関連審決 | 審判1999-35078 |
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関連ワード | 承継 / 新規性 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の認定 / 相違点の判断 / 周知技術 / 慣用技術 / 同一の発明 / 技術常識 / 表現上の差異 / パリ条約 / 優先権 / 援用権(援用) / 数値限定 / 技術的意義 / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 交換 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
403号
審決取消請求事件
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原告 コングスベルグマリタイム シップ システムズ アクティーゼルス カブ 訴訟代理人弁護士 松尾和子、弁理士 大塚文昭、竹内英人、弁護士 宮垣聡、 吉田和彦、弁理士 合田潔、上杉浩 被告 サーブマリーン エレクトロニクス アクチエブーラグ 訴訟代理人弁護士 日野修男 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/11/19 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年審判第35078号事件について平成12年5月29日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 被告は、名称を「容器内流動材料のレベルを測定する方法および装置」とする特許第1734107号発明(昭和60年4月25日(パリ条約による優先権主張1984年4月25日、スウエーデン国)に出願され、平成4年4月23日に出願公告(特公平4-23726号)がされた後、平成5年2月17日に設定登録。本件発明)の特許権者であるが、ノルウェー国法人であったナヴィア マリタイム アクティーゼルスカブは、平成11年2月19日、本件発明について無効審判請求をし、平成11年審判第35078号事件として審理されたが、平成12年5月29日、本件審判の請求は成り立たないとの審決があり、その謄本は同年6月28日請求人に送達された。原告は、2001年(平成13年)1月1日、合併等により請求人を承継した法人である。 2 本件発明の要旨 (1) 特許請求の範囲第1項に記載された発明(本件第1発明)の要旨 導波管7を介して送信機から供給されるマイクロ波信号を使って、容器1に貯蔵されている流動材料3のレベル10を測定する方法であって、 前記導波管7は、容器を経て下方へ垂直に伸び、かつ該導波管7内の材料のレベル10が、周囲の材料のレベルと等しくなるよう、容器1と連通しており、また、 前記信号は、前記レベル10で反射されて導波管7を通り、かつ電子ユニットで信号処理された後、容器1内の材料のレベル10を決定しうるようになっている受信機へ導かれるようになっており、かつ 導波管7の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号が、一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器11により、導波管7へ供給されるようになっていることを特徴とする容器内流動材料のレベル測定方法。 (2) 特許請求の範囲第3項に記載された発明(本件第2発明)の要旨 容器1内の流動材料のレベル測定装置であって、導波管7にマイクロ信号を供給するための送信機14と、反射されたマイクロ波信号を受信するための受信機と、 受信信号を用いることによって、容器中の材料のレベル10を決定しうるようになっている電子ユニットとから成り、前記導波管7は、容器1を経て垂直に下方へ伸び、かつマイクロ波信号を反射する該導波管7内の材料のレベル10が、周囲における材料のレベル10と等しくなるよう、容器1と連通している測定装置において、 送信機14と導波管7との間に、一つだけの信号の主伝搬モードを生成しうるモード発生器11があり、かつ導波管7の直径が、波長より相当に大きいことを特徴とする容器1内の流動材料のレベル測定装置。 FIG 1〜43 審決の理由 別紙審決の理由のとおりであり、要点は次のとおりである。 原告(審判請求人)は、 審判甲第1号証:IEEE TRANSACTIONS ON INDUSTRIAL ELECTRONICS AND CONTROL INSTRUMENTATION,August 1971,Vol.IECI-18,No.3,P85〜92 STANLEY S.STUCHEY他による「Microwave Surface Level Monitor」 審判甲第2号証:THE BELL SYSTEM TECHNICAL JOURNAL,VOLUME XXXIII,No.6, NOVEMBER 1954,P1209~1265,S.E.MILLERによる「Waveguide as a Communication Medium」 審判甲第3号証:Radar Handbook,MERRILL I.SKOLNIL編,1970年McGRAW-HILL BOOK COMPANY発行,P8-7~8-33 審判甲第4号証:IRE Transactions on Microwave Theory and Techniques,P102〜110,L.B. FELSEN 他による「Measurement of Two-Mode Discontinuities in a Multimode Waveguide by a Reasonance Technique」を提出し、 本件第1発明及び本件第2発明は、いずれも審判甲第1号証に記載された発明であるか、少なくとも、審判甲第1号証の記載に、審判甲第2号証〜第4号証から明らかな当業者の技術常識を参照することにより、当業者が容易に発明できたものである、と主張した。しかしながら、 本件第1発明と審判甲第1号証記載の発明とが同一の発明とは認めることができない。 本件第1発明は、審判甲第1号証ないし審判甲第4号証の記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものとは認められない。 本件第2発明は、審判甲第1号証記載の発明と同一のものでなく、また、審判甲第1号証ないし審判甲第4号証記載の発明に基づいて当業者が容易に導き出し得るものでもない。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(本願発明の技術的意義の認定の誤り) 審決は、本件第1発明の「導波管の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号が、一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器により、導波管へ供給されるようになっている」との構成の技術的意義は、「代表的レーダー周波数に対する円筒状導波管の直径はせいぜい数cm程度であり、この程度の直径のパイプはタンクの中身がワックスに富んだ原油である場合に目詰まりを起こす」との問題点があること、及び「従来のフロートを入れるためのパイプを導波管として利用すれば、従来のタンクの基本的構成を変えずにレーダー測定装置を設置できる」こと、以上二つの技術的課題を解決することにある旨認定するが(別紙審決の理由110〜139行)、誤りである。 (1) 審決の認定は、本件明細書の記載に基づくものではない。 特許請求の範囲には、測定対象が「パイプの目詰まりを起こしやすい流動材料」であること、導波管として「従来のフロート用パイプを利用する」ことについての記載はない。また、「比率」を規定するだけで「直径」を規定しないので、本件発明の直径が目詰まりを起さない直径か否か判別することができない。しかも、本件明細書には、本件発明の「導波管の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号」を審決認定の上記二つの技術的課題を解決するために採用した旨の記載もない。 被告は、当業者は、0.1cmから90cmの波長範囲を任意に選択できると主張するが、 例えば、波長が0.1cmで比率が「9分の1」のときの導波管直径は0.9cmとなり、この程度の直径では目詰まりを起こす。被告の主張によっても、本件発明が上記二つの技術的課題と関連性がないことは明らかである。 (2) 本件発明の真の技術的意義は「測定精度」にある。 本件明細書(特許公報)には、以下の記載がある。 @ 従来技術の問題点として、 「原油を測定する際、約10-4の測定精度が要求される。……例えば、直径25cmのパイプと3cmの波長を用いると、係数は、5/1000に落ちる。直径の精度と周波数の精度が、妥当である1%のオーダーにのっているとすれば、10-4という相対的精度が得られる。」(6欄) 「伝搬速度は、パイプの太さとレーダー周波数によって、大いに影響される。そのため、高い精度を得るためには、これらの値を、正確に一定に保つことが、絶対的に必要となる。」(5欄) 「導波管によって、距離を測定する場合、実際の距離Lより大きい見かけ上の距離Lsが得られ、かつ商は次式によって表すことができる。……上式から、λcがλに比べ大きい場合、いいかえれば、パイプの直径が、波長λに比べ大きい場合、 真の値Lに近い実測値Lsが得られることが分かる。」(6欄) A 発明の目的として、 「(本発明の目的)本発明の目的は、容器に貯蔵されている液体若しくはその他の流動体材料のレベルを、レーダーによって正確に測定するための方法及び装置を提供することである。」(8欄)、 「このタンク1は、直径が約100mm(原告注:100mの誤記)もある大型のものであり、……タンクの内容量をできるだけ正確に決めるため、材料のレベルは、正確に測定されなければならない。」(8欄の実施例の記載) 以上、本件発明の真の技術的課題は、「直径の精度と周波数の精度が1%のオーダー」(6欄)という条件下で、原油測定に要求される「約10-4の測定精度」(6欄)を達成することにある。測定精度という技術的課題の下で、「直径の数分の1程度の波長」(本件第1発明)及び「直径が波長より相当に大きい」(本件第2発明)という構成要件が理解されるべきである。「パイプの目詰まり防止」や「フロート用パイプの利用」は、本件発明の技術的課題ではなく、特定の実施例から生ずる効果にすぎない。 (3) 本件発明の技術的意義は、従来技術の必然的帰結にすぎない。 (3)-1 「直径の数分の1程度の波長」の技術的意義について 本件明細書に記載の「米国特許第4359908号明細書」によれば、円形導波管内にマイクロ波を伝搬させて液体のレベルを測定する技術は公知であり、直径を測定対象材料の性質に合わせて適宜定めるのは、当業者が当然に行う設計事項である。 一方、本件のように、従来の液面検知用レーダ装置を用いる以上、マイクロ波の波長は、当然に、従来と同様3cm程度になる(本件明細書4欄)。また、導波管として従来のフロート用パイプを利用する場合には、その直径も、当然に、従来と同様20〜30cmになる(本件明細書9欄)。そうすると、「直径の数分の1程度の波長」は従来技術(上記直径20〜30cmのパイプと波長3cmのマイクロ波)によって既に得られており、上記真の技術的課題も達成されている。 以上、「直径の数分の1程度の波長」は従来技術の必然的帰結であり、特別な技術的意義は存しない。 (3)-2 「モード発生器」の技術的意義について 審決は、「モード発生器」の技術的意義につき、「直径の数分の1程度の波長」の構成を採用したことにより発生する「不要な伝搬モード」を抑制するために付加したものである旨認定(し、両者の関連性の意義を強調)するが(別紙審決の理由131〜135行)、以下のとおり、「モード発生器」自体は周知技術であり「直径の数分の1程度の波長」とは関連性もない事項であるから、同認定は誤りである。 「microwave JOURNAL」(1982年12月)」(甲第18号証)の「オーバーモード導波管は、……あらゆるコストを払ってでも回避すべきものである。……伝送線距離が30フィート(約9m)を越えると、図1に示すように、単一モード……導波管は過剰な損失を生ずる。」との記載(22頁左欄)によれば、複数モードの導波管(Over-moded)は避けるべきこと、単一モードの導波管では過剰なマイクロ波の損失が生ずること(伝達距離が30フィート超)が記載されている。同じく、比率(導波管直径D/導波管波長λ)と各モードにおけるマイクロ波の減衰との関係を示すグラフ(24頁図4)、及び「幅(a)の波長に対する比(a/λ)及び直径(D)の波長に対する比(D/λ)が2よりも下では、TE○11 及び正方形導波管TE□10は、TE○01 に較べて性能がほとんど等しく優れていることは興味深い。このため、顕著にオーバーモードが発生するまでは円形モードに行くことの利点はほとんどない。」(32頁右欄)によれば、上記比率(D/λ)につき2〜8の範囲が記載されている。 「microwave JOURNAL」(1982年12月)」には、本件発明の「直径の数分の1程度の波長」が開示され、また、導波管直径Dが大きくなるほどマイクロ波の減衰が減少し長距離伝達に望ましいこと(直径が波長より相当に大きい場合の利点)が開示されている。 「オーバーモード導波管においては、実際的なオーバーモード導波管動作に必要なモード抑制器と遷移について考察しなければならない。」(22頁右欄)、「オーバーモード導波管において考察すべき主要なことは、単一モード導波管から問題のオーバーモード導波管へ行く遷移である。効率的であるためには、この遷移は、低反射であり、高次のモードのエネルギー内容を許容レベル以下に維持しなければならない。」(26頁右欄)の記載があり、図7及び8(36頁右欄)並びに図11(42頁)によると、「遷移」は「モード発生器」を意味するので、複数モードの導波管には「モード発生器」が具備されるべきことも記載されている。 以上、不要な伝搬モードの問題、及びモード発生器の使用は周知事項であるから、「モード発生器」は、「直径の数分の1程度の波長」とは無関係の独立した事項である。なお、「microwave JOURNAL」(1982年12月)」は本件明細書(12欄)中に引用された論文であり、本件出願は同号証の内容を前提とするものであるから、 審判において提出がないとはいえ、出願当時の技術水準を開示する証拠として採用することができる。 (3)-3 以上のとおり、本件出願時、「直径の数分の1程度の波長」とすること、その場合に導波管に不要なモードが発生すること、その解決手段として「モード発生器」を使用することは、いずれも当業者に周知の事項であり、本件発明により新たに採用された構成ではないので、格別の技術的意義はない。これに反する審決の認定は誤りである。 2 取消事由2(相違点の判断(新規性について)の誤り) 審決は、「審判甲第1号証には「導波管の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号が、一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器により、 導波管へ供給されるようになっている」の構成がなく、また、該構成が設計上の微差あるいは表現上の差異ということはできないから、第1の発明と審判甲第1号証記載の発明とが同一の発明とは認めることができない。」(別紙審決の理由158〜162行)と認定するが、誤りである。 (1) 直径の数分の1程度の波長について 審判甲第1号証の「また、式(12)から、距離測定の精度を高めるため、比λg/λc及びλg/λoを減少させるには、作動点を遮断周波数よりもはるかに高くすることが望ましいことも明らかである。」との記載(88頁右欄)によれば、測定精度を高めるには(導波管波長λg/遮断波長λc)を減少させればよく、そのために作動周波数を遮断周波数よりも「はるかに高くする」。すなわち、作動波長(導波管波長λg)を遮断波長λcよりも「はるかに小さくする」。ここで遮断波長λcは導波管直径dの定数倍であるから(1.706d(円形導波管H 11 モード)、0.82d(同H 01 モード)。(審判甲第4号証106頁TABLE I))、結局、(λg/d)を小さくすればよい。 式(12)の意味は、自由空間波長λo及び導波管内誘電率εの変化を無視すると、 (導波管波長λgの相対的変化量)=(λg/λc)2×(導波管直径の相対的変化量)である。ここで、10-4の測定精度を得たい場合(本件明細書6欄32行)、λgの精度もそれ以上である必要があるから、(λg/λc)2×(導波管直径の相対的変化量)≦10-4である。導波管の製造誤差(導波管直径の相対的変化量)を1%(本件明細書6欄39行)とすると、(λg/λc)2≦10-2であり、λgとλoとの周知の式(11)を代入すると、λo/λc≦101-1/2となる。 前記のとおり、λc=1.706d(H11 モード)及びλc=0.82d(H 01 モード)であるから、結局、(λo/d)≦1/6(H11 モード)、(λo/d)≦1/13(H 01モード)となる。すなわち、本件発明の「直径の数分の1程度の波長」(本件第1発明)又は「直径が波長より相当大きい」(本件第2発明)は、式(12)から容易に導出される比率関係である。審決は、この点を見落としている。 また、審判甲第1号証のテーブルU(91頁)によると、矩形導波管(0.4インチ×0.9インチ)の場合、矩形導波管の長辺Dとマイクロ波の波長λの比率(λ/D)は「1.6〜1.1」倍である。他方、審決は、審判甲第1号証は本件第2発明の「直径が波長より相当に大きい」構成を示唆している旨認定しており(別紙審決の理由207〜210行)、この認定によれば審判甲第1号証には「0.1倍以下」が示唆されていることは明らかである。 そうすると、審判甲第1号証には、前記「(λo/d)を小さくすればよい」との開示があり、前記「0.1以下」が示唆され、テーブルUに前記「1.6〜1.1」倍が記載されている以上、その中間に存在する「直径の数分の1程度の波長」(0.5〜0.1倍)が当然に開示されていると解さないと不合理である。本件明細書の比例定数の式(6欄26行)は、式(12)の第3項の係数(λg/λc)2と実質的に等価である。 本件明細書(6欄37〜41行)も、審判甲第1号証の計算と同じ計算をしていることは明らかである。 以上のとおり、直径と波長との比率は要求される測定精度に応じて導波管の製造誤差の下に当業者が適宜行う設計事項であるところ、10-4の測定精度を得るための同比率が式(12)に基づき容易に計算可能である。一方、本件明細書によれば、本件発明の「直径の数分の1の波長」及び「直径が波長より相当大きい」も10-4の測定精度を得るための比率であるから、審判甲第1号証と実質的に同じ意味の比率である。審判甲第1号証には、本件発明の比率が記載されている。 (2) 審決は、作動点の波長は遮断波長よりもはるかに小さいものといわざるを得ないから、審判甲第1号証のものが「直径の数分の1程度の波長」との構成を示すとはいえないと認定する(別紙審決の理由148〜151行)。 しかし、上記のとおり、本件発明の「直径の数分の1程度の波長」(本件第1発明)及び「直径が波長より相当に大きい」(本件第2発明)と、審判甲第1号証の「作動点の導波管波長λgは遮断波長λcよりもはるかに小さくする」とは、同一の技術内容を示す異なる表現にすぎない。 (3) 被告は、審判甲第1号証の導波管の形状は「矩形」であり伝搬モードも「1モード伝搬」であるから、同号証には円形導波管につき「直径の数分の1程度の波長」は開示されていないと主張する。 しかしながら、式(12)を導く式(11)は、審判甲第3号証(8-9頁)の式(25)と同一であるところ、審判甲第3号証には、式(25)はいかなる断面の導波管にも一般的に当てはまる旨(general for a waveguide of any cross section)記載されているから、式(12)はすべての形状の導波管にあまねく適用される。さらに、「microwave JOURNAL」(1982年12月)(30頁中欄〜右欄、24頁図3。甲第18号証)では、円形導波管と矩形導波管の双方につき説明し、導波管の形状は当業者が適宜選択できる旨記載している。 審判甲第1号証の「導波管はH10 モードで励起されるが、傾きに起因して水面近くに高次のモードが存在することは明らかである。これは表面レベル測定において大きなエラーを導く。」(90頁)との記載によれば、H10 モード以外のモードが導波管内に存在する。伝搬モードは「1モード伝搬」に限定されていないので、審判甲第1号証の開示事項は「1モード伝搬」に固有のものではない。 以上のとおり、審判甲第1号証の導波管の形状が「矩形」であること、同伝搬モードが「1モード伝搬」であることは、審判甲第1号証の開示事項を円形導波管に適用して解釈することについて障害となるものではない。 (4) モード発生器について 導波管(筒状ガイド)内を伝搬するマイクロ波を用いたレベル測定技術は、本件出願前に周知の技術である(甲第7号証、甲第8号証)。そして、同レベル測定技術では、特定のモードの送出波と測定対象面で反射された特定のモードの反射波との位相差を検出して距離を測定する以上、検出波の特定のモードを他の異なるモードと区別する必要があり、そのために、多モード状況下では特定のモードを発生したり他の異なるモードを減衰させたりして、導波管内に特定のモードのみを維持する必要があることは、当然の前提とされていた。一方、マイクロ波を特定のモードに維持する機構は周知技術であった(審判甲第4号証(106頁左欄、109頁右欄、Fig.6、Fig.7、Fig.10)、甲第9号証〜第17号証)。 そうすると、マイクロ波を用いたレベル測定装置にマイクロ波を特定のモードに維持する機構を設けることは、周知慣用技術であった。 審判甲第1号証に接した当業者は、上記前提と上記周知慣用技術を技術常識として、同号証の記載内容を理解するから、「一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器」も、審判甲第1号証に開示されていると解すべきである。 3 取消事由3(相違点の判断(進歩性について)の誤り) 仮に、本件発明が審判甲第1号証に記載の発明と同一であるとはいえないにしても、審判甲第1号証〜第4号証には「直径の数分の1程度の波長」及びマルチモード導波管における単一モードを発生させる「モード発生器」の必要性がそれぞれ開示されているから、審判甲第1号証に審判甲第2号証〜第4号証を組み合わせることにより当業者が容易に想到し得たというべきである。 しかし、審決は、審判甲第1号証〜第4号証につき、「よって、審判甲第2号証には、「導波管の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号が、一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器により導波管に供給される」との構成は記載されていない。さらに、審判甲第3号証及び審判甲第4号証の記載事項をみても「導波管7の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号が、一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器11により、導波管7へ供給される」の構成は記載されていない。」(別紙審決の理由174〜179行)と認定するが、誤りである。 (1) 審判甲第2号証について @「マイクロ波の無線中継機の特性である約2db/マイルという減衰が、50,000メガサイクル(波長0.6センチ)の搬送波周波数を用いた場合に、直径約2インチ(5.08センチ)の銅の管で理論上得られる。」(1209頁)及び「通信実験が、500フイートの直径4.73インチI.D銅管内(直径12センチ)で9,000メガ・サイクル(波長3.3センチ)において伝送して行われた。」(1259頁)の記載によれば、「直径の数分の1の波長」を使用した送信実験が開示されている。 A「どのような中空の金属導波管……も、断面積を適当な値まで大きくすることによって、……減衰を……小さくできる……。欠点は、伝送媒体が、モードとして知られるいくつかの特徴的な仕方でエネルギーを伝達できるようになるという点である。マルチモード伝送媒体の著しい特徴は、一つのモード……が、他のモード……が存在するかしないかには全く依らず変化しないということである。」(1212頁)の記載によると、導波管の直径を大きくすることにより複数のモードが生じることが開示されている。したがって、審判甲第2号証には、導波管波長に比べガイドの横断面積を相対的に大きくする際に生じる不要な伝搬モードの発生の知見はないという審決の認定(別紙審決の理由170〜173行)も誤りである。 B「多くのモードが存在できる……大きな寸法の導波管を使う必要があるという事実は……研究に多大な影響を与える。……マルチモード導波管では、断面、曲がり、捻れなどを変える場合は、……モードの純粋さに関しても、設計上の注意が必要とされ、……任意の形状のプローブやアイリス(絞り)を挿入することは許されない。……純粋モード発生器やモードフィルター……に対してだけでなく、周波数選択フィルタ、ハイブリッド、減衰器……に対しても、……新しい技術が必要とされる」(1213頁)の記載によれば、複数のモードが発生する大きな寸法の導波管では、純粋モード発生器が必要とされ、単一モードだけを選択することの必要性及びその達成手段(モード発生器(1254頁図27))が開示されている。 (2) 審判甲第3号証について 一般的に、z方向電場成分を持たない横断電界波(TEm,n)とz方向磁場成分を持たない横断磁界波(TMm,n。)が導波管内を伝搬すること(8-7頁)、モードの個数が周波数(最低モードを1とした相対周波数)が高くなるにつれて増加する様子(8-9頁図6、8-11頁図8)によれば、周波数が高く(波長が小さく)なれば、導波管内に複数のモードが存在し得ることは周知の事実である。 (3) 審判甲第4号証について @「単一モード動作については、すべての努力はモードの純粋性を維持するために行われ、そして目的は欲しない伝搬モードの存在の検出と最小化である。……一方、真のマルチモード動作については、例えば、モード変換器、方向性結合器、フィルタ等の設計に使用されるような、さまざまなモード間の感知できるほどのエネルギーの交換を発生する不連続性に、しばしば関心が持たれる。この場合は、不連続性についてのネットワーク特性の正確で完全な知識が必須となる。」(102頁右欄) A「E01 及びH 01 モードとを互いに結合するために、不連続性構造は、導波管軸を含むいかなる平面について対称な反射を有してはいけない。典型的なシャント、 すなわち、薄い横断方向の、E01 ‐H 01 不連続性が図6の写真の上右角に示されている。」(106頁左欄〜右欄、図6) B「図9の実験的な共鳴ダイアグラムが、らせん形E01-H01モード不連続性から得られた。このらせん形不連続性構造は、図10に示されるように、……6つの対称的に配置された対数らせん形からなる。」(109頁右欄、図10) このとおり、審判甲第4号証には、マルチモード円形導波管においてE01 モードとH01 モードとの結合のための構造(スパイラル形状の不連続構造)が示されている。「不連続」はマイクロ波のモードを単一モードに変換する機構を意味する。すなわち、マルチモード導波管において単一モードにするための「モード変換器」を使用することが開示されている。 (4) 以上のとおり、審判甲第1号証〜第4号証には、導波管の直径の数分の1の波長を使用して送信実験を行ったこと、径の大きな導波管を使用するとマイクロ波に複数のモードが生じること、その中から単一モードを選択すべき必要性、その解決手段としてモード発生器を開示しており、仮に審判甲第1号証に複数のモードから単一モードを選択すべき必要性や、モード発生器の必要性が開示されていないとしても、審判甲第2〜第4号証と組み合わせることによって、当業者は容易に本件発明に想到できたというべきである。 (5) 被告は、審判甲第1〜第3号証について、審決が認定した事項以外の事項に基づき審決の違法性を主張することは、無効審判において審理の対象にならなかった主張であるから許されない、と主張するが、原告は、無効審判でこれら各証拠と審判甲第1号証との組合せにより進歩性を否定する主張をしている。 4 取消事由4(本件第2発明の特許性の判断の誤り) 審決は、本件第2発明について、「したがって、第2の発明は、審判甲第1号証記載の発明と同一のものではなく、また、審判甲第1号証乃至審判甲第4号証記載の発明に基づいて当業者が容易に導き出し得るものでもない。」(別紙審決の理由221〜223行)と認定するが、本件第1発明における各取消事由と同様の理由により、誤りである。 |
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審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1(本願発明の技術的意義の判断の誤り)に対して (1) 本件明細書には、従来技術に関し以下の記載がある。 @「タンクを経て下方に伸びる導波管に、レーダー波を導く方法がある。この方法によるレベル測定は、例えば米国特許第4359908号明細書に開示されているように、すでに、試みられてきているが、……この導波管は1モード伝搬を可能にする大きさの、……円筒状の金属製パイプである。円筒状導波管についていえば、波長λは、パイプの内径の1.3倍乃至1.7倍にしなければならないことを意味し、……代表的レーダー周波数に対し、パイプの直径は、せいぜい数cm程度にしかならない。」(4欄〜5欄) A「このような導波管には、つぎのような問題点がある。タンクの中味が、ワックスに富んだ原油である場合、パイプが目詰まりを起こす。……レーダー波の伝搬に致命的な影響を受ける。パイプの腐蝕……のため、高価な材料を使ってパイプを作るか、またはその内側を貴金属で塗被する必要が生じてくる。伝搬速度は、……正確に一定に保つことが、絶対的に必要となる。」(5欄) B「従来のタンクの中にある同じ導波管は、もともと機械的測定装置として用いられるフロートを入れるためにつくられたものであり、従って、その直径は、通常、20〜30cm程度であることが望ましいとされている。もし、このような貯蔵装置を有するものを、レーダー測定装置に切り換える際、従来のタンクの基本的構成を変えずに設置することができる。また、フロートによる測定のために使われてきた大きなパイプを、引き続いて使用できるとしたら、大いに価値のあることである。」(9欄) 本件明細書には、本件発明に関し以下の記載がある。 C「本発明の目的は、容器に貯蔵されている液体若しくはその他の流動材料のレベルを、レーダーによって正確に測定するための方法および装置を提供することである。本発明を使用すれば、容器を経て伸びるパイプを導波管として用いる際に起こる前述の問題点を解決することができる」(8欄) D「タンクに設置できる測定装置を提供する問題に対して取り得る本発明の解決手段は、タンクのパイプを導波管7として使用し、この導波管7に、モード発生器11により発生するマイクロ波信号を送信することである。