関連審決 | 審判1999-10746 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17行ケ10312審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10818審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ14321特許権譲渡代金請求事件 | 判例 | 特許 |
不服20058936 | 審決 | 特許 |
不服20053934 | 審決 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 有用性 / 創作性(創作) / 方法の発明 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 技術的手段 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 発明の概要 / 優先権 / 国内優先権 / 着想 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 混同 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
404号
審決取消請求事件
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原告 日本臓器製薬株式会社 訴訟代理人弁理士 萼経夫 同 中村寿夫 同加藤勉 被告 特許庁長官太田 信一郎 指定代理人星野浩一 同村山隆 同 山口由木 同 高木進 同 大橋良三 同 涌井幸一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/12/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第10746号事件について平成12年8月29日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成2年11月21日,発明の名称を「病態モデル動物の作製方法」とする発明について特許出願をしたが(国内優先権主張平成元年11月24日(以下「本件優先権主張日」という。)),平成11年5月14日,拒絶査定を受けたので,同年7月1日,これに対する不服の審判の請求をした。特許庁は,これを平成11年審判第10746号事件として審理し,その結果,平成12年8月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年9月25日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲 「(1)アセチルコリン又はヒスタミンをモルモットに吸入させ,その吸入開始からモルモットが呼吸困難によって横転するまでの時間を測定し,0.08%のアセチルコリン又は0.025%のヒスタミンに対する横転時間が150秒以下であるモルモットを気道過敏系モルモットとして選抜し,兄妹交配,いとこ交配及び選択交配を組み合わせて少なくとも5世代にわたる継代選抜を行い,上記気道過敏系モルモットの出現率が5世代において90%以上となるように繁殖させて気道過敏系モルモットを作製する方法。 (2)モルモットがHartley系モルモットである特許請求の範囲第1項記載の方法。 (3)特許請求の範囲第1項又は第2項記載の方法によって作製された気道過敏系モルモット。 (4)アセチルコリン又はヒスタミンをモルモットに吸入させ,その吸入開始からモルモットが呼吸困難によって横転するまでの時間を測定し,0.08%のアセチルコリンに対する横転時間が600秒以上又は0.025%のヒスタミンに対する横転時間が350秒以上であるモルモットを非気道過敏系モルモットとして選抜し,兄妹交配,いとこ交配及び選択交配を組み合わせて少なくとも5世代にわたる継代選抜を行い,上記非気道過敏系モルモットの出現率が5世代において100%となるように繁殖させて非気道過敏系モルモットを作製する方法。 (5)モルモットがHartley系モルモットである特許請求の範囲第4項記載の方法。 (6)特許請求の範囲第4項又は第5項記載の方法によって作製された非気道過敏系モルモット。」 (以下,請求項1によって特定される発明を「本願発明」という。) 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,「Bronchial Reactivities in Guinea Pigs to Acetylcholine or Histamine Exposure」(「モルモットにおけるアセチルコリン及びヒスタミン吸入に対する気道反応性」,Exp.Anim.38(2),107-113,1989,以下「引用刊行物」という)に記載された技術(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである,とするものである。 審決の認定した本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 (一致点) アセチルコリン又はヒスタミンをモルモットに吸入させ,その吸入開始からモルモットが呼吸困難によって横転するまでの時間を測定し,その横転時間に基いて,気道過敏系モルモットを選抜する気道過敏系モルモットを作製する方法。である点 (相違点) @ 横転時間による選抜に関して,前者(本願発明)が「0.08%のアセチルコリン又は0.025%のヒスタミンに対する横転時間が150秒以下である」のに対して,後者(引用発明)ではそのことが限定されていない点(相違点@) A 交配方法に関して,前者が「兄妹交配,いとこ交配及び選択交配を組み合わせて少なくとも5世代にわたる継代選抜を行う」のに対して,後者ではそのことが記載されていない点(相違点A) B 出現率に関して,前者が「気道過敏系モルモットの出現率が5世代において90%以上となる」のに対して,後者ではそのことが記載されていない点(相違点B) |
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原告主張の取消事由の要点
審決は,引用発明を誤認して,同発明と本願発明との相違点であるものを一致点と誤認し(取消事由1),相違点@ないしBについての判断を誤り(取消事由2〜4),本願発明の顕著な効果を看過した(取消事由5)。審決の犯したこれらの誤りは,それぞれ,結論に影響することが明らかであるから,審決は,違法として取り消されなければならない。 1 取消事由1(一致点・相違点の誤認) (1) 審決は,本願発明と引用発明とは,「アセチルコリン又はヒスタミンをモルモットに吸入させ,その吸入開始からモルモットが呼吸困難によって横転するまでの時間を測定し,その横転時間に基いて,気道過敏系モルモットを選抜する気道過敏系モルモットを作製する方法」である点において一致すると認定した。しかし,この認定は誤りである。 引用刊行物は,本願発明の発明者らがモルモットの選抜基準を検討するために実施した基礎的研究結果を論文化したものである。その表題どおり「モルモットにおけるアセチルコリンおよびヒスタミン吸入に対する気道反応性」についての研究をまとめたものであり,そこに示された研究において,モルモットの気道反応性を調べるために「横転開始所要時間」を測定する方法を用いていることは,事実である。そして,同刊行物に,「現在,アセチルコリンまたはヒスタミン吸入による横転開始所要時間を指標として用いることにより,気道過敏系又は非過敏系モルモットのbreed(判決注・「繁殖」か「品種改良」かで,当事者間に争いがある。)