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関連審決 不服2001-9316
関連ワード 容易に発明 /  技術的特徴 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の理由 /  請求の範囲 /  減縮 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 72号 審決取消請求事件
原告A
訴訟代理人弁理士 宮田信道
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 鈴木憲子、田中弘満、山口由木、高木進、林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/10/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2001-9316号事件について平成13年12月25日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成9年5月29日、名称を「木造建築部材の接合装置」とする発明(本願発明)について特許出願をしたが(平成9年特許願第140167号)、平成13年4月20日拒絶査定があったので、同年6月6日審判を請求し(不服2001-9316)、平成13年7月3日付け手続補正書による補正をしたが(本件補正)、平成13年12月25日、本件補正を却下する旨の決定(補正却下決定)とともに、本件審判の請求は成り立たないとの審決があり、その謄本は平成14年1月15日原告に送達された。
2 本願発明の要旨 (1) 本件補正後のもの【請求項1】 木造建築の柱、桁、梁などの互いに接合する一方の主幹部材10から突設する金具1に相手の結合部材20を締結手段30で連結する木造建築部材の接合装置において、前記金具1は、結合部材20の幅よりも狭く形成され主幹部材10の当接面に平行して接する支持板2と、該支持板2より突出する複数の接合板3とからなり、前記支持板2には主幹部材10内に挿入する複数の突起部4を備え、
前記結合部材20に金具の支持板2が収まる支持板2の厚み分の凹部12を設け、
結合部材20に金具の各接合板3が嵌る係合溝21を備え、前記金具1の支持板2に設けた突起部4が、支持板2の接合板3を突設している面側を開放した空洞体に形成し、該突起部4内に差し通すボルトの頭ないしナットが収まるように形成してあることを特徴とする木造建築部材の接合装置。
(2) 本件補正前のもの【請求項1】 木造建築の柱、桁、梁などの互いに接合する一方の主幹部材(10)から突設する金具(1)に相手の結合部材(20)を締結手段(30)で連結する木造建築部材の接合装置において、前記金具(1)は、結合部材(20)の幅よりも狭く形成され主幹部材(10)の当接面に平行して接する支持板(2)と、該支持板(2)より突出する複数の接合板(3)とからなり、前記支持板(2)には主幹部材(10)内に挿入する複数の突起部(4)を備え、前記結合部材(20)に金具の支持板(2)が収まる凹部(12)を設け、結合部材(20)に金具の各接合板(3)が嵌る係合溝(21)を備えていることを特徴とする木造建築部材の接合装置。 【請求項2】 前記金具(1)の支持板(2)に設けた突起部(4)が、支持板(2)の接合板(3)を突設している面側を開放した空洞体に形成し、該突起部(4)内に差し通すボルトの頭ないしナットが収まるように形成してあることを特徴とする請求項1に記載の木造建築部材の接合装置。 (3) 補正却下決定の理由の要点 (3)-1 本件補正における特許請求の範囲の補正は、特許法第17条の2第3項第2号に規定する、特許請求の範囲減縮を目的とするものであるが、補正後における特許請求の範囲の請求項1に係る発明(補正後の本願発明)が特許出願の際独立して特許を受けることができるかについて検討する。
