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関連ワード 参酌 /  技術的意義 /  禁反言 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  侵害 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (ネ) 5092号 損害賠償等請求控訴事件
控訴人 A
訴訟代理人弁護士 萩原清光
補佐人弁理士 富田幸春
被控訴人 株式会社一典工業
訴訟代理人弁護士 武末昌秀
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/12/26
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,別紙物件目録記載の物件を製造,販売,頒布してはならない。
(3) 被控訴人は,控訴人に対し,750万円及びこれに対する平成14年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 主文と同旨
事案の概要等
1 控訴人は,発明の名称を「混合装置付バケット」とする特許(特許第2115716号,以下「本件特許」といい,これに係る発明を「本件発明」という。)を有している(甲第1号証及び第2号証)。控訴人は,被控訴人に対し,被控訴人による別紙物件目録記載の物件(以下「被控訴人製品」という。)の製造・使用が,本件特許を侵害するとして,製造・販売・頒布を差し止める裁判,及び,それにより原告の生じた損害の賠償を命じる裁判を求めて,本訴を提起した。
2 原判決は,控訴人の請求を棄却した。その理由の骨子は,本件特許の構成要件が, ア 掘削機械に取付けて使用するバケットにおいて イ 前記バケットは2枚の側板と ウ 前記各側板の底面に曲線を有して形成された底板とでバケット本体を形成し, エ 前記両側板間にはシャフトを設けてモーターにて駆動すると共に, オ 前記シャフトには所定間隔をへだてた位置に夫々ヒネリ角を有して複数の混合羽根を固定し, カ 前記各混合羽根の取付位置に対応した底板側には長手方向に沿って複数のスリット状開口部を備えたことを特徴とする 混合装置付バケット であるのに対し,被控訴人製品は,ウの「底板」,カの「スリット状開口部」を備えておらず,さらに,カにおける,開口部が「混合羽根の取付位置に対応」している構造も有していないから,上記構成要件を充足しない,というものである。
当事者の主張
当事者双方の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」及び「第3 争点に対する当事者の主張」記載のとおりであるから,これを引用する。
1 当審における控訴人の主張の要点 (1) 「底板」の存在について ア 原判決は,「別紙物件目録の添付図面(判決注・本判決添付の図面と同じである。)のBで示された部分・・・は,ほぼ直線状であるうえ,一定量の土を保持することができるような形状にもなっていないと認められるから,この部分は,「底板」に当たらない。また,このBの部分と開口部Hの部分を合わせたもので考えても,開口部Hの部分は,格子状であって,平たい「板」によって構成されているということはできない(したがって,平たい「板」の底面が曲線で形成されているということもできない。)のみならず,後記4(4)認定のとおり,土を保持することもできないから,これらの部分が「底板」に当たると認めることはできない。」(9頁6行目〜15行目)と判示する。
イ 本件において,「底板」とは,バケット内に土を保留する機能を持つ鉄製の部材のことである。
別紙「作業時におけるバケットの動作」と題する図面(以下「動作図」という。)におけるように,バケットの動作の第一段階で掘削されてバケット内に保留された土は,バケットがリフト(上昇)及び旋回の動作をするとき,動作図符号及び同 の板が落下防止の「底板」として作用しており,また,スリット状開口部Hからも,混合羽根の回転がなければ,土は排出されない。
したがって,被控訴人製品においては,動作図符号,スリット状開口部H及び同図符号に該当する部分が,「底板」を構成しているのである。
ウ 被控訴人は,動作図符号がバケットの爪を支持する「前部板」,同がアームを支える「後部板」である,と主張している。
アームを支える「後部板」とは,動作図符号Sの,モーター格納部材を構成する箱の一部である。被控訴人が主張する,動作図符号ではない。
また,前記のとおり,被控訴人が「前部板」と称する動作図符号の部分は,土を保留する機能を有しているから,掘削用の爪が取り付けやすいように加工した「底板」と解するべきである。
(2) 「スリット状開口部」の存在について ア 原判決は,「証拠(甲4の1ないし6,乙11の1ないし6)によると,被告製品のバケットの開口部Hは,複数の縦棒と複数の横棒とからなる格子状となっており,空間部の面積が広いことが認められるから,細長い隙間とは言い難いものである。」(10頁11行目〜14行目),「被告製品は,複数の縦棒と複数の横棒とからなる格子状の開口部を有する点において,原告が本件特許の出願過程において,本件発明とは異なるものとして除外した構成を有している。
