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事件 平成 13年 (ネ) 3006号 費用,損害賠償請求控訴事件
控訴人 株式会社マグリーダ
訴訟代理人弁護士 角田雄彦
被控訴人 東京フェライト製造株式会社
訴訟代理人弁護士 柳田幸男
同 野村晋右
同 秋山洋
同 河野敬子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/12/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,1億0732万1066円,内5952万1168円に対する平成8年5月12日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内4779万9898円に対する平成9年7月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。
事案の概要
控訴人は,被控訴人との間で締結した本件基本契約において,控訴人の特許権を侵害する第三者に対して協力して侵害を排除することとし,これに要する訴訟費用を折半して負担する合意をしたとして,米国における第1,第2の訴訟について訴訟費用の半額の支払を請求し,また,第2訴訟の訴訟費用は,被控訴人が控訴人に無断で控訴人の特許権を実施し,その特許番号を付した商品を販売したという,上記契約の義務違反による損害であるとして,債務不履行に基づく損害賠償を求めている。控訴人は,第2訴訟の訴訟費用については,これを折半して負担する合意に基づく請求と,上記債務不履行に基づく損害賠償とを,第2訴訟の訴訟費用の半額の限度で選択的に請求するものである。
原審は,控訴人と被控訴人は,第1訴訟について訴訟費用を折半して負担する合意をしたとは認められないが,第2訴訟についてはその合意が認められ,また,被控訴人に上記契約の債務不履行があったとは認められないとした上,第2訴訟の訴訟費用の半額を負担する被控訴人の債務は,被控訴人の控訴人に対する手形債権を自働債権とする相殺により消滅したとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
本件の当事者間に争いのない事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正,付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「2 前提事実」及び「3 争点及び争点に関する当事者の主張」のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の補正 (1) 原判決5頁2行目の「米国294特許」から3行目の「根拠としていた」までを削り,18行目の「磁石ロッククロージュア」の次に「(以下「本件製品」という。)」を加える。
(2) 同6頁14行目の「特許」を「実用新案権」に,同8頁12行目の「株式会社東京巧作所」を「有限会社東京巧作所」にそれぞれ改める。
(3) 同12頁20行目の「暫定差止命令」の次に「(以下「暫定差止命令」という。)」を加え,22行目及び23行目の「同暫定差止命令」をいずれも「暫定差止命令」に改める。
(4) 同13頁2行目の「磁石ロッククロージュア(以下「本件製品」という。)」を「本件製品」に改め,20行目の「米国436特許」の次に「に係る製品」を加える。
2 控訴人の当審における主張 (1) 米国第1訴訟の訴訟費用折半の合意 被控訴人は,本件基本契約締結以前,控訴人に無断で米国内における控訴人の総代理店を名乗っており,控訴人の米国294特許に係る総代理店の地位を得て米国市場に進出することを強く希望していた。控訴人代表者Aは,被控訴人の希望を受けて,契約金3億円で米国294特許に係る総代理店契約を締結することを被控訴人代表者Bと約束していた。そして,Aは,本件基本契約締結以前から,Bに対し,米国第1訴訟の存在を伝えていた。A及びBは,契約金の支払を係属中の米国訴訟の判決が下された時点で行うこと,係属中の米国訴訟の訴訟費用の半分ずつを分担すること,控訴人又はAに対する契約料等を被控訴人が支払わないこととして,本件基本契約を締結した。
