関連審決 | 異議2000-72489 |
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関連ワード | 発明者 / 29条の2(拡大された先願の地位) / 出願公開 / 発明の詳細な説明 / 特許出願日 / 技術的意義 / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 訂正の目的 / 請求の範囲 / 減縮 / 拡張 / 変更 / 釈明 / 訂正明細書 / 取消決定 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
226号
特許取消決定取消請求事件
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原告 サミー株式会社 訴訟代理人弁理士 北村 仁,米山淑幸 被告 特許庁長官太田信一郎 指定代理人 木原 裕,鈴木寛治,山口由木,林 栄二,高木 進 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/11/21 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
特許庁が異議2000-72489号事件について平成13年3月28日にした決定を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
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前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件特許 特許権者 サミー株式会社(原告) 発明の名称 「スロットマシン」 特許出願日 平成5年9月10日(特願平5-225358号の一部を新たな出願とした特願平7-329337号) 特許設定登録日 平成11年10月15日 特許番号 特許第2991650号 (次の(2)における訂正請求後の請求項1に係る発明を「本件発明」という。) (2) 本件手続 特許異議事件番号 異議2000-72489号 訂正請求日 平成12年12月5日(本件訂正) 異議の決定日 平成13年3月28日 決定の結論 「訂正を認める。特許第2991650号の請求項1に係る特許を取り消す。」 決定謄本送達日 平成13年4月18日(原告に対し) 2 本件発明の要旨 本件発明は,本件訂正請求後の請求項1に係る下記のものである(なお,下線部分の構成を「本件発明の構成E」という。)。 【請求項1】 複数のリールと, これらのリールの回転を開始させるスタートスイッチと, 乱数を発生させる乱数発生手段と, 前記スタートスイッチからのスタート信号に基づいて,前記乱数発生手段から発生される乱数値から一つの乱数値を抽選する乱数抽選手段と, この乱数抽選手段により抽選された乱数値が,前記乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域に含まれると,入賞信号を出力する入賞判定手段と, この入賞判定手段からの入賞信号に基づいて,遊技機を制御する遊技制御手段と, 前記入賞判定手段からの入賞信号に基づいて,メダルを払い出すメダル払出手段とを備えたスロットマシンにおいて, 上記入賞判定手段での 入賞 を条件 に,サブ 抽選 をする サブ 抽選手段 を備え, この サブ 抽選手段 における サブ 抽選 での 入賞 を条件 に,乱数発生手段 から 発生 する乱数値 がとる 全領域中予 め設定 された 領域 を変更 することにより ,入賞確率 を設定する 確率変更手段 と, 前記 サブ 抽選手段 による 入賞 には ,入賞確率 を変更 した 状態 で,前記入賞判定手段によって 行われる ,前記乱数抽選手段 により 抽選 された 乱数値 が前記乱数発生手段から 発生 する 乱数値 がとる 全領域中予 め設定 された 領域 に含まれるか 否かの 判断を行う回数 が1回に設定 された 第1入賞 と,入賞確率 を変更 した 状態 で,前記入賞判定手段 によって 行われる ,前記乱数抽選手段 により 抽選 された 乱数値 が前記乱数発生手段 から 順次発生 する 乱数値 がとる 全領域中予 め設定 された 領域 に含まれるか否かの 判断 を行う回数 が複数回 に設定 された 第2入賞 とからなり , 前記確率変更手段は,前記サブ抽選手段による抽選において前記入賞以外のはずれであることを条件に,前記入賞確率を,前記入賞よりも低い値に設定することを特徴とするスロットマシン。 3 決定の理由 本件決定の理由は,【別紙】の「異議の決定の理由」に記載のとおりである(以下「決定書」という。)。その要旨は,本件訂正請求は適法であるのでこれを認めるが,本件発明は,特開平6-335560号公報の明細書(以下「先願明細書」という。本件出願日の前に出願され本件出願後に出願公開されたもの)に記載の発明(以下「先願発明」という。)と同一であって,特許法29条の2第1項の規定により特許を受けることができない,というものである。 |
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原告主張の決定取消事由の要点
1 決定は,先願明細書(特願平5-127525号の願書に最初に添付された明細書又は図面,甲2(特開平6-335560号公報)参照)に記載の先願発明の認定を誤ることにより,本件発明と先願発明とが同一発明であると誤って認定したものであるから,違法として取り消されるべきである。 2 決定は,「先願明細書には本件発明の『サブ抽選手段』が記載されている。」(決定書の(3-3)「対比及び判断」第2段落末尾)と認定し,この認定を前提として,「先願明細書には,本件発明の「E」が記載されている。」(決定書の(3-3)「対比及び判断」第3段落末尾)と認定したが,誤りである(本件発明の構成Eについては,前記第2の2「本件発明の要旨」の下線部分参照)。 3 被告は,先願発明の「S195Dに進み,その演算結果を確率変動当選許容値と比較する処理」(甲2の段落【0096】。以下,この処理を「比較処理」という。)が本件発明の「サブ抽選手段」に相当すると主張する。 しかし,本件発明の「サブ抽選手段」は,単に「演算結果を確率変動当選許容値と比較する処理」を行うだけでは足らず,その比較結果に基づいて,入賞確率が設定されて初めて,「サブ抽選手段」に相当するといえる。 