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事件 |
平成
14年
(ワ)
5092号
特許権侵害差止等請求事件
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原告A 訴訟代理人弁護士 小岩井雅行 同 桜木秀樹 補佐人弁理士 井上元廣 被告 株式会社リース・東京 訴訟代理人弁護士 赤井文彌 同 船崎隆夫 同 宮崎万壽夫 同 岡崎秀也 同 相澤重一 同 奈良恒則 同 山本裕子 同 矢野公士 同 藤川和之 補佐人弁理士 鈴江武彦 同 河野哲 同 野河信久 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2002/12/12 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
1 被告は,別紙物件目録記載の製品を使用し,譲渡し,貸し渡し,リースし,又は譲渡,リース若しくは貸渡しの申出をしてはならない。 2 被告は,その占有に係る別紙物件目録記載の製品を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,5000万円及びこれに対する平成14年3月19日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は被告の負担とする。 5 仮執行宣言 |
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事案の概要
本件は,カードシステム管理装置の特許権を有する原告が,別紙物件目録記載の製品は上記特許権に係る発明の技術的範囲に属しており,被告が同製品をリースする行為は同特許権を侵害すると主張して,同製品の使用,譲渡,リース等の差止め及び損害賠償を求めている事案である。 1 争いのない事実 (1) 原告は,下記の特許権を有している(以下,この特許権を「本件特許権」といい,本判決末尾添付の本件特許権に係る特許公報〔甲1〕を「本件公報」という。)。 特許番号 第2591689号 発明の名称 カードシステム管理装置 出 願 日 平成2年(1990)11月29日 登 録 日 平成8年(1996)12月19日 (2) 本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。本件公報参照。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,上記請求項1を単に「請求項1」といい,同項記載に係る発明を「本件特許発明」という。)。 「電力供給を受けて動作可能となる1以上の機器に対してそれぞれ電力を供給する1以上の電源ラインに設けられて使用されるカードシステム管理装置であって, 読出命令に従い,書き換え可能なカードに記憶された残度数を残度数記憶手段に読み取ると共に,書込指令に従い,残度数記憶手段に記憶されている残度数をカードに書き込むカード読取・書込手段, 所定のタイミングで,カード読取・書込手段に読出指令を出力する読出指令手段, 所定のタイミングで,カード読取・書込手段に書込指令を出力する書込指令手段, 前記1以上の機器の電源ラインにおける負荷電流もしくは負荷電圧が判定基準値以下であるか否かを判別し,この判別動作を所定時間間隔で繰り返して,少なくとも負荷電流もしくは負荷電圧が所定回数以上続けて判定基準値以下である場合に,当該機器が動作停止中であると判断する機器動作検出手段, 機器動作検出手段によって検出された各機器の動作の有無と,各機器ごとの度数減算係数とに基づいて合計度数減算係数を算出する係数演算手段, 計時動作を行う計時手段, 合計度数減算係数および計時手段の計時出力に基づいて,残度数記憶手段に記憶されている残度数を更新する残度数更新手段, を備えたことを特徴とするカードシステム管理装置。」 (3) 本件特許発明の構成要件を分説すれば,下記AないしIのとおりである(以下,分説した各構成要件を,その記号に従い「構成要件A」などという。)。 A 電力供給を受けて動作可能となる1以上の機器に対してそれぞれ電力を供給する1以上の電源ラインに設けられて使用されるカードシステム管理装置であって, B 読出命令に従い,書き換え可能なカードに記憶された残度数を残度数記憶手段に読み取ると共に,書込指令に従い,残度数記憶手段に記憶されている残度数をカードに書き込むカード読取・書込手段, C 所定のタイミングで,カード読取・書込手段に読出指令を出力する読出指令手段, D 所定のタイミングで,カード読取・書込手段に書込指令を出力する書込指令手段, E 前記1以上の機器の電源ラインにおける負荷電流もしくは負荷電圧が判定基準値以下であるか否かを判別し,この判別動作を所定時間間隔で繰り返して,少なくとも負荷電流もしくは負荷電圧が所定回数以上続けて判定基準値以下である場合に,当該機器が動作停止中であると判断する機器動作検出手段, F 機器動作検出手段によって検出された各機器の動作の有無と,各機器ごとの度数減算係数とに基づいて合計度数減算係数を算出する係数演算手段, G 計時動作を行う計時手段, H 合計度数減算係数および計時手段の計時出力に基づいて,残度数記憶手段に記憶されている残度数を更新する残度数更新手段, I を備えたことを特徴とするカードシステム管理装置。 (4) 被告は,別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を,遅くとも平成10年4月ころから,日本大学医学部付属板橋病院に対してリースしている。 (5) 被告製品は,別紙被告製品説明目録記載のとおりの構成を有している。 (6) 被告製品は,本件特許発明の構成要件AないしD,G及びIをいずれも充足する。 2 争点 (1) 被告製品が,負荷電流ないし負荷電圧が判定基準値以下であるか否かの「判別動作を所定時間間隔で繰り返して」(構成要件E)いるものと認められるか(争点1)。 (2) 被告製品は,後記のとおり,接続する機器が1台であることを前提にした構成を有するところ,本件特許発明の技術的範囲には,このような製品も含まれるか(争点2)。 すなわち,このような製品が,「各機器の動作の有無と,各機器ごとの度数減算係数とに基づいて合計度数減算係数を算出する係数演算手段」(構成要件F)を備えているといえるか。また,このようにして算出された「合計度数減算係数および計時手段の計時出力に基づいて,残度数記憶手段に記憶されている残度数を更新する残度数更新手段」(構成要件H)を備えているといえるか。 (3) 原告の損害額(争点3) |
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争点に関する当事者の主張
1 争点1について (原告の主張) ア 本件特許発明は,カードシステム管理装置において,接続した機器の動作の有無を検出する,その精度の向上を目的とするものである。負荷電流ないし負荷電圧が判定基準値以下であるか否かの判別動作を所定時間間隔で繰り返すことが,発明の構成要件として要求されているのは,電気機器に生じる雑音等の影響により,実際は停止していないのに停止していると誤って判定する(本件公報の図12参照)ことを防ぐためにほかならない。したがって,本件特許発明において重要なのは,基準値以下であるかを複数回測定することであり,「判別動作を所定時間繰り返して」(構成要件E)とは,予め定められた判断方法に規定された時間内に,判別動作を複数回繰り返すことを意味するものにすぎない。 被告製品は,別紙被告製品説明目録記載のとおりの構成であるところ,負荷電流検出回路からの負荷電流が変換されたデジタル値が,判定基準値以上の状態から判定基準値より小さい状態に変化した場合,略一定期間,判定タイマーを動作させ,その動作期間内に,小さな変動はあるが概ね一定の時間間隔(t1)で判定基準値より小さいか否か比較し,常に判定基準値より小さい場合に,接続機器が動作停止中であると判断している。したがって,同製品は,予め定められた判断方法により,負荷電流値が基準値であるか否かを複数回測定し,その結果に基づいて接続機器が停止しているか否かを判断するものにほかならず,「判別動作を所定時間繰り返して」いるから,構成要件Eを充足する。 イ 被告は,被告製品においては,判定タイマーが動作中か否かにかかわらず,テレビ視聴及び電話課金による度数減算処理が入ると,第2の不規則時間間隔(t2)で比較を行うから,判別動作の時間間隔が変動することがあり,「所定」の時間間隔で判別動作を行っているとはいえないと主張する(後記(被告の主張)ア)。 しかしながら,判別動作の時間間隔が変動していようがいまいが,接続機器の動作の有無に関する誤判断を回避するという目的との関連性はなく,かかる変動に技術的意味があるとは考えられない。上記アで述べたとおり,本件特許発明の本質は,上記誤判断を避けるため,負荷電流が基準値以下であるかを複数回測定することにあり,構成要件Eの「判別動作を所定時間繰り返」すとは,予め定められた判断方法に規定された時間内に,複数回判別動作を繰り返すことを意味するものにすぎず,必ずしも,判別動作の時間間隔が一定に定まっていることを意味するものではない。したがって,被告の上記主張は失当というべきである。 ウ また,被告は,被告製品においては,負荷電流値が基準値以上から基準値より小さい状態に変化したことを検出した場合に,判定タイマーを作動させ,そこで初めて負荷電流値が判定基準値より小さいか否かの判別動作を開始するから,カードシステム管理装置が機器管理を実行している間中,判別動作を所定時間間隔で繰り返しているとはいえないと主張する(後記(被告の主張)イ)。 しかしながら,既に述べたとおり,本件特許発明の本質は,接続機器の動作の有無に関する誤判定を避けるため,負荷電流が基準値以下であるか否かの判別を複数回繰り返すことにあるところ,被告製品においても,負荷電流値が判定基準値以上の状態から判定基準値より小さい状態に変化したことをとらえて,すなわち,1回の測定のみで接続機器が停止していると判断するわけではなく,ある時間間隔で,負荷電流値が判定基準値より小さいか否かを監視し,判断基準値より小さくなった場合,時間間隔を変えて判断基準値より小さいか否か複数回測定し,常に小さい場合に接続機器が停止中と判断している(別紙被告製品説明目録参照)。したがって,同製品が,負荷電流値が判定基準値より小さいか否かの判別動作を複数回繰り返していることに変わりはなく,被告の上記主張にかかる点は,構成要件の充足性に影響を与えないというべきである。 エ さらに,被告は,本件特許発明は,負荷電流値が判定基準値以下であるか否かを判断するものであるのに対し,被告製品は,判定基準値より小さいか否かを判断するものであり,検出された値が判定基準値と等しい場合には明確な差異が生じると主張する(後記(被告の主張)ウ)。 しかし,上記主張は,技術的に全く意味をなさない。