を試みており」との記載があることも事実である。しかし,結局のところ,同刊行物をみても,その「試み」の内容は一切不明である。気道過敏系モルモット作製の具体的条件は,引用刊行物に示された研究においては,全く確立されておらず,したがって,同刊行物に開示されてもいない。 そうである以上,引用刊行物に,「気道過敏系モルモットを作製する方法」が記載されている,ということはできない。 (2) 引用刊行物に示された研究においては,いまだ,気道過敏系モルモット作製の具体的条件は,全く確立されていない。 モルモットは,マウスやラットと異なり,性成熟月齢及び妊娠期間が長く,産仔数が少ないため,繁殖に時間がかかり,均質な実験動物として増やしにくい動物である。さらに,モルモットは,近交退化が著しいため,形質を遺伝的に固定するのが極めて困難な動物である。モルモットという動物の特殊性は,本願発明に係る願書に添付した明細書(以下「本願明細書」という。)でも説明されており,本件優先権主張日当時の当業者の常識である。 モルモットという動物の上記特殊性にかんがみれば,アセチルコリン又はヒスタミン吸入による横転開始所要時間を指標として用いて気道過敏系モルモットを飼育したとしても,引用刊行物には,薬液濃度及び横転開始所要時間の設定,すなわち,選抜目標の設定がないから,選抜目標の設定を誤れば,時間的,労力的,経済的に計り知れない損失を招く恐れがあり,また,選抜目標を設定して選抜育種を開始したとしても,選抜効果が挙がるまでには長年月を要し,しかも,果たしてその個体数が増えていくのか否か,さらには品種改良ができるのか否かが,全く不明である。 したがって,引用刊行物に記載されている技術(引用発明)は,「気道過敏系モルモットの作製方法」として技術的に完成していないのである。 (3) 審決は,「breed」を「品種改良」と訳しているが,正しくない。生物学の分野の専門の英和/和英辞典である「生物学用語辞典」(甲第23号証の1〜3)では,「breed」の日本語訳として「生む,繁殖する」が挙げられている。乙第3号証には,「breed」の訳として「(品種を)改良する」があるものの,それより前に「繁殖させる」が挙げられている。いずれにせよ,生物学の分野の専門の文献中の「breed」の訳としては,生物学の分野の専門の用語辞典である甲第23号証の1〜3の「生物学用語辞典」の訳を採用すべきである。 2 取消事由2(相違点@についての判断の誤り) (1) 審決は,相違点@について,「刊行物1における横転時間の測定においても,0.08%濃度のアセチルコリン,及び0.025%濃度のヒスタミンが用いられている。刊行物1には上記濃度における横転時間がどの程度であれば気道反応性が高いと判断できるかについて具体的には明記されていないものの,例えば縦軸を横転時間とした第5ないし6図の分布図を見れば,150秒以下の横転時間のものが最も気道反応性が高いことは明らかであるので,気道反応性の高いモルモットを選抜する基準となる時間として,「150秒以下」を採用することに格別の困難性は認められない。」と判断した。 (2) @引用刊行物に示された横転時間の測定において,0.08%濃度のアセチルコリン及び0.025%濃度のヒスタミンが用いられていること,A引用刊行物(第5図及び第6図)に,アセチルコリンあるいはヒスタミン吸入によるモルモットの横転開始所要時間の分布が示されていることは,審決が認定するとおりである。 しかし,上記@の事項は,市販のモルモット群における気道過敏性の検討,すなわち,吸入させる薬物間の相関関係や週齢との関係並びに閾値との相関関係を調べるための薬物濃度として記載されているのであり,継代選抜による気道過敏系モルモットの選抜基準として記載されているわけではない。 また,上記Aの分布に関する事項も,市販のモルモット群についての横転開始所要時間の分布を示すものであって,継代選抜による気道過敏系モルモットの選抜基準として記載されているわけではない。しかも,第5図及び第6図のデータにおける薬物の濃度は,アセチルコリンについては0.1%,ヒスタミンについては0.05%であり,本願発明で特定されている各薬物濃度とは異なっている。 このように,審決の指摘する事項は,いずれも,審決の気道反応性の高いモルモットを選抜する基準となる時間として,「150秒以下」を採用する根拠となり得るものではない。 しかも,審決のいうように,最も気道反応性が高いものが選抜されるべきものであるとすると,第5図及び第6図から,150秒以下ではなく,100秒以下あるいは80秒以下のものが選抜されることになるはずである。 結局,引用刊行物には,選択基準についての記載は,全くないことになるのである。 (3) 被告は,本願発明の「0.08%のアセチルコリン又は0.025%のヒスタミンに対する横転時間が150秒以下」という条件は,臨界的な技術的意義を有するとはいえない,と主張する。 しかしながら,各世代において選抜されるモルモットの個体数及び性質は,横転開始所要時間の設定上限値によって変化するものである。選抜基準(選抜目標)の設定は,モルモットの選抜飼育をするに当たって最初に当面する重要な問題であり,選抜目標の設定を誤ると,時間的,労力的,経済的に計り知れない損失を招くこととなるのである。 3 取消事由3(相違点Aについての判断の誤り) (1) 「動物を交配して繁殖させる際に,極度の近親交配を継続すると,産子能力,成長率,強健性,寿命などの点において衰退(近交退化)が生じるため,適切な選抜と淘汰を行う必要があり,これまでに公表されているモルモットも長期にわたる極度の近親交配と選抜,淘汰を毎世代繰り返して確立された系統であることは,当業界では周知である」(審決書3頁10行〜14行)ことは,動物繁殖の一般論としては認める。 しかしながら,このような動物繁殖の一般論から,審決が,「気道過敏系モルモットの品種改良を行う際に,兄妹交配やいとこ交配に加えて,近交退化を避けるために,選択交配を組み合わせて,少なくとも5世代にわたる継代選抜を行うことは,当業者が容易になし得ることと認められる。」(審決書3頁16行〜19行)と判断したのは,誤りである。 (2) 薬液用量と横転時間により特定されたモルモットの継代選抜による飼育は,本願発明におけるものが最初であり,それまでに行われたことがない。近親交配のみによる場合の,あるいは近親交配と選択交配とを組み合わせた場合の,各世代における上記モルモットの出現率も,同モルモットの産子能力,成長率,強健性,寿命,それらのファクターに基づく近交退化の程度なども,実際に飼育してみなければ分からないことである。引用刊行物には薬液用量と横転時間により特定された本願発明のモルモットの継代選抜による飼育については全く記載されていないのであるから,近親交配に加えて選択交配を組み合わせて,少なくとも5世代にわたる継代選抜を行うことは,引用発明からは全く想到できないことである。モルモットは,気道感受性に個体差があり,またマウスやラットとは異なって妊娠期間が長期で(妊娠期間は約60日)一腹産仔数も少なく(出産一回の産仔数は3〜4匹)繁殖が極めて困難であることに加え,近交退化が激しいことから,均一な高気道感受性を有するモルモット系は未だ確立されていない。 気道過敏性モルモットの系統を確立するのは非常に困難なことである。 4 取消事由4(相違点Bについての判断の誤り) 審決は,相違点Bについて,「本願明細書第10頁第12〜18行にも記載されているように,近親交配を継続すれば,早い世代において,気道反応性の高いモルモットの出現する率は高くなる。しかし,近交退化を避けるためには,交配過程において適切な選択交配を行う必要性もあることから,高い出現率をどの世代において達成させるかは,繁殖状況などを勘案して,当業者が適宜決め得ることと認められる。」