つの開孔内を挿通しており、各ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有し、ガイドリンクピッチが、前記内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重をチェーンにかけることによりガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させるプリストレス運転後に内側リンクピッチに実質的に等しくなっている、 ことを特徴とする動力伝達用チェーン。」(2)無効理由について(2-1)当事者の主張(A)請求人の主張請求人は、「第2632656号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由としては、証拠方法として下記の甲第1乃至7号証を提出し、訂正前の請求項1乃至6、9及び10に係る発明は、甲第1又は2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり(理由1)、また、訂正前の請求項6、9及び10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明であり、特許法第29条第1項第2号の規定により特許を受けることができないものであり(理由2)、さらに、訂正前の請求項1乃至10に係る発明は、甲第1及び2乃至4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである(理由3)から、本件特許は、同法第123条第2項により、無効とすべきものである旨の主張をしている。 甲第1号証:特開平4-46241号公報甲第1号証の1:甲第1号証に係る本件請求人による特許異議申立に対する特許異議答弁書甲第1号証の2:特公平7-86378号公報甲第2号証:特開平2-278040号公報甲第3号証:実公平6-8357号公報甲第4号証:中込昌孝著「ローラチェーンの安全設計」養賢堂(1989年9月5日)発行、第77〜83頁甲第5号証:本件特許に係る平成8年11月6日提出の「早期審査に関する事情説明書」甲第6号証:石川県工業試験場長発行工試第5-340号「成績書」甲第6号証の1:大同工業株式会社(1983年9月)発行「サイレントチェーン」カタログ甲第6号証の2:ボーグ・ワーナー・オートモーティブ株式会社(1987年1月)発行「サイレントチェーン」カタログ甲第7号証:石川県工業試験場長発行工試第5-1146号「成績書」なお、上記甲第5号証に基づいた、公然実施に係る主張は、撤回されている(第1回口頭審理調書第1頁参照)。 また、第1回口頭審理(期日平成11年10月27日)を踏まえて請求人に対し、前記口頭審理の期日から20日以内に被請求人の主張に対する反論又は更なる主張をする機会を与えたところ、平成12年2月16日付けで上申書が提出されている。 (B)被請求人の答弁被請求人は、「本件審判請求は成り立たない」(請求人の「審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求めているのに対しても成り立たないこと、即ち、「審判請求費用は請求人の負担とする」ことも当然に含まれるものと認める。)との審決を求め、その理由として、訂正発明1乃至9は、いずれも甲第1又は2号証に記載された発明ではなく、また、本件特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明でもなく、さらに、甲第1及び2乃至4号証に記載された発明に基づいて、 当業者が容易に発明することができたものでもないので、特許法第29条第1項及び第2項の規定に該当するものではないことから、本件特許は、無効とされるべきものではない旨の答弁をしている。 (2-2)甲各号証の記載事項請求人が提出した上記甲第1乃至4及び第6乃至7号証には、それぞれ以下の事項が記載されている。 [甲第1号証]チェーンの引張り方向に対するガイドリンクプレートの剛性を小さくして多数のリンクプレートにかかる荷重を均等化し、それによって動力伝達能力の向上、寿命の増大を図ったサイレントチェーンに関し、 「ガイドリンクプレート3は駆動リンク2よりも厚さが薄くなっていて、背縁側すなわち駆動リンクプレート2のリンク歯21のある側と反対側の中央には第5図に示されるようにクロッチすなわち切欠き35が形成されている。この切欠き35は穴32の中心を結ぶ中心線0′-0′の近くまで中心側に伸びているが、その深さは必要に応じて任意に調節できる。なお、ガイドリンクプレートとしては第6図に示されるように駆動リンクプレートと同じ形状3′として、向きを逆にして使用することもできる。 ガイドリンクプレート3に切欠きを形成することにより引張り荷重に対する剛性が小さくなり、チェーンに引張り荷重が作用したとき駆動リンクプレートと同じ量だけ伸びることが可能となる。このため連結ピンの曲がりを防止できて連結ピンの回転がよりし易くなる。」(第3頁左下欄第3〜19行)、 「チェーンのリンクプレートは交互に並べて連結するため、ガイドリンクプレート3のある列はそれがない列よりもリンクプレートの枚数が1枚多くなるので、ガイドリンクプレートの枚厚は駆動リンクプレートの板厚の1/2まで薄くしてもチェーンの引張り強度は変らず、全体的な強度バランスが良くなりより軽量化が図れる。」(第3頁右下欄第6〜12行)及び「切欠きを設けることにより駆動リンクプレートとガイドリンクプレートの弾性変形による伸びが均衡し、隣り合う連結ピンが互いに平行に保ち、曲げ応力が発生しないのでチェーンの引張強度が向上する。」(第4頁左下欄第3〜7行)と記載されている。 [甲第1号証の1]甲第1号証に係る特許出願が公告[特公平7-86378号(甲第1号証の2はその公告公報)]されたのに対し、本件審判請求人が異議申立をした後、甲第1号証に係る出願人が平成8年8月30日付けで提出した特許異議答弁であり、その理由として、 「(4)ここで、上記下線を施した「引っ張り強度」という文言に着目して戴きたい。 近年、サイレントチェーンには、耐疲労性の向上のためにその組立後に予荷重をかけることが一般に行われている。予荷重とは、チェーンの弾性限度を越えた過大な引張荷重のことであって、この予荷重をかけると、ガイド列及びリンク列にはそれぞれの引張強度の数十%に相当する荷重が作用して各列が塑性域まで伸ばされ、その結果、ガイド列およびリンク列の各穴ピッチが伸びる。この場合に、ガイド列およびリンク列について各穴ピッチの塑性伸び量が同じになるように各列の引張強度が均衡しておれば、予荷重の除去後において各列の穴がチェーン幅方向に整列し、 これにより連結ピンの曲がりが防止されることになる。その結果として、実際の運転中にチェーンに弾性限度内の引張荷重が作用する場合において、チエーンの耐疲労性を向上できるばかりでなく、連結ピン長手方向の荷重分担を均等にでき、連結ピンの回転を容易にすることが可能になる。本件出願に係る発明者は長年の鋭意研究の結果、このよううな結論に達して本願請求項1の発明を想到し得たのである。 (5)このように請求項1の発明では、弾性限度を超えた引張荷重を問題としており、 これに対し、甲第1号証では、「ドライブリンクと同様の弾力性(elasticqualities)を持つガイドリンクを採用する(甲第1号証の1第6頁第24〜第25行参照)」という記載からも明らかなように、弾性限度内の引張荷重のみを問題としている。すなわち、甲第1号証のようにガイドリンクプレートの背部に切欠きを形成しただけでは、依然としてガイド列の方がリンク列よりも引張強度が高いために、弾性限度内の引張荷重に対してガイド列およびリンク列の弾性伸び量を均等にすることができても、予荷重のような弾性限度を超える引張荷重に対しては、リンク列の塑性伸び量がガイド列の塑性伸び量よりも大きくなり、その結果、連結ピンに曲がりが生じることになる。したがって、ガイド列の塑性伸び量をリンク列の塑性伸び量と均等レベルにまで増やすためには、請求項1の発明のように、ガイドリンクプレートの板厚を駆動リンクプレートの板厚より小さくして、ガイド列の引張強度を下げてやることが必要になるのである。なお、甲第1号証には、同号証に示すようなガイドリンクを採用することにより引張強度が向上する旨記載されているが(甲第1号証の1第6頁第25〜第26行参照)、ここでの引張強度とはチェーン全体の引張強度を意味しており、ガイド列の引張強度をリンク列の引張強度と均衡させる点については全く記載されていない。」(第2頁第23行〜第3頁第26行)と記載されている。 [甲第1号証の2]甲第1号証に係る公告公報であり、上記甲第1号証と同様な内容が記載されている。 [甲第2号証]動力伝達チェーンに関し、 「動力伝達チエーンにおける2個の案内リンクとプレーンリンクとの間の歪を均等化するためには、考慮すべきいくつかの要因がある。即ち、例えば、案内レーンリンクの厚さ、プレーンリンクの厚さ、プレーンリンクの数、案内リンクとプレーンリンクとの間の相対的弾性関係、案内リンクとプレーンリンクの相対的て形状関係、各リンクにおける応力の臨界点等がある。」(第8頁右下欄第7〜14行)、 「案内リンク52の周面は、ほぼ腎臓形状のその輪郭または全体形状から形成し、 急激な不連続性、切欠き、また周面全体にわたり他の同様な中断部分がないようにする。各案内リンク52は均一で連続的な輪郭を有し、所定の予測可能操作モードの荷重の下で大きな応力上昇を生ずることなく変形するよう設計する。更に、2個の案内リンクがピンにより案内リンク間の複数個のプレーンリンクに組み合わされ、チェーンのランクを形成し、スプロケットの周りのチエーンの作動中の荷重を受け、2個の案内リンク52が複数個のプレーンリンクとほぼ同程度に変形し、荷重の分布を改善し、チェーンを構成する構成部分の摩耗寿命を延ばすことができるようにする。」(第11頁右上欄第17行〜左下欄第10行)及び「標準の従来技術の案内リンクを弾性案内リンクに変更することによってピッチ均等化がより改善される。弾性案内リンクは案内リンクとして良好に機能し、硬さが少なくプレストレスを受けたのちにもピッチの均等化を良好にする。プレストレス動作中に減少した硬さによりチェーンリンクにおける引っ張りを和らげ、より均一にする。案内リンクを案内列におけるプレーンリンクよりも薄くし、また案内列のプレーンリンクを関節連結列におけるプレーンリンクよりも厚くすることにより最良の結果が得られる。」(第13頁左上欄第20行〜右上欄第10行)と記載されている。 [甲第3号証]動力伝達用のサイレントチェーンに関し、 「第2図は、一枚の噛合し、リンクプレートの1/2の剛性を有する一枚のガイドリンク1であって、長い連結ピンP1の端部を装着固定する一対の孔2,2を有し、中央部位に窓孔3が設けられており、該窓孔3とガイドリンク1の上辺との幅Wa、及び窓孔とガイドリンクの下辺との幅Wbとの和(Wa+Wb)である最小断面長は、第3図に示す噛合いリンクプレート4の上辺と歯底との幅である最小断面長とWcに等しくされており、ガイドリンク1の板厚は噛合いリンクプレートの板厚の1/2としたから、ガイドリンク1は張力に対し噛合いリンクプレート4の1/2の剛性を有することになる。」(第3欄第40行〜第4欄第8行参照)及び「ガイドリンクを噛合いリンクプレートの1/2の剛性にする他の実施例として材質を変更することもある。」