被告製品のようなカードシステム管理装置においては,接続機器が動作していない状態であっても,一定の負荷電流(ないし負荷電圧)が常にかかっているが,何らかの要因で予期しない変動が生じるから,その値は,数学的意味における一定値をとるわけではない。 だからこそ,接続機器が動作中であるか否かを判断するのに,ある程度幅を持たせて判定基準値を設定しているのであり,実際の負荷電流(ないし負荷電圧)の値が,数学的に正確に判定基準値に一致するかどうかということに,技術的な意味はない。そもそも,本件特許発明は,1回の測定では信頼性が低いことから,複数回の測定を発明の要件としたものであり,そのことに照らしても,測定値が数学的に判定基準値に一致しているか否かが,検出の精度にほとんど影響を与えないことは明らかである。したがって,被告製品のように,「判定基準値以下であるか否か」(構成要件E)ではなく,判定基準値より小さいか否かを測定するものであっても,構成要件Eを充足するというべきである。 (被告の主張) ア 本件特許発明においては,判別動作を所定時間間隔で繰り返し,少なくとも負荷電流もしくは負荷電圧が所定回数以上続けて判定基準値以下である場合に,機器が動作停止中であると判断する機器動作検出手段(構成要件E)を具備する必要がある。ここで,「所定」とは予め定まっていることを意味するから,「所定時間間隔で繰り返」(同)すとは,予め定まった一定の時間間隔で繰り返すことを意味するものと解される。 しかるに,被告製品においては,負荷電流値が基準値以上から基準値より小さい状態に変化した場合に,略一定の期間,判定タイマーを動作させ,その動作期間内に,概ね所定時間間隔(t1)で負荷電流値が判定基準値より小さいか否かを比較し,常に判定基準値より小さい場合に,接続機器が動作停止中であると最終的に判断する。この判断後は判定タイマーを使用せずに第1の不規則時間間隔(t1)で判定基準値より小さいか否かを比較し,判定基準値より小さい場合に,接続機器が動作停止中であるとその都度判断する。さらに,判定タイマーが動作中でも,あるいは停止中でも,テレビ視聴や電話課金による度数減算処理が入ると,第2の不規則時間間隔(t2)で比較を行う。 以上から分かるとおり,被告製品においては,判別動作の時間間隔が上記t1とt2で変動することがあるから,「所定」の時間間隔で判別動作を行っているとはいえず,構成要件Eを充足しない。 イ また,本件明細書における,「この発明は‥‥‥一つの装置によって複数の機器を管理することができ,さらに接続された機器の動作の有無を正確に判断することのできるカードシステム管理装置を提供することを目的とする。」(本件公報2頁右欄28行以下),「機器動作検出手段は複数の機器の動作の有無を検出し,係数演算手段は機器動作検出手段によって検出された各機器の動作の有無と,各機器ごとの度数減算係数とに基づいて合計度数減算係数を演算する。」(同3頁左欄29行以下),及び,「請求項1のカードシステム管理装置においては,機器動作検出手段は複数の機器の動作の有無を検出し,係数演算手段は機器動作検出手段によって検出された各機器の動作の有無と,各機器ごとの度数減算係数とに基づいて合計度数減算係数を演算する。」(同6頁右欄11行以下)との各記載に照らせば,「判別動作を所定時間間隔で繰り返」すとは,カードシステム管理装置が機器管理を実行している間中,判別動作を所定時間間隔で繰り返すことを前提にしているというべきである。 しかるに,被告製品は,負荷電流値が基準値以上から基準値より小さい状態に変化した場合に,判定タイマーを作動させ,そこで初めて負荷電流値が判定基準値より小さいか否か判別動作を開始するものであるから,カードシステム管理装置が機器管理を実行している間中,判別動作を所定時間間隔で繰り返しているものではない。 よって,同製品は構成要件Eを充足しない。 ウ さらにいえば,本件特許発明は,負荷電流値が判定基準値以下であるか否かを判断するものであるのに対し,被告製品は,判定基準値より小さいか否かを判断するものである。このため,検出された値が判定基準値と等しい場合には,本件特許発明においては動作停止中と判断されるのに対し,被告製品においては動作中と判断されることになり,明確な差異が生じる。 この点からも,被告製品が構成要件Eを充足しないことは明らかである。 エ ところで,原告は,被告からの上記ア〜ウの指摘に対し,本件特許発明において重要なのは,負荷電流値が基準値以下であるかを複数回測定することにあるとし,それを前提に,被告製品においても,負荷電流値(デジタル値)が基準値以下であるかを複数回測定し,接続機器が停止しているか否かを最終的に判断しているから,同製品は構成要件Eを充足すると解することができる旨主張している(上記(原告の主張)イ〜エ)。 しかしながら,特許請求の範囲の記載は,あくまで,「前記1以上の機器の電源ラインにおける負荷電流もしくは負荷電圧が判定基準値以下であるか否かを判別し,この判別動作を所定時間間隔で繰り返して,少なくとも負荷電流もしくは負荷電圧が所定回数以上続けて判定基準値以下である場合に,当該機器が動作停止中であると判断する機器動作検出手段」(構成要件E)というものである。かかる記載からすれば,判別動作は所定時間間隔で繰り返す必要があり,かつ,機器が動作停止中であると判断するためには,負荷電流ないし負荷電圧が所定回数以上続けて判定基準値以下でなくてはならないことは明らかである。 