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関連審決 無効2002-35403
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10373号 審決取消請求事件
原告X
原告 株式会社アシスト
上記両名訴訟代理人弁理士 西村教光
被告 アップル医療機器株式会社
訴訟代理人弁護士 水上洋,鈴木正勇
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/10/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
原告らの求めた裁判
「特許庁が無効2002-35403号事件について平成16年12月15日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,特許を無効とする審決の取消しを求める事件であり,原告らは無効とされた特許の特許権者,被告は上記特許に対する無効審判の請求人である。
1 特許庁等における手続の経緯 (1) 原告らは,発明の名称を「加圧ベルト」とする特許第2101168号(請求項の数2。平成2年8月25日に出願,平成8年10月22日に設定登録。)の特許権者である。
(2) 被告は,平成14年9月25日,請求項2に係る特許(以下「本件特許」という。)について無効審判の請求をした(無効2002-35403号事件として係属)。
(3) 特許庁は,平成15年9月9日,請求項2に係る発明(以下「本件発明」という。)は,被告が提出した証拠方法によっては,当業者が容易に想到することができたとはいえないから,本件特許を無効とすることはできない,として,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「第1次審決」という。甲2)をした。
(4) 被告は,平成15年10月10日,東京高等裁判所に第1次審決の取消しを求める訴訟を提起したところ(同年(行ケ)第453号事件として係属),同裁判所は,平成16年8月24日,特許庁が,本件発明と引用発明1(後記引用発明1と同じ。)との相違点の認定を誤り,これを前提としてされた相違点についての判断も誤ったとして,第1次審決を取り消す旨の判決(甲2)を言い渡し,同判決は確定した。
(5) 特許庁は,上記審判請求事件について更に審理し,平成16年12月15日,「特許第2101168号の請求項2に係る特許を無効とする。」との審決をし,同月28日,その謄本を原告らに送達した。
2 請求項2の発明の要旨 「織物状の広幅ゴム(6)を帯状に2枚(7a,7b)重ねあわせ両端(8a,8b)を縫合し,該広幅ゴムの両端表裏に面ファスナー(9a,9b)を設けたことを特徴とする腰部の加圧ベルト。」 3 審決の理由 審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件発明は,審判甲1記載の発明並びに審判甲2及び審判甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである,というのである。
(1) 審判甲各号証記載の内容 審判甲各号証には,次の事項が記載されていると認める。
ア 審判甲1(本訴甲3,実願昭49-40386号(実開昭50-130198号)のマイクロフィルム) (ア) 「本考案は,妊婦などの腹部に十分にフイツトし全体を被覆支持しうる腹帯に関するものである。
腹帯の中央部を二重とし,両端部を一重とするようにして,二重部分を上下に拡げうる構造となし,幅広く腹部を包み込み得るようにした腹帯について検討したが,例えば,二重部分5,5'と一重部分6とを縫着7したものは第1図に示すように・・・易い」(明細書1頁下から6行-2頁5行) (イ) 「帯本体あるいは補助帯としては,通常の厚地の布,芯入り布,ゴムなどの発泡体と一体化したものなどが用いられ,布地自体伸縮性を有しているものも有効である。」(明細書3頁12-15行) 上記(ア)及び(イ)により,審判甲1(本訴甲3)には,次の「腹帯」の発明が記載されていると認める。
