関連審決 | 不服2004-6453 |
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関連ワード | 発明者 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 上位概念 / 優先日 / 容易に想到(容易想到性) / 非容易 / 実施 / 加工 / 混同 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10155号
審決取消請求事件
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原告 ショーボンド建設株式会社代表者代表取締役 原告 藤森工業株式会社 代表者代表取締役 両名訴訟代理人弁理士 宇野晴海 被告 特許庁長官中嶋誠 指定代理人 南澤弘明 同 木原裕 同 高木彰 同 伊藤三男 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/10/13 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告らの請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2004-6453号事件について平成17年1月18日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,原告らが共同で特許出願をしたところ,特許庁から拒絶査定を受けたため,これを不服として審判請求をしたが,同庁から審判請求不成立の審決を受けたので,その取消しを求めた事案である。 |
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当事者の主張
1 請求原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告らは共同で,平成13年12月28日(特許法41条に基づく優先日平成12年12月28日),発明の名称を「コンクリート構造物の補修・補強用シート及びコンクリート構造物の補修・補強方法」とする特許出願(甲2。以下「本願」という。)をしたが,特許庁から拒絶査定を受けたので,これに対する不服審判を請求するとともに,平成16年4月1日付け手続補正書(甲3)により特許請求の範囲等を補正をした(以下「本件補正」という。)。 特許庁は,同請求を不服2004-6453号事件として審理し,平成17年1月18日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は平成17年2月1日原告らに送達された。 (2) 発明の内容 ア 本願願書の明細書(以下「当初明細書」という。)に記載された特許請求の範囲の請求項は14項から成るが,そのうちの【請求項1】は下記のとおりである。 記 【請求項1】コンクリート構造物のコンクリートが剥離および/または落下する可能性のある箇所に接着剤を用いて貼付することによって,前記コンクリート構造物を補修および/または補強するためのシートであって,前記シートが,前記接着剤と一体化して前記シートを前記コンクリート構造物に接着させるための貼付層と,前記接着剤および前記貼付層を保護する保護層とを有する積層体であることを特徴とするコンクリート構造物の補修・補強用シート。 (以下,【請求項1】の発明を「本願発明」という。) イ また本件補正により補正された明細書(以下「補正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項も14項から成るが,補正されたのは【請求項1】のみで,その内容は下記のとおりであり(下線は補正箇所),【請求項2】ないし【請求項14】は当初明細書と同じである。 記 【請求項1】コンクリート構造物のコンクリートが剥離および/または落下する可能性のある箇所に接着剤を用いて貼付することによって,前記コンクリート構造物を補修および/または補強するためのプレハブ化された シートであって,前記シートが,前記接着剤と一体化して前記シートを前記コンクリート構造物に接着させるための貼付層と,前記接着剤および前記貼付層を保護する保護層とを有する積層体であることを特徴とするコンクリート構造物の補修・補強用シート。 (以下,補正後の【請求項1】の発明を「補正発明」という。) (3) 審決の内容 ア 審決の詳細は,別添審決写し記載のとおりである。 その要旨は,補正発明は,下記刊行物1発明及び刊行物2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,したがって本件補正は特許法53条1項等の規定により却下すべきものであり,また本願発明も,前記各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,等というものであった。 記 @ 特開平9-195445号公報(甲4。以下「刊行物1」といい,これに記載された発明を「刊行物1発明」という。) A 特開平11-20067号公報(甲5。以下「刊行物2」といい,これに記載された発明を「刊行物2発明」という。) イ なお審決は,刊行物1発明を下記のように認定し,補正発明との一致点と相違点を下記のように摘示した。 記 <刊行物1発明の内容> 「コンクリート構造物の補修・補強する必要のある箇所にプライマー層12,下塗り層13を用いて貼着することによって,前記コンクリート構造物を補修・補強するためのシートであって,前記シートは,前記下塗り層13が含浸して前記コンクリート構造物に貼着される強化繊維シート14であるコンクリート構造物の補修・補強用シート」 <一致点> 「コンクリート構造物の補修・補強する必要がある箇所に接着剤を用いて貼付することによって,前記コンクリート構造物を補修および/または補強するためのシートであって,前記シートが,前記接着剤と一体化して前記シートを前記コンクリート構造物に接着させるための貼付層であるコンクリート構造物の補修・補強用シート。」である点。 <相違点1> 補正発明のシートを貼付する箇所が,コンクリートが剥離および/または落下する可能性のある箇所であるのに対し,刊行物1記載の発明はコンクリート構造物の補修・補強する必要のある箇所である点。 <相違点2> 補正発明のシートは,プレハブ化されたシートであって,前記シートが,貼付層と,前記接着剤および前記貼付層を保護する保護層とを有する積層体であるのに対し,刊行物1記載の発明のシートは,積層体ではない点。 (4) 審決の取消事由 しかしながら,補正発明は,以下に述べる理由により,刊行物1発明及び刊行物2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので,本件補正は却下されるべきものではなく,これを却下した審決は,違法として取り消されるべきである。 なお,審決による<刊行物1発明の内容>,補正発明との<一致点>及び<相違点1>は認める。 <取消事由-相違点2についての認定判断の誤り> ア 補正発明と刊行物1発明との対比 審決は,補正発明と刊行物1発明との相違点2として,上記のとおり認定したが,補正発明と刊行物1発明のシートは,次のような大きな相違を有する。 すなわち,補正発明では,シートは貼付層と保護層が積層体として一体物としてプレハブ化されて形成されているのに比し,刊行物1発明では,シートは補正発明の貼付層に相当する強化繊維シートのみからなり,保護層と一体化されたものではない。そのため,補正発明のプレハブ化されたシートは,そのままの状態でコンクリート構造物に貼着することができるのに対し,刊行物1発明のシートは,上位概念としての「コンクリート構造物の補修・補強シート」であることで共通するものの,補正発明の効果が存在しない。すなわち,このシートをコンクリート構造物に貼着して保護層を形成する現場での作業の簡易化及び施工の容易化において,刊行物1(甲4)の段落【0019】及び【図1】に示されているように構造物表面11にプライマー層12,下塗り層13を形成した後強化繊維シート14を貼着し,さらにその上に上塗り層15,仕上げ層16(段落【0033】では保護層16)を形成するという施工手順を踏む必要を生じており,補正発明の効果を有しておらず,大きく相違している。 そもそも,刊行物1発明については,解決すべき課題を有する従来技術として,当初明細書(甲2添付)の段落【0003】に「従来はコンクリートが剥離し,落下する恐れがある場合,先ずコンクリート表面を奇麗に清浄し,ついでコンクリートの劣化の程度により,含浸材,鉄筋防錆材,断面修復材,ひび割れ注入材などを必要に応じて施し,下塗り材を塗布した後にパテなどの下地調整材を使用して平滑化などの処置を施し,一次仕上げを行う。