と判断した。この判断も誤りである。 引用刊行物には,薬液用量と横転時間により特定されたモルモットの継代選抜による飼育については全く記載されていないから,同刊行物をみても,モルモットの飼育において,各世代における気道過敏性モルモットの出現率などを知ることは,全くできない。モルモットの飼育において,近親交配を継続すれば,早い世代において,高い出現率が達成されるのか否か,実際に飼育してみなければわからない。 相違点Bに係る本願発明の「気道過敏系モルモットの出現率が5世代において90%以上となるように」との構成を,当業者が容易に推考し得たものであるとすることはできない。 5 取消事由5(顕著な効果の看過) (1) 本願発明で得られる気道過敏系モルモットは,アセチルコリン,ヒスタミン等の気道収縮の起因物質に対して均一な高気道反応性を示し,気管支喘息や鼻アレルギーの研究及び気管支喘息治療剤や抗アレルギー物質の薬効を測定するための病態モデル動物として非常に有用性が高いものである。 このような本願発明の効果は,予測できないものである。 (2) 前述したとおり,薬液用量と横転時間により特定されたモルモットの継代選抜による飼育において,近親交配による場合の,あるいは近親交配と選択交配を組み合わせた場合の,各世代における上記モルモットの出現率も,同モルモットの産子能力,成長率,強健性,寿命,それらのファクターに基づく近交退化の程度なども,実際に飼育してみなければわからないことである。また,引用刊行物には,薬液用量と横転時間により特定された本願発明のモルモットの継代選抜による飼育については全く記載されていないのであるから,このモルモットを,近親交配に加えて選択交配を組み合わせて,少なくとも5世代にわたる継代選抜を行い,出現率を5世代で90%以上に達成することは,引用発明からは全く予測できないことである。 (3) 本願発明においては,気道過敏系モルモットの出現率は5世代で90%以上であるものと規定している。本願明細書の第1表から明らかなとおり,5世代で90%以上の出現率で生まれた気道過敏系モルモットは,100%の出現率で次世代の気道過敏系モルモットを産んでいるのである。すなわち,90%以上の出現率で生まれた5世代の本願発明の気道過敏系モルモットは,「実質的に100%の出現率で気道過敏系モルモットを産出するモルモット」なのである。したがって,「実質的に100%の出現率で気道過敏性モルモットを産出する系の確立」という効果は,本願発明の効果であり,このような効果は予測することのできないものである。 |
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被告の反論の要点
審決の認定判断は,すべて正当であり,審決を取り消すべき理由はない。 1 取消事由1(一致点・相違点の誤認)について (1) 引用刊行物に,親モルモットの購入から系統の確立の確認までが,その具体的な条件を含めて一貫して示され,技術的に完成した形で発表されている,というわけではないことは,事実である。しかし,ある刊行物に記載された発明が技術的に完成されたものであるか否かは,その発明に基づいて別の発明をすることが当業者にとって容易になし得たことであるか否かの判断とは,関係のないことである。 確かに,引用刊行物には,気道過敏系モルモットを作製する際に,「横転開始所要時間」を指標とするという着想は開示されているものの,その実験の具体的な条件や継代選抜方法に関する記載はない。しかし,このような具体的な条件は,引用刊行物に記載された「横転開始所要時間」の測定方法などを参考にして,当業者が実験により求めることができるものであり,また,モルモットを増やして集団として維持することも,従来から知られている交配手法を参考にして,容易になし得ることである。たとい,具体的な条件等が記載されていなくとも,引用刊行物に開示された「横転開始所要時間」を指標とする着想に基づいて,気道過敏系モルモットの作製方法を具現化することは,当業者にとって,格別困難なことではない。 引用刊行物は,気道過敏系モルモットの作製を試みている他の研究者に対して,開発の手掛かりを与え,「横転開始所要時間」を指標とする気道過敏系モルモットの作製を試みるという動機付けを与えるものである。 (2) 引用刊行物には,「現在,アセチルコリンまたはヒスタミン吸入による横転開始所要時間を指標として用いることにより,気道過敏系又は非過敏系のモルモットの品種改良(被告注・原告の指摘では「繁殖」)を試みており,この目的のために,様々な基礎的実験が進められている。」(107頁左欄11行〜17行)との記載に加えて,「横転開始所要時間」と用量閾値(気道反応性の高低を示す指標である。)との間に相関関係のあることが示されている。そうすると,用量閾値と相関関係のある「横転開始所要時間」も,モルモットの気道反応性の程度を示す指標となり,横転開始所要時間の短いモルモットほど用量閾値が低く気道過敏なモルモットであることは,当業者が容易に理解し得ることである。そして,気道過敏系のモルモットの品種改良(原告の指摘では「繁殖」)において,横転開始所要時間が気道過敏なモルモットを選び出す「選抜基準」となることは,技術的にみて明らかである。引用刊行物には,「横転開始所要時間」を指標として用いることにより,気道反応性の高いモルモットを選抜する,気道過敏系モルモットを作製する方法が実質的に開示されているということができる。 2 取消事由2(相違点@についての判断の誤り)について (1) 本願発明の「0.08%のアセチルコリン又は0.025%のヒスタミンに対する横転時間が150秒以下」という条件は,臨界的な技術的意義を有するものではない。上記の選抜条件は,あるモルモットの集団から気道過敏なモルモットを選抜するために任意に設定したにすぎないものであり,上記条件以外では実施が不可能であるという性質のものではない。 (2) 引用刊行物の第7,9,10図には,実験に使用した,静岡県実験動物農協から購入したモルモットの中に,「0.08%濃度のアセチルコリン又は0.025%濃度のヒスタミン吸入による横転開始所要時間が150秒以下」のものが既に存在することが示されている。そして,上記各図によれば,これらモルモットは,実験に使用されたモルモットのなかで特に気道過敏性であることが明らかである。 (3) 引用刊行物には,「モルモットにこれらの薬物を高濃度で吸入させると,すべての動物が強い反応を示してしまうために,個々の過敏性の差が不明確になる。従って,使用する各薬物の適切な濃度を選択することが不可欠である。」(111頁右欄46行〜52行)との記載があり,薬液濃度は,動物に強い影響を与えずに過敏性の差が明確になる程度の低濃度が好ましいことが示されている。そして,0.1%アセチルコリン処理及び0.05%ヒスタミン処理におけるものではあるものの,横転時間の分布が,図5図,第6図に示されおり,そこには個々の個体における過敏性の差が明確に示され,この図を見れば,0.1%アセチルコリン処理での横転時間が「150秒以下」のモルモットは,平均(377±33秒)よりも,気道過敏性であることが容易に理解できる。 (4) 上記各事項の下では,相違点@に係る本願発明の構成に想到することは,当業者にとって容易であったことが明らかである。 3 取消事由3(相違点Aについての判断の誤り)について 原告は,引用刊行物には,薬液用量と横転時間により特定された本願発明のモルモットの継代選抜による飼育については全く記載されていないから,上記モルモットについて,近親交配及び選択交配を組み合わせて,少なくとも5世代にわたる継代選抜を行うことは,引用発明からは全く想到できないことである,と主張する。 血縁同士の交配が個体数の減少などの近交退化をもたらすこと,近親交配だけではなく選抜交配等を組み合わせて近交退化を避けることは,原告も認めるとおり,当業者によく知られたことである。