運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2000-13165
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  慣用技術 /  技術常識 /  技術的特徴 /  優先権 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 13年 (行ケ) 293号 審決取消請求事件
原告 シーゲイトテクノロジー エルエルシー
訴訟代理人弁理士 浅村皓、浅村肇、小池恒明、岩井秀生、清水邦明、 増子尚道
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 伊東和重、小林信雄、麻野耕一、高橋泰史、林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/12/10
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が不服2000−13165号事件について平成13年2月21日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
主文と同旨の判決
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成8年1月11日、名称を「スライダー/ディスク界面のFM検出」とする発明につき特許出願(平成8年特許願第522321号、米国出願に基づく優先権主張日1995年1月19日)をし、拒絶査定を受けたので、平成12年8月21日、拒絶査定に対する不服の審判を請求した(不服2000-13165号)が、特許庁は、平成13年2月21日に「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決をした(平成13年3月2日原告に謄本送達。出訴期間として90日付加)。
2 本願発明の要旨(平成11年9月30日付け手続補正により補正された特許請求の範囲1) 「1.回転ディスクと、該ディスク上でのヘッドの選択的な位置決めのためのアクチュエータアームによってマウントされ且つスライダを有するヘッドと、該ヘッドを前記アクチュエータに取付けるための撓み部材とを具備するディスクドライブにおけるスライダ/ディスク接触を試験するための方法であって、
前記ディスクドライブの前記ディスクを、所定の第一の回転速度で自転させる工程と; 前記ディスクドライブのヘッドを使用して、前記ディスクを回転させながら、該ディスクに実質的に均一なパターンを有する信号を書き込む工程と; その後、前記ディスクを所定の第二の回転速度で回転させる工程と;前記所定の第二の回転速度で回転させながら、前記ヘッドを使用して、前記所定の第一の回転速度で書き込まれた信号を再読み取りする工程と; スライダ/ディスク接触によって生じた撓み部材の振動の周波数範囲に対応した周波数範囲の全体にわたって、前記再読み取りされた信号のFM復調を行う工程と、
前記撓み部材の振動の存在を示す周波数ジターを検出するために前記復調再読み取り信号を分析して、前記第一、第二の回転速度での前記ディスクの回転速度での前記ディスクの回転中のヘッド-ディスクの接触を明らかにする工程とを備えていることを特徴とする方法。
(上記発明を「本願発明」という。特許請求の範囲2.ないし10.の記載は省略) 3 審決の理由 審決の理由は、別紙審決の写し(以下「審決」という。)のとおりである。要するに、本願発明は、第1刊行物(特開平5-325461号公報、甲第4号証)、
第2刊行物(実願昭63-109744号(実開平2-35372号)のマイクロフィルム、甲第5号証)及び第3刊行物(特開平6-37654号公報、甲第6号証)に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許をすることができない、というものである。
原告主張の取消事由の要点
1 取消事由1(第1刊行物の認定の誤り、一致点の認定の誤り) 審決は、第1刊行物記載の発明の「この再生データをスペクトラム検出回路6で監視する工程」は、本願発明の「前記撓み部材の振動の存在を示す周波数ジターを検出」するために「再読み取り信号を分析して、前記第一、第二の回転速度での前記ディスクの回転速度での前記ディスクの回転中のヘッド-ディスクの接触を明らかにする工程」に対応する(審決5頁1行〜23行)旨認定した上で、本願発明と第1刊行物記載の発明とは、「前記撓み部材の振動の存在を示す周波数ジターを検出するために再読み取り信号を分析して、前記第一、第二の回転速度での前記ディスクの回転速度での前記ディスクの回転中のヘッド-ディスクの接触を明らかにする工程とを備えている」点で一致する、と認定するが(審決5頁37行〜6頁1行)、誤りである。
(1) 第1刊行物(甲第4号証)記載の発明は、定常の回転数の状態で検査用データ信号として、通常の「ランダムパターン」の記録信号を書き込み、検査時には回転数を徐々に下げつつ書き込まれた「ランダム・パターン」を読み出し、ヘッドとディスクが接触したときに「支持バネが円周方向に揺さぶられる」ことによって発生する支持バネの曲げ方向振動のサイドバンドスペクトラムを検出することにより、ヘッドとディスクの接触を検出して、接触を検出した時点での回転数から浮上量マージンを求めるというものである。
書き込まれた検査用データ信号はランダムパターン信号であるから、読出信号もまたランダムパターン信号である(読出動作は書込動作よりも小さい回転数で行なうので、検査用データ信号の信号周波数よりも小さい信号周波数の信号が読み出される。)。しかし、ランダムパターン信号の周波数成分には規則性が存在しないので(技術常識)、読出信号中にいくら乱れが発生しても、通常その検出は不可能である。その後スペクトラム検出器6を用いてもジターを検出することはできず、接触を検出することもできない(破滅的な接触状況に至って初めて検出可能となる)。
また、第1刊行物では、再生データ信号の周波数解析結果は、非接触時に図8(a)の如く基本波のスペクトラム出力だけが検出され、異常時には図8(b)のスペクトラムが観測されるとしているが、「基本波」の意味が不明である。ランダム信号を使用したのでは、基本波が生じることはなく、第1刊行物において「基本波」あるいはこれに対する「サイドバンドスペクトラム」なる概念は成立し得ない。しかも、
支持バネの振動の周波数(数十kHz程度)はスペクトラムの周波数帯(図8(a)(b)、MHz帯)の1000分の1以下のオーダーであるところ、MHz帯上に現れるサイドバンドスペクトラム波形(図8(b))の意味も不明である。
以上のとおり、第1刊行物記載の発明は、「撓み部材の振動の存在を示す周波数ジターを検出する」機能を有するものではない。
(2) 第1刊行物は、サイドバンドスペクトラムが発生する現象を「利用」(0010)すると記載しているだけで、その具体的な検出方法につき記載はない。周波数解析結果(図8(a)(b)のスペクトラム波形)を表示した表示装置を目視により 監視することを示すのみである。
これに対して、本願発明は、読出信号をFM復調することにより、正常時には無信号を、接触時にはヘッドの撓みによる周波数ジターによる周波数偏倚に相当する信号を得、これにより接触/非接触を自動的に判別 するものである。