モード発生器11は、 導波管7につけられ、かつ信号伝搬のただ一つの主モードを生成するように配置される。」(9欄) E「本発明では、これらの問題点を解決するため、レーダー放射が、あらゆる不要な導波管モードを抑制して導くことができるような相当に大きな導波管が使用される。この導波管として、多くの場合、タンクに現在取り付けられているパイプに使用できる」(5欄) F「本発明による導波管を用いて、正確な距離測定を行うために必要なことは、 あらゆる不要な伝搬モードを抑制することである。……不要モードと所望モードとの間の商に基づく代表的要求値は、25dBになる。」(7欄) 以上によれば、本件発明は、「直径の数分の1程度の波長」により従来の単一モードの導波管と比較して内径の太い導波管(パイプ)を使用するとともに、「モード変換器」により不要な伝搬モードを抑制するものであり、その結果、上記二つの課題を解決し、単一モードの導波管にはない効果を得るものである。本件発明の技術的意義について審決がした認定に誤りはない。 (2) 審判甲第3号証の8-10頁TABLE 1には、直方体導波管の「TE10モードの推奨動作範囲」として0.32GHzから325GHzの周波数範囲が示される。同範囲に対応する波長範囲は90cmから0.1cmである。当業者はこの範囲の波長を任意に選択することができるので、「当然3cm程度の波長になる」ものではない。 また、上記記載@によれば、従来技術のパイプの直径は「せいぜい数cm程度」(本件明細書5欄)であり、「当然20〜30cmになる」ものではない。「直径の数分の1程度」は従来技術の設計事項でも必然的帰結でもない。 (3) 上記記載@によれば、従来のレベル測定では単一モードの導波管を用いる。 このことは、本件明細書の「逆に、導波管が1モード伝搬を有する場合、λは、λcの75〜100%であり、」(6欄)、「1モード伝搬を有する通常の導波管に対し、 この係数は一般に2/3である。」(6欄)及び「例えば、マルキュビッツ(Marcuvicz)著、「導波管ハンドブック」(Waveguide Handbook)、マグローヒル(McGrawHill)、1951年に記載されている。銅製の1モード導波管を用い、」(6欄〜7欄)の記載からも明らかである。 上記記載D、E、Fによれば、本件発明は、従来のような単一モードの導波管ではなく、複数モードの導波管を用いることを前提とし、存在する不要な伝搬モードを「モード変換器」により抑制するものである。本件発明では、使用する導波管の直径が従来のレベル測定とは異なるとともに、導波管の直径とモード発生器とが密接に関連するものである。 2 取消事由2(相違点の判断(新規性について)の誤り)に対して (1) 直径の数分の1程度の波長について 審判甲第1号証の「また、式(12)から、距離測定の精度を高めるため、比λg/λc及びλg/λoを減少させるには、作動点を遮断周波数よりもはるかに高くすることが望ましいことも明らかである。」(88頁右欄)の記載は、「作動点の波長は遮断波長よりもはるかに小さい」の意味である。この記載は、作動点の波長(周波数)に言及するもので導波管の直径に言及するものではない。さらに、遮断波長が直径の定数倍であるとしても、「直径の数分の1程度の波長」という具体的な数値限定を示唆するものではない。 「直方体導波管内の空気-液体境界での電磁波の反射」(88頁の図の表題)、 「入力・反射係数……は、水を満たした矩形のWG90型導波管を使用し、10GHzの周波数により室温において計測した。」(90頁左欄)、及び、「TABLE II」のNote(91頁右欄)の各記載によれば、審判甲第1号証の導波管は「WG90型導波管」である。 他方、審判甲第3号証(8-10頁の「TABLE 1 矩形導波管の特性」)によれば、「WG90型導波管」は、矩形導波管(長辺0.9インチ×短辺0.4インチ)であり、伝搬モードは「1モード伝搬」(TE10 (H 10 )モード)であり、推奨作動周波数範囲は8.2〜12.4GHz(作動波長は3.65〜2.42cm(1.44〜0.95インチ))である。 審判甲第1号証の導波管の形状は「矩形」であるから、「直径」なる概念はない。また、上記作動波長は導波管のどの辺よりも長く、(長辺a/波長λ)は1.6〜1.1であるので、直径を波長よりも大きくするとの技術思想はない。 以上のとおり、審判甲第1号証は、導波管の「直径」の概念はもとより、「直径の数分の1程度の波長」を開示するものではない。 (2) モード発生器について 本件発明は、円形導波管における複数モードを前提として「モード発生器」を適用するものである。これに対して、審判甲第1号証に記載の「WG90型導波管」の伝搬モードは、前記のとおり、矩形導波管における「1モード伝搬」(TE10 (H 10)モード)である。したがって、審判甲第1号証は「モード発生器」の構成を示唆するものではない。 審判甲第2号証の「導波管の直径を大きくし、マイクロ波の波長を小さくすることにより、マイクロ波の損失を減らして正確な測定ができることが開示されている。そして、TE01 モード(H 01 モードと同義)が持つ特異な損失特性のため円形導波管に使用するのに好適である」旨の記述(1213頁、1215頁)、又は、審判甲第3号証のFig.9によれば、矩形導波管と円形導波管ではマイクロ波の伝搬は大きく異なるから、審判甲第1号証の「矩形導波管における単一モード」から、「円形導波管における単一モード」を類推できるものでもない。 原告は、審判甲第1号証に接した当業者は、複数モードにおいてはモード発生器を用いること、マイクロ波装置にモード発生器を備えること、以上が周知慣用技術であることを技術常識として同号証の内容を理解するから、「モード発生器」も審判甲第1号証に開示されていると解すべきであると主張する。しかし、前記のとおり、審判甲第1号証には、「矩形導波管の単一モードでの作動」だけが開示されているから、複数モードの存在を前提とした原告の主張が成り立つ余地はない。 マイクロ波装置にモード発生器を備えることは周知技術であることの原告が援用する甲第7〜第17号証は本訴において初めて提出されたものであり、本件審判で提出されておらず、これに基づき特許無効の主張を追加して審決の取消しを主張することは許されない。仮にそれが許されるにしても、これらに記載のものはいずれも単一モードを前提としている。 3 取消事由3(相違点の判断(進歩性について)の誤り)に対して 審決は、審判甲第2号証につき「(オ)及び(カ)」を、審判甲第3号証につき「あらゆる横断面形状の導波管にも適用できる一般式として式(25)を掲げている」旨を、審判甲第4号証につき「マルチモードの円形導波管においてE01モードとH01モードとの結合のための不連続について記載があり、そのための構造の一例として、第109ぺ一ジの図10にスパイラル形状の不連続構造が示されている」旨をそれぞれ認定した。 一方、進歩性に関する原告の本訴における主張は、上記各甲号証について審決が認定した上記記載事項以外の記載事項を根拠とするものであるところ、これは、訴訟において新たに無効の主張を追加することに等しく、許されない。また、審決がした相違点に関する判断に誤りはない。 4 取消事由4(本件第2発明の特許性の判断の誤り)に対して 本件第1発明における各取消事由に対してした主張と同様の理由により、審決に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(本願発明の技術的意義の判断の誤り)について (1) 甲第2号証(本件特許公報)によれば、従来技術に関し本件明細書4欄以下の(従来の技術)の項及び9欄に以下の記載があることが認められる。 @「タンクなどに入っている液体……のレベルを測定するのに、レーダーが使用されることがある。……レーダー搬送波の波長(は)……例えば3cmという値である。」 A「タンクを経て下方に伸びる導波管に、レーダー波を導く方法……によるレベル測定は、……すでに、試みられてきているが、使用されるレーダー周波数範囲に合わせるため、通常の導波管の直径を相当に小さくしなければならない……この導波管は1モード伝搬を可能にする大きさの、……円筒状の金属製パイプで……波長λは、パイプの内径の1.3倍乃至1.7倍にしなければならない……代表的レーダー周波数に対し、パイプの直径は、せいぜい数cm程度にしかならない。」 B「このような導波管には、次のような問題点がある。タンクの中味が、ワックスに富んだ原油である場合、パイプが目詰まりを起こす。」 C「導波管によって、距離を測定する場合、実際の距離Lより大きい見かけ上の距離Lsが得られ、……次式によって表すことができる。……上式において、……λcは……(遮断波長)を表し、基本モードに対するその値は、パイプの直径の1.71倍である。……導波管が1モード伝搬を有する場合、λは、λcの75〜100%であり、 かつLsは、Lより相当大きくなる。……また、……Ls/Lの相対的変化は、λ若しくはλcの相対的変化に比例する……1モード伝搬を有する通常の導波管に対し、この(比例)定数は一般に2/3である。原油を測定する際、……同じ精度(約10-4)が、パイプの直径と周波数について要求されるが、実際問題それは不可能である。」 D「銅製の1モード導波管を用い、その直径が約2cm、λ=3cmとすると、……減衰があまりに激しくて、正確なレベル測定には使えない。……パイプの直径が大きくなると、減衰が減少する理由はよく知られている。」 E「上式から、λcがλに比べ大きい場合、言い換えれば、パイプの直径が、波長λに比べ大きい場合、真の値Lに近い実測値Lsが得られることが分かる。」 F「正確な距離測定を行うために必要なことは、あらゆる不要な伝搬モードを抑制することである。」 G「もし、このような(従来の)貯蔵装置を有するものを、レーダー測定装置に切り換える際、従来のタンクの基本的構成を変えずに設置することができる。また、フロートによる測定のために使われてきた大きなパイプを、引き続いて使用できるとしたら、大いに価値のあることである。」(9欄) (2) 本件発明に関しては、本件明細書(甲第2号証)に以下の記載があることが認められる。 H「本発明の目的は、容器に貯蔵されている液体若しくはその他の流動材料のレベルを、レーダーによって正確に測定するための方法および装置を提供することである。本発明を使用すれば、容器を経て伸びるパイプを導波管として用いる際に起こる前述の問題点を解決することができる」(8欄) I「本発明では、これらの問題点を解決するため、レーダー放射が、あらゆる不要な導波管モードを抑制して導くことができるような相当に大きな導波管が使用される。