そうであるならば,気道過敏性モルモットを作製するに当たって,近親交配だけを行うことをしないで,これに選抜交配等を組み合わせることにより,近交退化を避けることは,当業者が容易に着想し得ることであり,このような周知の選抜交配方法を適用することが,気道過敏なモルモットにおいてのみ格別困難であるということはできない。 しかも,本願発明においては,「兄妹交配,いとこ交配及び選択交配を組み合わせて少なくとも5世代にわたる継代選抜を行い,上記気道過敏系モルモットの出現率が5世代において90%以上となるように繁殖させて」としているだけであって,具体的な交配手順や選抜する個体の数等を全く特定していない。本願明細書の発明の詳細な説明をみても,「気道過敏系又は非気道過敏系モルモットは,気道感受性の高いもの同志又は低いもの同志をかけあわせていく継代選抜を繰り返して作製することができる。」(甲第2号証5頁11行〜14行),「近交退化を避けるため,兄妹交配にいとこ交配や選抜交配を適宜加えるとともに,できるだけ大きいコロニーを形成しつつ継代選抜を行う方法を採った。」(10頁13行〜16行)と記載されているだけである。これらの手法は,正に動物繁殖の一般的な手法そのものにすぎない。 4 取消事由4(相違点Bについての判断の誤り)について 本願明細書には「近交係数の急激な上昇に伴う近交退化を避けるため,兄妹交配にいとこ交配や選抜交配を適宜加えるとともに,できるだけ大きいコロニーを形成しつつ継代選抜を行う方法を採った。この方法では急激な気道過敏性の上昇又は低下を得ることができないので,長期世代にわたる繁殖と多くの動物の飼育が必要である。」(10頁12行〜18行)と記載され,兄妹交配による気道過敏性の上昇という効果を犠牲にしても,いとこ交配や選抜交配を加えて,近交退化を避けることを優先したことが記載されている。一方,近交退化を避けるために,兄妹交配にいとこ交配や選抜交配を適宜加えることは,動物繁殖の分野では周知の手法であり,この手法を採用すれば,出現率の急激な上昇を期待することができないことは,当然に予想されるところである。 そうであるならば,近親交配,選抜交配のそれぞれによる出現率,近交退化の程度を勘案して,気道過敏系モルモットの出現率が5世代において90%となるよう,交配手順や選抜する個体数等を決めることは,当業者が適宜設定することができる程度のことであるというべきである。 5 取消事由5(顕著な効果の看過)について 原告が主張する「実質的に100%の出現率で気道過敏性モルモットを産出する系統の確立」という効果は,本願の請求項4に係る発明の効果であって,これを本願発明(請求項1に係る発明)の効果とすることはできない。 その余の原告主張の効果は,当業者が予測し得る範囲内のものである。 |
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当裁判所の判断
1 本願発明の概要 甲第2号証によれば,本願明細書には,次の記載があることが認められる。 (産業上の利用分野) 「本発明は,均一な高気道感受性又は低気道感受性を有する新規な病態モデル動物を作製する方法に関する。」(明細書2頁4行〜6行) (従来の技術) 「気管支喘息患者は気道過敏性が亢進しているため気道過敏性を指標とした診断が必要と考えられており,そのため気管支喘息の研究には,気道感受性が高く旦つ均一である病態モデル動物の開発が望まれている。 実験動物の中で,モルモットは気道過敏性が高くアレルギー反応を惹起しやすいことより,古くから喘息,アレルギーのモデル動物として繁用されてきた。 しかし,モルモットは気道感受性に個体差があり,またマウスやラットとは異なって妊娠期間が長期で一腹産仔数も少なく繁殖が極めて困難で,且つ近交退化しやすいため近交を重ね病態系をつくるのが非常に難しい等の理由から,気道感受性が均一なモルモットストレインは未だ確立されていない。」(同2頁8行〜21行) (発明が解決しようとする問題点) 「本発明の目的は,気道過敏系(高気道感受系)又は非気道感受系(低気道感受系)病態モデル動物を作製する方法,並びに該方法にて作製した新規な気道過敏系又は非気道過敏系病態モデル動物を提供することにある。」(同2頁末行〜3頁4行) (問題点を解決するための手段) 「本発明は,気道収縮の起因物質を吸入させ,これに対する気道反応性を指標にして,均一な高気道感受性又は低気道感受性を有する病態モデル動物を作製する方法である。 本発明においては,実験動物の中でも特に気道感受性が高くアレルギー反応を惹起しやすいなどの理由から,モルモットを病態モデル作製用の動物として選んだ。モルモットには多くの系統があるが,中でもHartley系モルモットが気道感受性の個体差が大きいため高気道感受系及び低気道感受系のオリジンのコロニーを形成しやすく,且つ週齢により変化するけれども雌雄差の少ないことなどから好ましく利用しやすい。 気道感受性を測定する際に吸入させる気道収縮の起因物質としては,通常の気道感受性試験等において用いられる気道収縮作用を有する物質が利用でき,例えばヒスタミン,アセチルコリン,メタコリン,セロトニン,プロスタグランジンF1α,プロスタグランジンF 2α,ロイコトリエンC 4,ロイコトリエンD 4,SRS-A,PAF等が挙げられる。 上記気道収縮起因物質に対する気道反応性を測定する方法としては,摘出気道の収縮反応を測定する方法など種々の方法があるが,繁殖の難しいモルモットを用いる場合は,できる限り動物を生かした状態で測定し個体数の減少を防ぐ方法を適用するのが好ましい。・・・ 気道収縮起因物質に対する気道反応性を定量的に測定するには,吸入させる起因物質の濃度を高めていくことにより閾値を求める方法もあるが,試験回数が多くなり時間がかかるため,多くの動物を測定するのは難しい。 上述の吸入法に関しては,横転時間と気道感受性の閾値には相関関係が認められることが確かめられており,一定濃度の気道収縮起因物質を吸入させ,横転時間の長短により該起因物質に対する気道反応性を測定する方法が,試験回数が少なく済み実際的で好ましい。吸入させる起因物質の濃度,気道過敏系と非気道過敏系を選択する基準などは適宜設定することができるが,例えば,オリジンの親モルモットの平均横転時間を測定し,この平均横転時間を基準として,その3分の2の時間内に横転するものを高気道感受系(気道過敏系),また横転時間がオリジンの1.5倍以上であるものを低気道過敏系(非気道過敏系)と両系に属するモルモットを選択するのは好ましい方法として挙げられる。 気道過敏系又は非気道過敏系モルモットは,気道感受性の高いもの同志又は低いもの同志をかけあわせていく継代選抜を操り返して作製することができる。 繁殖にあたっては,できる限り近交係数の上昇する兄妹交配を用いるのが一般的には好ましいが,モルモットは他の実験動物と異なり,近交退化が激しく,また一腹産仔数も少ないことから,家系の絶滅を防ぐため,本発明においてはいとこ交配や血縁関係なしに気道感受性の程度が好ましい動物をかけあわせる選択交配を適宜交えて行った。」(同3頁6行〜5頁20行) (作用及び効果) 「・・・アセチルコリン及びヒスタミンに対する気道過敏系及び非気道過敏系モルモットの出現率は,世代を重ねる毎に上昇し,第5世代において90%以上,6世代において100%となり遺伝的に両系に分離確立することができた。 モルモットは実験動物としては気道過敏性の著しく亢進している動物であり,従来より喘息やアレルギーのモデル動物として繁用されてきたが,個体によって気道感受性に差がある。そこで,より好ましい病態モデル動物として,ヒスタミン,アセチルコリン等の気道収縮起因物質に対する気道感受性が高く,旦つ均一の気道感受性を有する系の確立が望まれていた。 