そうであるにもかかわらず,原告は上記のように主張しており,かかる主張は,上記特許請求の範囲の文言から離れて,負荷電流値が基準値以下であるか否かを複数回測定し,もって機器が動作中か否かを判断する機器動作検出手段を備えていれば,広く構成要件Eを充足すると解するものにほかならない。このような特許請求の範囲の拡大解釈は,許されるべきではない。 2 争点2について (原告の主張) ア 被告製品においては,CPUが接続機器は動作中であると判断した場合,内蔵されたタイマーで時間を計測し,1分間に1度数の割合でRAMに記憶された残度数より減算する一方で,接続機器が動作していないと判断した場合には,度数減算を行わない(別紙被告製品説明目録参照)。 したがって,上記CPUは「係数演算手段」に該当するとともに,「残度数更新手段」にも該当するものであり,被告製品は構成要件F及びHをいずれも充足する。 イ なお,被告は,被告製品が1台の機器の接続を予定した構成を有することから,1台のみの機器が接続されている場合には,合計度数減算係数の算出が行われないから,同製品は,「合計度数減算係数を算出する係数演算手段」(構成要件F)も,また,「合計度数減算係数および計時手段の計時出力に基づいて,‥‥‥残度数を更新する残度数更新手段」(同H)も具備しない旨主張する。 しかし,「電力供給を受けて動作可能となる1以上の機器に対してそれぞれ電力を供給する1以上の電源ラインに設けられて使用されるカードシステム管理装置であって,」という構成要件Aの文言から明らかなとおり,本件特許発明は,接続される機器が1台の場合も当然に予定している。 そもそも,本件特許発明の技術的特徴は,従来のカードシステム管理装置に構成要件Eの機器動作検出手段を組み合わせることにより,カード料金引き落としの正確を期した点にある。2台以上の機器を接続する場合に,各機器ごとの度数減算係数に基づいて合計度数減算係数を算出すること(構成要件F)は,発明の構成要件ではあるが,かかる計算は,各機器ごとの使用度数を足し算すればそれで済むことであって,当業者にとって周知慣用の手段にすぎない。したがって,接続機器が1台であるか,2台以上であるかは技術的に重要でないというべきであるから,本件特許発明の技術的範囲から,被告製品のように機器1台のみの接続を予定した構成のカードシステム管理装置を除外すべき根拠は存在しない。 ウ 被告製品のように1台しか機器を接続できないカードシステム管理装置の場合,機器が動作中の場合は度数1が,停止中の場合は度数0が対応するだけであるから,確かに,CPUにおいて演算がされることはない。しかし,本件明細書における「合計度数減算係数Mは,第11図のようなテーブルをRAM64に用意しておいて求めてもよいが」(本件公報4頁右欄43行以下)との記載からわかるとおり,コンピュータープログラムのようなソフトウェアにおいては,結果が分かっている計算の場合,予め計算しておいた結果をソフトウェアに記載しておき,それを用いることも演算手段と呼ぶ。また,コンピューターにおいては,接続機器が動作中であるか停止中であるかという状態を意味のある単位に変換する必要があり,構成要件Fの「係数演算手段」は,まさしく,構成要件Eの「機器動作検出手段」が検出した,接続機器が動作中であるか停止中であるかという情報を,度数という別の単位に変換するために設けられた手段である。このように,ある情報をコンピューターに理解できる形に変換することも,一種の演算手段に該当するというべきである。 以上によれば,被告製品のCPUが,接続機器は動作中であると判断した場合に一定の度数1を使用し,動作していないと判断した場合に度数減算を行わないこと自体が,1×1又は1×0の演算を行っていることと等価ということができる。この場合,1又は0が「合計度数減算係数」に該当し,前記のとおり,CPUが「係数演算手段」及び「残度数更新手段」に該当するから,被告製品は構成要件F及びHをいずれも充足する。 (被告の主張) ア 被告製品は,原告も認めるとおり,1台の機器の接続しか予定しておらず,機器が動作中であるか停止中であるかを検出した上,動作中であるならば,CPUの記憶部にある課金率を取り出して度数を減算するだけであり,係数に基づく演算は何ら行っていない。したがって,「合計度数減算係数を算出する係数演算手段」(構成要件F)も,また,「合計度数減算係数および計時手段の計時出力に基づいて,‥‥‥残度数を更新する残度数更新手段」(同H)も,具備していない。 原告は,本件特許発明にかかるカードシステム管理装置は,接続機器が1台の場合も当然に予定していると主張する(上記(原告の主張)イ)が,そのこと自体に異論はない。問題は,複数の機器が接続された場合に,その係数演算を行える構成が被告製品に備わっているか,また,接続された機器が1台の場合にも,係数演算を行っているかである。被告は,上記のとおり,被告製品が1台の機器の接続のみを想定した構成であることから,複数の機器に対応可能な係数演算手段を備えておらず,また,1台の機器を接続している場合に,構成要件が要求するような係数演算は行われていないと主張しているのである。 イ 原告は,本件特許発明の技術的特徴は,従来のカードシステム管理装置に構成要件Eの機器動作検出手段を組み合わせることにより,カード料金引き落としの正確を期した点にあり,2台以上の機器を接続する場合に,各機器ごとの度数減算係数に基づいて合計度数減算係数を算出すること(構成要件F)は,本件特許発明の本質的な構成要件ではないとした上(上記(原告の主張)イ),被告製品のCPUが,接続機器は動作中であると判断した場合に一定の度数1を使用し,動作していないと判断した場合に度数減算を行わないこと自体が,1×1又は1×0の演算を行っていることと等価であり,1又は0が「合計度数減算係数」に該当するから,CPUが「係数演算手段」及び「残度数更新手段」に該当すると主張している(同ウ)。 