関連審決 | 異議1998-72757 |
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関連ワード | 技術的思想 / 方法の発明 / 製造方法 / 29条1項3号 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 技術常識 / 発明の要旨認定 / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 訂正明細書 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
446号
特許取消決定取消請求事件
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原告 凸版印刷株式会社 訴訟代理人弁護士 小南明也 同 弁理士 秋元輝雄 被告 特許庁長官太田 信一郎 指定代理人 吉國信雄 同 祖山忠彦 同 大野克人 同 宮川久成 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/12/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が平成10年異議第72757号事件について平成12年10月10日にした決定を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「積層包装材料の製造方法」とする特許第2684913号(平成3年12月28日出願,平成9年8月15日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。その後,本件特許につき特許異議の申立てがされ,この申立ては,平成10年異議第72757号事件として特許庁に係属した。 原告は,平成12年4月28日,本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲等の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。特許庁は,上記事件につき審理した結果,同年10月10日,「特許第2684913号の請求項1,2に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,同月27日,原告に送達された。 2 本件明細書の特許請求の範囲の記載 (1) 本件訂正前のもの(以下,【請求項1】の発明を「本件発明1」と,【請求項2】の発明を「本件発明2」といい,これらを一括して「本件発明」という。) 【請求項1】基材,酸化ケイ素層及びヒートシール性熱可塑性樹脂層が順次積層された積層包装材料の製造方法において,ヒートシール性熱可塑性樹脂を30μm以下の層厚で溶融押し出しコーティングすることによりヒートシール性熱可塑性樹脂層が形成されることを特徴とする積層包装材料の製造方法。 【請求項2】押し出しコーティングの際に,別のヒートシール性熱可塑性樹脂フィルムをラミネートする請求項1記載の積層包装材料の製造方法。 (2) 本件訂正に係るもの(訂正部分に下線を付す。以下,本件訂正に係る本件明細書を「訂正明細書」といい,その【請求項1】の発明を「訂正発明1」,【請求項2】の発明を「訂正発明2」という。) 【請求項1】樹脂フィルム 基材,酸化ケイ素層及びヒートシール性熱可塑性樹脂層が順次積層された積層包装材料の製造方法において,前記酸化ケイ 素層上 にヒートシール 性熱可塑性樹脂 を270 ℃以上 の押し出し温度 で押し出しコーティング することにより ,13〜30μmの層厚 のヒートシール性熱可塑性樹脂層が形成されることを特徴とする積層包装材料の製造方法。 【請求項2】は(1)と同じ。 3 本件決定の理由 本件決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,訂正発明1は,特開平1-202436号公報(甲3,以下「刊行物ア」という。)及び特公昭51-48511号公報(甲4,以下「刊行物イ」という。)