しかし,モルモットはラットやマウス等の他の実験動物と異なり,妊娠期間が約60日と長く,一腹産仔数も少なく繁殖が極めて困難であることに加え,近交退化が激しいことから,均一な高気道感受性を有するモルモットストレインは未だ確立されていなかった。 本発明においては,モルモットの繁殖の困難性を考慮し,動物を生かして次の繁殖に供するため,気道感受性の測定においてアセチルコリン,ヒスタミン等の気道収縮起因物質を吸入させ,吸入開始から呼吸困難による横転までの時間(横転時間)を測定する方法(吸入法)を採用することにより,個体数の減少を抑え,家系の絶滅を防いだ。 以前,兄妹交配のみの継代繁殖によって,気道過敏系及び非気道過敏系モルモットを作製する報告があったが,兄妹交配のみによる近交退化並びにコロニーが小さすぎた等の理由により後の繁殖が続かなかったらしく,第2世代までの報告に終わり,この系が確立されたという報告はその後なかった。 これに対して,本発明者らは近交係数の急激な上昇に伴う近交退化を避けるため,兄妹交配にいとこ交配や選択交配を適宜加えるとともに,できるだけ大きいコロニーを形成しつつ継代選抜を行う方法を採った。この方法では急激な気道過敏性の上昇又は低下を得ることができないので,長期世代にわたる繁殖と多くの動物の飼育が必要である。しかし,上述の結果に示したように,本発明において,気道過敏系及び非気道過敏系の両系において,第5世代で90%以上,第6世代で100%の出現率を得ることができ,後の繁殖に適用可能な両系が確立できた。 本発明気道過敏系モルモットは,アセチルコリン,ヒスタミン等の気道収縮の起因物質に対して均一な高気道反応性を示し,気管支喘息や鼻アレルギーの研究及び気管支喘息治療剤や抗アレルギー物質等の薬効を測定するための病態モデル動物等として非常に有用性が高いものである。非気道過敏系モルモットも,気道過敏系の対照として,また過敏系とは逆の性質を持つ病態モデル動物として,気管支喘息等の研究において有用である。」(同9頁2行〜11頁8行) 2 取消事由1(一致点・相違点の誤認)について (1) 引用刊行物に,「アセチルコリン又はヒスタミンをモルモットに吸入させ,その吸入開始からモルモットが呼吸困難によって横転するまでの時間を測定」するという技術が記載されていることは,当事者間に争いがない。 (2) 引用刊行物に,次の記載があることも,当事者間に争いがない。 @ 「Hart1ey系モルモットを用い,アセチルコリン(ACh)およびヒスタミン(Hist)の吸入による気道の感受性について検討し,以下の結果が得られた。 1. 8週齢のモルモットを用い,AChあるいはHistの吸入によって生じる薬液濃度と呼吸困難による横転開始所要時間との関係について検討した結果,いずれの薬物の場合においても用量依存性が認められた。」(甲第5号証の訳文1頁7行〜11行) A 「現在,アセチルコリンまたはヒスタミン吸入による横転開始所要時間(TNPFD)を指標として用いることにより,気道過敏系または非過敏系のモルモットのbreed(判決注・「繁殖」か「品種改良」かで,当事者間に争いがある。)を試みており,この目的のために,様々な基礎的実験が進められている。」(同2頁6〜8行) B 「判定:動物の気道過敏性は,吸入開始から薬物により引き起こされる横転開始所要時間により示した。軽度の呼吸困難を起こす(呼吸時に肋間胸壁の軽度の陥没を伴う)最低濃度を,この反応の閾値(μg/ml)とした・・・。」(同3頁18〜20行) 引用刊行物の上記記載によれば,引用発明においては,「横転開始所要時間」,すなわち,アセチルコリン又はヒスタミンをモルモットに吸入させ,その吸入開始からモルモットが呼吸困難によって横転するまでの時間を指標として用いて,気道過敏系又は非気道過敏系のモルモットを産み出し,育てようと試みていることが明らかであり,横転開始所要時間を指標として用いるという以上,モルモットを,横転開始所要時間の長短で区別し,いずれかを選択することが前提となっていることも,明らかである。 したがって,引用発明には,アセチルコリン又はヒスタミンをモルモットに吸入させ,横転開始所要時間に基いて,気道過敏系モルモットを選抜して繁殖させる技術,換言すれば,横転開始所要時間に基いて,気道過敏系モルモットを選抜することにより,気道過敏系モルモットを作製する方法が開示されているものということができる。 (3) 原告は,引用刊行物には,気道過敏系モルモット作製の具体的条件が,確立されたとは記載されておらず,同条件そのものが開示されているわけでもないとして,引用刊行物には,「気道過敏系モルモットを作製する方法」が記載されているとはいえない,と主張する。 しかしながら,本願発明の進歩性を検討するに当たって引用刊行物について考慮すべきことは,同刊行物に接した当業者が,そこに記載された事項を契機として本願発明に容易に想到し得たかどうかである。したがって,引用刊行物に,それを出発点として本願発明に向かうだけのものが開示されている限り,そこに,気道過敏系モルモット作製の具体的条件が確立したものとして記載されていないからといって,それだけで,同刊行物に,「気道過敏系モルモットを作製する方法」が記載されていないことになるわけではない。 前述したとおり,引用刊行物の記載によれば,上記の限度で,「気道過敏系モルモットを作製する方法」が記載されていることは,明らかである。 原告は,モルモットという動物の特殊性にかんがみれば,アセチルコリン又はヒスタミン吸入による横転開始所要時間を指標として用いて気道過敏系モルモットを飼育したとしても,引用刊行物には,薬液濃度及び横転開始所要時間の設定,すなわち,選抜目標の設定がないから,選抜目標の設定を誤れば,時間的,労力的,経済的に計り知れない損失を招く恐れがあり,また,選抜目標を設定して選抜育種を開始したとしても,選抜効果が挙がるまでには長年月を要し,しかも,果たしてその個体数が増えていくのか否か,さらには品種改良ができるのか否かが全く不明である,したがって,引用発明は,「気道過敏系モルモットの作製方法」として技術的に完成していない,と主張する。 しかしながら,本願発明の進歩性を検討するに当たっての出発点になり得るか否かという観点に立った場合,引用発明(引用刊行物に記載される技術)が,「気道過敏系モルモットの作製方法」として技術的に完成していなければならないものでないことは,上述したとおりであり,原告主張の上記事実は,引用刊行物に,審決が一致点として認定した技術が記載されているとすることの妨げにはなり得ないことが,明らかである。 3 取消事由2(相違点@についての判断の誤り)について (1) @引用刊行物に,横転時間の測定に0.08%濃度のアセチルコリン及び0.025%濃度のヒスタミンが用いられるものが記載されていること,A引用刊行物(第5図及び第6図)に,アセチルコリンあるいはヒスタミン吸入によるモルモットの横転開始所要時間の分布が示されていることは,当事者間に争いがない。 (2) 甲第5号証によれば,引用刊行物には,次の記載があることが認められる。 @ 「材料および方法・・・ 薬物:塩化アセチルコリン(0visot,第一製薬(東京),以下AChと略)およびヒスタミン二塩酸塩(半井化学(京都),以下Histと略)は実験直前に生理食塩液に溶解して使用した。 吸入:吸入には我々の研究室で通常用いている既報の方法・・・を用いた。すなわち,モルモットをガラス鐘内(体積10l)に置き,エアー・コンプレッサー(送気量6l/分,日本商事(大阪))にガラス製ネブライザー(噴霧量,0.1ml/分,日本商事(大阪))を通じてAChまたはHistの噴霧を行い,ガラス鐘内のエアゾールは底部から一定の割合で漏出させた。