このことは訂正明細書(甲5)の請求項1の次の記載から明らかである。 「前記サブ抽選手段による入賞には,入賞確率を変更した状態で,前記入賞判定手段によって行われる,前記乱数抽選手段により抽選された乱数値が前記乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域に含まれるか否かの判断を行う回数が1回に設定された第1入賞と,入賞確率を変更した状態で,前記入賞判定手段によって行われる,前記乱数抽選手段により抽選された乱数値が前記乱数発生手段から順次発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域に含まれるか否かの判断を行う回数が複数回に設定された第2入賞とからなり,」 他方,先願明細書には,次のような記載がある。 ・ 「S195Dに進み,その演算結果を確率変動当選許容値と比較する処理がなされる。・・・S195Eにより,演算結果が,確率変動2回当選許容値の範囲内であれば,S195Fに進み,ゲーム回数・可変表示器25の予定停止図柄を『77』にセットする処理が行なわれて・・・演算結果が確率変動1回当選許容値の範囲内である場合には,・・・ゲーム回数・可変表示器25の予定停止図柄を『33』にセットする処理がなされて」(甲2の段落【0096】) ・ 「S195Mに進み,停止図柄が『77』となる特別の遊技状態が発生しているか否かの判断がなされ,『77』である場合にはS195Nに進み,確率変動カウンタを『2』にセットする処理がなされてS195Qに進む。一方,停止図柄が『33』となる特別の遊技状態が発生している場合には,S195OによりYESの判断がなされてS195Pに進み,確率変動カウンタを『1』にセットする処理がなされてS195Qに進む。」(同段落【0097】) これによれば,先願発明では,比較処理の結果,入賞の時は,S195F又はS195Hの停止図柄「77」セット又は停止図柄「33」セットの処理を行った後に,S195M又はS195Nにおいて,停止図柄が「77」又は「33」であると判定されたときに,確率変動カウンタの値を「2」又は「1」とする処理を行い,この変動カウンタの値によって,初めて入賞確率を設定することが行われている。 なお,先願発明では,停止図柄「77」セット又は停止図柄「33」セットの処理を行ったからといって,停止図柄が「77」又は「33」となるとは限らない。 このことは,先願明細書の次の記載から明らかである。 「ビックボーナス当選フラグがセットされている場合にはS126に進み,他のリールが停止しているか否かの判断がなされ,他のリールがまだ停止していない場合にはS127に進み,現在の図柄番号から4図柄先以内にビックボーナス図柄(本実施例ではA)があるか否かの判断がなされ,ある場合にはS128によりビックボーナス図柄を有効ライン上に停止させた後S152に進む。一方,現在の図柄番号から4図柄先以内にビックボーナス図柄がない場合にはその回のゲームにおけるビックボーナスゲームの開始を諦めてS139に進む。」(甲2の段落【0075】) よって,先願発明においては,比較処理の結果,入賞の時は,停止図柄「77」セツト又は停止図柄「33」セットという処理と,停止図柄が「77」又は「33」となったことにより確率変動カウンタが各々セットされる処理とは,先の処理がなされると直ちに後の処理がなされるとは限らず,同一視することもできない。 したがって,本件発明の「サブ抽選手段」の機能の一部は,先願発明の「確率変動カウンタの値」がこれを果たしていると理解するほかない。 4 そこで,先願発明の「確率変動カウンタの値」についてみても,次のとおり,本件発明の「サブ抽選手段」に相当する構成を有しているとはいえない。 まず,先願発明において,停止図柄が「77」又は「33」のときに,確率変動カウンタの値を「2」又は「1」とする処理を抽選であると理解することはできない。仮に,この処理を抽選であると理解するとしても,この処理は遊技の度ごとに行われるから,本件発明の「サブ抽選」に相当するものではない。 また,「確率変動カウンタの値」のチェックは,入賞判定を行うごとに行われており,これも本件発明のサブ抽選に相当するものではない。 なぜなら,本件発明の第2入賞は,訂正明細書の請求項1に記載されているように,「入賞確率を変更した状態で,前記入賞判定手段によって行われる,前記乱数抽選手段により抽選された乱数値が前記乱数発生手段から順次発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域に含まれるか否かの判断を行う回数が複数回に設定された」ものであり,この第2入賞中には,サブ抽選は行わないものであるからである。 以上の点に関し,被告は,先願明細書の「確率変動カウンタが『0』でない場合には,当選を無効にしてもよいし,抽選を行わないようにしてもよい。」(甲2の段落【0097】)との記載を根拠に,変動カウンタが「0」でない場合,すなわち確率変動カウンタが「1」,「2」等の場合には,サブ抽選を行わないことが開示されていると主張する。しかし,確率変動カウンタの値は,比較処理の結果を常に反映しているものではないから,失当である。 また,先願明細書には,「確率変動状態にするか否かを抽選」(甲2の段落【0097】)なる文言が記載されているが,この記載を具体化する記述は他に見いだすことができず,この記載をもって「サブ抽選手段」に相当することの理由とすることはできない。 |
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被告の主張の要点
