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関連審決 異議2000-70322
関連ワード 技術的思想 /  製造方法 /  新規性 /  29条1項3号 /  アクセス /  一致点の認定 /  優先権 /  参酌 /  特許発明 /  実施 /  設定登録 /  補助参加 /  取消決定 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 594号 特許取消決定取消請求事件
原告 3Mカンパニー(旧商号) ミネソタ マイニング アンド マニュフ ァクチュアリング コンパニー
訴訟代理人弁護士 片山英二
同 北原潤一
同 弁理士 小林純子
同 古橋伸茂
被告 特許庁長官太田 信一郎
指定代理人 高橋美実
同 末政清滋
同 山口由木
同 高木進
同 宮川久成
被告補助参加人 日本カーバイド工業株式会社
訴訟代理人弁理士 小田島 平吉
同 深浦秀夫
同 江角洋治
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/01/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2000-70322号事件について平成13年8月20日にした決定を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,下記特許異議の申立てに係る下記特許(以下「本件特許」といい,その特許発明を「本件発明」という。)の特許権者であり,その手続の経緯は次のとおりである。
1985年11月18日 優先権主張・米国 昭和61年11月17日 特許出願 平成11年 5月14日 設定登録(特許第2926403号発明「包まれたレンズ型逆行反射性シート」) 平成12年 1月24日及び同月28日 特許異議の申立て(異議2000-70322号) 平成13年 8月20日 本件特許を取り消す旨の決定 同 年 9月10日 原告への決定謄本送達 2 本件発明の要旨 1.(@)実質的にレンズの単層をキャリヤーウェブへ部分的に埋め, (A)前記キャリヤーウェブのレンズを有する表面の上に鏡面状反射性材料を付着させ, (B)熱と圧力をかけて,HMW熱可塑性結合剤フィルムを,レンズ間の前記キャリヤーウェブの表面上にある鏡面状反射性付着物のどの部分とも接触させないようにしながら,レンズ上にある鏡面状反射性付着物の部分に接触させ, (C)キャリヤーウェブを剥がし, (D)露出したレンズ上に覆いフィルムを置き,そして (E)網目状結合部線に沿って熱と圧力をかけ,結合剤材料を軟化して変形し,覆いフィルムと接触させ,このようにして気密に密封したセルを形成し,それらのセル中にレンズが包まれ,且つ空気と接するようにする 諸工程を含む包まれたレンズ型逆行反射性シートの製造方法
4.実質的にレンズの単層が部分的に埋められている結合剤層, レンズの下に存在する鏡面状反射性層,および 気密に密封されたセルで,その中にレンズが包まれ且つ空気と接しているセルを形成するよう網目状結合部線に沿って結合剤層を密封する覆いフィルムを含む,可撓性のある包まれたレンズ型逆行反射性シートであって, 結合剤層が少なくとも60,000の重量平均分子量および750未満の溶融指数を有するHMW熱可塑性フィルムであり,覆いフィルムがHMW熱可塑性結合剤フィルムと相溶性があり,且つレンズ間の結合剤層上には鏡面状反射性層が存在しない,上記シート。
(以下,上記請求項1記載の本件発明を「第1発明」と,同4記載の本件発明を「第2発明」という。なお,請求項2,3は,いわゆる実施態様項である。) 3 本件決定の理由 本件決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,第1発明及び第2発明は,いずれも,特開昭57-189839号公報(本訴乙1〔枝番を含む。以下同じ。〕,丙1,以下「刊行物1」という。)に記載された発明であるから,本件特許は,特許法29条1項3号の規定に違反してされたものであり,同法113条1項2号に該当するものとして取り消すべきものとした。
原告主張の本件決定取消事由