に記載された発明並びに本件出願前に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ,特許法29条2項の規定により独立して特許を受けることができないものであるから,本件訂正は,特許法120条の4第3項において準用する,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる,改正前の特許法126条3項の規定に適合しないものであり,本件訂正は認められないとして,本件発明の要旨を本件訂正前の本件明細書の特許請求の範囲記載のとおりとした上,本件発明1は,刊行物アに記載された発明であり特許法29条1項3号に該当し,本件発明2は,刊行物ア,特開平3-243340号公報(甲5,以下「刊行物ウ」という。)及び特開昭60-23160号公報(甲6,以下「刊行物エ」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,同条2項に該当し,いずれも特許を受けることができないものであって,本件発明の特許は,拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認められ,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則14条の規定に基づく,特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条1項,2項の規定により取り消されるべきものとした。 |
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原告主張の決定取消事由
本件決定は,訂正発明1と刊行物アに記載された発明(以下「刊行物発明」という。)の一致点の認定を誤り(取消事由1),また,訂正発明2の要旨認定を誤った(取消事由2)ものであるから,取り消されるべきである。 1 取消事由1(訂正発明1に係る一致点の認定の誤り) (1) 訂正発明1 訂正発明1の要旨は,上記第2の2(2)のとおりである。訂正発明1においては,押し出し温度である270℃以上に臨界的意義はなく,積層包装材料の酸化ケイ素層上に270℃以上の押し出し温度でヒートシール性熱可塑性樹脂を押し出しコーティングする際に,その押し出し厚さを13〜30μmにコントロールすることにより,課題を解決し得るものである。 (2) 刊行物発明 ア 刊行物アには,レトルト食品用包装材料しか記載されていない。 イ 刊行物アには,刊行物発明の包装材料は,用途に応じてそのまま用いてもよいし,透明薄膜層上にヒートシール層,保護層などを設けてもよいこと,また,ヒートシール層は,袋,チューブ,スタンディングバッグなどの用途の場合には必要であるが,カップ,フタ材,トレイなどの用途の場合には必ずしも必要ではないことが記載されている。 これは,レトルト食品用包装材料を用いて袋,チューブ,スタンディングバッグなどを製造する場合には,必ず,当該材料のシールする部分にヒートシール層を設けなければならないが,一方で,カップ,トレイなどのフタ材においては,ヒートシール層を設けなくとも,接着剤などによってカップ,トレイなどにシールし得ることを意味する。 そして,レトルト食品用包装材料においては,内部にカレー,スパゲティー用ミートソース,食肉調理品などの調理品,半調理品などの重みがあるものを封入し包装するため,ヒートシール強度が弱いと,内容物の重みに耐えられず,シール部分がはく離して内容物がはみ出してしまうので,ヒートシール強度を確保するために,ヒートシール層厚を50μm以上にしなければならないというのが当業者の技術常識である。 これに対して,レトルト食品以外の包装材料において,特に,内容物が軽い,例えば,即席メンの場合には,ヒートシール強度がそれ程要求されないので,層厚が20〜30μmで足りる場合もあり得るが,内容物が重い場合は,それに応じてシール強度を高めるために,層厚を40,50μmと厚くする必要がある。 ウ ヒートシール層厚20〜100μmについて 刊行物アには,ヒートシール層について,通常,ドライラミネート法又は押し出し法によって設けられ,厚さとしては20〜100μmの範囲であればよく,好ましくは40〜80μmであると記載されている。 しかし,上記イの技術常識を踏まえて刊行物発明を正しく理解するならば,刊行物アには,ヒートシール層の厚さが40〜80μmのものについてしか記載されていないとみるべきであり,実際,実施例1においては,厚さ40μmの無延伸ポリプロピレンフィルムをヒートシール層として用いる場合についてしか記載されていない。 