1 先願明細書記載の「S195Dに進み,その演算結果を確率変動当選許容値と比較する処理」(比較処理)が本件発明の「サブ抽選手段」に相当するのであり,決定が「先願明細書には本件発明の『サブ抽選手段』が記載されている。」(決定書の(3-3)「対比及び判断」第2段落末尾)と認定したことに誤りはない。 2 原告は,「本件発明の『サブ抽選手段』は,『演算結果を確率変動当選許容値と比較する処理』を行うだけでは足らず,その比較結果に基づいて,入賞確率が設定されて初めて,『サブ抽選手段』に相当する」と主張する。 しかし,訂正明細書の請求項1には「サブ抽選手段におけるサブ抽選での入賞を条件に,乱数発生手段から発生する全領域中予め設定された領域を変更することにより,入賞確率を設定する確率変更手段」と記載されており,本件発明において「入賞確率を設定する」のは「確率変更手段」であり,本件発明の「サブ抽選手段」は,入賞確率までも設定するものではない。したがって,上記原告の主張は,訂正明細書の記載に基づかない主張であり,失当である。 3 原告は,先願発明における比較処理の結果と確率変動カウンタがセットされる処理について,「先の処理がなされると直ちに後の処理がなされるとは限らず」と主張する。 しかし,先願明細書には,次のような記載があり,比較処理の結果は,確率変動カウンタの値に反映されているものである。 ・ 「演算結果が,確率変動2回当選許容値の範囲内であれば,・・・ゲーム回数・可変表示器25の予定停止図柄を『77』にセットする処理が行なわれて・・・演算結果が確率変動1回当選許容値の範囲内である場合には・・・ゲーム回数・可変表示器25の予定停止図柄を『33』にセットする処理がなされ」(甲2の段落【0096】) ・ 「ゲーム回数・可変表示器25を,前記S195F,195Hあるいは195Iによりセットされた停止図柄になるように停止制御する。」(同段落【0097】) 4 原告は,先願発明においては,「確率変動カウンタの値を『2』又は『1』とする処理は・・・遊技の度ごとに行われる」,及び「『確率変動カウンタの値』をチェックする処理は,入賞判定を行うごとに必ず行われている。」から,本件発明の「サブ抽選」に相当するものではない旨主張する。 しかし,本件発明の「サブ抽選」の機能は,先願発明の比較処理において行われており,確率変動カウンタの値を「2」又は「1」とする処理,及び「確率変動カウンタの値」のチェックは,「サブ抽選」とは別の処理である。 5 原告は,本件発明では「第2入賞中には,サブ抽選は行わない。」と主張する。 しかし,先願明細書には,「確率変動カウンタが『0』でない場合には,当選を無効とするようにしてもよいし,抽選を行なわないようにしてもよい。」(甲2の段落【0097】)と記載され,この「当選」及び「抽選」が,比較処理を意味することは明らかであり,本件発明の「サブ抽選手段」に相当する先願発明の比較処理は,第2入賞中には行われないから,この点において,本件発明と先願発明は相違するものではない。 6 原告は,先願明細書には,「確率変動状態にするか否かを抽選」(甲2の段落【0097】)なる文言が記載されているが,この記載を具体化する記述は他に見いだすことができず,この記載をもって「サブ抽選手段」に相当することの理由とすることはできないと主張する。 しかし,決定は,甲2の段落【0097】の上記記載部分を引用して「サブ抽選手段」に相当するとしたわけではないので,原告の主張は失当である。 |
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当裁判所の判断
1 原告は,決定の「先願明細書には本件発明の『サブ抽選手段』が記載されている。」(決定書の(3-3)「対比及び判断」第2段落末尾)との認定を争うものである。 (1) まず,本件発明における「サブ抽選手段」についてみるに,本件発明の構成要件における「サブ抽選手段」に関する記載として,次のものがある。 ・ 「入賞判定手段での入賞を条件に,サブ抽選をするサブ抽選手段」,「サブ抽選手段におけるサブ抽選での入賞を条件に,乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域を変更することにより,入賞確率を設定する確率変更手段」 ・ 「サブ抽選手段による入賞には,入賞確率を変更した状態で,前記入賞判定手段によって行われる,前記乱数抽選手段により抽選された乱数値が前記乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域に含まれるか否かの判断を行う回数が1回に設定された第1入賞と,入賞確率を変更した状態で,前記入賞判定手段によって行われる,前記乱数抽選手段により抽選された乱数値が前記乱数発生手段から順次発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域に含まれるか否かの判断を行う回数が複数回に設定された第2入賞とからなり」 ・ 「確率変更手段は,前記サブ抽選手段による抽選において前記入賞以外のはずれであることを条件に,前記入賞確率を,前記入賞よりも低い値に設定する」 これらの記載によれば,「サブ抽選手段」とは,入賞判定手段での入賞を条件として行われる抽選であって,その抽選の結果が第1入賞,第2入賞及びはずれの3段階であって,それら抽選結果に応じて,「確率変更手段」が入賞確率を設定するものであることが認められる。 (2) 先願発明における抽選の時期についてみるに,先願明細書(甲2)には,次のような記載がある。 ・ 「確率変動カウンタとは,ビッグボーナスゲームの発生確率を何回向上させるかを記憶しておくためのものであり,後述するS195Nにより『2』となり,S195Pにより『1』となる。そして,確率を向上させない場合には『0』が記憶された状態となっている。」(甲2の段落【0053】,決定の(k)) ・ 「次にS195Bに進み,現時点におけるランダム値Rを格納する処理がなされ,S195Cにより,その格納した値を用いて所定の演算を行なう処理がなされる。・・・次にS195Dに進み,その演算結果を確率変動当選許容値と比較する処理がなされる。この確率変動当選許容値とは,ビッグボーナスゲーム発生確率を向上させることができる許容値のことである。この確率変動当選許容値は,確率変動状態を2回発生させる確率変動2回当選許容値と,確率変動状態を1回だけ発生させる確率変動1回当選許容値との2種類が定められている。S195Eにより,演算結果が,確率変動2回当選許容値の範囲内であれば,S195Fに進み,ゲーム回数・可変表示器25の予定停止図柄を『77』にセットする処理が行なわれてS195Jに進む。一方,演算結果が確率変動1回当選許容値の範囲内である場合には,S195EによりNOの判断がなされてS195GによりYESの判断がなされてS195Hに進み,ゲーム回数・可変表示器25の予定停止図柄を『33』にセットする処理がなされてS195Jに進む。一方,演算結果が確率変動2回当選許容値の範囲内ではなくかつ確率変動1回当選許容値の範囲内でもなかった場合にはS195Iに進み,ゲーム回数・可変表示器25の予定停止図柄をはずれ停止図柄にセットする処理がなされる。」(同段落【0096】,決定の(s)) ・ 「ゲーム回数・可変表示器25を,前記S195F,195Hあるいは195Iによりセットされた停止図柄になるように停止制御する。