「伸縮性を有する布を帯状に2枚重ね合わせ,中央部が上下に拡げうるように二重で両端部が一重となるように一方の布の両端を他方の布に縫合した腹帯」(以下「審判甲1記載の発明」という。) イ 審判甲2(本訴甲4,実願昭63-63858号(実開平1-167221号)のマイクロフィルム) (ア) 「本考案は,姿勢を正したり股関節亜脱臼などの股関節部組織の異常を匡正して神経痛,腰痛などの各種障害の治療に用いるべく股関節部のある位置のヒトの腰部及び下腹部の周りを緊締できるようにされた弾性バンドとか,ヒトの容姿を端正に保つべくウエスト部の周りを緊締できるようにされた弾性バンドといつたようなヒトの胴部を押圧状に緊締すべき弾性バンド用のバンド地に関し,特にバンド地を構成する織物組織に検討を加えて・・・バンド地に係る。」(明細書1頁12行-2頁4行) (イ) 「第1図に示すように,織物を織るときの・・・経糸(8)と,第6図に示すような糸ゴムを芯としつつ・・・弾性糸(1)とが,交互に配列されたものにすると共に,・・・第1図に示すような織物組織のバンド地(2)としたものである」(明細書6頁9行-7頁6行) ウ 審判甲3(本訴甲5,実願昭53-164307号(実開昭55-78322号)のマイクロフィルム) 「近年腰痛用,健康保持用或いは妊婦用腹帯としては弾性ゴム等の内蔵した布バンドを腰部に捲纏し,これを接着布によって接合するなどの手段によって腰部に着脱していた。」(明細書1頁下から6-3行) エ 審判甲16(本訴甲6,真田幸一・高橋悦二郎編「最新赤ちゃん百科」株式会社講談社1988年(昭和63年)2月22日発行) 「いちだんと大きくなるおなかを保護し,冷えを防ぐということや,腹帯を巻くことによってなんとなく安心したり,妊婦としての自覚が促されるということから,巻く人も多いようです。また,姿勢の変化からおこる腰痛の防止や改善にも役立ち,腹部を固定して支えるので,姿勢が正しくなって動きやすくなるという効用があります。」(104頁上段) (2) 対比 本件発明と審判甲1記載の発明とを対比すると,本件発明の「腰部の加圧ベルト」と審判甲1記載の発明の「腹帯」とは,ベルトであることに限り共通している。
また,本件発明の「織物状の広幅ゴム」と審判甲1記載の発明の「伸縮性を有する布」とは,伸縮材であることに限り共通している。
さらに,本件発明の「織物状の広幅ゴムを帯状に2枚重ね合わせ両端を縫合」することは,特許明細書等の記載事項より,中央部を上下に拡げうるためのものであることから,本件発明の「両端を縫合」することと審判甲1記載の発明の「中央部が上下に拡げうるように二重で両端部が一重となるように一方の布の両端を他方の布に縫合」することとは,中央部を上下に拡げうるように縫合することに限り共通している。
以上のとおりであるので,両者は,次の「ベルト」で一致している。
伸縮材を帯状に2枚重ねあわせ,中央部を上下に拡げうるように縫合したベルト。
そして,両者は,次の各相違点で相違している。
ア 相違点1 ベルトが,本件発明では,「腹部の加圧ベルト」であるのに対し,審判甲1記載の発明では,「腹帯」である点。
イ 相違点2 伸縮材が,本件発明では,「織物状の広幅ゴム」であるのに対し,審判甲1記載の発明では,「伸縮性を有する布」である点。
ウ 相違点3 中央部を上下に拡げうるように縫合することが,本件発明では,「両端を縫合」することであるのに対し,審判甲1記載の発明では,「中央部が上下に拡げうるように二重で両端部が一重となるように一方の布の両端を他方の布に縫合」することである点。
エ 相違点4 本件発明では,広幅ゴムの両端表裏に面ファスナーを設けているのに対し,審判甲1記載の発明では,面ファスナーを設けているものであるのか明らかではない点。
(3) 判断 上記各相違点について,以下検討する。
ア 相違点1について 前記(1)ウの審判甲3(本訴甲5)についての摘記事項より,弾性ゴム等を内蔵した布バンドは,腰痛用にも妊婦用の腹帯用にも使用しうるものであり,また,前記(1)エの審判甲16(本訴甲6)についての摘記事項に見られるように,腹帯が妊婦の腰痛の改善に役立つものであることは,技術常識である。
