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事件 平成 13年 (ネ) 107号 各特許権再実施権許諾差止等請求控訴事件
控訴人兼被控訴人(一審甲・乙事件原告) A(以下「一審原告」という。)
訴訟代理人弁護士 飯田秀人
被控訴人(一審甲事件被告) 株式会社ピー・シー・フレーム (以下「一審被告ピーシー」という。)
被控訴人兼控訴人(一審甲事件被告) 黒沢建設株式会社 (以下「一審被告黒沢建設」という。)
被控訴人(一審甲事件被告) B(以下「一審被告B」という。)
被控訴人(一審乙事件被告) 株式会社ケーティービー (以下「一審被告ケーティービー」とい う。) 4名訴訟代理人弁護士 大森実厚
同 大森綾子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/11/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一審原告及び一審被告黒沢建設の本件各控訴をいずれも棄却する。
一審原告の控訴に係る控訴費用は一審原告の,一審被告黒沢建設の控訴に係る控訴費用は一審被告黒沢建設の各負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 一審原告 原判決を次のとおり変更する。
ア 一審被告ピーシーは,原判決別紙特許権目録記載の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。)に関し,平成10年12月8日付け解除を原因として,専用実施権設定登録の抹消登録手続をせよ。
イ 一審被告Bは,本件特許権に関し,平成11年1月23日付け解除を原因として,特許権の一部移転登録(共有登録)の抹消登録手続をせよ。
ウ 一審原告と一審被告ピーシー,同黒沢建設及び同B(この3名を以下「一審甲事件被告ら」という。)との間において,一審原告が一審被告ピーシーの顧問でないことを確認する。
エ 一審甲事件被告らは,一審原告に対し,各自1000万円及びこれに対する平成10年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
オ 一審甲事件被告らは,原判決別紙謝罪広告目録記載のとおりの謝罪広告を日本経済新聞の全国版に掲載せよ。
カ 一審被告ケーティービーは,一審原告に対し,100万円及びこれに対する平成10年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 一審被告黒沢建設 原判決中一審被告黒沢建設敗訴部分を取り消す。
一審原告の一審被告黒沢建設に対する請求を棄却する。
事案の概要
本件は、本件特許権の共有名義人である一審原告と一審被告Bとの間の本件特許権の帰属をめぐる争いを背景として,一審原告が,@ 一審被告ピーシーに対し,本件特許の専用実施権設定契約は,実施料の不払により解除されたとして,その設定登録の抹消登録手続を求め,A 一審被告Bに対し,本件特許の共有持分権譲渡契約を解除したとして,共有登録の抹消登録手続を求め,B 一審甲事件被告らに対し,(ア)一審原告が一審被告ピーシーの顧問でないことの確認を求めるとともに,(イ)同被告らの名誉毀損行為及び営業妨害行為を理由とする損害賠償及び謝罪広告の掲載を求め,C 一審被告ケーティービーに対し,名誉毀損行為を理由とする損害賠償を求めた事案である。
原判決は,上記B(ア)の訴えを却下するとともに,上記B(イ)の請求のうち,一審被告黒沢建設に対して20万円の支払を命じ,その余の一審原告の請求をいずれも棄却したことから,一審原告及び一審被告黒沢建設が,各自の敗訴部分を不服として控訴したものである(なお,原判決「事実及び理由」欄の「第一 請求」中,甲事件の一2項,三項の各請求は訴えの取下げにより,同一3項の請求は控訴の取下げにより,乙事件の一項の請求は請求の放棄により,いずれも当審における審理の対象外となっている。)。
1 争いのない事実 (1) 一審原告は,三信工業株式会社に勤務していた当時である昭和61年5月26日に本件特許の出願をし,平成6年4月25日にその設定登録を受けた。なお,一審原告は,平成5年4月に鹿島建設株式会社に転職し,現在に至っている。