次にS195Mに進み,停止図柄が『77』となる特別の遊技状態が発生しているか否かの判断がなされ,『77』である場合には・・・確率変動カウンタを『2』にセットする処理がなされてS195Qに進む。一方,停止図柄が『33』となる特別の遊技状態が発生している場合には,・・・確率変動カウンタを『1』にセットする処理がなされてS195Qに進む。」(同段落【0097】,決定の(t)) ・ 「さらに,確率変動を行なうか否かの抽選時期は・・・ビッグボーナス発生時・・・であってもよい。」(同段落【0098】,決定の(v)) 以上に照らせば,先願明細書記載の「ビッグボーナス発生」が本件発明の「入賞判定手段での入賞」に相当することは明らかであるから,ビッグボーナス発生時に行われる「確率変動を行なうか否かの抽選」と本件発明の「サブ抽選」とは,まず,抽選時期において一致することが明らかである。 (3) 次に,先願明細書における「確率変動を行なうか否かの抽選」(甲2の段落【0098】)とは,具体的には,同段落【0096】記載の「ランダム値R・・・を用いて所定の演算を行なう処理がなされ・・・その演算結果を確率変動当選許容値と比較する処理」(比較処理)のことであり,抽選結果(処理結果)に応じて,ゲーム回数・可変表示器25の予定停止図柄が「77」,「33」又はそれ以外にセットされ,その予定停止図柄どおりにゲーム回数・可変表示器25が停止制御され,その図柄に従って確率変動カウンタの値が「2」,「1」又は「0」にセットされるのであるから,抽選結果に応じて確率変動カウンタの値が3段階に定まるものと認められる。 そして,確率変動カウンタの値が「2」又は「1」の場合は,同値が「0」の場合よりもビッグボーナス発生確率が向上しているのであるから,先願発明の「確率変動カウンタ」は本件発明の「確率変更手段」に相当するということができ,確率変動を行うか否かの抽選結果に応じて確率変動カウンタの値が定まることは,本件発明の「サブ抽選」の結果に応じて確率変更手段による入賞確率の設定値が定まることと異ならないことが認められる。 (4) 以上によれば,先願明細書記載の「確率変動を行なうか否かの抽選」と本件発明の「サブ抽選」とは,抽選時期のほか,抽選結果によって入賞確率が定まるという抽選のもつ技術的意義においても一致するものと認められる。そうすると,先願発明における「確率変動を行なうか否かの抽選」,すなわち「演算結果を確率変動当選許容値と比較する処理」を行う手段と,本件発明の「サブ抽選手段」とは,同一構成であることが明らかである。 なお,先願明細書記載の「確率変動1回当選許容値の範囲内」及び「確率変動2回当選許容値の範囲内」が,それぞれ本件発明にいう「第1入賞」及び「第2入賞」に相当する旨の決定の認定も,是認し得るものである。 したがって,本件発明の構成Eを先願発明が有することも明らかであって,これと同旨の決定の認定に誤りはない。 2 原告の主張についての検討 (1) 原告は,「本件発明の『サブ抽選手段』は,『演算結果を確率変動当選許容値と比較する処理』を行うだけでは足らず,その比較結果に基づいて,入賞確率が設定されて初めて,『サブ抽選手段』に相当する」と主張する。 しかし,この主張は,サブ抽選の結果が入賞確率に反映されるとの意味においては首肯し得るものではあるが,先願発明における「演算結果を確率変動当選許容値と比較する処理」(比較処理)の結果が,入賞確率に反映されるものであることは,前判示のとおりであるから,先願発明が「サブ抽選手段」を有しないことの理由となるものではなく,原告の主張は,採用することができない。 (2) 原告は,先願発明の「確率変動カウンタの値を『2』又は『1』とする処理」又は「確率変動カウンタの値」のチェックのいずれも,遊技の度ごと又は入賞判定を行うごとに行われるので,本件発明の「サブ抽選」が第2入賞中には行われない点で相違すると主張する。 しかし,本件発明の「サブ抽選」に相当する先願発明の構成は,前判示のとおり,「演算結果を確率変動当選許容値と比較する処理」を行う手段であって,「確率変動カウンタの値を『2』又は『1』とする処理」又は「確率変動カウンタの値」のチェックではないから,原告の主張は,その前提において失当であるというほかない。 もっとも,主張の趣旨にかんがみ,先願発明の比較処理が第2入賞中(先願発明では確率変動カウンタの値が「2」の状態)に行われるかどうかについて,検討しておく。先願発明において,比較処理の結果が「確率変動2回当選許容値の範囲内」であれば,確率変動状態を2回発生させるものであり,そうであれば,確率変動カウンタの値が「2」の時にも比較処理を行ったのでは,その結果によって新たに確率変動カウンタの値が定まることとなるから,確率変動状態を2回発生させることができなくなる。したがって,確率変動カウンタの値が「2」であれば,比較処理を行わないか,行ったとしても確率変動カウンタの値に反映させないとの処理が当然なされているはずのものであると解される。現に,先願明細書には,「確率変動カウンタが『0』でない場合には,当選を無効とするようにしてもよいし,抽選を行なわないようにしてもよい。」(甲2の段落【0097】)との記載もあり,上記説示のことが明確に記載されている。したがって,第2入賞中には行われない点についても,本件発明の「サブ抽選手段」と先願発明の比較処理を行う手段には,相違がないことが明らかである。よって,この観点からも,原告の主張は,採用することができない。 (3) その他,原告は,「先願明細書には,『確率変動状態にするか否かを抽選』・・・なる文言が記載されているが,この記載を具体化する記述は他に見いだすことができず」との主張をするが,既に判示したように,「確率変動を行なうか否かの抽選」については,甲2の段落【0096】に具体的に記載されているので,この主張も採用の限りではない。 また,原告は,先願明細書における甲2の段落【0075】の記載を根拠に,「停止図柄『77』セット又は停止図柄『33』セットの処理を行ったからといって,停止図柄が『77』又は『33』となるとは限らない」及び「確率変動カウンタの値は,比較処理の結果を常に反映しているものではない」と主張する。しかし,同段落記載の「図柄」とはスロットマシンの遊技におけるリールの図柄であって,確率変動のために使用されるゲーム回数・可変表示器の図柄と無関係であることは明らかであり,前判示のとおり,確率変動カウンタの値は,比較処理の結果を常に反映しているので,この主張も採用することができない。 3 結論 以上のとおり,原告主張の決定取消事由はいずれも理由がなく,その他決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
