関連審決 | 訂正2001-39140 |
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関連ワード | 発明の詳細な説明 / 参酌 / 技術的意義 / 実施 / 設定登録 / 訂正審判 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 請求の範囲 / 変更 / 訂正明細書 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
62号
審決取消請求事件
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原告 株式会社カネミツ 訴訟代理人弁理士 鈴江孝一 同 鈴江正二 被告 特許庁長官太田 信一郎 指定代理人 小池正利 同 宮崎侑久 同 大野克人 同 宮川久成 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/11/20 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が訂正2001−39140号事件について平成13年12月26日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「ボス部を有する板金物及びボス部の形成方法」とする特許第2816548号発明(平成4年1月10日出願,平成10年8月21日設定登録。以下「本件発明」といい,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。 原告は,平成13年8月27日,本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲【請求項1】の訂正等(以下「本件訂正」という。)について訂正審判の請求をした。特許庁は,同請求を訂正2001-39140号事件として審理した結果,同年12月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,平成14年1月9日,原告に送達された。 2 本件明細書の特許請求の範囲の記載 (1) 登録時のもの(以下,その明細書を「登録明細書」という。) 【請求項1】平坦部から曲げられて一体に突出された回転軸嵌合用の筒状のボス部の突出高さが,ボス部内径の半径寸法よりも長い寸法で高く形成されていることを特徴とするボス部を有する板金物。 【請求項2】山形の凸に湾曲され,その湾曲した頂部に孔が穿設された金属製素材を作り,その素材の外周縁部と上記孔周辺部分の間の湾曲部分をその膨らみ方向とは逆方向に加圧することにより,筒状にしかも形成すべき回転軸嵌合用のボス部の内径の半径寸法よりも長い寸法の高さに絞り込んで,請求項1に記載の筒状のボス部と平坦部を形成するようにしたボス部の形成方法。 (2) 本件訂正に係るもの(訂正部分には下線を付す。以下,その明細書を「訂正明細書」という。) 【請求項1】平坦部から曲げられて該平坦部の一側方向 に一体に突出された回転軸嵌合用の筒状のボス部の突出高さが,ボス部内径の半径寸法よりも長い寸法で高く形成されているものにおいて,前記 ボス 部の基部 の内周面 が,前記平坦部 をその 板厚方向 から 加圧 することで 該平坦部 から 流動 した 材料 の一部 によって 前記 ボス部内径 をほとんど 変化 させることなく 前記平坦部 の他側方向 に向けて 突出 されている ことを特徴とするボス部を有する板金物。 【請求項2】は,(1)と同じ。 3 審決の理由 審決の理由は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件訂正中,特許請求の範囲【請求項1】に係るもの(以下「訂正事項a」という。)が実質上特許請求の範囲を変更するものであり,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則6条1項によりなお従前の例によるとされる上記改正前の特許法(以下「旧法」という。)126条2項の規定に適合しないというものである。 |
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原告主張の審決取消事由
1 審決の理由中,「第1 手続の経緯」,「第2 審判請求の要旨」,「第3 訂正拒絶理由の概要」及び「第4 請求人の主張の概要」は認める。「第5 当審の判断」中,4頁12行目〜15行目「記載されている」,18行目〜32行目は認め,その余は争う。「第6 むすび」は争う。 審決は,訂正事項aが実質上特許請求の範囲を変更するものであるとの誤った判断をし(取消事由),ひいては,本件訂正が不適法であるとの誤った判断をしたものであるから,取り消されるべきである。 