したがって,腰痛防止用の加圧ベルトと腹帯とはその技術分野としてきわめて密接な関係にあるものであり,審判甲1記載の腹帯を腰部の加圧ベルトに用いることに格別の困難性は見当たらない。
イ 相違点2について 前記(1)イの審判甲2(本訴甲4)についての摘記事項より,審判甲2には,糸ゴムを芯とする弾性糸を用いた織物組織のバンド地,すなわち織物状の広幅ゴムを腰痛治療に用いることが記載されているので,上記相違点1についてで検討した腹帯を腰部の加圧ベルトに用いるに際し,上記審判甲2(本訴甲4)に記載されて事項を参酌し,その伸縮材である伸縮性を有する布に代えて織物状の広幅ゴムを使用することにも格別の困難性は見当たらない。
ウ 相違点3について 審判甲1記載の発明では,中央部が上下に拡げうるように二重で両端部が一重となるように一方の布の両端を他方の布に縫合しているが,一方の帯状の布と他方の帯状の布とを縫合するに際し,両者をどのような箇所で縫合するかは必要に応じて適宜決定する設計的事項であって,本件発明におけるように両端を縫合することに格別の困難性は見当たらない。
エ 相違点4について 腰部の加圧ベルトも腹帯も腰痛等の程度や母体や胎児の状況に応じて様々な加圧力が必要とされるものであり,その使用者が腰部の加圧ベルトや腹帯を着用する際に,面ファスナー等でその加圧力を調整しながら着用するものであることは自明の事項であるので,広幅ゴムの採用に際し,その広幅ゴムの両端に面ファスナーを設けることは,当然になされることであり,また,その面ファスナーを表裏に設けることにも格別の困難性は見当たらない。
オ 本件発明の作用効果について 本件発明の作用効果は,審判甲1記載の発明並びに審判甲2(本訴甲4)及び審判甲3(本訴甲5)に記載された事項から当業者が予測できる程度のものであって格別のものではない。
なお,本件発明は,請求項2に記載された事項より,腰部に巻いて面ファスナーで固定し,腰部を加圧するベルトであると解することはできるものの,2枚の重ね合わせた部分をどのように着用するのか,腰痛防止用又は腰痛治療用のものであるのかの点についてまで明確に規定されているものではない。
したがって,本件発明は,腰痛を阻止させるような大きな加圧力を必要とするものであり,腹帯のように妊婦の腹部が不安定とならないように保持する構造とは,構成及び作用効果が基本的に相違するものである旨の被請求人の主張は,採用することができない。
(4) 審決のむすび 以上のとおり,本件発明は,審判甲1記載の発明並びに審判甲2(本訴甲4)及び審判甲3(本訴甲5)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
当事者の主張
1 原告ら主張の審決取消事由 (1) 取消事由1(相違点3についての判断の誤り) 審決は,相違点3について,「審判甲1記載の発明では,中央部が上下に拡げうるように二重で両端部が一重となるように一方の布の両端を他方の布に縫合しているが,一方の帯状の布と他方の帯状の布とを縫合するに際し,両者をどのような箇所で縫合するかは必要に応じて適宜決定する設計的事項であって,本件発明におけるように両端を縫合することに格別の困難性は見当たらない。」と判断したが,誤りである。
審判甲1記載の発明は,中央部を二重とし,両端部を一重とする構成であって,本件発明のように,「帯状に2枚(7a,7b)重ねあわせ」た構成でも,「両端(8a,8b)を縫合し」た構成でもないから,両者は構成が明らかに相違する。
そして,相違点3に係る「織物状の広幅ゴム(6)を帯状に2枚(7a,7b)重ねあわせ両端(8a,8b)を縫合し,」との構成は,甲4ないし6(審判甲2,3,16)に記載がなく,当業者が適宜決定するような設計的事項であるとはいえない。
(2) 取消事由2(作用効果についての判断の誤り) 審決は,「本件発明の作用効果は,審判甲1記載の発明並びに審判甲2及び審判甲3に記載された事項から当業者が予測できる程度のものであって格別のものではない。」と判断したが,誤りである。