【別紙】異議の決定の理由異議2000-72489号事件,平成13年3月28日付け決定(下記は,上記決定の理由部分について,文書の書式を変更したが,用字用語の点を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)理由1.手続の経緯特許第2991650号の請求項1に係る発明は,平成5年9月10日に出願された特願平5-225358号の一部を新たな出願とした特願平7-329337号に係るものであって,平成11年10月15日にその特許権の設定登録がなされ,その後,伊藤直子及び中村弘美より特許異議の申立てがなされ,取消しの理由が通知され,その指定期間内である平成12年12月5日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断(2-1)訂正の内容訂正事項(1):特許請求の範囲の請求項1を次のように訂正する。 「複数のリールと,これらのリールの回転を開始させるスタートスイッチと,乱数を発生させる乱数発生手段と,前記スタートスイッチからのスタート信号に基づいて,前記乱数発生手段から発生される乱数値から一つの乱数値を抽選する乱数抽選手段と,この乱数抽選手段により抽選された乱数値が,前記乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域に含まれると,入賞信号を出力する入賞判定手段と,この入賞判定手段からの入賞信号に基づいて,遊技機を制御する遊技制御手段と,前記入賞判定手段からの入賞信号に基づいて,メダルを払い出すメダル払出手段とを備えたスロットマシンにおいて,上記入賞判定手段での入賞を条件に,サブ抽選をするサブ抽選手段を備え,このサブ抽選手段におけるサブ抽選での入賞を条件に,乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域を変更することにより,入賞確率を設定する確率変更手段と,前記サブ抽選手段による入賞には,入賞確率を変更した状態で,前記入賞判定手段によって行われる,前記乱数抽選手段により抽選された乱数値が前記乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域に含まれるか否かの判断を行う回数が1回に設定された第1入賞と,入賞確率を変更した状態で,前記入賞判定手段によって行われる,前記乱数抽選手段により抽選された乱数値が前記乱数発生手段から順次発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域に含まれるか否かの判断を行う回数が複数回に設定された第2入賞とからなり,前記確率変更手段は,前記サブ抽選手段による抽選において前記入賞以外のはずれであることを条件に,前記入賞確率を,前記入賞よりも低い値に設定することを特徴とするスロットマシン。」訂正事項(2):【0005】を次のとおり訂正する。 「【課題を解決するための手段】本発明は,上記した目的を達成するためのものであり,以下にその内容を図面に示した実施例を用いて説明する。 請求項1記載の発明は,入賞判定手段(31)での入賞を条件に,サブ抽選をするサブ抽選手段(34)を備え,このサブ抽選手段(34)におけるサブ抽選での入賞を条件に,乱数発生手段(35)から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域を変更することにより,入賞確率を設定する確率変更手段(33)と,前記サブ抽選手段(34)による入賞には,入賞確率を変更した状態で,前記入賞判定手段(31)によって行われる,前記乱数抽選手段(36)により抽選された乱数値が前記乱数発生手段(35)から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域に含まれるか否かの判断を行う回数が1回に設定された第1入賞と,入賞確率を変更した状態で,前記入賞判定手段(31)によって行われる,前記乱数抽選手段(36)により抽選された乱数値が前記乱数発生手段(35)から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域に含まれるか否かの判断を行う回数が複数回に設定された第2入賞とからなり,前記確率変更手段(33)は,前記サブ抽選手段(34)による抽選において前記入賞以外のはずれであることを条件に,前記入賞確率を,前記入賞よりも低い値に設定することを特徴とする。」訂正事項(3):【0007】を次のとおりに訂正する。 「この入賞判定手段(31)での例えば「大ボーナス」の入賞判定を条件にサブ抽選手段(34)がサブ抽選を行う。 そして,サブ抽選手段(34)でのサブ抽選において入賞すると,確率変更手段(33)が,乱数発生手段(35)から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域を変更することにより,入賞確率を設定する。これにより,例えば「大ボーナス」の入賞確率が上げられ,連続入賞のチャンスを増加させる。 また,前記サブ抽選手段(34)により第1入賞と判定されると,入賞確率を変更した状態で,前記入賞判定手段(31)によって行われる,前記乱数抽選手段(36)により抽選された乱数値が前記乱数発生手段(35)から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域に含まれるか否かの判断を行う回数が1回に設定される。 また,前記サブ抽選手段(34)により第2入賞と判定されると,入賞確率を変更した状態で,前記入賞判定手段(31)によって行われる,前記乱数抽選手段(36)により抽選された乱数値が前記乱数発生手段(35)から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域に含まれるか否かの判断を行う回数が複数回に設定される。 また,前記確率変更手段(33)は,前記サブ抽選手段(34)による抽選において前記入賞以外のはずれであることを条件に,前記入賞確率を,前記入賞よりも低い値に設定する。」