特開昭59-217850号公報(決定引用例1)には、第2頁左上欄第5行から同右下欄第12行及び第1,5図の記載を参照すると、「木造建築の柱、桁、梁などの互いに接合する一方の木部材から突設する接合金具に被接合木部材を受ボルトで連結する木造建築部材の接合装置において、接合金具は、被接合木部材の幅よりも狭く形成され一方の木部材の当接面に平行して接する背部と、背部の両側を直角方向に折り曲げ平行に形成された一対の貫入部とからなり、背部には複数のボルト孔が穿設してあり、被接合木部材にボルトの頭又はナットのスペース部を形成してここに接合金具の背部が収まるようにしてあるとともに、被接合木部材に接合金具の貫入部が嵌る貫入溝を形成してある木造建築部材の接合装置」が記載されている。
また、実願平2-16995号(実開平3-108104号)のマイクロフィルム(引用例2)には、第3頁第8行から第4頁第16行及び第1,3図の記載を参照すると、「柱から突設する金具に梁を釘螺で連結する木造建築部材の建築用ほぞ付き梁受け金具において、金具の背板より左右の側板が突出しているとともに、背板には、柱に穿ったほぞ穴に適合される、側板側を開放して形成された中空のほぞ状突部を突設し、ほぞ状突部に螺入又は打ち込まれる螺子又は釘の頭が収まるように形成してある」ことが記載されている。
(3)-2 補正後の本願発明と決定引用例1記載の発明とを対比すると、決定引用例1記載の発明の「一方の木部材」、「接合金具」、「被接合木部材」、「受ボルト」、「背部」、「貫入部」、「スペース部」、「貫入溝」は、それぞれ、補正後の本願発明の「(一方の)主幹部材」、「金具」、「(相手の)結合部材」、「締結手段」、「支持板」、「接合板」、「凹部」、「係合溝」に相当するから、両者は、「木造建築の柱、桁、梁などの互いに接合する一方の主幹部材から突設する金具に相手の結合部材を締結手段で連結する木造建築部材の接合装置において、前記金具は、結合部材の幅よりも狭く形成され主幹部材の当接面に平行して接する支持板と、該支持板より突出する複数の接合板とからなり、前記結合部材に金具の支持板が収まる凹部を設け、結合部材に金具の各接合板が嵌る係合溝を備えた木造建築部材の接合装置」の点で一致し、下記の点で相違している。
a.支持板には、補正後の本願発明では、主幹部材内に挿入する複数の突起部を備え、突起部は、支持板の接合板を突設している面側を開放した空洞体に形成し、該突起部内に差し通すボルトの頭ないしナットが収まるように形成してあるのに対し、決定引用例1記載の発明では、複数のボルト孔が穿設してあるだけである点。
b.凹部が、補正後の本願発明では、支持板の厚み分であるのに対し、決定引用例1記載の発明では、ボルトの頭又はナットのスペース部となる大きさである点。
相違点aについて検討するため、引用例2をみると、引用例2記載の発明の「柱」、「梁」、「釘螺」、「建築用ほぞ付き梁受け金具」、「背板」、「側板」、「中空」、「ほぞ状突部」、「螺入又は打ち込まれる螺子又は釘の頭」は、
それぞれ、補正後の本願発明の「(一方の)主幹部材」、「(相手の)結合部材」、「締結手段」、「接合装置」、「支持板」、「接合板」、「空洞体」、「差し通すボルトの頭ないしナット」に相当するから、引用例2には、上記相違点aにおける補正後の本願発明と同様な構成が記載されており、これを、決定引用例1の背部に採用することは、当業者が容易になし得る程度のことである。
次に、相違点bについて検討すると、決定引用例1記載の発明におけるスペース部も、ここに接合金具の背部が収まるようにしてあり、決定引用例1記載の発明においては、ボルトの頭又はナットのスペースを被接合木部材側に設けたので接合金具の背部の厚み分より大きくなっているが、補正後の本願発明や引用例2記載の発明のように、ボルトの頭又はナットのスペースを一方の木部材側に設けることにより、接合金具の背部の厚み分とすることは、設計的事項にすぎない。
そして、補正後の本願発明によってもたらされる効果も、決定引用例1及び引用例2に記載された発明から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。
(3)-3 したがって、補正後の本願発明は、決定引用例1及び引用例2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により出願の際独立して特許を受けることができない。
