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関連審決 無効2001-35356
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 176号 審決取消請求事件
原告 株式会社ダイフク
原告 関東自動車工業株式会社
同両名訴訟代理人弁理士 森本義弘
同 板垣孝夫
同 笹原敏司
被告 中西金属工業株式会社
同訴訟代理人弁理士 岸本瑛之助
同 日比紀彦
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/11/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2001-35356号事件について平成14年3月5日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,被告が,原告らを被請求人として,原告らが設定登録を受けている特許を無効とする審判を請求したところ,特許庁が,上記特許を無効とする審決をしたことから,原告らが,被告に対し,上記審決の取消を求めた事案である。
1 争いのない事実 (1) 原告らは,特許庁に対し,平成3年12月19日,発明の名称を「台車使用の搬送設備」とする発明(以下「本件発明」という)について出願し,同12年3月10日,特許第3043157号として設定登録を受けた(以下「本件特許」という)。
(2) 本件特許の「特許請求の範囲」 レールに支持案内されて一定経路上を走行自在な台車を設けるとともに,この台車に外側方に向く受圧部を形成し,前記一定経路は,台車を走行させながらこの台車で支持した被搬送物に対して作業を遂行する作業経路部と,被搬送物を取り出すことにより空になった台車を走行させる非作業経路部とを有し,前記非作業経路部の上手に,前記受圧部に作用して台車に低速送り込み力を付与する送り込み装置と,この送り込み装置により送り込まれた台車の前記受圧部に作用して,この台車に高速走行力を付与する加速装置を設け,下手に,前記受圧部に作用して台車を減速させる減速装置と,この減速装置により減速されている台車の前記受圧部に作用して,この台車に低速送り込み力を付与する送り込み装置とを設けるとともに,この下手の送り込み装置の部分に,前記台車が当接自在なストッパー装置を設けて,非作業経路部では,加速装置と減速装置との間で一台の台車を,加速装置により付与した高速走行力により惰性走行させるように構成したことを特徴とする台車使用の搬送設備。
(3) 被告は,特許庁に対し,平成13年8月13日,原告らを被請求人として,本件特許の無効審判を請求したところ,特許庁は,同14年3月5日,要旨,次のとおり判断した上で,本件発明は,特許出願前にわが国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとして,本件特許を無効とするとの審決(以下「本件審決」という)を行い,同月15日,その謄本が原告らに送達された。
ア 実公昭53-42948号公報(甲3,以下「引用例1」という)記載の発明におけるレール上の台車をチェーンに引っ掛けて搬送する形式を,特開平3-239661号公報(甲4,以下「引用例2」という)記載の発明におけるレール上の台車に送りローラによる推進力を与えて搬送する形式に全面的に置き換えることは,当業者であれば容易に想到し得る。
イ 特公昭61-39247号公報(甲6,以下「引用例3」という)記載の発明は,惰性走行してきたパレットを減速させる低速用ローラ,減速させられたパレットを静止させるストッパ,静止したパレットを再発進させる高速用ローラを有するパレット駆動ユニットを具備しているところ,引用例1記載の発明における戻り側のパレット減速,停止装置として,上記低速用ローラ及びストッパを用いることは,当業者が容易に想到し得るものであり,また,引用例3記載の発明を引用例1記載の発明に適用するにあたり,パレットを再発進させる高速用ローラに換えて低速用ローラを送込装置として用いる程度のことは,当業者が必要に応じて適宜採用可能な設計変更である。
2 争点 本件審決の進歩性判断について原告らが主張する次の各取消事由の当否 (1) 取消事由1 引用例1記載の発明は,作業側と戻り側を輪状に回転する無端に張設したチェーンをもってレール上の台車をチェーンに引っ掛けて搬送する形式の搬送設備を対象とし,このような搬送形式を備えた搬送設備の限度においてなされたものであるから,この搬送形式を,引用例2記載の発明におけるレール上の台車に送りローラによる推進力を与えて搬送する形式に全面的に置き換えることは,当業者といえども容易ではないにもかかわらず,本件審決はその判断を誤った。