2 取消事由(実質上特許請求の範囲を変更するとの判断の誤り) (1) 審決は,「訂正事項aの『前記平坦部をその板厚方向から加圧すること』は,ボス部を有する板金物の平坦部の外周壁部にポリV溝を成形するために必要となる最初の工程に対応する事項であって,板金物の外周部分を厚肉化する乃至板金物の外径を押し広げるための構成であるといわざるをえない」(審決謄本5頁3行目〜7行目)とした上,「登録時の請求項1に係る発明は,登録時の明細書の段落【0004】記載の『小径の孔で高さの高い回転軸嵌合用のボス部を有する板金物を提供すること』という目的及び同段落【0033】記載の『平坦部から曲げられて一体に突出されているにもかかわらず小内径で十分な突出高さの確保された回転軸嵌合用のボス部を有する板金物・・・を提供できる』という効果を有するものであるのに対して,訂正後の請求項1に係る発明は,上記目的乃至効果の外に平坦部の外周壁部にポリV溝を成形するのに適したボス部を有する板金物を提供するという新たな目的乃至効果を有するものと解され,登録時の請求項1に係る発明とは目的乃至効果を異にするものである。したがって,訂正事項aの訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものであると認める」(同頁16行目〜26行目)と認定判断したが,誤りである。 (2) すなわち,訂正明細書において,平坦部8を板厚方向に加圧することで平坦部8の材料によりボス部6の基部の内周面を平坦部8の他側方向に向けて突出させる構成は,厚い板材を用いて平坦部8の板厚方向の加圧量を増せば増すほど,既に形成されているボス部6の高さ,内径及び肉厚に影響を及ぼすことなく,ボス部6の基部の内周面が平坦部8の他側方向に向けて大きく突出され,ボス部6の内周面の軸長をより長くすることができるという有用な構成が採用されている。したがって,訂正事項aがボス部を有する板金物の平坦部の外周壁部にポリV溝を成形するために必要な最初の工程に対応する事項であって,板金物の外周部分を厚肉化するないし板金物の外径を押し広げるための構成であるとする審決の判断は,誤りである。 また,登録明細書の段落【0023】【0028】及び図15,19によれば,本件訂正に係る,平坦部をその板厚方向から加圧することによって,ボス部の内周面の軸長をボス部内径をほとんど変化させることなく更に長くすることは,登録明細書に記載されており,原告は,この構成を訂正事項aにより付加したものにすぎないから,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものではない。 (3) ボス部6の高さの意味について ア 被告は,登録明細書では,ボス部の高さについて,ボス部の「突出高さ」と段落【0013】に記載されているボス部の「直線部の長さ(高さ)」とを使い分けており,ボス部の高さは,ボス部の突出高さh1に平坦部8の厚さを加えたものであると主張する。 しかしながら,登録明細書の段落【0013】の記載及び図4A〜7Bによれば,本件明細書の「ボス部6」とは平坦部8の上面から突出した筒状のボス部,「ボス部6の肉厚」とは平坦部8の上面から突出した筒状のボス部の肉厚,「ボス部6の直線部の長さ」とは平坦部8の上面から突出した筒状のボス部の直線に形成されている長さのことであって,「ボス部6の高さ」とは平坦部8の上面から突出した筒状のボス部の直線に形成されている高さのことである。したがって,登録明細書の段落【0013】の記載において,ボス部6の高さは,平坦部8の上面から突出した筒状のボス部の高さのことを意味するのであり,ボス部の突出高さh1と使い分けて記載されているものではない。 イ 被告は,ボス部6が平坦部8の上面から突出した筒状の部分のことであるということが登録明細書に記載されていない旨主張する。 しかしながら,登録明細書及びその図面(以下「登録明細書等」という。)の記載により,ボス部6とは平坦部8の上面から突出した筒状の部分,ボス部6の高さとは平坦部8の上面から突出した筒状の部分の高さ(突出高さh1)を意味することは容易に理解可能である。登録明細書の段落【0006】【0011】【0013】【0014】【0020】〜【0023】及び【0028】において,前記「ボス部6」は,平坦部8から曲げられて突出した筒状のボス部6のことであり,平坦部8の厚さを加えたものとして記載されていない。また,ボス部6の高さについても,平坦部8の上面から突出された突出高さh1として記載されているものであり,平坦部8の厚さは加えられていない。 (4) ボス部6の位置規制について 被告は,ボス部6の高さが,平坦部8の上面から突出する高さh1に平坦部8の厚さを加えたものであるという解釈に基づき,登録明細書の段落【0023】の記載は,ボス部全体が型により位置規制されていると解するのが相当であり,その結果,ボス部の内周面の軸長はほとんど変化しないのであり,登録明細書において,ボス部6の下方側が位置規制されていないとの記載はない旨主張する。 しかしながら,登録明細書の段落【0023】において,ボス部6とは,段落【0021】に記載された「平坦部8から曲げられて一体に突出された上下に貫通する筒状のボス部6」のことであり,平坦部8の上面から突出しているボス部6がほぼ位置規制されているとは,平坦部8の上面から突出した筒状のボス部6がほぼ位置規制されていることと解され,ボス部6の下方側まで位置規制されているというものではない。