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関連審決 不服2002-6894
関連ワード 特許を受ける権利 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  名義変更 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10256号 審決取消請求事件
原告 株式会社ヤマガタグラビヤ
原告 有限会社ユタカ製作所
上記2名訴訟代理人弁理士 内山充
被告 特許庁長官中嶋誠
同指定代理人 市野要助
同 松縄正登
同 岡田孝博
同 種子浩明
同 宮下正之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/10/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら (1) 特許庁が不服2002-6894号事件について平成17年1月5日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告株式会社ヤマガタグラビヤ(以下「原告ヤマガタ」という。)は,発明の名称を「包装体の製造方法及び製造装置」とする発明につき,特願平11-111799号(出願日 平成11年4月20日)を国内優先出願として,平成11年10月29日,特許出願し,平成14年3月19日付けの拒絶査定を受け,同年4月19日,審判請求を行った。
特許庁は,この審判請求を不服2002-6894号事件として審理した。
その過程で,原告ヤマガタは,平成14年5月20日付け手続補正書により明細書について補正を行い(補正の前後を通じ,請求項の数は7である。以下,補正後の明細書及び図面を「本願明細書」という。),また,特許を受ける権利の一部を原告有限会社ユタカ製作所に譲渡し,平成14年6月4日,被告に名義変更届を提出した。
特許庁は,審理の結果,平成17年1月5日,原告らに対して「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月17日,原告らに送達された。
2 特許請求の範囲 平成14年5月20日付け手続補正書による補正後の本願発明の請求項7(以下「本願発明」という。)は,下記のとおりである。
記 【請求項7】 充填物が収納された容器の開口縁に概ね沿う輪郭を有する封口片が該開口縁に外側から添設されてなる包装体の製造装置であって,開口縁を開放せしめた状態で充填物が収納された容器を設置する容器設置手段と,開口縁に対面する状態でフィルム素材を開口縁の近傍に設置するフィルム設置手段と,容器の開口縁に概ね沿う外周形状を有する押圧盤によりフィルム素材を開口縁に押付け保持するフィルム保持手段と,容器の開口縁に沿う刃形状を有する筒状の熱刃によりフィルム素材を開口縁に沿って打抜くことにより開口縁に外側から添設された封口片を形成せしめる打抜き手段と,押圧盤の一部又は熱刃の一部に形成した加熱押圧部により封口片の周縁を開口縁に対して加熱押圧せしめ,封口片の周縁を開口縁に溶着せしめる手段及び押圧盤及び熱刃を容器の開口縁から退避せしめる退避手段とを有することを特徴とする包装体の製造装置。
3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,実願平4-48077号(実開平6-8202号)のCD-ROM(以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「引用発明」という。)及び周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,とするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1) 引用発明の内容 容器Cおよびこれの口部に被せられた蓋材Lを,これらが複数の処理ステーションで順次停止させられるように同期させて間欠的に搬送する搬送手段と,搬送中の容器Cの口縁部に蓋材Lを加圧加熱し,その後に加熱ヘッドでヒートシール装置とを有し,充填物が収納された容器Cの開口部に概ね沿う輪郭を有する蓋材Lが該開口縁に外側から添設される容器製造装置であって,加熱ヘッド押圧板34を下降させ,加熱ヘッド31が容器Cの口縁部に蓋材Lを熱融着させた直後に,蓋材押え84が熱融着部を押えた状態でカッタ83が下降させられ,蓋材Lの蓋となるべき部分が打ち抜かれることを特徴とする容器の口部密封装置。