以上のとおり、第1刊行物記載の発明は、本願発明の「ディスクの回転中のヘッド-ディスクの接触を明らかにする工程」を有するものでもない。
(3) したがって、第1刊行物記載の発明の「この再生データをスペクトラム検出回路6で監視する工程」は、本願発明の「「前記撓み部材の振動の存在を示す周波数ジターを検出」するために「再読み取り信号を分析して、前記第一、第二の回転速度での前記ディスクの回転速度での前記ディスクの回転中のヘッド-ディスクの接触を明らかにする工程」に対応するものではない。審決における一致点の認定は誤りである。
2 取消事由2(相違点についての認定・判断の誤り) 本願発明において、書込信号を「実質的に均一なパターンを有する信号」としたのは、接触/非接触の判別を読出信号のFM復調により行うためであり、また、読出時の回転速度を固定値(第二の回転速度)としたのも、読出信号のFM変調の中心周波数を固定とするためである。
本願発明の「実質的に均一なパターン」、「第二の回転数」及び「FM復調」は全て、接触/非接触の判別を読出信号のFM復調により行うという本願発明の検出原理が必要とする一体の構成要素である。審決が、本願発明におけるこれら三つの構成要素の相互関係を無視し、第1刊行物記載の発明との間の個別の相違点として3点を認定しその判断をしたことは、それ自体が誤りであり、そのため、以下のとおり、審決は、本願発明と第1刊行物記載の発明との各相違点(第1ないし第3相違点)についての認定・判断を誤ったものである。
(1) 第1相違点(信号読取時の回転速度の点)について 審決は、第1相違点:「信号読取時の第二の回転速度が、第1刊行物記載の発明は回転数を徐々に下げながら検査を行うのに対して、本願発明は「所定」の第二の回転数である点」(審決書6頁5行〜7行)について、第1刊行物の「製品の浮上マージンの目あす」に関する記述(0013)を根拠として、「回転数を徐々に下げて浮上マージンの測定を詳細に測定する第1刊行物記載の発明においても、浮上マージンを一つに設定し、すなわち、本願発明にいう「所定の第二の回転数」で再読み取りをすることで、「所定の第二の回転数」におけるヘッドとディスクの接触が生じるか否かを検査するように設定することは当業者が必要に応じて設定し得るところにすぎない。」(6頁23行〜32行)と判断するが、誤りである。
本願発明の「実質的に均一なパターン」を有する書込信号の読出信号(正常時)は、同じく「実質的に均一なパターン」信号である。本願発明は、接触によりヘッドが振動すると、読出信号が本来の「実質的に均一なパターン」信号をFM変調した信号となる現象を利用し、このFM変調に相当する変動量をFM復調器で検出して接触/非接触を判別するものである。FM復調では、読出信号のFM変調の中心周波数(書込信号の周波数と読出し時の回転数(第二の回転数)で決まる)を一定にする必要がある。本願発明において、検査時の回転速度を固定(第二の回転数)とした理由は、FM復調器を用いて接触を検出するためである。
第1刊行物記載の発明は、検査時の回転数を徐々に下げていきながら接触を検出するので、FM変調の中心周波数も徐々に変化し、FM復調器を用いることはできない(それ故に、第1刊行物では読出信号を直接フーリエ変換をする必要がありスペクトラム検出回路6を設けているのである。)。第1刊行物には、検査にFM復調器を用いて接触を検出するという技術思想は存在しない。FM復調器を用いるという技術思想が存在しない以上、検査時の回転数を固定とすることも示唆されない。
「浮上マージンの目あす としては…50%…が望ましく、最低でも…80%…が必要である。」(0013)との記載をもって、回転数を固定することを当業者が必要に応じて設定し得るということもできない。
審決の判断は、回転速度とFM復調器との関連性を考慮しておらず、誤りである。
(2) 第2相違点(検査のための記録用信号パターンの点)について 審決は、第2相違点:「検査のための記録用信号パターンが、第1刊行物発明ではランダム・パターンであるのに対して、本願発明では実質的に均一なパターンである点」(審決6頁7行〜8行)について、
第2刊行物(甲第5号証)には、「トラックと無関係に一様に書き込まれた単純な繰り返しパターンからなる監視情報と、ディスクの回転に同期してこの監視情報をヘッドを介して読み取り、その読取信号の値があらかじめ設定された正常範囲を逸脱したときにヘッド異常と判定する…発明」(審決4頁24行〜28行)が記載されていると認定した上で、「ハードディスク装置用ヘッドの異常検出において、
単純な繰り返しパターンからなる監視情報を記録してそれを読み取り解析することで接触を検出することは上記第2刊行物に記載されているので、第1刊行物記載の発明においてもランダム・パターンに変えて単純な繰り返しパターンすなわち本願発明にいう実質的に均一なパターンに設定することも当業者が容易に想到し得たところにすぎない。」(審決6頁35行〜7頁2行)、と判断するが、かかる認定・判断は誤りである。
ア 第2刊行物に記載された発明の認定の誤り 第2刊行物(甲第5号証)には、審決の認定するような「トラックとは無関係に一様に書き込まれた単純な繰り返しパターンからなる監視情報と、ディスクの回転に同期してこの監視情報をヘッドを介して読み取り、その読取信号の値があらかじめ設定された正常範囲を逸脱したときにヘッド異常と判定するヘッド異常検出手段を備えたヘッドの浮上状態の異常を検出する発明」や、「ハードディスク装置用ヘッドの異常検出において、単純な繰り返しパターンからなる監視情報を記録してそれを読み取り解析することで接触を検出すること」は記載されていない。
第2刊行物に記載された発明は、ヘッドがディスク面に近づくと読取信号が正常値より増大し、接触すると読取信号が正常値より減少する現象を利用して、ヘッドが異常に接近したことを早期に検出して接触前に必要な措置を取ろうとするものであり、接触を直接検出するものではない。具体的には、トラックのごく僅かな範囲に単純な繰り返しパターン(オンオフと10回前後の繰り返し)を書き込んでおき、繰り返しパターンの読出信号を整流平滑して直流信号に変換し、その直流信号の大きさのみを取り出し、それが所定の大きさを逸脱したときに異常接近の検出信号を発するものであり、「パターン」としての情報を完全に捨て去っている。
すなわち、監視情報は、トラックの僅かな範囲に記録された「単純な繰り返しパターン」であり、審決が認定する「トラックとは無関係に一様に書き込まれた単純な繰り返しパターンからなる監視情報」ではない。
また、読出信号を整流平滑した直流信号の大きさを監視することにより、正常/異常を判別するものであり、読出信号のパターン情報を利用するものではない。審決の認定する「読取信号の値があらかじめ設定された正常値を逸脱したときヘッド異常と判定する」技術を開示するものではない。
イ 第2相違点についての判断の誤り (ア) 第1刊行物記載の発明は、浮上マージンの検査を目的とし、トラックの全周にわたって書き込んだ検査用データ信号(ランダム・パターン)の読出信号の周波数解析結果を監視するものであり、監視にパターン情報を利用する。一方、第2刊行物記載の発明は、異常接近の検出を目的とし、トラックの極めて狭い範囲に書き込んだ繰り返しパターンの読出信号の物理量(大きさ、直流信号)を監視するものであって、監視にパターン情報を利用しない。
