関連審決 |
審判1999-8277 |
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関連ワード | 承継 / 製造方法 / 新規性 / 29条1項3号 / 進歩性(29条2項) / 遡及 / 分割出願 / 実施 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 請求の範囲 / 変更 / 要旨変更 / 不服申立 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
134号
審決取消請求事件
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原告 株式会社ニコン 訴訟代理人弁護士 飯田秀郷 同 栗宇一樹 同 早稲本 和徳 同 七字賢彦 同 鈴木英之 被告 特許庁長官太田 信一郎 指定代理人 辻徹二 同 森正幸 同 高木進 同 山口由木 同 宮川久成 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/11/20 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が平成11年審判第8277号事件について平成13年2月5日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和58年10月5日、発明の名称を「投影光学装置」とする特許出願(特願昭58-186269号、以下「本件原々出願」という。)をし、平成5年11月1日、本件原々出願の一部につき、発明の名称を「LSI素子製造方法、及び装置」とする分割出願(特願平5-273329号、以下「本件原出願」という。)をした。 原告は、平成8年4月8日、本件原出願の一部につき、発明の名称を「LSI素子製造方法、及びLSI素子製造装置」とする分割出願(特願平8-84963号、以下「本件出願」といい、本件出願である分割出願を「本件分割出願」という。)をし、平成9年12月25日付け手続補正書により明細書の補正(以下「本件補正1」という。)をしたが、平成10年10月6日に本件補正1を却下する決定(以下「補正却下決定1」という。)がされ、平成11年4月13日に本件出願について拒絶査定を受けたので、同年5月13日、これに対する不服の審判の請求をし、同年6月14日付け手続補正書により明細書の補正(以下「本件補正2」という。)をした。 特許庁は、同請求を平成11年審判第8277号事件として審理した上、平成13年2月5日に「平成11年6月14日付けの手続補正を却下する。」との決定(以下「補正却下決定2」という。)及び「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月3日、原告に送達された。 2 本件原出願の明細書(以下「本件原出願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1、2の記載(特許異議申立ての手続中でされた平成10年7月7日付け訂正請求による訂正後のもの) 【請求項1】均一化された照明光によりレチクル上のLSIパターンを照明し、該LSIパターンを投影光学系により感光基板上に結像投影する段階を有するLSI素子の製造方法において、 前記投影光学系の一部を構成する光学レンズ素子を光軸方向に移動させる手段を含む光学特性調整手段が設けられており、前記感光基板上に投影される前記LSIパターンの結像性能を左右する前記投影光学系自体の結像倍率特性、結像面位置特性、収差諸特性の3つの光学諸特性のうち、環境の変化又は前記投影光学系への照明光の照射によって変化する光学諸特性であって、予め選ばれた結像倍率特性、 結像面位置特性の少なくとも1つの光学諸特性及び収差諸特性を前記光学特性調整手段によって変化させ前記感光基板上に投影されるLSIパターンの像質を調整して露光することを特徴とするLSI素子製造方法。 【請求項2】前記光学特性調整手段は、前記レチクルから前記感光基板に至る結像光路内に配置された特定部分の光学的な諸元を微小変更させる第1の手段と、 前記光学レンズ素子を光軸方向に移動させる第2の手段とを含み、該第1の手段と第2の手段との併用によって前記予め選ばれた少なくとも2つの光学諸特性を調整することを特徴とする請求項第1項に記載の方法。 