(2-2)訂正の目的の適否,新規事項の有無及び拡張・変更の存否上記訂正事項(1)は,「このサブ抽選手段におけるサブ抽選での入賞を条件に,乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域を変更する確率変更手段」をこれに含まれる「このサブ抽選手段におけるサブ抽選での入賞を条件に,乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域を変更することにより,入賞確率を設定する確率変更手段」に変更するものであり,また,「確率変更手段」をこれに含まれる「前記サブ抽選手段による抽選において前記入賞以外のはずれであることを条件に,前記入賞確率を,前記入賞よりも低い値に設定する」に変更するものであり,いずれも,特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。 また,上記訂正事項(2),(3)は,上記訂正事項(1)との整合を図るものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。 そして,上記訂正事項(1)〜(3)は,願書に添付された明細書の【0019】,【0020】に記載されているから,新規事項の追加に該当せず,実質的に特許請求の範囲を拡張し,変更するものではない。 (2-3)むすび以上のとおりであるから,上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる,特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書,第2項及び第3項の規定に適合するので,当該訂正を認める。 3.特許異議申立についての判断(3-1)本件の請求項1に係る発明上記2.で示したように上記訂正が認められるから,本件の請求項1に係る発明(以下,「本件発明」という。)は,上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり(上記2.(2-1)訂正事項(1)参照),分説すると次のとおりである。 A.複数のリールと,これらのリールの回転を開始させるスタートスイッチと,乱数を発生させる乱数発生手段と,前記スタートスイッチからのスタート信号に基づいて,前記乱数発生手段から発生される乱数値から一つの乱数値を抽選する乱数抽選手段と,B.この乱数抽選手段により抽選された乱数値が,前記乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域に含まれると,入賞信号を出力する入賞判定手段と,C.この入賞判定手段からの入賞信号に基づいて,遊技機を制御する遊技制御手段と,D.前記入賞判定手段からの入賞信号に基づいて,メダルを払い出すメダル払出手段とを備えたスロットマシンにおいて,E.上記入賞判定手段での入賞を条件に,サブ抽選をするサブ抽選手段を備え,このサブ抽選手段におけるサブ抽選での入賞を条件に,乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域を変更することにより,入賞確率を設定する確率変更手段と,前記サブ抽選手段による入賞には,入賞確率を変更した状態で,前記入賞判定手段によって行われる,前記乱数抽選手段により抽選された乱数値が前記乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域に含まれるか否かの判断を行う回数が1回に設定された第1入賞と,入賞確率を変更した状態で,前記入賞判定手段によって行われる,前記乱数抽選手段により抽選された乱数値が前記乱数発生手段から順次発生する乱数値がとる全領域中予め設定された領域に含まれるか否かの判断を行う回数が複数回に設定された第2入賞とからなり,F.前記確率変更手段は,前記サブ抽選手段による抽選において前記入賞以外のはずれであることを条件に,前記入賞確率を,前記入賞よりも低い値に設定することを特徴とするスロットマシン。 (3-2)先願明細書に記載された発明当審で通知した取消しの理由で引用した証拠方法のうち,本件発明の出願日前の出願(特願平5-127525号)であって,その出願後に出願公開された他の願書に最初に添付された明細書又は図面(特開平6-335560号参照,以下,「先願明細書」という。)には,以下のような事項が記載されている。 (a)「図1は,本発明に係るスロットマシンの一例を示す全体正面図である。」(【0008】),(b)「・・・遊技者がコインを投入してスタートレバー12を押圧操作すれば,可変表示装置90が可変開始されて各可変表示部5L〜5Rにより複数種類の識別情報が可変表示される。・・・」(【0009】),(c)「・・・可変表示装置70は,複数(図面では3個)のリール6L,6C,6Rを有し,・・・」(【0014】),(d)「図6(b)はランダムカウンタ更新処理の割込プログラムを示すフローチャートである。この図6(b)に示す割込プログラムは前述したパルス分周回路53から定期的に入力されるパルス信号に基づいて行なわれるものであり,たとえば4msec毎に1回ずつ実行される。まずS15により,ランダムカウンタの値Rを所定の数N加算更新する処理が行なわれる。・・・」(【0035】,【図5】),(e)「制御部45は次の各種機器に対し制御信号を出力する。・・・モータ回路57を介してコイン払出モータ38にコイン払出用制御信号を出力する。・・・ランプ回路60を介して遊技効果ランプ24,投入指示ランプ19,有効ライン表示ランプ21,22,23,左操作有効ランプ11L,中操作有効ランプ11C,右操作有効ランプ11R,ゲームオーバランプ20,再ゲーム表示ランプ64にそれぞれランプ制御用信号を出力する。サウンドジェネレータ50,アンプ61を介してスピーカ28に音発生用制御信号を出力する。」(【0028】,【図5】),(f)「以上説明したように,1ゲームにおけるゲーム結果に賭ける賭数を入力設定するべく遊技者がコインをコイン投入口18から投入するごとにS58によりランダムカウンタのランダム値Rが読出される。・・・」(【0049】,【図8】),(g)「・・・なお,ランダム値Rの抽出をスタート操作により行なうようにしてもよい。・・・」(【0049】),(h)「次にS66に進み,格納されているランダム値Rを用いて所定の演算を行なう処理がなされる。・・・次にS67に進み,その演算結果を,投入数・設定値・確率変動カウンタ・小役判定モードに応じた当選許容値と比較する処理が行なわれる。」(【0052】,【図9】),(i)「この当選許容値は,たとえば図10(c),(d)や図11に示されているように,ビッグボーナスゲーム(BB)当選許容値,レギュラーボーナスゲーム(RB)当選許容値,再ゲーム当選許容値,小役当選許容値の4種類から構成されている。