第1刊行物記載の発明と第2刊行物記載の発明とは、目的及び手法が相違するから、第1刊行物の「ランダム・パターン」に代えて第2刊行物の「単純な繰り返しパターン」を適用することはできない。
(イ) 本願発明の書込信号(実質的に均一なパターン)は、読出信号のFM変調及びFM復調が可能な程度に連続した長さを持つ均一パターンでなければならない。したがって、トラックの全周にわたって書き込まれる。「ディスクを回転させながら、ディスクに実質的に均一なパターンを有する信号を書き込む」(請求の範囲)及び「実質的に均一なパターンを有する各信号を、所定の半径位置で夫々の保存ディスク表面の回りに完全に書き込んだ」(本願明細書11頁11行〜12行)との記載のとおりである。
他方、第2刊行物の監視情報は、前記のとおり、トラックの極めて狭い範囲に書き込まれる。このような断続的な信号では読出信号のFM変調及びFM復調は不可能である。
このように、第2刊行物記載の発明は「トラックの全周にわたって書き込まれる」構成ではなく、第1刊行物に適用したとしても、本願発明の構成が得られるものではない。
(ウ) 本願発明の書込信号は、読出信号のFM変調の中心周波数を提供するパターンでなければならない。一方、第2刊行物の監視情報は直流信号を得るものであり、「単純な繰り返しパターン」は直流信号が得られる限りどのようなパターンでもよい。本願発明の「実質的に均一なパターン」とは根本的に異なるものである。審決が「単純な繰り返しパターンすなわち本願発明にいう実質的に均一なパターン」と同一視したことも誤りである。
(エ) 以上のとおりであるから、第2相違点に関する審決の判断は誤りである。
(3)第3相違点(「再読み取りされた信号のFM復調を行う工程」)について 審決は、第3相違点:「周波数ジターを検出する構成として、第1刊行物記載発明にはスペクトラム検出回路の記載はあるものの具体的回路構成の記載がないのに対して、本願発明では「スライダ/ディスク接触によって生じた撓み部材の振動の周波数範囲に対応した周波数範囲の全体に亘って、前記再読み取りされた信号のFM復調を行う工程」の後に周波数ジター分析を行う点」(審決6頁10行〜14行)について、
第3刊行物(甲第6号証)には「受信信号の変調形式を解析するための構成として、検波回路で検波した後、高速フーリエ変換回路でフーリエ変換して変調形式を識別する発明」(審決4頁33、34行)が記載されていること、「受信信号(本願発明の再読み取り信号に対応)を復調した後にスペクトラム解析を行うことは第3刊行物第1・2図とその詳細な説明に記載されているように公知の技術である。」(審決7頁9行〜12行)とそれぞれ認定したうえ、「してみれば、ディスクとヘッドの接触非接触をスペクトラム分析する第1刊行物記載発明においても、
その具体的回路構成として、第3刊行物記載発明のように、前段に復調器として周知のFM復調器を用いて再読み取り信号を復調した後にスペクトラム検出器6にかけて周波数ジター解析(スペクトラム解析)を行なう事は容易に採用し得たところである。」(審決7頁13行〜17行)と判断するが、かかる認定及び判断は誤りである。
ア 第3刊行物記載の発明の認定の誤り (ア) 第3刊行物記載の発明は、アンテナ100で受信した無線高周波信号の変調型式(AM変調かFM変調か)を識別することを目的とし、無線高周波信号から第2中間周波数を作り(第1、第2局部発信器104、105及びミキサー102、103)、この第2中間周波数から不要波を除去した後(帯域ろ波フィルタ106)、スペクトル分解し(高速フーリエ変換器1、一時メモリ2及び信号処理器3からなる回路)、スペクトル分解の結果、変調型式の特徴(AM変調は2つの三角形、FM変調は長方形)を抽出し識別するものである。
第3刊行物には「受信信号の変調形式を解析するための構成として、周波数変換及び帯域 ろ波フィルタ で不要波 を除去 した 後、高速フーリエ変換回路でフーリエ変換して変調形式を識別する発明」が記載されているのであって、「受信信号の変調形式を解析するための構成として、検波回路で検波 した 後、高速フーリエ変換回路でフーリエ変換して変調形式を識別する発明」は記載されていない。
(イ) また、第3刊行物記載の発明の「受信信号」は、アンテナで受信された「無線高周波信号」であって、ディスクからの「読取信号」ではなく、本願発明の「再読み取り信号」に対応するものでもない。
したがって、審決の、「本願発明のような信号のスペクトラム解析を行うに当たって、受信信号(本願発明 の再読 み取り信号 に対応 )を復調 した 後にスペクトラム解析 を行うことは 、第3刊行物第1・2図とその詳細な説明に記載されているように公知の技術である。」との認定、及び、「第3刊行物記載発明のように、前段に復調器として周知のFM復調器を用いて入力信号(再読み取り信号)を復調した後にスペクトラム検出にかけて周波数ジター解析(スペクトラム解析)を行う事」との認定も誤りである。
(ウ) 被告は、第3刊行物中の、「図1に示すように、空中線100で高周波信号を受信し、第1局部発信器104、第2局部発信器105、ミキサー102及び103により、中間周波数を発生し、帯域ろ過フィルタ106により不要波を除去する」(0010)との記載が「復調」に相当し、「本発明の実施例に係る変調型式識別装置は、更に、相互に接続された高速フーリエ変換器(以下、F.F.Tと呼ぶ)1、一時記憶メモリ2及び信号処理機3とを備えている。F.F.T1は、信号処理機3から制御されたタイミングで、入力信号のスペクトル分解を行う。分析結果は、一時記憶メモリ108に蓄えられる。この動作を信号処理機3の指示によりn回(ただし、nは自然数)くり返し行う。この信号処理機3内部では、n回の分析結果の和平均を取り、変調器ごとの特長を抽出する。図2に示すように、この特長は、FMの場合は長方形、AM(DSB)の場合は2つの三角形と搬送波である。」(0011)との記載が「スペクトラム検出回路」に相当する、と主張するが、誤りである。
すなわち、第3刊行物の上記記載(0010)は、復調(検波)ではなく、不要波の除去である。AM又はFM復調は、変調型式の判別後に行うものである。
イ 第3相違点についての判断の誤り (ア) 前記アのとおり、第3刊行物に「受信信号をFM復調した後にスペクトラム解析を行うこと」や、「前段に復調器として周知のFM復調器を用いて入力信号(再読み取り信号)を復調した後にスペクトラム検出にかけて周波数ジター解析(スペクトラム解析)を行なう事」は記載されていない。また、第1刊行物に、
検査にFM復調器を用いて接触を検出するという技術思想が存在しないことは前記のとおりである。
第1刊行物及び第3刊行物のいずれにも、ヘッドとディスクとの接触/非接触の検出(読出信号の正常/異常の判別)にFM復調器を用いる技術思想は存在しないのであるから、第1刊行物記載の発明に第3刊行物記載の発明を適用することはできない。
(イ) 審決は、第1刊行物記載の発明において「前段に復調器として周知のFM復調器を用いて再読み取り信号を復調した後にスペクトラム検出器6にかけて周波数ジター解折をする」構成を想定するが、再読み取り信号はランダムパターン信号でありFM復調しても意味がなく、その後スペクトラム検出器6を用いても周波数ジターを解析することができないことは前記のとおりであるから、同構成の想定は技術的に意味のないことである。