3 本件出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載 【請求項1】レチクルを均一に照明する照明手段と、該照明されたレチクルのLSIパターンを感光基板上に所定の結像特性で投影露光する投影光学系と、前記感光基板を保持するステージとを備えた露光装置を用いて、前記感光基板上にLSI素子を形成するLSI素子製造方法において、 前記露光装置を取り囲む環境、又は前記投影光学系を通る露光光に起因して前記投影光学系自体の結像倍率、結像面位置、及び各種収差の3つの光学諸特性がそれぞれ所期の条件から変動するとき、前記投影光学系による結像光路中に配置された特定の光学要素の光学的な諸元を変更させる第1の手段の他に、前記投影光学系を構成する一部のレンズ素子を光軸方向に移動させる第2の手段と前記感光基板を前記投影光学系の結像面位置の変化に追従させる第3の手段との少なくとも一方を設け、前記3つの光学諸特性の所期の条件からの変動を、前記第2、第3の手段の少なくとも一方と前記第1の手段との組み合わせ制御によって補正することを特徴とするLSI素子製造方法。 4 本件補正1の補正内容である特許請求の範囲の請求項1の記載 【請求項1】露光用の照明光で照明されるレチクルに形成されたパターンを感光基板上に投影するために複数の光学素子と複数の空気間隔との組み合わせで構成され、環境状態や照明状態によって結像倍率、結像面位置、及び収差の3つの光学特性が変動し得る投影光学系を備え、前記感光基板上に前記パターンを形成する露光装置において、 前記3つの光学特性を変動させ得る要因に関する情報を検知する変動検知手段と、 前記投影光学系の一部を構成する光学素子を光軸方向に移動させる手段を含む光学特性調整手段と、 前記変動検知手段により検知された情報に基づいて、前記光学特性の内で着目する光学特性の変動を補正するように、前記光学素子を光軸方向に移動させる制御手段とを有することを特徴とする露光装置。 5 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件出願は、その請求項1記載の発明(以下「本願発明」という。)が本件原出願の請求項2記載の発明と同一であり、分割出願の要件を満たさないから、出願日の遡及が認められないところ、本件出願前公知である特開昭60-78416号公報(本件原々出願に係る公開特許公報)に記載された発明と同一であるので、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないとした。 |
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原告主張の審決取消事由
審決は、分割出願の要件を誤って解釈し、本件分割出願は分割出願の要件を満たさないとして、本件補正2を誤って却下した(補正却下決定2)結果、本願発明の要旨の認定を誤り(取消事由1)、本件出願が適法な分割出願でないと誤って判断した上で、本願発明に新規性がないとの誤った認定判断をしたものであり、また、審査段階に本件補正1を違法に却下した補正却下決定1が無効であることを看過した結果、本願発明の要旨の認定を誤ったものである(取消事由2)から、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(補正却下決定2の判断の誤り) (1) 補正却下決定2(甲第2号証)には、「この補正却下の決定と同日付けの審決に記載した理由により、本件出願の出願日は、平成8年4月8日である」(1頁理由欄13行目〜14行目)との記載があるところ、審決は、「本願請求項1に係る発明(注、本願発明)は、原出願の請求項2に、実施態様項として記載された原出願の発明と同一であるから、本願出願は分割の要件を満たしておらず、本願出願の出願日の遡及は認められない」(審決謄本3頁10行目〜12行目)として、 本願発明が本件原出願の特許請求の範囲に記載された発明と同一であるから、本件分割出願が適法な分割出願でないと判断し、補正却下決定2は、審決のこの判断を引用したものである。 しかし、特許法44条1項は、「特許出願人は、願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる期間内に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる」と規定するのみであり、分割出願に係る発明(以下「分割発明」という。)ともとの出願(以下「原出願」という。)の特許請求の範囲に記載された発明(以下「原出願発明」という。)とが同一でないこと(以下「非同一性要件」という。)を分割出願の要件とはしていない。 分割出願であるか否かを問わず、二重特許を排除するために特許法39条2項が規定されており、同法44条1項の解釈として、非同一性要件を欠いても分割要件を満たすとした上で、同法39条2項を適用すれば足りる。現に、特許庁も、平成6年12月改訂後の審査基準(以下、同改訂前の審査基準を「旧審査基準」と、同改訂後の審査基準を「新審査基準」という。)