ア 本件発明の加圧ベルトは,広幅ゴムの両端を縫合しているから,その中間部のみならず,端部においても,二重の比較的強い均等な伸縮加圧と上下方向へのズラシによる広がりが可能となり,腰部の背部のみならず,腰部の前部,特に骨盤や股関節,すなわち,恥骨部分を十分に強くかつ上下に広く加圧し,これにより,「骨盤の安定」を図るとともに,ヒップアップも同時にできる。
これに対し,審判甲1記載の発明の腹帯のように,中央部のみが二重で両端部が一重であると,装着に当たり,一重部分が先に伸びて二重部分の伸長加圧が不完全になり,一重部分での加圧は,本件発明に比較して,圧力面積及び伸縮圧力ともに不十分で,仮に審判甲1記載の発明の腹帯の両端部を体の前部で結合したとしても,本件発明の優れた作用効果,特に,恥骨部分での十分な加圧と骨盤の安定作用は得られない。
イ 審判甲1記載の発明は,「縫着部分の上下において着用時一方の帯体5'がゆるみを生じ,不要なしわや折り目を形成し,着用感を悪くし,帯体5による締めつけ効果が少なく,しかも外観も損なわれ易い。」という不具合があるが,本件発明の腰部の加圧ベルトは,装着時,端部及び中間部が全体として略均等に伸びるため,このような不具合は生じない。
ウ 審判甲1記載の発明の腹帯は,中央の二重部分で妊婦の腹部を包み込むように保持したときに,二重部分での伸長加圧が不完全であり,胎児に加圧による悪影響を与えることがないから,腹帯として適している。これに対し,仮に本件発明を腹帯に転用したとすると,全体としての二重部分に二重の比較的強い均等な伸縮加圧があり,胎児に悪影響を与えることが避けられないから,これを腹帯として用いることはできない。
エ 本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明や効果の欄に記載されているように,使用者による唯一典型的な使用例により,使用者の体形と要望に応じて,@腰部尻部を安定させる効果,Aヒップアップ効果,さらには,B加圧ベルトの装着時のズレ上がり防止効果,C腰痛防止効果,Dギックリ腰の防止効果,E骨盤のゆがみ防止効果,F腰の安定保護効果など多数の優れた効果が期待できるが,このような本件発明の作用効果,特に上記CないしFの作用効果は,本件発明の「織物状の広幅ゴム(6)を帯状に2枚(7a,7b)重ねあわせ両端(8a,8b)を縫合し,」との構成により,恥骨部分を含めた骨盤の周囲が均等に二重加圧されることにより得られるものである。これに対し,審判甲1記載の発明の腹帯は,二重部分5,5'と一重部分6の加圧が不完全で不均一であるから,本件発明による上記のような作用効果は得られない。
オ 本件発明は,「織物状の広幅ゴム(6)を帯状に2枚(7a,7b)重ねあわせ両端(8a,8b)を縫合し,」との構成を採用したことにより,以上のような審判甲1記載の発明にはみられない作用効果を奏するのであり,しかも,これらの作用効果は当業者が予測する範囲を超えるものである。
2 被告の反論 (1) 取消事由1(相違点3についての判断の誤り)に対して 本件発明と審判甲1記載の発明は,「中央部で上下に拡げうるように縫合」するところまでは共通しており,原告らが主張する点は,差異として指摘するほどのものではなく,単なる設計的事項にすぎないから,審決の判断に誤りはない。
(2) 取消事由2(作用効果についての判断の誤り)に対して 原告らが主張する本件発明の作用効果は,本件明細書に記載されていない上,審判甲1記載の発明並びに甲4及び甲5に記載された事項から当業者が予測できる程度のものにすぎないから,審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点3についての判断の誤り)について (1) 審判甲1記載の発明について ア 甲3(審判甲1)には,以下の記載がある。
