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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成15ネ2376特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成13ネ3453特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成14ネ4193特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成13ネ6457特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成12ネ159特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 物の発明 /  方法の発明 /  製造方法 /  公知技術 /  技術的範囲 /  参酌 /  同一の作用効果 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (ネ) 180号 損害賠償請求控訴事件
控訴人 A
訴訟代理人弁護士 大井暁
補佐人弁理士 丹羽宏之
同 野口忠夫
被控訴人 株式会社ジャパンエナジー
訴訟代理人弁護士 清永利亮
補佐人弁理士 藤野清也
同 吉見京子
同 藤野清規
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/12/18
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,7920万円及びこれに対する平成13年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じ被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
事案の概要
控訴人は,名称を「透過光と反射光兼用画像板およびその製造方法」とする発明(特許第1365713号)の特許権(以下,特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲1記載の発明を「本件特許発明」といい,その特許権を「本件特許権」という。)を有していた者であり,被控訴人は,その特約店であるガソリンスタンドにおいて「JOMO」の記載のあるサインポールの電飾看板(以下「被控訴人製品」という。)を使用させている。本件は,被控訴人製品が本件特許発明技術的範囲に属し,被控訴人製品の使用が本件特許権を侵害するとして,控訴人が,被控訴人に対し,不法行為による損害賠償を求めている事案である。
原審は,被控訴人製品が本件特許発明技術的範囲に属さず,被控訴人製品の使用が本件特許権を侵害しないとして,控訴人の請求を棄却した。
当事者の主張は,次のとおり訂正,付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 当事者の主張」のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の訂正 原判決8頁10行目の「(乙2の1)」の次に「並びに昭和48年3月30日付け及び同年5月8日付け各手続補正書(乙2の2,3)」を加え,同13頁25行目の「ただし,」の次に「昭和48年5月8日付け手続補正書(乙2の3)による」を加える。
2 控訴人の当審における主張 (1) 本件特許発明技術的範囲の解釈の誤り ア 原判決は,本件特許発明の特許出願時において公知であった乙1〜3考案及び乙4発明を挙げて,本件特許発明技術的範囲を極めて限定的に解釈しているが,明らかな誤りである。
(ア) 乙1考案について 乙1考案は,透過光で見る場合に2倍濃厚な文字又は模様を顕現する技術であるが,反射光で見る画像を同じくらい鮮明に見せる技術ではない。また,乙1考案の構成には,「透明または半透明プラスチツクス,フイルム」が「白色」であることについての開示はない。さらに,乙1考案の構成では,表面の画像と裏面の画像が,「まったく同一」ではなく,互いに左右方向から対称の画像でなければならない。したがって,本件特許発明と乙1考案とは,構成が全く相違する。
(イ) 乙2考案について 乙2考案の二つの画像は,「紙葉或いは合成樹脂シート」を2枚重ねることになるので,透過性はかなり阻害される。また,「紙葉或いは合成樹脂シート」について,「透明」「半透明」又は「白色」であるのかについては,何ら開示がない。さらに,乙2考案では,「紙葉或いは合成樹脂シート」の隠蔽性により色彩を調整する発想はない。したがって,本件特許発明と乙2考案とは,構成が全く相違する。