この各当選許容値は,テーブルの形でROM47に記憶されている。・・・」(【0053】),(J)「図10(c)の場合は,3枚賭で,小役判定モードが通常時で,確率変動カウンタの値が「0」で,確率設定が「4」である場合であるために,図10(a)の設定「4」で投入数が「3」でビッグボーナスゲームの発生確率が「通常時」に該当する欄に記載された数値,すなわち,ビッグボーナスゲーム当選許容値としてA34が,レギュラーボーナスゲーム当選許容値としてB34が用いられる。」(【0056】)(k)「・・・確率変動カウンタとは,ビッグボーナスゲームの発生確率を何回向上させるかを記憶しておくためのものであり,後述するS195Nにより「2」となり,S195Pにより「1」となる。そして,確率を向上させない場合には「0」が記憶された状態となっている。・・・」(【0053】,【図17】),(l)「図11(a)は,3枚賭,小役判定モードが「通常時」,確率変動カウンタの値が「0」以外の場合で,確率設定値が「4」の場合を示している。この場合には,図10(a),(b)に従えば,ビッグボーナスゲーム当選許容値b0=A44,レギュラーボーナスゲーム当選許容値b1=b0+B34,再ゲーム当選許容値b2=b1+G11,コイン15枚を払出す小役当選許容値b3=b2+C31,コイン8枚を払出す小役当選許容値b4=b3+D31,コイン6枚を払出す小役当選許容値b5=b4+E31,コイン3枚を払出す小役当選許容値b6=b5+F31となる。」(【0058】),(m)「・・・また,確率変動カウンタの値が「0」のときよりも「0」以外のときの方が,ビッグボーナスゲームの発生確率が高くなる。・・・」(【0060】),(n)「S76では,前記S67による比較結果,ランダム値Rを用いた演算結果がビッグボーナス当選許容値に含まれているか否かすなわち0≦演算結果 (3-3)対比及び判断本件発明と上記先願明細書記載の発明(以下,「先願発明」という。)とを対比すると,先願明細書の上記(c)の「リール6L,6C,6R」が本件発明の「複数のリール」に,上記(b)の「スタートレバー12」が本件発明の「スタートスイッチ」に,それぞれ相当し,上記(d)には本件発明の「乱数発生手段」が,上記(f),(g)には本件発明の「乱数抽選手段」が記載され,上記(h),(i)には本件発明の「入賞判定手段」が,上記(e)には本件発明の「遊技制御手段」が,上記(q)には本件発明の「メダル払出手段」が,それぞれ記載され,上記(a)には「スロットルマシン」が記載されているから,先願明細書には,本件発明の「A」〜「D」が記載されている。 また,上記(s)には「次にS195Bに進み,現時点におけるランダム値Rを格納する処理がなされ,S195Cにより,その格納した値を用いて所定の演算を行なう処理がなされる。・・・次にS195Dに進み,その演算結果を確率変動当選許容値と比較する処理がなされる。」と記載され,上記(v)には「さらに,確率変動を行なうか否かの抽選時期は実施例に限定されるものではない。たとえば,ビッグボーナス当選時,ビッグボーナス発生時,ビッグボーナスゲーム終了時の次のゲーム,特定の小役発生時,再ゲーム時,ボーナス当選時,ボーナス発生時,ボーナスゲーム終了後の次のゲーム等の時期であってもよい。」と記載され,上記(m)「確率変動カウンタの値が「0」のときよりも「0」以外のときの方が,ビッグボーナスゲームの発生確率が高くなる」ことは,本件発明の「入賞確率を設定する」に相当するから,先願明細書には本件発明の「サブ抽選手段」が記載されている。 さらに,上記(s)には「この確率変動当選許容値とは,ビッグボーナスゲーム発生確率を向上させることができる許容値のことである。この確率変動当選許容値は,確率変動状態を2回発生させる確率変動2回当選許容値と,確率変動状態を1回だけ発生させる確率変動1回当選許容値との2種類が定められている。」と記載され,上記(u)には「確率変動回数は2種類に限定されることなく,1種類または3種類以上の回数であってもよい。また,確率変動回数を異ならせるのに代えてあるいはそれに加えて,確率変動時の当選確率を異ならせるようにしてもよい。」と記載されていることから,先願明細書には事実上「確率変更手段」が記載され,先願発明の「演算結果が確率変動1回当選許容値の範囲内」が本件発明の「第1入賞」に相当し,先願発明の「演算結果が確率変動2回当選許容値の範囲内」が本件発明の「第2入賞」に相当し,先願発明の「ビッグボーナスゲーム当選許容値B0」が「A34」から「A44」に変更されることが本件発明の「乱数値がとる全領域中予め設定された領域を変更する」に相当するから,先願明細書には,本件発明の「E」が記載されている。 そして,上記先願明細書には,(k)「・・・確率変動カウンタとは,ビッグボーナスゲームの発生確率を何回向上させるかを記憶しておくためのものであり,後述するS195Nにより「2」となり,S195Pにより「1」となる。そして,確率を向上させない場合には「0」が記憶された状態となっている。・・・」(【0053】,【図17】),(J)「図10(c)の場合は,3枚賭で,小役判定モードが通常時で,確率変動カウンタの値が「0」で,確率設定が「4」である場合であるために,図10(a)の設定「4」で投入数が「3」でビッグボーナスゲームの発生確率が「通常時」に該当する欄に記載された数値,すなわち,ビッグボーナスゲーム当選許容値としてA34が,レギュラーボーナスゲーム当選許容値としてB34が用いられる。」(【0053】),(l)「図11(a)は,3枚賭,小役判定モードが「通常時」,確率変動カウンタの値が「0」以外の場合で,確率設定値が「4」の場合を示している。この場合には,図10(a),(b)に従えば,ビッグボーナスゲーム当選許容値b0=A44,レギュラーボーナスゲーム当選許容値b1=b0+B34,再ゲーム当選許容値b2=b1+G11,コイン15枚を払出す小役当選許容値b3=b2+C31,コイン8枚を払出す小役当選許容値b4=b3+D31,コイン6枚を払出す小役当選許容値b5=b4+E31,コイン3枚を払出す小役当選許容値b6=b5+F31となる。」(【0058】),(m)「・・・また,確率変動カウンタの値が「0」のときよりも「0」以外のときの方が,ビッグボーナスゲームの発生確率が高くなる。