次に表面被覆材として各種塗料,建築仕上塗材,塗膜防水材,成形板などで二次仕上げを行うか,或いは一次仕上げの後に接着剤を塗布し,その上に補修や補強のために織布や編布を貼り付け,更に接着剤を塗布して塗り固め,乾燥固化後に再び下塗り材を塗布し,その上に耐候性を有する塗料を塗布し,二次仕上げを行っていた」と記載したとおり,刊行物1を引用するまでもなく,極めて普通のこととして原告ら及び発明者らは熟知している。 しかも,このようなシートをコンクリート構造物に貼着する作業は,当初明細書の段落【0005】に記載するように,「これらの作業は高所作業のため重労働であること,硬化や養生などが必要となり施工工期も長くなるので工事コストが高くなること,施工現場の条件によっては,品質管理が難しいことがあり,所定の品質を確保するために過剰な仕様設計となることがあるなどの問題を有していた」のである。 そこで,原告らの発明者らは,同段落【0006】に記載したように,「現場での接着剤や塗料の塗布作業工程の簡素化,施工の容易化および予め品質管理が容易な環境下で部材を製造しておくプレハブ化を図ることで,重労働を低減させ,施工工期を短縮化し,品質を安定させること」を目的として,「プレハブ化されたシートであって」及び「前記接着剤および前記貼付層を保護する保護層とを有する積層体であることを特徴とする」との構成を加えることにより,補正発明を完成したものである。 イ 補正発明と刊行物2発明との対比 審決は,相違点2についての判断に当たり,「刊行物2には,水溶性バインダ6,基材2,バインダ層7の表面にTiO2粒子3をその一部が露出するように吹き付けて(補正発明の「保護層」に相当)積層したシートS,すなわち,積層される層を全て予め積層(プレハブ化)した積層体であるシートが開示されており」(審決5頁第2段落)と認定した。しかし,@表面の一部を露出するようにして吹き付けたTiO2粒子3そのもの,又は,TiO 2粒子3が固定されたバインダ層7を補正発明の「保護層」に見立てて,「保護層」が積層されているとした点,A刊行物2に記載の積層体が補正発明のプレハブ化に相当するとした点,において誤りである。 すなわちまず,@の点について,補正発明においては,「前記接着剤および前記貼付層を保護する保護層とを有する積層体であることを特徴とする」との構成からも明らかなように「前記接着剤および前記貼付層を保護」する保護層であるのに対し,刊行物2(甲5)記載のTiO2粒子3やバインダ層7は,何かを保護するという保護層の役割を有するものではないから,刊行物2には,補正発明の保護層は記載されていない。刊行物2記載の「シートS」が光触媒機能を作用させる対象は,このシートが貼着される被貼着物であって,基材2や水溶性バインダ6は,光触媒機能により防汚等される層ではなく,TiO2粒子3やバインダ層7は,何かを保護するという保護層の役割を有するものではない。さらに,審査における拒絶理由通知書(甲6)においては,「TiO2」は,【請求項8】の「光触媒層」の関係で引用されたものであって,保護層であるとして引用されたものではない。 すなわち,審査では「保護層」と認定しなかったものを,審決では「保護層」と認定したのである。引用文献が同一とはいいながら,引用する箇所及び理由が異なるのであるから,拒絶理由が通知されて,出願人に意見の機会が与えられてしかるべきであり,審決は,この点において手続の瑕疵があり,違法である。 次にAの点について,補正発明のシートは,「プレハブ化されたシート」である。「プレハブ」の語は,広辞苑(甲7)によれば「あらかじめ工場で加工・組立を行い,現場で組み立てる建築工法」,大辞林(甲8)によれば「あらかじめ工場で部品の加工・組み立てをしておき,現場では取り付けのみを行う建築構法」であり,本来であれば現場において一定の手順を踏んで行う加工・組み立てを,施工工数削減,品質向上のために工場で予め加工・組み立てをしておき,現場では取り付けのみを行う,というものである。補正発明の「プレハブ化されたシート」は,コンクリート構造物のコンクリートが剥離,落下する可能性のある箇所を補修,補強のために,本来,現場で幾つかの工程別に施工されるべき素材をあらかじめ工場で加工・組み立てたものであって,正に「プレハブ」の語に合致するものである。ところが,刊行物2記載の貼着用光触媒機能材は,現場で積層すべき素材をあらかじめ工場で積層したのではなく,もともと現場で積層すべき性質のものではなく工場で製作されるべきものである。