(2) 一致点 引用発明の「容器」,「口縁部」,「蓋材」,「加熱ヘッド押圧板」は,それぞれ本願発明の「充填物が収納された容器」,「開口縁」,「封口片」,「押圧盤(押圧盤の一部に形成した加熱押圧部)」に相当する。(原告らは,引用発明の「加熱ヘッド押圧板」と本願発明の「押圧盤(押圧盤の一部に形成した加熱押圧部)」とが一致することを争う。) 引用発明の「充填物が収納されたカップ状容器の口部に概ね沿う輪郭を有する蓋材が口部に外側から添設されてなる口部密封装置」は,表現が異なるものの,本願発明の「充填物が収納された容器の開口縁に概ね沿う輪郭を有する封口片が該開口縁に外側から添設されてなる包装体の製造装置」に実質的に相当する。
したがって,両者は,「充填物が収納された容器の開口縁に概ね沿う輪郭を有する封口片が該開口縁に外側から添設されてなる包装体の製造装置であって,開口縁を開放せしめた状態で充填物が収納された容器を設置する容器設置手段と,開口縁に対面する状態でフィルム素材を開口縁の近傍に設置するフィルム設置手段と,容器の開口縁に概ね沿う外周形状を有する押圧盤によりフィルム素材を開口縁に押付け保持するフィルム保持手段と,容器の開口縁に沿う刃形状を有する筒状の刃によりフィルム素材を開口縁に沿って打抜くことにより開口縁に外側から添設された封口片を形成せしめる打抜き手段と,押圧盤の一部又は加熱押圧部により封口片の周縁を開口縁に対して加熱押圧せしめ,封口片の周縁を開口縁に溶着せしめる手段及び押圧盤及び刃を容器の開口縁から退避せしめる退避手段とを有することを特徴とする包装体の製造装置。」との点で一致する。
(3) 相違点 本願発明は,打抜き手段となる,開口縁に沿う刃形状を有する筒状の刃として熱刃を用いるのに対して,刊行物1は,打抜き手段となる,開口縁部に沿って打ち抜くための環状カッタとして熱刃ではないカッタを用いている点で相違する。
原告ら主張の取消事由の要点
審決は,本願発明と引用発明との相違点を看過し(取消事由1),審決が認定した本願発明と引用発明との相違点についての判断を誤り(取消事由2),本願発明は引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとしたものであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点の看過) 審決が認定した相違点のほかに,本願発明と引用発明との間には,次の相違点が存する。
(1) 本願発明には,非加熱の保持手段があるが,引用発明では,これに相当する保持手段がないこと。
(2) 本願発明は,フィルムを打ち抜いた後に封口片の周縁を溶着するものであるが,引用発明には,打ち抜かれたフィルムである封口片を容器の開口縁に溶着する手段がないこと。
(3) 本願発明は,封口片の周縁を溶着させる手段と保持手段の押圧盤とを一体化したものであるが,引用発明には,この構成がないこと。
(4) 本願発明は,封口片の周縁を打ち抜いた後,保持手段を退避させるものであるが,引用発明には,この構成がないこと。
(5) 本願発明は,押圧盤,加熱押圧部,熱刃が三重の同心円構造になっているものであるが,引用発明には,この構成がないこと。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り) 引用発明に周知技術を組み合わせても,本願発明の構成に至ることは,当業者にとって容易ではない。
(1) 本願発明の熱刃は,フィルムに軽く接触するだけで,接触部分が瞬間に溶解するので,筒状の熱刃の内部が保持されていると,フィルムが熱刃の押圧で逃げることはなく,正確な位置に正確な形状の封口片を打ち抜くことができる。フィルムの切断には,複雑な構造になる溶断手段を使用しないで,機械的切断にするのが当業者の常識であるから,熱刃による融解切断を採用することは,当業者が容易に想到することではない。
(2) 審決が周知技術の例として挙げる実開平1-61003号のマイクロフィルム(甲第9号証,以下「刊行物2」という。)には,熱刃による「打抜き」の工程がない。ここにいう「打抜き」とは,熱刃がフィルム面を通過することをいう。
刊行物2の溶断用加熱素子を用いてフィルムを溶断しているのは,加熱押圧であって,「打抜き」ではない。