(第4欄第9〜11行)と記載されている。 [甲第4号証]ローラチェーンの安全設計における予荷重の影響に関し、 「ローラチェーンは、製作後、組立て時のピッチ誤差およびねじれなどの矯正をするために、予張力を負荷する作業が行なわれる。」(第77頁第7行〜第78頁第1行)、 「予荷重を施こすことによって、20〜30%の疲労限度の向上が認められたことになる。ここで注意しなければならないことは、余り大きな予荷重をチェーンにかけると、チェーンに永久伸びが発生するために好ましくはない。」(第79頁第4〜7行)、 「チェーンに予荷重を施こしたときの効果は、ローラリンクプレート穴底部の応力集中による表面圧縮残留応力の生成と、それによる疲労試験における繰返し応力の平均応力成分の低下とみなして説明することができる。」(第79頁第10〜11行)及び「局部最大応力が降伏応力σyを超えない場合は、予応力を取り除いたときの応力およびひずみは0に戻るので残留応力は生成されない。」(第79頁第18〜19行)と記載されている。 [甲第6号証]石川県工業試験場長が発行した、サイレントチェーンに係る成績書であり、 日本国製サイレントチェーンとされている試料番号SC・A-0404DHA及びSC・S-0412ASDH並びに米国製サイレントチェーンとされている試料番号TC506,TC379,C-370及びSA245のそれぞれの内側リンク及びガイドリンクの比例限度荷重、プレート厚み及びプレート硬度を含む測定結果が記載されている。 [甲第6号証の1]大同工業株式会社(1983年9月)発行「サイレントチェーン」カタログであり、D.I.DSC-04系サイレントチェーン(チェーンNo.SC-0404DHA等)の寸法表及び摘要事項が記載されている。 [甲第6号証の2]ボーグ・ワーナー・オートモーティブ株式会社(1987年1月)発行「サイレントチェーン」カタログであり、82タイプ(チェーン番号82RH2005等)の寸法表が記載されている。 [甲第7号証]石川県工業試験場長が発行した、サイレントチェーンに係る成績書であり、 外国製のサイレントチェーンとされる試料番号SA245及び日本製サイレントチェーンとされる試料番号SCA-0404SDHのそれぞれのガイドリンクについて、そのピン孔の真円度の測定結果が記載されている。 (2-3)対比・判断(A)理由2について上記訂正により、特許請求の範囲の請求項9を削除されるとともに、請求項10を独立項として新たな請求項9とされていることから、訂正発明6及び9について以下に検討する。 甲第6号証は、日本国製サイレントチェーンとされている試料番号SC・A-0404DHA及びSC・S-0412ASDH並びに米国製サイレントチェーンとされている試料番号TC506,TC379,C-370及びSA245のそれぞれの内側リンク及びガイドリンクの比例限度荷重、プレート厚み及びプレート硬度を含む測定結果についての成績書であるが、測定された各サイレントチェーンが本件特許出願前に公然実施をされたことを示すために提出された甲第6号証の1及び甲第6号証の2の各カタログには、測定された各サイレントチェーンを示す試料番号のものが掲載されておらず(甲第6号証の1には、チェーンNo.「SC-0404DHA」は掲載されているが、甲第6号証の「SC・A-0404DHA」とは相違する。)、そのため公然実施をされたことを示すに足る証拠はないが、請求人の平成12年2月16日付け上申書においての主張のとおり、「SC・A-0404DHA」は「SC-0404DHA」の改良品であり、平成3年から出荷されているものとしても、 ア.甲第7号証は、甲第6号証において測定に用いられたサイレントチェーンのうち、試料番号SC・A-0404DHA及びSA245について、ガイドリンクプレートのピン孔の真円度の測定結果についての成績書であり、該ピン孔は、チェーン長手方向の寸法がそれに直交する方向の寸法に比して大きいことが示されているが、その原因としては、製造上の誤差またはピン孔周囲での局部的な変形等も考えられる上に、そのピッチと内側リンクのピッチとの関係まで示すものでないことから、甲第7号証をもって、甲第6号証において測定に用いられたサイレントチェーンについて、訂正発明6の構成である「内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけ、これにより、ガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させて各列のガイドリンクおよび内側リンクの塑性伸びを同じにすること」及び訂正発明9の構成である「ガイドリンクピッチが、前記内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重をチェーンにかけることによりガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させるプリストレス運転後に内側リンクピッチに実質的に等しくなっている」ことを示す証拠とすることはできない。 イ.請求人は、甲第4号証及び甲第2号証によっても、サイレントチェーンに対してプレストレスを行うことは、慣用技術であり、本件特許出願前に公然実施をされている旨の主張をしているが、 甲第4号証には、「ローラチェーンは、製作後、組立て時のピッチ誤差およびねじれなどの矯正をするために、予張力(予荷重)を負荷する作業が行なわれる」ことは記載されているが、ガイドリンクを備えたサイレントチェーンについての記載はなく、しかも、「余り大きな予荷重をチェーンにかけると、チェーンに永久伸びが発生するために好ましくはない。」