しかしながら,本件特許発明は,従来のシステムにおいては,機器ごとに専用のカードシステム管理装置及び専用のカードが必要であったことにかんがみ,1つの装置によって複数の機器の管理を可能にするカードシステム管理装置を提供することを目的とするものであるから(本件公報2頁右欄9行目以下,14行目以下及び28行目以下),「各機器の動作の有無と,各機器ごとの度数減算係数とに基づいて合計度数減算係数を算出する係数演算手段」(構成要件F)を備えることは,本件特許発明の本質的な構成要件というべきである。したがって,本件特許発明を実施したカードシステム管理装置においては,1台の機器が接続されている場合はもちろんのこと,複数の機器が接続されている場合に合計度数減算係数の算出がされなければならない。しかるに,被告製品においては,1台の機器の接続しか予定していないので,複数の機器が接続された場合に,各機器の動作の有無と各機器ごとの度数減算係数とに基づいて合計度数減算係数を算出する必要が無く,そのための構成も設けられていない。よって,同製品が構成要件F及びHを充足しないことは明らかである。 原告の上記主張は,1台の機器のみが接続されている場合に合計度数減算係数を算出できればそれで足りるとして,複数の機器に対応できない被告製品のような構成のものも特許請求の範囲に入るように,構成要件Fを拡大解釈するものである。このような主張は許されるべきではない。 ウ また,原告は,本件明細書における「合計度数減算係数Mは,第11図のようなテーブルをRAM64に用意しておいて求めてもよいが」(本件公報4頁右欄43行以下)との記載を根拠に,コンピュータープログラムのようなソフトウェアにおいては,予め計算しておいて結果だけを使用する場合も演算手段と呼ぶとした上(上記(原告の主張)ウ),被告製品は構成要件F及びHを充足すると主張している。 たしかに,本件明細書には,第11図のようなテーブルをRAM上に用意して合計度数減算係数を求めてもよい旨の記載があるが,合計度数減算係数を演算で算出して求めることと,予め記憶させたテーブルから呼び出して求めることは,異なるものである。特許請求の範囲には,「合計度数減算係数を算出する係数演算手段」(構成要件F)と記載されており,かかる文言に照らせば,構成要件Fには,例えば,本件公報4頁右欄46行に記載された演算式により合計度数減算係数を演算で算出することのみが含まれると解釈するのが自然である。合計度数減算係数を予め記憶されたテーブルから求めることも,構成要件Fに含まれるとする原告の主張は,特許請求の範囲の記載を拡大解釈するもので,失当というべきである。 なお,仮に第11図のようなテーブルをRAM上に用意して合計度数減算係数を求めることが構成要件Fに含まれるとしても,同図のテーブルも複数の接続機器を管理することを予定しているから,1台の機器しか接続できない被告製品が,構成要件Fを充足しないことには変わりない。 3 争点3について (原告の主張) 被告は,平成9年12月ころから,日本大学医学部付属板橋病院に対し,800台の被告製品をリースしているが,原告が代表取締役を務め,かつ100%の株式を所有する訴外株式会社アメニコが上記リースを行ったならば,1か月につき約430万円の粗利益を得ることができる。したがって,原告は,被告の上記リース行為により,平成14年3月12日までに総額約2億円の利益を喪失したものである。 よって,原告は,被告に対し,特許法102条1項に基づき上記2億円を損害賠償として請求できるところ,本訴においては,一部請求として,そのうち5000万円を請求する。 (被告の主張) 原告の上記主張は,否認ないし争う。 なお,被告が,日本大学医学部附属板橋病院に対し,被告製品をリースしていることは認めるが,そのリース開始時期は,平成10年4月である。 |
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当裁判所の判断
1 争点1について ア 本件特許発明は,機器の電源ラインにおける負荷電流もしくは負荷電圧が判定基準値以下であるか否かを判別する動作を,所定時間間隔で繰り返し,少なくとも負荷電流もしくは負荷電圧が所定回数以上続けて判定基準値以下である場合に,当該機器が動作停止中であると判断する機器動作検出手段(構成要件E)を,発明を構成する要件とするものである。文理に従って解釈すれば,上記「所定時間間隔」とは,予め定められた一定の時間間隔のことをいい,また,上記「所定回数」とは,予め定められた一定の回数のことをいうものと考えられるが,特許請求の範囲の記載からは,かかる文言の技術的意義は必ずしも一義的に明確ではない。 そこで,本件明細書における発明の詳細な説明の記載を見ると,[発明が解決しようとする課題]の欄には,従来技術によると,温調機器や冷蔵庫のようなオン-オフ制御,比例・積分制御等が行われている機器(負荷変動機器)においては,機器動作中であっても瞬間的に負荷電流が判定基準値を下回ることがあり,このような場合,機器が停止中であると誤判断をするおそれがあったので,同発明は,かかる課題を解決するため,接続された機器の動作の有無を正確に判断できるカードシステム管理装置を提供することを目的とするものである旨の記載がある(本件公報2頁右欄17行〜32行)。 