は、「もとの出願の出願日が平成6年1月1日以降である出願の分割出願に適用」するとの条件付きながら、非同一性要件を分割要件とせず、分割発明が原出願発明と同一である場合には、特許法39条2項の問題として取り扱う旨定めており、しかも、上記審査基準改訂の前後において、特許法44条1項には、昭和45年法律第91号による改正(昭和46年1月1日施行)以来、その解釈を変更しなければならないような改正は見られない。 被告は、特許庁における審査基準の改訂は、昭和62年法律第27号による改善多項制の導入に伴い、特許法の法体系が変更されたことにより、特許法44条1項の解釈を変更したものであると主張するが、改善多項制を導入したことにより特許法44条1項がその実質を変容したものとは到底いうことができないから、 新審査基準による解釈は、昭和46年1月1日以降に分割出願がされた場合にも適用されると解すべきである。新審査基準には「もとの出願の出願日が平成6年1月1日以降である出願の分割出願に適用」するとの条件が付されてはいるが、平成6年1月1日以降の分割出願にも適用すると解するのが合理的である。本件分割出願は、本件原々出願及び本件原出願の出願日が昭和58年10月5日であり、その分割出願である本件出願の出願日が平成8年4月8日であるから、新審査基準を上記のように解釈して分割要件を判断しなければならない。 (2) 補正却下決定2は、本件出願に平成6年法律第116号による改正(平成7年7月1日施行)後の特許法(以下「新法」といい、平成5年法律第26号による改正(平成6年1月1日施行)前の特許法を「旧法」といい、両改正の間の特許法を「平成5年法」という。)を適用して、本件補正2が新規事項を含む補正であるとして却下したものであるが、分割出願における補正の取扱いを誤ったものである。旧法適用下において原出願がされ、平成6年1月1日以降に分割出願がされた場合において、分割出願の願書に添付した明細書及び図面を補正する場合は、分割出願がその実際に出願されたときにおいて分割要件を具備するか否かにかかわらず、次のように取り扱われるべきである。 @分割要件を判断する前提として、当該補正を旧法に適用された補正の要件に基づき判断する。 A旧法に基づき当該補正が要旨を変更するものであれば補正を却下し、そうでなければ当該補正された明細書及び図面に基づいて、分割要件を検討する。 B分割要件を具備していれば原出願時に出願したものとして、当該補正された明細書及び図面に基づいて、分割出願の新規性及び進歩性を判断し、分割要件を具備していなければ、新法又は平成5年法に基づいて、補正の可否並びに新規性及び進歩性等の検討を行う。 被告が主張する取扱いを採用したとすると、補正前において分割要件を具備せず、補正が新法において適法である場合には、補正を含めた明細書において分割要件を再度判断するのであるが、その結果分割要件を具備する場合には旧法が適用されるから、補正の判断を新法に基づいて行ったことが矛盾となる。再度補正を旧法で判断するのであれば循環論に陥ることになる。 2 取消事由2(補正却下決定1の違法) (1) 本件出願が、特許出願当初において、分割出願の要件を満たさず、出願日の遡及が認められない場合は、本件補正1については、新法17条の2第1項2号を適用して拒絶理由通知を発すべきであって、同法53条1項によっては却下できないにもかかわらず、補正却下決定1(乙第9号証)は、「この補正は、明細書の要旨を変更するものと認められ、特許法第53条1項の規定により、上記結論の通り決定する」(2頁7行目〜8行目)として、旧法53条1項を適用して却下した。しかし、補正却下決定1は、審査官が法律上の根拠なく無権限で行ったものであり、明らかに無効であるといわざるを得ない。すなわち、本件補正1については、新法が適用されるから、別途拒絶理由があるとしても、適法にされたものと取り扱われなければならず、当該補正後の明細書に基づいて本願発明の要旨を認定すべきところ、審決は、本件補正1がないものとしてその要旨を認定した誤りがあり、この誤りが、審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。新法53条3項ただし書は、違法な補正却下に対する不服は、拒絶査定に対する審判を請求した場合における審判において争うことができる旨規定するが、これは同条1項の場合、 すなわち、同法17条の2第1項2号の規定に基づく補正に対する却下決定に関する規定であって、本件のような法律の規定にない違法な却下決定については、独立した不服申立ての手続が法定されていない以上、拒絶査定に対する審決の違法として、取消事由とならざるを得ない。 (2) 仮に、このような法律の規定にない違法な却下決定についても、新法53条3項により、拒絶査定に対する審判手続において不服申立てをすべきであるとしても、本件においては、このような不服申立ての方法を全く教示せず、旧法122条1項による補正却下の決定に対する審判手続をその不服申立ての方法として教示したに等しいのであるから、行政不服審査法57条、58条の趣旨から、当該審判手続において審理の対象となっていたものというべきであり、その違法をそのまま維持した結果を招来した審決は、それ自体、手続的な暇疵があり、特許法における適切な審査手続(手続保障)という基本的な骨格を崩壊させている以上、取り消すべき違法が存在するといわざるを得ない。 |
