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関連審決 異議2000-72355
関連ワード 容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明を特定する事項 /  発明の詳細な説明 /  発明の概要 /  技術的特徴 /  優先権 /  参酌 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 108号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社信光社
訴訟代理人弁理士 小平進
被告 特許庁長官太田 信一郎
指定代理人 町田光信
同 平井良憲
同 山口由木
同 大橋良三
同 高木進
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/01/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が異議2000−72355号事件について平成13年1月30日にした決定中,請求項8に係る特許を取り消した部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「光部品」とする特許第2988912号の特許(平成10年7月9日特許出願(平成9年7月11日の日本国における出願に基づく優先権主張),平成11年10月8日設定登録,以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
本件特許につき,請求項1ないし13に対して特許異議の申立てがあり,その申立ては,異議2000-72355号事件として審理された。原告は,その審理の過程で,取消理由の通知を受け,指定期間内に,本件特許に係る願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)について,請求項1ないし5を削除し,請求項6ないし13をそれぞれ請求項1ないし8とすることなどを内容とする訂正の請求をした(以下,この訂正を「本件訂正」という。)。特許庁は,平成13年1月30日,上記事件につき「訂正を認める。特許第2988912号の請求項8に係る特許を取り消す。同請求項1〜7に係る特許を維持する。」との決定をし,同年2月19日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲の記載(本件訂正による,訂正後のもの) 【請求項1】一方の入射側光導波路と他方の出射側光導波路との間には,少なくとも2個の第1,第2の反射材料を配置し,両反射材料間に偏光無依存型光アイソレータを配置し,上記入射側光導波路と上記第1の反射材料との間に第1のレンズを,上記第1の反射材料と上記光アイソレータとの間に第2のレンズを,上記第2の反射材料と上記出射側光導波路との間に第3のレンズをそれぞれ配置してあり,上記入射側光導波路側に配置されている上記第1の反射材料は,入射側へ折り返すと共に入射光の一部を透過させるものであることを特徴とする光部品。 【請求項2】入出射側光導波路のいずれか一方の光導波路は,複数のポートを備えていることを特徴とする請求項1記載の光部品。 【請求項3】入射側光導波路側に配置されている第1の反射材料は波長分波合波器であり,出射側光導波路側に配置されている第2の反射材料は,光分岐器であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の光部品。 【請求項4】一方の入射側光導波路と他方の出射側光導波路との間には,第1及び第2の反射材料を配置し,両反射材料間に偏光無依存型光アイソレータを配置し,上記入射側光導波路と上記第1の反射材料との間に第1のレンズを,上記第1の反射材料と上記光アイソレータとの間に第2のレンズを,上記第2の反射材料と出射側光導波路との間に第3のレンズをそれぞれ配置してあり,上記入射側光導波路は入射ポートと出射ポートとを備え,出射側光導波路に出射ポートを備えており,上記第1の反射材料は波長分波合波器であり,第2の反射材料は光分岐器であることを特徴とする光部品。 【請求項5】入射側光導波路における両ポートは,ファイバアレイで接続されていることを特徴とする請求項4記載の光部品。
【請求項6】一方の入射側光導波路と他方の出射側光導波路との間には,第1及び第2の反射材料を配置し,両反射材料間に偏光無依存型光アイソレータを配置し,上記入射側光導波路と上記第1の反射材料との間に第1のレンズを,上記第1の反射材料と上記光アイソレータとの間に第2のレンズを,上記第2の反射材料と出射側光導波路との間に第3のレンズをそれぞれ配置してあり,上記入射側光導波路は入射ポートを備え,出射側光導波路に入射ポートと出射ポートを備えており,上記第1の反射材料は光分岐器であり,第2の反射材料は波長分波合波器であることを特徴とする光部品。
【請求項7】出射側光導波路における両ポートは,ファイバアレイで接続されていることを特徴とする請求項6記載の光部品。