また,[実施例]の欄における上記判別動作を説明した部分の記載をみると,1/256秒の間隔による6回の負荷電流値のサンプリング,及び,CPUによるこの6回の負荷電流値の平均値算出を,1秒間という所定時間間隔ごとに行い,平均値が2回続けてゼロの状態にあり,かつ,6回のサンプリング値(負荷電流値)が一度も上昇しなかった場合にのみ,当該機器を不使用と判断し,それ以外の場合は使用中と判断する実施例が開示されている(同4頁左欄35行〜4頁右欄3行)。そして,かかる判別動作を採用したことにより,冷蔵庫のように負荷電流が連続的に変化する機器についても,負荷電流のサンプリング平均値が一時的にゼロとなっても,次の時点においてはゼロでなくなるので,動作中であると正確に判断することができ,上記課題が具体的に解決できたことが記載されている(同4頁右欄4行目以下)。 そして,それに引き続き,かかる判別動作はあくまで一例であり,接続する機器ごとにその負荷電流の特性に応じた判断基準を用意することが好ましく,オン-オフ制御を行う機器の場合には,サンプリング平均値が所定回数(例えば5回)以上連続してゼロであった場合に停止中であると判断するようにすればよいし,いずれの場合においても,平均値の算出を行わず,1回のサンプリング値をそのまま判断基準としてもよい旨が記載されている(同4頁右欄18行以下)。 イ 以上の記載を併せ読めば,構成要件Eが,「負荷電流もしくは負荷電圧が判定基準値以下であるか否かの判別動作を所定時間間隔で繰り返し,少なくとも負荷電流もしくは負荷電圧が所定回数以上続けて判定基準値以下である場合に,当該機器が動作停止中であると判断する機器動作検出手段」を本件特許発明の必須の要件としているのは,瞬間的に負荷電流値がゼロになることのあり得る負荷変動機器について,実際は動作中であるにもかかわらず,1回の測定でたまたまゼロの値を検出した場合に,停止中であるとの誤った判断をすることを避けるためであり,そのために,1回のサンプリングをもって1回の判別動作とするか,あるいは,複数回のサンプリングの平均値をとってこれを1回の判別動作とするかは別にして,予め定められた判別動作を一定の時間間隔(上記実施例においては1秒間)で繰り返し,1回のみの判別動作で接続機器の動作の有無を判断することなく,判別動作によって検出された値が所定回数(上記実施例においては2回)続けて判定基準値以下である場合に,動作停止中と判断する構成を採用したものと解される。すなわち,本件特許発明は,前記課題の解決のため,具備すべき「機器動作検出手段」において,所定の判別動作を一定の時間間隔で繰り返し,かつ,一定の回数以上判定基準値以下の数値が検出された場合に,接続機器が動作停止中であると判断することを要求しているのであり,本件明細書における特許請求の範囲の文言からしても,また,発明の詳細な説明の記載に照らしても,構成要件Eにいう「所定時間間隔」とは,予め定められた一定の時間間隔のことをいい,また,「所定回数」とは,予め定められた一定の回数のことをいうものと解すべきである。 しかるに,被告製品は,負荷電流値が判定基準値以上の状態から判定基準値より小さい状態に変化した後に,CPUに内蔵されたタイマーを用いて,約817〜826ミリ秒間,第1の不規則時間間隔(t1)により不規則回数判別動作を繰り返し,負荷電流値が上記約817〜826ミリ秒間続けて判定基準値より小さい場合に,接続機器が動作停止中であると判断するものである(別紙被告製品説明目録参照。この点については,当事者間に争いがない。)。すなわち,被告製品は,所定の判別動作を,予め定められた一定の時間間隔で繰り返すものではないし,予め定められた一定の回数以上判定基準値以下の数値が検出された場合に,接続機器が動作停止中であると判断しているものでもない。 そうすると,被告製品は,「判別動作を所定時間間隔で繰り返して,‥‥‥負荷電流が‥‥‥所定回数以上続けて判定基準値である場合に,当該機器が動作停止中であると判断する機器動作検出手段」を備えておらず,構成要件Eを充足しないというべきである。 ウ なお,原告は,本件特許発明において重要なのは,負荷電流値が基準値以下であるかを複数回測定することであるとし,被告製品においても,負荷電流値(デジタル値)が基準値以下であるかを複数回測定し,接続機器が動作しているか否かを最終的に判断しているから,被告製品は構成要件Eを充足する旨を主張する(第3,1(原告の主張)イ〜エ)。 しかしながら,本件特許発明が,負荷変動機器の動作の有無に関する誤判断という課題を解決するための具体的な手段として,所定の判別動作を予め定められた一定の時間間隔で繰り返し,かつ,予め定められた一定の回数以上判定基準値以下の負荷電流値が検出された場合に,初めて動作停止中と判断する構成を採用し,これを特許請求の範囲に開示したと解すべきことは,上記ア,イで述べたとおりである。原告の上記主張は,明細書の記載を離れて特許発明の技術的範囲を主張するものであって,採用することができない。 2 争点2について 前項1記載のとおり,被告製品は構成要件Eを充足するものでなく,この点において,既に本件特許発明の技術的範囲に属するものではないが,念のため争点2についても判断する。 ア 証拠(甲2,乙2等)及び弁論の全趣旨を総合すれば,被告製品は,1台の機器のみの接続を予定したカードシステム管理装置であり,複数の機器を同時に接続して管理することが可能な構成は有していないものと認められる(この点は,原告も争っていない。)