本件決定は,第1発明及び第2発明について,いずれも刊行物1に記載された発明であるとの誤った認定をした(取消事由1,2)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(第1発明の新規性を否定した認定判断の誤り) (1) 本件決定は,第1発明の工程(A)(「前記キャリヤーウェブのレンズを有する表面の上に鏡面状反射性材料を付着させ」る工程)及び工程(B)(「熱と圧力をかけて,HMW熱可塑性結合剤フィルムを,レンズ間の前記キャリヤーウェブの表面上にある鏡面状反射性付着物のどの部分とも接触させないようにしながら,レンズ上にある鏡面状反射性付着物の部分に接触させ」る工程)が,いずれも刊行物1に開示されていると認定する(決定謄本4頁第2,第3段落)が,以下のとおり誤りである。なお,刊行物1に第1発明の工程(@)が開示されていることは認める。
(2) 刊行物1について 刊行物1を示す証拠としては,特許庁の端末から打ち出された乙1と,国立国会図書館が昭和57年11月22日に受け入れた丙1とが提出されているところ,両者の図面には異なった様相を呈している部分があるが,乙1は公衆にアクセス可能となった時期が不明であるから,本件において,刊行物1の記載事項は,丙1に基づいて検討するのが妥当である。
(3) 工程(A)について まず,第1発明の工程(A)において,鏡面状反射性材料が付着させられる「キャリヤーウェブのレンズを有する表面の上」とは,蒸着の特性からしても,また,本件明細書(甲2)の「アルミニウムの薄いフィルム層(20)が微小球(18)及びそれら微小球の間のポリエチレンフィルムの表面上に蒸着されている」(9欄29行目以下)との記載及び第1図の図示からしても,レンズ間のキャリアーウェブの表面を意味しているというべきである。
ところが,本件決定は,刊行物1(丙1)の「このガラスビーズ表面側から真空蒸着によりアルミニウム(2)を被着させておく」(2頁右下欄3行目以下)との記載を根拠に,刊行物1に第1発明の工程(A)が開示されていると認定するところ,この記載に対応する第3図によれば,ビーズ1の上面にアルミニウム2が被着されている一方,各ビーズ1の間(以下「ガラスビーズ間」という。)のポリエチレン5表面にはアルミニウム5は被着していない。しかし,アルミニウムをガラスビーズ間のポリエチレンの表面に被着させずに露出したガラスビーズ表面には被着させるということは,蒸着の特性として,特別な技術を用いるのでなければ実際上不可能であり(原告従業員ウィリアム・B・ロビンスの宣誓供述書〔甲4〕),刊行物1には,このような特別な技術についての開示もない。また,第3図の左から二つ目のガラスビーズと三つ目との間には真空蒸着されたアルミニウムがポリエチレンから浮上して形成されるというあり得ない状態が示されている。そうすると,同図は,アルミニウムの被着の態様について技術的にあり得ないことを表すものであり,技術的に矛盾した不明りょうな図というべきである。したがって,同図は,アルミニウムの被着蒸着の態様,特にガラスビーズ間に被着することについて開示するものとはいえず,第4図についても同様といわざるを得ない。
したがって,刊行物1は,アルミニウム(鏡面状反射性材料)が付着させられるのが「キャリヤーウェブのレンズを有する表面の上」であるとの工程(A)の構成を開示するものではないというべきである。
(4) 工程(B)について 第1発明の工程(B)では,熱と圧力をかけて,HMW熱可塑性結合剤フィルムを,レンズ間の前記キャリヤーウェブの表面上にある鏡面状反射性付着物のどの部分とも接触させないようにしながら,レンズ上にある鏡面状反射性付着物の部分に接触させている。
