関連審決 | 不服2000-5552 |
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関連ワード | 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 手続違反 / 容易に想到(容易想到性) / 加工 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
322号
審決取消請求事件
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原告 株式会社タック技研工業 訴訟代理人弁理士 中前 冨士男 被告 特許庁長官太田 信一郎 指定代理人 小池正利 同 鈴木孝幸 同 大橋良三 同 大野克人 同 涌井幸一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/11/12 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2000-5552号事件について平成13年5月30日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成6年4月6日,発明の名称を「電動加工装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(平成6年特許願第93643号。以下「本願出願」という。)をし,平成12年3月28日拒絶査定を受けたので,同年4月19日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを不服2000-5552号として審理し,その結果,平成13年5月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年6月21日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲(別紙図面1参照) 「【請求項1】外側が円筒状ケースとなって内部に電動モータを備え,該電動モータのロータに直結されたスピンドルを先部に有し,後部には前記電動モータの端子ボックスが設けられたモータ本体と, 前記スピンドルの先部に取付けられる工具チャックと, 前記モータ本体の中央に固定されたリング状のピストン,その外側に配置された円筒体,及び該円筒体の両側にそれぞれ設けられ,前記モータ本体を前後動可能に支持し,しかも下部にはねじ孔を穿設した取付け座が形成された前後の脚付きガイドブロックを備えたエアシリンダー部と, 前記後側の脚付きガイドブロックにその前端が取付けられたガイドロッドと, 前記モータ本体に固着され,前記ガイドロッドを摺動移動する回り止めとを有し, 前記前後の脚付きガイドブロックにはそれぞれエア供給口が形成され,更に,前記取付け座は前記前後の脚付きガイドブロックにそれぞれ一体となって形成されていることを特徴とする電動加工装置。」 3 審決の理由 審決は,別紙審決書の写しのとおり,本願発明は,実願昭58-152928号(実開昭60-61105号)のマイクロフィルム(甲第1号証。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。別紙図面2参照。)に,実願平2-112942号(実開平4-70415号)のマイクロフィルム(甲第2号証。以下「刊行物2」という。)に記載された発明及び周知の技術手段を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項に該当し,特許を受けることができない,と判断した。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決は,重大な手続違背を犯しており(取消事由1),本願発明と引用発明1との相違点の一つ(相違点4)についての判断を誤った(取消事由2)ものであり,これらはそれぞれ結論に影響するから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(手続違背) 審決は,「本件発明では,円筒体の両側にそれぞれ設けられ,モータ本体を前後動可能に支持するガイドブロックが,下部にねじ孔を穿設した取付け座が形成された脚付きガイドブロックであり,前記取付け座は前記前後の脚付きガイドブロックにそれぞれ一体となって形成されているのに対して,引用例1記載の発明では,前記ガイドブロックが脚付きガイドブロックではない点。」(審決書6頁)を本願発明と引用発明1との相違点の一つ(相違点4)として認定した上,この相違点について判断するに当たり,「エアシリンダーにおいて,円筒体の両側にそれぞれ設けられるガイドブロックを,下部にねじ孔を穿設した取付け座が形成された脚付きガイドブロックとすることは,例えば,久津見舜一著「空気圧機器と応用回路」第8版 昭和50年11月25日 日刊工業新聞社発行 第127〜130頁(特に,図6・1及び図6・4(1))に示されているように従来周知である。」