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関連審決 審判1999-3906
関連ワード 発明者 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  発明の詳細な説明 /  抵触 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 397号 審決取消請求事件
原告A
訴訟代理人弁理士 右田登志男
同 千且和也
被告 特許庁長官太田 信一郎
指定代理人 神崎潔
同 大熊雄治
同 藤井昇
同 山口由木
同 高木進
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/11/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成11年審判第3906号事件について平成13年7月17日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成4年12月31日、名称を「せん孔爆破における安全装薬量決定方法」とする発明について特許出願(特願平4-361317号、以下「本件特許出願」という。)をしたが、拒絶査定を受けたので、平成11年3月17日、これに対する不服の審判を請求した。特許庁は、この請求を、平成11年審判第3906号事件として審理した上、平成13年7月17日、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決をし、その謄本は、同年8月6日、原告に送達された。
2 本件特許出願の願書に添付した明細書(平成5年2月10日付け、平成10年4月27日付け及び平成11年4月16日付け手続補正書による補正後のもの。
以下「本件明細書」という。)記載の発明の要旨(以下、【請求項1】に係る発明を「本願発明」という。) 【請求項1】1自由面における集中装薬爆破において、
W:装薬の表面と自由面との間の最短距離、すなわち、最小抵抗線 D1、D2:破壊半径またはせん孔間隔長 ただし、D1=D2 V:破壊岩盤体積、V=D1×D2×W L:装薬量、L=k×V k:安全係数、k=L/V としたとき、
D1=D2=W及びD1=D2 安全装薬量Lの値をL=k×Vで算定し、
D1=D2>Wの場合には、そのD1=D2をWの値に換算して、
安全装薬量Lの値をL=k×Vで算定すること、
を特徴とするせん孔爆破における安全装薬量決定方法。
【請求項2】2自由面における集中装薬爆破において、
W1:装薬の表面と第1自由面G1との間の最短距離、すなわち、最小抵抗線 W2:装薬の表面と第2自由面G2との間の最短距離、すなわち、最小抵抗線 ただし、W1=W2 D:破壊半径またはせん孔間隔長 V:破壊岩盤体積、V=D1×W1×W2 L:装薬量、L=k×V k:安全係数、k=L/V としたとき、
W1=W2=D及びW1=W2>Dの場合に、
安全装薬量Lの値をL=k×Vで算定し、
W1=W2 安全装薬量Lの値をL=k×Vで算定すること、
を特徴とするせん孔爆破における安全装薬量決定方法。
【請求項3】1自由面における棒状装薬爆破において、
W:装薬の表面と自由面との間の最短距離、すなわち、最小抵抗線 N:装薬長 D1、D2:破壊半径またはせん孔間隔長 ただし、D1=D2 V:破壊岩盤体積、V=D1×D2×(W+N) L:装薬量、L=k×V k:安全係数、k=L/V としたとき、
D1=D2=W及びD1=D2 安全装薬量Lの値をL=k×Vで算定し、
D1=D2>Wの場合には、そのD1=D2をWの値に換算して、
安全装薬量Lの値をL=k×Vで算定すること、
を特徴とするせん孔爆破における安全装薬量決定方法。
【請求項4】2自由面における棒状装薬爆破において、
W1:装薬の表面と第1自由面G1との間の最短距離、すなわち、最小抵抗線 W2:装薬の表面と第2自由面G2との間の最短距離、すなわち、最小抵抗線 ただし、W1=W2 N:装薬長 D:破壊半径またはせん孔間隔長 V:破壊岩盤体積、V=D×(W1+N)×W2 L:装薬量、L=k×V k:安全係数、k=L/V としたとき、
W1=W2=D及びW1=W2>Dの場合に、
安全装薬量Lの値をL=k×Vで算定し、
W1=W2 安全装薬量Lの値をL=k×Vで算定すること、
を特徴とするせん孔爆破における安全装薬量決定方法。
【請求項5】安全係数kの値が0.25〜0.45の範囲内であることを特徴とする請求項1,2,3または4に記載のせん孔爆破における安全装薬量決定方法。
3 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本願発明は、社団法人工業火薬協会編「新・発破ハンドブック」(平成元年5月15日株式会社山海堂初版発行、甲第2号証)18〜19頁(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決の理由中、「1.手続の経緯・本願の発明」及び「2.引用例記載事項の概要」は認め、その余は争う。