(ウ) 乙3考案について 乙3考案は,「光を透過させた場合」「光を透過しない場合」のいずれも,本件特許発明でいうところの反射光を想定した技術である。したがって,本件特許発明における「透過光」とは,その意味合いを異にし,乙3考案と本件特許発明とは,技術的範囲を異にするものといわざるを得ない。さらに,乙3考案では,「粗面化した半透明または不透明合成紙」が特に白色に限るものであることについては,何ら指摘がない。加えて,乙3考案は,乙1考案と同様に,表面の印刷図柄と,裏面の印刷図柄とは,互いに左右方向から対称の画像でなければならない。したがって,本件特許発明と乙3考案とは,構成が全く相違する。
(エ) 乙4発明について 乙4発明の「写真乳剤層とリジン層」は,不透明体であるといって差し支えない。このような不透明体を何枚も重ねるのであるから,乙4発明は,透過光による鮮明な画像を見させる技術とはいい難く,本件特許発明とはその特徴を全く異にする。しかも,この「リジン層」を有する印画面が少なくとも2層設けられており,本件特許発明の「半透明白色プラスチツク板」の1層とは明らかに構成上の相違がある。
(オ) 本件特許発明の特徴 本件特許発明は,「透明プラスチック板」「画像」「半透明白色プラスチツク板」「画像」との構成を有している点に特徴がある。これに対し,乙1考案は,「インキ皮膜13」「透明または半透明プラスチックス,フイルム12」「インキ皮膜14」という構成,乙2考案は,「画像」「紙葉或いは合成樹脂シート」「画像」「紙葉或いは合成樹脂シート」という構成,乙3考案は,「プラスチックシート」「印刷図柄」「粗面化した合成紙」「印刷図柄」という構成,乙4発明は,「合成樹脂膜」「写真乳剤層とリジン層」「合成樹脂膜」「写真乳剤層とリジン層」という構成となっている。
本件特許発明における両「画像」は,いずれも同一方向を向いており,本件特許発明の構成上,表面の「画像」と裏面の「画像」とは,全く同一であり,両画像が相違する乙1考案及び乙3考案とは異なっている。また,本件特許発明においては,両画像は,それぞれ異なる種類の「透明プラスチツク板」「半透明白色プラスチツク板」に順次配列されている点において,両画像が同種かつ複数の「紙葉或いは合成樹脂シート」(乙2考案)又は「写真乳剤層とリジン層」(乙4発明)に順次配列される乙2考案及び乙4発明とも全く異なっている。
本件特許発明では,両画像の間に配置されるのは,「半透明白色プラスチツク板」である。これに対し,乙1考案では,「透明または半透明プラスチツクス,フイルム」であり,本件特許発明の本質的特徴である「白色」ではない。乙2考案では,「紙葉或いは合成樹脂シート」であり,「半透明」でも「白色」でもない。乙3考案では,「粗面化した半透明または不透明合成紙」であり,「粗面化」した点において本件特許発明とは全く異なり,「粗面化」により不透明に近く,「白色」でもなく,また,画像が不鮮明になる。乙4発明では,「写真乳剤層とリジン層」であり,不透明である。以上のとおり,本件特許発明は,上記各公知技術とは全く異なる発明である。
イ 上記のとおり,原判決の公知技術に関する判示部分は,何らの根拠を有していないから,結局,原判決の論拠となるのは,本件特許発明の「半透明白色プラスチツク板」が,「半透明で白色であるという光学的な性質を有することに加えて,少なくとも所定の厚みを有し,それ自体単独で存在し得る性状の部材である」との部分に尽きるというべきである。しかし,本件特許発明の特許請求の範囲では,「半透明白色プラスチツク板」の厚さについては,何も限定をしていない。そして,数μm単位の部材が,原判決のいう「所定の厚みを有し,それ自体単独で存在し得る性状の部材」であることは,明白であるところ,被控訴人製品の「(半透明)白色インキ層」の厚みは,原判決の判示するような数μm程度(通常2〜3μm程度を指すと考えられる。)ではなく,被控訴人製品を走査型電子顕微鏡により1000倍に拡大した断面写真(乙5の2)によって認められる約8μmである。
印刷インキは,乾燥後には,プラスチックと顔料となるのであり,これが数μm単位であるからといって,「板」でないということはできない。検甲2は,厚さ350μmの「半透明白色プラスチツク板」に画像を形成させた画像板,検甲3は,厚さ約30μmの「半透明白色プラスチツク板」に画像を形成させた画像板であるが,両者において作用効果に顕著な差異はなく,「半透明白色プラスチツク板」が厚いか薄いかは本質的な差異ではない。ちなみに,検甲7は,厚さ約10μmのサランラップに画像を形成したものであり,約10μm単位の物質でも,「それ自体単独で存在し得る性状の部材」であって,画像を形成できることは明白である。このように,「半透明白色プラスチツク板」は,μm単位でも単独で存在し,実用にも耐えるものである。