及び「チェーンに予荷重を施したときの効果は、ローラリンクプレート穴底部の応力集中による表面圧縮残留応力の生成と、・・・説明することができる。」との記載から、局部的な降伏応力を問題とするものであるから、甲第4号証での「予張力(予荷重)」は、チェーンのリンクに対して塑性伸びを生じさせるような大きさの荷重をかけるものとは認められず、 また、甲第2号証には、サイレントチェーンに関し、「硬さが少なくプレストレスを受けたのちにもピッチの均等化を良好にする。プレストレス動作中に減少した硬さによりチェーンリンクにおける引っ張りを和らげ、より均一にする。」との記載があるが、ここでの「硬さ」は、甲2号証の他の記載を参酌すると、「剛性」を意味するものと解するのが妥当であり、請求人が主張するように「硬度」を意味するものとは認められず、そして、「剛性」は、一般的には弾性変形に対する場合に用いられることより、甲第2号証には、サイレントチェーンに対して、降伏荷重を問題とするようなプレストレスを行うことについて記載されているとすることはできない。 ウ.甲第6号証において測定に用いられた各サイレントチェーンの側部ガイドリンクは、訂正発明6に係る構成である「各開孔を囲みかつクロッチ部で連結された一対のつま先部」を有するものではない。 よって、訂正発明6の構成である、動力伝達チェーンの製造方法であって、各々内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているガイドリンクを備えたものにおいて「第1のガイドリンクピッチと異なる第2のガイドリンクピッチと、第1の内側リンクピッチと異なりかつ第2のガイドリンクピッチと実質的に等しい第2の内側リンクピッチとが得られるように、内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけ、これにより、ガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させて各列のガイドリンクおよび内側リンクの塑性伸びを同じに」し、そして、側部ガイドリンクは「各開孔を囲みかつクロッチ部で連結された一対のつま先部を有する」もの及び訂正発明9の構成である、動力伝達チェーンにおいて「各ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有し、ガイドリンクピッチが、前記内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重をチェーンにかけることによりガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させるプリストレス運転後に内側リンクピッチに実質的に等しくなっている」ものが、本件特許出願前に公然実施をされたことを示す証拠はない。 以上のとおりであるから、訂正発明6及び9は、本件特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明であるとすることはできない。 (B)理由1及び3について(B-1)訂正発明1乃至4について訂正発明1と甲第1号証に記載された発明とを比較すると、甲第1号証に記載された「サイレントチェーン」は訂正発明1の「動力伝達用チェーン」に、以下同様に、「ガイドリンクプレート3」は「ガイドリンク」に、「駆動リンクプレート2」は「内側リンク」に、「穴32」はガイドリンクに配置された「開孔」に、 「穴22」は内側リンクに配置された「開孔」に、「連結ピン4」は「枢支部材」にそれぞれ相当すること、また、甲第1号証に記載された「切欠き35」は、訂正発明1でいう「内側フランク面」及び「丸いクロッチ部」により形成されていること、さらに、「ガイドリンクプレート3」には、訂正発明1でいう「つま先部」及び「外側フランク面」が形成されていることは明らかなことより、両者は、複数のチェーンリンクを有する動力伝達用チェーンにおいて、各チェーンリンクが、 a.二つのガイドリンクと、 b.複数の内側リンクと、 c.ガイドリンクを連結する枢支部材と、を備えるとともに、 a′.ガイドリンクの各々が、ある厚みおよび硬度を有するとともに、間隔をあけて配置された一対の開孔と、間隔をあけて配置された一対のつま先部とを有し、該各つま先部が、開孔を囲むとともに、外側フランク面および内側フランク面を有し、内側フランク面は、その基部が開孔最上部の下方まで垂れ下がっている丸いクロッチ部で結合されており、 b′.内側リンクの少なくとも一部がガイドリンク間に配置されるとともに、内側リンクの各々が、間隔をあけて配置された一対の開孔と、ある厚みおよび硬度とをそれぞれ有しており、 c′.一つの枢支部材が、各ガイドリンクの対向する開孔内で支持されるとともに、各内側リンクの少なくとも一つの開孔内を挿通しいる点で一致するものの、以下の各点において相違する。 ア.訂正発明1では、各ガイドリンクが、内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有し、かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有しているのに対し、甲第1号証に記載されたものでは、各ガイドリンクが、内側リンクの剛性よりも低い剛性を有するように、内側リンクの厚みより薄い厚みを有することは記載されているものの、それぞれの降伏荷重及び硬度についての記載がない点。 イ.