(2) 一審被告ピーシーは,東亜グラウト株式会社,三信カーテンウォール株式会社,富士ピーエスコンクリート株式会社,日本基礎技術株式会社及び一審被告黒沢建設の5社の共同出資により,ピーシーフレーム工法(プレキャストコンクリートフレームとグラウンドアンカーを用いて斜面の安定を図る工法)の普及を目的として,昭和61年12月8日に設立された。初代の代表取締役には,東亜グラウト株式会社の代表者のC(以下「C」という。)が就任し,平成9年12月1日に一審被告Bに交替した。
(3) 一審被告黒沢建設は,ピーシーフレーム工法の施工等を行うゼネコン,一審被告ケーティービーは,業界でKTB工法の名称で知られるグランドアンカーの固定方法に係る定着具の販売等を行う会社であり,いずれも代表者を一審被告Bとするグループ企業である。
(4) 本件特許については,平成7年5月29日付けで,一審原告から一審被告Bに対する特許権の一部移転登録(共有登録)並びに一審被告ピーシー及びCに対する専用実施権設定登録がされている。
(5) 一審被告ピーシーは,平成9年9月分までの実施料は一審原告に支払っていたが,その後は,顧問料として支払いたいとして,実施料を支払っていない。一審原告は,未払実施料の支払の催告をした上,平成10年12月8日到達の書面をもって,一審被告ピーシーに対して専用実施権設定契約を解除する旨の意思表示をし,また,平成11年1月23日到達の書面をもって,一審被告Bに対して共有持分権譲渡契約を解除する旨の意思表示をした。
2 争点 (1) 一審被告ピーシーの実施料不払を理由とする本件特許権の専用実施権設定契約の解除の効力 (2) 一審被告ピーシーの実施料不払を理由とする本件特許権の共有持分権譲渡契約の解除の効力 (3) 一審原告が一審被告ピーシーの顧問でないことの確認請求に係る訴えの適否 (4) 一審原告の一審甲事件被告らに対する営業妨害行為及び名誉毀損行為を理由とする損害賠償請求及び謝罪広告掲載請求の当否並びに一審被告ケーティービーに対する名誉毀損行為を理由とする損害賠償請求の当否
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(専用実施権設定契約の解除の効力)について 1-1 一審原告の主張 (1) 一審原告は,平成7年3月20日に本件特許権の共有持分権を一審被告Bに譲渡したところ,一審原告及び一審被告Bは,同日,一審被告ピーシー及び大岡との間で専用実施権設定契約を締結した。その内容は,専用実施権設定契約書(甲3)記載のとおりであり,一審原告に対して,工事施工高の0.3%の金額を,毎年5月31日と11月30日の2回を締切日とし,各締切日から2か月以内に支払う旨が定められた。なお,この持分権譲渡及び専用実施権設定につき同年5月29日付けで登録を経由したことは上記のとおりである。
(2) ところが,一審被告ピーシーは,専用実施権に基づいて本件特許発明実施を継続しているにもかかわらず,平成9年9月分以降の実施料の支払をしないため,一審原告は,一審被告ピーシーに対し,平成10年11月18日到達の書面をもって未払実施料128万1010円の支払を催告した上,同年12月8日到達の書面をもって専用実施権設定契約を解除する旨の意思表示をした。
(3) 一審被告ピーシーは,本件特許権の共有持分権者にすぎない一審原告は単独で専用実施権設定契約の解除をすることができない旨主張するが,本件においては,以下のとおり,一審原告単独での解除権の行使を正当化する特別の事情が存在する。
ア 一審原告及び一審被告Bと一審被告ピーシーとの間の専用実施権設定契約においては,実施料を支払うべき相手は一審原告のみであり,一審被告Bは,実施料を取得する権利を有していない代わりに,専用実施権許諾料として500万円を満額受領済みである。ところが,本件では,実施料を取得する権利を有する一審原告に対する実施料の不払が問題となっているのであるから,当該不払を理由とする解除権を一審原告が単独で行使すべき事情がある。
イ 一審被告ピーシーは,Cが代表者であった間は,一審原告に対する実施料を支払ってきたところ,一審被告Bが代表者に就任してから,架空の顧問契約を主張して一方的にその支払を停止したものである。そして,その一審被告Bは,本件特許権の共有者であるから,結局,解除権の行使に協力しない他方の共有者が実施料の支払義務を負う専用実施権者の代表者であるという関係にあり,このような事情の下では,一審原告単独での解除権の行使が正当化されるべきである。
ウ また,最高裁平成14年2月22日第二小法廷判決・民集56巻2号348頁の趣旨に照らせば,専用実施権設定契約の解除権の行使は共有物の保存行為に当たると解するべきである。