これに対し,刊行物1(丙1)の最終製品であるオープンタイプ反射シートの断面図を示す第1図では,左から1番目と2番目のガラスビーズ間,左から5番目と6番目のガラスビーズ間の基体樹脂上には,アルミニウムを示す太い線が描かれている。これは,基体樹脂を貼り合わせる前にアルミニウムがポリエチレン上に付着していたこと,当該アルミニウムが,基体樹脂とポリエチレンとの貼り合わせ工程において,基体樹脂に接触したことを示すものにほかならず,第1発明の工程(B)が開示されていないことは明らかである。また,刊行物1(丙1)の第5,6図では,基体樹脂3とポリエチレン5との間に二重線が引かれているものの,この二重線は多義的であり,基体樹脂3とポリエチレン5とが剥がれる箇所を示していると解する余地もあるから,「基体樹脂(3)とポリエチレン(5)とが接触していない様子」が示されている(決定謄本4頁20行目参照)と断定することはできない。また,第5図では,ポリエチレン層の厚さは図面上約1.5oであるのに,第6図の剥離したポリエチレン層の厚さは図面上約2oであるから,極めて不正確な図といわなければならない。このような不正確な図面で,ポリエチレンと基体樹脂との間に間隔があるように見えるからといって,第1発明の工程(B)が技術的思想として開示されているということはできない。
さらに,刊行物1(丙1)には,「第4図に示すように前記ガラスビーズ付着ポリエチレンラミネートクラフト紙(56)のガラスビーズ(1)の表面にポリエチレンテレフタレートフィルム(4)を背方におき,この基体樹脂(3)を対向配置させる。両者は・・・第5図に示すように一体に貼り合される」(2頁右下欄13行目以下)との記載があるところ,複数の対象物を一体に貼り合わせる際には,一般的に,その貼り合わされる対象物は必然的に接触することになるから,この記載は,ガラスビーズ付着ポリエチレンラミネートクラフト紙(56)と基体樹脂(3)とを一体に貼り合わせる際に,ガラスビーズ間の上記クラフト紙(56)の表面上のアルミニウム(第1発明における「レンズ間のキャリヤーウェブの表面上にある鏡面状反射性付着物」)と基体樹脂(3)(第1発明における「フィルム」を構成するもの)とが接触していることを開示していると解釈すべきものである。また,上記の貼り合わせの際,アルミニウムと基体樹脂とが接触しないようにする線速度や圧力を印加する時間といった具体的な制御条件が開示されていないことからも,これらは接触しているものと理解せざるを得ない。
したがって,刊行物1には,第1発明の工程(B)が開示されているとはいえない。
2 取消事由2(第2発明の新規性を否定した認定判断の誤り) 本件決定は,刊行物1記載の発明が「レンズ間の結合剤層上には鏡面状反射層が存在しない」構成を備えるものとして,第2発明との一致点の認定をする(決定謄本8頁2行目以下)が,誤りである。
すなわち,第2発明の要旨に規定する「レンズ間の結合剤層上には鏡面状反射層が存在しない」シートは,第1発明の要旨に規定する前記工程(A),(B)によって製造されるところ,刊行物1に当該工程が開示されていないことは上記1のとおりであるから,刊行物1に上記構成が開示されているということはできない。
被告及び被告補助参加人の反論
1 本件決定の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由1,2(第1発明及び第2発明の新規性を否定した認定判断の誤り)について 原告は,刊行物1には,第1発明の工程(A),(B)の開示がないと主張するが,刊行物1(乙1,丙1)の「140℃の保温炉中でこのビーズ(1)をポリエチレンラミネートクラフト紙のポリエチレン層に付着させる。そして第3図に示すようにこのガラスビーズ表面側から真空蒸着によりアルミニウム(2)を被着させておく」(2頁左下欄末行以下)との記載,「第2図乃至第5図は,ガラスビーズを仮植されたポリエチレンラミネート紙とシート用基体樹脂を塗布されているポリエチレンテレフタレートフィルムとを貼着させる工程の順に得られる半成品断面図,第6図はこの発明の実施例で剥離工程にある半成品断面図である」(3頁右下欄1行目以下)との記載及び第4〜6図の図示から,上記各工程の開示があることは明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(第1発明の新規性を否定した認定判断の誤り)について (1) 原告は,刊行物1に,第1発明の工程(A),すなわち,「前記キャリヤーウェブのレンズを有する表面の上に鏡面状反射性材料を付着させ」る工程も,同工程(B),すなわち,「熱と圧力をかけて,HMW熱可塑性結合剤フィルムを,レンズ間の前記キャリヤーウェブの表面上にある鏡面状反射性付着物のどの部分とも接触させないようにしながら,レンズ上にある鏡面状反射性付着物の部分に接触させ」る工程も開示されていない旨主張するので,以下判断する。