そうすると,被告製品の開口部Hは,「スリット状開口部」に当たるということはできない。」(10頁25行目〜11頁3行目),と判示している。
イ 原判決は,被控訴人製品の格子状開口部の1か所当たりの開口面積と形状が,控訴人製品のスリット状開口部の長方形の開口部とどう違うのか何の説明もしておらず,不当である。
本件発明において,バケット内で混合された土塊は,混合された段階で,常に十分に破砕細粒化されているとは限らない。しかし,そうではあっても,混合された土塊は,混合羽根の回転遠心力により,スリット状開口部の縦部材鋼板の厚部分に衝突して輪切りにされた状態に切り裂かれ,破砕細粒化して,底板長手方向に穿たれた長方形の開口部より排出されるものである。
このような,混合土塊が底板の縦部材に衝突して破砕細粒化される状況をとらえて,混合羽根の回転方向に順列した「長方形」の「スリット状」の開口部,と表現したものである。「長方形の開口部」であることが重要なのである。上記のような形状が,本件発明の作用効果を発揮する上で最適であることは,多くの現場で証明されている。
「格子」とか,「スリット」とかの用語にとらわれるべきではない。
ウ 原判決の,「被告製品は,複数の縦棒と複数の横棒とからなる格子状の開口部を有する点において,原告が本件特許の出願過程において,本件発明とは異なるものとして除外した構成を有している。」との部分は,何を指摘してこのような判断をしたのか意味不明である。
(3) 「スリット状開口部」と混合羽根による,土の混合排出の関係について ア 原判決は,「埼玉八栄工業株式会社が製造する混合装置付きバケットの開口部は,複数の縦棒と複数の横棒とからなる格子状となっており,被告製品とほぼ同様の構造であること,埼玉八栄工業株式会社が製造する混合装置付きバケットは,本件明細書添付の図10に記載されている混合工程において混合された土のほぼすべてが格子状の開口部から排出され,図11の排土工程において残りの土を排出することを要しないこと,以上の事実が認められるから,被告製品においても,本件明細書添付の図10に記載されている混合工程において混合された土のほぼすべてが格子状の開口部から排出され,図11の排土工程において残りの土を排出することを要しないものと考えられる。」(10頁15行目〜24行目)と認定している。
イ 原判決の認定は,被改良土が,乾燥された流動性の高い砂質性のものであることを前提としてのみ認められるものである。しかし,この前提が,誤りなのである。本件特許が対象としている被改良土は,主として,水分を含んだ軟弱土であり,実際にもそのような土が,被改良土となっている。被改良土がこのような軟弱土である場合,バケット内の軟弱土は,混合羽根の回転がなければ,開口部から排出できないから,図10の段階で「土のほぼすべてが格子状の開口部から排出され」る,ということはない。
(4) 開口部と混合羽根の対応について ア 原判決は,「「混合羽根の取付位置に対応したスリット状開口部」は,混合羽根の取付位置にスリット状開口部が1:1で対応していることを意味するものと認められる。」(12頁11行目〜13行目)と判示している。
イ しかし,原判決自身認定しているとおり,本件明細書には,その実施例において,「上記実施例によれば開口部17は,混合羽根に対応して1:1に設けるものとして説明したが,これに限定されるものではない。むしろ1:1に設けることなく,その開口部位置及び大きさを変えることにより,より混合効率を向上させることが可能である。」(甲第1号証2頁4欄46行目〜3頁5欄1行目)と記載されている。
ウ 本件特許の出願の願書に添付された明細書(以下,同願書に添付された図面も併せて「本件明細書」という。)は,その作用効果の原理を述べているものであって,各構成部材の数量までは述べていない。上記明細書の図7も,混合羽根と開口部の関連性を示したものにすぎない。
エ 本件訴訟は,本件特許の審査過程の問題ではなく,その内容について判断を求めるものである。
オ 本件発明の混合羽根の構造,動作及びその作用効果(混合土を斜め方向に撹拌混合し縦部材との衝突の機会を多くし,土塊の細粒化をなす。)からは,開口部が底板の長手方向に長方形である限り,混合羽根と開口部が1:1に対応している必要はない。
2 当審における被控訴人の主張の要点 控訴人の主張は,すべて争う。
当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の「第4 当裁判所の判断」のとおりであるから,これを引用する。
1 「底板」の存在について(控訴人の主張(1)) (1) 控訴人の主張は,要するに,本件発明において「底板」とは土を保留する作用を有するもののことであり,被控訴人製品におけるバケットは,自在に向きを変えて使用する関係上,動作図符号及び符号 に該当する部分も,土を保留する作用を有し,同図Hの開口部も土を保留する作用を有するから,被控訴人製品においては,同図,H ,に該当する部分が,本件発明の「底板」を構成する,というものである。