AChおよびHistの気中濃度は,薬液消費量(0.1ml/分)およびネブライザーの送気量(6l/分)から算出した。計算上のACh濃度0.03,0.05,0.08および0.1%を用いた場合,それぞれガラス鐘内では5.0,8.4,13.4,16.7μg/l(空気)であり,同じくHist濃度0.025,0.05および0.1%が用いられた場合,それぞれガラス鐘内では1.0,2.1,4.2μg/l(空気)であった。」(訳文2頁12行〜3頁9行),「判定:動物の気道過敏性は,吸入開始から薬物により引き起こされる横転開始所要時間により示した。軽度の呼吸困難を起こす(呼吸時に肋間胸壁の軽度の陥没を伴う)最低濃度を,この反応の閾値(μg/ml)とした・・・。」(訳文3頁18行〜20行) A 「結果 1.AChおよびHist吸入に対する用量依存性 ・・・8週齢雄性モルモットに0.03%,0.05%および0.1%(W/V)AChまたは0.025%,0.05%および0.1%(W/V)Histを吸入させた。各薬物の濃度と喘息症状によって惹起される横転開始所要時間との間には,いずれも用量依存性が観察された。 2.AChおよびHist吸入における横転開始所要時間の分布 結果を図5および6に示す。・・・ 3.AChおよびHistに対する反応の相関 結果を図7に示す。8週齢雄性モルモットに0.08%AChまたは0.025%Histを吸入させた。・・・ 4.加齢に伴う過敏性の変化 結果を図8に示す。生育した2週齢から20週齢の雄性モルモットに,0.08%AChまたは0.025%Histを吸入させた。・・・ 5.AChおよびHistの用量閾値と横転開始所要時間の相関 結果を図9および10に示す。横転開始所要時間を調べるために,8週齢雄性モルモットに,0.08%AChまたは0.025%Histを吸入させた。・・・」(訳文3頁下から8行〜4頁19行) B 「考察・・・ 今回の実験において,モルモットに0.08%AChおよび0.025%Histを吸入させたところ,各薬物に対する横転開始所要時間の値の間に正の相関関係が見い出された。気道過敏性を調べるためにAChおよびHistを用いたが,この両薬物は反応メカニズムが異なると考えられている・・・。それにもかかわらず実験動物で正の相関が観察されたことは,臨床での知見を支持するものと考えられた。 また,モルモットにこれら薬物を高濃度で吸入させると,全ての動物が強い反応を示してしまうために,個々の過敏性の差が不明確になる。従って,使用する各薬物の適切な濃度を選択することが不可欠である。」(訳文4頁下から5行〜5頁下から4行) C 図5には,「0.1%アセチルコリン(ACh)吸入によるモルモットの横転開始所要時間(TNPFD)の分布」,図6には,「0.05%ヒスタミン(Hist)吸入によるモルモットの横転開始所要時間(TNPFD)の分布」,図7には,「0.08%アセチルコリン(ACh)吸入と0.025%ヒスタミン(Hist)吸入によるモルモットの横転開始所要時間(TNPFD)の値の相関関係」,図9には,アセチルコリンの用量を横軸,0.08%のアセチルコリンによる横転開始所要時間を縦軸とする「アセチルコリン吸入におけるモルモットの横転開始所要時間(TNPFD)と用量閾値の相関関係」,図10には,ヒスタミンの用量を横軸,0.025%のヒスタミン(「アセチルコリン」とあるのは,「ヒスタミン」の誤記と認める。)による横転開始所要時間を縦軸とする「ヒスタミン吸入におけるモルモットの横転開始所要時間(TNPFD)と用量閾値の相関関係」が,それぞれグラフによって示されている。図7,9,10中には,0.08%のアセチルコリン又は0.025%のヒスタミンを吸入させた場合に横転開始所要時間として,多くは150秒より長いものであるものの,150秒以下のものも存在することが示されている。 引用刊行物の上記認定の記載によれば,同刊行物には,@第一製薬(東京)の塩化アセチルコリン及び半井化学(京都)のヒスタミン二塩酸塩を,実験直前に生理食塩液に溶解して使用したこと,A吸入方法は,研究室で通常用いている既報の方法であること,B吸入濃度として,塩化アセチルコリン0.08%(W/V),ヒスタミン二塩酸塩0.025%(W/V)のものも用いたこと,C各薬物の濃度と喘息症状によって惹起される横転開始所要時間との間には,いずれも用量依存性が観察されるという結果が得られたことが記載されており,しかも,図7,9,10によれば,D0.08%のアセチルコリン又は0.025%のヒスタミンを吸入させた場合の横転開始所要時間は,多くにおいては150秒より長いものの,150秒以下のモルモットもいることも示されていることが明らかである。そうだとすると,引用刊行物に接した当業者が,アセチルコリン又はヒスタミンをモルモットに吸入させることで気道過敏系モルモットを選抜するに当たり,0.08%のアセチルコリン又は0.025%のヒスタミンを吸入させてみようと考えることに,格別困難性はない,ということができる。また,引用刊行物には,各薬物の濃度と喘息症状によって惹起される横転開始所要時間との間には,いずれも用量依存性があることも,0.08%のアセチルコリン又は0.025%のヒスタミンを吸入させた場合の横転開始所要時間も上記のとおり示されているのであるから,横転開始所要時間の基準として「150秒以下」を採用し,150秒以下の横転開始所要時間のモルモットを気道過敏系モルモットとして選抜することも,格別の困難なくなし得ることというべきである(気道過敏性のより高いモルモットを選抜しようとすれば,横転開始所要時間を,他の条件が許す限り,より短く設定すべきことになるのは当然である。)。 (3) 原告は,引用刊行物の,@横転時間の測定に0.08%濃度のアセチルコリン及び0.025%濃度のヒスタミンが用いられているとの記載は,市販のモルモット群における気道過敏性の検討,すなわち,吸入させる薬物間の相関関係や週齢との関係並びに閾値との相関関係を調べるための薬物濃度として記載されているのであり,継代選抜による気道過敏系モルモットの選抜基準として記載されているわけではない,A引用刊行物(第5図及び第6図)に,アセチルコリンあるいはヒスタミン吸入によるモルモットの横転開始所要時間の分布が示されていることは,市販のモルモット群についての横転開始所要時間の分布を示すものであって,継代選抜による気道過敏系モルモットの選抜基準として記載されているわけではない,B上記第5図及び第6図のデータにおける薬物の濃度は,アセチルコリンについては0.1%,ヒスタミンについては0.05%であって,本願発明で特定されている各薬物濃度とは異なっている,と主張する。 しかしながら,発明の進歩性を判定する際に基準とされる当業者とは,問題となっている発明の属する技術分野の基準時(出願日あるいは優先権主張日)における技術常識を有し,研究,開発のための通常の技術的手段を用いることができ,材料の選択や設計変更などの通常の創作能力を発揮でき,しかもその出願に係る技術分野及びその出願の発明が解決しようとする課題に関連した技術分野の基準時の技術水準にあるものすべてを自らの知識とすることができる者のことである。 引用刊行物によって,「横転開始所要時間」を指標とする気道過敏系モルモットの作製を試みるという動機付けが与えられているのであるから,@同刊行物に示された横転開始所要時間の測定において,0.08%濃度のアセチルコリン及び0.025%濃度のヒスタミンが用いられており,A同刊行物(第5図及び第6図)に,濃度はそれぞれ0.1%,0.05%であって,上記0.08%,0.025%とは異なるものの,アセチルコリンあるいはヒスタミン吸入によるモルモットの横転開始所要時間の分布も示されており,さらに,B同刊行物に0.08%濃度のアセチルコリン及び0.025%濃度のヒスタミンを用いた場合の横転開始所要時間について上記のように記載されているのであれば,同刊行物の筆者がこれらをどのような意図で記載したのかにかかわらず,これらを適宜,継代選抜による気道過敏系モルモットの選抜基準として採用し,吸入させる薬物としては0.08%濃度のアセチルコリン及び0.025%濃度のヒスタミンを,横転開始所要時間としては150秒以下を選択することは,当業者にとって,容易に想到し得る事項である,という以外にない。