なお,刊行物1が昭和57年11月22日に公開された公報であることは明らかであるところ,乙1と丙1とで,その印刷状態においてわずかな違いはあるものの,本件における認定判断を左右するような違いとはいえないので,両者を参酌することとする。
(2) 刊行物1(乙1,丙1)には,オープンタイプ再帰反射シートを全天候型にした高輝度反射シートの製造方法が記載されているところ,その工程として,第1発明の工程(@)(「実質的にレンズの単層をキャリヤーウェブへ部分的に埋め」る工程)が開示されていることは当事者間に争いがなく,また,その具体的な製造工程に関し,「オープンタイプ反射シートを全天候型にするために空気層を設けた表面フィルムでカバーしたものが高輝度反射シートである。以下にこの高輝度反射シートの基体であるオープンタイプ反射シートの製造工程を図に従って述べる。第1図に製造されたオープンタイプ反射シート(0)の断面を示す。このシートはポリエチレンテレフタレートフィルム(4)上の基体樹脂(3)にアルミニウム(2)を蒸着された半球面で転写定植されたガラスビーズ(1)を備えて成つている。このガラスビーズは屈折率1.90〜1.93直径30〜120μである。まず第2図の例えば120μのクラフト紙(6)に30μのポリエチレン(5)を積層したポリエチレンラミネートクラフト紙(56)を,温度むらを生じない様に100℃の完全保温室中でクラフト紙側からロールに巻き付ける。このロール温度を140℃前後になるように加熱して100℃前後に加熱されているガラスビーズを撒布する。この時ビーズ分布が最密充填になるようにする。140℃の保温炉中でこのビーズ(1)をポリエチレンラミネートクラフト紙のポリエチレン層に付着させる。そして第3図に示すようにこのガラスビーズ表面側から真空蒸着によりアルミニウム(2)を被着させておく。この一方で熱安定性の良いフィルムに乾燥膜厚100μとなる様にガラスビーズとの密着性のよい基体樹脂を塗工する。例えば,フィルムは厚さ50μのポリエチレンテレフタレートで良く,基体樹脂は東亜合成のアロンS-1006加熱残分50部,ルチル型酸化チタン50部,DOP7部,エチルセロソルブ20部,粘度調整にはトルエンを使用して混合したもので良い。
塗工後50℃に5分間半乾燥し,第4図に示すように前記ガラスビーズ付着ポリエチレンラミネートクラフト紙(56)のガラスビーズ(1)の表面にポリエチレンテレフタレートフィルム(4)を背方におき,この基体樹脂(3)を対向配置させる。両者は100℃,ニップ圧2kg/cm2の加熱ロールにより第5図に示すように一体に貼り合される。このあとポリエチレンラミネートクラフトを剥離すればガラスビーズ(1)はポリエチレンテレフタレートフィルム(4)上の基体樹脂(3)に転写されて第1図製品となるのである」(2頁左下欄1行目〜3頁左上欄3行目),「剥離終了後ガラスビーズを転写定植させた基体樹脂を80℃10分間でキュアさせる。このオープンタイプ再帰反射シートを全天候型にする場合には表面フィルムのアクリルフィルムとエンボスロールを用い,空気層が得られる様に加熱して部分接着させると良い」(3頁左下欄1行目〜6行目)との記載があることが認められる。
前記当事者間に争いのない事実及び刊行物1の上記記載によれば,刊行物1には,高輝度反射シートを製造する一連の工程として,@ 実質的なガラスビーズ(第1発明のレンズに相当する。)の単層をポリエチレンラミネートクラフト紙(同キャリヤーウェブに相当する。)へ部分的に埋める工程に続いて,A 当該ガラスビーズの埋められたポリエチレンラミネートクラフト紙に対し,ガラスビーズ側から真空蒸着によりアルミニウム(同鏡面状反射性材料に相当する。)を被着させる工程,B フィルムに基体樹脂を塗工したものを,その基体樹脂が上記クラフト紙のガラスビーズの付着された側に対向するように配置させ,当該クラフト紙と,フィルムに基体樹脂を塗工したものとを100℃,ニップ圧2kg/cm2の加熱ロールにより一体に貼り合わせる工程,C 当該クラフト紙を剥離することにより,フィルムに塗工された基体樹脂にガラスビーズが転写された製品とする工程,D この製品を全天候型にするために空気層を設けた表面フィルムでカバーする工程が記載されていると認められる。