1-2 一審被告ピーシーの主張 (1) 一審原告の主張する専用実施権設定契約は存在しない。一審原告は,平成7年3月22日,一審被告Bに対し,本件特許権を1000万円の対価で譲渡し,本件特許権に関する権利を失った。本件特許権の登録原簿上は一審原告と一審被告Bの共有となっているが,これは,一審被告Bの好意により共有名義を残したものにすぎない。
なお,一審被告ピーシーの代表者がCから一審被告Bに交替するまでの間,一審被告ピーシーは一審原告に対し,本件特許権の実施料の支払をしていたが,これは,実質的な特許権者である一審被告Bが一審被告ピーシーに対してその実施料の支払を猶予していたことを奇貨として,一審被告ピーシーの代表者であった大岡が一審原告と共謀して実施料の名の下に詐取していたものである。
(2) 仮に,一審原告の主張する内容の専用実施権設定契約が存在していたとしても,一審被告ピーシーと一審原告は,平成9年12月ころ,実施料の支払を取りやめ,代わりに,一審被告ピーシーが一審原告に対し年間500万円の顧問料を支払う旨の顧問契約を締結した。したがって,上記専用実施権設定契約は合意解除されたというべきである。
(3) 仮に,一審原告主張の解除原因が存在するとしても,上記解除の意思表示は共有持分2分の1の共有権者にすぎない一審原告単独でされたものであるから効力を生じない。
2 争点(2)(共有持分権譲渡契約の解除の効力)について 2-1 一審原告の主張 (1) 一審原告の一審被告Bに対する本件特許権の共有持分権の譲渡は,それだけが単独で行われた取引ではなく,一審被告ピーシーに専用実施権を与えるとともに,同一審被告において実施料の支払を続けることが大前提の契約であった。この点は契約書等に明記されていないが,その前後の事実関係に照らせば,当事者の意思がこのとおりであったことは明らかである。
(2) 一審原告は,一審被告ピーシーの上記実施料の不払を理由として,平成11年1月23日到達の書面をもって一審被告Bに対して共有持分権譲渡契約を解除する旨の意思表示をした。
2-2 一審被告Bの主張 (1) 前記1-2(1)のとおり,一審原告の共有持分権は名目的なものにすぎず,一審原告は本件特許権に関する権利を有しない。
(2) 仮に,一審原告主張の共有持分権譲渡契約が存在したとしても,一審被告Bにおいて同契約上の義務はすべて履行しており,解除原因は存在しない。
3 争点(3)(顧問でないことの確認請求に係る訴えの適否)について 3-1 一審原告の主張 (1) 一審甲事件被告らは,平成9年12月ころから,一審原告は一審被告ピーシーの顧問であると主張している(前記第2の1(5) 参照)が,そのような事実はない。
(2) 原判決は,「顧問」が法律上の地位とは認められないと判断するが,一般に「顧問」とは,会社等の法人組織から,何らかのサービスを提供する見返りとして,一定額を支給される地位であり,「従業員」等と同様,一定の法律上の地位を指すことは明らかであり,一審原告が一審被告ピーシーの顧問でないことの確認請求は,法律上の権利関係の確認を求めるものである。
3-2 一審甲事件被告らの主張 一審原告と一審被告ピーシーとの間に顧問契約が存在することは,上記1-2(2)のとおりである。
4 争点(4)(損害賠償請求及び謝罪広告掲載請求の当否)について 争点(4)に関する当事者の主張は,原判決「事実及び理由」欄の「第三 本件の争点に関する当事者の主張」の六,七項(18頁〜21頁)に記載のとおり(ただし,20頁6行目の「被告ケーティービーは,」の次に「インターネットのホームページ又は新聞紙上において,」を加え,8行目の「これらの表示の差止めを求める」を「一審原告の名誉を毀損する」に改める。)であるから,これを引用する。
当裁判所の判断
1 前提となる事実 (1) 前記争いのない事実に証拠(甲1〜3,6〜9,13〜18,20,21,25,26,29,33〜37,48,49,乙1〜10,12〜25,40,56〜60,68,70〜72〔各枝番を含む。〕,原審証人C、同D、同E、同F、原審における一審原告及び一審被告B各本人,当審証人G)を総合すれば,以下の事実が認められる。
ア 一審被告Bは,昭和56〜57年ころ,当時東亜グラウト株式会社の従業員であったGから斜面の安定法に関する技術的な相談を受けた際,かねてから持っていたアイデアとして,斜面の上方から下方に向けてプレキャストコンクリートフレームをグラウンドアンカーで順次固定していく工法(逆打工法)を教示するとともに,一審被告黒沢建設の技術課長であったHに作成させた検討書を同人に交付した。このアイデアは,その後,長崎県土師野尾ダム建設工事等において施工された。