本件基本契約は,費用分担の対象となる訴訟,分担すべき費用の範囲及び支払方法等を規定していないが,控訴人及び被控訴人は,継続的契約を締結して信頼関係を醸成していたため,上記細目については条項を設けなかった。契約の性質上,当然に訴訟費用の負担を定めるべき契約の場合には,訴訟費用を分担するとの条項だけでは抽象的条項にすぎないかもしれないが,当然に訴訟費用の負担が合意されるべきでない契約に訴訟費用の分担が合意される場合には,その条項だけでも十分に具体的なものと評価し得る。
被控訴人は,米国第1訴訟の通訳及び弁護士との交渉をすべて被控訴人の米国駐在員である保科に任せるよう強く要求した。そのため,米国第1訴訟について米国弁護士と連絡をとっていたのは保科のみであり,同人の関与は,被控訴人が米国第1訴訟の係属を知っていたことを示すものである。
本件基本契約は,6条において,何の留保もなく,訴訟が係属している米国294特許につき控訴人が権利保証する旨規定し,14条3号において,第三者の工業所有権と抵触する場合には控訴人がその責任を負うと読み得る条項が規定されている。控訴人と被控訴人は,米国第1訴訟を通じて権利侵害を共同して排除していくことを確認しており,だからこそ,権利抵触について不安を持つことなく控訴人による権利保証がされた。このような権利保証規定及び責任条項が存在することは,控訴人及び被控訴人が米国第1訴訟を意識していたことを示すものである。
米国第1訴訟の係属中又はその終了時点において,控訴人が被控訴人に対する訴訟費用の請求をしなくても,費用折半の合意であったこと,訴訟主体が控訴人であったこと,精算が煩雑であったことなどから請求が遅れたと解され,不自然なことではない。
本件基本契約締結当時,控訴人は,プラマグホックを月100万ないし150万個製造しており,これを月200万個に増産することは十分可能であった。
そして,米国市場は購買人口が日本国内市場の2倍程度あり,年商12億円を見込むことができた。本件基本契約の契約金が3億円とされた根拠は,このように具体的なものであった。
東京巧作所から222号実願に係る権利を譲り受けたのは,ターモであって,控訴人ではないから,ターモと東京巧作所間の契約をBが仲介したことに対する謝礼として,控訴人が無償で本件契約を締結したということはできない。また,控訴人とターモは,代表者を同じくするけれども,完全に別人格であるから,控訴人と被控訴人間における本件基本契約の締結を東京巧作社とターモ間の契約の謝礼と考えることはできず,したがって,東京巧作社とターモ間の契約が無償であったからといって,本件契約も無償とするのは不合理である。
また,ターモは,222号実願を実用化するために不可欠なメッキないし塗装皮膜に係る特許の特許権者であったから,222号実願は,ターモの協力なくして実用化し得なかった。東京巧作社は,ターモに222号実願に係る権利を無償で譲渡しても,ターモから上記各特許及び222号実願の許諾を受けることができ,ターモは,上記各特許の実施料を得ることができるから,両者の対価的均衡がとれていた。
(2) 被控訴人の本件基本契約の債務不履行 被控訴人は,本件基本契約を締結したことにより,取扱制限遵守義務,通知義務及び不公正競業行為避止義務に加え,契約上の信義則に基づき,被控訴人の支配可能な領域において控訴人の損害を拡大するような製品流通の拡大を阻止すべき義務,被控訴人が米国第1和解に違反しているかのような外観を呈する本件製品が米国国内で流通することを阻止すべき義務,暫定差止命令に抵触する可能性のある行為を回避すべき義務を負った。
米国第2訴訟は,「米国436特許」及び「TOKO」の刻印のある本件製品が市場に出回っていることから提訴されたが,本件製品は,被控訴人が控訴人に無断で東京巧作所に米国436特許の実施をさせ,米国のパン・インダストリー社に販売させたものであるから,被控訴人は,上記の各義務に違反したこととなる。
米国436号特許に係る発明は,先願である222号実願のものと同一であれば特許されないはずであるし,222号実願自体,特願昭61-40344に変更された後,拒絶査定が確定したから,222号実願の改良発明である。控訴人が被控訴人ないし東京巧作所に対して222号実願の実施を許諾したからといって,これと異なる米国436号特許についてまで許諾したということはできない。