(ウ) 以上のとおりであるから、審決の「ディスクとヘッドの接触非接触をスペクトラム分析をする第1刊行物記載の発明においても、その具体的回路として、第3刊行物記載発明のように、前段に復調器として周知のFM復調器を用いて再読み取り信号を復調した後にスペクトラム検出器6にかけて周波数ジター解析(スペクトラム解析)を行う事は容易に採用し得たところである。」(審決7頁13行〜17行)との判断は、誤りである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(第1刊行物の認定の誤り、一致点の認定の誤り)に対して 審決が、第1刊行物の「この再生データをスペクトラム検出回路6で監視する工程」は、本願発明の「「前記撓み部材の振動の存在を示す周波数ジターを検出」するために「再読み取り信号を分析して、前記第一、第二の回転速度での前記ディスクの回転速度での前記ディスクの回転中のヘッド-ディスクの接触を明らかにする工程」に対応する」(審決5頁1行〜23行)と認定し、この点を一致点として認定したことに誤りはない。
(1) ジターに関して、本願明細書には、「周波数ジターとは、例えば、ヘッドスライダとディスク表面との間の接触から生じる機械的振動…によって起こされる、逆読み取り信号の周波数における変動をいう。」(5頁1行〜3行)、「逆読み取り信号の周波数の感度は幾つかの因子、最も顕著には、上記接触によって生じた機械的振動の大きさ方向によって影響される。これらの因子はヘッド、撓み部材、…を含む機械的部品の、特定の構造および構成の関数として変化する。」(10頁7行〜10行)、図3を参照して、「…逆読み取り信号の…振幅が閾値を超えたら、これは…接触によって生じた撓み振動を示しており」(14頁14行〜15行)と記載されている。また、第1刊行物には、「再生データ信号の周波数解析結果は、非接触時に図8の(a)の如く、基本波のスペクトラム出力だけが検出されるのに対して、接触時は支持バネが円周方向に揺さぶられるため、図8(b)の如く基本波スペクトラムに加えて支持バネの曲げ方向振動のサイドバンドスペクトラムが発生する現象を利用したものである。」(3欄40行〜46行)、「接触によるジッター発生」(6欄32、33行)と記載されている。
上記各記載によれば、本願発明の「ジター」と第1刊行物の「ジッター」とは、
共に、ヘッドとディスクとの接触を原因とする撓み部材(支持バネ)の撓み振動(曲げ方向振動)により読取信号中に発生するものであり、相違するところはない。したがって、第1刊行物のスペクトラム波形(図8(b))は本願明細書のスペクトラム波形(図3)と同じであるというべきである。
本願発明と第1刊行物記載の発明の読取信号中には、いずれも、同じ原因(接触時の振動)により周波数ジターが発生しているということができるから、両者は、
いずれも、接触による周波数ジターを検出しているはずである。
(2) 原告は、ランダムパターン信号は周波数成分に規則性がないから(技術常識)、読出信号中に発生する乱れを検出することは不可能であり、第1刊行物記載の発明では接触/非接触を検出することができない(検出可能としても破滅的な接触状況となって初めて可能となる)と主張する。
第1刊行物には、非接触時には基本波のスペクトラムだけが検出されること(図8(a))、接触時には基本波とサイドバンドのスペクトラムが検出されること(図8(b))がそれぞれ示されている。各図は、ランダムパターン信号であってもその基本波のスペクトラムの検出が可能であることを示すものである。ランダムパターン信号だから乱れを検出することができないとする主張は理由がない。
第1刊行物記載の発明は、読取信号のスペクトラムを監視しつつ、非接触状態から接触状態に至った時のスペクトラム変動を検出するものである。破滅的な接触を検出するものでない。
(3) 原告は、第1刊行物のスペクトル監視は目視による監視であると主張する。
図8(a)(b)は、非接触時と接触時のスペクトラムの違いをオシロスコープ表示で示した例にすぎず、「目視」による監視を意味するものではない。
第1刊行物記載の発明では、スペクトラム検出回路6で接触を検出し、浮上マージングラフ(図9)を作成する。「目視」で接触を検出したのでは、同グラフを作成することは不可能である。
2 取消事由2(相違点についての認定・判断の誤り)に対して 審決がした相違点の認定・判断に誤りはない。
(1) 第1相違点(信号読取時の回転速度)について 前記のとおり、第1刊行物と本願発明は、パターンをディスクに書き込むこと、
及び、この書き込まれたパターンの読取信号が接触時に受ける変動(FM変調)を検出すること、FM変調を受けた読取信号のスペクトラムを検出することにおいて、相違がない。
第1刊行物記載の発明は、ディスク回転数を定常回転数より徐々に下げてゆき、
ヘッドがディスクに接触を始めサイドバンドスペクトラムが発生したときの回転数(浮上マージン)を求めるというものである。「前記浮上マージンの目あすとしては、磁気ディスクの回転数が所定回転数の50%の状態でも磁気ヘッドを安定的に浮上できる特性が望ましく、最低でも磁気ディスク回転数を80%に低減しても磁気ヘッドを磁気ディスクに接触しない特性が必要である」(0013)との記載は、接触を始める回転数が低い程、浮上マージンがよいことを示す。このような浮上マージンを求めず、特定の回転数、例えば通常使用する定常回転数における接触・非接触を検出するだけでよい場合には、回転数を定常回転数に固定して接触・非接触を試験すればよい。回転数を徐々に下げていくことで浮上マージンを正確な回転数の把握ができる第1刊行物のようにする代わりに、単にある回転数で接触が起こるか否かという回転数の閾値を設けて、製品を正常品と不良品とに2分するように製品検査の簡略化を図ることは、製品検査における一般的手法であり、技術的な困難性は認められない。審決の判断に誤りはない。
また、原告は、FM復調をするには読出し時の回転数を固定とする必要があるところ、第1刊行物記載の発明では回転数を変化させているからFM復調を行うことができず、FM復調器を用いて接触を検出するという技術思想が存在しない以上、
回転数を固定とすることも示唆されないと主張するが、回転数を徐々に変化させながらFM復調を行うことは可能であるから、原告の主張は失当である。
(2) 第2相違点(検査のための記録用信号パターン)について ア 第2刊行物記載の発明の認定の誤りに対して 第2刊行物には、「ハードディスク装置のトラック上の情報を読み書きする空気力浮上型ヘッドに生じうる異常を検出するための装置であって、ディスクの周方向の所定位置および範囲内にヘッドが移動可能な全体方向範囲にわたってトラックと無関係に一様に書き込まれた単純な繰り返しパターンからなる監視情報と、ディスクの回転に同期してこの監視情報をヘッドを介して読み取り、その読み取り信号の値があらかじめ設定された正常範囲を逸脱したときにヘッド異常と判定するヘッド異常検出手段とを備えてなり、ディスクが回転状態にある限りヘッド異常検出手段を常時動作させてヘッドの浮上状態の異常を検出しうるようにしたことを特徴とするハードディスク装置用ヘッド異常検出装置」(実用新案登録請求の範囲)と記載されている。
審決は、第2刊行物の実用新案登録請求の範囲の記載のとおりを第2刊行物記載の発明として認定したもので、誤りはない。原告の主張は、単に実施例の記載を指摘するものであり、上記の記載を看過しているものであって、理由がない。