イ 一審原告は,昭和61年5月26日,本件特許の出願をした。その特許出願公告(特公平4-52812,乙3)記載の特許請求の範囲には,「地山を上部から下部に向けてコンクリートブロック数段分切取り,同切取面から地山に向かって穿孔し,同孔にアンカーを挿入し同アンカーの先端を地山に固定し,かつコンクリートブロックの中央部透孔に上記アンカーの基端部を貫通させて同アンカーの基端部を同ブロックの上記中央部透孔に連通する係合凹部に係合しかつ同アンカーを緊張して同ブロックを上記切取面に固定し,さらに上記ブロックの上記係合凹部に充填剤を充填すると共に該係合凹部を蓋体にて閉鎖し,上記工程を上記切取面の上段から下段に向けて順次行うことを特徴とする斜面切取工法。」と記載されている。なお,この発明の発明者は,一審原告及び上記Gを含む計3名とされていたところ,Gは,この発明は,一審被告Bから教示され,土師野尾ダム建設工事等において施工された逆打工法であると認識していた。
ウ 一審被告Bは,昭和61年後半,一審原告による上記特許出願を知ると,自分が教示した技術の冒認出願であると確信し,一審原告とGを一審被告黒沢建設の本社に呼びつけた上,なぜ自分の教えた技術を無断で特許出願したのかと怒鳴りつけた。Gは,上記の認識を有していたため,頭を下げて謝罪し,一審原告も,一審被告黒沢に頭を下げた上,「特許が下りたら黒沢社長のところに持ってくる」と約束した。一審被告B及びGは,その趣旨を,一審原告が特許付与後に無償で特許権を譲渡することを約したものと理解した。
エ 本件特許は,平成5年12月9日に登録審決が,平成6年4月25日に設定登録がされたところ,同年11月9日,一審被告B,H,一審原告,Cほかのメンバーで,料亭「勇駒」での会食が持たれた。その席上,一審原告及びCは,一審被告Bに対し,「専用実施権許諾契約書」との標題の書面(乙17)を渡し,押印を求めた。しかし,その内容は,一審原告が,特許権者として,一審被告ピーシー,同B及びCに対して専用実施権を設定するという内容であったため,一審被告Bは,特許権の無償譲渡という話と違うと考え,これに押印することなく,継続協議となった。
オ その後の協議は,一審原告はほとんどCを介して,一審被告B側は部下のE(一審被告黒沢建設取締役)らを介して行われたが,専用実施権の設定を主張するCと,特許権の無償譲受を主張するB側の言い分が平行線をたどり,進展を見なかった。
この間の平成6年末ころ,一審被告ピーシーは,役員会に付議の上,一審原告との間で,専用実施権許諾契約書(甲6)を交わした(日付は本件特許の設定登録日である平成6年4月25日付けとされた。)が,その登録は留保された。
カ 平成7年3月に至り,一審被告Bは,特許権の無償譲受という当初の考えから譲歩し,1000万円で本件特許権を買い取るとの案をCに提示した。これに対し,Cは,一審原告側の利害を代弁する形で,名前だけ残すという意味で名義上は共有として欲しい旨の対案を示し,一審被告Bは,その旨の覚書を差し入れることを条件にこれを了承した。
これを受けて,同月22日,一審被告黒沢建設の本社社長室に,一審被告B,一審被告黒沢建設総務部長I,一審原告及びCの4名が参集し,「共有契約証書」(乙1)及び「専用実施権設定契約証書」(乙2)の調印が行われた。「共有契約証書」は,一審原告が一審被告Bに対し本件特許権の共有持分権(持分割合の定めなし)を譲渡するとの内容であり,その対価1000万円はその場で授受された。「専用実施権設定契約証書」は,専用実施権者となる一審被告ピーシー及びCと,特許権者である一審原告及び一審被告Bとの間の本件特許権に係る専用実施権設定契約を内容とする4者合意であり,「対価」の項には,「工事施工高の0.3%の金額を毎年5月31日と11月30日の2回を締切日とし,各締切日から2ケ月以内に支払う」とのみ記載されていた。併せて,専用実施権許諾料として,一審被告ピーシーから同Bに対し,500万円が支払われた。
なお,上記各証書は1通ずつしか作成されなかったため,一審被告B側はその場でコピーした写し(乙1,2)を保管し,原本はCに渡された。
また,その場では,前記覚書の差入れがなかったため,一審被告Bは,部下のEにその差入れを催促するよう指示した。