審決は、本願発明と引用例発明の一致点の認定を誤り(取消事由1)、相違点の判断を誤った(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 破壊半径又はせん孔間隔長 審決は、引用例(甲第2号証)について「『R』は、本願発明でいう『D1』または『D2』に相当している」(審決謄本4頁28行目)との認定に基づいて、本願発明と引用例発明が「D1、D2:破壊半径またはせん孔間隔長 ただし、D1=D2」(同5頁16行目〜17行目)の点で一致すると認定するが、誤りである。
本願発明のD1及びD2は「破壊半径またはせん孔間隔長」であり、D1及びD2が最小抵抗線Wと等しくない場合も想定しているが、この場合の破壊半径としてのD1及びD2は、隣接する他のせん孔によって強制的に作られる破壊半径であって、理論上の破壊半径とは異なる。すなわち、一般的に集中装薬の場合、火薬の量に関係なく、最小抵抗線と破壊半径は等しいから、D1,D2 そもそも、火薬の量が少ない場合に漏斗孔半径が最小抵抗線より小さくなり、火薬の量が多い場合に漏斗孔半径が最小抵抗線よりも大きくなるとの引用例(甲第2号証)の記載自体も誤りであって、引用例でいう漏斗孔半径と本願発明の破壊半径(せん孔間隔長)D1及びD2とは、全く異なるものである。
被告は、本件明細書において、漏斗孔半径と破壊半径が実質上同視されていることは明らかであると主張するが、被告が引用した本件明細書の記載は、引用例の上記記載の誤りを説明するために引用例と同様の用語を用いただけであって、
原告の主張は何ら矛盾するものではない。
(2) 安全係数 審決は、「本願発明でいう『安全係数k』としては、『R/W=1の場合ばかりでなく、V≠W3すなわちR/W≠1』となる場合にも、『R/W=1の条件下における』『真正の発破係数c』が用いられると考えるほかなく、この『発破係数c』は引用例記載の『比例定数C』と同義であるから、引用例記載の『比例定数C』と本願発明における『安全係数k』との間で、実質的な数値の差はないことになる」(審決謄本5頁6行目〜11行目)と認定するが、誤りである。
すなわち、上記(1)のとおり、引用例発明における漏斗孔半径と本願発明の破壊半径(せん孔間隔長)D1及びD2とは異なるのであるから、引用例発明の「漏斗孔体積」と本願発明の「破壊体積」も異なり、引用例発明の比例定数「C」と本願発明の安全係数「k」も異なる。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り) 審決は、「本願発明では、『D1=D2Wの場合には、そのD1=D2をWの値に換算して、安全装薬量Lの値をL=k×Vで算定する』とされるのに対し、引用例には『D1=D2Wの場合』の安全装薬量Lの算定手法に関する明確な言及はない点」(審決謄本5頁24行目〜28行目)を本願発明と引用例発明との相違点と認定し、「本願発明の上記の相違点として指摘した構成は、引用例の上記指摘に基づいて、当業者が容易に想到しうる設計事項といえる」(同6頁11行目〜13行目)と判断したが、誤りである。
本願発明は、D(破壊半径又はせん孔間隔長)≦Wのときは、L=k×D1×D2×Wによって計算しても装薬量が少ないことから、飛石の危険は少ないが、
D(破壊半径又はせん孔間隔長)>WのときにL=k×D1×D2×Wによって計算すると、装薬量が多くなることから、飛石の危険が大きくなることに着目し、D(破壊半径又はせん孔間隔長)>Wのときは、D(破壊半径又はせん孔間隔長)をWに換算して装薬量をL=kW3で計算するというものである。ところが、引用例には、R(漏斗孔半径)≦Wのときと、R(漏斗孔半径)>Wのときに分けて装薬量を決定する方法については何ら記載も示唆もされていないのであるから、上記相違点に係る本願発明の構成は、引用例の記載に基づいて当業者が容易に想到し得ないものである。
被告の反論
原告主張の取消事由は理由がなく、審決の認定判断に誤りはない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 破壊半径又はせん孔間隔長 引用例(甲第2号証)には、「薬量算定-ある大きさの岩石を破壊するためにどれだけの量の爆薬を必要とするかを算定する-のための資料を得る目的で,クレーターテスト(漏斗孔試験)と称する試験発破を実施することがある」(18頁2行目〜4行目)と記載され、漏斗孔試験は岩石を破壊するための試験と説明されている。そして、本件明細書(甲第3号証)でも、「漏斗孔(クレーター)の破壊半径R」(6頁3行目)、「クレーターすなわち逆円錐の破壊形状」(同11行目)と記載され、さらにハウザーの式における漏斗孔の体積W3について「W3は装薬量Lによって破壊された、または、破壊される筈の漏斗孔(クレーター)の破壊岩盤体積Vに外ならない」(4頁13行目〜14行目)と記載されており、「漏斗孔半径」と「破壊半径」が実質上同視されているから、審決の認定に原告主張の誤りはない。