(2) 取消事由2 引用例3記載の発明の上記パレット駆動ユニットのうち,低速用ローラは,パレット停止前にこれを減速するために設けられ,また,高速用ローラは,パレット停止後にこれを再発進させるために設けられているものであり,使用態様が限定されているものであるため,引用例3記載の発明を引用例1記載の発明に適用するにあたり,高速用ローラに換えて低速用ローラを送込装置として用いることは,引用例3記載の発明の有する特有の構成・機能等を全く無視するものであるから,当業者が必要に応じて適宜採用可能な設計変更とはいえないにもかかわらず,本件審決はその判断を誤った。
争点に対する判断
1 争点(1)(取消事由1)について (1) 自立走行能力を有しない台車又はパレットの搬送設備という技術分野において,レール上を走行する台車又はパレットをチェーンに引っ掛けて搬送する形式のものとレール上の台車又はパレットに送りローラによる推進力を与えて搬送する形式のものは,いずれも周知技術である(甲3,4,7)。
(2) この点,引用例1記載の発明は,自立走行能力を有しないパレットの搬送形式として,レール上のパレットをチェーンに引っ掛けて搬送する形式を採用しているところ,引用例1の「考案の詳細な説明」欄に「・・完成した製品を出口位置ロでパレツト1上より取り除き,空のパレツト1を戻り側bに通過させて入口位置イへ送り戻している。」との記載があること(甲3(1欄37行目から2欄2行目)),また,本件特許は,引用例2記載の発明と同様に,自立走行能力を有しない台車の搬送形式として,レール上の台車に送りローラによる推進力を与えて搬送する形式を採用しているところ(甲2の(1),4),本件特許公報の「発明が解決しようとする課題」欄に「・・同様の構成を非作業経路部に採用したときには,台車は非作業経路部において・・」との記載があること(甲2の(1)(2頁【0006】欄5から6行目)に照らすと,自立走行能力を有しない台車又はパレットの搬送設備において,作業を遂行する作業経路部に付随して,被搬送物を取り出して空になった台車又はパレットを作業経路部まで返送する非作業経路部が存在することは,台車又はパレットの搬送形式が,レール上の台車又はパレットをチェーンに引っ掛けて搬送する形式であるか,レール上の台車又はパレットに送りローラによる推進力を与えて搬送する形式であるかを問わず,一般的なことであったというべきである。
そして,引用例1の「考案の詳細な説明」欄に「この場合チエーン2の移動だけでパレツト1を送ると,作業側aのパレツト1の流れ間隔を一定に保つためには,戻り側bに於いても作業側aと同様のピツチ間隔で空パレツト1を流さなければならない。ところがこの方式では,作業上最低必要なパレツトの数と同数のパレツトが余分に必要になり,コンベヤーラインが長くなればなる程不必要なパレツトの数が多くなる。」との記載があること(甲3(2欄2から10行目)),また,本件特許公報の「発明が解決しようとする課題」欄には「・・台車は非作業経路部において密状に配列してかつ速度をほぼ一定として順次搬送されることから,能率の悪い搬送となる。さらに非作業経路部のほぼ全長に亘って台車を密状に配列して搬送することから,高価な台車が多数台必要になり,設備費が高くなる。」との記載があること(甲2の(1)(2頁【0006】欄6から10行目))に照らすと,自立走行能力を有しない台車又はパレットの搬送形式において,非作業経路部に多くの台車又はパレットが存在することは,非効率であるため,非作業経路部の台車又はパレットの数を作業経路部における台車又はパレットの数よりも少なくすることは,台車又はパレットの搬送形式が,レール上の台車又はパレットをチェーンに引っ掛けて搬送する形式であるか,レール上の台車又はパレットに送りローラによる推進力を与えて搬送する形式であるかを問わず,共通の課題となっていたというべきである。
(3) ところで,上記(2)の課題を解決するためには,非作業経路部における台車又はパレットの搬送速度を速くすることが必要というべきであるところ(甲2の(1),3),引用例1記載の発明においては,パレットの搬送速度を速くする手段として,回転ローラーが用いられているが,回転ローラーは,台車又はパレットの搬送形式が,レール上の台車又はパレットをチェーンに引っ掛けて搬送する形式であるか,レール上の台車又はパレットに送りローラによる推進力を与えて搬送する形式であるかを問わず,自立走行能力を有しない台車又はパレットの搬送設備一般において,広く技術的に採用可能なものというべきである(公知の事実)。