イ 第2相違点の判断の誤りに対して (ア) 第2刊行物には、第2刊行物記載発明の「単純な繰り返しパターンからなる監視情報」につき、「上記の監視情報は例えば単なるオンオフの繰り返えしパターンとするのが、…最も望ましい。」(5頁16行〜19行)、「この各監視情報31の書き込みパターンは最も単純なオンオフの例えば10回前後の繰り返えしとするのがよく」(11頁6行〜8行)、「本考案はこの実施例に限らず種々の態様で実施をすることができる。例えば監視情報の書き込みパターン、…などは全て目的に合わせて適宜な態様を取ることができる。」(22頁15行〜20行)と記載されていることから、「単純な繰り返しパターン」として、「単純なオンオフの繰り返えしパターン」(「1」と「0」の繰り返し(1010…)、11頁7行、14頁15行)に加えて、「1」のみの繰り返し(1111…)、「0」のみの繰返し(0000…)等も考えられる。そうすると、「監視情報」は「直流信号を得る信号」に限定されない。
本願明細書には、本願発明の「実質的に均一なパターン」につき、ハードディスクに記録されるディジタル信号であると記載があるだけで、具体的にどの様なパターンであるかは記載がなく不明である。
そうすると、本願発明の「実質的に均一なパターン」と第2刊行物の「単純な繰り返しパターンからなる監視情報」との相違はないというべきである。さらに、第2刊行物の上記「監視情報の書き込みパターン…などを全て目的に合わせて適宜な態様を取ることができる」(22頁)の記載を参照すれば、第2刊行物の「単純な繰り返しパターンからなる監視情報」を第1刊行物記載の発明の「検査用書込みデータ」に置換することに格別の技術的困難性はない。
(イ) 原告は、書込信号の領域の範囲につき、本願発明はトラックの全周にわたって書き込むのに対して、第2刊行物はトラックのごく僅かな範囲に10回前後書き込んだにすぎないと主張する。
本願明細書の特許請求の範囲には、「回転させながらディスクに実質的に均一なパターンを有する信号を書き込む工程」とあるのみで、「トラックの全周にわたって書き込む」ことにつき記載はない。したがって、第2刊行物には「トラックの全周にわたって書き込む」構成がないことを同刊行物の適用が困難であることの根拠とすることはできない。また、特許請求の範囲の記載は「トラックのごく僅かな範囲に書き込む」構成を排除しない。したがって、第2刊行物が「トラックのごく僅かな範囲に書き込む」構成であることは同刊行物の適用を阻害するものではない。
原告の特許請求の範囲の記載に基づくものではなく、失当である。
(3) 第3相違点(「再読み取りされた信号のFM復調を行う工程」)について ア 第3刊行物記載の発明の認定の誤りに対して (ア) 第3刊行物には、@「変調方式を識別するための受信装置において、高周波を除去した検波信号のスペクトル分析を行うフーリエ変換器と、当該分解したスペクトルを蓄えるメモリと、前記メモリに蓄えられた信号のスペクトルの特徴を抽出する信号処理器とを有することを特徴とする変調方式識別装置」(請求項1)、A「この発明は、変調方式を識別する装置に関し、スペクトル解析処理を有する装置に関する。」(0001)、B「図1で示すように空中線100で高周波信号を受信し、第1局部発信器104、第2局部発信器105、ミキサー102および103により、
中間周波数を発生し、帯域ろ過フィルタ106により不要波を除去する。以上までは、
従来と同様の構成である。」(0010)、及び、C「本発明の実施例にかかる変調形式識別装置は、更に、相互に接続された高速フーリエ変換器(以下、F.F.Tと呼ぶ) 1、一時記憶メモリ2及び信号処理器3とを備えている。F.F.T1は、信号処理機3から制御されたタイミングで、入力信号のスペクトル分解を行う。分解結果は一時記憶メモリ108に蓄えられる。この動作をn回(但し、nは自然数)くり返し行う。
この信号処理器3内部では、n回の分解結果の和平均を取り、変調形式ごとの特長を抽出する。この特長はFMの場合は長方形、AM(DSB)の場合は2つの3角形と搬送波である。」(0011)と記載されている。
(イ) 上記記載によれば、審決が、「受信信号の変調方式を解析するための構成として、検波回路で検波した後、高速フーリエ変換回路でフーリエ変換して変調形式を識別する発明」を第3刊行物記載発明として認定したことに誤りはない。
そして、上記記載B(0010)が「復調」に相当し、記載C(0011)がスペクトラム検出回路に相当することは明らかである。したがって、審決が、「本願発明のような信号のスペクトラム解析を行うに当たって、受信信号(本願発明の再読み取り信号に対応)を復調した後にスペクトラム解析を行うことは、第3刊行物第1・2図とその詳細な説明に記載されているように公知の技術である。」、及び、「第3刊行物記載発明のように、前段に復調器として周知のFM復調器を用いて入力信号(再読み取り信号)を復調した後にスペクトラム検出にかけて周波数ジター解析(スペクトラム解析)を行う事」と認定したことに誤りはない。
イ 第3相違点の判断について (ア) 第1刊行物の読出信号は、ディジタル信号列(0と1の列)であり、波の信号ではないので、読出信号を直接スペクトラム検出回路6に入力してもスペクトルを検出することはできない。スペクトルを検出するには、読取信号を一旦、ディジタル値としては意味のない波の信号として認識する必要がある。スペクトラム検出回路6が、読出信号を波の信号として認識する手段(前処理)と、波の信号のスペクトラム検出手段とからなることは明らかである。
ディジタル信号を波の信号として認識する手段(前処理)として、第2刊行物には、「後続のフィルタ回路41bはローパスフィルタであって、読取信号R3中の基本波成分を取り出して…交流信号Aを作る」回路(14頁17行〜15頁1行)が示されている。また、第3刊行物では、ミキサー103の出力信号を帯域ろ過フィルタでろ波して検波した後、高速フーリエ変換器でスペクトラム検出して変調型式を判断するように、ディジタル信号を波の信号として認識する手段(前処理)として、入力信号を検波している。
これら第2、第3刊行物に示されるように、解析すべき広帯域周波数信号を一旦解析可能な周波数範囲にろ波した後、波形解析することは技術常識である。したがって、スペクトラム検出の対象となる入力信号がFM変調を受けた信号である場合に、前処理として、先ず、入力信号を検波FM復調して元の波を取り出すことは、
技術常識からも容易に想定し得ることである。
第1刊行物記載の発明の読出信号はFM変調を受けた信号であること、スペクトラム検出回路6はスペクトラム検出に先立つ前処理を含むことは前記のとおりであるから、復調した上でスペクトラム検出を行う技術手段(第3刊行物記載)を適用することに格別の技術的な困難性はない。審決の判断に誤りはない。
(イ) 本願発明のFM復調器としては、FMラジオに通常用いられるような従来のFM復調器(アンテナ入力された高周波信号を受信する復調器)か、あるいは、本願出願時において販売され何人も購入し得る実験室的器具(HP8901変調分析器)が採用される(「制御装置40には、FM復調器40の入力端に接続された出力端子が含まれている。該制御装置の出力は、…読み取られた信号を、FM復調器に送るように動作する。このFM復調器44は、FMラジオに通常用いられるような、ディスクドライブのジター周波数に適した周波数帯を受信するように改良された従来の復調器、または、例えばHP8901変調分析器のような実験室的器具を具備することができる。FM復調器には、選択されたヘッド24a〜dによって読み出された従来の信号から復調された、種々の周波数の信号を出力するための出力端が含まれている。」(本願明細書9頁9行〜16行)との記載参照)。