(4) 審決の理由の要点 本件補正前本願発明1及び2は、実願平5-64224号(実開平6-83803号)のCD-ROM(審決引用例1)及び実願平2-16995号(実開平3-108104号)のマイクロフィルム(引用例2)に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
原告主張の審決取消事由
補正後の本願発明は、決定引用例1及び引用例2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとした補正却下決定の認定判断は誤りであるから、審決は本願発明の要旨の認定を誤ったこととなり、この誤りは審決の結論に影響を及ぼすから、審決は取り消されるべきである。
1 火災のとき、人の生命を危険にさらす原因の一つとして火災による建物の倒壊がある。本願発明は、木造建築部材の金具を用いた接合部分を火災時においても建物が倒壊しないように工夫したものである。
本願発明は、主幹部材10内に挿入しかつボルトの頭及びナットが収まる複数の突起部4を備えた支持板2と、結合部材20に設けた支持板2の厚み分の凹部12と、を巧みに組み合わせて両接合部材10、20及び金具1を隙間なく緊密に連結・接合する構成であるのに対して、決定引用例1は、木部材(主幹部材)内に挿入するボルトのボルト孔2を備えた背部(支持板)1と、被接合木部材(結合部材)に設けたボルト頭及びナットが収容されるスペース部16と、を組み合わせて両部材を接合する構成であることから、本願発明における前記凹部12と決定引用例1における前記スペース部16とは、その技術的意義が明らかに相違している。
すなわち、本願発明の凹部12は、支持板2の厚み分に形成することによって金具1を介して主幹部材10に結合部材20を隙間なく緊密に接合できるための役割を果たし、これが火災時に金具による両部材の接合を保持するための耐火被覆構造の重要な構成要件となっているのに対し、決定引用例1のスペース部16は、ボルト頭又はナットを収容するためのものであって(決定引用例1の第2頁左欄下第12行〜第14行)、スペース部16内においてボルト頭やナットとの間に上下に貫通する空隙ができ、これが火を通す煙突状空隙となって金具を直接火にさらし金具による両部材の保持力を著しく弱める原因となり、よって、両者の構成上の相違から派生する火災に対する技術的効果に際立った違いがある。
また、引用例2においては、結合部材(梁)の端部を周囲から被うような箱状の金具で結合部材をうける構造であって、耐火性のことについては考慮していない表面露出構造となっている。この点、本願発明は、主幹部材10に結合部材20を金具1によって炎が入り込むような隙間なく緊密に締結部材30、31で固定できる耐火被覆の接合構造となっている。このように本願発明では、金具1が木材によって完全に被覆されている構成であるのに対して、引用例2においては、袖片4、
4、側板5、5及び底板6が外部に現れていて金具主体1を構成する表面のほとんどが露出する構成であり、木造建築部材の接合装置として重要な課題である火災に対しての技術的工夫について雲泥の差異があり、両者は技術思想の根底を異にする。
2 地震や台風においては、建物に対してあらゆる角度から揺れによる曲げモーメントやねじりの力が加わるため、木造建築部材の各接合部分は、これらの力に十分耐え得る堅牢性を有していることが必要である。
そこで本願発明は、この接合強度の信頼性を高めるという基本理念に基き、金具の接合板3、3を結合部材の係合溝21に嵌め込むとともに結合部材20に支持板2の厚み分の凹部12を設けて両接合部材10、20及び金具1を間隙なく密着し、しかも支持板2には、主幹部材10内に挿入しかつボルトの頭及びナットが収まる突起部4を複数設けることによって、全方向に対して堅牢で位置ずれの生じない、より強固な接合装置に構成したことを技術的特徴とするものである。
これに対して決定引用例1のものは、背部1(支持板2)が収まる被接合木部材(結合部材20)に設けたスペース部16(凹部12)は、ボルトの頭やナットの逃がしのために溝となっていて、本願発明の凹部12よりも大きく欠損しており、
かつ木部材(主幹部材10)と被接合木部材(結合部材20)との間に間隙ができる構造になっている。したがって、決定引用例1のものは、被接合木部材の接合部分の強度が本願発明のものに比べて構造上強くないことは明らかである。