(2) 被控訴人製品の侵害性 ア 原判決は,本件特許発明の「半透明白色プラスチツク板」について,「半透明で白色であるという光学的な性質を有することに加えて,少なくとも所定の厚みを有し,それ自体単独で存在し得る性状の部材であると解するのが相当である」(16頁第3段落)とし,「被告製品における『(半透明)白色インキ層6』は,厚みがあるといっても数μm程度の印刷層であり・・・板状の部材として単独で存在し得るものではないと考えられ,『(半透明)白色インキ層』の上に『着色インキ層』が形成されたものが単独で存在し,着色インキ層の画像が一致したところで透明画像板と接着固定されている,といえるものでもない。・・・被告製品の『(半透明)白色インキ層6』は,本件特許発明の『半透明白色プラスチック板』に該当せず,被告製品は,少なくとも本件特許発明構成要件A,同Bを充足しない」(16頁第4段落〜17頁第1段落)とした。しかし,このような判断は,本件特許発明を,物の発明としてではなく,方法の発明として解釈したか,あるいは,製法限定の物の発明として,特許の対象を製法に限定して解釈した,誤った解釈に基づくものである。このことは,原判決の「すなわち,乙1考案〜乙3考案及び乙4発明の存在にもかかわらず本件特許発明が特許されたことからすれば,本件特許発明は,画像板を形成する層の性状(機能,材質)やその並べ方で特定された構造のみに特徴がある発明というわけではなく,製造方法(作成手順)によっても特徴づけられた(特定された)物の発明と理解するべきである」(19頁第4段落)との記載からも明らかである。確かに,本件特許発明の特許請求の範囲の記載には,「両側に画像があるようにして・・・透明画像板Aと半透明白色画像板Bを接着固定した」とあるため,方法的な技術内容の記載と見られる不都合があるが,この記載は「半透明白色プラスチツク板」を挟んで配置される二つの画像の方向を同一方向に形成することの必要性を明確に示したからにほかならない。本件特許発明の技術内容を「物」として表現するには,このような記載にしないと,二つの画像の配列(方向)が不明確になり,技術的構成が不明確となって,従来技術(すなわち二つの画像が左右対称の別個の画像)との相違性や特徴が表現できないという不都合が生ずるからである。したがって,本件特許発明では,前述したように「接着固定」などの表現により方法的な記載を用いているが,その結果として構成されるときは「透明プラスチック板」「画像」「半透明白色プラスチツク板」及び「前記画像と同一方向の画像」の各構成部材がすべて一体に固着した「一体化」又は「固定」した構造物,すなわち物の発明であると理解できる。
一般に,特許請求の範囲製造方法によって特定された物であっても,特許の対象はあくまでも製造方法によって特定された「物」であるから,特許の対象を当該製造方法に限定して解釈すべきではない。本件特許発明が,「製法限定」ないし「製法によって特定された物の発明」であったとしても,本件特許発明における「透明画像板A」と「半透明白色画像板B」を「接着固定」するとの物の製造方法は,二つの画像の配列を特徴付けているだけであって,物としての特徴をこの点以外に限定し,特定するものではない。したがって,本件特許発明技術的範囲は,具体的な製造方法を問わず,その物と同一性を有する物のすべてに及ぶというべきである。
イ 被控訴人製品の製造工程は,「透明アクリル板」の表面に画像を形成させ,その表面に「(半透明)白色インキ層」を形成し,さらにその表面に前記画像と同一の画像を互いに一致させて形成したものと認められる。しかしながら,完成された被控訴人製品は,本件特許発明と同一の構成を備えており,各部材すなわち「透明アクリル板」,「着色インキ層」(画像),「(半透明)白色インキ層」,「着色インキ層」(画像)は,すべて一体に接着固定されていることは明白である。しかも,「(半透明)白色インキ層」を挟んで両側に配設される両画像は,いずれも正像の同じ画像であることは疑う余地もない。そして,両画像に介在する「(半透明)白色インキ層」は,固化した状態では,半透明白色プラスチック材料と言い換えることができるものであり,本件特許発明の「半透明白色プラスチツク板」と全く同一の作用効果の反射性と透過性とを具備していることも明らかである。被控訴人製品を,本件特許発明の特許請求の範囲の記載と対応して対比すれば,両者は,透明プラスチック板に画像を形成させる過程,半透明白色プラスチック板(半透明白色インキ層)に画像を形成させる過程及び透明プラスチック板の画像と半透明白色プラスチック板(半透明白色インキ層)の画像の形成方向と形成過程が同一であり,本件特許発明では半透明白色プラスチック板に画像を形成させてから,透明プラスチック板の画像と接着固定しているのに対し,被控訴人製品は透明アクリル板の画像上に半透明白色インキ層を形成してから画像を形成させている点で相違する。要するに,両者は前段の画像を形成させた透明プラスチック板の形成過程において全く同一であるが,後段の半透明白色プラスチック板(半透明白色インキ層)とこの板に形成される画像が順次形成か,あるいは画像形成された半透明白色プラスチック板による接着固定かのいずれかでしかなく,しかもこの点の相違も,完成された物としては全く同一の断面構成を有することが明らかであるので,結局のところ,被控訴人製品は,本件特許発明技術的範囲に属するものである。