この導波管として、多くの場合、タンクに現在取り付けられているパイプに使用できる」(5欄) J「タンクに設置できる測定装置を提供する問題に対して取り得る本発明の解決手段は、タンクのパイプを導波管7として使用し、この導波管7に、モード発生器11により発生するマイクロ波信号を送信することである。モード発生器11は、 導波管7につけられ、かつ信号伝搬のただ一つの主モードを生成するように配置される。」(9欄) (3) 上記各記載によれば、 円筒導波管を使用した従来のレベル測定方法では、作動波長は基本モードのみが存在する波長範囲(注:基本モードの次のモードTM01 (E 01 )の遮断波長(直径の1.3倍)〜基本モードTE11 (H 11 )の遮断波長(直径の1.7倍))に設定されていたこと(以下、「1モード伝搬」)、 しかし、この「1モード伝搬」では、レーダー搬送波として代表的レーダー搬送波(例えば、波長3cm)を使用したときは、導波管の直径は「せいぜい数cm程度」にしかならず、この直径では原油などの測定の場合には「目詰まり」の問題点が発生すること、 また、「1モード伝搬」では、「搬送波波長λ又は遮断波長λcの相対的変化」に対する「見かけ上の距離と実際の距離との商(Ls/L)の相対的変化」の比例定数は一般に2/3であるので、原油などの測定の場合に約10-4の測定精度を達成することは不可能であったこと、 が認められ、さらに、上記代表的レーダー搬送波(例えば、波長3cm)に対して1モード導波管(直径約2cm)を用いたときは、減衰が激しくて正確なレベル測定には使えないことが認められる。 (4) 以上、従来の問題点は、代表的レーダー搬送波の波長を基準とし、導波管として「1モード伝搬」の導波管を使用していたために、導波管の直径が小さくならざるを得なかったことに起因していたものと認められる。 一方、導波管の直径が波長λに比べ大きい場合(λcがλに比べ大きい場合)には、真の値Lに近い実測値Lsが得られるとともに、減衰も減少すること、正確な距離測定には不要な伝搬モードを抑制する必要があることの事実も認められる。 そして、本件発明は、上記「1モード伝搬」導波管の各問題点に対して、上記事実に基づき、不要な伝搬モードを抑制することができる限度で、直径が波長に対して相当に大きな導波管を使用するとともに、一つだけの伝搬モードのマイクロ波信号を送信するものであることが認められる。その結果、本件発明では、従来と同じ波長を使用したとしても従来の直径(せいぜい数cm程度)よりは大きな直径が可能となり、上記目詰りを防止することができるばかりでなく、導波管として従来のフロート用パイプを利用することが可能となるとともに、比例定数も小さくできるので10-4の測定精度を得ることも可能となることが認められる。 以上によれば、本件発明の技術的意義として「目詰まりの防止」や「フロート用パイプの利用」にあるとすることが誤りであるとはいえず、技術的意義の認定は本件明細書の記載に基づかないとの原告主張は理由がない。なお、「測定精度」も本件発明の技術的意義の一つであるということはいえるが、審決がこの技術的意義に言及しなかったとしても、審決の結論に影響を及ぼすものとは認められない。 原告が援用する本件明細書の記載及び同明細書において引用された「microwave JOURNAL」(1982年12月)(甲第18号証)の記載をもってしても、上記判断は左右されるものではない。 2 取消事由2(相違点の判断(新規性について)の誤り)について (1) 導波管の一般的特性(1モード伝搬と複数モード伝搬)について 甲第5号証によれば、導波管のモードに関する審判甲第3号証の記載として、以下の事項があることが認められる。 ◇ 遮断波長と呼ばれる値より大きい波は導波管内に実質的に伝搬しないが、より短い波長(より高い周波数)でのエネルギーは低い損失のさまざまな可能なモードで伝搬できる。第1のモードは、優勢なモードであるため、一番重要である。すなわち、このモードのみが伝搬できる……周波数範囲が存在する。 ◇ 矩形導波管について優勢なモードはTE10 モードである。円形導波管についてTE11 優勢モードは円形導波管の主要モードであり、矩形導波管の優勢TE 10モードと多くの点で類似する 審判甲第3号証の図6及び図8には、矩形導波管と円形導波管の各モードの遮断周波数(優勢モードに対する相対値)が示されている。 そして、審判甲第4号証(甲第6号証)のTABLEIによれば、円形導波管の基本モード及び第2モードの遮断波長はそれぞれ直径の「3.412/2」倍及び「2.613/2」倍であることが明らかであるから、TE11による「1モード伝搬」の作動波長は直径よりも大きいことになる。 以上によれば、導波管の一般的特性として、導波管内を伝搬できる波長には上限(遮断波長)があり、同遮断波長より短い波長の波は低損失で伝搬できること、遮断波長は各モードごとに存在し各々異なっていること、ただ一つのモード(基本モードであり、優勢モードであり、第1モードと称される。)のみが伝搬できる波長範囲(基本モードの遮断波長とその次のモードの遮断波長との間の範囲)が存在すること、基本モードで第1モードの次のモードの遮断波長よりも短い波長範囲では複数のモードが混在して伝搬できること、遮断波長はモードごとに異なるもののいずれも直径の定数倍であること、が認められ、さらに、基本モードは、矩形導波管ではTE10 (H 10 )モードであり、円形導波管ではTE 11 (H 11 )モードであることが認められる。 (2) 本件発明の作動波長について 本件発明1の「直径の数分の1程度の波長」及び本件発明2の「直径が波長より相当大きい」は、波長が直径よりも小さい領域にあるということであるから、上記(1)で説示したところを当てはめると、いずれも複数の伝搬モードが存在する領域にあることになる。したがって、「直径の数分の1程度の波長」及び「直径が波長より相当大きい」は「複数モード伝搬」を意味することになる。 そして、「正確な距離測定を行うために必要なことは、あらゆる不要な伝搬モードを抑制することである。もしそうでないと、一般に異なる伝搬モードは、パイプ中で異なる速度を持っているので、正常なエコーが、異なる距離からくる複数のエコーとして解釈されてしまう。」(本件明細書4頁7欄。甲第2号証)のであるから、そこで、本件発明は、「一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器」を設置したことも明らかである。 以上のとおりであって、本件発明では、「直径の数分の1程度の波長」又は「直径が波長より相当大きい」が「複数モード伝搬」という導波管の態様を規定し、モード発生器が「モード変換器」として、「複数モード伝搬」態様における不要伝搬モードの抑制という作用を規定するものであり、これら構成が相まって本件発明を実現するものと評価することができる。 (3) 審判甲第1号証について (3)-1 甲第3号証によれば、審判甲第1号証に以下の記載のあることが認められる。 @「(T.はじめに)この論文の目的は、表面レベルの監視のためのマイクロ波方法の利用可能性を確立するための実験の解析を提供する。」(86頁左欄) A「U.動作原理……マイクロ波監視は、空気-液体又は空気-固体境界において反射される電磁波により伝搬される情報を使用する。……【図1】に示されるような監視される表面を持つ液体(例えば、水、オイル、石油)に部分的に浸された垂直な導波管を使用する。この場合、入射電磁エネルギーは液体で充たされた導波管の部分が反射器として働くので境界面で反射される。……距離を測定する両構成においては、原理的にこの距離を伝搬する波の時間間隔を測定している。……相対的に短い距離の正確な測定については、二つの基本的な技術が使用される。……単一周波数変調連続波レーダー(FMCW)と複数周波数連続波レーダー(MFCW)である。第2の方法がより正確であるため、表面レベルの監視のために採用される。」(86頁左欄〜右欄) B「(W.表面及び経路長考察)……距離測定の最終的な正確性は……波長の正確な決定に依存する。……含まれるパラメータの変化の影響を知ることができる。 すなわち……式(12)の……第1項は発振器の周波数安定性に……第2項は透磁率εの変化に依存する。最後の項は導波管断面積の大きさと壁損失の関数である。……式(12)から、距離測定の精度を高めるため、比λg/λc及びλg/λ0を減少させるには、作動点を遮断周波数よりもはるかに高くすることが望ましいことも明らかである。」(88頁右欄) C「X.実験設定 表面レベルを監視するためのマイクロ波のコンセプトの実現性を研究するために、1)……反射係数、2)断面積の大きさの変化及び曲がりが……与える影響、3)……MFCW方法のコンセプト、を評価するために3つの実験が設定された」(89頁左欄) D「Y.結果についての議論 10GHzの周波数で室温において水を入れた直方体導波管WG90の入力反射係数……の測定が実行された。……導波管はH10 モードで励起される……曲げの影響は10GHzの金属弾性領域内で最大変位15cmまでについて測定された。」(90頁左欄〜右欄) E「W節に記載されるような断面変化の影響は、9、10、11、12GHzで測定され、 そして結果がTABLE IIに示される。式(12)から明らかなように予想されるエラーは(λg/λc)2に比例し、これは測定エラーと同じ周波数依存性を持ち、従ってこのエラー源を確認する。」(90頁右欄) F「TABLE IIIには、さまざまな組のマイクロ波周波数(注:8.59GHz〜11GHz)についてMFCW技術の実現可能性の研究の結果が表されている。……TABLE IVは、振幅変調されたマイクロ波信号を利用したMFCWコンセプトの実験的検証の結果を表す。 搬送周波数は8.75GHzに固定され、変調周波数は30、100、及び300MHzであった。」(90頁右欄〜91頁右欄) G「Z.結論 導波管を利用して液体表面レベル監視の非接触的なマイクロ波MFCWレーダー(複数周波数連続波レーダー)を用いることの実現可能性を確立することを目的とした解析的及び実験的研究の結果を開示した。この技術は実現可能と思われる。……このような導波管は、……タンク内の液体レベルを監視するため……使用できる。」(91頁右欄〜92頁左欄) H「我々の研究は、……導波管(の)傾斜……断面の変形……に起因する測定正確性の劣化が実用目的に対しては無視できることを示した。」