【請求項8】一方の入射側光導波路と他方の出射側光導波路との間には,反射材料,偏光無依存型光アイソレータ及び第1,2,3のレンズを配置し,上記第1,2のレンズ間に上記反射材料を配置し,第2,3のレンズ間に上記光アイソレータを配置してあり,一方の入射側光導波路は,入射ポートと出射ポートとを備え,他方の出射側光導波路は出射ポートを備えており,上記反射材料は光路を入射側へ折り返すと共に入射光の一部を透過させるものであることを特徴とする光部品(以下「本件第8発明」という。)。
3 決定の理由 決定は,別紙決定書の写しのとおり,本件第8発明が,刊行物である特開平5-181035号公報(以下「引用例」という。)の第3図に記載された発明(第3実施例。以下「引用例発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであると認定判断した。
上記判断をするに当たり,決定が認定した,本件第8発明と引用例発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
一致点 「一方の入射側光導波路と他方の出射側光導波路との間には,反射材料,偏光無依存型光アイソレータ及びレンズを配置してあり,一方の入射側光導波路は,入射ポートと出射ポートとを備え,他方の出射側光導波路は出射ポートを備えており,上記反射材料は光路を入射側へ折り返すと共に入射光の一部を透過させるものである光部品」 相違点 「本件第8発明においては,入射側光導波路と出射側光導波路との間に,「第1,2,3のレンズを配置し,第1,2のレンズ間に反射材料を配置し,第2,3のレンズの間に光アイソレータを配置して」あるのに対して,甲第1号証刊行物に記載のものにおいては,第1光ファイバと第3光ファイバとの間に,「第1,2のレンズを配置し,第1,2のレンズ間に分岐膜及び光アイソレータを配置して」いる点」
原告主張の決定取消事由の要点
決定の理由中,「1.手続の経緯」,「2.訂正の適否についての判断」は認める。「3.特許異議申立について」については,「(4)対比,判断」のうち決定書9頁27行から10頁2行までの部分,及び,「(5)むすび」を争い,その余は認める。
決定は,本件第8発明と引用例発明との相違点についての判断を誤った(取消事由1)ことにより,本件第8発明の進歩性の判断を誤り,また,引用例発明と比べた場合の本件第8発明の顕著な作用効果を看過した(取消事由2)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件第8発明と引用例発明との相違点についての判断の誤り) (1) 決定は,「この相違点は,本件第8発明においては,甲第1号証刊行物(判決注・引用例)に記載のものにおける第2レンズを第3レンズとし,分岐膜と光アイソレータとの間に第2レンズを配置することと同等である。ところで,配置された光学素子を光ビームが順次通過する形の光部品において,レンズは光部品において光ビームをどのように発散,収束させるかに応じたものを必要な位置に配置すべきものであることは,光学技術として明らかなことであり,甲第1号証刊行物(判決注・引用例)に記載のものにおいて,分岐膜と光アイソレータとの間にレンズを配置することは,この意味での明らかな事項を示したにすぎないものであって,それによって何ら格別な技術的特徴が与えられることはない。」(決定書9頁27行〜36行)と認定・判断した。
しかし,引用例を精査しても,「分岐膜と光アイソレータとの間に第2レンズを配置する」ことについて,何らの記載もなければ,これを予測させる記載もない。また,決定は,引用例発明について,第2レンズを上記のように配置することが,「この意味での明らかな事項を示したにすぎない。」と判断しているが,文献などの根拠を明らかに開示していない。
引用例発明においては,引用例の図3記載のとおり,光アイソレータ40を挟んで配置されている第1のレンズ33と第2のレンズ36の間は平行光学系となっている。引用例発明の光アイソレータ40は,一対の楔状複屈折結晶板41,42を有するものであり(以下「楔形アイソレータ」という。),楔形アイソレータは平行光学系に配置しなければならないものである。したがって,「分岐膜と光アイソレータとの間にレンズを配置」すれば,第1のレンズ33から出射した平行光線が挿入されたレンズによって収束又は発散することとなり,引用例発明の目的を達成することができず,挿入されたレンズの存在が障害となり,発明として成立しなくなる。
(2) 被告は,引用例発明の光アイソレータは楔形アイソレータに限定されないと主張し,特公昭58-28561号公報(甲第8号証の特許異議申立書添付の甲第2号証。以下「甲8の2刊行物」という。),特開平5-173090号公報(甲第8号証の特許異議申立書添付の甲第3号証。以下「甲8の3刊行物」という。),特開平7-20512号公報(乙第2号証。以下「乙2刊行物」という。),特開昭55-113020号公報(乙第3号証。以下「乙3刊行物」という。),応用光エレクトロニクスハンドブック編集委員会編「応用光エレクトロニクスハンドブック」(1989年4月10日株式会社昭晃堂発行,乙第4号証。以下「乙4刊行物」という。)により,偏光無依存型光アイソレータを収束光束中に配置して用いることが周知であると主張する。しかし,被告は,単なる公知例を列挙するのみで,これらの刊行物により,引用例発明において楔形アイソレータに代わるものとして使用することが可能な光アイソレータが開示されていることを,何ら明らかにしているわけではない。