このように、本願発明は、主幹部材10内に挿入しかつボルトの頭及びナットが収まる突起部4を複数備えた支持板2と、結合部材20に設けた支持板2の厚み分の凹部12と、を巧みに組み合わせて両接合部材10、20及び金具1を隙間なく緊密に連結・接合する構成であるのに対して、決定引用例1は、木部材(主幹部材)内に挿入するボルトのボルト孔2を備えた背部(支持板)1と、被接合木部材(結合部材)に設けたボルト頭及びナットが収容されるスペース部16と、を組み合わせて両部材を接合する構成であり、この本願発明における前記の組合せによる構成は決定引用例1のものに比し地震や台風等に対しても格段に優れている。
引用例2のものは、金具にほぞ状突部6を一個備えているが、これは柱7に金物を取り付ける際の位置合わせを主目的とするものであって、回転方向のずれに対しては、ほぞ状突部6とは関係のない釘孔hに打ち込む釘で回転を止めている。これに対して本願発明における複数個の突起部4は、金具1を介して主幹部材10に固定される結合部材20の全方向に対する位置ずれ防止の作用を果たすことを主目的として設けてあるものである。
したがって、本願発明における複数個の突起部4と引用例2のほぞ状突部6とは、違う作用を果たすことを目的とするものであって、両者はその技術的意義を異にしており、技術的に同一視ができない。
3 被告は、本願発明が、火災や台風及び地震等の災害に対して効果的に発揮できるように「木造建築部材の接合装置」として独創的な工夫を凝らしたものである、という課題や目的については何ら明細書に記載されていないと主張する。
しかしながら、補正明細書中において、【0003】に「金具を柱に単にボルト止めしたものであると、梁には常に曲げモーメントが加わっている・・・ボルトが緩み、金具がずれ動き出すという問題があった。」と記載し、引き続いて【0004】に「長年にわたりずれ動くことなく、確実な固定状態を維持することができるように工夫したものである」と課題を提起し、さらに【0016】及び【0017】に、木材の木痩せが生じても金具がずれることなく、金具を長期にわたりその固定状態が安定し、主幹部材と結合部材との接合状態に対して信頼性を高め得るものであり、結合部材の端面が主幹部材及び支持板に隙間なく密接することができるものである、と発明の効果の欄に記載している。この接合状態の信頼性は、例えば、台風や地震等の自然災害に対しても遺憾なく発揮されるということを含めた意味合いをも内在している概念である。
火災の件については、金具で木材を被覆する構造の引用例2が特許庁の審査において引用文献として提示されたため、本願発明の木材で金具を被覆する構造との根本的な技術上の差異を明確にする趣旨から火災の場合における接合金具の強度の優劣を示したものである。確かに明細書中には火災に関する記載は存在しないが、平成6年以降の明細書中に新規事項を追加する補正が認められない状況では、引用文献との作用及び効果の違いを、意見書や審判請求の理由において、さらには本訴において主張することは、発明を保護する特許制度の理念から認められるべきである。
4 被告は、決定引用例1記載の発明におけるスペース部を、引用例2記載の発明のように、ボルトの頭又はナットのスペースを一方の木部材側に設けることにより、接合金具の背部の厚み分とすることは、設計的事項にすぎない、と主張している。
しかし、引用例2に記載のものは木部材を箱状の接合金具で覆う構造であり、決定引用例1は金具の一対の貫入部を被接合木部材のスペース部及び貫入溝に差し込んだ構造であって、両者のその基本構造は著しく異なっている。このように接合の基本構造に大きな違いのある場合に、引用例2を決定引用例1に適用してボルトの頭又はナットの収まるスペースを一方の木部材側に設けることは、当業者といえども容易ではない。まして、「接合金具の背部の厚み分とすることは」、結合部材の端面が主幹部材及び支持板に隙間なく密接することに伴う本願発明の技術的効果を勘案すれば、被告主張のように「設計的事項にすぎない」として安易に一蹴するような軽い内容ではない。
5 被告は、「引用例2のほぞ状突部を決定引用例1の複数のボルト孔が穿設してある背部に採用することは、当業者が容易になし得る程度のことである」旨を主張している。