(3) 以上の認定に基づいて,まず,第1発明の工程(A)(「前記キャリヤーウェブのレンズを有する表面の上に鏡面状反射性材料を付着させ」る工程)の開示の有無について見るに,刊行物1記載の発明における上記Aの工程は,上記@の工程(これが第1発明の工程(@)に相当することは明らかである。)を経て,直径30〜120μのほぼ球形のガラスビーズが実質的に単層の状態でポリエチレンラミネートクラフト紙に埋め込まれているものにアルミニウムを真空蒸着により被着させる工程である。そして,被着させるアルミニウムが第1発明の鏡面状反射性材料に相当することは上記のとおりであるから,結局,上記Aの工程は,実質的にレンズ(ガラスビーズ)の単層をキャリヤーウェブ(ポリエチレンラミネートクラフト紙)へ部分的に埋めたものの表面上に鏡面状反射性材料(アルミニウム)を付着させる工程に相当し,これは,第1発明の工程(A)を開示するものにほかならない。
原告は,同工程で鏡面状反射性材料が付着させられる「キャリヤーウェブのレンズを有する表面の上」とは,レンズ間のキャリヤーウェブの表面を意味すると主張するが,そのように解することができるとしても,刊行物1が第1発明の工程(A)を開示することに変わりはない。すなわち,刊行物1記載の発明の上記Aの工程でアルミニウムを被着させる対象は,「直径30〜120μのほぼ球形のガラスビーズが実質的に単層の状態でポリエチレンラミネートクラフト紙に埋め込まれているもの」にほかならないから,当該ポリエチレンラミネートクラフト紙を平面から見て,ガラスビーズとガラスビーズとの間のすき間,すなわちガラスビーズ間が存在することは明らかであって,この状態でアルミニウムを真空蒸着すれば,ガラスビーズの表面に限らず,ガラスビーズ間部分のクラフト紙の表面上にもアルミニウムが付着することは当業者において明らかというべきである。蒸着の特性として,アルミニウムをガラスビーズ間のポリエチレンの表面に被着させずに露出したガラスビーズ表面には被着させるということが実際上不可能である旨をいう甲4(原告従業員Aの宣誓供述書)は,上記認定判断に反するものではなく,むしろこれに沿うものである。
また,原告は,刊行物1の第3図の左から二つ目のガラスビーズと三つ目との間には真空蒸着されたアルミニウムがポリエチレンから浮上して形成されるというあり得ない状態が示されていることを根拠として,第3図,第4図は技術的に矛盾した不明りょうな図である旨主張する。しかし,刊行物1(乙1,丙1)の第3図の該当部分は,ガラスビーズの露出面に被着したアルミニウム2を示す太線が,左右で近接しているために,作図上は接触しているようかのように表現されているにすぎないと理解されるものであって,このような図示から,「真空蒸着されたアルミニウムがポリエチレンから浮上して形成」されている状態を図示するものとは,到底認めることができない。原告の上記主張に沿う記載のある甲3(Bの宣誓供述書)は,刊行物1(乙1,丙1)の原図を忠実に再現していない複写図面に基づくものであるから,採用することができない。
(4) 次に,第1発明の工程(B)(「熱と圧力をかけて,HMW熱可塑性結合剤フィルムを,レンズ間の前記キャリヤーウェブの表面上にある鏡面状反射性付着物のどの部分とも接触させないようにしながら,レンズ上にある鏡面状反射性付着物の部分に接触させ」る工程)の開示の有無について検討する。
この点について,原告は,刊行物1記載の発明の「ポリエチレンラミネートクラフト紙」及び「基体樹脂」が,それぞれ第1発明の「キャリヤーウェブ」及び「HMW熱可塑性結合剤フィルム」に相当することを前提に,刊行物1(乙1,丙1)の第5図及びその関連記載は,ポリエチレンラミネートクラフト紙とHMW熱可塑性結合剤フィルムとを接触させない状態を開示するものではない旨主張する。しかし,上記Bの工程に係る認定(上記(2)B)に,刊行物1の第5図及び第6図(乙1-2,3はこれらの拡大図)の図示を総合すれば,当業者は,刊行物1記載の発明のBの工程において,ポリエチレンラミネートクラフト紙のポリエチレンの表面と基体樹脂の表面とが,一定の間隔をもってかい離している状態が二重線をもって示されていることを,明らかに認識,把握することができるというべきである。