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関連審決 審判1999-16747
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  援用権(援用) /  参酌 /  実施 /  加工 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 509号 審決取消請求事件
原告 松下電器産業株式会社
訴訟代理人弁理士 池内寛幸
訴訟復代理人弁理士 乕丘圭司
同 藤井 兼太郎
被告 特許庁長官太田 信一郎
指定代理人 鈴木法明
同 箕輪安夫
同 藤井俊明
同 一色 由美子
同 森田 ひとみ
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/12/02
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成11年審判第16747号事件について平成13年9月25日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,下記特許出願の出願人及び拒絶査定に対する不服審判の請求人であり,その手続の経緯は次のとおりである。
平成 7年 3月27日 特許出願(特願平7-67728号「回路形成基板の製造方法および回路形成基板の製造装置」) 平成11年 9月14日 拒絶査定 同 年10月14日 不服審判請求(平成11年審判第16747号) 同 年11月 4日 明細書の特許請求の範囲変更する手続補正書(以下その補正を「本件補正」という。)提出 平成13年 9月25日 請求不成立審決 同 年10月15日 原告への審決謄本送達 2 本件補正後の明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨 絶縁基板と金属箔を交互に配して加熱加圧し,多層基板とする積層工程と,前記金属箔をパターンニングして回路を形成する回路形成工程と,前記各工程を積層工程,回路形成工程の順序で複数回繰り返して回路形成基板を製造する方法において,前記回路形成基板を再度加熱加圧する熱処理工程を有し,前記熱処理工程の加熱温度が前記積層工程の加熱温度より高く,前記熱処理工程の加圧力が前記積層工程の加圧力より低いことを特徴とする回路形成基板の製造方法
3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明は,特開平5-147058号公報(本訴甲4,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,引用発明と本願発明との一致点の認定を誤る(取消事由1)とともに,その相違点についての判断を誤った(取消事由2)結果,本願発明が,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 審決は,熱処理工程の対象物に関して,引用発明の「多層銅張積層板」が本願発明の「回路形成基板」に相当すると認定するが,誤りである。
(2) 本願発明においては,特許請求の範囲の請求項1に記載のとおり,その熱処理工程の対象となる「回路形成基板」は,「前記各工程を積層工程,回路形成工程の順序で複数回繰り返して」得られるものであり,ここでいう「積層工程」とは「絶縁基板と金属箔を交互に配して加熱加圧し,多層基板とする」工程であり,「回路形成工程」とは「前記金属箔をパターンニングして回路を形成する」工程である。そうすると,「積層工程→回路形成工程」の順序でこれらの工程を複数回繰り返した後に得られる「回路形成基板」は,表層の金属箔を含めてすべての金属箔が所望する回路が形成されるようにパターンニングされていることになる。このことは,本件明細書(甲2,3)の発明の詳細な説明の段落【0029】,【0012】,【0013】の記載及び図1,図6の図示からも明らかである。
これに対して,引用発明における熱処理対象物は,引用例(甲4)の特許請求の範囲に記載のとおり,「内層回路板と外層又は銅箔をプリプレグを介して重ね,加熱加圧」して得られるものであって,その実施例における熱処理対象物は,「内層回路板1の上下に・・・エポキシ樹脂を主成分とした・・・プリプレグ2を各1枚,更にその外側上下に厚み18μmの銅箔3を配置し」,「この構成材料を・・・加熱加圧成形し,その圧力のまま30分間冷却して」得た4層板である(段落【0009】)から,引用発明の「多層銅張積層板」の表層の銅箔はパターンニングされていない。なお,引用例(甲4)において,表層の銅箔をパターンニングして回路を形成したものは「多層プリント配線板」と呼んでおり(段落【0002】,【0004】,【0008】),「多層銅張積層板」と区別している。そして,この用語の区別は,当業者に周知の文献である平成13年1月日本規格協会発行の「JISハンドブック21電子T(試験)」(甲6)のC5603番号207の欄に「銅張積層板」とは「片面又は両面を銅はくで覆ったプリント配線板用の積層板」と記載され,同番号111の欄に「多層プリント配線板」とは「表面導体層を含めて3層以上に導体パターンがあるプリント配線板」と記載されているように,一般的な解釈とも整合する。