・・・」(【0060】),(w)「確率変動カウンタの値が「0」の場合のビッグボーナスの入賞確率(A34)を,確率変動カウンタの値が「0」以外の場合のビッグボーナスの入賞確率(A44)よりも低い値に設定する」(【図10】(c),【図11】(a)),と記載され,先願明細書の「先願発明の確率変動カウンタの値が「0」の場合(演算結果が確率変動2回当選許容値の範囲内ではなく且つ確率変動1回当選許容値の範囲内でもなかった場合)」は本件発明の「前記サブ抽選手段において前記入賞以外のはずれであること」に相当し,先願明細書の(m)「確率変動カウンタの値が「0」のときよりも「0」以外のときの方が,ビッグボーナスゲームの発生確率が高くなる」ことは本件発明の「前記入賞確率を,前記入賞よりも低い値に設定する。」に相当することからことから,先願明細書には,「前記確率変更手段は,前記サブ抽選手段による抽選において前記入賞以外のはずれであることを条件に,前記入賞確率(先願発明のA34)を,前記入賞(先願発明のA44)よりも低い値に設定する」ことが事実上記載され,本件発明の「F」が記載されている。 したがって,本件発明と上記先願明細書記載の発明とに相違は認められず,両者は同一である。 (3-4)特許権者の主張について特許権者は,平成12年12月5日付けの特許異議意見書において,先願発明について次のように主張している。 (i)「特願平5-127525号公報に記載の発明(先願発明)は,少なくとも左記に説明した本件発明の構成中,「E」及び「F」に記載された構成に相当する構成を備えておりません。 すなわち,特願平5-127525号公報に記載の発明(先願発明)では,「確率変動当選許容値」と「演算結果」とを比較し,「演算結果」が「確率変動2回当選許容値」,「確率変動1回当選許容値」の範囲内にある場合及び前記いずれの場合でもなかった場合のいずれの場合にも,確率変動カウンタの値をそれぞれ設定するのみであります(特願平5-127525号公報段落番号「0096〜0097」参照)。」(同書第4頁下1行ないし第5頁8行),(ii)「特に,本件発明は,入賞以外の場合にも,抽選確率を設定することで,入賞以外の抽選確率を通常の場合と異なることにすることができます。」(同書第5頁9〜10行)。 (上記(i)について)上記(3-3)において検討したとおり,先願明細書には,本件発明の上記「E」,「F」が事実上記載されている。 また,先願発明は,「確率変動カウンタの値をそれぞれ設定」する以上,それぞれの確率変動カウンタの値で,ゲームを行うことは明らかであるから,先願発明が「確率変動カウンタの値をそれぞれ設定するのみ」とはいえない。 (上記(ii)について)特許権者は「本件発明は,入賞以外の場合にも,抽選確率を設定することで,入賞以外の抽選確率を通常の場合と異なることにすることができます。」と主張しているが,本件発明の特許請求の範囲には,「前記確率変更手段(33)は,前記サブ抽選手段(34)による抽選において前記入賞以外のはずれであることを条件に,前記入賞確率を,前記入賞よりも低い値に設定する」と記載されているだけであって,「前記入賞確率」が通常の場合と同一のこともありえるから,特許権者の主張する「入賞以外の抽選確率を通常の場合と異なる」という特定事項は特許請求の範囲には記載されておらず,特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。 また,本件発明の訂正明細書に,「そして,図1に示すように,サブ抽選信号が確率変更手段33入力され,所定の値を抽選した場合には,確率変更手段33は確率データ記憶手段32から入賞判定手段31に送出する確率データを変更する。すなわち,サブ抽選手段34が「0」を抽選した場合,確率変更手段33は「大ボーナス」の入賞確率を350分の1に設定する」(【0019】),「一方,サブ抽選手段34が「1」又は「2」を抽選した場合,確率変更手段33は「大ボーナス」の入賞確率を30分の1に設定する。そして,「1」を抽選した場合,次の「大ボーナス」に入賞するまで,「大ボーナス」の入賞確率は30分の1を維持する。また,「2」を抽選した場合,次の次,いわゆる2回目の「大ボーナス」に入賞するまで,「大ボーナス」の入賞確率は30分の1を維持する」(【0020】),「上記抽選後,図3に示すように,ステップ61からステップ62に進み,ステップ61で抽選された乱数値が当選したか否かの判定をする。この判定は,図1に示すように入賞判定手段31で行われる。具体的には,確率データ記憶手段32(図1)からのデータ信号に基づき,抽選された乱数値がその全領域中予め設定された所定の領域に含まれるか否かにより行われる。この際,確率データ記憶手段32(図1)に記憶された確率データにおいて,「大ボーナス」に入賞する確率は,従来と同様に低めの設定であって,350分の1に設定されている」(【0023】),と記載され,サブ抽選手段34が「0」を抽選した場合の大ボーナスの入賞確率が350分の1であり,通常の場合も大ボーナスの入賞確率が350分の1であり,同一の確率であることから,本件発明の発明の詳細な説明には,特許権者が主張する「前記入賞(サブ抽選手段34が「1」又は「2」を抽選した場合の第1入賞,第2入賞)以外(サブ抽選手段34が「0」を抽選した場合)の抽選確率を通常の場合と異なる」ようにしたことは記載されておらず,発明の詳細な説明の記載に基づかない主張である。 (3-5)むすび以上のとおりであるから,本件発明は,その出願日前の出願であって,その出願後に出願公開された他の出願の願書に最初に添付された上記先願明細書に記載された発明と同一であり,しかも,本件発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも,本件出願の時において,その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないから,特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができない。 したがって,本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。 よって,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく,特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により,結論のとおり決定する。 平成13年3月28日 |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 田中昌利 |