(3) 審理不尽 控訴人は,原審において,控訴人代表者A及び証人Cの尋問を請求し,いったんは採用されたものの,採用が取り消され,両名の尋問が行われないまま弁論が終結された。原審において,被控訴人代表者の尋問はされたが,その結果を踏まえた主張もなく原判決がされた。その理由は,尋問が採用された上記両名の陳述書の提出を怠るなど,原審における控訴人代理人の職務懈怠にあり,控訴人本人に帰責事由はないから,控訴審において実質的審理が尽くされるべきである。
3 被控訴人の当審における主張 (1) 米国第1訴訟の訴訟費用折半の合意について 訴訟は,相手方や裁判所の対応いかんにより,いつ終了するか予測不可能であり,しかも,米国の弁護士費用は高額となることが容易に予想されるから,控訴人と被控訴人が継続的取引関係にあったからといって,負担すべき訴訟費用の範囲,支払方法,支払時期等の詳細を何ら取り決めずに訴訟費用折半の合意をすることはあり得ない。
本件基本契約が締結された昭和60年8月22日の時点で,米国第1訴訟は既に係属していたのであるから,仮に,控訴人と被控訴人間で訴訟費用折半の合意がされたのであれば,本件基本契約中で米国第1訴訟が明示されているはずであるが,本件基本契約には,米国第1訴訟についての記載がない。
被控訴人は,本件基本契約締結後の同年12月ころ,控訴人から,AP社との訴訟のため,英語ができる社員に通訳を努めてほしいとの依頼を受けた。被控訴人は,大事な得意先であった控訴人のために協力することとし,保科が米国での宣誓供述手続において通訳を務めた。保科は,可能な範囲で控訴人のために米国第1訴訟の通訳を務めたが,AがCを通訳として採用した後は,ほとんど通訳を務めていない。
控訴人は,米国第1訴訟の係属中又は終了時点で被控訴人に費用を請求しなかったことについて,費用折半の合意であったこと,精算が煩雑であったことなどを主張するが,米国弁護士からは,毎月,作業項目に対応した請求書が送付されていたから,控訴人は,請求書の金額から米国第1訴訟に無関係なものを除外して2分すれば足り,精算に何ら煩雑な点はない。
控訴人によるプラマグホックの米国輸出に係る売上は,昭和61年当時約12万4000ドル,1ドルを150円として換算して約1860万円,昭和62年当時約5万ドル,同様に換算して約750万円にとどまっており,Bが年商12億円を見込んで,契約金を3億円として本件基本契約の締結を申し出ることはあり得ない。また,被控訴人は,本件基本契約締結以前から,米国294特許に係る製品を控訴人から購入して香港等に輸出しており,控訴人の代理店としての仕事を事実上行っていたから,本件基本契約は,3億円の契約金を支払うほど魅力的なものではなかった。
ターモは,Aが代表取締役を務め,控訴人の製造販売する製品に係る特許等を保有管理する会社であり,控訴人ないしAと実質的に一体の会社である。他方,東京巧作所代表者飯村は被控訴人の元社員であり,B及びその妻が東京巧作所株式の50%を保有するなど,東京巧作所と被控訴人は親しい関係にあった。Aは,222号実願の譲渡契約締結当時,飯村とは取引関係も面識もなく,Bの仲介なくして222号実願を譲り受けることは困難であった。また,ターモは磁石にメッキないし塗装皮膜を施す技術を保有していたが,この技術は222号実願の考案を商品化するために不可欠なものではなく,また,当時広く知られていた価値の低い技術であったのに対し,222号実願は,プラマグホックの基本的考案であり,価値の高いものであったから,222号実願とターモの上記技術とは対価的均衡がとれていなかった。したがって,Bが222号実願の譲渡を仲介したことの謝礼として,本件基本契約が無償で締結されたのである。
米国436特許が問題となっていることを被控訴人が知ったのは,米国第2訴訟が始まった後の平成4年4月ころである。被控訴人が,暫定差止命令の発令後,米国436特許は米国891特許に抵触するおそれがあるとの連絡を受けていたならば,被控訴人は,米国436特許に係るプラマグホックの輸出をやめていたはずである。