訂正発明1では、チェーン組立後に前記内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけ、これにより、ガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させて各列のガイドリンクおよび内側リンクの塑性伸びを同じにし、その結果、連結ピンの曲がりを防止して各連結ピンを実質的に互いに平行に配列させるようにしているのに対し、甲第1号証に記載されたものでは、そのようなプリストレスについての記載がない点。 そこで、上記各相違点について検討すると、 ・相違点アについて請求人は、通常タイプのサイレントチェーンにおいて、各ガイドリンクが、内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有し、かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有するものであることの根拠として甲第6号証として成績書を提出しているが、その測定結果については、該成績書に記載された比例限度荷重は、各訂正発明における降伏荷重に対応するものと認められるが、ガイドリンクが内側リンクより低い降伏荷重を有するものは、試料番号SC・A-0404DHAのみであり、他の資料は、逆にガイドリンクが内側リンクより高い降伏荷重を有するものとなっており、降伏荷重については、一部の試料が上記相違点アに係る訂正発明1の構成を満たすのみであることから、サイレントチェーンの各ガイドリンクが、内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有することが一般的にいえるものとすることはできない。 よって、本件出願時においてサイレントチェーンの各ガイドリンクが、内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有し、かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有するものであることが一般的にいえるものではなく、甲第1号証に記載されたものが、上記相違点アに係る訂正発明1の構成を有しているものとすることはできない。 また、甲第2及び3号証においても、それぞれ各ガイドリンクが、内側リンクの剛性よりも低い剛性を有するように、内側リンクの厚みより薄い厚みを有するものは記載されているものの、各ガイドリンクが、内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有し、かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有するものは記載されておらず、さらに、甲第4号証にもそのような降伏荷重に関する記載はない。 したがって、上記相違点アに係る訂正発明1の構成は、甲第2乃至4号証に記載されたものから、当業者が容易に想到し得たものとも認められない。 ・相違点イについて請求人は、甲第1号証の1の記載をもって、甲第1号証に記載されたサイレントチェーンも、プリストレスをかけ、これにより、ガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させている旨主張しているが、甲第1号証の1は、本件特許出願後に、しかも、被請求人と異なる甲第1号証に係る出願人が提出したものであること、甲第1号証に係る発明者と訂正発明1に係る発明者は異なること、さらに、予荷重によりガイドリンクプレートを塑性域まで伸ばすことまでは記載されていないことより、甲第1号証の1の記載をもって、甲第1号証に記載されたサイレントチェーンも、プリストレスをかけ、これにより、ガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させているとすることはできない。 よって、甲第1号証に記載されたサイレントチェーンが、上記相違点イに係る訂正発明1の構成である、チェーン組立後に前記内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけ、これにより、ガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させて各列のガイドリンクおよび内側リンクの塑性伸びを同じにし、 その結果、連結ピンの曲がりを防止して各連結ピンを実質的に互いに平行に配列させるようにしているものとすることはできない。 また、甲第2及び3号証にも、ガイドリンクおよび内側リンクを備えた動力伝達用チェーンにおいて、プリストレスをかけ、これにより、ガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させることについての記載はなく、さらに、甲第4号証についても、上記「(A)理由2について」において述べたとおり、チェーンのリンクに対して塑性伸びを生じさせるような大きさのプリストレス(予荷重)をかけることは記載されていない。 したがって、上記相違点イに係る訂正発明1の構成は、甲第2乃至4号証に記載されたものから、当業者が容易に想到し得たものとも認められない。 よって、訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1及び2乃至4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとも認められない。 また、訂正発明2乃至4は、訂正発明1を引用して、更に構成を付加するものであるから、訂正発明1の理由と同様な理由により、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1及び2乃至4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとも認められない。 (B-2)訂正発明5について訂正発明5と甲第1号証に記載された発明とを比較すると、両者は、 リンクの組立体および枢支部材から構成されるチェーンとともに用いられる側部ガイドリンクであって、該チェーンは、隣り合う組が交互に組み合わされた内側リンクの組が差し込まれる複数組の側部ガイドリンクを有し、該各リンクは、間隔をあけて配置された一対の開孔を有し、一つのリンクの組の一組の開孔は、隣接するリンクの組の一組の開孔と横方向に整列して配置されており、各ガイドリンクは、 a.底部と、 b.間隔をあけて配置されかつ上方に延びる一対のつま先部とを備え、 b′.前記つま先部は、開孔を囲むとともに、外側フランク面と、丸いクロッチ部で連結された内側フランク面とを有し、クロッチ部の基部が開孔最上部の下方まで延びており、内側リンクがある厚みおよび硬度を有している点で一致するものの、 以下の点において相違する。 ウ.訂正発明5では、ガイドリンクが、内側リンクの降伏荷重の約半分の降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みより薄いある厚みと、内側リンクの硬度より低いある硬度とを有しているのに対し、甲第1号証に記載されたものでは、ガイドリンクの板厚を内側リンクの板厚の1/2まで薄くすることは記載されているものの、ガイドリンク及び内側リンクの降伏荷重及び硬度についての記載がない点。 そこで、上記相違点ウについて検討すると、 一般的に、同一の形状及び材質を有するリンク部材は、その板厚を1/2にすれば降伏荷重も約1/2になることはいえるとしても、甲第1号証には、ガイドリンクの板厚を内側リンクの板厚の1/2まで薄くすることが記載され、また、別の箇所に、ガイドリンクと内側リンクを同じ形状にしてもよいことは記載があるものの、 ガイドリンクと内側リンクを同じ形状にしたものにおいてガイドリンクの板厚を内側リンクの板厚の1/2まで薄くすることは記載されていないこと、そして、ガイドリンクまたは内側リンクの降伏荷重に関連してそれらの硬度を異なるものにすることについての記載もないことより、甲第1号証には、上記相違点ウに係る訂正発明5の構成である、ガイドリンクが、内側リンクの降伏荷重の約半分の降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みより薄いある厚みと、内側リンクの硬度より低いある硬度とを有していることが記載されているものとすることはできない。 また、甲第3号証には、ガイドリンクと内側リンクの剛性と関連して材質を変更することについての記載はあるものの、該材質とガイドリンクまたは内側リンクの降伏荷重との関連については記載がなく、そして、甲第2及び4号証においても、 上記相違点ウに係る訂正発明5の構成について記載されていない。 したがって、上記相違点ウに係る訂正発明5の構成は、甲第2乃至4号証に記載されたものから、当業者が容易に想到し得たものとも認められない。 よって、訂正発明5は、甲第1又は2号証に記載された発明であるとも、甲第1及び2乃至4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとも認められない。 (B-3)訂正発明6乃至8について訂正発明6と甲第1号証に記載された発明とを比較すると、両者は、 実質的にすべてのリンクが実質的に同一のピッチ長を有している動力伝達用チェーンの製造方法であって、 a.無端状のチェーンを形成するように複数のチェーンリンクを連結することを備えており、 前記チェーンリンクは、 i.間隔を隔てて配置されかつ第1のガイドリンクピッチを定める一対の開孔を備えるとともに、各開孔を囲みかつクロッチ部で連結された一対のつま先部を有する複数の側部ガイドリンクと、 ii.少なくともその一部がガイドリンク間に配置され、間隔を隔てて配置されかつ第1の内側リンクピッチを定める一対の開孔をそれぞれ有する複数の内側リンクと、 iii.そのうちの一つが各ガイドリンクの対向する開孔内で支持されている点で一致するものの、以下の各点において相違する。 エ.訂正発明6では、第1のガイドリンクピッチと異なる第2のガイドリンクピッチと、第1の内側リンクピッチと異なりかつ第2のガイドリンクピッチと実質的に等しい第2の内側リンクピッチとが得られるように、内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけ、これにより、ガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させて各列のガイドリンクおよび内側リンクの塑性伸びを同じにしいるのに対し、甲第1号証に記載されたものでは、そのようなプリストレスについての記載がない点。 オ.訂正発明6では、チェーンリンクが、各々内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているガイドリンクを連結する枢支部材とを含んでおり、プリストレス後に各枢支部材が実質的に互いに平行に配列されているのに対し、甲第1号証に記載されたものでは、各々内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているガイドリンクを備えたチェーンリンクにプレストレスをかけることについの記載がない点。 そこで、上記各相違点について検討すると、 ・相違点エについて上記「(B-1)訂正発明1乃至4について」の相違点イにおいての検討と同様に、甲第1号証に記載されたサイレントチェーンは、「内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけ、これにより、ガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させて」いるものとすることはできないことより、甲第1号証に記載されたものが、上記相違点エに係る訂正発明6の構成を有しているものとすることはできない。 