(審決書7頁)と認定した。しかし,同文献(甲第5号証。以下「甲5文献」という。)は,審決において初めて引用された文献であり,これを事前に原告に通知せずに拒絶の審決の根拠とすることは手続違反である。 甲5文献は,相違点4の判断において用いられたものであり,相違点4に係る本願発明の構成は,本願発明の最大の特徴点であるから,上記手続違反は重大としかいいようがなく,審決は違法である。 なお,甲5文献は,昭和50年に発行された書籍であるので,原告は,これを即座に入手し,その内容を確認することができない。原告が特許庁にそのコピーを請求する手続を取り,そのコピーを入手するまでに,約40日間の日数を要するものであり,その間に審決取消訴訟の訴えの提起期間が経過してしまうのである。 他方,特許庁が甲5文献について拒絶理由通知を発送していれば,原告は,これについて,意見書等を提出することも,明細書及び図面について,特許請求の範囲を含めて,その補正をすることもでき,これによって,特許を取得できる可能性が十分にあったのである。 2 取消事由2(相違点4についての判断の誤り) 審決は,相違点4につき,「電動加工装置において,当該装置を支持台に固定するためにネジによって取り付けられる脚部材を設けることは,例えば,原査定の拒絶の理由に引用した特開昭49-38281号公報に示されており,また,エアシリンダーにおいて,円筒体の両側にそれぞれ設けられるガイドブロックを,下部にねじ孔を穿設した取付け座が形成された脚付きガイドブロックとすることは,例えば,久津見舜一著『空気圧機器と応用回路』第8版 昭和50年11月25日 日刊工業新聞社発行 第127〜130頁(特に,図6・1及び図6・4(1))に示されているように従来周知である。したがって,引用例1記載の発明に上記各事項を適用してガイドブロックを,下部にねじ孔を穿設した取付け座が形成された脚付きガイドブロックとすることは,当業者が格別の発明力を要することなく容易に想到し得る事項である。」(審決書7頁。以下「本件判断1」という。),及び「電動加工装置において,当該装置を固定するための取付座脚を装置本体に一体に設けることが,例えば,実願昭55-9154号(実開昭56-109839号)のマイクロフィルムに示されていると共に,一般に,ある部材を他の部材に対して取り外し可能に設けるか,或いは,両者一体に設けるかは,必要に応じて適宜選択すればよい単なる設計的事項であることを考慮すると,本件発明において,前記取付け座を脚付きガイドブロックに一体に形成することは,上記適用に当たって適宜なし得る設計的改変事項にすぎない。」(審決書7頁。以下「本件判断2」という。)と認定判断した。しかし,本件判断1及び2は,いずれも誤りである。 (1) 本願発明は,円筒体(33)の両側に設けられた脚付きガイドブロック(34,35)の下部にねじ孔が穿設された取付け座(47,48)が設けられているとの構成により,次の作用効果を奏する。 @ 取付け座をガイドブロックに分離して取り付けている場合に比較して,電動加工装置の穴加工の精度を格段に向上させることができる。 A 脚付きガイドブロックは,円筒体の長さを変えれば,ストロークの長い電動加工装置にもそのまま適用できる。したがって,大量生産に向いており,結果として電動加工装置の製造コストを下げることができる。 B 脚付きガイドブロックを円筒体の前後に設けることによって,複数の電動加工装置を横に並べて取り付ける場合に,比較的狭い間隔で取り付けることができる。 (2) 特開昭49-38281号公報(甲第3号証。以下「甲3文献」という。)には,内部にモータを有するドリルをバンド状の固定金具を用いて固定したセット・ドリルが記載されている。しかし,このドリルにおいては,先端に取り付けられているドリルの刃を進退させる機構はなく,また,この固定金具がドリル本体と一体となっているわけでもない。このドリルは,本願発明とはその構成が大きく異なる。 甲5文献には,確かに,審決認定の技術が開示されている。しかし,ここに記載されたものは,モータ等の電機部品がなく,純然たる機械製品であるエアシリンダーであって,本願発明のように,その内部にモータを有する電動加工装置とは異なる。エアシリンダーは,対象物を押し引きするにすぎないものであるから,特にピストンロッドの精度が大きな問題とならないのに対し,電動加工装置は,穴を開けたり,タッピングしたりするための装置であるから,その精度が極めて重要である。甲5文献に記載された技術は,脚部材のねじ孔に長尺ボルトを挿通し,これに螺合するナットの組合せによって固定するものであり,ねじ孔が長尺ボルトの外径より大きくなっているので,長尺ボルトとねじ孔との間に多少のガタを有することになり,この構造では,本願発明の上記作用効果@を奏することはない。 