したがって,本願発明と引用発明とでは,加熱する対象物(「多層銅張積層板」,「回路形成基板」)が異なっており,これを一致点とした審決の認定は誤りである。
(3) さらに,本願発明は,表層の金属層がパターンニングされた回路形成基板を加熱加圧することにより,「エポキシ樹脂の硬化を進行させ,回路形成基板の半田付け時の反りを改善でき得る」(本件明細書〔甲2,3〕段落【0057】)という効果を奏する。これに対し,引用発明は,表層の銅箔をパターンニングする前の状態で加熱するものであるため,表層の銅箔によって内部応力は十分に緩和されず,本願発明のような効果を奏することはできない。これは,本願発明の発明者の1人が行った実験証明書(甲5)によっても裏付けられている。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り) (1) 審決は,「本願発明は,A:回路形成基板を再度加熱加圧するのに対し,引用例では再度加熱するが加圧に関する記載がない点で相違する」(審決謄本理由欄の3項)と認定した上,当該相違点について,「一般に,基板を加熱する際,変形しないようにある程度押さえながら加熱するのが通常であり,本願明細書でも加圧の程度に関し『接触圧で良い』と記載されている(【0031】参照)点と,本願発明の趣旨が内部応力の緩和であり,強い加圧が用いられるべくもないことを考慮すると,相違点Aは,上記押さえておく程度の通常用いられる手段を採用したに過ぎないから,当業者なら容易になし得ることと認められる」(同4項)と判断するが,誤りである。
(2) 本願発明は,熱処理工程時の加圧力を「前記積層工程の加圧力より低い」構成を採用することで,樹脂の硬化を進行させ,回路形成基板の半田付け時の反りを改善できるばかりでなく,層間接続部の接続抵抗の上昇を抑えるという効果を奏するものである。これに対し,引用発明は,基板の「寸法変化」に着目するものであり,半田付け時の熱により回路形成基板が反るという問題については,記載も示唆もない。
審決の上記判断は,引用例には記載も示唆もされていない本願発明に特有の上記効果を看過するものである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 本願発明で使用されている「回路形成基板」は技術用語として定まった解釈を有するものではなく,また,特に本件明細書中で定義されたものでもないから,当該「回路形成基板」とは,回路を形成してあるものなのか,どこに形成してあるのか,あるいは,これから回路を形成する回路形成用の基板をいうものなのかは判然としない。そして,本件補正前の当初明細書(甲2)では,その特許請求の範囲に「積層工程,回路形成工程,熱処理工程の順序で」と明記されていたが,本件補正によって,この趣旨は不明確となり,本件明細書の特許請求の範囲は,銅張積層状態で熱処理する場合も想定される記載になっている。なお,原告は,審判段階で提出した審判請求理由補充書(乙7)4頁「(b)補正の根拠の明示」において,「補正した明細書の特許請求の範囲の請求項1は,当初の請求項1の記載から,片面基板または両面基板に関する記載を削除したものであります。また同様に補正した請求項10は,当初の請求項1の記載から片面基板または両面基板に関する記載を抽出したものであります」と記載しており,これによれば,原告は,外表面に回路のあるものを請求項10の発明とし,請求項1の発明ではあえてそのような限定を付さなかったと解される。
また,「銅張積層板」であっても表面に回路が形成されているものがあることは,特開昭52-19263号公報(乙8)及び特開昭61-58297号公報(乙9)に示されているとおりである。そもそも,銅張積層板は,本来銅が張ってあればよいわけで,金張りや布張り等と同様,その後加工がされたとしても,銅張りでなくなるわけではない。
したがって,引用例の「多層銅張積層板」が本願発明の「回路形成基板」に相当するとした被告の判断に誤りはない。
(2) 仮に,引用例の実施例に記載された「多層銅張積層板」が原告の主張するものであったとしても,引用例記載の発明が,その実施例に制約されるものではなく,また,従来技術を考慮することも許される。このような観点から見るに,引用例には,熱処理を行う対象として,「両面板」及び「外層板」についても記載されているところ,「両面板」及び「外層板」であれば,回路が表層に形成されたものを含む。さらに,特開昭64-85741号公報(乙1),昭和56年近代科学社発行の「プリント回路ハンドブック」(全訂第2版)2-32〜33頁(乙2),特開平3-237792号公報(乙3),特開平1-160080号公報(乙4)及び特開昭59-129490号公報(乙5)に示されるように,基板の反りを防止するために回路形成後の熱処理をすることは周知の技術であったといえるから,多少の相違があったとしても,本願発明は当業者の技術レベルから容易に推考し得る範囲内といい得る。