また、甲第2乃至4号証においても、上記相違点エに係る訂正発明6の構成について記載されていない。 したがって、上記相違点エに係る訂正発明6の構成は、甲第2乃至4号証に記載されたものから、当業者が容易に想到し得たものとも認められない。 ・相違点オについて上記「(B-1)訂正発明1乃至4について」の相違点アにおいての検討と同様に、甲第1号証に記載されたサイレントチェーンは、「各々内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているガイドリンク」を備えているものとすることはできないことより、甲第1号証に記載されたものが、上記相違点オに係る訂正発明6の構成を有しているものとすることはできない。 また、甲第2乃至4号証においても、上記相違点オに係る訂正発明6の構成について記載されていない。 したがって、上記相違点オに係る訂正発明6の構成は、甲第2乃至4号証に記載されたものから、当業者が容易に想到し得たものとも認められない。 よって、訂正発明6は、甲第1又は2号証に記載された発明であるとも、甲第1及び2乃至4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとも認められない。 また、訂正発明7及び8は、訂正発明6を引用して、更に構成を付加するものであるから、訂正発明6の理由と同様な理由により、甲第1又は2号証に記載された発明であるとも、甲第1及び2乃至4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとも認められない。 (B-4)訂正発明9について訂正発明9と甲第1号証に記載された発明とを比較すると、両者は、 複数のチェーンリンクを有する動力伝達用チェーンにおいて、該各チェーンリンクが、 a.間隔をあけて配置されかつガイドリンクピッチを定める一対の開孔を有する一対のガイドリンクと、 b.少なくともその一部がガイドリンク間に配置されるとともに、間隔をあけて配置されかつ内側リンクピッチを定める一対の開孔をそれぞれ有する複数の内側リンクと、 c.ガイドリンクを連結する枢支部材とを備え、 c′.一つの枢支部材が各ガイドリンクの対向する開孔内に支持されるとともに、 各内側リンクの少なくとも一つの開孔内を挿通している点で一致するものの、以下の各点において相違する。 カ.訂正発明9では、各ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているのに対し、甲第1号証に記載されたものでは、各ガイドリンク及び内側リンクの降伏荷重についの記載がない点。 キ.訂正発明9では、ガイドリンクピッチが、前記内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重をチェーンにかけることによりガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させるプリストレス運転後に内側リンクピッチに実質的に等しくなっているのに対し、甲第1号証に記載されたものでは、そのようなプリストレス運転についての記載がない点。 そこで、上記各相違点について検討すると、 ・相違点カについて上記「(B-1)訂正発明1乃至4について」の相違点アにおいての検討と同様に、甲第1号証に記載されたサイレントチェーンは、上記相違点カに係る訂正発明9の構成である、「各ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有している」ものとすることはできない。 また、甲第2乃至4号証においても、上記相違点カに係る訂正発明9の構成について記載されていない。 したがって、上記相違点カに係る訂正発明9の構成は、甲第2乃至4号証に記載されたものから、当業者が容易に想到し得たものとも認められない。 ・相違点キについて上記「(B-1)訂正発明1乃至4について」の相違点イにおいての検討と同様に、甲第1号証に記載されたサイレントチェーンは、「内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重をチェーンにかけることによりガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させるプリストレス」されたものとすることはできないことより、甲第1号証に記載されたものが、上記相違点キに係る訂正発明9の構成を有しているものとすることはできない。 また、甲第2乃至4号証においても、上記相違点キに係る訂正発明9の構成について記載されていない。 したがって、上記相違点キに係る訂正発明9の構成は、甲第2乃至4号証に記載されたものから、当業者が容易に想到し得たものとも認められない。 よって、訂正発明9は、甲第1又は2号証に記載された発明であるとも、甲第1及び2乃至4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとも認められない。 (3)独立特許要件についてのまとめ以上のとおりであるから、訂正発明1乃至9は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるとも、甲第1号証及び甲第2号証乃至甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとも認められない。 