。 イ ところで,請求項1には,本件特許発明が,電力供給を受けて動作可能となる1以上の機器に対し,それぞれ電力を供給する1以上の電源ラインに設けられて,使用されるカードシステム管理装置(構成要件A)についてのものであって,かかる管理装置が,それぞれ特許請求の範囲に記載されたとおりの構成を有するカード読取・書込手段(同B),読出指令手段(同C),書込指令手段(同D),機器動作検出手段(同E)及び計時手段(同G)を備えるとともに,機器動作検出手段によって検出された各機器の動作の有無と,各機器ごとの度数減算係数とに基づいて,合計度数減算係数を算出する係数演算手段(同F),及び,合計度数減算係数及び計時手段の計時出力に基づいて,残度数記憶手段に記憶された残度数を更新する残度数更新手段(同H)を備えることが必要である旨が記載されている。 このような請求項1の記載,とりわけ,「1以上の機器」,「1以上の電源ライン」(構成要件A),「各機器の動作の有無と,各機器ごとの度数減算係数とに基づいて合計度数減算係数を算出する」(同F)及び「合計度数減算係数および計時手段の計時出力に基づいて,残度数記憶手段に記憶されている残度数を更新する」(同H)との各文言に照らせば,本件特許発明にかかるカードシステム管理装置は,電源ラインから電力の供給を受けて動作可能となる機器に接続して用いられるものであるところ,接続する機器は原則として複数であることが想定されており,その場合には,機器ごとの度数減算係数等に基づいて合計度数減算係数を算出し,算出された合計度数減算係数等に基づいて残度数を更新するが,1台の機器のみを接続した場合には,上記合計度数減算係数の算出が不要となり,使用した分の度数を減じて残度数を更新するだけであるから,このような場合にも当然対応可能であることを前提に,接続する機器の数を「1以上」と規定したものと解するのが自然である。 ウ また,本件明細書における発明の詳細な説明の記載も,上記の解釈に沿うものである。 すなわち,本件明細書の発明の詳細な説明においては,従来技術として,テレビに接続するプリペイドカードシステムの管理装置がその構成・作用とともに詳細に紹介された上(本件公報2頁左欄24行以下),[発明が解決しようとする課題]欄において,@従来のシステムでは,使用対象となる機器ごとに専用のカードシステム管理装置が必要になり,システムが高価になるばかりでなく,大きな設置場所を占有していた,A機器ごとに専用のカードを用意しなければならず,カードの保管・管理が困難であった,B前記の負荷変動機器においては,機器使用中であるにもかかわらず,停止中であるとの誤った判断をするおそれがあったとの3つの問題点が指摘され,その上で,「この発明は,上記のような問題点を解決して,一つの装置によって複数の機器を管理することができ,さらに接続された機器の動作の有無を正確に判断することのできるカードシステム管理装置を提供することを目的とする。」と明記されている(同2頁右欄6行以下)。また,[実施例]欄においては,実施例の構成及び作用が詳細に説明された上,「なお,上記実施例においては,カードシステム管理装置1に接続される機器を3台としたが,1台,2台,4台以上等でもよい。」(同6頁左欄42行以下)と,本件特許発明の典型的な実施例においては,複数の機器の同時管理が可能であることが前提にされていると受け取れる記載がされている。 これらの記載に照らせば,本件明細書に開示された本件特許発明は,カードシステム管理装置と接続機器が1対1対応であった従来技術の問題点を明確に意識した上,複数の機器を1台のカードシステム管理装置で同時に管理することを可能にしたものというべきであり,したがって,前記「1以上」の文言は,通常は複数の機器を接続し,同時に管理するものであることを前提に,1台のみの機器を接続した場合には,合計度数減算係数の算出が不要となるから,なおさら当然に管理が可能であるとの趣旨を明らかにしたものにすぎないと解するのが自然である。 エ 以上のとおり,本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載に照らせば,本件特許発明は,複数機器を同時に接続して管理できることを前提にしたカードシステム管理装置に関するものと解されるから,1台の機器のみを接続することを前提にしたカードシステム管理装置は,本件特許発明の技術的範囲に属しないというべきである。 しかるに,被告製品は,前記ア記載のとおり,1台の機器のみを接続する構成を有しており,複数の機器を同時に接続して管理可能なカードシステム管理装置であるとは認められないから,この点においても,被告製品は,本件特許発明の技術的範囲に属するものではない。 オ なお,原告は,本件特許発明の技術的特徴は,従来のカードシステム管理装置に構成要件Eの機器動作検出手段を組み合わせることにより,カード料金引き落としの正確を期した点にあり,複数の機器を同時に接続して管理可能にした点は,本質的な点ではないとした上,被告製品のCPUが接続が機器動作中であると判断した場合に一定の度数1を使用し,動作していないと判断した場合に度数減算を行わないこと自体が,1×1又は1×0の演算を行っていることと等価であるから,1又は0が「合計度数減算係数」に,CPUが「係数演算手段」及び「残度数更新手段」にそれぞれ該当する旨主張する(第3,2(原告の主張)イ,ウ)。 