ウ したがって,被控訴人による被控訴人製品の使用は,本件特許権を侵害するものである。
3 被控訴人の当審における主張 (1) 本件特許発明技術的範囲の解釈の誤りについて ア 透過光と反射光との双方で鮮明な画像を見せるという目的・効果を達成するために,半透明白色体の両側に画像を形成させるという構成は,乙1〜4によって既に公知であり,本件特許発明は,この構成において,乙1〜3考案あるいは乙4発明と共通するものである。控訴人は,本件特許発明の「プラスチツク板」が「半透明白色」であることを強調し,乙1〜4には,いずれも「半透明」かつ「白色」に限定されたものは記載されていない旨主張するが,基材表面に画像を形成させ反射光でその画像を見ようとするときに,基材が白色でなければ色が変化して鮮明に見えないことは当然であるから,乙1〜4のような半透明体の両側に画像を形成させて透過光と反射光との双方で画像を見るときに,その半透明体が白色であることは明らかである。
イ 本件特許発明において,「半透明白色プラスチツク板」の厚さについては限定されていないが,その特許請求の範囲に規定されるとおり,本件特許発明では,「画像」を形成させた「半透明白色プラスチツク板」と「透明画像板」とを「画像」が一致したところで「接着固定」したのであるから,「半透明白色プラスチツク板」と「透明画像板」とがそれぞれ単独で取り扱えることが必要であり,それ自体で一定の形体を保持し得るような固さを有するものであることは必然である。一般的に「板」の厚さが限定されるものでないとしても,本件特許発明における「板」は,上記の性状を有するものである。
(2) 被控訴人製品の侵害性について ア 控訴人は,原判決は,本件特許発明を,物の発明としてではなく,方法の発明として解釈したか,あるいは,製法限定の物の発明として,特許の対象を製法に限定して解釈したと主張するが,その判示内容から明らかなとおり,本件特許発明物の発明と解釈しているものであり,控訴人主張のような誤りはない。
イ 被控訴人製品は,「画像」を形成させた「半透明白色体」が「プラスチツク板」であること及び「透明画像板」と「半透明白色画像板」とを両画像が一致したところで「接着固定」したものであることという,本件特許発明の特徴的構成を有しているものではない。
当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断するが,その理由は,次のとおり補正,付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の補正 原判決16頁17行目の「性状の」の次に「板状の」を加え,同17頁19行目の「両面」を「画面」に,同20行目の「箱体」を「匣体」に,同21行目の「張り合わせて」を「重ね合わせて」に,同18頁10行目の「一方の面」を「片方の表面」に,同19頁12行目及び13行目の「画像を形成した」を「画像を形成させた」に,14行目の「両面」を「両側」に,23行目,24行目及び末行並びに同20頁1行目及び6行目の「画像が形成された」を「画像を形成させた」にそれぞれ改める。
2 控訴人の当審における主張について (1) 本件特許発明技術的範囲の解釈の誤りについて ア 控訴人は,本件特許発明は,その特許出願前の公知技術である乙1〜3考案及び乙4発明とは全く異なる発明であると主張する。しかしながら,これらの公知技術に係る考案ないし発明の目的,構成及び効果は,上記引用に係る原判決17頁6行目〜18頁末行に判示するとおりであり,これによれば,上記各公知技術には,透過光と反射光のいずれを利用しても鮮明な画像が見えるという効果を達成するために,半透明プラスチック板,合成樹脂シート,合成紙等の両側に画像を形成させるという構成が開示されていることが明らかである。乙1考案及び乙3考案の両画像が,控訴人主張のように互いに左右方向から対称の画像でなければならない必要がないことは,これらの考案の,両画像を重なるように配置して,透過光でも画像が見えるという目的を考慮すれば,明らかというべきである。さらに,乙2考案の「紙葉或いは合成樹脂シート」は,その機能において本件特許発明の「半透明白色プラスチツク板」に対応するものと認められるから,本件特許発明の「透明プラスチツク板」「画像」「半透明白色プラスチツク板」「画像」という構成と乙2考案の上記構成中「画像」「紙葉或いは合成樹脂シート」「画像」の部分の配置が同一である。そして,透過光と反射光のいずれを利用しても鮮明な画像が見えるという効果のみを達成するためには,本件特許発明の「透明プラスチツク板」は必要ではないから,上記効果を達成する技術として,上記配置自体は,本件特許発明の特許出願時において公知であったことが明らかである。したがって,本件特許発明は,上記各公知技術と全く異なる発明であるとの控訴人の主張は採用することができず,特許出願時におけるこれらの公知技術参酌して本件明細書の特許請求の範囲及び実施例の記載を検討すると,本件特許発明の「画像板」は,「透明プスチツク板上に画像を形成させた透明画像板」と「半透明白色プラスチツク板上に画像を形成させた半透明白色画像板」を備え,この二つの画像板を「半透明白色プラスチツク板の両側に画像があるようにして接着固定」して構成したものと解すべきである。