キ その後,上記「共有契約証書」及び「専用実施権設定契約証書」を原因証書とする特許権の一部移転登録(共有登録)手続及び専用実施権設定登録手続が行われたが,その際,上記各証書の一審被告Bの押印が同黒沢建設の社判で押捺されていたことが判明し,改めて個人印を押捺してもらうとの変更が生じたほか,「専用実施権設定契約証書」に押捺されていた捨印を利用する形で,「対価」の項に手書きによる書込みが加えられ,「Aに対し工事施工高の0.3%の金額を毎年5月31日と11月30日の2回を締切日とし,各締切日から2ケ月以内に支払う。株式会社ピー ・シー ・フレーム はBに対し,当該契約 の締結後直 ちに 500 万円を一括 して 支払 う」と修正された(注,下線部が書込部分)(甲3)。
上記各登録は,平成7年5月29日に了した。
ク 平成7年4月ころ,Cは,一審被告黒沢建設のE取締役を訪れ,「合意書」との標題の書面(乙19)を渡して,一審被告Bに押印してもらうよう求めた。その内容は,上記書込部分と同様,実施料を一審原告のみに支払うというものであったが,一審被告Bはそのような内容を了承したことはないとして押印を拒否した。ところが,その後,一審被告ピーシーの担当者が一審被告黒沢建設のIを訪れ,黒沢専務の了解を受けているので押印して欲しい旨告げて「合意書」との標題の書面(甲7)を差し出したところ,これを信じたIは,内容を十分確認しないまま一審被告黒沢建設の社判を押捺してこれを交付した。この「合意書」には,上記キの書込部分と同様,実施料を受領するのは一審原告だけである旨が明記されたほか,実施料算定方法についても若干の詳細な内容の別紙が付加され,合意書の作成日付欄には前掲乙1,2の調印日と同一日付が手書きされている。
ケ 一審被告ピーシーは,当時Cが代表者であったことから,その後,上記「合意書」(甲7)に沿って,一審原告に対し,実施料の支払を継続して行った。
他方,一審被告Bは,一審被告ピーシーからの実施料は当然自分が取得するものと考えていたが,一審被告ピーシーに対しては,事業が軌道に乗り黒字経営になるまでは実施料の支払を免除又は猶予するという意向を伝えていたこともあり,自身に対する実施料の支払がないことについて疑問を抱かないまま推移した。また,上記「合意書」は,一審被告ピーシーの役員会等に付議されたり,説明されることもなく,共同出資者である5社ですらその存在を全社には知らされていなかった。
コ 平成9年12月1日及び同月8日の一審被告ピーシーの役員会において,Cの代表取締役からの退任及び一審被告Bの同就任が承認された(登記上は同月1日付け)。その席上,引継事項として,一審原告との「特許契約の継続」という項目が提示されていたところ,一審被告Bは,一審原告は名前だけは残っているものの,本件特許権に関して何の権利もない旨を説明し,議事が紛糾したが,結局,議事録からは「特許」の文字を削除することで了解された。その際,Cは,一審被告Bに対し,今後は一審原告に対しては実施料を支払う代わりに,一審被告ピーシーの顧問として,年500万円の顧問料を支払うことで,一審原告を納得させる旨を確約するとともに,かねて懸案となっていた覚書(上記カ参照)を一審原告から徴求して差し入れることを約した。
サ Cは,一審原告に依頼して,平成9年12月19日付けの一審被告B宛の「確約書」(乙23)に押印してもらい,これを一審被告Bに差し入れたが,上記顧問の件は一審原告が拒否し,その話合いは決裂した。
上記「確約書」の文面は,「貴殿の御好意により,私の特許権者名義のみを残していただきましたが,私は,あくまでも上記特許権者の名義のみであって,特許権の実質の権限は何等無いことを本書にて確約いたします。以上の証として,本確約書を一札差し入れます」というものである。なお,これとは別に,平成7年3月22日付けの一審原告から一審被告B宛の「念書」(甲15)が存在するが,これが当時一審原告に送付されたかどうかは明らかでない。
シ 一審被告ピーシーは,平成9年9月までの実施料分として,平成10年1月及び8月に一審原告に対する支払をしたが,その後は,実施料の支払をしていない。なお,一審被告ピーシーは,平成11年2月23日に顧問料として500万円を送金したが,一審原告は,これを損害賠償金の一部の趣旨で受領した。
(2) 原審における一審原告本人及び原審証人C中には,甲7の合意書は,平成7年3月22日に関係者立会の上内容を確認して調印されたとの供述部分がある。