「本考案は,妊婦などの腹部に十分にフイツトし全体を被覆支持しうる腹帯に関するものである。腹帯の中央部を二重とし,両端部を一重とするようにして,二重部分を上下に拡げうる構造となし,幅広く腹部を包み込み得るようにした腹帯について検討したが,例えば,二重部分5,5'と一重部分6とを縫着7したものは第1図に示すように縫着部分の上下において着用時一方の帯体5'がゆるみを生じ,不要なしわや折り目を形成し,着用感を悪くし,帯体5による締めつけ効果が少なく,しかも外観も損われ易い。本考案は,このような欠点をなくしたもので,第2図に示すように,両側に係着具2,2'を有する腹帯本体1において,その一面において着用時の両端部に相当する部分に取りつけられた枢着部材・・・の一方の部材3と,本体1より短かい補助帯4の両端部に取りつけられた枢着部材または着脱自在係着具の他方の部材・・・とを係着することにより帯本体1上に補助帯4を支持してなる腹帯である。この構造によれば,枢着部材の場合,補助帯4が両端の枢着部材を中心として回転しうるため,帯本体1と補助帯4とを無理なく幅方向に分離するように拡げ,第3図のように着用しうる。」(1頁下から6行ないし2頁20行) 「帯本体あるいは補助帯としては,通常の厚地の布,芯入り布,ゴムなどの発泡体と一体化したものなどが用いられ,布地自体伸縮性を有しているものも有効である。」(3頁12ないし15行), イ 上記アの記載によれば,審判甲1記載の発明は,実願昭49-40386号(実開昭50-130198号)のマイクロフィルムに従来技術として記載された腹帯であってゴムなどを用いた伸縮性を有する布地を使用し,帯状の布を2枚重ねあわせた状態にして,その二重部分の帯体の両端を一重部分の帯体に縫着したというものである。
(2) 審判甲1記載の発明は,上記(1)のように,帯状の布を2枚重ねあわせた状態にして,その二重部分の帯体の両端を一重部分の帯体に縫着したものであるから,本件発明の「帯状に2枚(7a,7b)重ねあわせ」た構成と相違するわけではない。そして,本件発明の「両端を縫合し」たとの構成について,審決は,「本件発明では,「両端を縫合」することであるのに対し,審判甲1記載の発明では,「中央部が上下に拡げうるように二重で両端部が一重となるように一方の布の両端を他方の布に縫合」することである点。」を相違点3として認定しているところ,二重部分の帯体の両端を一重部分の帯体とを縫合するに際し,両者をどのような箇所で縫合するのかは,必要に応じて適宜決定すれば足りると考えられるから,相違点3に係る構成を本件発明のように「両端を縫合」する構成とすることに格別の困難があるとは認められない。
(3) したがって,取消事由1は,理由がない。
2 取消事由2(作用効果についての判断の誤り)について (1) 上記第3の1(2)アの主張について ア 本件発明について 本件明細書(甲1)の特許請求の範囲の【請求項2】には,「織物状の広幅ゴム(6)を帯状に2枚(7a,7b)重ねあわせ両端(8a,8b)を縫合し,該広幅ゴムの両端表裏に面ファスナー(9a,9b)を設けたことを特徴とする腰部の加圧ベルト。」との記載があり,これによれば,本件発明の加圧ベルトは,広幅ゴムを帯状に2枚重ねあわせて両端を縫合し,両端表裏に面ファスナーを設けたというのものであって,腰部に巻いて面ファスナーで固定し,腰部を加圧するベルトであると理解することができる。しかし,上記【請求項2】には,加圧の程度や2枚の重ね合わせた部分をどのように着用するのかという点についてまでは明確に規定していない。
また,本件明細書の発明の詳細な説明には,【作用】の欄に「二重に設けられている腰用広幅ベルトの両端を両手で持ち,広幅ゴムは二重のまま尻部中央に当て,広幅ゴムを引き伸しながら結合部(8a,8b)を体の前部の恥骨上で結合させ,広幅ゴムの一枚(7a)を尻部下方に下ろし当てる。広幅ゴムの伸縮によって腰部はかるく押さえられ骨盤の安定をはかるとともに尻を下方より上に持ち上げているのでヒップアップも同時にできる。」(2頁左欄21ないし28行),【効果】の欄に「腰部加圧ベルトについては1.広幅ゴム(7a)で尻部下辺をささえ,広幅ゴム(7b)で尻部外周を押さえているので腰部尻部を安定させる効果がある。