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被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(補正却下決定2の判断の誤り)について (1) 分割出願制度を設けた趣旨は、一発明一出願主義の原則の下において、1出願により2以上の発明につき特許出願をした者に対し、出願を分割するという方法により、各発明につきそれぞれ原出願の時にさかのぼって出願がされたものとみなして特許を受ける途を開いた点にある。分割発明が原出願発明と同一である場合には、その分割出願は、特許法44条1項所定の「二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな出願としたもの」に該当しない。 原告は、二重特許を排除するために特許法39条2項が規定されており、 同法44条1項の解釈として、非同一性要件を欠いても分割要件を満たすとした上で、同法39条2項を適用すれば足りると主張する。しかしながら、原告が主張する特許庁における審査基準の改訂は、昭和62年法律第27号による改善多項制の導入に伴い、特許法の法体系が変更されたことにより、特許法44条1項の解釈を変更したことによるものである。そして、本件原々出願の出願日が昭和58年10月5日であるから、本件分割出願の分割要件の判断は、上記改正前の特許法によることとなる。したがって、非同一性要件が分割要件として必要であり、補正却下決定2には、原告主張の誤りはない。 (2) 平成6年法律第116号附則6条1項は、「この法律の施行前にした特許出願の願書に添付した明細書又は図面についての補正並びに補正に係る拒絶の査定及び特許の無効並びにこの法律の施行前にした特許出願に係る特許の願書に添付した明細書又は図面についての訂正及び訂正に係る特許の無効については、なお従前の例による」と規定し、同法の施行前に特許出願がされた場合の、補正及び訂正の適用法を明確にしている。このように、特許出願がいつされたかにより、補正及び訂正に適用される特許法が異なるのであるから、補正の取扱いに当たって、まず特許出願の出願日を認定する必要があり、分割出願と称する特許出願であるからといって、直ちに適法な分割出願といえないことは当然であるから、まず分割出願の適法性を検討しなければならない。すなわち、旧法適用下に出願された原出願の分割出願に補正がされた場合には、次のとおり取り扱うべきである。 @分割要件の判断をする。 A分割要件が満たされていれば旧法を適用し、分割要件が満たされていなければ平成5年法又はそれ以降に改正された特許法を適用して、補正の適否を判断する。 B補正が不適法であれば、Aで判断された適用法律に基づいて、旧法適用であれば補正を却下し、新法適用であれば新規事項の拒絶理由通知等を行う。補正が適法であった場合には、分割要件を判断し、分割要件が満たされていれば旧法を適用し、分割要件が満たされていなければ新法を適用して、その後の処理を進める。 このように、特許庁においては、分割出願について補正がされた場合、その前の段階で判断された適用法律に基づいて、その都度、補正の適否が判断され、 補正が適法であれば、さらに、分割要件が満たされているか否かを判断していくという運用をしている。 上記取扱いにおいて、いったん適法と認められた補正について改めて補正の検討をすることはないから、原告が主張するような矛盾は生じないし、循環論に陥ることもない。他方、原告主張のような運用を行えば、補正の適否について、まず旧法で判断するが、そこで分割要件を具備しないと判断したときには、その同じ補正を今度は新法で判断しなければならないことになる。その後、更に補正があったときには、新法の適用としたにもかかわらず、再度旧法を適用してこの補正の適否を判断し、前記同様の場合には、再度補正に新法を適用して判断することになる。このように、原告主張の運用によれば、同じ補正を旧法、新法によって2度判断しなければらない場合が多々発生する。これは、要するに、分割要件と補正の適否の判断順序が相前後した結果によるものである。補正の適否の判断に先立って、 補正前の明細書及び図面に基づいて適正に適用法律を決しておけば、このような不都合は生じない。したがって、この点においても、特許庁の運用は妥当なものである。 2 取消事由2(補正却下決定1の違法)について (1) 補正却下決定1に、適用する法律を誤った違法があることは認める。しかし、補正却下決定1自体は、本件補正1がされなかったものとされるだけである。 