具体的に甲8の2刊行物及び甲8の3刊行物の各光アイソレータについていうと,次のとおりである。
これらの光アイソレータは,平板状複屈折結晶板を使用するもの(以下「平板型アイソレータ」という。)であり,この光アイソレータを引用例発明において用いたとすると,引用例の図3の光ファイバ37からの反射帰還光は,光アイソレータを通過することにより分離する。分離するに当たり,分離距離が小さい場合は,レンズ33に入射し,光ファイバ31に結合することとなる。そして,良好なアイソレーション特性を得るためには,分離距離を大きくするため,平板状複屈折結晶板の厚みを楔形複屈折結晶板の数倍から十数倍にしなければならず,デバイス自体が大型化され,小型化が困難となるとの問題が生じる。したがって,甲8の2刊行物及び甲8の3刊行物記載の各光アイソレータを,引用例発明において使用すると,引用例発明が目的とする小型化を達成することはできない。
(3) 被告は,収束光学系で光アイソレータを使用するために,コリメートビームを収束させる作用を有する凸レンズを新たに追加することは周知,自明の事項である,とも主張し,乙1刊行物及び乙2刊行物を挙げる。しかし,乙1刊行物の第3図の第2のレンズは,第1のレンズから出射する光ビームを光ファイバ50の入射端面51に収束させるためのものであるのに対し,本件第8発明において他方の光導波路に結合させるレンズは第2ではなく第3のレンズであるから,乙1刊行物の第3図の第2のレンズは,本件第8発明の第2のレンズに相当するものではない。
乙2刊行物には,分岐膜と光アイソレータの間に光を収束するためのレンズを配置することの示唆は与えられているが,分岐膜で反射された光の光路中に収束レンズと光アイソレータが配置されたものであって,分岐膜を透過した光の光路中にこれらを配することを示唆するものではない。
2 取消事由2(顕著な作用効果の看過) 引用例発明は,レンズ1及びレンズ2により平行光学系を構成し,本件第8発明は第1ないし第3レンズにより収束光学系を構成するものである。
引用例発明において第1のレンズ及び第2のレンズにあおりズレがある場合と,本件第8発明において第2及び第3のレンズにあおりズレがある場合とを比較すると,収束光学系である本件第8発明の方が,平行光学系である引用例発明よりも光損失が小さい。
このような,あおりズレによる光損失の相違に伴い,本件第8発明は引用例発明に比して,モジュールの組立てが容易となるのである。
このように,本件第8発明において第2のレンズを有することは,格別技術的に意義のあることであるから,決定の「分岐膜と光アイソレータとの間にレンズを配置することは,この意味での明らかな事項を示したにすぎないものであって,それによって何ら格別な技術的特徴が与えられることはない。」(決定書9頁33行〜36行)との判断は,この点からも誤りである。
被告は,「第2レンズから出射した光が収束光となることは,本件第8発明を特定する事項ではない」と主張するが,仮に,請求項8の記載における第1ないし第3のレンズの機能が明らかでないとしても,本件明細書の発明の詳細な説明及び添付図面の図8を参酌すれば,本件第8発明が収束光学系であることは明らかであるから,被告の主張は失当である。
被告の反論
決定の認定判断はいずれも正当であって,決定には取り消すべき理由がない。
1 取消事由1(本件発明1と刊行物発明1との相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は,引用例発明の光アイソレータ40は楔形アイソレータであることを前提として,「分岐膜と光アイソレータとの間にレンズを配置」すれば,第1のレンズ33から出射した平行光線が挿入されたレンズによって収束又は発散することとなり,引用例発明の目的を達成できず,挿入されたレンズの存在が障害となり,発明として成立しなくなる,と主張する。
引用例の図3に示される楔形アイソレータが,収束光中では有効に作用しないことは認める。引用例の図3においては,偏光無依存型光アイソレータの例として楔形アイソレータを示しており,このように,使われている偏光無依存型アイソレータが楔形アイソレータである場合には,光アイソレータが平行光束中に配置される必要がある。しかし,引用例には「他の型の光アイソレータも使用可能である。」(甲第7号証【0028】)と記載されているから,引用例発明の偏光無依存型光アイソレータは,楔形アイソレータに限定されておらず,反射帰還光の光源側への悪影響を防止することができるものであれば,他の型の収束光束中において用いることができる偏光無依存型光アイソレータも含むことは明らかである。そして,偏光無依存型光アイソレータを収束光束中に配置して用いることは,甲8の2刊行物,甲8の3刊行物,乙2刊行物,乙3刊行物,乙4刊行物にみられるように周知である。