このような積層体からなる物品は,刊行物2を示されるまでもなく,宛名ラベル,粘着ラベル,段ボール,工事現場用シート,プリント基板等例示にいとまがないが,これらは,いずれも積層体であるが,「プレハブ化」したとはいわない。刊行物2記載の貼着用光触媒機能材は,基材の裏面のバインダ層に離型シートが貼着されている積層体であって,せいぜい例示した粘着用ラベルに相当する程度のものである。しかも,この貼着用光触媒機能材は,基材の裏面のバインダ層に吹き付けられているTiO2粒子が貼着用光触媒機能材がタイル素地表面に貼着された後にも,刊行物2の段落【0011】に「タイル素地1表面に貼着し,この後前記と同様にして加熱し,冷却する」とあるように,このような行為をしないとTiO2粒子がバインダーに固定されないため,「取り付けのみを行う」とする大辞林の説明にそぐわず,この意味においても「プレハブ化されたシート」とはいい得ない。したがって,審決の「積層される層を全て予め積層(プレハブ化)した積層体であるシートが開示されており」との上記認定は,「積層」と「プレハブ化」を混同したことによる誤りである。 ウ 補正発明の刊行物1発明及び刊行物2発明からの非容易性 審決は,「刊行物1記載の発明のシート14の使用に当たっては,該シート14上に上塗り層15を塗布し,その上に保護層16を形成する事項が記載されている(段落【0019】,【0033】参照)から,刊行物1に記載された上記保護層を予め積層し,相違点2に係る補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得た事項にすぎない」(審決5頁第2段落)と判断した。 しかし,刊行物2発明において,審決が指摘するバインダ層の表面に吹き付けられる「TiO2粒子3」や「バインダ層」は,上記のとおり,積層されるいずれかの層を保護するというものではない。しかも,刊行物1発明と刊行物2発明とは,その技術分野を著しく異にする。したがって,「TiO2粒子」を「バインダ層」の表面に吹き付けることが公知であったとしても,補正発明の「前記接着剤および前記貼付層を保護する保護層とを有する積層体」を容易に想起することは不可能であり,補正発明は,刊行物1発明及び刊行物2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 請求原因に対する認否 請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。 3 被告の反論 審決の認定判断は正当であり,原告ら主張の取消事由は理由がない。 (1) 刊行物2発明は,積層される層をすべてあらかじめ積層(プレハブ化)したシートであるから,現場での作業の簡易化及び施工の容易化,重労働を低減させ,施工工期を短縮化し,品質を安定させるという効果を奏することは明らかであり,補正発明と同種の作用効果を奏するといえるものである。したがって,補正発明の効果は,単に「プレハブ化」という周知の技術が元来持つ効果を奏するにすぎない。 (2) 原告ら主張の取消事由のイの@の点について,審決が「(2)本願出願前に頒布された刊行物に記載された事項」(審決2頁〜4頁)に摘示したように,刊行物2(甲5)には,「【発明の属する技術分野】本発明は,脱臭,抗菌,防汚等の光触媒機能を有する貼着用光触媒機能材に関する」(段落【0001】),「【発明の実施の形態】図1は本発明に係る貼着用光触媒機能材の断面図であり,離型紙5の表面に水溶性バインダ6を介して基材2が設けられ,この基材2の表面にバインダ層7を形成し,このバインダ層7の表面にTiO 2粒子3をその一部が露出するように吹き付けてシートSを構成している」(段落【0008】)と記載されているから,刊行物2に記載されたものは,バインダ層7の表面にTiO2粒子3をその一部が露出するように吹き付けることにより,光触媒機能によって,防汚等の光触媒機能を作用させるシートであって,当該バインダ層7は,その裏面側に位置する基材2,水溶性バインダ6を光触媒機能により防汚等する層,すなわち補正発明でいう保護層にほかならない。したがって,審決が,刊行物2の「バインダ層7の表面にTiO2粒子3をその一部が露出するように吹き付け」たものを補正発明の「保護層」に相当するとした認定に何ら誤りはない。 原告らは,審決の手続の瑕疵を主張するが,拒絶理由通知書(甲6)には,刊行物2について,「4.