このように,エアシリンダーにおける技術をそのまま電動加工装置に適用することはできず,審決の本件判断1は誤りである。 (3) 実願昭55-9154号(実開昭56-109839号)のマイクロフィルム(甲第4号証。以下「甲4文献」という。)には,確かに,ケース1と一体の取付座脚4が記載されている。しかし,取付座脚4はケース1の直下に取り付けられているので,ドリルユニットの全長が変わる場合には,それぞれ取付け座付きのケースを用意する必要があって,上記作用効果Aを奏さない。さらに,甲4文献記載の取付座脚はケース1の両側に広がっているため,上記作用効果Bも奏さない(脚付きガイドブロックを円筒体の前後に設けることは,特許請求の範囲には明確には記載していない。しかし,本願出願に添付した明細書の添付図面の図1,図2には取付け座を前後に配置した例が明確に示されており,これは,特許請求の範囲の記載から必然的に導き出される効果である。それに対し,甲4文献記載の発明では作用効果Bを奏することは不可能である。)。 それのみならず,甲4文献記載の発明では,取付座脚は電動加工装置の前側と,電動加工装置の中央部分に取付けられているため,前後の脚の間隔が短くなり,その結果,本願発明の作用効果@についても,十分に発揮することができるわけではない。 したがって,本件判断2も誤りである。 |
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被告の反論の骨子
1 取消事由1(手続違背)について 審決は,甲5文献を「エアシリンダーにおいて,円筒体の両側にそれぞれ設けられるガイドブロックを,下部にねじ孔を穿設した取付け座が形成された脚付きガイドブロックとすること」が周知であることを例示するために挙げたものである。このような周知の技術は,当業者が熟知している技術であるから,これを拒絶理由通知に示す必要はない。 2 取消事由2(相違点4についての判断の誤り)について 原告の主張は,本願発明と引用発明1との相違点4について,容易に想到し得る事項である,との審決の判断内容について論駁することなく,単に本願発明と甲3文献,甲5文献及び甲4文献記載の各発明との相違をいろいろと述べているだけのものであって,当を得ていない。相違点4についての審決の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(手続違背)について (1) 審決は,「エアシリンダーにおいて,円筒体の両側にそれぞれ設けられるガイドブロックを,下部にねじ孔を穿設した取付け座が形成された脚付きガイドブロックとすることは,例えば,久津見舜一著「空気圧機器と応用回路」第8版 昭和50年11月25日 日刊工業新聞社発行 第127〜130頁(特に,図6・1及び図6・4(1))に示されているように従来周知である。」(審決書7頁)と認定している。 甲5文献は,上記審決の認定のとおり,本願出願のおよそ19年前の昭和50年に頒布された刊行物であり(甲第5号証),本願出願までに多数の当業者が甲5文献に接したものと推測されるのであるから,そこに記載された技術は,あまねく当業者に知れ渡っているというべきである。 したがって,「エアシリンダーにおいて,円筒体の両側にそれぞれ設けられるガイドブロックを,下部にねじ孔を穿設した取付け座が形成された脚付きガイドブロックとする」との技術が周知である,との審決の上記認定には誤りがないというべきである。 そして,周知技術とは,とりたててその例を示すまでもなく,当業者が当然に認識しているべき技術のことであるから,原告に対し,審決前に,その例を通知しなかったからといって,そのことを審決の手続違反とすることができないことは,明らかである。 (2) 原告は,本願発明と引用発明1との相違点4に係る構成が,本願発明の最大の特徴であることを挙げ,甲5文献を原告に通知することなく審決したことは重大な手続違反である,とも主張する。しかし,審決において周知技術の一例として挙げられたにすぎない甲5文献を事前に原告に通知しなかったことを,そもそも手続違反とすることができないことは,上記のとおりであるから,原告の上記主張に理由がないことは明らかである。 原告は,甲5文献の入手困難性を主張する。しかし,審決が周知技術としたのは,同号証に記載された特定の技術ではなく,「エアシリンダーにおいて,円筒体の両側にそれぞれ設けられるガイドブロックを,下部にねじ孔を穿設した取付け座が形成された脚付きガイドブロックとする」という技術であり,この技術が周知技術であるということは,当業者は,特定の文献等に接しなくとも同技術を当然に認識しているものとして扱うことが許されるということであるから,甲5文献の入手困難性を問題にする余地はない。