上記FM復調器に関する本願出願時の技術水準に照らせば、本来、この点の技術自体には進歩性はないといわざるを得ない。すなわち、本願発明の進歩性を判断する上で、FM復調器及び波形解析にはなんら技術的特徴があるとは言えない。このことは、本願明細書にこれらの具体的な装置構成や回路の説明がないことからも明らかである。
当裁判所の判断
原告主張の取消事由2(相違点についての認定・判断の誤り)を検討する。
1 第1相違点(信号読取時の回転速度)について (1) 甲第2号証によれば、本願明細書に次の記載があることが認められる。
@「ディスクドライブの設計では、ディスクの動作回転速度から測定された回転速度の許容マージンの範囲内で、ヘッドがフライ動作を開始するようなディスクドライブ動作を達成しようとしている。」(3頁8行〜10行) A「ディスクドライブの製造に際しては、…各ヘッドが最小のスライド距離で…離陸または着地し、また…動作回転速度で設計フライ高さに達するように動作することを確認するための品質管理として、夫々のディスクドライブを試験し、ドライブの夫々のヘッドについて離陸および/または着地の速度を測定できることが望ましい。しかし、現在のところ…信頼性のある効率的なシステムまたは方法は得られていない。」(3頁下4行〜4頁4行) B「本発明は、製品の製造に際して、ディスクドライブ製品における各ヘッドの離陸速度を、正確かつ効率的に検出するためのシステムおよび方法を提供する。…本発明は、周波数変調(FM)およびスペクトル分析を利用して、スライダ/ディスク接触によって特異的に発生した周波数ジターを検出および分析することにより、離陸速度を検出するための方法を実現する。」(4頁下8行〜末行) C「本発明の方法的観点によれば、試験中の装置は、離陸条件に対応した動作環境を与えるように選択された二つの回転速度の夫々で、該装置のディスクを回転させるように動作させられる。例えば、第一の回転速度は、ディスクの企画(注:規格の誤記と認める。)動作速度とすることができ、第二の回転速度は、信頼性のある長期間の機械的特性のために望ましい離陸速度とすることができる。」(5頁21行〜25行) D「二つの回転速度のうちの一つでディスクドライブを動作させながら、所定の周波数を有する周期的信号が、ヘッドによって試験中のドライブのディスクに記録される。次いで、…他方の速度で動作され、ヘッドは記録された信号の逆読み取りに使用される。この逆読み取りされた信号はFM復調器に入力されて…周波数復調が行われ…周波数スペクトル分析器に入力される。」(5頁26行〜6頁4行) E「スペクトル分析器によって処理された周波数信号の全てのピーク高さが…一定の閾値エンベロープよりも低ければ、…周波数ジターの証拠がないから、これはスライダーが両方の回転速度においてヘッドをフライさせていることを示す…。もし、…閾値エンベロープを超える…ピークが検出されたなら、…望ましい離陸速度までには、…フライしていないことが決定される。…この装置は拒絶され、再組立または修理のため…戻される。」(6頁5行〜16行) (2) 甲第4号証によれば、第1刊行物(特開平5-325461号公報)に次の記載があることが認められる。
@「【産業上の利用分野】本発明は、…磁気ディスクを実装した状態で磁気の浮上量マージンを検査して浮上量特性を保証可能な磁気ディスク装置に関する。」(0001) A「【課題を解決するための手段】…本発明による磁気ディスク装置は、磁気ディスクと磁気ヘッドの接触を検知する検知手段と、磁気ディスクの回転数を定常回転数よりも徐々に下げる回転数制御手段を備え、該回転数制御手段が磁気ディスクの回転数を下げながら前記検知手段がその接触を監視して磁気ヘッドと磁気ディスクが接触を始める回転数を検出し、装置実装状態における浮上マージンを検出することを第1の特徴とする。」(0005) B「磁気ディスク装置100は、磁気ディスクの回転数を定常の3600rpmの状態にてリードライト回路4が記録信号発生回路5からの検査用データ信号を磁気ディスクに書込んだ後、回転数制御回路3が磁気ディスクの回転数を徐々に下げていきながら該検査用データ再生を行ない、この再生データをスペクトラム検出回路が監視する。」(0011) C「前記スペクトラム検出回路6は、…この再生信号の周波数解析結果を監視することによってヘッドが磁気ディスクと接触/非接触を検出するものである。」(0010) D「例えば図9に示す如く、定常回転数3600rpmから徐々に磁気ディスクの回転数を低減して1600rpmで接触をスペクトラム検出回路6が検出した場合、…浮上マージンは…0.07μmであり、良好な浮上特性であることが判る。…もし2800rpm程度で…接触を…検出した磁気ヘッドは、浮上マージンが0.025μm程度と少ない…ことが…検査…できる。このように本実施例による磁気ディスク装置は、…回転数を定常回転数(3600rpm)よりも下げていき、磁気ヘッドと磁気記録媒体が接触する回転数(1600rpm)を検知し、その間の周速依存性による浮上量変動分を求める事で…浮上マージンを検出するものである。」(0012) E図9には、スピンドルモータ回転数と浮上量の関係を示すグラフが記載され、
同関係グラフ上の定常回転数と接触検知回転数の各々の浮上量の差が「浮上マージン」であることが示される。
(3) 以上の各記載によれば、本願発明は、ディスクドライブにおけるスライダ/ディスク接触を試験するための方法であって、ヘッドがフライ動作を開始する回転速度(離陸速度)の許容マージンに対応した所定の回転速度(第二回転速度)でディスクを回転させてヘッドとディスクとの接触/非接触を監視し、接触を検出したときは離陸速度が許容マージン内にないものと判断することにより、試験に係るディスクドライブの良否等を評価する方法であると認められる。
他方、第1刊行物記載の発明は、磁気ディスク装置における磁気ヘッド/ディスク間の浮上マージンを検出するものであって、ディスクの回転数を徐々に下げていきながらヘッドとディスクとの接触/非接触を監視し、接触を始めるときの回転数を検出して浮上マージンを求めるものであると認められる。その後、求めた浮上マージンにより試験に係るディスクドライブを評価するものである。
本願発明と第1刊行物記載の発明とを比較すると、両者は、ディスクドライブの良否判定という一般的な目的においては共通するが、その手法という点において、
前者は、一定の速度(第二回転速度)におけるヘッドとディスクの接触を検出する(接触が検出されたものは不良とする。)というものであるのに対して、後者は、
ディスクの回転数を徐々に下げていって、接触を始める時の回転数を検出することにより浮動マージンを求める(浮動マージンが所定の範囲にあればディスクドライブを良品と判定する。)というものであり、両者は目的(求めるもの)が相違することが明らかである。そして一定速度(第二回転数)での回転か、回転速度を徐々に下げていくかという回転態様の相違も以上のような目的の相違によるものと認められる。刊行物1には、再読み取り時の回転数を固定してもよいことを示唆する記載は全く存在しない。