また、他に訂正発明1乃至9が、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。 なお、請求人は、平成11年11月9日付けの弁駁書において、上記請求項1に係る訂正により限定される「チェーン組立後に前記内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけ、これにより、ガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形させて各列のガイドリンクおよび内側リンクの塑性伸びを同じにし、その結果、連結ピンの曲がりを防止して各連結ピンを実質的に互いに平行に配列させるようにしている」は、「チェーンの製造方法」に係る事項であり、従って新たな請求項1は、従前の請求項1に係る「動力伝達用チェーン」に、「その製造方法」を加えたものであって、その発明の属するカテゴリーが、物なのか製造方法なのか不明瞭であり、更に、該限定事項において、「その結果、連結ビンの曲がりを防止して各連結ピンを実質的に互いに平行に配置させるようにしている」との記載は、上記製造方法による結果、即ち効果を記載しているものであって、不明瞭な記載である。従って、請求項1〜4に係る特許請求の範囲は、発明の属するカテゴリーが不明であり、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしておらず、該訂正後における特許請求の範囲により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができない旨の主張をしている。 しかし、上記訂正により請求項1に方法的な記載及び効果的な記載が加えられているものの、「動力伝達用チェーン」において、前者は、「チェーンにプリストレスをかけ、これにより、ガイドリンクおよび内側リンクを塑性変形」させたもの、 後者は、その結果として「各連結ピンを実質的に互いに平行に配列」したものという構成を限定する記載とみることができるので、上記訂正により「動力伝達用チエーン」としての構成が特定できないほどのものではなく、直ちに、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないとすることはできないので、請求人の主張は採用できない。 さらに、請求人は、平成12年2月16日付けの上申書において、 ア.請求項9は、ガイドリンクの構成の限定はなく、単に「各ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重より低い降伏荷重を有し」と規定されているだけであり、また、 プリストレス運転後にガイドリンクピッチと内側リンクピッチとが実質的に等しくなる旨の限定はあるが、プリストレス前のガイドリンク及び内側リンクのピッチ関係及び塑性伸び関係の規定はなく、請求項9による(プリストレス後)のチェーンは、本件特許明細書に記載の従来技術(段落番号[0017]〜[0022])と全く同じであって、該請求項9に係る発明の外延が不明確であると主張しているが、 上記従来技術のものは、上記「(B-4)訂正発明9について」の甲第1号証との比較と同様に、そこでの相違点カ及びキにおける請求項9に係る発明の構成を有するものではないことより、請求項9に係る発明は、従来技術と同じものではなく、 イ.甲第2号証に関し、「剛性の減少」は、塑性域での現象を意味するものであり、プレストレスが、塑性域即ち引張限度(降伏点)以上の荷重(降伏荷重より大きい荷重)を作用させることの証左となる旨の主張をしているが、 これは請求人独自の見解であり、甲第2号証の他の記載に塑性域または引張限度(降伏点)に係る記載はなく、「剛性の減少」は、塑性域での現象を意味すると解する合理的な理由はなく、 ウ.プレストレス(予荷重)が、降伏荷重より大きな荷重を作用させることは、例えば甲第4号証に示されるように、技術常識であり、降伏応力の2倍以上の予応力が作用することが示されている旨主張しているが、 甲第4号証にはローラリンクプレートの穴底部の局部的な応力を問題とするものであり、請求人の主張するようなリンクプレート自体に塑性伸びを生じさせるような予荷重を掛けるものとは認められないことより、 請求人の主張はいずれも採用できない。 よって、訂正各発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 4.まとめ以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法134条第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とし、同条第5項で準用する同法126条第2項乃至第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 III.無効理由について本件特許第2632656号の請求項1乃至9に係る発明は、前記訂正が認められることから、前記訂正明細書及び図面の記載からみて、前記訂正発明1乃至9としたものと認める。 そして、無効理由についての当審の判断は、前記「3.独立特許要件について」において検討したとおりである。 VI.むすび以上のとおりであるから、請求人の主張する前記無効理由及び提出した証拠方法によっては、本件請求項1乃至9に係る発明の特許を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 平成12年3月29日 |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 田中昌利 |