以上のことから,刊行物アには,一応,ヒートシール層厚20〜100μmとの記載があるものの,当業者の上記技術常識を勘案すれば,40μm未満,特に,訂正発明1における層厚30μm以下の場合の技術的課題を解決した発明が開示されているとは理解し得ない。 エ ドライラミネート法と押し出し法について 刊行物アには,ヒートシール層が,通常ドライラミネート法又は押し出し法によって設けられると記載されている。実際,ヒートシール層を酸化ケイ素透明薄膜層に設ける方法として,これらの方法がある。 ドライラミネート法と押し出し法とは,その工法が異なり,フィルムに対する物理的影響が全く異なる。すなわち,押し出し法では,溶融した高温状態のヒートシール層をフィルムに重ねるので,その熱のために,フィルム中の酸化ケイ素透明薄膜層又はプラスチック基材が伸縮し,酸化ケイ素層のき裂が生ずるおそれがあるのに対し,ドライラミネート法では,接着剤を塗布し,乾燥させた上でヒートシール層が圧着されるから,酸化ケイ素層に対する熱の影響を考える必要がない。 刊行物アに,ヒートシール層は通常ドライラミネート法又は押し出し法によって設けられ,厚さとしては20〜100μmの範囲であればよく,好ましくは40〜80μmであると記載されていても,実施例1においては,40μmの無延伸ポリプロピレンフィルムについて,ポリエステル系接着剤を3μmの厚さで塗布し,80℃で20秒間乾燥後,2kg/cm2 の加圧下で100℃×1秒間の条件でドライラミネートして袋用フィルムを作製したとしか記載されていない。すなわち,刊行物アには,一応,ドライラミネート法及び押し出し法,ヒートシール層厚20〜100μmについての記載があるものの,当業者の上記技術常識を考慮するならば,層厚40μm未満,特に,訂正発明1における層厚30μm以下の押し出し法を用いた場合の技術的課題について,これを解決した発明が開示されているとはいえない。 オ レトルト食品用包装材料を製造する際,高温で層厚50μmのヒートシール性熱可塑性樹脂層を形成した場合,その熱のために酸化ケイ素層自体の伸縮やべースフィルムの伸縮のためにき裂を生じ,その結果,酸素バリヤー性と水蒸気バリヤー性が低下するという問題が生ずる。ところが,刊行物アにおいては,むしろ,40〜80μmが好ましいとされており,上記課題が全く認識されていないことから,本件発明の技術的思想は開示されていない。 カ したがって,プラスチック基材と,このプラスチック基材の片面に設けられたケイ素酸化物の透明薄膜層と,この透明薄膜層上に更に設けられたヒートシール層から成る積層包装材料の製造方法であって,層厚20〜100μmの範囲のヒートシール層を,ドライラミネート法又は押し出し法によって形成することから成る積層包装材料の製造方法が刊行物アに記載されているとする本件決定の認定は誤りである。 (3) 一致点認定の誤り 以上のとおりであるから,訂正発明1と刊行物発明とが「『樹脂フィルム基材,酸化ケイ素層及びヒートシール性熱可塑性樹脂層が順次積層された積層包装材料の製造方法において,前記酸化ケイ素層上にヒートシール性熱可塑性樹脂を押し出しコーティングすることにより,20〜30μmの層厚のヒートシール性熱可塑性樹脂層を形成することからなる積層包装材料の製造方法』である点において一致」(決定謄本6頁<訂正明細書の請求項1に係る発明について>第2段落)するとの本件決定の認定は誤りである。 2 取消事由2(訂正発明2の要旨認定の誤り) (1) 訂正発明2の要旨 ア 訂正発明2においては,訂正発明1の積層包装材料の製造方法が前提となっており,上記のとおり,訂正発明1においては,ヒートシール性熱可塑性樹脂層の層厚が13〜30μmでなければならないが,一方で,ヒートシール性熱可塑性樹脂層を30μmよりも厚く形成せざるを得ない場合がある。 イ 本件明細書には,以下の二つの場合が開示されている。第1に,いったん,訂正発明1の方法で積層包装材料を製造した上,更に別のヒートシール性熱可塑性樹脂層を押し出し法により形成する場合,第2に,押し出しコーティングの際に,足りない厚さ分の樹脂フィルムを用意し,それと酸化ケイ素層との間に層厚13〜30μmのヒートシール性熱可塑性樹脂を押し出すことにより形成する場合である。