(3) 審決は,本願発明による作用効果として,多数の封口片をストックしておかなくても,間欠的に移送される連続フィルムから打抜き手段で自動的に封口片を打抜くことで封口することができる点を挙げて論じているが,本願発明の主たる課題は,封口片を1枚ずつ摘んで容器の開口縁に被せる手作業を自動化することである。したがって,引用発明が本願発明と同じ課題や目的を達成しているものとはいえない。
被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(相違点の看過)について 以下のとおり,原告らの主張する相違点は,本願発明と引用発明との実質的相違点ではない。
(1) 引用発明の「加熱ヘッド31」は,溶着密封する直前に蓋材Lを押圧・保持している段階を有し,蓋材Lを容器Cの口縁部に押し付け保持する点で,本願発明の保持手段と同等の機能をも有する。
(2) フィルムを打ち抜く工程と封口片の周縁を溶着する工程の先後について,本願発明は,常にフィルムを打ち抜く工程が先であると明確に規定していない上,溶着する工程が先でフィルムを打ち抜く工程が後になる実施例が示されている。
(3) 引用発明の「加熱ヘッド押圧板」は,フィルムの保持手段及び溶着手段を兼ねており,一体化している。
(4) 引用発明において,加熱ヘッド押圧板を下降させることにより,熱融着,打抜きをしているから,これが終了すれば,加熱ヘッド押圧板を上昇させ,元に復帰させるのは自明である。
(5) 本願発明において,押圧盤,加熱押圧部,熱刃が三重の同心円構造になることは明確に規定されていない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について 引用発明に周知技術を組み合わせれば,本願発明の構成に至ることは,当業者にとって容易である。
(1) 「打抜き刃として熱刃を用いる」という技術事項は,本願発明の出願前に周知である。引用発明における機械的切断を周知事項である熱刃による融解切断に置換することに困難はなく,置換により格別の効果を奏するものともいえない。
(2) 本願発明のように,間欠的に移送される連続フィルムから打抜き手段で自動的に封口片を打抜くことで封口するならば,多数の封口片をストックしておかなくてもよいという効果及び封口片を1枚ずつ摘んで容器の開口縁に被せる手作業を自動化するという原告ら主張の効果は,同時に得られるのであり,引用発明と本願発明とで同様の効果を奏している。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について (1) 原告らは,本願発明には非加熱の保持手段があるが,引用発明ではこれに相当する保持手段がないという相違点が看過されていると主張する。
しかし,本願発明の特許請求の範囲(請求項7)には,前記第2の2のとおり,「フィルム保持手段」に関し,「容器の開口縁に概ね沿う外周形状を有する押圧盤によりフィルム素材を開口縁に押付け保持するフィルム保持手段」と記載されているとともに,「押圧盤の一部・・・に形成した加熱押圧部により封口片の周縁を開口縁に対して加熱押圧せしめ,封口片の周縁を開口縁に溶着せしめる手段」と記載されており,「フィルム保持手段」を構成する「押圧盤」の一部に「加熱押圧部」を形成することが規定されているが,「フィルム保持手段」を非加熱のものとするとの記載は存在しない。したがって,その一部に「加熱押圧部」が形成されている本願発明の「フィルム保持手段」は加熱機能を有するものと認められるのであって,本願発明の「フィルム保持手段」が非加熱のものであることを前提とする原告らの主張は,採用することができない。
そして,刊行物1(甲第1号証)によれば,「実施例2では,加熱ヘッド押圧板34を下降させることにより,加熱ヘッド31が容器Cの口縁部に蓋材Lを熱融着させた直後に,蓋材押え84が熱融着部を押えた状態でカッタ83が下降せられることにより,蓋材Lの蓋となるべき部分が打ち抜かれる」(【0026】)と記載されているところ,加熱ヘッド押圧板34,加熱ヘッド31及び蓋材押え84は,一体として連動するよう形成されていることが認められるから,引用発明において,加熱ヘッド31が蓋材Lを溶着密封する直前に蓋材Lを容器Cの口縁部に押圧・保持している段階があることは明らかであり,このように蓋材Lを容器Cの口縁部に押し付け保持する点で,加熱ヘッド31は本願発明のフィルム保持手段と同等の機能をも有するということができる。そうすると,引用発明においても,フィルム保持手段が存在することが認められる。