とりわけ,ポリエチレンラミネートクラフト紙を剥離する工程(上記(2)C)を示す第6図において,左側4個のガラスビーズの間に示された二重線と,これに対応する,右側5個のガラスビーズの間に示された各線とを対比観察するならば,上記二重線の上側の線が基体樹脂の表面を,下側の線がポリエチレンラミネートクラフト紙の表面をそれぞれ示すものであることが,疑いのない明りょうさで示されているというべきである。そうすると,この図示自体から,第1発明の工程(B)が技術的思想として開示されているものと優に認定することができる。加えて,刊行物1(乙1,丙1)には,「屈折率1.90〜1.93のガラスビーズの前半球を空気中に露出させ、後半球に直接光反射層を設けたいわゆるオープンタイプ反射シートは、
ガラスビーズを利用した再帰反射板としては最高の反射輝度を示すことが知られている」(2頁右上欄12行目以下)との記載があるところ,この記載によれば,刊行物1記載の発明は,専らガラスビーズに光反射層(アルミニウム)を形成することを意図するものであることが明らかであり,ガラスビーズ間に被着したアルミニウムに基体樹脂を直接接触させることを何ら意図していないことがうかがわれるものである。
原告は,刊行物1(乙1,丙1)の第1図では,左から1番目と2番目のガラスビーズ間,左から5番目と6番目のガラスビーズ間の基体樹脂上には,アルミニウムを示す太い線が描かれていることを根拠として,ポリエチレンラミネートクラフト紙と基体樹脂との貼り合わせ工程において,両者が接触したことが示されている旨主張する。しかし,原告の主張する上記「アルミニウムを示す太い線」は,第3図に関して上記(3)で述べたところと同様,ガラスビーズに被着したアルミニウムを示す左右の太線が作図上接触した結果,そのように表現されているにすぎないと理解されるものであって,原告の主張するように,ポリエチレンラミネートクラフト紙と基体樹脂との貼り合わせ工程において両者が接触したことを示すものとはいえない。また,第5,6図に示されたポリエチレン層の厚さを根拠として,その不正確性をいう原告の主張は,上記認定判断に照らして,採用することができない。
次に,原告は,刊行物1(乙1,丙1)の「ガラスビーズ付着ポリエチレンラミネートクラフト紙(56)のガラスビーズ(1)の表面にポリエチレンテレフタレートフィルム(4)を背方におき,この基体樹脂(3)を対向配置させる。
両者は・・・第5図に示すように一体に貼り合される」(2頁右下欄13行目以下)との記載は,ポリエチレンラミネートクラフト紙と基体樹脂とが接触していることを示すものである旨主張するが,「一体に貼り合わされる」との記載のみから,ポリエチレンラミネートクラフト紙のガラスビーズ間部分の表面と基体樹脂の表面とが直接接触しているかどうかを認識することはできないというべきであるから,上記主張も採用の限りでない。さらに,原告は,刊行物1記載の発明の上記Bの工程の貼り合わせの際,アルミニウムと基体樹脂とが接触しないようにする線速度や圧力を印加する時間といった具体的な制御条件が開示されていないことを主張するが,刊行物1の各図の図示自体において,第1発明の工程(B)が技術的思想として開示されていることは上記のとおりであり,これを実現するための具体的な制御条件が開示されていないことは,上記認定を左右するものとはいえない。
(5) 以上のとおり,原告主張の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(第2発明の新規性を否定した認定判断の誤り)について 原告の取消事由2の主張は,取消事由1の主張を前提とするものであるところ,その前提となる主張を採用し得ない以上,取消事由2の主張も理由がないというほかない。すなわち,刊行物1の前記B,Cの工程(上記1(2)B,C)において,ガラスビーズをポリエチレンラミネートクラフト紙から基体樹脂に転写させる際,基体樹脂は,上記クラフト紙のガラスビーズ間のどの部分とも接触させないようにしていることは上記のとおりであるから,ガラスビーズ間の基体樹脂上にはアルミニウムが存在しない構成を把握することができ,この趣旨をいう本件決定の認定判断に誤りはない。
3 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利