(2) 本件発明を特定する特許請求の範囲は,「掘削機械に取付けて使用するバケットにおいて,前記バケットは2枚の側板と前記各側板の底面に曲線を有して形成された底板とでバケット本体を形成し,前記両側板間にはシャフトを設けてモータにて駆動すると共に,前記シャフトには所定間隔をへだてた位置に夫々ヒネリ角を有して複数の混合羽根を固定し,かつ前記各混合羽根の取付位置に対応した底板側には長手方向に沿って複数のスリット状開口部を備えたことを特徴とする混合装置付バケット」というものであり,そこには,「底板」につき,「前記各側板の底面に曲線を有して形成された底板」,「前記各混合羽根の取付位置に対応した底板側」,「前記各混合羽根の取付位置に対応した底板側には長手方向に沿って複数のスリット状開口部を備えた」と記載され,また,本件明細書の【課題を解決するための手段及び作用】には,「前記バケットは2枚の側板と前記各側板の底面に曲線を有して形成された底板とでバケット本体を形成し,・・・前記各混合羽根の取付位置に対応した底板側には長手方向に沿って複数のスリット状開口部を備えたものである。・・・混合羽根によってヒネリが加えられた土は,底板に穿たれたスリット状開口部を介して,一部は後方に排出される。」(甲第1号証2頁3欄7行目〜18行目)と記載されている。
上記のとおり,本件明細書の記載では,「底板」は,側板との位置関係,曲線という形状,混合羽根の取付位置に対応したスリット状開口部の存在,の観点から記述されており,控訴人の主張するような,「土の保留作用」の観点からこれを定義づけた記載は,【実施例】の記載まで参酌しても,見いだすことができない(甲第1号証)。
本件発明を特定する特許請求の範囲で用いられている用語の一般的意味を無視ないし軽視し,かつ,土の保留機能の有無の観点を重視して,「底板」であるか否かを判断すべきであるとする控訴人の主張は,前提において既に失当である。
2 「スリット状開口部」の存在について(控訴人の主張(2)) (1) 控訴人の主張は,要するに,底板の長手方向ないし混合羽根の動作方向に沿って,長辺が存在する「長方形の開口部」があることに,本件発明の技術上の意義があり,この構成要件を満たす以上,それが「スリット状」であるか「格子状」であるかは実質的な差異ではない,とするものである。
(2) 控訴人は,本件特許の登録を受けるに至る過程で,平成6年10月28日付けで拒絶理由通知を受けたのに対し,そこに示された引用例2に記載された技術と本件発明との違いの一つとして,前者のバケット底面の開口部が「格子状」であるのに対し,本件発明では,「底板側に設けた開口部は底板の長手方向に沿ってスリット状としたこと」を挙げている。
発明の内容を解釈するに当たり,補正等,特許登録に至る過程を斟酌することは当然であって,控訴人が,補正で,本件特許の開口部が「格子状」ではなく,「スリット状」であるとした以上,「格子状の開口部」が,「スリット状開口部」に該当しないことは当然である(包袋禁反言の原則)。
控訴人が主張するように,底板に,一定の向きの「長方形の開口部」が存在することに,本件発明の技術上の意義があるとしても,審査の過程及び本件特許の明細書の記載から,控訴人が,本件特許の構成要件がそのようなものであるとして,特許請求をしたと認めることができない以上,一定の向きを有する「長方形の開口部」を有することが,本件特許の構成要件であると解釈することはできない。
(乙第4号証,第7号証ないし第9号証) 被控訴人製品の開口部は,縦棒と横棒により形成された「格子状」であることは明らかであるから,これが「スリット状開口部」ではないとした原判決の判断は相当である。
(3) 控訴人は,原判決が,本件発明と被控訴人製品の,開口部の面積と形状を比較していないことを論難する。しかし,上記のとおり,被控訴人製品の開口部が「格子状」であることは明らかである上,もともと,本件発明においても,バケットの底面の開口部の面積と形状について,数値による比較ができるような明確な定義がなされているものではない。
控訴人の主張は,失当である。
3 「スリット状開口部」と混合羽根による,土の混合排出の関係について(控訴人の主張(3)) (1) 控訴人は,原判決は,被改良土が,乾燥された流動性の高い砂質姓のものであることを前提としている点で誤っており,本件特許が対象としている被改良土は主として水分を含んだ軟弱土であって,被改良土が軟弱土である場合,混合羽根の回転がなければ,開口部から排出できないから,本件明細書添付の図10の段階で,「土のほぼすべてが格子状の開口部から排出され」ることはないから,そのように排出されるものとした原判決の認定は誤っている,と主張する。
(2) 控訴人は,その主張を裏付けるべき,軟弱土の具体的な含水性,粘性,実験結果等を明らかにしていないから,その当否はにわかに判断できない。