この程度の事項を容易推考の範囲外にあるとするのは,人(当業者)の有する理解力や応用力を余りに低く設定するものであり,不合理であることが明らかである。 原告の上記主張は,失当である。 原告は,審決のいうように,最も気道反応性の高いものを選択するとすれば,150秒以下ではなく,100秒以下などが採用されるはずである,と主張する。しかし,選択基準を余りに厳しくすると,個体数を維持することが困難となることが明らかであるから,横転開始所要時間は,短くしさえすればよいというものではないことも明らかである。審決は,「例えば,縦軸を横転時間とした第5図,第6図の分布図を見れば,150秒以下の横転時間のものが最も気道反応性が高いことは明らかであるので,気道反応性の高いモルモットを選抜する基準となる時間として,「150秒以下」を採用することに格別の困難性は認められない。」(審決書3頁4行〜8行)として,一見,最も気道反応性の高いもののみを選抜すべきことを前提にしているかのようである。しかし,上記説示と第5図,第6図とを対比すれば,そうではなく,審決が,気道反応性の高いものの方から始めて相当のところまでを選択すべきことを前提にしているものであることが,明らかである。この点についての原告の主張も失当である。 4 取消事由3(相違点Aについての判断の誤り)について (1) 動物繁殖の一般論として,「動物を交配して繁殖させる際に,極度の近親交配を継続すると,産子能力,成長率,強健性,寿命などの点において衰退(近交退化)が生じるため,適切な選抜と淘汰を行う必要があり,これまでに公表されているモルモットも長期にわたる極度の近親交配と選抜,淘汰を毎世代繰り返して確立された系統であることは,当業界では周知である」(審決書3頁2段)ことは,当事者間に争いがない。 (2) 甲第6号証の1ないし3によれば,「実験動物学第1版 昭和57年9月10日 株式会社養賢堂発行」には,次の記載があることが認められる。 @ 「これまでに確立され公表されているマウス,ラット,ハムスター,モルモット,ウサギなどの近交系は,いずれも長期にわたって極度の近親交配と選抜,淘汰を毎世代くりかえして確立された系統である。・・・ 実験動物の近交系を確立するには,時間的にみて多くの年月を要するだけでなく,育種をすすめる過程において,生存上に不利になるような遺伝子の集積,固定,さらに,近交退化などの育種上困難な問題にも遭遇してくるので,注意深い観察と記録を行なうことはもちろん,同時に適切な選抜,淘汰が行なわれることが必要になってくる。」(91頁) A 「近親交配とは,同じ系統のなかでも,特に近縁関係にあるもの,すなわち,親子(Parent-offspring),兄妹(きょうだい,sister and brother,sib),従兄妹(いとこ,cousin),叔姪(おじめい,uncle-nephew),祖孫(grandparent-grandchild)のあいだの交配をさすものである。そして,これら以外の遠縁関係にあるものの交配を外交配(outbreeding)とよんでいる。」(91頁〜92頁),「近交係数は近親交配の継続によって,ある遺伝子座がホモになる確率を%で示した数値であり,」(92頁) B 「極度の近親交配を継続してゆくと,その結果として,しばしば近交退化が発現し,生物としての適応性がいちじるしい低下する場合がみられる。一般に知られている近交退化としては,体の大きさ,成長率,産子能力,泌乳能力,強健性,寿命などの点に衰退が起こるといわれている。」(95頁) C 「以上,説明してきた近交退化は,近親交配の継続に伴って発現してくる現象であり,近交系の作出,維持,生産にあたって極めて大きい障害となってくる問題である。これらの近交退化の防止について具体的な解決法が検討されなければならないが,育種学的にみてもなお未知の部分が多く,今後,検討を要する分野であり,現状では,繁殖集団の匹数をなるべく多くして,毎世代,厳重な選抜,淘汰を加えてゆくという提案しかできない。」(97頁) D 表3.3には,きょうだい交配を代々続けた場合の近交係数の変化が表として示され,これによると,0世代では近交係数0.0%であったのが,1世代では25.0%,2世代では37.5%,3世代では50.0%,4世代では59.4%,5世代では67.2%となり,10世代では88.6%,11世代では90.8%となる(93頁)。 (3) 上記文献の上記認定の各記載を考慮すると,モルモット等の実験動物の品種改良において,近親交配を継続すると,近交係数(ある遺伝子座がホモになる確率)が急激に上昇して,所期の性質を有する動物の出現率が高まるけれども,他方,近交退化によって,体の大きさ,成長率,産子能力,泌乳能力,強健性,寿命などの点に衰退が起こり,これが,近交系の作出,維持,生産に当たって極めて大きい障害となっていることが,重要な問題として指摘されている,ということができる。気道過敏系モルモットの品種改良に対しても上記指摘が当てはまることは,いうまでもないところである。 しかし,一方で,これらの近交退化の解決方法として,決定的なものが見出されているわけではないものの,少なくとも,現状において,繁殖集団の匹数をなるべく多くして,毎世代,厳重な選抜,淘汰を加えてゆくという方法が提案されているのである。 上記文献の公刊された時期を考えれば,上記各事項は,本件優先権主張日当時,当業者間において周知であったというべきである。 (4) 上記文献の上記の開示によれば,品種改良において,近親交配を継続すると,世代を追って近交係数(ある遺伝子座がホモになる確率)が急激に上昇して,気道過敏系モルモットの出現率が高まり,最終的には,何世代目かで,100%に近づくこと,しかし,一方,近交退化によって,体の大きさ,成長率,産子能力,泌乳能力,強健性,寿命などの点に衰退が起こるという問題があること,これに対応する方法としては,繁殖集団の匹数をなるべく多くして,毎世代,厳重な選抜,淘汰を加えていくというものがあることが,当業者に広く知られていたということができる。 (5) 以上(1)ないし(4)で述べた状況の下では,「気道過敏系モルモットの品種改良を行う際に,兄妹交配やいとこ交配に加えて,近交退化を避けるために,選択交配を組み合わせて」継代選抜を行ってみようと考えること自体は,それを妨げるような特別の事情がない限り,当業者にとってごく当然のことというべきである。 そして,本件全資料を検討しても,上記特別の事情に当たるものを認めることはできない。 上記周知の事項の下では,継代選抜において所期のモルモットの出現率を高めようとすれば,継代選抜の世代数を増加させる必要があることは,明らかなことであるから,行うべき継代選抜の世代数として「少なくとも5世代」を選択することも,それを妨げるような特別な事情が認められない限り,当業者にとって何の困難もないこととというべきである。そして,本件全資料を検討しても,上記特別の事情に当たるものを認めることはできない。 (6) 原告は,近親交配による,あるいは近親交配と選択交配を組み合わせた場合の,各世代における所期のモルモットの出現率も,同モルモットの産子能力,成長率,強健性,寿命,それらのファクターに基づく近交退化の程度なども,実際に飼育してみなければ分からないことである,モルモットを,近親交配に加えて選択交配を組み合わせて,少なくとも5世代にわたる継代選抜を行うことは,引用発明からは全く想到できないことである,と主張する。 