特開平11-20067号公報(保護層が光触媒を有する点。)」と記載されているのであるから,拒絶理由において,TiO2粒子3の一部が露出するように吹き付けられたバインダ層は「保護層」として認定されている。さらに,「理由」には,「この出願の請求項1〜14に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1〜5に記載された発明に基づいて」と記載されており,刊行物2は,請求項1〜14に係る発明に対して引用されている。したがって,引用する箇所及び理由が異なるとはいえず,原告らの主張は失当である。 (3) 次に,取消事由のイのAの点について,広辞苑(甲7),平成9年4月10日彰国社第3刷発行「建築大辞典 第2版〈普及版〉」(乙1。以下「乙1文献」という。),特開平8-209808号公報(乙2。以下「乙2公報」という。)の記載から,「プレハブ」とは,「プレハブ化」したものを取り付けた後に,更に別の工程が存在することを否定するものではなく,あらかじめ工場で加工・組み立て,現場で取り付けを行う建築工法であり,「取り付ける」ものではあるが,必ずしも「取り付けのみを行う」建築工法を意味するものではないことが明らかである。そうすると,刊行物2に記載されたシートSについて,離型紙を剥離し,タイル素地に貼着し,その後,加熱し,冷却するという別の工程があったとしても,シートS自体は,あらかじ予め工場で加工・組み立て,現場で取り付けが行われるものである以上,「プレハブ化」したものと解して何ら誤りではない。したがって,審決が,刊行物2の「積層される層を全て予め積層」する点を補正発明の「プレハブ化」に相当するとした認定に誤りはない。 原告らは,刊行物2記載の貼着用光触媒機能材は,現場で積層すべき素材をあらかじめ工場で積層したのではなく,もともと現場で積層すべき性質のものではなく工場で製作されるべきものであると主張する。しかし,刊行物2には,【発明が解決しようとする課題】として,「図6は脱臭壁の一部部分拡大断面図であり,壁材100の表面にはバインダ層101が形成され,このバインダ層101に光触媒粒子102が保持されている。上記光触媒粒子102を含んだ層を形成するには,光触媒粒子をゾル状に吹きつけ,更に加熱せしめた後に冷却する等の作業が必要になる。このため,既存のタイル等に家庭において光触媒効果を付与するのは面倒である」(段落【0003】,【0004】)と記載されているから,刊行物2記載の貼着用光触媒機能材は,もともと現場で壁材に光触媒粒子を含んだバインダ層を形成していたことに代えて,あらかじめ工場で,当該光触媒粒子を吹き付けたバインダ層とタイル素地表面に貼着するためのバインダ層とを基材を介して積層したシート,すなわち,積層される層をすべてあらかじめ積層した積層体である。 したがって,審決が,「刊行物2には,水溶性バインダ6,基材2,バインダ層7の表面にTiO2粒子3をその一部が露出するように吹き付けて(補正発明の「保護層」に相当)積層したシートS,すなわち,積層される層を全て予め積層(プレハブ化)した積層体であるシートが開示されており」と認定したことに何ら誤りはない。 (4) 原告らは,刊行物2発明において,審決が指摘するバインダ層の表面に吹き付けられる「TiO2粒子3」や「バインダ層」は,積層されるいずれかの層を保護するというものではないと主張するが,刊行物2(甲5)に記載されたものが補正発明でいう保護層にほかならないことは上記(2)のとおりである。 また,原告らは,刊行物1発明と刊行物2発明とはその技術分野を著しく異にすると主張するが,刊行物1(甲4)には,発明の名称からも明らかなとおり,「コンクリート構造物の補修補強シート」に関する発明が記載され,刊行物2には,【発明の属する技術分野】として「脱臭,抗菌,防汚等の光触媒機能を有する貼着用光触媒機能材に関する」と記載され,実施例には,当該貼着用光触媒機能材が「既存のタイル等」,「居住空間の壁面」に用いられることが具体的に記載されている。そうすると,刊行物1発明と,刊行物2発明とは,いずれも建設技術の分野に属するものであるから,両者は,著しく異なる技術分野であるとはいえないし,また,刊行物1発明に刊行物2発明を適用する阻害要因も見いだせない。 |