そして,訂正発明2は,上記第2の場合である。 (2) 本件決定の認定の誤り ア 刊行物発明は,上記のとおり,酸化ケイ素層上に形成されたヒートシール性熱可塑性樹脂層の層厚が40〜80μmであることを前提とした発明であり,また,刊行物ウには,いったん押し出し法により積層包装材料を製造した上,更に別のヒートシール性熱可塑性樹脂層を押し出し法により形成することが開示されているにすぎず,刊行物エは,いったん押し出し法により積層包装材料を製造し,更にこのヒートシール性熱可塑性樹脂層の上にヒートシール性熱可塑性樹脂から成るフィルムをラミネートすることが開示されているにすぎないから,これらはいずれも訂正発明2と異なる。 イ 本件決定は,訂正発明2について,刊行物ア〜エに記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認定したのであるから,訂正発明2を,単に,押し出しコーティングの際に別のヒートシール性熱可塑性樹脂フィルムをラミネートする構成と認定して,その要旨認定を誤ったことは明らかである。 |
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被告の反論
1 取消事由1(訂正発明1に係る一致点の認定の誤り)について (1) 訂正発明1 本件決定は,訂正発明1を,訂正明細書の特許請求の範囲【請求項1】のとおり認定した。発明の要旨認定は,特段の事情がない限り,明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてすべきであり,このことは判例(最高裁平成3年3月8日判決・民集45巻3号123頁)の示すところである。原告の主張する,樹脂フィルム基材,酸化ケイ素層及びヒートシール性熱可塑性樹脂層が順次積層された積層包装材料の製造方法において,上記酸化ケイ素層上にヒートシール性熱可塑性樹脂を270℃以上の押し出し温度で押し出しコーティングすること,層厚13〜30μmのヒートシール性熱可塑性樹脂層を形成することは,いずれも,訂正明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項であるから,訂正発明1を構成するものである。したがって,本件決定の訂正発明1の認定に誤りはない。 (2) 刊行物発明 ア 刊行物アには,プラスチック基材と,当該プラスチック基材の片面に設けられた,ケイ素原子と酸素原子との比が1:0.3〜2であるケイ素酸化物の透明薄膜層とから成るバリヤー性を有する透明なレトルト食品用包装材料,透明薄膜層上に更にヒートシール層が設けられている上記レトルト食品用包装材料が記載されている。また,刊行物アでは,ヒートシール層に特に制限はなく,通常無延伸ポリプロピレン,ポリエチレン,エチレン-酢酸ビニル系共重合体,エチレン-アクリル酸系共重合体などのエチレン系のアイオノマーなどが挙げられ,ヒートシール層は通常ドライラミネート法又は押し出し法によって設けられ,層厚20〜100μmであればよく,好ましくは40〜80μmであると記載されている。 そして,本件決定は,刊行物アに記載されたレトルト食品用包装材料は,プラスチック基材,ケイ素酸化物の透明薄膜層及びヒートシール層から成る積層材料であり,かつ,レトルト食品を包装する積層包装材料であり,ヒートシール層の厚さは20〜100μmであればよいとの記載,ヒートシール層は通常ドライラミネート法又は押し出し法によって設けられるとの記載から,層厚20〜100μmのヒートシール層をドライラミネート法又は押し出し法によって形成することが記載されているとした。そして,本件決定は,刊行物アには,プラスチック基材と,このプラスチック基材の片面に設けられたケイ素酸化物の透明薄膜層と,この透明薄膜層上に更に設けられたヒートシール層から成る積層包装材料の製造方法であって,層厚20〜100μmのヒートシール層をドライラミネート法又は押し出し法によって形成することから成る積層包装材料の製造方法が記載されていると認定したものであり,刊行物アの上記記載に照らし,その認定に誤りはない。 