しかし,その合意書の内容は,専ら一審原告のみが実施料を取得すると規定されているため,一審被告Bは,1000万円を支払って本件特許権の共有持分権を取得しながら,専用実施権許諾料として一審被告ピーシーから500万円の支払を受けるほか,実施料その他の何らの経済的利益も受けることができないという内容であり,それ自体としての経済合理性に疑問があるばかりでなく,そもそも本件特許の出願後間もない時期に,一審原告が,一審被告Bから冒認出願ではないかとの指摘を受けた際,これを事実上容認して謝罪するとともに,「特許が下りたらB社長のところに持ってくる」と約束したとの経緯(上記ウ)等に照らしても,一審原告と一審被告Bとの利害調整の結果の最終的な合意としては,甚だ不自然な内容であるといわざるを得ない。なお,原審における一審原告本人は,上記ウの経緯につき,「(そこに)行ったことがある可能性があります」などのあいまいな供述に終始している。加えて,上記合意書の記載内容に沿う「専用実施権設定契約証書」(甲3)は,乙2との対比から明らかなように,調印後に手書きによる書込みが加えられたものであって,上記認定事実に照らしても,その経緯には不分明なものが残ると考えざるを得ないこと,上記合意書は,一審被告ピーシーにとって,その業務の中核となるべき内容を含んでいるにもかかわらず,殊更に秘匿されていた形跡があること(上記ケ参照),一審原告自身,本件特許権の共有名義は「名義のみであって,特許権の実質の権限は何等無いこと」を確認する確約書(乙23)を一審被告B宛に差し入れていること(上記サ参照)等の事実を総合すれば,原審における一審原告本人及び原審証人Cの前記供述部分は採用することができないというべきである。その他,上記(1)の認定を左右するに足りる証拠はない。
(3) そこで,上記(1)の認定事実に基づいて,本件特許権の共有持分権の譲渡及び専用実施権の設定に係る法律関係を検討する。
まず,本件特許の共有持分権の譲渡については,平成7年3月22日に関係者が参集の上,「共有契約証書」(甲2)に調印し,その代金1000万円の授受も了したものであり,他方,その持分割合についての明示の合意の成立を認めるに足りる証拠がない本件においては,本件特許権の2分の1の共有持分権について,一審原告から一審被告Bに対する譲渡があったものと認めるのが相当である。
この点について,一審被告ピーシー及び同Bは,本件特許権の譲渡があった旨主張するところ,確かに,上記「共有契約証書」の調印の前後にわたる交渉や確約書差入れの経緯の中で,一審原告には「名義だけ残す」ということが関係者間で言及されているが,これは,本件特許権の権利の帰属とは別に管理を決定する権限のみを一審被告Bに委ねた趣旨に解する余地もあり,上記「共有契約証書」の明示の文言に反してまで,特許権の譲渡であると一義的に断定すべき根拠とはなり得ない。そして,他に一審被告らの上記主張を認めるに足りる証拠はない。
次に,本件特許権の専用実施権に関しては,上記(1)の認定事実に照らせば,書込みがされる前の「専用実施権設定契約証書」(乙2)に記載の内容をもって,共有に係る特許権者である一審原告及び一審被告黒沢建設において専用実施権者から工事施工高の0.3%相当の金額を実施料として取得する旨の合意が関係者の間で成立したと認めるのが相当である。そして,その記載内容から見れば,一審原告と一審被告Bとの間の内部的な実施料の帰属については,明示的な合意がされていないというほかない。
2 争点(1)(専用実施権設定契約の解除の効力)について (1) 一審原告が,平成10年12月8日到達の書面をもって,一審被告ピーシーに対し,その実施料不払を理由として専用実施権設定契約を解除する旨の意思表示を単独でしたことは,上記争いのない事実(第2の1(5))のとおりである。しかし,本件特許権は,前示のとおり,一審原告及び一審被告Bの共有持分2分の1の共有に係る権利であって,これを目的とする専用実施権設定契約の解除が特許権者によってされる場合は,民法252条本文,264条本文にいう共有に係る権利に関する管理行為に当たるから(最高裁昭和39年2月25日第三小法廷判決・民集18巻2号329頁参照),共有持分2分の1の共有権者である一審原告は,特別の事情のない限り,単独で解除権を行使することはできないというべきである。なお,一審原告の引用する最高裁平成14年2月22日第二小法廷判決・民集56巻2号348頁が,この点に関して何ら別異の判断を示すものでないことは,その判文に徴して明らかである。
(2) そこで,本件において,一審原告単独による解除権の行使を正当化する特別の事情があるかどうかを検討する。
一審原告は,まず,専用実施権設定契約上,実施料を支払うべき相手は一審原告のみであることを前提に,特別の事情を主張するが,実施料を支払うべき相手が一審原告のみであるとの前提において失当であることは前示のとおりである。