(4)審決は、本願発明と第1刊行物記載の発明と第1相違点:「信号読取時の第二の回転速度が、第1刊行物記載の発明は回転数を徐々に下げながら検査を行うのに対して、本願発明は「所定」の第二の回転数である点」について、「一般に、
製造工程において、製品の合否を検査するに当たり、一つの閾値を設定して、閾値以下なら不良品とすることは製造工程において周知・慣用のところ」(審決6頁22行〜24行)にすぎず、第1刊行物の段落(0013)には「製品の浮上マージンの目あすとして、磁気ディスクの回転数が所定回転数の50%での磁気ヘッドを安定的に浮上できる特性が望ましく、最低でも磁気ディスクの回転数を80%に設定しても磁気で磁気ヘッドを磁気ディスクに接触しない特性が必要であることが記載されている」から、「第1刊行物記載発明においても、浮上マージンを一つに設定し、
すなわち、本願発明にいう「所定の第二の回転数」で再読み取りをすることで、
「所定の第二の回転数」におけるヘッドとディスクの接触が生じるか否かを検査するように設定することは当業者が必要に応じて設定し得るところにすぎない。」とする。
しかしながら、(3)で認定したように、第1刊行物記載の発明は、回転数を徐々に下げていき、非接触状態から接触状態に至る時点を検出することによって、試験対象装置の浮上マージンそのものを求めるというものであるところ、本願発明のように「固定回転速度で回転させ」たのでは、ヘッドとディスクが接触しているか否かが検出されるだけで、非接触から接触状態に至る時点を検出することはできず、浮上マージンを求めることもできない。
そうすると、浮上マージンを検出することによってヘッドの浮上特性の良否を判定するという第1刊行物記載の発明の目的からみて、「固定回転速度で回転させること」は、第1刊行物記載の発明の想定しないところというべきである。
この点、審決は、「一つの閾値を設定して、閾値以下なら不良品とすること」(このことは一定の回転数を設定することに対応する。)は周知・慣用のことであるとするが、上記事項は、製品の合否検査における良/不良判定の一般的手法であるということはできても、ディスクドライブの検査において審決のいうように「一つの閾値を設定する」ことが周知・慣用技術であることを認めるに足りる証拠はなく、第1刊行物記載の発明において「一つの閾値を設定する」(一定の回転数を設定する)ことの動機付けとして十分なものではないというべきである。また、浮上マージンの目安についての記載も、単に磁気ディスクドライブにおける望ましい浮上マージンの例(50%、80%)を示すにすぎず、浮上マージンを一つに設定すること(設定された一定の回転数で再読み取りすること)の動機付けとなるものとは認め難い。むしろ、第1刊行物の「本発明による磁気ディスク装置は、・・・・磁気ディスクが接触を始める回転数を検出し、装置実装状態における浮上マージンを検出することを第1の特徴とする。」(0005、0006)との記載は、当業者にとって浮上マージンを一つに設定することの阻害要因となり得るものというべきである。
したがって、「固定回転速度で回転させること」が当業者の容易になし得るところであるとした審決の相違点1についての判断は、是認することができない。
(5)被告は、浮上マージンを求めずに、特定の回転数(例えば定常回転数)における接触/非接触を検出するだけでよい場合には、回転数を定常回転数に固定して接触/非接触を試験することに困難性はないと主張するが、「浮上マージンを求めず、特定の回転数(例えば定常回転数)における接触/非接触を検出するだけでよい場合」とは、まさに本願発明の場合であるところ、第1刊行物には「接触/非接触を検出するだけでよい場合」につき何ら記載・示唆がないのであり(前記(2)参照)、また、当業者が「接触/非接触を検出するだけでよい場合」を容易に想定することができるものと認めるべき的確な証拠も認められない。被告の上記主張は採用することができない。
(6)以上によれば、相違点1についての審決の判断は、誤りというべきである。
2 第3相違点(「再読み取りされた信号のFM復調を行う工程」)について (1)審決は、本願発明と第1刊行物記載の発明との第3相違点(周波数ジター検出において、再読み取りされた信号の「FM復調を行う工程」の有無)について、「本願発明のような信号のスペクトラム解析を行うに当たって、受信信号(本願発明の再読み取り信号に対応)を復調した後にスペクトラム解析を行うことは、
第3刊行物第1・2図とその詳細な説明に記載されるように公知の技術である」から、「第1刊行物記載の発明においても、その具体的回路構成として、第3刊行物記載発明のように、前段に復調器として周知のFM復調器を用いて再読み取り信号を復調した後にスペクトラム検出器6にかけて周波数ジター解析(スペクトラム解析)を行うことは容易に採用し得たところである。」と判断した。原告は、審決の上記判断を誤りと主張する。
(2)甲第4号証によれば、第1刊行物には、「スペクトラム検出回路6は、前記記録信号発生回路5にて発生した浮上量検査用の書込みデータをリードライト回路4が読出し、この再生信号の周波数解析結果を監視することによってヘッドが磁気ディスクと接触/非接触を検出するものである。前記再生データ信号の周波数解析結果は、非接触時に図8の(a)の如く、基本波スペクトラム出力だけが検出されるのに対し、接触時は支持ばねが円周方向に揺さぶられるため、図8(b)の如く基本波スペクトラム に加えて 支持 バネ の曲げ方向振動 のサイドバンドスペクトラム が発生する 現象 を利用 したものである 。」 (0010)(下線付加)と記載され、記録再生信号のスペクトラム波形を示す図8(a)(非接触時)及び図8(b)(接触時)が示されていることが認められる。刊行物1にはこれら以外にサイドバンドスペクトラムの監視により周波数ジターを検出する具体的方法についての説明はない。
ところで、FM変調された搬送波信号のスペクトラムは搬送周波数の両サイドに広範囲に亘るサイドバンドを有するものであるところから、第1刊行物の図8(a)(b)のスペクトラム形状から、第1刊行物の読出信号は、周期的な基本波をFM変調した信号であると推測し得ないでもなく、被告もこの旨の主張をする。しかし、刊行物1には、上記のとおり、接触時に「図8(b)の如く基本波スペクトラムに加えて指示ばねの曲げ方向振動のサイドバンドスペクトラムが発生する」ということが記載されているのみであって、図8(b)のスペクトラム解析結果をもたらす信号、すなわちスペクトラム検出回路6への入力信号が「FM変調したもの」である旨の記載は存在しない。仮に、スペクトラム検出回路への入力信号が被告の主張するようにFM変調した信号であるとしても、刊行物1にはFM復調する必然性を示す記載はないから、FM変調した信号の存在から直ちにFM復調が示唆されるものでもない。