したがって,引用例発明における光アイソレータが平行光学系中で使用されるものに限ることを前提とした原告の主張は,誤りである。
(2) 収束光学系で光アイソレータを使用するために,コリメートビームを収束させる作用を有する凸レンズを新たに追加することは周知,自明の事項である(例えば,特開平7-301734号公報(乙第1号証。以下「乙1刊行物」という。)の段落【0026】及び図3,並びに,乙2刊行物の【0024】及び図1,図3)。このように,光アイソレータに応じて,それに入射する光束の平行,収束等の状態をレンズにより変えることは周知の事項であり,レンズの用い方に関する光学的技術として自明なことであるから,「配置された光学素子を光ビームが順次通過する形の光部品において,レンズは光部品において光ビームをどのように発散,収束させるかに応じたものを必要な位置に配置すべきものであることは,光学技術として明らかなことであり,甲第1号証刊行物に記載のものにおいて,分岐膜と光アイソレータとの間にレンズを配置することは,この意味での明らかな事項を示したにすぎないものであって,それによって何ら格別な技術的特徴が与えられることはない。」(決定書9頁30行〜36行)との決定の判断に誤りはない。
2 取消事由2について 原告は,あおりズレがある場合,収束光学系である本件第8発明の方が,平行光学系である引用例発明よりも光損失が小さく,さらに,そのことに起因して,本件第8発明は引用例発明に比して,モジュールの組立てが容易となる,と主張する。
しかしながら,原告主張の作用効果は本件明細書に何ら記載されておらず,また,たとい,平行光学系と収束光学系とで作用効果に差異があったとしても,本件第8発明は,第1,第2,第3レンズの機能等を規定するものではないから,第1レンズから出射した光が平行光になること,及び,第2レンズから出射した光が収束光となることは,本件第8発明を特定する事項ではない。したがって,原告の主張は,本件第8発明を特定する事項である特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,失当である。
当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 甲第1及び第5号証により,本件発明の概要を説明すれば,概ね次のとおりである(本件発明においては,反射材料が光分岐を行う場合と,光分波を行う場合とがある。「光分岐」とは,どの波長の光も(波長が一つしかない場合を含む)波長に関係なく,一部を反射し,残りを透過することであり,「光分波」とは,2波長以上を対象として,ある波長の光は透過し,他の波長の光は反射するということである。以下は,光分波の場合を本件特許に係る出願の願書に添付された図面(以下,願書に添付された明細書と併せて「本件明細書」という。)の図8に当てはめて説明する。)。
上記図8の光ファイバ11aの左方に光増幅用ファイバがあり,これに光ファイバ11aが接続される。光増幅用ファイバ及び光ファイバ11aは,波長1550nmの信号光と波長980又は1480nmの励起光を伝送し,レンズ31で平行となった後,励起光は反射材料で反射し,光ファイバ11bに至る。一方,波長1550nmの信号光は反射材料を透過し,光アイソレータ等を経た後,光ファイバ12bに至り,その後の伝送系に接続される。光アイソレータは,光ファイバ12bより右側からの光が,図上左方に伝送され,光増幅器を不安定にすることを阻止する役割を担う。光アイソレータには偏光依存型と偏光無依存型がある。ポート12bからの光を一切ポート11aに到達させない点ではどちらも同じであるが,偏光依存型は,入射ポート11aから出た光のうち特定の偏光成分だけを出射ポート12bに到達させるのに対し,偏光無依存型は,すべての偏光成分を入射ポート11aから出射ポート12bに到達させることが特徴である。光通信では,逆方法に進行する光があると,レーザー発振器や増幅器が不安定になる等の問題があるため,光アイソレータを設けている。
(2) 甲第1及び第5号証によれば,本件明細書(本件訂正後のもの)には,次の記載があることが認められる。
【0001】【発明の属する利用分野】この発明は,光通信用の光アンプ等に用いられる光部品に関する。
【0002】【従来の技術】本出願人は,光部品として光ファイバアンプ等に利用できる光部品の構造を提案した(特開平8-304855号)。
【0003】【発明が解決しようとする課題】・・・この発明の目的は,部品点数を少なくし,小型化を可能にすると共に実装面積を小さくすることにある。