イ 原告は,本件決定の上記認定に対し,(ア) 積層包装材料については,レトルト食品用包装材料しか開示されていない,(イ) ヒートシール層の層厚20〜100μmとの記載が,積層包装材料の製造方法としての発明として記載されていない,(ウ) ドライラミネート法又は押し出し法によって形成するとの記載は,積層材料の製造方法の発明として記載されておらず,刊行物アの実施例1にはドライラミネート法しか記載されていないと主張するが,以下のとおり失当である。 (ア) 刊行物アに記載されたレトルト食品用包装材料は,積層材料であり,しかも,レトルト食品を包装するものであるから,刊行物アには,積層包装材料としてのレトルト食品用包装材料が記載されている。レトルト食品用包装材料しか記載されていないことから積層包装材料が記載されていないという原告の主張は,誤りである。 (イ) ヒートシール層の層厚20〜100μmの範囲は,刊行物アに記載されたとおりのものである。原告は,レトルト食品の包装材料において,ヒートシール層厚を50μm以上にすることが技術常識であること,刊行物アにも,好ましくは40〜80μmであると記載され,実施例1に40μmの無延伸ポリプロピレンしか記載されていないことを主張するが,ヒートシール層の層厚20〜100μmの範囲が刊行物アに記載されている以上,この点に係る本件決定の認定は正当である。 (ウ) ヒートシール層をドライラミネート法又は押し出し法によって形成することについても,本件決定は,刊行物ア記載のとおりに認定したものである。 原告は,ドライラミネート法と押し出し法とが全く異なる方法であること,実施例にドライラミネート法についてしか記載がないことを主張するが,押し出し法によって形成することが記載されている以上,この点に係る本件決定の認定は正当である。 (3) 一致点の認定 ア 上記のとおり,本件決定における訂正発明1の認定及び刊行物発明の認定に誤りはなく,それらの認定に基づいてされた,本件決定の訂正発明1と刊行物発明との一致点の認定に,原告主張の誤りはない。 イ 原告は,訂正発明1と刊行物発明とが「『樹脂フィルム基材,酸化ケイ素層及びヒートシール性熱可塑性樹脂層が順次積層された積層包装材料の製造方法において,前記酸化ケイ素層上にヒートシール性熱可塑性樹脂を押し出しコーティングすることにより,20〜30μmの層厚のヒートシール性熱可塑性樹脂層を形成することからなる積層包装材料の製造方法』である点で一致」(決定謄本6頁<訂正明細書の請求項1に係る発明について>第2段落)するとの本件決定の認定は誤りであると主張する(第3の1(3))ので,これについて反論する。 (ア) 訂正発明1において,ヒートシール性熱可塑性樹脂層を層厚13〜30μmとすることは,訂正発明1の認定から明らかである。刊行物アに記載されたヒートシール層は,熱可塑性樹脂から成るのが普通であるから,ヒートシール性熱可塑性樹脂層が記載されているということができ,その層厚が20〜100μmの範囲であることも上記認定のとおりであり,そのうち20〜30μmの範囲は,訂正発明1における13〜30μmと重なっている。そこで,訂正発明1のヒートシール性熱可塑性樹脂層を13〜30μmの層厚とすることは,20〜30μmの層厚の範囲で刊行物発明と一致する。 (イ) 刊行物アには,ヒートシール層をドライラミネート法又は押し出し法によって形成することが記載されており,上記押し出し法が訂正発明1における押し出しコーティングに相当することは当業者にとって自明の事項であるから,上記(ア)の熱可塑性樹脂及びその層厚によれば,訂正発明1と刊行物発明とは,ヒートシール性熱可塑性樹脂を押し出しコーティングすることにより層厚20〜30μmのヒートシール性熱可塑性樹脂層を形成する点で一致している。 (ウ) 20〜30μmの層厚について,訂正発明1と刊行物発明とが一致していることは,上記(ア)のとおりである。 (エ) 刊行物アに記載されたレトルト食品用包装材料が積層包装材料であることは,上記(2)のとおりである。 2 取消事由2(訂正発明2の要旨認定の誤り)について (1) 本件決定の訂正発明2の要旨認定も,訂正明細書の特許請求の範囲【請求項2】のとおりとしたものであって,誤りはない。 (2) 訂正発明2の押し出しコーティングの際に別のヒートシール性熱可塑性樹脂フィルムをラミネートすることが,押し出しコーティングを2度行う場合を排除する特別の理由はなく,また,訂正発明2の構成を,1度の押し出しコーティングによって層厚30μm以上のヒートシール性熱可塑性樹脂フィルム層を積層した積層包装材料の製造が可能なものと認める理由もない。 