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当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 2 取消事由(相違点2についての認定判断の誤り)について (1) 原告らは,補正発明と刊行物1発明のシートは,補正発明では,シートは貼付層と保護層が積層体として一体物としてプレハブ化されて形成されているのに比し,刊行物1発明では,シートは補正発明の貼付層に相当する強化繊維シートのみからなり,保護層と一体化されたものではない点において大きな相違を有するものであるから,審決の相違点2の認定は誤りであると主張するので検討する。 刊行物1発明は,「コンクリート構造物の補修・補強する必要のある箇所にプライマー層12,下塗り層13を用いて貼着することによって,前記コンクリート構造物を補修・補強するためのシートであって,前記シートは,前記下塗り層13が含浸して前記コンクリート構造物に貼着される強化繊維シート14であるコンクリート構造物の補修・補強用シート」(審決3頁下第2段落)であり(争いがない),そのシートは保護層を有しないものである。しかし,刊行物1(甲4)には,「下塗り層13上に,強化繊維シート14を貼着する工程を行う」(段落【0029】),「次に,強化繊維シート14上に,上塗り層15としてのマトリックス樹脂等を塗布する工程を行う」(段落【0031】),「最後に,仕上げ工程を行う。本工程は,上塗り層15上に,ウレタン樹脂あるいはフッ素樹脂等の耐候性塗料を塗布し保護層16を形成することによって行うことができる」(段落【0033】)との記載があり,同記載によれば,上記「上塗り層15」及び「保護層16」から成る層は,貼付層である「強化繊維シート14」を保護する層といい得るものであって,「下塗り層13」(補正発明における「接着剤」に相当する〔審決4頁「(3)対比・判断」の項の第1段落〕ことに争いがない。)上に貼着された「強化繊維シート14」上に樹脂,塗料を塗布することによって形成されるものと認められる。 これに対し,補正発明のシートは,「プレハブ化されたシートであって,前記シートが,前記接着剤と一体化して前記シートを前記コンクリート構造物に接着させるための貼付層と,前記接着剤および前記貼付層を保護する保護層とを有する積層体」(補正明細書の【請求項1】)であるから,補正発明と刊行物1発明を対比すれば,刊行物1発明のシートは,単に「積層体ではない」のみならず,「貼付層を有するが保護層は有さず,プレハブ化された積層体ではない」ものであり,その保護層は,貼着された「強化繊維シート14」上に樹脂,塗料を塗布することによって形成されるものである。そうすると,審決が相違点2として,「補正発明のシートは,プレハブ化されたシートであって,前記シートが,貼付層と,前記接着剤および前記貼付層を保護する保護層とを有する積層体であるのに対し,刊行物1記載の発明のシートは,積層体ではない点」(上記第3(3)イの<相違点2>)と認定したことは,両者の相違点を十分に表したものということができず,正確を欠くものといわざるを得ない。 しかし,審決は,相違点2についての判断において,「刊行物1記載の発明のシート14の使用に当たっては,該シート14上に上塗り層15を塗布し,その上に保護層16を形成する事項が記載されている(段落【0019】,【0033】参照)から,刊行物1に記載された上記保護層を予め積層し,相違点2に係る補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得た事項にすぎない」(審決5頁第2段落)と説示しているから,刊行物1発明のシートが「保護層を有さず,プレハブ化された積層体ではない」ものであって,保護層は,接着剤を用いて貼付されたシートに塗布される点をも,検討した上で判断しているものと認められる。 したがって,審決の相違点2の認定は正確を欠くものではあるが,この点は相違点2についての判断に影響しないから,審決の結論に影響を及ぼさず,審決の取消事由とはならない。 (2) 次に原告らは,審決の相違点2についての判断は,刊行物2(甲5)について,@表面の一部を露出するようにして吹き付けたTiO2粒子3そのもの,又は,TiO2粒子3が固定されたバインダ層7を補正発明の「保護層」に見立てて,「保護層」が積層されているとした点,A刊行物2に記載の積層体が補正発明のプレハブ化に相当するとした点,において誤りであると主張する。 