(2) 被控訴人の本件基本契約の債務不履行について 米国436特許の発明は,ターモから東京巧作所に対して実施許諾された222号実願の考案と同一内容又は改良発明であり,東京巧作所は,米国436特許に係る製品の製造販売を許諾されていた。しかも,Bは,米国436特許が登録された後,その特許番号が刻印された製品を販売する旨をAに伝えている。
被控訴人は,本件基本契約締結時,米国第1訴訟が係属したこと,米国第1和解が成立したことを知らず,平成4年9月にAから訴訟費用の請求をされ,初めて米国第1和解の存在を知ったのであるから,被控訴人には,米国第1和解に基づく義務の違反については,予見可能性がない。また,AP社の米国第2訴訟の訴状において,暫定差止命令の違反は請求原因とされていないように,被控訴人に命令違反はない。仮に,本件製品が米国891特許に抵触するものであったとしても,被控訴人は,Aに対して本件製品を販売する旨伝えており,Aは,これを承知の上で,別訴も許すという米国第1和解をしたのであるから,被控訴人に本件基本契約の義務違反はない。
仮に,被控訴人が米国436特許を無断で実施したのであれば,控訴人がその事実を知った時点で,速やかに被控訴人に対し米国436特許の侵害に基づく損害賠償を請求したはずである。しかしながら,控訴人は,本件においても,被控訴人に対して米国436特許の侵害に基づく損害賠償を請求していない。
また,仮に,被控訴人が米国436特許を無断で実施したとしても,その行為は本件基本契約に基づく義務違反ではないから,被控訴人について本件基本契約の債務不履行があったということはできない。仮に,被控訴人が米国436特許の特許権を侵害したとしても,控訴人は不法行為に基づく損害賠償を請求し得るにとどまり,控訴人が不法行為の事実を知ったときから3年で損害賠償請求権は時効消滅するから,控訴人は上記消滅時効援用する。
(3) 審理不尽について 控訴人代表者A及び証人Cが原審で尋問がされなかったのは,原審における控訴人代理人の故意又は重過失によるものであるから,当審で再度尋問が申請されても,時機に後れた攻撃防禦方法として却下されるべきであり,帰責事由のない被控訴人に対し尋問による不利益を及ぼすべきではない。
当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断するが,その理由は,次のとおり補正,付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の補正 (1) 原判決18頁10行目の「特許」を「実用新案」に,11行目の「555号実用新案」を「505号実用新案」にそれぞれ改める。
(2) 同19頁1行目ないし2行目の「実用新案を受ける権利」を「実用新案登録を受ける権利」に,14行目の「乙第4号証」を「甲第4号証」に,22行目の「第32号証」を「第33号証」にそれぞれ改める。
(3) 同20頁7行目「Aに断った上で,」を削り,12行目の「至たり」を「至り」に改める。
(4) 同22頁3行目ないし11行目を削り,25行目「米国436特許は,」から同23頁1行目「であるから,」までを「控訴人及び被控訴人は,協力して,被控訴人及び東京巧作所がAの米国436特許を盗用し無断で本件製品を販売したことにするための宣誓供述書を作成して,米国第2訴訟に臨んだのであり,かつ,米国436特許と222号実願の権利とが,互いに同一又は密接に関連する権利であると認識していたことが認められるから(原審被控訴人代表者本人),」に改める。
(5) 同23頁13行目「米国436特許は,」から14行目「であるから,」までを「控訴人及び被控訴人は,協力して,被控訴人及び東京巧作所がAの米国436特許を盗用し無断で本件製品を販売したことにするための宣誓供述書を作成して,米国第2訴訟に臨んだのであり,かつ,米国436特許と222号実願の権利とが,互いに同一又は密接に関連する権利であると認識していたことが認められるから,」に改める。
(6) 同頁25行目ないし24頁5行目を,以下のとおりに改める。