また、本件補正1が要旨を変更するものであったとする判断自体には誤りがないので、正しく新法を適用していれば、本件補正1に対しては、新規事項の追加禁止として拒絶理由が通知されるはずであった。この場合の拒絶理由は最後の拒絶理由となるべきものであって、その後に補正の機会はあるものの、補正できる範囲は、拒絶査定不服審判請求の際と同じ限られたものとなる(新法17条の2第4項)。 このことからすれば、上記誤りは、出願人である原告に格別の不利益を与えるものではない。違法な補正却下によって補正の機会が奪われたということはできるが、結果的に、原告は審判請求の際に同等の補正の機会が得られたことにより、法の適用を誤った上記瑕疵は治癒した。このように、補正却下決定1は、法の適用を誤ったとはいえ、本件出願当初の明細書又は図面の記載に基づき補正できる範囲を制限するとの特許法の趣旨にかなったものであり、無効とされなければならないほど重大かつ明白な瑕疵とはいえない。また、旧法53条1項の規定による補正却下の決定に対しては、旧法による補正却下不服審判の請求が可能であるところ、原告は同審判の請求をせず、補正却下決定1は確定しているから、有効として取り扱われるものである。 原告は、補正却下決定1については、独立した不服申立ての手続が法定されていないから、審決の違法として取消事由とならざるを得ないと主張するが、上記のとおり、補正却下決定1は確定しているから、有効として取り扱われるものである。補正却下の決定と拒絶査定に対する不服審判請求不成立の審決とは、それぞれが別個の法律効果を発生させることを目的とするものであって、これを全体として一つのまとまりある手続を構成するということはできないのであるから、補正却下決定1の違法性が審決にまで承継されることはない。 (2) 原告は、補正却下決定1に対して不服申立ての教示をしていないとも主張するが、旧法による補正却下の決定についてすることができる不服申立ての教示をしていたのであるから、教示がないということはできない。また、補正却下決定1が違法であることから、正しい教示がされていないと判断したのであれば、ともかく不服申立書を提出しておくという方法で対処できたはずであるし、また、不服申立ての方法について問い合わせることによって、より適切に対処することもできたばずである。さらに、拒絶査定不服審判において不服申立てを行うこともできたはずである。補正却下決定1に関して教示方法に暇疵があったことは認めるが、そのために実質的に不服申立ての機会が奪われたことはない。そして、不服申立てがされなかった以上、本件審判手続において審理対象としなかったことに何の誤りもない。上記のとおり、教示を誤ったという点において、手続保障に若干の不具合は認められるものの、これは審決を取り消すほどの暇疵ではない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由2(補正却下決定1の違法)について (1) 本件出願は、昭和58年10月5日にされた本件原々出願の一部につき平成5年11月1日に分割出願をした本件原出願の一部につき更に平成8年4月8日に分割出願をしたものである。審決は、「本願請求項1に係る発明(注、本願発明)は、原出願の請求項2に、実施態様項として記載された原出願の発明(注、本件原出願の請求項2記載の発明)と同一であるから、本願出願は分割の要件を満たしておらず、本願出願の出願日の遡及は認められない」(審決謄本3頁10行目〜12行目)とし、また、「その請求項1に係る発明は、出願当初の明細書及び図面の記載からみて、次のとおりのものである」(同1頁17行目〜18行目)として、本願発明の要旨を、本件出願の願書に添付した本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載、すなわち、上記第2の4記載のとおりの平成9年12月25日付け本件補正1がされる前の本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載(上記第2の3)のとおり認定した上、本願発明が本件原々出願に係る公開特許公報に記載された発明と同一であり、特許法29条1項3号に該当すると判断した。 (2) しかしながら、審決の認定判断するとおり、本願発明が本件原出願の請求項2記載の発明と同一であって、本願発明が特許法44条1項の分割の要件を満たしていないため、同条2項による出願日の遡及は認められず、現実の出願日である平成8年4月8日がその出願日となるものとすれば、本件出願の願書に添付した明細書についての補正には、平成6年法律第116号附則6条1項の適用がないことは明らかであるから、本件補正1には新法が適用されることになる。