ア そこで,刊行物2(甲5)を見ると,刊行物2には下記の記載がある。 記 (ア)「【従来の技術】紫外線の照射を受けて脱臭反応を進行させる光触媒としてアナターゼ型のTiO2が知られている。そして,光触媒粒子をバインダに混練した原料を居住空間の壁面を構成する部材の表面に塗布した後に焼成することで,居住空間の壁面に脱臭壁機能をもたせるようにした提案を本出願人は先に行なっている。」(段落【0002】) (イ)「【発明が解決しようとする課題】図6は脱臭壁の一部部分拡大断面図であり,壁材100の表面にはバインダ層101が形成され,このバインダ層101に光触媒粒子102が保持されている。」(段落【0003】) (ウ)「上記光触媒粒子102を含んだ層を形成するには,光触媒粒子をゾル状に吹きつけ,更に加熱せしめた後に冷却する等の作業が必要になる。このため,既存のタイル等に家庭において光触媒効果を付与するのは面倒である。」(段落【0004】) (エ)「【課題を解決するための手段】上記課題を解決すべく本願は,離型シート表面に第1のバインダ層を介して基材をけ(判決注;「基材を設け」の誤記と認める。),この基材の第1のバインダ層とは反対側の表面に第2のバインダ層を介して光触媒粒を固定せしめた。このような構成とすることで,離型シートを剥がすだけで,所望の箇所に光触媒層を形成することが可能になる。」(段落【0005】) (オ)「【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで,図1は本発明に係る貼着用光触媒機能材の断面図であり,離型紙5の表面に水溶性バインダ6を介して基材2が設けられ,この基材2の表面にバインダ層7を形成し,このバインダ層7の表面にTiO2粒子3をその一部が露出するように吹き付けてシートSを構成している。」(段落【0008】) (カ)「以上において,離型紙5を剥離してシートSをタイル素地1表面に貼着し,この後前記と同様にして加熱し冷却する。このように光触媒機能を有するシートSを別体として用意しておけば,既存のタイル等にも脱臭等の光触媒機能を簡単に付与することができる。」(段落【0011】) イ まず,上記@の点について検討すると,上記記載によれば,刊行物2発明は,離型シート,第1のバインダ層,基材,表面に光触媒粒を固定せしめた第2のバインダ層の順に積層一体化して構成したシートを所望の箇所に貼着できるようにしたものである。そして,刊行物2発明のシートを所望の箇所に貼着した際には,その積層構造から,最も表面側となる「第2のバインダ層」が,それより内側の層(直接的には「基材」となる。)の汚れ,破損等,外部からの要因による損傷を防止する機能,即ち「保護層」としての機能を有することは当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)に自明のことである。したがって,審決が,相違点2の判断において,「バインダ層7の表面にTiO2粒子3をその一部が露出するように吹き付けて(補正発明の「保護層」に相当)」(審決5頁第2段落)と判断したことに,誤りはない。原告らは,刊行物2記載の「シートS」が光触媒機能を作用させる対象は,このシートが貼着される被貼着物であって,基材2や水溶性バインダ6は,光触媒機能により防汚等される層ではなく,TiO2粒子3やバインダ層7は,何かを保護するという保護層の役割を有するものではない,とも主張する。確かに,原告ら主張のとおり,光触媒機能の作用を期待すべき対象は,このシートが貼着される被貼着物であるということもできるが,光触媒の機能に関わらず,「第2のバインダ層」自体が,それより内側の層を保護する機能を有することが自明であることは上記のとおりであるから,原告らの主張は上記判断を何ら左右しない。 また,原告らは,審査における拒絶理由通知書(甲6)においては,「TiO2」は,【請求項8】の「光触媒層」の関係で引用されたものであって,保護層であるとして引用されたものではなく,この点について拒絶理由が通知されていないから,審決は,手続の瑕疵があると主張する。拒絶理由通知書には,刊行物2について,「4.特開平11-20067号公報(保護層が光触媒を有する点。)」(1頁下第2段落)との記載があり,確かに,拒絶理由通知の対象である,当初明細書(甲2)を見ると,「【請求項8】前記保護層がその表面に光触媒層を有することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかの項に記載のコンクリート構造物の補修・補強用シート」と記載されていることから,刊行物2は,直接的には主として上記【請求項8】に対して引用されたものとみることもできる。