しかしながら、引用例2のほぞ状突部は、金具に一個備えているだけのものであって、回転方向のずれに対しては機能・作用を発揮するものではない。また、引用例2記載の発明の内容中に前記ほぞ状突部が全方向のずれに対して機能を発揮する旨の示唆があるわけでもない。したがって、全方向のずれ防止機能を果たす本願発明の複数個の突起部とは前記機能・作用において共通性を有していない引用例2の前記ほぞ状突部を、決定引用例1の複数のボルト孔に代えて背部に適用することは、当業者といえども容易に想到できるものではない。
6 以上述べてきたように、本願発明の技術的特徴である各構成要素の有機的結合、特に支持板2が隙間なく収まる凹部12と複数の突起部4との有機的結合から派生してくる前述した顕著な作用効果を踏まえて判断すれば、決定引用例1及び引用例2の記載内容からは、本願発明の前記技術的特徴を到底にうかがい知ることができない。
したがって、木造建築部材の接合装置として極めて重要な火災に対する建物の非倒壊性及び地震や台風等の自然災害に対する堅牢性を顧慮することなく、本願発明の各構成要素に該当する要件を決定引用例1の記載内容及び引用例2の記載内容から機械的にそれぞれ抽出して当てはめ、合致しない相違点は記載内容から当業者が容易に予測できるとした補正却下決定の理由は、本願発明の前述の技術的特徴を十分に吟味したものではなく、審理不尽といわざるを得ない。
審決取消事由に対する被告の反論
1 本願明細書の段落【0003】、【0004】(出願当初から補正はない。)の【発明が解決しようとする課題】、作用(出願当初から補正はない。)の記載によれば、金具が当接する面が木材の木痩せによって変形しても、突起部によってずれを防止することができ、金具をボルトで締結しても、結合部材を長期にわたり安定した状態で接合することができることを目的としたものであるとはいえるが、原告の主張する、「本願発明は、火災や台風及び地震等の災害に対して効果的に発揮ができ得るように「木造建築部材の接合装置」として独創的な工夫を凝らしたものである。」という課題や目的については記載されていない。また、「取り付け作業も簡便に行い得る」点については、当初明細書の段落【0026】に「一枚の接合板であるから、これに結合部材を組み付ける操作が容易になる」という効果が記載されている(補正明細書では削除されている。)だけであるし、この効果は、決定引用例1に記載された発明でも同じことがいえる。
2 補正却下決定においては、「凹部が、補正後の本願発明では、支持板の厚み分であるのに対し、決定引用例1記載の発明では、ボルトの頭又はナットのスペース部となる大きさである点。」を、補正後の本願発明と決定引用例1記載の発明との相違点bとし、これについて、「決定引用例1記載の発明におけるスペース部も、ここに接合金具の背部が収まるようにしてあり、決定引用例1記載の発明においては、ボルトの頭又はナットのスペースを被接合木部材側に設けたので接合金具の背部の厚み分より大きくなっているが、補正後の本願発明や引用例2記載の発明のように、ボルトの頭又はナットのスペースを一方の木部材側に設けることにより、接合金具の背部の厚み分とすることは、設計的事項にすぎない。」と判断しており、この判断に誤りはない。
3 本願発明の金具と、引用例2記載の発明の建築用ほぞ付き梁受け金具とは、
共に、主幹部材(柱)と結合部材(梁)を締結手段(釘螺)で連結する木造建築部材の接合装置を構成する構成要素であり、補正却下決定において、引用例2は、補正後の本願発明と決定引用例1記載の発明との相違点aを検討するため、「柱(主幹部材)から突設する金具に梁(結合部材)を釘螺(締結手段)で連結する木造建築部材の建築用ほぞ付き梁受け金具(接合装置)において、金具の背板(支持板)より左右の側板(接合板)が突出しているとともに、背板には、柱に穿ったほぞ穴に適合される、側板側を開放して形成された中空(空洞体)のほぞ状突部(突起部)を突設し、ほぞ状突部に螺入又は打ち込まれる螺子又は釘の頭(差し通すボルトの頭ないしナット)が収まるように形成してある」点を引用し、この構成を、決定引用例1の複数のボルト孔が穿設してある背部に採用することは、当業者が容易になし得る程度のことであると、判断したものである。そして、複数のボルト孔各々に引用例2の構成を採用すれば、本願発明による木造建築部材の接合装置と同じく、「金具の支持板に主幹部材に突入する突起部を備えているものであるから、突起部によって木材の木痩せが生じても金具がずれることがなく、金具を長期にわたりその固定状態が安定し、主幹部材と結合部材との接合状態に対して信頼性を高め得る」という作用効果を奏することとなる。