(92頁左欄) (3)-2 「直径の数分の1程度の波長」又は「直径が波長より相当大きい」との構成について 上記記載によれば、次のとおり評価することができる。 審判甲第1号証は、液面のレベル監視にマイクロ波と導波管を利用する可能性に関し、所定の導波管及び周波数を用いて、「反射係数」、「導波管の断面積変化及び曲げの影響」、「複数周波数による距離測定方法(MFCW)」及び「変調した単一搬送周波数による距離測定方法」を解析・実験した結果、その実現可能性を確認した旨報告する論文である。上記記載A及び図1、2によれば、測定の原理において本件発明と異なるところはない。実験に使用された導波管は矩形導波管「WG90」であり、使用された周波数は、10GHz(反射係数の測定、曲げの影響)、 9、10、11、12GHz(断面変化の影響は(TABLE II))、8.59GHz〜11GHz(複数周波数による方法(TABLE III))及び8.75GHz(変調単一搬送周波数による方法(TABLE IV))であることが認められる一方、これ以外の導波管及び周波数を使用した旨の記載はない。 ところで、審判甲第3号証(甲第5号証)の8-10頁TABLE 1(矩形導波管特性)によれば、「WG90」は、矩形導波管(0.9インチ×0.4インチ)であり、推奨作動周波数8.20〜12.40GHz(波長1.44〜0.95インチ)であることが認められる。推奨作動波長(1.44〜0.95インチ)は長辺(0.9インチ)に対して「1.6〜1.1倍」、短辺(0.4インチ)に対して「3.6〜2.4倍」の範囲にあるから、導波管の仕様は本件発明の比率の範囲外にある。また、審判甲第1号証に記載の実験に使用された上記各周波数も、その推奨作動周波数の範囲内にあるから、実験の態様もまた本件発明の比率の範囲外にある。 上記記載Bによれば、「作動点を遮断周波数よりもはるかに高くする」は、 式(12)の解釈に関する記載であるといえる。すなわち、距離測定の最終的な正確性は導波管波長の正確な決定に依存するとした上で、導波管波長の精度を支配するパラメータの変化の影響を評価するために式(12)を提示し、同式の各項の意味を述べるとともに、波長の精度(同式の左辺)を高めるのに必要な条件(各パラメータの変化に掛かる係数を減少させること)を指摘し、同条件を実現する条件(作動点を遮断周波数よりもはるかに高くすること)を述べたものである。式(12)は、導波管の形状及びモードを前提としておらず、これらに依存しない一般式であることが認められるが、その一般性に照らせば、「はるかに高くする」は、あくまでも、上記係数を減少させることができる周波数範囲を式(12)の解釈として述べた記載にすぎず、具体的設計範囲を提供するものではない、とするのが相当である。 式(12)と実際の導波管とを関連づけた記載は、測定エラーの周波数依存性を調べた実験(TABLE II)のみである。すなわち、式(12)に基づく断面変化の影響の解析によれば、測定エラーは(λg/λc)2に比例することが予想されるところ(計算値)、実験値も同じ周波数依存性を持つことから断面変化が測定エラーの原因となることを確認したとする一方、実験値は実用目的に対しては無視し得ることを示したものである。したがって、式(12)から導かれる(λg/λc)2依存性等を確認するために導波管を使用したというべきで、式(12)から導かれる「作動点を遮断周波数よりはるかに高くする」範囲を導波管の設計数値として適用するものではないと認められる。 また、上記記載は、作動点の波長を遮断波長よりはるかに小さくすると、比λg/λc及びλg/λoがそれぞれ各最小値0及び1/(ε)1/2に近づいて上記係数が減少し、λgの精度が高まり、ひいて距離測定の精度が高まるとの意味であり、作動点の波長の下限を意識したものではない(作動点の波長が、導波管波長λgなのか自由空間波長λoなのか審判甲第1号証には記載がないが、同号証の式(11)によれば双方ともはるかに小さくなることが認められる。)。一方、本件第1発明の「数分の1」は上記「はるかに小さくする」に該当するものではなく、また、本件第2発明の「相当に大きい」は、「あらゆる不要な導波管モードを抑制して導くことができるような相当に大きな導波管」との本件明細書の記載(甲第2号証3頁5欄)によれば、あらゆる不要モードが抑制できる直径であること(不要モードが抑制できないぐらいほどの小さい波長ではないこと(波長に下限があること))が認められるから、本件第2発明も上記「はるかに小さくする」とは異なる範囲であることは明らかである。したがって、仮に、技術的意義のある具体的設計範囲を提供するものであるとしても、本件発明の比率を提供するものではない。 (3)-3 以上のとおり、審判甲第1号証は、マイクロ波によりレベル測定の実現可能性を、式の解析と導波管を使用した実験により確認するものを開示しているところ、「作動点を遮断周波数よりもはるかに高くする」は具体的な設計範囲を示唆するものでもなく、実験に使用された導波管は「矩形」であり比率(波長/長辺)も「1.6〜1.1倍」であるから、本件発明の円形導波管の「直径の数分の1程度の波長」又は「直径が波長より相当大きい」の構成は記載されていない、というべきである。 (4) 「モード発生器」について (4)-1 審判甲第1号証(甲第3号証)には、動作原理図(図1)、実験装置図(図5)及び上記各記載を参照しても、「一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器」の構成に該当する記載はなく、その構成は記載されていないものと認められる。実験に使用した導波管が「1モード伝搬」であることは前記のとおりであるが、一般に「1モード伝搬」では不要伝搬モードを考慮する必要がないことからして、審判甲第1号証は「モード発生器」の構成を示すものではない。「作動点を遮断周波数よりもはるかに高くする」(88頁右欄)場合は「複数モード伝搬」であると推定されるが、審判甲第1号証(甲第3号証)には、同作動点(作動波長)と伝搬モードとの関連につき記載はなく、「複数モード伝搬」に関する記載や「複数モード伝搬」を「不要伝搬モード」と評価する考察も見られないことが認められる。そうすると、上記記載も、モード変換器としての「モード発生器」の構成を示すものではない。 (4)-2 原告は、甲第7号証、甲第8号証及び甲第9号証〜第17号証を挙げ、マイクロ波を用いたレベル測定装置にマイクロ波を特定のモードに統一する機構を設けることは、本件出願時に周知慣用技術であるから、審判甲第1号証に接した当業者は、測定モード以外の他モードも存在し得る多モード状況下ではモード発生器を用いることを当然の前提として、同号証の記載内容を理解するものであるので、 「一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器」も審判甲第1号証に開示されていると解すべきであると主張する。 しかしながら、甲第7号証(実開昭49-61565号公報)は「マイクロ波レーダーを用いて鋳造鋳型の熔鋼レベルを測定する装置」(1頁)において「単に筒状ガイドを設置するだけの改良によって……レベル測定を精度よく行なうことができる」(5頁)ものであり、甲第8号証(実開昭55-60526号公報)は「マイクロ波の伝搬時間を利用してタンク内の液体水位を測定する装置」(1頁)に関し、従来「受信機に受信される反射波は……タンクの壁面、……梁やパイプ、……船底等からの妨害反射波があり、更には多重反射波も含まれる。」(1頁〜2頁)ところ、「妨害反射波は本来の液面反射波とは異なる周波数帯域にあることから、 ……バンドパスフィルタを通すことにより妨害波信号の除去を行っている。」(2頁)のに対して、「本考案の測定装置はマイクロ波を送出する基準送出端と被測定液面との間の電波伝播経路を導波管で構成したので……妨害反射波や多重反射波の生成及び電波強度の変動等を防止する」(8頁〜9頁)ものであり、マイクロ波を用いたレベル測定装置は開示するものの、伝搬モードに言及するものではない。 また、甲第9号証〜甲第17号証(いずれも特許出願公告公報)によれば、特定モードの励振、不要モードの減衰又は特定モードから特定モードへの変換を行うモード励振装置、モード濾波器又はモード変換器自体が周知事項であることは認められるが、通信分野への応用を主とするもので、「複数伝搬モード」態様の導波管を使用したレベル測定への応用を想定した記載は認められない。 そうすると、上記審判甲号各証及び甲号各証からは、マイクロ波を用いたレベル測定装置にマイクロ波を特定のモードに統一する機構を設けることが周知事項であったと認めることはできない。 (5) 以上のとおりであって、相違点について審決がした新規性についての判断に、原告主張の誤りはない。 3 取消事由3(相違点の判断(進歩性について)の誤り)について (1) 原告は、審判甲第1〜第4号証には、直径の数分の1の波長を使用した送信実験、径の大きな導波管を使用すると複数のモードが生じること、その中から単一モードを選択すべき必要性、その解決手段としてモード発生器を開示しており、仮に審判甲第1号証に複数のモードから単一モードを選択すべき必要性や、モード発生器の必要性が開示されていないとしても、審判甲第1〜第4号証と組み合わせることによって、当業者は容易に本件発明に想到することが可能であったと主張する。 まず前記のとおり、審判甲第1号証に記載の発明は「矩形」であり「1モード伝搬」であって波長は長辺の「1.6〜1.1倍」である上に、「作動点を遮断周波数よりもはるかに高くする」の記載は式(12)の解釈を示すもので具体的設計値を示唆するものではないばかりか、作動点(作動波長)と伝搬モードとの関連や「複数モード伝搬」を「不要伝搬モード」と評価する考察も見られない。審判甲第1号証には、 直径を波長よりも大きくし「複数モード伝搬」態様で作動させるという認識や、不要伝搬モードを抑制することの認識はないというべきである。他方、審判甲第2号証の「直径の数分の1の波長」の例は、通信用導波管に適用される理論値及び実験値であり、レベル測定用途の数値ではない。 このように、審判甲第1号証に記載の発明が直径を波長よりも大きくするとの動機を欠く一方、審判甲第2号証の数値はレベル測定用導波管の数値でもないので、 「直径の数分の1の波長」の例があるからといって、同数値を単純に適用することはできないというべきである。また、審判甲第2号証(甲第4号証)には、導波管の直径を大きくすると複数のモードが生じること、複数のモードが発生する寸法の導波管では純粋モード発生器などが必要となること、また、審判甲第3号証及び審判甲第4号証にも同各事項と同趣旨の事項がそれぞれ記載されているが、いずれにもレベル測定用途につき記載のないことが認められる。 審判甲第1号証に記載の発明が不要伝搬モードを抑制するとの認識を欠く以上、 これらを審判甲第1号証に適用することはできず、本件発明の「一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器」に至ることは容易ではないというべきである。「microwave JOURNAL」(1982年12月)(甲第18号証)には、グラフの座標上「直径の数分の1程度の波長」に相当するD/λの範囲(2〜8)が示されているが、同範囲を選択することにつき記載はない。また、直径Dが大きくなるほど減衰が減少すること、複数モードには「モード発生器」を具備すべきことが記載されているが、これも通信用途を想定したものでレベル測定用途についての記載ではない。 (2) 結局、本件発明は、「導波管の目詰りの防止」及び「従来のフロ-ト用パイプの利用」という効果を奏するところ、審判甲第1号証〜審判甲第4号証にはこれらに関する記載はなく、これらを予測することができるものでもないということができる。 4 取消事由4(本件第2発明の特許性の判断の誤り)について 本件第2発明の「直径が波長より相当大きい」についても「直径の数分の1程度の波長」と同様であることはこれまで説示したとおりであり、本件第2発明についての審判請求を成り立たないとした審決の認定判断に誤りはない。 |