しかし,拒絶理由通知書の上記記載は,「保護層が光触媒を有する点」とあることから,「保護層」に関連する趣旨で拒絶理由が通知されたものであることは明らかであるし,表面に光触媒粒を固定せしめた第2のバインダ層が,それより内側の層の「保護層」としての機能を有することが自明であることは上記のとおりである。 したがって,拒絶理由通知において刊行物2が保護層として引用されたものでないということはできず,原告らの上記主張は,拒絶理由通知を正しく理解しないで非難するものであって,採用できない。 ウ 次に,上記Aの点について検討する。 刊行物2(甲5)の上記記載によれば,従来の技術においては光触媒粒子を壁面に吹きつける等の作業が面倒であることから,刊行物2発明は,離型シート,第1のバインダ層,基材,表面に光触媒粒を固定せしめた第2のバインダ層の順に積層一体化してシートを構成したものであり,光触媒層をあらかじめ形成しておき,現場での吹きつけ作業を不要にしたものということができる。そして,乙1文献には,「プレファブリケーション・・・現場での施工の前に,あらかじめ組み立てておくこと,すなわち現場での作業を別の場所に移して行うこと。略して「プレファブ」または「プレハブ」という。具体的には,工場で部品の加工,組立てを行い,現場で所定の場所に取り付けること。生産性の向上,質の均一性,精度の向上などをねらった建築生産における技術革新の一」(1483頁左欄)と記載され,プレハブは,「現場での施工の前に,あらかじめ組み立てておくこと,すなわち現場での作業を別の場所に移して行うこと」の意味であると認められるから,刊行物2発明の「シート」は「プレハブ化されたシート」であると認められる。 エ そうすると,刊行物1発明においては,「下塗り層13」(補正発明における「接着剤」に相当する〔審決4頁「(3)対比・判断」の項の第1段落〕ことに争いがない。)上に貼着された「強化繊維シート14」上に樹脂,塗料を塗布することによって保護層を形成するものであることは上記(1)のとおりであり,この作業が面倒であることは当業者に自明のことというべきであるから,保護層をも含めてあらかじめ積層一体化したシートに形成することは,当業者が容易に想到し得る程度の事項というべきであって,相違点2に係る補正発明の構成のように貼付層と保護層とを積層体としてプレハブ化されたシートとすることに格別の困難性はないというべきである。 (3) 原告らは,刊行物2発明において,審決が指摘するバインダ層の表面に吹き付けられる「TiO2粒子3」や「バインダ層」は,上記のとおり,積層されるいずれかの層を保護するというものではなく,刊行物1発明と刊行物2発明とは,その技術分野を著しく異にするから,補正発明は,刊行物1発明及び刊行物2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないと主張する。 しかし,バインダ層の表面に吹き付けられる「TiO2粒子3」や「バインダ層」がそれより内側の層を保護する機能を有することは,上記(2)イのとおりである。 また,刊行物1発明は,柱,梁,スラブ,壁,煙突,トンネル等の構造物の補強及び補修方法に関するものであり(刊行物1〔甲4〕の段落【0001】),刊行物2発明は,居住空間の壁面に脱臭機能を持たせるものである(刊行物2〔甲5〕の段落【0002】)と認められ,いずれも,建築ないし建設の技術分野に属するものということができ,しかも,刊行物2発明は,「プレハブ化されたシート」を開示するものであるから,「プレハブ化」の点において,刊行物1発明に適用する動機付けがあるというべきである。したがって,両者がその技術分野を著しく異にするということはできず,刊行物1発明に刊行物2発明を適用することに何らの阻害要因があると認めることもできない。 (4) 以上検討したところによれば,審決の相違点2についての認定判断に原告ら主張の誤りがあるということはできない。 3 結論 以上のとおり,本件補正却下の違法をいう原告ら主張の取消事由は理由がない。 よって,原告らの請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 上田卓哉 |