当裁判所の判断
1 甲第11号証によれば、平成13年7月3日付け手続補正書により補正された明細書(補正明細書)には、次の記載があることが認められる。
【発明の属する技術分野】 本発明は、木造建築において主幹部材となる柱に結合部材となる桁又は梁を接合する際、あるいは主幹部材となる桁に結合部材となる梁を接合する際などに適応される木造建築部材の接合装置に関する。
【従来の技術】 この種の装置として実開平6-83803号公報によって開示してあり、その主要な構成は、断面コ字型をなす金具の背面部を主幹部材にボルト止めし、・・・主幹部材に結合部材を接合するものである。
【発明が解決しようとする課題】 木材は周知のように、木材には年輪による組織の密な部分と粗の部分とがあり、
粗の部分が酸化し易く、経時変化に伴って、例えば四角の柱がその各角部が丸く変形し、これを一般に木痩せとも称されているが、このように木痩せ現象を避けることができないものである。これに対して上記公報の考案のように、金具を柱に単にボルト止めしたものであると、梁には常に曲げモーメントが加わっていると共に、
木痩せにより柱のボルト頭及びナットが当接している面が変形し、ボルトが緩み、
金具がずれ動き出すという問題があった。
本発明は以上の問題を解決することにあり、金具をボルトで締結するが長年にわたりずれ動くことがなく、確実な固定状態を維持することができるように工夫したものである。
【作用】 以上のように、金具を主幹部材に固着すると共に、金具に主幹部材内に突入する突起部を備えていることから、金具が当接する面が木材の木痩せによって変形しても、突起部によってずれを防止することができ、結合部材を長期にわたり安定した状態で接合することができるようになる。
【発明の効果】 本発明による木造建築部材の接合装置によれば、金具の支持板に主幹部材に突入する突起部を備えているものであるから、複数の突起部によって木材の木痩せが生じても金具がずれることがなく、金具を長期にわたりその固定状態が安定し、主幹部材と結合部材との接合状態に対して信頼性を高め得るものである。
また結合部材に、金具の支持板が嵌まる凹部を設けたものであるから、結合部材の端面が主幹部材及び支持板に隙間なく密接することができるものである。
2 上記記載によれば、補正明細書に記載された発明(補正後の本願発明)は、
木造建築部材の接合装置において、実開平6-83803号公報(審決引用例1。
甲第1号証)に示される従来技術のように、金具を柱に単にボルト止めしたものにおいては、木材の木痩せ現象により、ボルトが緩み、金具がずれ動き出すという問題が生じる、という課題を解決するために、補正明細書の請求項1に記載された構成、特に、金具に主幹部材内に突入する突起部を備えて固着することにより、複数の突起部によって木材の木痩せが生じても金具がずれることがなく、金具を長期にわたりその固定状態が安定し、主幹部材と結合部材との接合状態に対して信頼性を高め得る、また、結合部材に、金具の支持板が嵌まる凹部を設けたものであるから、結合部材の端面が主幹部材及び支持板に隙間なく密接することができる、という作用効果を奏するものであると認められる。
しかしながら、上記記載によれば、原告の主張する、火災や地震及び台風等の災害に対して十分に耐え得る信頼性の高い木造建築の軸組構造を提供することができ、しかも、取り付け作業も簡便であるという、顕著な作用効果については、補正明細書に記載がないし、示唆されていると認めることもできない。
3 原告は、補正却下決定がした相違点aの判断に関し、「引用例2のものは、