(3) 原告は,引用発明では内部応力が十分に緩和されず,本願発明のような効果を奏することはできない旨主張するが,何層もの内層回路それぞれにおいて蓄積された残留ひずみを考慮すれば,多層回路基板の最外層に回路があるか否かはさまつなことであって,どの段階で処理しようと格別な差異はない。むしろ,本願発明では,あえて表層をパターンニングすることによって新たなストレスを作り出しているにすぎず,本願発明が上記効果を奏するものかは疑問というべきである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について 原告の取消事由2の主張は争う。この点の審決の判断は,前掲乙2〜5によっても支持される。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,本願発明の「回路形成基板」は,表層の金属箔を含めてすべての金属箔にパターンニングされているものであるのに対し,引用発明の「多層銅張積層板」は,表層の銅箔がパターンニングされていないものであるから,両者は一致しないと主張するので,以下,本件明細書の記載,引用例の記載に基づいて,順次検討する。
(2) まず,本件明細書の特許請求の範囲の記載(前記第2の2)によれば,本願発明において熱処理工程の対象となる「回路形成基板」は,「絶縁基板と金属箔を交互に配して加熱加圧し,多層基板とする積層工程」と「金属箔をパターンニングして回路を形成する回路形成工程」とを,積層工程,回路形成工程の順序で複数回繰り返すことによって製造されることが規定されている。すなわち,積層工程に続いて,金属箔をパターンニングする回路形成工程が行われるという順序が明確に規定されており,その結果,熱処理工程の直前には回路形成工程が行われることになり,そのようにして製造された「回路形成基板」の表層の金属箔に,最終の回路形成工程によってパターンニングされた回路が形成されていることは,その記載文言から導かれる当然の帰結というべきである。
そして,このように解すべきことは,本件明細書(甲2,3)の発明の詳細な説明の記載からも裏付けられる。すなわち,【課題を解決するための手段】欄には,「本発明の回路形成基板の製造方法・・・は,積層工程および回路形成工程の終了後に積層工程より高い温度と積層工程より低い圧力で加熱加圧する熱処理工程を導入するものである」(段落【0023】)と記載され,熱処理工程が「積層工程および回路形成工程の終了後に」行われることを明らかにしているほか,【作用】欄には「本発明は回路形成前に熱処理を行っても回路形成基板全体に接着されている金属箔により阻害されるため硬化収縮は十分に行われず,回路形成後に熱処理を行う場合でも積層工程のような高い圧力で行うと硬化収縮が阻害されるために熱処理の効果が現れないことを見いだしたものである」(段落【0027】)と記載され,本願発明は,回路形成前に行われる熱処理では,回路形成基板全体に接着されている金属箔により阻害されるため硬化収縮が十分行われない点に着目して,回路形成後に熱処理を行うことが明確に示されている。なお,多層基板の内層において回路が形成されていることは自明のことであるから,上記の記載で,あえて「回路形成前」「回路形成後」と場合を分けて記載しているのは,表層に対する回路形成を指すことが明らかである。
この点について,被告は,本件補正前の当初明細書の特許請求の範囲の記載との対比から,本願発明は銅張積層状態で熱処理する場合も想定される旨主張するが,本件補正後の特許請求の範囲においても,積層工程と回路形成工程の順序が明記されていることは前示のとおりであって,その主張は採用し得ない。また,被告の引用する審判請求理由補充書(乙7)の記載は,表層への回路形成と熱処理工程の前後関係について何ら言及するものでないことが明らかであり,その主張は失当である。
したがって,本願発明の「回路形成基板」とは,表層の金属箔を含めてすべての金属箔にパターンニングされているものというべきである。
(3) 次に,引用発明の「多層銅張積層板」の意義について見るに,引用例(甲4)には,「特に多層化後の多層銅張積層板をプリント 配線板 に加工する際の寸法変化については対策がない」(段落【0002】),「本発明は,多層銅張積層板を用いて多層 プリント 配線板 を加工する際の寸法変化が少ない多層銅張積層板の製造方法を提供することを目的とする」(段落【0004】)との記載があり(下線は本判決による注記),引用例において,「多層銅張積層板」という用語は,「プリント配線板」に加工する前のものを意味する用語として用いられていることが明らかである。そして,このような各用語の使い分けは,本件出願当時の当業者の一般的な用語法にも沿うものと認められる。すなわち,前掲「JISハンドブック21電子I(試験)」の「プリント回路用語 C5603-1993」の項(甲6,なお,その発行は平成13年であるが,本件出願前の1993年(平成5年)改訂に係るものであることは,JISの規格が改定された年を表す上記「1993」の表記によって明らかである。)において,「プリント配線板」を「プリント配線を形成した板」と,「プリント配線」を「回路設計に基づいて,部品間を接続するために導体パターンを絶縁基板の表面又は表面とその内部に,プリントによって形成する配線又はその技術」と,「銅張積層板」を「片面又は両面を銅はくで覆ったプリント配線板用の積層板」と,それぞれ定義しており,本願発明の「回路形成基板」に相当するものは,上記JIS用語でいえば,「銅張積層板」ではなく,「プリント配線板」にほかならない。