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結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。 (平成14年10月17日口頭弁論終結) |
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追加 | |
平成12年(行ケ)第403号平成11年審判第35078号審決の理由1.手続きの経緯・本件発明本件特許第1734107号発明は、昭和60年4月25日(パリ条約による優先権主張1984年4月25日、スウエーデン国)に出願され、平成4年4月23日に出願公告(特公平4-23726号)がされた後、平成5年2月17日に設定登録がなされたもので、その発明の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項及び第3項に記載された次のとおりのものである。 「1.導波管7を介して送信機から供給されるマイクロ波信号を使って、容器1に貯蔵されている流動材料3のレベル10を測定する方法であって、 前記導波管7は、容器を経て下方へ垂直に伸び、かつ該導波管7内の材料のレベル10が、周囲の材料のレベルと等しくなるよう、容器1と連通しており、また、前記信号は、前記レベル10で反射されて導波管7を通り、かつ電子ユニットで信号処理された後、容器1内の材料のレベル10を決定しうるようになっている受信機へ導かれるようになっており、かつ導波管7の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号が、一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器11により、導波管7へ供給されるようになっていることを特徴とする容器内流動材料のレベル測定方法。」(以下、第1の発明という。)「3.容器1内の流動材料のレベル測定装置であって、導波管7にマイクロ信号を供給するための送信機14と、反射されたマイクロ波信号を受信するための受信機と、受信信号を用いることによって、容器中の材料のレベル10を決定しうるようになっている電子ユニットとから成り、前記導波管7は、容器1を経て垂直に下方へ伸び、かつマイクロ波信号を反射する該導波管7内の材料のレベル10が、周囲における材料のレベル10と等しくなるよう、容器1と連通している測定装置において、 送信機14と導波管7との間に、一つだけの信号の主伝搬モードを生成しうるモード発生器11があり、かつ導波管7の直径が、波長より相当に大きいことを特徴とする容器1内の流動材料のレベル測定装置。」(以下、第2の発明という。)2.審判請求人の主張審判請求人は、証拠として、 ・審判甲第1号証:IEEETRANSACTIONSONINDUSTRIALELECTRONICSANDCONTROLINSTRUMENTATION,August1971,Vol.IECI-18,No.3,P85〜92STANLEYS.STUCHEY他による「MicrowaveSurfaceLevelMonitor」・審判甲第2号証:THEBELLSYSTEMTECHNICALJOURNAL,VOLUMEXXXIII,No.6,NOVEMBER1954,P1209〜1265,S.E.MILLERによる「WaveguideasaCommunicationMedium」・審判甲第3号証:RadarHandbook,MERRILLI.SKOLNIL編,1970年McGRAW-HILLBOOKCOMPANY発行,P8-7〜8-33・審判甲第4号証:IRETRANSACTIONSONMICROWAVETHEORYANDTECHNIQUES,P102〜110,L.B.FELSEN他による「MeasurementofTwo-ModeDiscontinuitiesinaMutimodeWaveguidebyaReasonanceTechnique」を提出し、 「本件特許の特許請求の範囲第1項に記載された第1発明及び同第3項に記載された第2発明は、いずれも審判甲第1号証に記載された発明であるか、少なくとも、審判甲第1号証の記載に、審判甲第2号証、審判甲第3号証、及び、審判甲第4号証から明らかな当業者の技術常識を参照することにより、当業者が容易に発明できたものである。 よって、本件特許は、特許法第49条第1項第1号の規定に違反して与えられたものであるから、同法第123条の規定により無効とされるべきである。」旨主張している。 3.審判甲第1号証乃至審判甲第4号証の記載事項・審判甲第1号証には、以下の事項が記載されている。 (ア)「一般に、2つの基本的配置が可能である。第一に、図1に示すように、液面をモニターすべき液体(例えば、水、油、石油など)に部分的に挿入した垂直の導波管を使用するものがある。この場合には、導波管の充満された部分が反射器として働くので、入射電磁エネルギの一部は界面において反射される。系が閉じているので、周囲の物体による寄生反射はない。第2のスキームは、図2に概略的に示すように、測定される固体表面からの自由空間反射が用いられる。利用可能な反射パワーは、モニターされる粗い表面における散乱現象に依存する。明らかに、このスキームは、周囲の物体の存在による寄生反射の影響を受ける。」(86ページ左欄22行〜36行)(イ)Fig.1には「送信機」と「受信機」を有する点がみてとれ、また、拡大図には導波管内の液体のレベルが、周囲の液体のレベルと等しくなっていることがみてとれる。 (ウ)「距離測定の精度を高めるためには、λg/λc及びλg/λoの比を減少させるので、遮断周波数よりもはるかに高い作動点が望ましいことは、式(12)からも明らかである。」(88ページ右欄の(12)式の下のパラグラフ5行〜9行)(エ)「一例を挙げれば、H01モードで作動する矩形状の導波管に対して」(89ページ左欄6行〜8行)・審判甲第2号証には、以下の事項が記載されている。 (オ)「与えられた周波数では、いずれのモードについても、損失は、ガイドの横断面積を大きくすることにより望むだけ減少させることができるが、ガイドサイズの増加に伴い、他のいずれのモードにおけるよりもはるかに急速に損失が減少するモードがある。これは、直線状の丸形パイプにおける円形電気(TE01)モードである。円形電気モードの直線状丸形パイプの金属壁では、伝搬の方向に電流が流れなくなる。伝搬の方向に電流が流れないことにより、円形電気電波減衰が、周波数の増加に伴って無限に減少することになる。」(1213ページ18行〜24行)(カ)「円形電気電波の尋常ではないこの損失対周波数特性の結果として、与えられた損失を達成するために必要な直径は、搬送周波数の増加に伴って減少する。これは、図3及び4にTE01と付記された曲線により示されている。高次の円形電波(TE0m)以外の他の導波モードは、主ウエーブ(TE11)について表した図3及び4に示す一般的形態の特性を有する。」(1215ページ1行〜7行)・審判甲第3号証の8‐9ページには、あらゆる横断面形状の導波管にも適用できる一般式として式(25)を掲げている。 ・審判甲第4号証には、マルチモードの円形導波管においてE01モードとH01モードとの結合のための不連続について記載があり、そのための構造の一例として、第109ページの図10にスパイラル形状の不連続構造が示されている。 5.対比・判断5-1.第1の発明について(a)一致点及び相違点の認定審判甲第1号証記載の「導波管」、「入射電磁エネルギ」、「液体」、「液面モニター」は、第1の発明の「導波管7」「マイクロ波信号」、「流動材料3」、 「レベル10を測定」に相当し、液体を容器に貯蔵することは技術常識であり、審判甲第1号証のものも液面をモニターする以上反射波による信号を電子ユニットにより信号処理することは自明なものであるから、第1の発明と審判甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者は「導波管を介して送信機から供給されるマイクロ波信号を使って、容器に貯蔵されている流動材料のレベルを測定する方法であって、前記導波管は、容器を経て下方へ垂直に伸び、かつ該導波管内の材料のレベルが、周囲の材料のレベルと等しくなるよう、容器と連通しており、また、前記信号は、前記レベルで反射されて導波管を通り、かつ電子ユニットで信号処理された後、容器内の材料のレベルを決定しうるようになっている受信機へ導かれるようになっている容器内流動材料のレベル測定方法」の点で一致し、次の点で相違する。 <相違点>第1の発明では、「導波管の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号が、一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器により、導波管へ供給されるようになっている」のに対して審判甲第1号証記載の発明では、その旨の記載がない点。 (b)相違点の技術的意義本件第1の発明の「導波管の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号が、一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器により、導波管へ供給されるようになっている」との構成の技術的意義を考察すると、第1の発明は、 第1に「波長λは、パイプの内径の1.3倍乃至1.7倍にしなければならないことを意味し、従って、代表的レーダー周波数に対し、パイプの直径は、せいぜい数cm程度にしかならない。」(本件特許公告公報明細書3ページ左欄11行〜15行)こととなり、そのため「タンクの中味が、ワックスに富んだ原油である場合、パイプが目詰まりを起こす。」(同3ページ左欄18行〜19行)という問題点があること。 第2に「従来のタンクの中にある同じ導波管は、もともと機械的測定装置として用いられるフロートを入れるためにつくられたものであり、従って、その直径は、 通常、20〜30cm程度であることが望ましいとされている。もし、このような貯蔵装置を有するものを、レーダー測定装置に切り換える際、従来のタンクの基本的構成を変えずに設置することができる。また、フロートによる測定のために使われてきた大きなパイプを、引続いて使用できるとしたら、大いに価値のあることである。」(同5ページ左欄4行〜14行)ことの二つの技術的課題を有するものである。 そして、第1の発明では上記第1及び第2の技術的課題を解決するために、「導波管の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号」を採用するものである。 またさらに、本件特許公報明細書に「レーダー放射が、あらゆる不要な導波管モードを抑制して導くことができるような相当に大きな導波管が使用される。」(同3ページ左欄34行〜36行)「本発明による導波管を用いて、正確な距離測定をおこなうために必要なことは、 あらゆる不要な伝搬モードを抑制することである。」(同4ページ左欄35行〜37行)に記載されているように、本件第1の発明は、「導波管の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号」との構成を採用したことにより、不要な伝搬モードの発生という新たな課題が生じるものであり、該不要な伝搬モードを抑制するために、第1の発明では、さらに「一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器」の構成を付け加えたものである。 つまり、本件第1の発明では「導波管の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号」の構成と「一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器」の構成とが相俟って上記技術的課題を解決するものである。 (c)相違点の判断(新規性について)これに対して、審判甲第1号証の(ウ)には、「λg/λc及びλg/λoの比を減少させるので、遮断周波数よりもはるかに高い作動点が、望ましい」と記載されており、この記載によれば、作動点は遮断周波数よりもはるかに高いものであること、言い換えれば、作動点の波長は遮断波長よりもはるかに小さいものであり、距離測定の精度を高めるためには導波管の波長λgと遮断波長λcの比が小さくすれば良いことから、上記作動点の波長が望ましいことが述べられている。 このことから審判甲第1号証の作動点の波長は、遮断波長との比を小さくすることが望ましいとしても、遮断波長よりもはるかに小さいものといわざるを得ない。 したがって、審判甲第1号証のものが、本件第1の発明の「導波管7の直径の数分の1程度の波長」との構成を示すとはいえない。 しかも、審判甲第1号証には、本件第1の発明が有する「パイプの直径が、波長λに比べて大きくする際の、不要な伝搬モードが発生」することについての知見さえなく、よって、「一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器」の構成は存在しない。 審判甲第1号証の他の記載事項をみるに、(エ)に一例として「H01モード」の記載があるだけであって(エ)の記載も「H01モード」が「パイプの直径が、波長λに比べてはるかに大きくすること」と関連付けられたものとして把握することができない。 したがって、審判甲第1号証には「導波管の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号が、一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器により、 導波管へ供給されるようになっている」の構成がなく、また、該構成が設計上の微差あるいは表現上の差異ということはできないから、第1の発明と審判甲第1号証記載の発明とが同一の発明とは認めることができない。 (容易性について)審判甲第2号証の記載事項(オ)によれば、「与えられた周波数では、いずれのモードについても、損失は、ガイドの横断面積を大きくすることにより望むだけ減少させることができ、特に(TE01)モード時に急速に損失が減少する」旨記載されている。上記記載からは、導波管断面が円形であった場合に直径を大きくすれば損失が少なくなるということは示唆しているが、導波管の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号を用いる点までは記載されていない。 また、同号証においてTE01モード、H01モード時にガイドの横断面積を大きくすることにより急速に損失が減少しているは、H01モードという決まった導波管モードでの知見であり、導波管波長に比べガイドの横断面積を相対的に大きくする際に生じる不要な伝搬モードの発生についての知見はない。 よって、審判甲第2号証には、本件第1の発明の「導波管7の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号が、一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器11により、導波管7へ供給される」との構成は記載されていない。 さらに、審判甲第3号証及び審判甲第4号証の記載事項をみても「導波管7の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号が、一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器11により、導波管7へ供給される」の構成は記載されていない。 そして本件第1の発明では、「導波管の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号が、一つだけの信号の主伝搬モードを生成するモード発生器により、導波管へ供給されるようになっている」の構成により、導波管の目詰まりを防止し、かつ、フロートを用いて材料レベルを検出していたときの既存管の適用が可能となるという効果を奏するものである。 したがって、本件第1の発明は、審判甲第1号証乃至審判甲第4号証の記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものとは認められない。 5-2.第2の発明について第2の発明と審判甲第1号証記載の発明とを5-1(a)で述べた相当関係を用いて対比すると、両者は「容器1内の流動材料のレベル測定装置であって、導波管7にマイクロ信号を供給するための送信機14と、反射されたマイクロ波信号を受信するための受信機と、受信信号を用いることによって、容器中の材料のレベル10を決定しうるようになっている電子ユニットとから成り、前記導波管7は、容器1を経て垂直に下方へ伸び、かつマイクロ波信号を反射する該導波管7内の材料のレベル10が、周囲における材料のレベル10と等しくなるよう、容器1と連通している測定装置」である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点>第2の発明では「送信機14と導波管7との間に、一つだけの信号の主伝搬モードを生成しうるモード発生器11があり、かつ導波管7の直径が、波長より相当に大きくする」のに対して審判甲第1号証記載の発明では、その旨の記載がない点。 上記相違点の技術的意義は、上記5-1(b)「相違点の技術的意義」で述べた事項のうち、「第1の発明では上記第1及び第2の技術的課題を解決するために、「導波管の直径の数分の1程度の波長を有するマイクロ波信号」を採用するものである。」の記載を「第2の発明では上記第1及び第2の技術的課題を解決するために、「導波管7の直径が、波長より相当に大きくする」マイクロ波信号を採用するものである。」と置き換えたものと同様である。 審判甲第1号証には、上記5-1(c)の「相違点の判断」で述べたように、「作動点の波長は遮断波長よりもはるかに小さくする」旨の知見を有しており、上記相違点の後段部分に当たる「導波管7の直径が、波長より相当に大きくする」構成を示唆しているものといえる。 しかしながら、審判甲第1号証には、「導波管波長に比べガイドの横断面積を相対的に大きくする際に生じる不要な伝搬モードの発生」についての知見はなく、よって「送信機14と導波管7との間に、一つだけの信号の主伝搬モードを生成しうるモード発生器11」が存在していない。また、審判甲第2号証乃至審判甲第4号証の記載事項をみても上記モード発生器についての開示はない。 そして、第2の発明では、「導波管7の直径が、波長より相当に大きくする」構成と「送信機14と導波管7との間に、一つだけの信号の主伝搬モードを生成しうるモード発生器11」の構成とが相俟って、第1の発明と同様に導波管の目詰まりを防止し、かつ、フロートを用いて材料レベルを検出していたときの既存管の適用が可能となるという効果を奏するものである。 したがって、第2の発明は、審判甲第1号証記載の発明と同一のものでなく、また、審判甲第1号証乃至審判甲第4号証記載の発明に基づいて当業者が容易に導き出し得るものでもない。 6.むすびしたがって、審判請求人が主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。 |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 古城春実 |