段落【0023】【0028】及び図14,15,19によれば,当業者は,図15においては,ボス部6の下方側は位置規制されず空間があって平坦部8の材料の一部が矢印(↓)の方向(下方)に流れボス部6の内周面の軸長が長くなり,図19においては,ボス部6の上方側は位置規制されず空間があって平坦部8の材料の一部が矢印(↑)の方向(上方)に流れボス部6の内周面の軸長が長くなるということを,容易に理解し得るものである。 (5) ボス部6の基部の突出について ア 被告は,上記のボス部6の高さ及び位置規制に係る誤った認定を前提に,平坦部8を加圧すると,平坦部8が薄くなった分だけ相対的にボス部6の基部が平坦部8の下方向に向いて突出したようになるのであって,登録明細書には図15の下向き矢印について何の説明もない旨主張する。 しかしながら,被告の主張では,図15及び19に平坦部8の材料が流動した方向を矢印(↓)で示したことの説明がつかなくなり,誤った論理を展開している。上記のとおり,段落【0023】【0028】の記載及び図15,19によれば,平坦部8を板厚方向に加圧した時には,平坦部8の材料の一部は矢印方向(↓)に流動してボス部6の内周面の軸長は長くなる。被告は,単に平坦部8が薄くなった分だけ相対的にボス部6の基部が平坦部8の下方向に向いて突出されると主張するが,当業者はそのように理解するものではない。 イ 被告は,平坦部8を板厚方向に加圧する前は,ボス部6の基部の内周面を延ばす側は空間が設けられており,平坦部8を板厚方向に加圧した時には,ボス部6の内周面の軸長は長くなるとの記載は,登録明細書に記載されていない旨主張する。 しかしながら,上記のとおり,段落【0023】【0028】及び図14,15,19には,板金物10の平坦部8の材料の一部が,下方(図15)又は上方(図19)に流れボス部6の内周面の軸長が長くなることが記載されており,当業者にとって,図15においてはボス部6の下方側に空間があって,平坦部8の材料の一部が下方に流れボス部6の内周面の軸長が長くなること,図19においてはボス部6の上方側に空間があって平坦部8の材料の一部が上方に流れボス部6の内周面の軸長が長くなることを容易に理解し得るものである。したがって,このように当業者が容易に理解し得ることは,登録明細書に明記されていないとしても,その記載があるというべきである。 |
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被告の反論
1 審決の認定判断は正当であり,原告の審決取消事由は理由がない。 2 取消事由(実質上特許請求の範囲を変更するとの判断の誤り)について (1) ボス部6の高さの意味について ア 登録明細書では,ボス部の高さについて,例えば,特許請求の範囲の【請求項1】に記載されているボス部の「突出高さ」と,段落【0013】に記載されているボス部の「直線部の長さ(高さ)」が使い分けられており,これを図14の板金物10に当てはめると,段落【0021】に記載されているように,h1がボス部の「突出高さ」であり,これに平坦部8の厚さを加えたものがボス部の「高さ」である。 イ 原告は,「ボス部6」とは平坦部8の上面から突出した筒状の部分のことであり,また,ボス部6の「直線部の長さ(高さ)」とは,ボス部6の「突出高さ」のことであると主張するが,ボス部6が平坦部8の上面から突出した筒状の部分のことであるということは,登録明細書に記載されていない。 登録明細書には,ボス部6について,「突出高さ」という語が特許請求の範囲【請求項1】だけでなく,段落【0005】【0006】【0011】【0014】【0020】【0021】及び【0033】に記載されているところ,原告の主張するように,ボス部6が平坦部8の上面から突出した筒状の部分をいうのであるならば,ボス部6の高さについて言及する場合,単に「ボス部の高さ」といえば十分であり,殊更「ボス部の突出高さ」という必要はない。 また,段落【0013】におけるボス部6の「直線部の長さ(高さ)」が,ボス部6の「突出高さ」であるとするならば,「突出高さ」という語は,上記のように登録明細書の各所において用いられているのであるから,段落【0013】においてもボス部6の「突出高さ」と記載するはずであって,あえてボス部6の「直線部の長さ(高さ)」と記載する必要はない。 (2) ボス部6の位置規制について ア 原告の主張は,ボス部の位置規制について,型により位置規制されているのは,「ボス部6の平坦部上面より突出されている部分」,すなわち,ボス部6の「突出高さ」部分だけで,ボス部6の基部は位置規制されていないことを前提としている。 イ しかしながら,登録明細書の段落【0023】には,「ボス部6はほぼ位置規制されており」,「その高さ・・・はほとんど変化しない」と記載されていることからみて,板金物10の平坦部8をその板厚方向に加圧する際にボス部全体が型により位置規制されていると解するのが相当であり,その結果,ボス部の高さ,すなわち,ボス部の内周面の軸長は,ほとんど変化しない。 段落【0023】には,ボス部6の特定部分を位置規制することが記載されているわけではない。