(2) 安全係数 安全係数kについて、本件明細書(甲第3号証)には、「ハウザーの公式L=cW3をL=cVまで拡大解釈して、R/W=1ばかりでなく、R/W≠1をも含まれるようにする考えが、この爆破業界における通説である・・・本願発明者は、V=W3、すなわち、R/W=1の条件下におけるL/Vを真正の発破係数cと位置づける一方、破壊岩盤体積Vが、V=W3、すなわちR/W=1の場合ばかりでなく、V≠W3すなわちR/W≠1をも含む場合における発破係数、つまり、通説における発破係数を前記真正の発破係数cと区別して、安全係数kと命名した」(7頁13行目〜24行目)と記載されており、この他に「安全係数k」を求めるための格別の手法は示されていない。
一方、本件明細書(甲第3号証)の特許請求の範囲の請求項1においては、「L:装薬量、L=k×V k:安全係数、k=L/V」(1頁9行目〜10行目)と記載されているが、原告が主張するように、「安全係数k」が「発破係数c」と全く異なる意義を持つ係数であるとすると、上記のとおり当該「安全係数k」を求める手法の開示がない以上、Lとkのいずれもが決まらないから、本願発明自体が成立しなくなる。
したがって、「安全係数k」の計算式上の意味は、装薬量を求める式において、「破壊岩盤体積」に掛ける係数である「発破係数c」、すなわち、引用例(甲第2号証)記載の「比例定数C」と基本的に同じものと見るのが相当である。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について 引用例(甲第2号証)には、R≦WとR>Wに場合を分けて装薬量を決定することに関する直接的な言及がないが、引用例18頁の図2.2及び図2.3では、n=1、すなわち、破壊半径と最小抵抗線(深さ)とが等しい場合を中央に記載し、それより破壊半径が大きくなる場合が右側に、小さくなる場合が左側に、それぞれ、
装薬量との関係で説明されており、特に「n>1のとき,薬量が多過ぎたとされて過装薬と呼ばれ」(18頁15行目〜16行目)と記載し、この場合を「過装薬」とするのであるから、それぞれの場合に装薬量を決定する示唆が全くないとはいえない。
そして、発破作業において装薬量を計算し調整するに当たり、危険を回避する安全側、つまり、装薬量を少な目にしようとすることは、当業者が当然想到し得ることというべきである。
したがって、引用例にR(漏斗孔半径)≦WのときとR(漏斗孔半径)>Wのときに分けて装薬量を決定する方法について何ら記載も示唆もされていないとの原告の主張は、失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 引用例(甲第2号証)には、「薬量算定-ある大きさの岩石を破壊するためにどれだけの量の爆薬を必要とするかを算定する-のための資料を得る目的で,クレーターテスト(漏斗孔試験)と称する試験発破を実施することがある.・・・適当量(L)の爆薬を深さ(最小抵抗線)Wのところに装てんして爆破し,その結果生ずる爆破クレーター(漏斗孔)について観測する試験である」(18頁2行目〜7行目)との記載があり、「漏斗孔」は爆破によって岩石が破壊された結果生じた孔であるから、その孔の半径である「漏斗孔半径」は当然「破壊半径」とも称し得るものである。そうすると、引用例の「Rは漏斗孔の半径」(18頁12行目)との記載が、一つの爆薬によって岩石が破壊された結果生ずる孔の半径という意味での「破壊半径」を意味することは明らかである。
(2) 他方、本件明細書(甲第3号証)の発明の詳細な説明中の【従来の技術】には、「斉発発破において・・・D1:せん孔間隔長 D2:せん孔間隔長」(5頁10行目〜19行目)との記載があり、斉発発破の場合には、D1及びD2を「破壊半径」と称していないことからすれば、「破壊半径」と「せん孔間隔長」を同義と解することはできず、「破壊半径」とは一つの爆薬によって破壊され、その結果生ずる孔の半径と解するのが通常であって、この解釈による限り、本願発明の「破壊半径またはせん孔間隔長」とは、それぞれ異なる意味である「破壊半径」と「せん孔間隔長」のいずれかであるとの選択的意味に解すべきであるかのごとくである。
しかしながら、本願発明の要旨は、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1記載のとおりであり、同請求項においては、「破壊半径またはせん孔間隔長」が最小抵抗線より大きい場合(D1=D2>W)と両者が等しい場合(D1=D2=W)とで、装薬量を同量とすべきことが記載されているから、本願発明における「破壊半径またはせん孔間隔長」が上記(1)の「破壊半径」と同義であると仮定するならば、本願発明は、異なる破壊半径の孔を形成するための装薬量を同量とするという、不合理なものとならざるを得ない。