金具にほぞ状突部6を一個備えているが、これは柱7に金物を取り付ける際の位置合わせを主目的とするものであり、補正後の本願発明における複数個の突起部4は、金具1を介して主幹部材10に固定される結合部材20の全方向に対する位置ずれ防止の作用を果たすことを主目的とするものであるから、両者は違う作用を果たすことを目的とするものであって、技術的意義を異にしており、技術的に同一視できないことは明らかである」とし、「引用例2のほぞ状突部は、回転方向のずれに対しては機能・作用を発揮するものではなく、前記ほぞ状突部が全方向のずれに対して機能を発揮する旨の示唆はないから、引用例2のほぞ状突部を、決定引用例1の複数のボルト孔に代えて背部に適用することは、当業者といえども容易に想到できるものではない」旨主張する。
しかしながら、決定引用例1に記載された接合金具と、引用例2に記載された発明の建築用ほぞ付き梁受け金具とは、共に、一方の木部材(柱)と被接合木部材(梁)を受ボルト(釘螺)で連結する木造建築部材の接合装置を構成する構成要素という共通した技術分野に属するものである。したがって、引用例2における金具のほぞ状突起6と補正後の本願発明における複数個の突起部4とが、違う作用を果たすことを目的とするものであって、技術的意義を異にしており、技術的に同一視することができないとしても、そのことは、引用例2に記載された構成を、決定引用例1記載の発明に適用することを妨げる要因とはならないというべきである。さらに、引用例2に記載された発明における、建築用ほぞ付き梁受け金具のほぞ状突起は、柱に金具を強固に結合し、耐荷力を大とするために採用された構成であり、
決定引用例1記載の発明においても、耐荷力の向上という課題があることは自明のことであるから、引用例2に記載されたほぞ状突起の構成を、決定引用例1記載の発明の複数のボルト孔に適用する動機付けはあるものと認められる。
以上説示したところからすると、補正却下決定がした相違点aの判断に誤りはない。
4 原告は、補正却下決定がした相違点bの判断に関して、「決定引用例1のスペース部16は、ボルトの頭やナットの逃がしのために設けた溝となっており、補正後の本願発明の凹部12よりも大きく欠損しているから、接合部分の強度が補正後の本願発明のものに比べて構造上強くない、補正後の本願発明における凹部12とは、その技術的意義が明らかに相違している」、「引用例2は木部材を箱状の接合金具で覆う構造であり、一方決定引用例1は金具の一対の貫入部を被接合木部材のスペース部及び貫入溝に差し込んだ構造であって、両者のその基本構造は著しく異なっているから、引用例2を決定引用例1に適用してボルトの頭又はナットの収まるスペースを一方の木部材側に設けることは、当業者といえども容易ではなく、
まして、スペース部を接合金具の背部の厚み分とすることは設計的事項ではない」旨主張する。
しかしながら、決定引用例1記載の発明に引用例2に記載されたほぞ状突起の構成を適用することが容易であることは、前示相違点aの判断に関して示したとおりである。原告の主張は、決定引用例1記載の発明において、被接合木部材にボルトの頭又はナットのスペース部を形成していることを前提としたものであるが、決定引用例1記載の発明に引用例2を適用した後の構成においては、被接合木部材にボルトの頭又はナットのスペース部を形成する必要がないことは明らかであり、さらに、被接合木部材の端面が一方の木部材及び背部に隙間なく密接し、隙間をなくすことが好ましいことも自明である(審決引用例1(甲第1号証)の8頁【0012】にも、接合部分の隙間を覆う機能及び火止め部材として機能する化粧受け木300が記載されている。)。それゆえ、決定引用例1記載の発明におけるスペース部を、ボルトの頭又はナットのスペースを一方の木部材側に設けることにより、接合金具の背部の厚み分とすることは設計的事項にすぎない、とした補正却下決定の認定判断は十分に首肯することができる。
以上説示したところによれば、補正却下決定がした相違点bの判断にも誤りがあるということはできない。
結論
以上判断したところによると、補正却下決定に原告主張の誤りがあるということはできず、結局審決にも原告主張の誤りは認められない。よって、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成14年10月17日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実