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事件 平成 14年 (ネ) 255号 各特許権侵害差止等請求控訴事件
控訴人 株式会社ユタカ・トレンズ
訴訟代理人弁護士 脇田輝次
補佐人弁理士 下山冨士男
被控訴人 温産業株式会社
被控訴人 株式会社シガリオ
両名訴訟代理人弁護士 野間自子
同 水沼太郎
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/11/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは,原判決別紙目録記載の製造プラント(以下「本件プラント」という。)を使用して,玄米粉(商品名「リブレフラワー」。以下,単に「リブレフラワー」という。)を製造し,販売してはならない。
3 被控訴人らは,その本店,営業所及び工場に存在するリブレフラワーの半製品及び完成品を廃棄せよ。
4 被控訴人温産業株式会社は,控訴人に対し,1200万円及びこれに対する平成12年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被控訴人株式会社シガリオは,控訴人に対し,1200万円及びこれに対する平成13年11月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は,第1,2審を通じ被控訴人らの負担とする。
事案の概要
1 控訴人は,名称を「穀物粉の製造プラント」とする発明(特許第2637894号,以下「本件発明」といい,その特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である。控訴人は,本件プラントが本件発明の技術的範囲に属し,被控訴人らの本件プラントを使用したリブレフラワーの製造,販売が本件特許権を侵害するとして,被控訴人らに対しリブレフラワーの製造,販売の差止め,その半製品及び完成品の廃棄並びに不法行為による損害賠償を求めている。
原審は,本件プラントが本件発明の技術的範囲に属さず,リブレフラワーの製造,販売が本件特許権を侵害しないとして,控訴人の請求を棄却した。
本件の当事者間に争いのない事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,次のとおり当審における主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」のとおりであるから,これを引用する。
2 控訴人の当審における主張 (1) 分離選別手段を具備すべき工程 本件発明の構成要件Cは,「焙煎手段によって焙煎された穀物粒から炭化物を分離・選別する手段」というものであり,その具体的な手段,構成について何ら限定がないから,本件発明を構成するいずれかの工程間に上記分離・選別する手段が具備されていれば,構成要件Cが充足される。
(2) サイクロンの必要性 本件プラントに当初存在していたサイクロンは,その後に除去されたが,本件明細書に記載されたサイクロンは,実施例としてのものであり,特許請求の範囲に記載されていないから,サイクロンの存在は構成要件Cの充足に必要ではない。
本件プラントの焙煎対象物は糠等が収穫時状態のまま付着している玄米であって,本件工場の建築,竣工時に設置された焙煎釜(以下「本件焙煎釜」という。)により,炭化物の発生を防止することは不可能であったため,本件プラントには,当初,炭化物の分離選別装置として必要なサイクロンが存在していた。
(3) サイクロンの機能 本件プラントの建設当初,焙煎された穀物粒から炭化物を分離・選別する工程(以下「分離選別工程」という。)は,焙煎穀物から炭化物を分離し粉末化する工程(以下「分離粉末化工程」という。),穀物粒と炭化粉とを振り分ける工程(以下「振り分け工程」という。),炭化粉を除去する工程(以下「除去工程」という。)とから構成されており,主として,空気輸送配管が分離粉末化工程を,サイクロンが振り分け工程を,パルスエアが除去工程を引き受けており,補完的に,冷却タンクが振り分け工程を,本件集塵機が除去工程を引き受けていた。したがって,本件プラントにおいて,サイクロンは振り分け機能を果たしていたにすぎず,冷却タンクも同じ工程を引き受けていた。
本件プラントからサイクロンが除去され,その位置にパルスエアが移設されたが,その際,本件プラントのその余の装置に変更はなかった。そうすると,本件プラントからサイクロンが除去された後は,空気輸送配管中で粉末化された炭化物と穀物粉及び穀物粒のすべてがパルスエアに輸送され,パルスエアのロータリバルブを経由して冷却タンクに移送され,冷却タンクが振り分け工程を,本件集塵機が除去工程を,専ら引き受けるに至った。