「AP社は,本件製品を米国に輸入する行為等が同社の特許である米国891特許及び米国468特許の特許権を侵害すると主張して,米国第2訴訟を提起したものであるところ,本件製品が,米国第2訴訟において,上記各特許の侵害品であるとして訴えられたからといって,被控訴人が本件製品を我が国から米国へ輸出した行為が,米国における輸入行為として,これら米国特許の特許権を侵害したことは何ら推認されない。また,本件においては,上記各米国特許の特許権の内容も,本件製品の構造も不明であるから,被控訴人ないし東京巧作所がAP社の特許権を侵害した事実は,到底認められない。ところで,控訴人は,被控訴人の本件基本契約8条の取扱制限遵守義務違反の債務不履行により被った損害として,AP社から米国第2訴訟を提起され,これに応訴したことによる訴訟費用相当額を主張する。そうすると,仮に,被控訴人が本件基本契約8条の取扱制限遵守義務に違反して本件製品を輸出したとしても,その行為がAP社の上記各特許の特許権を侵害したものでない限り,米国第2訴訟におけるAP社の請求は理由がないものとして棄却されるべきであったということができ,AP社がこのような理由のない米国第2訴訟を提起したのであれば,控訴人が米国第2訴訟に応訴するために支払った訴訟費用は,AP社による理由のない米国第2訴訟の提起によって支払を余儀なくされたものであって,被控訴人による本件製品の輸出行為は,理由のない米国第2訴訟に応訴するために控訴人が訴訟費用を支払ったこととの間に,相当因果関係を認めることはできない。」 2 控訴人の当審における主張について (1) 米国第1訴訟の訴訟費用折半の合意 ア 上記引用に係る原判決21頁3行目ないし22頁2行目に認定判断のとおり,仮に,本件基本契約締結に際し米国第1訴訟の訴訟費用を折半する合意がされたのであれば,その契約書中で,費用折半の対象となる米国第1訴訟の特定,折半すべき費用の範囲及び支払方法を規定するのが通常であること,また,控訴人が米国第1訴訟の係属中又はその終了時点で訴訟費用の負担を請求していないことに照らすと,Aの陳述書(甲3,60,63)中,本件基本契約締結に際し米国第1訴訟の訴訟費用を折半する合意がされたとする部分は採用することはできず,他に上記合意を認定するに足りる確たる証拠はない。
イ 控訴人は,控訴人及び被控訴人が継続的契約を締結して信頼関係を醸成していたため,本件基本契約において,費用分担の対象となる訴訟,分担すべき費用の範囲及び支払方法等を規定していないとか,当然に訴訟費用の負担が合意されるべきでない契約に訴訟費用の分担が合意される場合には具体的条項と評価し得るなどと主張する。
しかしながら,一般に,訴訟費用の額は,訴訟の進行いかんに大きく左右され,その予測は困難である場合が少なくない上,米国第1訴訟にあっては,米国特許権の侵害の成否が争われているという点で,訴訟の進行を予想することが甚だ困難であり,かつ,米国の弁護士費用は訴訟の長期化等により極めて高額となることがまれではないから,本件基本契約の締結時点で既に係属していた米国第1訴訟について,本件基本契約の契約書中で何ら規定しないままその訴訟費用を折半する旨合意したというのは不自然であり,控訴人の主張は,採用することができない。
ウ また,控訴人は,米国第1訴訟の係属中又はその終了時点で控訴人が被控訴人に対する訴訟費用の請求をしなかったことについて,費用折半の合意であったこと,訴訟主体が控訴人であったこと,精算が煩雑であったことなどから請求が遅れたと主張する。
しかしながら,仮に,米国第1訴訟の訴訟費用を折半することが合意されたならば,少なくとも,米国第1訴訟の終了時点では,既にその訴訟費用が高額に上っていたことは判明していたはずであるから,その精算がある程度煩雑であっても,これをいとわずに被控訴人に費用負担を請求するのが自然である。したがって,控訴人が米国第1訴訟の係属中又はその終了時点で被控訴人に対する訴訟費用の請求をしなかったことは,米国第1訴訟の訴訟費用を折半する合意が存在したとの認定を妨げる間接事実として,これを参酌すべきである。控訴人は,費用折半の合意であったこと,訴訟主体が控訴人であったことなどの事情についても主張するが,いずれも,控訴人が米国第1訴訟の係属中又はその終了時点で被控訴人に対する訴訟費用の請求をしなかったことの理由としては薄弱であり,費用折半の合意が認められないとの上記認定を左右するものではない。