そして,刊行物ウに開示された別のヒートシール性熱可塑性樹脂層は,押し出し法によって基体シートの蒸着面上のヒートシール性熱可塑性樹脂層上にフィルム状にラミネートされるのであり,刊行物エに開示されたポリプロピンレフィルムは,基体シートの蒸着面上に押し出し積層された溶融プラスチックに圧着してラミネートされるのであるから,少なくとも,プラスチックが溶融した状態でラミネートされるものということができ,いずれも,押し出しコーティングの際に別のヒートシール性熱可塑性樹脂フィルムをラミネートするものということができる。 また,刊行物エにおける,ダイから押し出されプラスチックの層上にポリプロピレンフィルムを圧着してラミネートするという開示事項から,押し出されたプラスチックの接着性によりフィルムをラミネートしていることは明らかであり,冷却により当該接着性が消失しないように押し出しとラミネートの時間差を小さくすることは,当業者が当然配慮すべき事項であるから,刊行物エに記載されたポリプロピレンフィルムの圧着を行うのも,ダイからの押し出しコーティングの際ということができるから,訂正発明2を原告の主張するように限定して把握しても,本件決定の認定に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正発明1に係る一致点の認定の誤り)について (1) 本件決定は,刊行物アには,層厚20〜100μmのヒートシール層をドライラミネート法又は押し出し法によって形成する積層包装材料の製造方法が記載されていると認定し(決定謄本6頁<訂正明細書の請求項1に係る発明について>第1段落),刊行物ア(甲3)には,「ヒートシール層は通常ドライラミネート法あるいは押出し法によって設られる。厚さとしては20〜100μmの範囲であればよく,好ましくは40〜80μmである」(3頁左上欄第3段落)との記載がある。原告は,本件決定の上記認定について,レトルト食品用包装材料においては,ヒートシール強度を確保するために,ヒートシール層厚を50μm以上にしなければならないという当業者の技術常識を無視するものであり,誤りであると主張する。 (2) そこで,原告の上記主張について判断する。 ア 「レトルト食品のすべて」(昭和52年日本衛生技術研究会発行,甲8)には,「内面の食品に接する側に使われるフイルムはヒートシール性を有するポリエチレンが使われる。レトルト温度が120℃の場合,ポリエチレンはそれ以上の耐熱性を有する必要があり,通常高密度ポリエチレンが使用されている。要求される性質としては,(1) 容易なシール性と高いシール強度 (2) 耐油性のあること (3) 匂い,異臭のないこと (4) 耐衝撃性に優れていること (5) 袋の引き裂きが容易であること (6) 抽出性の少ないこと これらの要求条件を満たすため通常厚み50-70ミクロンが使用されポリエチレンも強度補強のためブレンドして使用する」(91〜92頁「5-4-4.ポリエチレン」)と記載されている。 イ 「食品包装用語辞典」(1993年[平成5年]株式会社サイエンスフォーラム発行,甲10)には,「現在レトルト食品包装の主流であるパウチには,次の品質的要求がある。(1) 耐熱性(高温下の加圧加熱殺菌でパウチの変形,変色などの劣化がないこと),(2) バリヤー性(酸素,水分,紫外線,可視光などで食品の劣化がないこと),(3) 密封性(完全にシールができ,レトルト殺菌後も2.3kgf/15mm幅の密封強度があること),(4) 作業性,(5) 衛生性(食品衛生法にもとづく素材であること)」(616頁左欄第2段落)と記載されている。 ウ 「包材構成100問100答」(1994年[平成6年]株式会社東洋紡パッケージング・プラン・サービス発行,甲11)には,「食品衛生法では,レトルトパウチは次の全ての条件を満たすものでないと,いけないとしている。(a) 遮光性を有し,かつ,気体透過性のないこと(非油性食品の場合はこのかぎりでない)(b) 耐熱性(破損,変形,着色,変色などを生じないこと)(c) 耐圧縮強度(漏れのないこと,表参照)(d) 熱封緘強度(2.3kgf/15mm以上であること)(e) 落下衝撃強度(漏れのないこと,表参照)」(75頁「3.