イ 本件特許発明の特許請求の範囲において,「半透明白色プラスチツク板」の厚さについて,限定をしていないことは控訴人主張のとおりである。しかしながら,本件特許発明の「画像板」は,「透明プスチツク板上に画像を形成させた透明画像板」と「半透明白色プラスチツク板上に画像を形成させた半透明白色画像板」を備え,この二つの画像板を「半透明白色プラスチツク板の両側に画像があるようにして接着固定」して構成したものであることは上記のとおりである。そして,上記の構成は,間接的に「半透明白色プラスチツク板」の性状等を規定するものであるから,「半透明白色プラスチツク板」は,その上に画像を形成させることができ,「透明画像板」と接着固定できるものでなければならないことは,その文言上明らかである。したがって,上記性状を満たすには,少なくとも,その上に画像を形成させることができ,接着固定できる性状,すなわち,それ自体が単独で一定の形体を保持し得る固さを有するものであることが必要であるから,本件特許発明の「半透明白色プラスチツク板」は,少なくとも所定の厚みを有し,それ自体単独で存在し得る性状の板状の部材であると解するのが相当である。甲7及び検甲7によれば,厚さ11μmのポリ塩化ビニリデン製ラップ(サランラップ)上に画像を形成させることができることが認められるが,同ポリ塩化ビニリデン製ラップは,所定の厚みを有し,それ自体単独で存在し得る性状の板状の部材であると認められるから,上記判断を左右しない。
(2) 被控訴人製品の侵害性について ア 控訴人は,原判決が,本件特許発明を,物の発明としてではなく,方法の発明として解釈したか,あるいは,製法限定の物の発明として,特許の対象を製法に限定して解釈した誤りがある旨主張する。しかしながら,原判決は,本件特許発明製造方法によっても特徴づけられた(特定された)物の発明としてとらえた上(19頁第4段落),その技術的範囲を解釈していることは,判示自体に照らして明らかである。そして,一般に,特許請求の範囲製造方法によって特定された物であっても,対象とされる物が特許を受けられるものである場合には,特許の対象を当該製造方法によって製造された物に限定して解釈する必然はなく,これと製造方法は異なるが物として同一である物も含まれると解することができるが,特許請求の範囲の記載の文言上,当該製造方法が,当該物の性状等を間接的に規定することになることは当然である。本件特許発明の特許請求の範囲の記載は,本件特許発明の「画像板」は,「透明プスチツク板上に画像を形成させた透明画像板」と「半透明白色プラスチツク板上に画像を形成させた半透明白色画像板」を備え,この二つの画像板を「半透明白色プラスチツク板の両側に画像があるようにして接着固定」して構成したものと特定している(19頁第3段落)のであるから,その文言上,本件特許発明の「半透明白色プラスチツク板」が,それ自体が単独で一定の形体を保持し得る固さを有するものであることが必要であることは,上記のとおりである。
イ 被控訴人製品の「(半透明)白色インキ層6」が本件特許発明の「半透明白色プラスチツク板」とその配置及び光学的な機能に関して一応の対応関係にあることが当事者間に争いがないことは,上記引用に係る原判決の判示(16頁第1段落)のとおりである。そして,本件特許発明の「半透明白色プラスチツク板」が,少なくとも所定の厚みを有し,それ自体単独で存在し得る性状の板状の部材であることが必要であることは,上記のとおりであるところ,被控訴人製品の「(半透明)白色インキ層6」が,厚みがあるといっても数μm程度の印刷層であることは,原判決の判示(16頁第4段落)のとおりであって,上記要件を備えた部材であることを認めるに足りない。控訴人は,数μm単位の部材も,「所定の厚みを有し,それ自体単独で存在し得る部材」であり,被控訴人製品の「(半透明)白色インキ層6」の厚みは約8μmであるとも主張するが,この程度の厚みの白色インキ層は板状の部材として単独で存在し得るものとは認め難く,被控訴人製品の「(半透明)白色インキ層6」の厚みが控訴人主張のとおりであるとしても,上記判断を左右するものではない。
ウ したがって,被控訴人製品が,「半透明白色プラスチツク板」を備えているということはできず,本件特許発明構成要件を充足しているとは認められない。
3 結論 以上のとおり,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 宮坂昌利