エ さらに,控訴人は,被控訴人が控訴人の米国294特許に係る総代理店の地位を得て米国市場に進出することを強く希望し,3億円の契約金を提示したという本件基本契約締結に至る経緯,控訴人が米国294特許につき権利保証し,第三者の工業所有権と抵触する場合には控訴人がその責任を負う条項が規定されていること,米国第1訴訟の訴訟費用を折半することで本件基本契約に関して控訴人と被控訴人間の対価的均衡がとれることを主張する。
しかしながら,控訴人の主張する本件基本契約締結に至る経緯,権利保証及び責任条項,対価的均衡については,いずれも,上記のとおり多額に上ることも予測された米国第1訴訟の訴訟費用について,その折半の合意を推認させるほどのものではない。すなわち,上記訴訟費用は,訴訟進行のいかんによっては,本件基本契約締結の対価的均衡をほとんど無意味にするほどの多額に上るものであるから,対価的均衡など重要性の低い事情から,より重要性の高い訴訟費用負担の合意の存否を推認することはできないといわざるを得ない。また,企業が契約を締結するかどうかは,将来の予測を伴った種々の要因を総合した経営判断により決定されるものであり,一見すると一方当事者に不利益な条項が契約中に規定されていても,総合的経営判断に基づいてあえて合意がされることもあるから,およそ経営判断として不自然,不合理なものであれば格別,軽々に特定の合意の存否及び内容を推認させるものと解することはできない。控訴人の主張する上記事実関係は,いずれも,本件基本契約の契約書中に規定のない訴訟費用折半の合意を推認させるに足りるものではない。
オ 控訴人は,保科の関与についても主張するが,被控訴人の関係者が通訳を務めたということは,訴訟費用折半の合意の存否を認定するに当たって,さしたるものではない。
カ 東京巧作所から222号実願に係る権利を譲り受けたターモと控訴人との関係,ターモのメッキないし塗装皮膜に係る特許の重要性についての控訴人の主張は,いずれも,本件基本契約に関して控訴人と被控訴人間の対価的均衡がとれているかどうかに関する事実関係であるが,この対価関係がさしたるものでないことは上記のとおりである。
(2) 被控訴人の債務不履行 控訴人は,当審における新たな主張として,被控訴人が本件基本契約を締結したことにより,契約上の信義則に基づき,被控訴人の支配可能な領域において控訴人の損害を拡大するような製品流通の拡大を阻止すべき義務,被控訴人が米国第1和解に違反しているかのような外観を呈する本件製品が米国国内で流通することを阻止すべき義務,暫定差止命令に抵触する可能性のある行為を回避すべき義務を負ったと主張する。
しかしながら,被控訴人がこれら信義則上の義務を負うとする控訴人の主張は,その法的根拠が明らかでなく,本件基本契約の内容に照らしても,被控訴人がこのような信義則上の義務を負うと解すべき根拠はなく,結局,被控訴人が上記信義則上の義務を負うと認めることはできない。また,上記のとおり,控訴人は,被控訴人の債務不履行により被った損害として,AP社により提起された米国第2訴訟に応訴するために支払った訴訟費用相当額を主張するところ,この支払は,控訴人が,原審において,被控訴人による本件基本契約上の債務不履行により控訴人が被った損害であると主張したものと同一であって,この支出が被控訴人ないし東京巧作所による本件製品の我が国から米国への輸出行為と相当因果関係を欠くことは,本件基本契約上の債務不履行について認定判断した上記1(6)のとおりである。
したがって,この点においても,被控訴人による信義則上の債務不履行に基づく控訴人の請求は,理由がないものというべきである。
(3) 審理不尽 なお,控訴人は,原審の審理不尽についても主張するが,当審において5回の口頭弁論が開かれ,控訴人に十分な主張立証の機会が与えられ,現に,控訴人代表者Aの陳述書(甲60,63,68)が取り調べられている。したがって,控訴人の審理不尽の主張は,理由がない。
3 結論 以上のとおり,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 長沢幸男
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