レトルトパウチの規格」),「ドライラミ,押出ラミ共にPEの厚みが厚くなるとシール強度が高くなり,ドライラミでは4kgf/15mm,押出ラミでは2kgf/15mmのシール強度が得られている。このドライラミと押出ラミのシール強度の差は,表基材(OP25μ)との接着力の差によるものである。ドライラミは接着力は高いが,押出ラミはそれほど高くない。どれくらいのシール強度が要求されるかでPEの厚みを決めれば良い」(83頁「1.シーラントの厚みとシール強度」)と記載されている。 また,同証の「4.構成例」の表(76頁)には,「レトCP(60〜80)」「レトCP(60〜70)」「レトCP(50)」と記載され,「1.シーラントの厚みとシール強度」の左グラフ(83頁)には,押出ラミのPE厚みが20〜40μmではシール強度が2kgf/15mm未満であり,60μmで2kgf/15mm以上となること,ドライラミのPE厚みが30μmではシール強度が2kgf/15mm付近であるが,40〜60μmでは2.3kgf/15mmを超えていることが示されている。さらに,「4.シーラントの用途別厚み」の表(84頁)の備考欄には,「内容物が軽い即席めんでは,シーラントの厚みは20〜30である」,「コンニャクは内容物が150〜300gなので,シーラントが25〜50μと厚くなっている」,「内容物が500〜1,000gの袋のシーラントは,38〜50μと厚い」,「重量物になるとLLDPEでも,50〜60μとなる」と記載されている。 エ 「最新機能包装実用事典」(1994年[平成6年]株式会社フジ・テクノシステム発行,甲12)には,レトルトパウチ食品用容器に関して,「法律的には,完全にシールができ,レトルト殺菌後も2.3kgf/15mm幅の密封強度を確保する必要がある」(211頁左欄第1段落)と記載されている。 オ 「レトルト食品の基礎と応用」(1995年[平成7年]株式会社幸書房発行,甲13)には,「表7.8に代表的なレトルトパウチの構成と物性表を示した。この表からも分かるように,適正使用温度120℃までのパウチは,内層のシーラントに特殊高密度ポリエチレンを使用しているが,135℃の温度で加熱可能なパウチには,シーラントとして特殊ポリプロピレンフィルムを使用している」(168頁第2,第3段落)と記載され,167頁の「表7.8 各種透明レトルトパウチ(通常タイプ)の構成と物性表」には,「フィルム構成」として,「ポリエステル(12μm)/特殊ポリエチレン(70μm)」,「ナイロン(15μm)/特殊ポリエチレン(70μm)」,「ポリエステル(12μm)/特殊ポリプロピレン(70μm)」,「ポリエステル(12μm)/ナイロン(20μm)/特殊ポリプロピレン(70μm)」,「ナイロン(15μm)/特殊ポリプロピレン(70μm)」と記載され,「シール強度」はすべて4.5kgf/15mmと記載されている。 (3) 以上の記載によれば,レトルト食品包装材料は,食品衛生法上,ヒートシール強度を2.3kgf/15mm以上有する必要があり,ヒートシール層の厚さが同じであれば,ドライラミネート法が押し出し法よりもヒートシール層のヒートシール強度が高く,ドライラミネート法では40μmの層厚で必要なヒートシール強度を確保し得るが,押し出し法では60μm程度の層厚がなければ必要なヒートシール強度を確保し得ないことが当業者の技術常識であり,また,レトルト食品包装材料におけるヒートシール層としては,厚さが50〜70μmのものが一般的に使用されてきたものと認められる。 (4) そして,刊行物発明は,レトルト食品用包装材料に関する発明であるから,上記技術常識に基づいて刊行物アの記載内容を検討する。 ア 刊行物ア(甲3)には,「ヒートシール層は通常ドライラミネート法あるいは押出し法によって設けられる。厚さとしては20〜100μmの範囲であればよく,好ましくは40〜80μmである」(3頁左上欄第3段落)として,第1に,ヒートシール層はドライラミネート法又は押し出し法によって設けられること,第2に,ヒートシール層の厚さは20〜100μmの範囲であればよく,好ましくは40〜80μmであること,という二つの事項が記載されている。 