しかしながら,およそ,試験や実験というものは,分からないからこそ,それを明らかにしようと考え,望ましい結果が出るかもしれないと期待して行うものであって,モルモットの出現率,モルモットの近交退化の程度などが実際に飼育してみなければ分からず,結果が予測できないからといって,当業者が,そのような試験や実験を行うことをやめるということになるものではない。 原告のいう上記事情は,気道過敏系モルモットの品種改良を行う際に,「兄妹交配,いとこ交配及び選抜交配を組み合せて少なくとも5世代にわたる継代選抜」を行ってみようと考えることを妨げる事情とはなり得ない。 原告の主張は,採用できない。 5 取消事由4(相違点Bについての判断の誤り)について 原告は,相違点Bに係る本願発明の「気道過敏系モルモットの出現率が5世代において90%以上となるように」との構成は,当業者にとって容易に推考できるものではない,と主張する。しかし,原告のこの主張について的確に検討するためには,本願発明を特定する特許請求の範囲において,「気道過敏系モルモットの出現率が5世代において90%以上となるように」との文言が,技術的にどのような意味を有するか,が明らかにされなければならない。技術的な意味の明らかでない事項について,容易推考性を検討しても,無意味であることは,論ずるまでもないところであるからである。 本願発明は,「気道過敏系モルモットを作製する方法」に係る方法の発明であり,これに係る特許請求の範囲は,「アセチルコリン又はヒスタミンをモルモットに吸入させ,その吸入開始からモルモットが呼吸困難によって横転するまでの時間を測定し,0.08%のアセチルコリン又は0.025%のヒスタミンに対する横転時間が150秒以下であるモルモットを気道過敏系モルモットとして選抜し,兄妹交配,いとこ交配及び選択交配を組み合わせて少なくとも5世代にわたる継代選抜を行い,上記気道過敏系モルモットの出現率が5世代において90%以上となるように繁殖させて気道過敏系モルモットを作製する方法」というものである。このうち,「アセチルコリン又はヒスタミンをモルモットに吸入させ,その吸入開始からモルモットが呼吸困難によって横転するまでの時間を測定し,0.08%のアセチルコリン又は0.025%のヒスタミンに対する横転時間が150秒以下であるモルモットを気道過敏系モルモットとして選抜し,」という部分は,内容が明確かつ具体的であり,しかも特定性に富むものとなっている。しかし,次の,「兄妹交配,いとこ交配及び選択交配を組み合わせて少なくとも5世代にわたる継代選抜を行い,」の部分は,内容は明確であるものの,それによって示される範囲は広く,外延の大きい,特定性に乏しいものとなっている。すなわち,ここでは,いわば周知の選抜交配方法が抽象的な形で述べられているだけであり,交配手順や選抜する個体数など具体的事項は何ら特定されていないから,そこから得られる所期のモルモットの出現率には,極めて高いものから極めて低いものまで多様のものが含まれてしまうことになる。 本願発明を特定する特許請求の範囲の文言中「アセチルコリン又はヒスタミンをモルモットに吸入させ,その吸入開始からモルモットが呼吸困難によって横転するまでの時間を測定し,0.08%のアセチルコリン又は0.025%のヒスタミンに対する横転時間が150秒以下であるモルモットを気道過敏系モルモットとして選抜し,兄妹交配,いとこ交配及び選択交配を組み合わせて少なくとも5世代にわたる継代選抜を行い,」の有する意味が上記のとおりのものであることを前提にすると,「上記気道過敏系モルモットの出現率が5世代において90%以上となるように」との文言の有する技術的意味は,「アセチルコリン又はヒスタミンをモルモットに吸入させ,その吸入開始からモルモットが呼吸困難によって横転するまでの時間を測定し,0.08%のアセチルコリン又は0.025%のヒスタミンに対する横転時間が150秒以下であるモルモットを気道過敏系モルモットとして選抜し,兄妹交配,いとこ交配及び選択交配を組み合わせて少なくとも5世代にわたる継代選抜を行」うことの中に含まれる多様の方法(方法が多様であるのに応じて,得られる出現率も多様となる。)の中から,出現率が5世代において90%以上になるもののみを選択し,それに限定するということであると認められ,これにそれ以上の技術的意味を認める資料は,本件明細書の記載を中心に本件全資料を検討しても見いだすことができない。 「上記気道過敏系モルモットの出現率が5世代において90%以上となるように」との文言の有する技術的意味が上記のとおりであるとすると,これを推考することに格別の困難性が認められないことは,明らかなことである。上記のとおり,「アセチルコリン又はヒスタミンをモルモットに吸入させ,その吸入開始からモルモットが呼吸困難によって横転するまでの時間を測定し,0.08%のアセチルコリン又は0.025%のヒスタミンに対する横転時間が150秒以下であるモルモットを気道過敏系モルモットとして選抜し,兄妹交配,いとこ交配及び選択交配を組み合わせて少なくとも5世代にわたる継代選抜を行い」との構成により得られる出現率には,多様のものがある以上,そして,出現率は,本来,100%であることが理想である以上,それに近い90%以上を選択することには何の困難もありようがないからである。 「上記気道過敏系モルモットの出現率が5世代において90%以上となるように」との構成を推考の困難なものとする原告の主張は,「アセチルコリン又はヒスタミンをモルモットに吸入させ,その吸入開始からモルモットが呼吸困難によって横転するまでの時間を測定し,0.08%のアセチルコリン又は0.025%のヒスタミンに対する横転時間が150秒以下であるモルモットを気道過敏系モルモットとして選抜し,兄妹交配,いとこ交配及び選択交配を組み合わせて少なくとも5世代にわたる継代選抜を行い」の構成に含まれる極めて多様の方法の中から,どのようにしたら「上記気道過敏系モルモットの出現率が5世代において90%以上となる」ものを見付け出すことができるかの問題と,見付け出す対象としてどのようなものを設定するかという問題を混同するもの,換言すれば,課題の解決の困難をもって課題の設定の困難としようとするに等しいものという以外にない。本願発明が内容としているのが,「上記気道過敏系モルモットの出現率が5世代において90%以上となる」ようにしようという課題の設定自体であり,この課題を解決する具体的な方法ではないことは,上記特許請求の範囲を中心とする本件明細書の記載全体に照らして,明らかなことであるからである(甲第2号証)。 6 取消事由5(顕著な効果の看過)について 原告は,本願発明は,「実質的に100%の出現率で気道過敏系モルモットを産出する系統を確立」したものである,このような系統の確立は本願出願当時望まれていたにもかかわらず成功した例はなく,本願発明は長期未解決課題を初めて解決したものである,と主張する。 しかしながら,本願発明の特許請求の範囲によれば,5世代において90%以上の出現率で気道過敏系モルモットを産出するというものであるから,本願発明が「実質的に100%の出現率で気道過敏系モルモットを産出する系統を確立」したものでないことは,明らかである。 原告の上記主張は,前提において既に誤っている。 その余の原告主張の効果は,本願発明の構成そのもの又はその当然の効果というべき範囲のものであり,構成自体に容易推考性の認められる発明に特許性(進歩性)を与えるものとはなり得ない。 7 結論 以上によれば,原告主張の審決取消事由は,いずれも理由がないことが明らかであり,その他審決にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 阿部正幸 |
裁判官 | 高瀬順久 |