また、本件明細書(甲第3号証)には、「標準装薬のときはもとより、弱装薬であっても、強装薬であっても、漏斗孔(クレーター)の破壊半径Rは最小抵抗線長Wと大略等しい関係の範囲であり」(6頁2行目〜4行目)との記載がある。「破壊半径またはせん孔間隔長」が上記(1)の「破壊半径」と同義であると仮定するならば、この「破壊半径」が最小抵抗線と異なることはあり得ないから、D1=D2≠Wの場合が存在することもまた理解不可能である。
したがって、本願発明における「破壊半径またはせん孔間隔長」の意味が引用例(甲第2号証)における上記「破壊半径」と同義であると解することはできない。
(3) ところで、斉発発破においては、一つの爆薬からせん孔間隔長だけ離れた位置に別の爆薬が装てんされることから、一つの爆薬によって破壊される半径は、
せん孔間隔長による制限を受けることとなり、結局、実際の破壊半径とせん孔間隔長を区別することに格別の意味がなく、区別すること自体困難というべきであって、破壊半径とせん孔間隔長を同視することも可能であると認められる。このように、本件明細書(甲第3号証)における「破壊半径またはせん孔間隔長」の意味を、本願発明により実際に破壊される破壊半径であると解するならば、その意味は「せん孔間隔長」と同義となり、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1における、「破壊半径またはせん孔間隔長」が最小抵抗線より大きい場合と両者が等しい場合とで装薬量を同量にすべきであるという上記(2)の記載を、合理的に理解することが可能である。
なお、日本語の用法として、「または」の語は、その前後に記述されたものの選択を意味することが通常であるが、株式会社岩波書店発行「岩波国語辞典第6版」に「英語の or などの一用法の直訳として、すなわちの意に使うことがある」とあるように、「換言すれば」という意味で使用されることもあり、本件明細書の記載を合理的に理解するためには、「または」の語を後者の意味で理解するほかはない。
(4) 被告は、本件明細書(甲第3号証)にも、「漏斗孔(クレーター)の破壊半径R」(6頁3行目)、「クレーターすなわち逆円錐の破壊形状」(同11行目)と記載され、さらに、ハウザーの式における漏斗孔の体積W3について「W3は装薬量Lによって破壊された、または、破壊される筈の漏斗孔(クレーター)の破壊岩盤体積Vに外ならない」(4頁13行目〜14行目)と記載されており、「漏斗孔半径」と「破壊半径」が実質上同視されていると主張する。
しかしながら、ハウザーの式における漏斗孔の体積W3について説明する上記部分は、発明の詳細な説明中の【従来の技術】としてハウザーの式について述べた部分であり、また、その余の被告主張部分は、【発明が解決しようとする課題】として従来の技術の解決すべき課題を述べた部分であって、いずれも、本願発明の構成等について直接に記述した部分ではない。確かに、これらの記載部分は、被告主張のように解することが自然ではあるが、本願発明の要旨は、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1記載のとおり認定されるべきであって、発明の詳細な説明部分は、特許請求の範囲の意義を解釈する上で参酌されるにすぎない。本件においては、本願発明における「破壊半径またはせん孔間隔長」の意味を上記(1)の「破壊半径」であると解するならば、特許請求の範囲の意義を合理的に理解することができないのであるから、本願発明の要旨を認定するに当たっては、原告主張のとおり、
特許請求の範囲の記載が理解可能となるように用語の意義を解釈すべきであって、
被告の主張する部分は、その記載が特許法29条2項以外の拒絶理由を構成するかどうかはさておき、特許請求の範囲の意義に抵触しないよう、従来技術の説明等の記載として理解するほかはない。
(5) 上記のとおり、引用例(甲第2号証)の「Rは漏斗孔の半径」(18頁12行目)との記載が「一つの爆薬によって破壊された結果生ずる孔の半径」という「破壊半径」を意味することは明らかである上、引用例発明は、そもそも「『爆発の威力や岩石の発破に対する抵抗性を知り、薬量算定-ある大きさの岩石を破壊するためにどれだけの量の爆薬を必要とするかを算定する-のための資料を得る目的』で実施される『クレーターテスト(漏斗孔試験)』」(審決謄本3頁26行目〜28行目)に関するものであって、斉発発破における一つの爆薬によるせん孔と隣接する他の爆薬によるせん孔との間の「せん孔間隔長」に関する技術事項を開示するものではないから、引用例の上記「Rは漏斗孔の半径」との記載が、「せん孔間隔長」を意味する本願発明の「破壊半径またはせん孔間隔長」に相当するということはできない。そうすると、審決の「『R』は、本願発明でいう『D1』または『D2』に相当している」(審決謄本4頁28行目)との認定は誤りであり、ひいては、本願発明と引用例発明が「D1、D2:破壊半径またはせん孔間隔長 ただし、D1=D2」(同5頁16行目〜17行目)との点で一致するとの審決の認定も誤りである。