位置規制されているのは平坦部8の上面から突出した筒状の部分だけであって,ボス部6の下方側は位置規制されていないとは記載されていない。 (3) ボス部6の基部の突出について ア 登録明細書の段落【0023】において,平坦部8の材料が外周側に流動すると記載されているのに対して,ボス部6に関しては,ボス部6は位置規制されており,前記平坦部8の材料の一部が流動してくるだけであると記載されている。そうすると,平坦部8を加圧することにより,平坦部8の材料の一部がボス部6に流動してくるのは,ボス部6を位置規制するための型に許容される製作上の公差に基づいて,型とボス部6との間に隙間ができ,この隙間を埋めるように平坦部8の材料の一部が流れ込むためであると考えられ,上記のとおり,ボス部の内周面の軸長は,ほとんど変化しない。また,図15によると,平坦部8を加圧するに当たって,上型15は,中心部に配置された上・下型と同様,固定位置にあり,この固定位置にある上型15に向かって下型14が上昇すると考えられ,その結果,平坦部8が薄くなった分だけ相対的にボス部6の基部が平坦部8の下方向に向いて突出したようになる。 イ 原告は,平坦部8を板厚方向に加圧する前は,ボス部6の基部の内周面を延ばす側は空間が設けられており,平坦部8を板厚方向に加圧した時には,ボス部6の内周面の軸長は長くなる旨主張しているが,登録明細書には,これらの事項についても記載されていない。 (4) 原告は,訂正事項aについて,小径の孔で高さの高い回転軸嵌合用のボス部の内周面の軸長をボス部内径をほとんど変化させることなく更に長くするための構成として記載したものであると主張する。 しかしながら,登録明細書にボス部の高さ及び肉厚がほとんど変化しないと明記されているにもかかわらず,平坦部をその板厚方向から加圧することによって,ボス部内径だけはほとんど変化させないでボス部の高さであるボス部の内周面の軸長を更に長くすることが登録明細書等に記載した事項の範囲内とすることはできない。 (5) 登録明細書の段落【0023】及び【0028】に記載されているのは,板金物の平坦部の外周壁部にポリV溝を成形するに当たって,先ず板金物の平坦部をその板厚方向から加圧することにより,平坦部の材料を外周側に流動させて板金物の外周部分を厚肉化し,又は板金物の外径を押し広げることと,この加圧工程において,ボス部6はほぼ位置規制され,平坦部8の材料の一部が流動してくるだけであり,その高さ及び肉厚はほとんど変化しないことであって,上記加圧によって「ボス部の内周面の軸長をボス部内径をほとんど変化させることなく更に長くする」ことについては何ら記載されていない。したがって,訂正事項aの「前記平坦部をその板厚方向から加圧すること」は,ボス部を有する板金物の平坦部の外周壁部にポリV溝を成形するために必要となる最初の工程に対応する事項であって,板金物の外周部分を厚肉化するないし板金物の外径を押し広げるための構成であるといわざるを得ない。 (6) 本件訂正は,登録明細書等に記載した事項の範囲内にない事項を追加限定するものであるという点からみても,実質上特許請求の範囲を変更するものである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由(実質上特許請求の範囲を変更するとの判断の誤り)について (1) 審決は,「訂正事項aの『前記平坦部をその板厚方向から加圧すること』は,ボス部を有する板金物の平坦部の外周壁部にポリV溝を成形するために必要となる最初の工程に対応する事項であって,板金物の外周部分を厚肉化する乃至板金物の外径を押し広げるための構成であるといわざるをえない。また,訂正事項aの『前記平坦部をその板厚方向から加圧すること』が板金物の外周部分を肉厚化する乃至板金物の外径を押し広げるための構成であることは,たとえ『前記平坦部をその板厚方向から加圧すること』によって,平坦部の材料の一部をボス部側に流動させて,ボス部内径をほとんど変化させることなくボス部の内周面の軸長を多少なりとも長くすることができたとしても,また,訂正事項a全体としては板金物の外周部分を厚肉化する乃至板金物の外径を押し広げることについての直接的な言及がないとしても変わることはない。そして・・・訂正後の請求項1に係る発明は,上記目的乃至効果の外に平坦部の外周壁部にポリV溝を成形するのに適したボス部を有する板金物を提供するという新たな目的乃至効果を有するものと解され,登録時の請求項1に係る発明とは目的乃至効果を異にするものである。したがって,訂正事項aの訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものであると認める」(審決謄本5頁3行目〜26行目)と判断する。 (2) 審決の上記判断は,訂正明細書の特許請求の範囲【請求項1】に係る発明が登録明細書の特許請求の範囲【請求項1】に係る発明と目的ないし効果が異なるというものであるところ,この判断は,訂正事項aの「前記平坦部をその板厚方向から加圧すること」が「板金物の外周部分を厚肉化する乃至板金物の外径を押し広げるための構成である」ことを前提とするものであることは,審決の上記判断部分から明らかである。 