しかしながら,本件明細書には,前記のとおり,従来技術に関して,@使用対象となる機器ごとに専用のカードシステム管理装置が必要になること,A機器ごとに専用のカードを用意しなければならず,カードの保管・管理が困難であったこと,B負荷が変動する機器においては,機器使用中であるにもかかわらず,停止中であるとの誤った判断をするおそれがあったことの3つの問題点が指摘され,その上で,「この発明は,上記のような問題点を解決して,一つの装置によって複数の機器を管理することができ,さらに接続された機器の動作の有無を正確に判断することのできるカードシステム管理装置を提供することを目的とする。」と明記されているものであって(本件公報2頁右欄6行以下),かかる記載に照らせば,本件特許発明が,判別動作の有無の検出に関する精度を向上させること,及び,1つの装置による複数の接続機器の管理を可能にすることの双方を,本質的な特徴とするものであることは明らかである。原告の主張は,採用することができない。 また,原告は,本件明細書における「合計度数減算係数Mは,第11図のようなテーブルをRAM‥‥‥に用意しておいて求めてもよいが」(同4頁右欄43行以下)との記載を根拠に,コンピュータープログラムのようなソフトウェアにおいては,予め計算しておいて結果だけを使用する場合も演算手段と呼ぶなどと主張する(上記(原告の主張)ウ)。 しかし,被告が指摘するとおり,合計度数減算係数Mを演算で算出して求めることと,予め記憶させたテーブルから呼び出して求めることは別のことである上に,上記第11図は,そもそも,複数の機器を接続した場合の合計度数減算係数に関するものである。したがって,本件明細書の[実施例]欄に上記のような記載があるからといって,それが,直ちに,特許請求の範囲における「合計度数減算係数を算出する係数演算手段」(構成要件F)との文言を,1台の機器のみが接続されている場合に,予め計算された「1」又は「0」の計算結果をテーブルから呼び出して使用することをも含むと解釈する根拠となるものではない。原告の上記主張も,採用することができない。 カ 以上のとおり,被告製品は,複数の機器を接続して同時に管理可能とする構成を有しておらず,「各機器の動作の有無と,各機器ごとの度数減算係数とに基づいて合計度数減算係数を算出する係数演算手段」(構成要件F),及び,「合計度数減算係数及び計時手段の計時出力に基づいて,‥‥‥残度数を更新する残度数更新手段」(同H)を,いずれも具備していない。 |
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結論
前記第4で認定したとおり,被告製品は,構成要件E,F及びHをいずれも充足しないから,本件特許発明の技術的範囲に属するものではなく,原告の本訴請求に理由がないことは明らかである。 よって,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
(別紙)物件目録株式会社ケイティーエス(大分県速見郡(以下略))が製造・販売する製品名「PCS-2200」と称するカードシステム管理装置。 (別紙)被告製品説明目録(図面の簡単な説明)図1は,上記「PCS-2200」の構成概念図。 図2は,図1に負荷電流検出回路2として示した回路の詳細回路図。 (構成の説明)1「PCS-2200」には,100V出力端子(図2のB)が1個設けられており,この100V出力端子(図2のB)には,テレビ等の電力供給を受けて動作可能となる1台の機器(以下「接続機器」という。)が接続可能である。 2さらに,「PCS-2200」には,100Vの交流電源と接続可能な100V入力端子(図2のA)が設けられており,この100V入力端子より供給を受けた100Vの交流電源は,100V出力端子(図2のB)に100Vの交流電源を供給する。 3「PCS-2200」においては,カードリードライト装置4がカード制御回路3を介してCPU1に接続されており,CPU1からのリード信号により,カードリードライト装置4に挿入された磁気カードに記憶された度数をRAMに読み込む(なお,「PCS-2200」においては,CPU1にRAMを内蔵している。)。 さらに,「PCS-2200」においては,CPU1からのライト信号により,カードリードライト装置4に挿入された磁気カードに,RAMに記憶されている残度数を書き込む。 4CPU1は,100V出力端子(図2のB)と,負荷電流検出回路2を介して接続されており,負荷電流検出回路2からの負荷電流がCPU1でデジタル値に変換され,前記デジタル値が判定基準値以上の状態から判定基準値より小さい状態に変化した後には,この比較動作をCPU1に内蔵されたタイマーを用いて約817〜826ミリ秒間,第1の不規則時間間隔(t1)により不規則回数繰り返して,前記デジタル値が約817〜826ミリ秒間続けて判定基準値より小さい場合に接続機器が動作停止中であると判断し,かつ,この判断の後は,前記デジタル値が判定基準値以上になるまでの不定期期間の間,第2の不規則時間間隔(t2)で前記動作を繰り返して,前記デジタル値が判定基準値より小さい場合に,接続機器が停止中であるとその都度判断する。 5CPU1が,接続機器が動作中であると判断した場合,CPU1に内蔵されたタイマーにより時間を計測し,1分間に1度数の割合でRAMに記憶された残度数より減算し,接続機器が動作していないと判断した場合には,度数減算を行わない。 図1図2 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 村越啓悦 |
裁判官 | 青木孝之 |