さらに、上記のとおり、第1刊行物に「スペクトラム検出回路6は、・・・この再生信号の周波数解析結果を監視する。」、「前記再生データ信号の周波数解析結果は、・・・接触時に図8(b)の如く基本波に加えて支持バネの曲げ方向振動のサイドバンドスペクトラムが発生する現象を利用したものである。」と記載されているように、第1刊行物記載の発明においてスペクトラム検出回路6が監視する「周波数解析結果」は、接触時に「サイドバンドスペクトラムが発生する現象を利用する」もの、すなわち、接触時にスペクトル分析をしたときには図8(b)のようなサイドバンドスペクトラムとして検出される信号に依存するものであって、これをFM復調した後の信号のバンドスペクトラムに依存するものではない。しかも、第1刊行物は、周波数解析に「・・・サイドバンドスペクトラムが発生する現象を利用する」旨記載するだけで、その具体的利用形態は不明であるから、FM復調した後のバンドスペクトラムに依存する周波数解析結果が、スペクトラム検出回路への入力信号の周波数解析結果と類似し、両者を同じ監視対象とすることができると認めるに足りる根拠もない(後記のとおり、刊行物3はFM復調した後にスペクトル検出するものではないから、上記根拠となり得るものではない。)。
以上のとおり、第1刊行物には、「FM復調」を示唆するものがなく、FM復調を用いて周波数ジター(ヘッドとディスクの接触)を検出するという技術的思想は存在しないというべきである。
(3)次に、第3刊行物について検討する。
ア 甲第6号証によれば、第3刊行物(特開平6-37654号公報)に次の記載が認められる。 @「【目的】受信信号の変調型式識別を検波回路を持つことなく、スペクトルの特徴を抽出して識別できるようにする。」(1頁【要約】) A「【従来の技術】従来の変調型式識別装置は、図3に示すように、空中線100で受信した高周波信号を第1局部発信機104とミキサー102とで第1中間周波数を作り、さらに第2局部発振機105とミキサー103とで、第2中間周波数を作る。この第2中間周波数を帯域ろ過フィルタ106で高周波を除去した後AM検波器107とFM検波器108を並列に配置し、比較器109で検波電圧の大小を比較し、出力結果110を得る。…AM変調波の場合、AM検波器107の出力電圧が大きく、FM変調波の場合、
FM検波器108の出力電圧が大きくなる。」(0002) B「【実施例】次に、本発明の実施例について…説明する。図1に示すように、
空中線100で高周波信号を受信し、第1局部発信器104、第2局部発信器105、ミキサー102および103により、中間周波数を発生し、帯域ろ過フィルタ106により不要波を除去する。以上までは、従来の構成と同様である。」(0008、0010) C「本発明の実施例に係る変調型式識別装置は、更に、相互に接続された高速フーリエ変換器(以下、F.F.Tと呼ぶ)1、一時記憶メモリ2及び信号処理器3とを備えている。F.F.T1は、信号処理器3から制御されたタイミングで、入力信号のスペクトル分解を行う。分解結果は、一時記憶メモリ108に蓄えられる。この動作を信号処理器3の指示によりn回(ただし、nは自然数)くり返し行う。この信号処理器3内部では、n回の分解結果の和平均を取り、変調型式ごとの特長を抽出する。図2に示すように、この特長は、FMの場合は長方形、AM(DSB)の場合は2つの三角形と搬送波である。」(0011) イ 上記記載によれば、第3刊行物には、@空中線100で受信した無線高周波信号の変調型式(AM変調かFM変調か)を識別することを目的とし、A無線高周波信号から第1中間周波数を経て第2中間周波数を作り(第1、第2局部発信器104、105及びミキサー102、103)、この第2中間周波数から不要波を除去した後(帯域ろ波フィルタ106)、並列に配置したAM検波器107とFM検波器108とにそれぞれ供給し、各検波器の検波電圧の大小を比較器109で比較し、大小の比較結果により識別をしていた従来の構成に代えて、B第2中間周波数から不要波を除去した後(帯域ろ波フィルタ106)、高速フーリエ変換器(F.F.T)1等に供給してスペクトル分解をし、その結果(スペクトルの特徴)により識別をする構成が記載されている。
ところで、第3刊行物に記載された従来例(図3)において、局部発信器102、103及び帯域ろ過フィルタ106から成る回路は、不要波が除去された第2中間周波数を作る回路であり、検波回路ではないことが認められる(検波回路は、AM検波器107、FM検波器108である。)。そうすると、実施例(図1)においても、高速フーリエ変換器1の前段に接続される局部発信器102、103及び帯域ろ過フィルタ106から成る回路は、同じく検波回路ではないことが明らかである。
ウ したがって、第3刊行物には、審決が認定したような「検波回路で検波した後、高速フーリエ変換回路でフーリエ変換して変調形式を識別する発明」(審決4頁(審決の理由「2、刊行物発明」)や「受信信号を復調した後にスペクトラム解析を行うこと・・・前段に復調器として周知のFM復調器を用いて再読み取り信号を復調した後にスペクトラム検出器6にかけて周波数ジター解析(スペクトラム解析)を行うこと」(審決7頁(審決の理由4、の「第3相違点に対して」))は記載されていないといわざるを得ない。
(4)以上のとおり、第1刊行物には、接触/非接触の検出のためにFM復調をすることについて全く示唆されておらず(前記(2))、しかも、第3刊行物には、読出信号をFM復調した信号を高速フーリエ変換器に供給してスペクトル分解することは記載されていない(前記(3))のであるから、「ディスクとヘッドの接触非接触をスペクトラム分析をする第1刊行物記載発明においても、第3刊行物記載発明のように、前段に復調器として周知のFM復調器を用いて再読み取り信号を復調した後にスペクトラム検出器6にかけて周波数ジター解析(スペクトラム解析)を行う事は容易に採用し得たところである。」とした審決の判断は誤りである。
(5)被告は、第1刊行物のリードライト回路からの出力は、ディジタル信号列であり、波としての信号ではないため、これを直接スペクトラム検出回路6に入力しても、第8図に示されるようなスペクトル波形を検出することはできず、第1刊行物のスペクトラム検出回路6がデジタル信号を波の信号として認識する手段(前処理手段)と波の信号のスペクトラム検出手段とからなるものであることは明らかであり、このスペクトラム検出の対象となる入力信号がFM変調を受けた信号である場合に、前処理として、まず、入力信号をFM復調して元の波を取り出すことは技術常識からも容易に想定し得ると主張する。しかし、この主張を採用し得ないことは既に説示したところから明らかである。特に、第1刊行物のリードライト回路からの出力(読出信号)が波の信号ではないとの主張については、これを認めるに足りる根拠を見いだすことができず、また、「前処理」が第1刊行物において波の信号として認識する手段であると特定し得る根拠もない。
また、被告は、本願発明は、FM復調器として従来の復調器か何人も購入可能な実験室的器具を用いるものであるから、本願発明の進歩性を判断する上でFM復調器及び波形解析の点には何ら技術的特徴がないと主張する。しかし、FM復調器自体が周知であるからといって、FM復調器を使用する本願発明の構成に想到することが容易であるということはできない。
被告の上記主張はいずれも採用することができない。
3 結論 以上1、2に説示したとおり、審決が本願発明と第1刊行物記載の発明との相違点についてした認定・判断のうち、少なくとも第1相違点及び第3相違点についてした認定・判断は誤りである。そして、これらの認定・判断の誤りが、本願発明は第1、第2、第3刊行物に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかであるから、審決は、取消しを免れない。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実