イ ところで,当業者の上記技術常識によれば,レトルト食品包装材料においては,食品衛生法上,ヒートシール強度を所定値以上有する必要があるから,刊行物アにおいても,ヒートシール層の製造方法及びその厚さは,ヒートシール強度が上記所定値以上になることを前提として選択されるものである。 また,上記技術常識によれば,ヒートシール層の厚さが同じであれば,ドライラミネート法が押し出し法よりもヒートシール層のヒートシール強度が高いのであるから,ヒートシール強度を所定値以上にするためには,ヒートシール層をドライラミネート法で製造する場合よりも,押し出し法で製造する場合の方が,その層を厚くする必要がある。 さらに,上記技術常識によれば,レトルト食品用包装材料のヒートシール層の厚さは,ドライラミネート法による場合は40μm以上,押し出し法による場合は60μm程度でなければ,食品衛生法上要請される基準,すなわち,2.3kgf/15mm以上のヒートシール強度が満たせないものであるから,上記のように,刊行物アに,ヒートシール層の厚さは20〜100μmの範囲であればよいと記載されていても,この記載に接した当業者は,食品衛生法上要請される基準を満たすため,好ましいと記載されている40〜80μmの層厚を有することが必要であると理解する。 仮に,刊行物アにおいて,ドライラミネート法による場合には,ヒートシール層の厚さが20μm以上あれば必要なヒートシール強度を満たすものであるとしても,上記のように,押し出し法による場合には,ドライラミネート法による場合よりもヒートシール層の厚さを厚くする必要があるから,「包材構成100問100答」(甲11)の左グラフ(83頁)によれば,ドライラミネート法により必要なヒートシール強度を満たすためには,ヒートシール層の厚さが20μm以上必要であるならば,押し出し法による場合には,その厚さは20μm程度では足りず,少なくとも30μmを超える厚さが必要であると認められる。 (5) 以上のとおり,刊行物アに「ヒートシール層は通常ドライラミネート法あるいは押出し法によって設けられる。厚さとしては20〜100μmの範囲であればよく,好ましくは40〜80μmである」と記載されているけれども,上記技術常識を知る当業者が刊行物アの上記の記載に接した場合には,食品衛生法の基準により,押し出し法によって設けたヒートシール層の厚さを40〜80μmの範囲とする技術事項に想到することが自然であり,これを20〜30μmの範囲とする技術事項に想到することは,当業者にとって容易にし得ることではない。 そうすると,刊行物発明が,押し出しコーティングにより層厚20〜30μmのヒートシール性熱可塑性樹脂層を形成するものであるとした本件決定の認定は誤りであって,訂正発明1と刊行物発明が「樹脂フィルム基材,酸化ケイ素層及びヒートシール性熱可塑性樹脂層が順次積層された積層包装材料の製造方法において,前記酸化ケイ素層上にヒートシール性熱可塑性樹脂を押し出しコーティングすることにより,20〜30μmの層厚のヒートシール性熱可塑性樹脂層を形成することからなる積層包装材料の製造方法」である点において一致するとした本件決定の認定も誤りに帰する。 (6) 被告は,刊行物アの,ヒートシール層の厚さが20〜100μmの範囲であればよいとの記載,ヒートシール層は通常ドライラミネート法又は押し出し法によって設けられるとの記載から,層厚が20〜100μmの範囲のヒートシール層をドライラミネート法又は押し出し法によって形成することは,刊行物アに記載されており,本件決定の認定に誤りはない旨主張する。 しかしながら,刊行物アの上記記載が,形式的には被告主張のようなものであるとしても,上記のとおり,この記載に接する当業者は,食品衛生法上の制約に係る上記技術常識を有するから,押し出し法によって設けたヒートシール層の厚さを20〜30μmとすることを実質的には開示していないというべきであって,被告の主張は採用することができない。 2 以上のとおりであるから,原告主張の決定取消事由1は理由があり,この誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取消事由2について判断するまでもなく,本件決定は取消しを免れない。 よって,原告の請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 長沢幸男 |