しかし,この点をおくとしても,本件明細書には,その【発明の効果】の欄に「・・・B ヘドロ,細砂などの流動性の高い軟弱土は,混合と排出がスムースに行なわれるため,作業効率大となる。C 上記Bに伴ない,流動性のある軟弱土の場合は,バケットを土中に突込んだまま水平に移動するだけで,掘削,排出の一連の作業工程が完了し,時間短縮となる。・・・」(甲第1号証3頁5欄17行目〜22行目)と記載され,また,実施例においても,「・・・又,モータの回転数は任意に調整可能としてあるため,粘性土や砂ビート等,土質の変化に対応できる・・・」(甲第1号証2頁4欄16行目〜18行目)と記載されている。
これらの記載からは,そもそも,本件発明において被改良土と考えられているものが,軟弱土や,流動性の低い(粘性の高い)土に限定されていると解することはできない。
(3) 本件特許の明細書には,「【0012】図10は掬い上げる工程であり,前記したように破砕板14と混合羽根16によってヒネリが2段に加えられた土は,底板3に穿たれた開口部17を介して,混合された状態で一部は後方に排出される。・・・」(甲第1号証2頁4欄41行目〜44行目)との記載があり,また,図10にも,混合羽根13の上方に右やや下を指す,弧状の矢印が図示されている。 これらの記載からは,図10の段階では,混合羽根は回転している状態にあると認められる。
被控訴人製品において,バケットの開口部を上向きにし,混合羽根を回転させた状態にすれば,掬い上げ,バケットの中で撹拌混合された被改良土は,バケット背面の格子状開口部からほぼ全量排出されると認められる。したがって,原判決が,被控訴人製品において,「図10に記載されている混合工程において混合された土のほぼすべてが格子状の開口部から排出され」と認定したことに,何ら誤りはない。
4 開口部と混合羽根の対応について(控訴人の主張(4)) (1) 本件特許の当初の明細書(乙第4号証)には,「【請求項1】掘削作業に使用するバケットにおいて,前記バケット内にはモータによって回動する混合装置を設けると共に,噴射装置を設けて外部にある固化剤供給源に接続し,かつモータの回転数を調整可能としたことを特徴とする混合装置付バケット。
【請求項2】バケット本体の底板には所定数の開口部を設けたことを特徴とする請求項1項記載の混合装置付バケット」と記載され,添付図面の図7では,スリット状の開口部と混合羽根が1:1に対応したものが,図示されている。ただし,【実施例】の記載の中に,「【0012】・・・上記実施例によれば開口部17は,混合羽根に対応して1:1に設けるものとして説明したが,これに限定されるものではない。むしろ1:1に設けることなく,その開口部位置及び大きさを変えることにより,より混合効率を向上させることが可能である。」との部分がある。
前記のとおり,控訴人は,平成6年10月28日付で,拒絶理由通知を受け,これに対する意見書の中で,本件発明と上記拒絶理由の中の引用例との違いに関し,本件発明は,「スリット状の開口の位置は混合羽根の取付位置に対応して設けたこと」を挙げ,「(これがあるからこそ)混合羽根によって混合された改良対象土の移送先が確実になって排出の容易性を達成できる・・・」と説明している。
そして,平成6年12月26日に原告が提出した手続補正書では,本件特許の請求項を,請求項1にまとめて,「掘削機械に取付けて使用するバケットにおいて,前記バケットは2枚の側板と前記各側板の底面に曲線を有して形成された底板とでバケット本体を形成し,前記両側板間にはシャフトを設けてモータにて駆動すると共に,前記シャフトには所定間隔をへだてた位置に夫々ヒネリ角を有して複数の混合羽根を固定し,かつ前記各混合羽根の取付位置に対応した底板側には長手方向に沿って複数のスリット状開口部を備えたことを特徴とする混合装置付バケット」とした。なお,上記の図7及び実施例の記載には,何ら補正は加えられていない。
(乙第5号証〜第9号証) (2) 以上の,本件特許の登録に至る経緯にかんがみれば,当初の明細書においては,混合羽根とスリット状開口部が1:1に対応するもの以外のものも出願の対象となる発明とされていたものの,上記補正により,出願の対象となる発明は,混合羽根の取付位置に対応して,その位置にスリット状の開口部があるもの,すなわち,前者と後者が1:1に対応したものに限定されたと解するべきである。上記実施例中の記載は,これが補正により新たに加えられたものであるなら格別,当初からあったものであるから,単なる補正漏れと考えるべきであって,これにより,前記認定が左右されるものではない。
仮に,控訴人の主張するとおり,混合羽根の取付位置とスリット状開口部とが1:1に対応していることに格別の技術的意義がないとしても,特許登録の過程で,引用例との違いを明確にするために,本件発明の構成要件が限定されたものである以上,そのように本件発明の構成要件を解釈すべきであることはいうまでもない。発明の構成要件は,専ら,客観的に認められる技術上の意義のみから行えばよい,というものではないのである。
5 結論 以上検討したところによれば,控訴人の請求は理由がなく,これを棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がない。そこで,これを棄却することとし,控訴費用の負担について民事訴訟法67条,61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久