(6) したがって、審決は、「破壊半径またはせん孔間隔長」について、本願発明と引用例発明の一致点の認定を誤ったものであるから、「安全係数」について検討するまでもなく、原告主張の取消事由1は理由があり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 事案にかんがみ、取消事由2についても判断するに、審決は、本願発明と引用例発明との相違点として、「本願発明では、『D1=D2『安全装薬量Lの値をL=k×Vで算定』し、『D1=D2>Wの場合には、そのD1=D2をWの値に換算して、安全装薬量Lの値をL=k×Vで算定する』とされるのに対し、引用例には『D1=D2Wの場合』の安全装薬量Lの算定手法に関する明確な言及はない点」(審決謄本5頁24行目〜28行目)を認定した上、「本願発明の上記の相違点として指摘した構成は、引用例の上記指摘に基づいて、当業者が容易に想到しうる設計事項といえる」(同6頁11行目〜13行目)と判断するが、他方において、「引用例には・・・『弱装薬や過装薬の場合(n≠1)』にも試験の結果から標準装薬量が求められるようにする工夫として、装薬量L'を求める一般式である『C'f(n)W3』において、『f(n)=n2』とする例があることも記載されている」(審決謄本4頁17行目〜20行目)と認定している。
(2) ところで、引用例(甲第2号証)には、審決の上記認定において「装薬量L'を求める一般式」とされたもののうち、先ず、漏斗指数n=R/W とした場合における Belidor の式として 「 」 (19頁23行目)との記載があり、これに続けて「Belidor の他にも多くのf(n):(漏斗指数の関数)が提案されている(以下の式はすべて,n=1のときf(n)=1となるようにしてある).例えば 」 (19頁29行目〜20頁4行目)という、種々の装薬量算出式が記載されている。
(3) これらの記載によれば、審決の上記部分で摘示された「『f(n)=n2』とする例」に当たるものは、これら算出式中の「Mouze」の式であると解されるところ、引用例(甲第2号証)には、標準装薬のみならず、n>1の過装薬及びn<1の弱装薬の場合における装薬量の算出についても記載されており、上記いずれの算出式によっても、漏斗指数n>1、すなわち、漏斗孔半径R>最小抵抗線W のときの漏斗関数の指数f(n)は、f(1)の値である1よりも大きく、かつ、nの値が大きくなるほど、f(n)の値も大きくなる。そうすると、引用例(甲第2号証)の上記記載に基づき R>W すなわち n>1 の場合の装薬量Lを算出しようとすれば、n=1 の場合の装薬量よりも、装薬量Lは多くならざるを得ない。しかしながら、本願発明は、「W1=W2W すなわち n>1 の場合の装薬量を n=1 の場合よりも多くするという引用例発明の技術思想とは全く異なるものであるから、引用例発明に基づいて当業者が容易に想到することはできない。
被告は、発破作業において装薬量を計算し調整するに当たり、危険を回避するため装薬量を少な目にしようとすることは、当業者が当然想到し得ることであると主張するが、装薬量を少な目にすることが当業者にとって容易想到であるとしても、このことから、装薬量を標準装薬のものと同量にすることまでが容易想到であるということはできない。
(4) なお、審決は、「本願発明の構成が意味するところは、上述のとおり、引用例の上記ハの記載等で示唆されている」(審決謄本6頁10行目〜11行目)とした上、「本願発明の上記の相違点として指摘した構成は、引用例の上記指摘に基づいて、当業者が容易に想到しうる設計事項といえる」(同頁11行目〜13行目)と判断する。しかしながら、「引用例の上記ハの記載」とは、引用例(甲第2号証)の「クレーターテストの結果は,経験的に L=CW3 (2.2) で表される実験式に整理されている.ここで,Lは標準装薬,すなわち漏斗指数n=R/W=1 のときの装薬量」(18頁34行目〜19頁2行目)というものであり、標準装薬発破の装薬量に関する記載であって、過装薬の場合の記載でないから、本願発明の上記相違点に係る構成は、「引用例の上記ハの記載」に基づいて当業者が容易に想到し得る設計事項ということはできない。
(5) したがって、原告主張の取消事由2も理由がある。
3 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 長沢幸男