(4) 本件集塵機の分離選別機能 本件集塵機において炭化物の分離選別がされているという控訴人の主張の趣旨は,上記(3)のように,冷却タンクによる振り分け工程の後,最終的に本件集塵機が除去工程を引き受けているというものであり,空気輸送配管による分離粉末化工程,冷却タンクによる振り分け工程を当然の前提とするものであって,本件集塵機が単独で炭化物の分離選別工程を引き受けているというものではない。
(5) 被控訴人らの仮処分事件における主張 本件訴訟を本案とする仮処分事件において,被控訴人らの主張は,リブレフラワーの製造方法等について転々としており,本件焙煎釜の効果により炭化物の発生が防止されるという主張も,審理の最終段階で控えめな主張をしたにすぎない。また,被控訴人らは,サイクロンを除去した時期を明らかにしていない。このような被控訴人らの訴訟態度によれば,サイクロンを除去したというのは,特許侵害の裁判を受けることを避けるための暫定的なものというべきである。
(6) 本件工場見学に基づく認定 原判決は,本件工場見学の際の目視により炭化物の量を認定しており,不正確である上,その際に焙煎釜が洗浄されていなかったとか,本件集塵機内の残留物に他の商品の塵が混入したという認定も,根拠のないものである。また,本件工場見学の際には,使用する玄米の内容,稼働する本件焙煎釜の台数,冷却時間等の製造条件,製造環境等が通常のものと異なっていたから,本件焙煎釜及び本件集塵機内に存在した炭化物の量が少なかったことは,炭化物の分離選別工程の存在を否定する根拠とはならない。むしろ,本件工場見学の結果,本件集塵機の下端バルブ及び集塵機内部から多量の炭化物が分離選別除去されたことは,炭化物の分離選別工程の存在を推認させるものである。
3 被控訴人らの当審における主張 (1) 分離選別手段を具備すべき工程 控訴人は,本件発明を構成するいずれかの工程間に分離選別工程が具備されていれば,構成要件Cが充足されるとした上,そのような分離選別工程が存在すると主張するが,どの装置がどのようにして炭化物を分離,選別,除去しているのかについて具体的に主張していない。この点について,控訴人が具体的に主張し得ないのは,実際にはこのような工程が存在しないからである。
(2) 本件集塵機の分離選別機能 控訴人は,本件焙煎釜の効果に関して主張するが,科学的根拠を欠く控訴人の憶測にすぎない。焙煎された穀物粒に炭化物が含まれていても,その量が微量であれば,炭化物を分離,除去する必要はない。本件工場見学の際と実際の操業時とで,製造条件,製造環境等の相違はなく,これらが相違するという控訴人の主張も根拠を欠く。
(3) 本件工場見学に基づく認定 本件工場見学の際に本件集塵機から採取されたサンプルは,薄い黄土色であり,一見して炭化物ではなかった。各サンプルの炭素含有比率は,焙煎後,集塵機内残留物,製品について,それぞれ,44.1wt%,47.4wt%,43.0wt%であり,本件集塵機に炭化物を分離,選別,除去する機能が全くないことは明らかである。
当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の被控訴人らに対する請求は理由がないものと判断するが,その理由は,次のとおり付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」のとおり(ただし,原判決9頁20行目の「炭化物の」を「炭化物を」に,同頁25行目の「分離装置によって,炭化物を」を「分離装置により」にそれぞれ改め,同13頁21行目の「分離」の次に「,選別」を加える。)であるから,これを引用する。
2 控訴人の当審における主張について (1) 分離選別手段を具備すべき工程 本件発明の構成要件Cは,「焙煎手段によって焙煎された穀物粒から炭化物を分離・選別する手段」というものであるから,控訴人の主張するとおり,分離・選別する具体的な手段,構成について何ら限定されるものではない。
しかしながら,構成要件Cは,本件発明の構成要件の一部であるから,本件発明の他の構成要件との関係によりおのずから限定を受けるものである。すなわち,本件発明は,穀物粒の水洗・計量手段(構成要件A),焙煎手段(構成要件B),分離・選別手段(構成要件C)及び粉砕手段(構成要件D)を構成要件とするが,焙煎手段は水洗・計量された穀物粒を焙煎する手段,分離・選別手段は焙煎された穀物粒を分離・選別する手段,粉砕手段は分離・選別された穀物粒を粉砕する手段であるから,本件発明は,水洗・計量工程,焙煎工程,分離・選別工程,粉砕工程という一連の工程から成ることを要すると解するのが,本件明細書の特許請求の範囲の文理に添うものであり,発明の詳細な説明の記載等にも,これと別異に解すべき根拠は見いだされない。そうすると,単に構成要件A〜Dに相当する工程を具備するというだけでは,当該方法が本件発明の技術的範囲に属するということはできないのであって,構成要件Cである分離選別工程が焙煎工程と粉砕工程の間にあることが必要であると解するほかはない。