(4) なお,引用例1記載の発明では,レール上のパレットをチェーンに引っ掛けて搬送する形式において,上記回転ローラーに加えて,スプロケットとワンウェイクラッチを用いることにより,上記(2)の課題を解決しているが(甲3),スプロケットとワンウェイクラッチは,引用例1記載の発明がパレットの搬送形式として,レール上のパレットをチェーンに引っ掛けて搬送する形式を採用したために用いられているものであるから,仮に,レール上のパレットをチェーンに引っ掛けて搬送する形式を,他の搬送形式に置換することを思案する場合には,チェーンと共に置換されることが思案されてしかるべきものであり,引用例1記載の発明においてスプロケットとワンウェイクラッチが存在するからといって,引用例1記載の発明の上記搬送形式を他の搬送形式に置換することが制限されるわけではない。
(5) 上記(1)から(4)の各認定判断によれば,引用例1記載の発明について,そのパレットの搬送形式として,レール上のパレットをチェーンに引っ掛けて搬送する形式に換えて,レール上の台車に送りローラによる推進力を与えて搬送する形式を採用することに関しては,これを妨げる特段の事情は存在せず,当業者であれば容易に想到し得るものと評価するのが相当であり,原告らの主張する取消事由1は採用することができない。
2 争点(2)(取消事由2)について (1) 確かに,引用例3の「発明の詳細な説明」欄には「・・可動枠に高速駆動ローラと低速駆動ローラとを一つのモータによつて連動させ,切換用作動装置を以て可動枠を作動させることによつて,高速駆動,低速駆動および無駆動の三つの状態を得ることができるようにしたパレツト駆動ユニツトをパレツトの進路に沿つて配設し,パレツト停止後の再発進を高速で,またパレツト停止前の低速および惰走への切換えを簡便に行い・・」(甲6(1欄17から24行目)),「・・今まで高速用ローラ8によつて速い速度で搬送されて来たパレツト1は,ここにおいて低速用ローラ9に接し,その進行速度を滑らかに減速し・・」(甲6(3欄44行目から4欄3行目)),「パレツト1が再発進する場合には・・・高速用ローラ8がパレツト下面に接するようになるので,パレツトを急速に発進させることができる。」(甲6(4欄7から10行目))等との記載があることに照らすと,引用例3記載の発明においては,パレット駆動ユニットのうち,低速用ローラは,パレットを減速するために設けられ,また,高速用ローラは,静止したパレットを高速で(再)発進させるために設けられているというべきである。
(2)ア しかしながら,引用例3の「発明の詳細な説明」欄に,「高速用ローラ8がパレツト1の下面に圧接するから,パレツト1は速く送られ,・・・低速用ローラ9がパレツト1の下面に接触するから,パレツト1は遅い速度で送られるように切換えができ・・」との記載があること(甲6(3欄2から7行目),また,「パレツト1は速い速度でコンベアフレーム2内に配設された駆動ユニツトDの高速用ローラ8によつて次々に間欠駆動されて進行する。」との記載があること(甲6(3欄35から38行目))に照らすと,上記パレット駆動ユニットのうち,低速用ローラは,パレットを減速するためにしか用いることができないものではなく,一般的にパレットを遅い速度で送るためにも用いることができるというべきであり,また,高速用ローラも,パレットの停止後の(再)発進のためにしか用いることができないものではなく,一般的にパレットを速い速度で送るためにも用いることができるというべきである。
イ 上記アによれば,上記(1)認定のとおり,引用例3記載の発明の上記パレット駆動ユニットのうち,低速用ローラが,パレットを減速するために設けられ,また,高速用ローラが,パレットを高速で(再)発進させるために設けられているものであるとしても,上記各ローラは,常に引用例3記載の発明と同様の使用態様とされなければならないものではなく,状況に応じて,その使用態様を適宜変更することは,当業者が直ちに認識し得る範囲内のことというべきである。
(3) そして,自立走行能力を有しない台車又はパレットの搬送設備においては,一般的に,台車又はパレットを送込先までの走行距離や重量等に応じて,台車又はパレットに与える推進力を適宜加減調整することが求められるところ(公知の事実),発進のための駆動装置として,どの程度のものを用いるかについては,台車又はパレットを送込先までの走行距離や重量等に応じて決まるものであり,発進用の駆動装置は必ず高速用ローラでなければならないという筋合いのものではないことに照らすと,引用例3記載の発明を引用例1記載の発明に適用するにあたり,引用例3記載の発明のパレット駆動ユニットのうち,パレットを(再)発進させるためのローラとして,高速用ローラではなく,パレットをゆっくりと送り込むための低速用ローラ等を送込装置として用いる程度のことは,当業者が必要に応じて適宜採用可能な設計変更というべきである。
(4) 以上によれば,原告らの主張する取消事由2も採用することができない。
3 結論 よって,本件審決には,原告らの主張する各取消事由が存在するものとは認められず,違法事由は存在しないから,原告らの請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青柳馨
裁判官 絹川泰毅