したがって,審決に,原告ら主張の上記相違点を看過した違法はない。
なお,原告らは,審決が引用発明の「加熱ヘッド」(審決書3頁31行目の「加熱ヘッド押圧板」は,甲第1号証に照らして「加熱ヘッド」の誤記と認められる。)は本願発明の「押圧盤(押圧盤の一部に形成した加熱押圧部)」に相当するとした点を争っているが,上記のとおり,引用発明の「加熱ヘッド」は,本願発明の「押圧盤(押圧盤の一部に形成した加熱押圧部)」と同様にフィルムの保持機能と溶着機能とを有しているものであるから,前者が後者に相当するとした審決の判断に誤りはない。
(2) 原告らは,本願発明はフィルムを打ち抜いた後に封口片の周縁を溶着するものであるが,引用発明には打ち抜かれたフィルムである封口片を容器の開口縁に溶着する手段がないことも相違点であると主張する。
しかし,フィルムを打ち抜く工程と封口片(又は封口片となるべきフィルム)の周縁を溶着する工程との先後については,本願発明の特許請求の範囲(請求項7)に明確な記載がない。また,本願明細書(甲第10号証)には,「図8(C)の中央線の左側に示した第1の実施例では,加熱押圧部42aを押圧盤26に形成しており,図示省略しているが押圧盤26に加熱手段を設けている(従って図3に示した第1実施形態のような冷媒路32は設けていない)。そこで,前述のようにピストンロッド24の下降と共に押圧盤26を下降せしめ,加熱押圧部42aによりフィルム素材7を容器1の開口縁5に押付け保持するに際し(フィルム保持工程),フィルム素材7と容器1の開口縁5が相互に溶着される。次いで引き続き,前述のように加熱ブロック22と共に熱刃25を下降せしめ,開口縁5の外周縁に沿ってフィルム素材7を打抜き封口片8を形成すると(打抜き工程),形成された封口片8は,開口縁5に外側から添設され,前述のように封口片8の周縁が開口縁5に溶着されている。」(【0016】)との記載があり,溶着する工程が先でフィルムを打ち抜く工程が後になる実施例が示されている。そうすると,本願発明において,フィルムを打ち抜く工程が封口片の周縁を溶着する工程よりも,常に先であることを前提とする原告らの主張は理由がない。
したがって,審決に,原告ら主張の上記相違点を看過した違法はない。
(3) 原告らは,本願発明が封口片の周縁を溶着させる手段と保持手段の押圧盤とを一体化したものであるのに対し,引用発明はこの構成を有しないと主張する。
しかし,前記(1)において検討したとおり,引用発明の「加熱ヘッド」は,フィルムの保持手段及び溶着手段を兼ねていると認められる。したがって,引用発明においても,両手段が一体化された構成を有するということができ,本願発明との間に上記の相違点はない。
(4) 原告らは,本願発明において封口片の周縁を打ち抜いた後,保持手段を退避させるが,引用発明には,この構成がないと主張する。
刊行物1(甲第1号証)には,熱融着・打ち抜き後に加熱ヘッド押圧板34(一体化した加熱ヘッド31及びカッタ83を含む。)を退避させることは明記されていない。しかし,引用発明においては,加熱ヘッド押圧板34を下降させることにより熱融着・打ち抜きを開始しているのであるから,それが終了すれば,加熱ヘッド押圧板34を上昇させ,元に復帰させるのは自明である。したがって,明記されていないとしても,技術常識として,引用発明が加熱ヘッド押圧板34,加熱ヘッド31およびカッタ83を退避する手段を有していることは明らかであって,引用発明と本願発明とは実質的に相違しない。
(5) 原告らは,本願発明において,押圧盤,加熱押圧部及び熱刃が三重の同心円構造になっているが,引用発明には,この構成がないと主張する。