したがって,本件発明を構成するいずれかの工程間に分離選別工程が具備されていれば構成要件Cが充足されるとの控訴人の主張については,これを採用することができない。以下,これを前提として,構成要件Cの充足性について判断する。
(2) サイクロンの必要性 サイクロンは,本件明細書の特許請求の範囲に記載されておらず,また,発明の詳細な説明参酌しても,サイクロンの存在が構成要件Cの充足に必要であると解すべき根拠はない。これと同旨をいう控訴人の主張は,その限りにおいて首肯し得るが,他方,控訴人は,本件焙煎釜が炭化物の発生を防止することが不可能であったとか,本件プラントに当初サイクロンが存在していたのはそのためであると主張するが,本件焙煎釜が炭化物の発生をどの程度防ぐ効果を奏するか,また,その効果が不十分であるかどうかについては,これを証明する的確な証拠はない。
そうすると,本件プラントにサイクロンが必要であったとか,サイクロンが除去された後これに代わる装置が本件プラントに設置された事実を推認することはできない。
(3) サイクロンの機能 控訴人は,分離選別工程が,分離粉末化工程,振り分け工程及び除去工程から構成されているとした上,振り分け工程を主として引き受けていたサイクロンが除去され,その位置にパルスエアが移設された後は,空気輸送配管中で粉末化された炭化物と穀物粉及び穀物粒のすべてがパルスエアのロータリバルブを経由して冷却タンクに移送され,冷却タンクが振り分け工程を,本件集塵機が除去工程を専ら引き受けるに至ったと主張する。
しかしながら,本件プラントにおいて,分離選別工程が上記3工程から構成されるとか,その中でサイクロンが振り分け工程を主として引き受けていたことを証明する的確な証拠はなく,このような工程の構成及びサイクロンの機能についての主張は,証拠の裏付けを欠き,控訴人の単なる推測の域を出るものではない。
したがって,本件集塵機の機能に係る控訴人の主張は,これらの工程の構成及びサイクロンの機能を前提とするものであるから,同様に証明を欠くといわざるを得ない。
(4) 本件集塵機の分離選別機能 また,控訴人は,本件集塵機において炭化物の分離選別がされているという趣旨は,分離選別工程の最終段階である除去工程を本件集塵機が引き受けているというものであり,本件集塵機が単独で炭化物の分離選別工程に該当するというものではないと主張する。しかしながら,上記のとおり,この控訴人の主張について前提となる上記(2)及び(3)の主張事実は証明されておらず,本件集塵機が炭化物の分離選別工程の最終工程である除去工程を引き受けているとの主張は,その前提を欠くものといわざるを得ない。さらに,上記引用に係る原判決11〜12頁(3)において認定するとおり,本件集塵機は,焙煎穀物が製品になるライン上に位置するものではなく,不要物である粉塵を含んだ排気の排出過程に位置し,また,本件集塵機に充てんされたフィルターは,その構造から炭化物の分離,選別ができるような機能を備えていないのであるから,本件集塵機が分離選別工程の最終工程である除去工程を引き受けているとは認め難い。
(5) 被控訴人らの仮処分事件における主張 なお,控訴人は,本件訴訟を本案とする仮処分事件における被控訴人らの主張が転々としているなどとして,被控訴人らの訴訟態度について主張するが,上記(2)ないし(4)のとおり,控訴人の主張事実が証拠による裏付けを欠く以上,仮処分事件において被控訴人らの主張が変遷しているからといって,上記(1)ないし(4)の認定判断は何ら左右されない。また,本件訴訟において控訴人が主張する本件プラントは,サイクロンが存在しないものであって,これが本件審理の対象であるから,本件プラントにおいてサイクロンが除去された経緯については,本件プラントの構成要件C該当性の判断に何ら影響するものではない。
(6) 本件工場見学に基づく認定 加えて,控訴人は,原判決が本件工場見学の際の目視により炭化物の量を認定しているなどとしてその認定を非難し,また,その際の製造環境等が通常のものと異なっていたと主張する。しかしながら,上記(2)及び(3)のとおり,控訴人の主張事実が証拠の裏付けを欠くこと,上記(4)のとおり,本件集塵機は,焙煎穀物が製品になるライン上ではなく不要物である粉塵を含んだ排気の排出過程に位置し,そのフィルターが炭化物の分離,選別ができるような機能を備えていないことに照らすと,仮に,控訴人の主張するように,本件焙煎釜及び本件集塵機内に存在した炭化物の量が通常の製造環境の下におけるより少量であったとしても,本件プラントの製造工程等が不明であることに変わりはなく,本件プラントが構成要件Cを充足するという控訴人の主張事実を証明することにはならない。
3 結論 以上のとおり,控訴人の被控訴人らに対する請求を棄却した原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 長沢幸男