そして、本件補正1は、本件出願について最初に受けた拒絶理由通知(乙第5号証)に指定された期間内に新法17条の2第1項1号の規定に基づいてされた補正であることが明らかであるところ、新法には、同号の規定に基づく補正について審査官が却下の決定をすることができる旨の規定は存在しないにもかかわらず、補正却下決定1(乙第9号証)は、「この補正は、明細書の要旨を変更するものと認められ、特許法第53条1項の規定により、上記結論の通り決定する」(2頁7行目〜8行目)として、旧法53条1項を適用して却下したものである。そうすると、補正却下決定1は法律上の根拠を有しないものというほかなく、この瑕疵は重大かつ明白というべきであるから、補正却下決定1は法律上当然に無効といわざるを得ない。 (3) 被告は、補正却下決定1に、適用する法律を誤った違法があっても、本件補正1が要旨変更であるとの判断自体に誤りはなく、新法では拒絶理由となり、出願人である原告は拒絶査定不服審判請求の際に同等の補正の機会が得られたから、 格別の不利益を受けるものではなく、法の適用を誤った瑕疵は治癒した旨主張する。しかしながら、補正却下決定1が上記のとおり権限を有しない審査官によってされた行政処分として法律上当然無効である以上、原告が審査段階でした本件補正1は有効な補正というべきであり、そのことが、これを看過したまま本願発明の要旨の認定をした審決の結論に影響を及ぼすかどうかは、被告主張の手続保障の点とは関係がない。被告は、補正却下の決定と拒絶査定に対する不服審判請求不成立の審決とは、それぞれが別個の法律効果を発生させることを目的とするものであって、これを全体として一つのまとまりある手続を構成するということはできないのであるから、補正却下決定1の違法性が審決にまで承継されることはないと主張するが、本件補正1が有効な補正であるとすれば、その存在を前提としない本願発明の要旨の認定が誤りであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、被告の上記主張は採用の限りではない。 被告は、原告が補正却下不服審判の請求をしなかったから、補正却下決定1は確定したと主張するが、上記のとおり、本件補正1には新法が適用されるところ、新法においては、17条の2第1項1号の規定に基づく補正について却下の規定はなく、それに対する不服の規定もないから、上記主張はその前提を欠く失当なものというほかなく、また、補正却下決定1は、前示のとおり無効であって、一切の法律上の効力を生じないから、これが確定することはなく、被告の上記主張は採用することができない。 また、被告は、補正却下決定1について、原告に対し、旧法による補正却下の決定についてすることができる不服申立ての教示をしたと主張するが、上記のとおり、補正却下決定1に対する不服申立ての規定はないのであるから、被告が行ったと主張する教示は、誤った教示にすぎず、補正却下決定1の瑕疵を何ら治癒させるものということはできない。 さらに、被告は、拒絶査定不服審判において不服申立てを行うこともできたはずであるとも主張するが、原告は、本件分割出願について、特許法44条1項の分割の要件を満たすものと認識していたことは明らかであるから、同条2項により出願日が遡及し、本件原出願の出願日とみなされた本件原々出願の出願日である昭和58年10月5日がその出願日とみなされる結果、本件出願の願書に添付した明細書についての補正には、平成6年法律第116号附則6条1項により旧法が適用されるものと認識していたことも明らかである。そうすると、旧法53条1項は補正が明細書の要旨を変更するものであるときは審査官は決定をもって当該補正を却下しなければならない旨を規定しているのであるから、補正却下決定1及び審決前である拒絶査定不服審判の手続において、審査官が本件分割出願について新法が適用されると判断した上で法律の規定にない却下決定をしたことを原告において認識し、これが誤りであることを主張し得たということはできず、被告の上記主張も採用することができない。 (4) 以上によれば、本件補正1は有効であり、その補正内容のとおり補正の効果が生じているものであるから、これにより本件出願の明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載が上記第2の4のとおり補正されたこととなる。そうすると、審決が、本願発明の要旨を、本件補正1前の本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載(上記第2の3)のとおり認定したことは、誤りであったことに帰し、これが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は、瑕疵があるものとして取消しを免れず、原告主張の取消事由2は理由がある。 2 よって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 長沢幸男 |