入手困難性を問題とすることが許されると仮定しても,甲5文献は,日本国内において頒布された技術書であるから,例えば国立国会図書館においても閲読可能なものであり,原告がその入手の努力を怠ることにより,何らかの不利益を受けるとしても,その責任は原告自らが負うべきものである。 2 取消事由2(相違点4についての判断の誤り)について (1) 審決が周知例として挙げている甲3文献に,「電動加工装置において,当該装置を支持台に固定するためにネジによって取り付けられる脚部材を設ける」(審決書7頁13〜14行)との技術が記載されていることは当事者間に争いがない。 「エアシリンダーにおいて,円筒体の両側にそれぞれ設けられるガイドブロックを,下部にねじ孔を穿設した取付け座が形成された脚付きガイドブロックとすること」(審決書7頁)が周知であることは,1で説示したとおりである。 引用発明1のガイドブロックをエアシリンダーにおけると同様に,「下部にねじ孔を穿設した取付け座が形成された脚付き」の構成とすることを困難ならしめる事情があると認めることはできない。 そうである以上,「引用例1記載の発明に上記各事項を適用してガイドブロックを,下部にねじ孔を穿設した取付け座が形成された脚付きガイドブロックとすることは,当業者が格別の発明力を要することなく容易に想到し得る事項である。」(審決書7頁)との審決の本件判断1には誤りがない。 原告は,甲3文献に記載された発明は,ドリルの刃を進退させる機構もなく,固定金具がドリル本体と一体となっているわけでもなく,本願発明とはその構成が大きく異なる,と主張する。しかし,審決が甲3文献を引用した趣旨は,引用発明1のような電動加工装置では「他の装置」への取付け部材が必要であるとのごく常識的な事項を証拠をもって例示することにあることは明らかであり,甲3文献はその限度において意味を有する刊行物であるから,甲3文献記載の発明と本願発明の構成が異なることは,本件判断1を左右する理由とはならないことが明らかである。 原告は,甲5文献記載の技術が,モータ等の電機部品がなく,純然たる機械製品であるエアシリンダーであって,本願発明のように内部にモータを有する電動加工装置とは異なる,とか,エアシリンダーは,対象物を押し引きするものであるから,特にピストンロッドの精度が大きな問題とならないのに対し,電動加工装置は,穴を開けたり,タッピングしたりするための装置であるから,その精度が極めて重要である,とか主張する。しかし,引用発明1の電動加工装置は内部にモータを有する,ということが,エアシリンダーを支持台に取り付けるに当たってガイドブロックに取付け座を形成するとの,直接にはエアシリンダーについての上記技術を,引用発明1の電動加工装置に適用することを妨げる理由とはなり得ないことは,明らかである。また,エアシリンダーにおいては,電動加工装置ほどの精度が要求されないとしても,このこともまた,引用発明1の電動加工装置において,エアシリンダーにおけるのと同様にガイドブロックに取付け座を形成することに想到することの妨げとなるものではないことも,明らかである。 原告の主張は,いずれも失当である。 (2) 審決が周知例として挙げている甲4文献に,ケース1と一体となっている取付座脚4が記載されていることは原告も認めるところである。そして,審決は,甲4文献に記載された上記技術を一例として挙げた上で,「一般に,ある部材を他の部材に対して取り外し可能に設けるか,或いは,両者一体に設けるかは,必要に応じて適宜選択すればよい単なる設計的事項であることを考慮すると,本件発明において,前記取付け座を脚付きガイドブロックに一体に形成することは,上記適用に当たって適宜なし得る設計的改変事項にすぎない。」(審決書7頁)と判断したものである。およそ,二つの部材が連結された構成を得るに当たり,両部材を取り外し可能とするか,一体構成とするかは,製造容易性,製造価格,耐久性,保守容易性,取付精度等を総合的に勘案して決定すべき設計上の選択的事項であるというべきであるから,これと同旨の審決の本件判断2にも誤りがない。 原告は,甲4文献記載の発明は,原告が主張する本願発明の@ないしBの効果を奏しない,と主張する。しかし,審決は,脚付きガイドブロックに取付け座を一体形成するかどうかは,単なる設計的改変事項にすぎないとの上記判断の一例として,甲4文献を示したにすぎないのであり,本願発明とはその全体的構成が異なる甲4文献記載の発明と本願発明との作用効果を比較して論じること自体が,本件においては意味のないことである。原告の主張は,主張自体失当である。 3 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき瑕疵が見当たらない。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 阿部正幸 |