次に,一審原告は,他方の共有者である一審被告Bが実施料の支払義務を負う専用実施権者の代表者である点を主張するが,そのような事情があるからといって,本件特許権について2分の1の共有持分権を有する一審被告Bの管理権限を無視することが正当化されるものではない。かえって,共有権者である一審原告と一審被告Bの内部関係において,本件特許権の管理を決定する権限が一審被告Bに委ねられていると解する余地があることは前示のとおりである。
以上のとおり,上記特別の事情に関する一審原告の主張はいずれも採用することができず,他にこれを根拠付けるべき事情は見当たらない。
(3) したがって,一審原告が主張する専用実施権設定契約の解除の効力を認めることはできないから,その有効性を前提とする一審原告の一審被告ピーシーに対する専用実施権設定登録の抹消登録手続請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないというべきであり,これと結論において同旨の原判決の判断は正当である。
3 争点(2)(共有持分権譲渡契約の解除の効力)について 一審原告は,共有持分権譲渡契約は,一審被告ピーシーに専用実施権を与えるとともに,同一審被告において実施料の支払を続けることが大前提の契約であったとして,その解除原因として,一審被告ピーシーの実施料の不払を主張する。しかし,単に上記共有持分権譲渡契約と一審被告ピーシーに対する専用実施権設定契約が,同日に,いわばセットで調印されたとしても,そのことのみから,上記主張にいう「大前提」を肯定することはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,一審原告の主張する一審被告ピーシーの実施料の不払は,共有持分権譲渡契約の解除原因としては失当といわざるを得ないから,これを前提とする一審原告の一審被告Bに対する特許権の一部移転登録(共有登録)の抹消登録手続請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。これと同旨の原判決の判断は正当である。
4 争点(3)(顧問でないことの確認請求に係る訴えの適否)について 当裁判所も,一審原告の一審甲事件被告らに対する,一審原告が一審被告ピーシーの顧問でないことの確認請求に係る訴えは不適法であると判断する。その理由は,原判決「事実及び理由」欄の「第四 当裁判所の判断」の三項(45頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。
5 争点(4)(損害賠償請求及び謝罪広告掲載請求の当否)について 当裁判所も,一審原告の一審甲事件被告らに対する損害賠償請求及び謝罪広告掲載請求は,一審被告黒沢建設に対し慰謝料20万円及びこれに対する付帯金員の支払を求める限度で理由があるが,同一審被告に対するその余の請求並びに一審被告ピーシー及び同Bに対する請求はいずれも理由がなく,また,一審原告の一審被告ケーティービーに対する損害賠償請求も理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第四 当裁判所の判断」の四,五項(45頁〜52頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決46頁8行目の「認められる。」の次に「これに反する黒沢志郎の陳述書(乙73)の記載は,甲10に照らして採用できず,他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。」を加える。
イ 同48頁4行目の「前記」から5行目の「及び」まで,同頁9行目から49頁8行目までを削る。
ウ 同50頁2行目の「認められない。」の次に「また,一審原告は,一審甲事件被告らの行為は営業妨害の不法行為に当たるとも主張するが,黒沢志郎の前記一連の発言が,名誉毀損とは別個独立の営業妨害の不法行為を構成するとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。」を加える。
エ 同51頁2行目及び6行目の「株式会社ケーティービー」を「一審被告ケーティービー」に改め,8行目〜9行目の「又は他の権利を侵害する」及び10行目から末行までを削る。
6 結論 以上のとおり、一審原告及び一審被告黒沢建設の本件各控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利