しかしながら,本件訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲【請求項1】には,訂正事項aとして,「前記平坦部をその板厚方向から加圧することで該平坦部から流動した材料の一部によって前記ボス部内径をほとんど変化させることなく前記平坦部の他側方向に向けて突出されていることを特徴とする」と記載され,「前記平坦部をその板厚方向から加圧すること」は,「該平坦部から流動した材料の一部によって前記ボス部内径をほとんど変化させることなく前記平坦部の他側方向に向けて突出させる」作用効果を奏する構成として規定されており,「板金物の外周部分を厚肉化する乃至板金物の外径を押し広げる」作用効果を奏するものとして規定されていないことは,特許請求の範囲の記載自体から明らかである。そうすると,審決の「訂正後の請求項1に係る発明は,上記目的乃至効果の外に平坦部の外周壁部にポリV溝を成形するのに適したボス部を有する板金物を提供するという新たな目的乃至効果を有するものと解され,登録時の請求項1に係る発明とは目的乃至効果を異にするものである。したがって,訂正事項aの訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものである」との上記判断は,訂正事項aの技術的意義の誤認に基づくものであり,その前提において誤りといわざるを得ない。 (3) 被告は,登録明細書の段落【0023】及び【0028】に記載されているのは,板金物の平坦部をその板厚方向から加圧することにより,平坦部の材料を外周側に流動させて,板金物の平坦部の外周壁部にポリV溝を成形することであり,ボス部の内周面の軸長をボス部内径をほとんど変化させることなく更に長くすることについては何ら記載されていないから,本件訂正後の請求項1に記載された訂正事項aの「前記平坦部をその板厚方向から加圧すること」は,板金物の外周部分を厚肉化するないし板金物の外径を押し広げるための構成であると主張する。 しかしながら,上記の点に関しては,訂正明細書の特許請求の範囲【請求項1】の記載の技術的意義は,【請求項1】の記載自体によって一義的に明確であり,そこに記載された用語の意義を解釈するために,訂正明細書及び登録明細書の発明の詳細な説明や図面等の他の記載を参酌すべきものとは認められないし,被告主張の段落【0023】【0028】の記載は,発明の詳細な説明中の単なる【発明の実施の形態】に係るものにすぎず,また,「前記平坦部をその板厚方向から加圧すること」の技術的意義をこれらの記載により特定すべきものでもない。そうすると,これらの記載をもって,訂正明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された「前記平坦部をその板厚方向から加圧すること」を,「板金物の外周部分を厚肉化する乃至板金物の外径を押し広げる」ための構成であると解釈すべき余地はない。 (4) また,被告は,訂正事項aが登録明細書等に記載した事項の範囲内にあるということはできないとして,本件訂正が実質上特許請求の範囲を変更するものであるとも主張する。 しかしながら,上記のとおり,審決は,登録明細書の特許請求の範囲【請求項1】に係る発明と訂正明細書の特許請求の範囲【請求項1】に係る発明とが目的ないし効果を異にすることを理由として,訂正事項aが実質上特許請求の範囲を変更するものであり,旧法126条2項に適合しないと判断したものであり,訂正事項aが登録明細書等に記載がないことを理由として,同条1項ただし書の規定に適合しないと判断したものではない。そうすると,訂正事項aが登録明細書等に記載があるかどうかは,訂正事項aの訂正を内容とする本件訂正を不適法とした審決の判断の当否をめぐる当審における審理の対象となるものではなく,被告も,本件訴訟において,被告の主張は,審決の「第5 当審の判断」の認定判断が正当であることを基礎付けるものであり,他の理由に基づいて審決の結論を正当というものではないことを明確にしている(第3回弁論準備手続調書)。したがって,本件において,訂正事項aが登録明細書等に記載されているかどうかは判断の限りでない。 なお,訂正審判請求の要件について規定する旧法126条は,同条1項ただし書においていわゆる新規事項の追加禁止を,同条2項において特許請求の範囲の実質的変更の禁止をそれぞれ規定しており,同条1項ただし書が同条2項の例示であると解すべき理由も見いだせないばかりでなく,被告の主張のように,新規事項の追加が必然的に特許請求の範囲の実質的変更に該当すると解することは,特許請求の範囲の実質的変更の禁止とは別個に新規事項の追加禁止を規定する同条1項ただし書を無意味にするものであって,そのような解釈を採ることはできないから,この点においても,被告の主張は採用することができない。 2 以上のとおり,審決は,本件訂正が特許請求の範囲の実質的変更に当たるとの誤った判断をしたものであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は取消しを免れない。 よって,原告の請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 長沢幸男 |