しかし,本願発明の特許請求の範囲(請求項7)において,加熱押圧部が押圧盤の一部に形成されることは規定されているものの,押圧盤,加熱押圧部及び熱刃について,三者の相対的位置関係については何ら規定されていないし,また,加熱押圧部を押圧盤のどの部分に設けるかも特定されていない(なお,本願明細書(甲第10,第14号証)にも,上記の三者が三重の同心円構造になっていると解すべき記載は見当たらない。)。したがって,本願発明において,押圧盤,加熱押圧部,熱刃が三重の同心円構造になっているとの原告らの主張は,本願発明の構成に基づかないものであり,審決に,原告ら主張の上記相違点を看過した違法はない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 原告らは,フィルムの切断には,複雑な構造になる溶断手段を使用しないで,機械的切断にするのが当業者の常識であるから,熱刃による融解切断を採用することは,当業者が容易に想到することではないと主張し,熱刃を用いる理由について,フィルムに軽く接触するだけで,接触部分が瞬間に溶解するので,筒状の熱刃の内部が保持されていると,フィルムが熱刃の押圧で逃げることはなく,正確な位置に正確な形状の封口片を打ち抜くことができるとの効果を奏するためであると主張する。
しかし,刊行物2(甲第9号証)並びに乙第1(特公昭52-4995号公報)及び第2号証(特開昭50-138991号公報)によれば,「打抜き刃として熱刃を用いる」という技術事項は,本願発明の出願前に周知であることが認められる。そして,引用発明に係る包装体の製造装置と上記周知技術は,刃により熱可塑性樹脂フィルムを打抜き加工する点で共通するものであるから,引用発明に上記周知技術を採用することに格別の困難はない。仮に,熱刃による融解切断を採用することにより,機械的切断に比して,構造が複雑になるとしても,打抜き刃として熱刃を用いることは周知の技術事項であり,これを用いることが極めて困難であると認めるべき事情もないから,当業者において引用発明に上記周知技術を採用することに想到することを妨げる理由となるものではない (2) 原告らは,「打抜き」とは,熱刃がフィルム面を通過することをいい,刊行物2(甲第9号証)には,熱刃による「打抜き」の工程がなく,溶断用加熱素子を用いてフィルムを溶断しているのは,加熱押圧であって,「打抜き」ではないと主張する。
しかし,仮に刊行物2に「熱刃による打抜き」が開示されていないとしても,乙第1及び第2号証には「打抜き」の概念が用いられており,「打抜き刃として熱刃を用いる」という技術事項が本願発明の出願前に周知であることに変わりはない。なお,原告らは,「打抜き」は熱刃がフィルム面を通過することをいうとする一方で,本願発明の熱刃は,フィルムに軽く接触するだけで,接触部分が瞬間に溶解するとも主張しており,また,本願発明の特許請求の範囲(請求項7)や本願明細書(甲第10,第14号証)の発明の詳細な説明欄にも,「打抜き」あるいは「打ち抜く」が,熱刃がフィルム面を通過することを意味していると解すべき明確な記載は存在しないのであって,本願発明の「打抜き」あるいは「打ち抜く」が,熱刃によりフィルム素材に開口縁の形に穴をあけて封口片を分離,形成するということ以上に,熱刃がフィルム面を通過するものと限定して解することはできない。
そうすると,刊行物2(甲第9号証)において,刃がフィルム面を通過していないとしても,熱による溶解を利用して,フィルムから封口片を分離,形成することに違いはなく,原告らの主張を採用することはできない。
(3) 原告らは,本願発明の主たる課題は,封口片を1枚ずつ摘んで容器の開口縁に被せる手作業を自動化することであり,多数の封口片をストックしておかなくても,間欠的に移送される連続フィルムから打抜き手段で自動的に封口片を打抜くことで封口することができる点において引用発明が本願発明と同じ課題や目的を達成しているとした審決の判断は,誤りである旨主張する。
しかし,多数の封口片をストックしておかなくてもよいという効果については,本願明細書の発明の効果欄において挙げられており(甲第10号証【0017】),また,本願発明のように,間欠的に移送される連続フィルムから打抜き手段で自動的に封口片を打抜くことで封口するならば,多数の封口片をストックしておかなくてもよいという効果が得られるとともに,封口片を1枚ずつ摘んで容器の開口縁に被せる手作業を自動化するという原告ら主張の効果も同時に得られることは明らかであり,引用発明においても,「本願発明と同じ課題や目的を達成し・・・その効果においても格別の差違はない」とした審決の判断に誤りはない。
原告らの主張を採用することはできない。
3 結論 以上に検討したところによれば,原告らの主張する取消事由にはいずれも理由がなく,審決に,これを取り消すべきその他の誤りは見当たらない。
よって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二