2.広幅ゴム(7a)によって尻部の下方を上方に押し上げる形となるのでヒップアップの効果がある。」(2頁右欄7ないし12行)との記載があり,これによれば,本件発明の加圧ベルトは,広幅ゴムを二重のまま尻部中央に当てて結合部を体の前部の恥骨上で結合させ,広幅ゴムの一枚を下げて尻部下方に当てて装着し,これにより,腰部を軽く押さえて腰部及び尻部を安定させるとともにヒップアップの効果を奏するものであると認められる。しかし,本件明細書には,原告らの主張するような,「恥骨部分を十分に強く且つ上下に広く加圧」する装着方法やその装着による作用効果を明示する記載はなく,実施例の装着状態を示す第1図にも,体の前部の結合部から徐々に上下に広がる様子が示されているにすぎないから,本件発明が,「恥骨部分を十分に強くかつ上下に広く加圧」するものであるとまでは認めることができない。
イ また,審判甲1記載の発明は,一重部分の長さが特定されているわけではなく,一重部分の長さを短くすれば,両端部を前にして装着する際に,恥骨部分の周辺においても,二重部分を上下にずらすことは可能であるから,「恥骨部分を上下に広く加圧」するという点において,本件発明と格別の差異があるとは認められない。
しかも,審判甲1記載の発明は,例えば,二重部分を伸ばしながら装着すれば一重部分が先に伸びるということはないと考えられるし,一重部分が先に伸びるとしても,それを前提に設計したのであれば,二重部分の伸長加圧が不完全になるということもできない。そして,審判甲1記載の発明における一重部分の加圧が,本件発明のように端部においても二重であるものの加圧と相違するとしても,本件明細書には,これにより格別の作用効果の差異が生じるものであると理解すべき記載はないから,恥骨部分での十分な加圧と骨盤の安定作用の点で,本件発明と審判甲1記載の発明とに格別の差異はない。
ウ 原告らの上記第3の1(2)イの主張は,採用することができない。
(2) 上記第3の1(2)イの主張について 上記1(1)アで摘示した甲3(審判甲1)の記載によれば,原告らが主張する審判甲1記載の発明の不具合は,両側に係着具3,3'を有する腹帯との対比で説明されたものであると認められる。ところで,本件発明も,審判甲1記載の発明も,いずれも帯状に重ねあわせた端部を縫合するものであって,係着具を有しないという点において,両者に差異はない。
したがって,原告らが主張する審判甲1記載の発明の不具合の点で,本件発明と審判甲1記載の発明とに格別の差異があるとは認めることができない。原告らの上記第3の1(2)イの主張は,採用することができない。
(3) 上記第3の1(2)ウの主張について 本件発明を腹帯に用いることができるかどうかは,本件発明の進歩性の有無を論じる上で関係のない事柄であるし,本件発明も,審判甲1記載の発明も,いずれも,伸縮性や加圧の程度が特定されているわけではなく,二重部分の伸縮の仕方,加圧の程度において,両者に格別の差異があるということはできないから,本件発明を腹帯に用いることができないとまでは断定することができない。
原告らの上記第3の1(2)ウの主張は,採用の限りでない。
(4) 上記第3の1(2)エの主張について 上記1(1)アで摘示した甲3(審判甲1)の記載によれば,原告らが上記第3の1(2)エで主張するBないしFの作用効果は,本件明細書に記載されていないといわざるを得ない。しかも,上記(1)イに判示したように,審判甲1記載の発明は,一重部分の長さが特定されているわけではなく,一重部分の長さを短くすれば,両端部を前にして装着する際に,恥骨部分の周辺においても,二重部分を上下にずらすことは可能であるから,「恥骨部分を含めた骨盤の周囲が均等に二重加圧される」という点において,本件発明と格別の差異があるとは認めることができない。
そうであれば,本件発明が「織物状の広幅ゴム(6)を帯状に2枚(7a,7b)重ねあわせ両端(8a,8b)を縫合し,」との構成を採用したものであるとしても,その作用効果が審判甲1記載の発明にみられないものであるとは考え難いし,また,これが当業者の予測する範囲を超えるものであるとも考え難い。
原告らの上記第3の1(2)エの主張も,採用することができない。
(5) したがって,取消事由2は,理由がない。
結論
以上のとおりであって,原告らの主張する審決取消事由は,いずれも理由がないから,原告らの請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 野輝久
裁判官 佐藤達文