そして,引用発明における熱処理が,「多層銅張積層板」の製造工程として位置付けられていることは,その特許請求の範囲の「内層回路板と外層板又は銅箔をプリプレグを介して重ね,加熱加圧後更に該積層成形温度±20℃の温度範囲で熱処理することを特徴とする多層銅張積層板の製造方法」との記載及び実施例の記載(段落【0009】)から明らかであるから,結局,引用発明の「多層銅張積層板」は,表層にパターンニングが施された「プリント配線板」ではなく,表層にパターンニングが施される前のものであると認められる。
(4) この点について,被告は,「銅張積層板」であっても表層に回路が形成されているものがあると主張し,乙8,9を援用する。しかし,乙8には,「この両面銅張積層板同志を第2図の如く,プリプレグ5を介して,サンドイッチ状に積層接着する。・・・・その後,塩化第2鉄液でエッチングを行なうことにより,外層パタンを形成する。・・・このようにすることにより,有効分割接続孔を有する高密度な多層プリント回路板を製造することができる」(3頁左上欄〜右上欄)と記載されていることから,「両面銅張積層板」との用語は外層パタンを形成する前のものに対して使用され,外層パタンを形成したものは「多層プリント回路板」と称されていることが認められる。また,乙9には,「第2図(b)のように片面銅張積層板19,20とガラス布エポキシプリプレーグ21を重ねてプレスし,更に公知のサブトラクティブ法により・・・2種類の導通孔を設け低熱抵抗多層印刷配線板とする。第3図はこの発明の実施例を示す低熱抵抗多層印刷配線板にチップキャリアICを搭載した状態の断面図である」(2頁右上欄〜左下欄)と記載されており,「片面銅張積層板」との用語は回路が形成される前のものに対して使用され,回路が形成されたものは「多層印刷配線板」と称されていることが認められる。結局,甲8,9は,被告の主張を何ら基礎付けるものではなく,かえって,上記認定判断に沿うものというべきである。
次に,被告は,引用例の「両面板」及び「外層板」は回路が表層に形成されたものを含む旨主張するが,そのように解すべき根拠は不明というほかなく,また,引用例の用語例に係る上記認定に照らしても採用し得ない。
さらに,被告は,基板の反りを防止するために回路形成後の熱処理をすることは周知の技術であったから,多少の相違があったとしても,本願発明は当業者の技術レベルから容易に推考し得る範囲内といい得る旨主張する。しかし,本件の取消事由1で問題となっているのは,引用発明の「多層銅張積層板」が本願発明の「回路形成基板」に相当するとした審決の認定の当否であり,その際,引用例に記載された技術的思想を理解する上で当業者の技術常識参酌することは可能であるとしても,当該技術的思想とは別個独立の周知技術を適用することにより初めて本願発明が容易に推考し得たかどうかということとは次元の異なるものであり,上記認定判断に影響を及ぼすものではない。被告の主張する点は,当審における審理の対象外というほかはない。
(5) 上記の認定判断によれば,本願発明の「回路形成基板」は,表層の金属箔を含めてすべての金属箔にパターンニングされているものであるのに対し,引用発明の「多層銅張積層板」は,表層の銅箔がパターンニングされていないものであり,技術用語としても区別して使用されているものというべきである。そして,この違いにもかかわらず,後者が前者に相当すると解すべき事情を見いだすことはできず,かえって,松下電子部品株式会社回路基板事業部従業員作成の実験証明書(甲5)には,表層の銅箔がパターンニングされた回路形成基板に対して熱処理を施す本願発明の製造方法は,表層の銅箔をパターンニングする前に多層基板に対して熱処理を施す引用発明の製造方法よりも,電子部品実装のための半田付け時の加熱による基板の反りを抑制する効果が大きいことが示されており,これに反する証拠もない。そうすると,引用発明との関係で本願発明の進歩性が肯定されるか否かの判断においては,加熱工程の対象物が,表層の銅箔をパターンニングしたものか否かの相違点を抽出した上で,これを検討することが必要不可欠というべきであるから,引用発明の「多層銅張積層板」が本願発明の「回路形成基板」に相当するとの前提でした一致点の認定は誤りであり,かつ,審決の結論に影響を及ぼすものである。
2 以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由があり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,その余の点について判断するまでもなく,審決は取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利