【0004】【課題を解決するための手段】(省略) 【0005】【発明の実施の形態】図1及び図2を参照して光部品A1について説明する。一方(図左方)の光導波路11は,2つのポート11a,11bを備えた入射側光導波路であり,ポート11aを入射ポート,ポート11bを出射ポートとしている。他方の光導波路12は,少なくとも1つのポート12bを備えている出射側光導波路としている。入射ポート11aと出射ポート11bとはファイバアレイ13によって一体化されており,出射ポート12bはファイバ端末14に組み込まれている。各光導波路11,12はいずれも例えば石英系光ファイバからなる。入出射側光導波路11,12間に反射材料21を配置してある。この反射材料は,光路を入射側光導波路11に折り返すと共に入射光の一部を透過させるものである。そして反射材料21と入射側光導波路11との間に第1のレンズ31を,反射材料と出射側光導波路12との間に第2のレンズ32をそれぞれ配置してある。反射材料21は,例えば波長分波合波器や光分岐器等が使用される。反射材料21に例えば波長分波合波器が用いられた場合には,入射側光導波路11の入射ポート11aから第1のレンズ31に入った信号光は反射材料21でその波長により分波されて,それぞれの出射ポート11bと出射ポート12bとに出力される。この場合に,反射材料21で分波された一方の例えば1550nm入力信号光はそのまま反射材料を透過して第2のレンズ32を経て出射ポート12bに出力され,そして他方の例えば980nm入力信号光は入射側光導波路11に折り返されて,第1のレンズ31で集光されて出射ポート11bに出力される。
【0006】図3及び図4を参照して光部品A2を説明する。この光部品は,光アイソレータを備えている点で,図1に示す光部品A1の構成と相違しているが,その他は同一構成である。・・・この実施の形態では,偏光無依存型光アイソレータ41を反射材料21と出射側光導波路12の端末14との間に配置している。
【0009】図8を参照して光部品A5を説明する。この光部品は,3枚のレンズを備えている点で,図3に示す光部品A2の構成と相違しているが,その他は同一構成である。
(判決注・これが本件第8発明の実施例である。) 【0010】【発明の効果】この発明によれば,従来例に比較して全体として部品点数を減らすことができるので,小型化を図ることができると共に,実装面積を小さくすることができ,特に入射側の入射ポートと出射ポートとをファイバアレイを介して一体化することにより,上記効果がより一層達成される。
本件明細書のこれらの記載によると,本件第8発明は,光増幅器等に用いることができるモジュールとしての光部品であり,従来よりも部品点数を減らし,小型化を達成したものである。
2 取消事由1(本件第8発明と引用例発明との相違点についての判断の誤り)について (1) 決定は,「本件第8発明においては,入射側光導波路と出射側光導波路との間に,「第1,2,3のレンズを配置し,第1,2のレンズ間に反射材料を配置し,第2,3のレンズの間に光アイソレータを配置して」あるのに対して,甲第1号証刊行物に記載のものにおいては,第1光ファイバと第3光ファイバとの間に,「第1,2のレンズを配置し,第1,2のレンズ間に分岐膜及び光アイソレータを配置して」いる点」(決定書9頁20行〜26行)を本件第8発明と引用例発明との相違点と認定した上で,「この相違点は,本件第8発明においては,甲第1号証刊行物(判決注・引用例)に記載のものにおける第2レンズを第3レンズとし,分岐膜と光アイソレータとの間に第2レンズを配置することと同等である。ところで,配置された光学素子を光ビームが順次通過する形の光部品において,レンズは光部品において光ビームをどのように発散,収束させるかに応じたものを必要な位置に配置すべきものであることは,光学技術として明らかなことであり,甲第1号証刊行物に記載のものにおいて,分岐膜と光アイソレータとの間にレンズを配置することは,この意味での明らかな事項を示したにすぎないものであって,それによって何ら格別な技術的特徴が与えられることはない。」(決定書9頁27行〜36行)と判断した。
すなわち,決定は,引用例発明の分岐膜と光アイソレータとの間に別途のレンズを配置することが容易である(なお,別途のレンズを配置すると,そのままでは引用例発明の第2のレンズによって,第3光ファイバに集光できなくなるから,上記のことは,別途のレンズを配置するとともに,それに伴い第2のレンズのパワーを変更することが容易であるとの趣旨であることは明らかである。)と判断したものである。
(2) 甲第7号証によれば,引用例には,次の記載があることが認められる。
「図1を参照すると,本発明の第1実施例に係る光分波デバイスの概略構成図が示されている。・・・光ファイバ21,22から出射された光ビームをコリメートビームにする位置にレンズ23が配置されている。25はガラス基板24上に蒸着等により形成された分波膜であり,誘電体多層膜から形成されている。分波膜25は反射光を光ファイバ22に結合するように,光路に垂直方向からわずかばかり傾けて配置される。・・・光ファイバ21を伝搬してきた波長λ1 及びλ2 の信号光はレンズ23によりコリメートされて分波膜25に入射する。λ1 の信号光は分波膜25により反射されてレンズ23により光ファイバ22に結合され,光ファイバ22を矢印方向に伝搬する。」(【0015】,【0016】,【0020】), 「図2を参照すると,本発明の第2実施例に係る光分岐デバイスが概略的に示されている。本実施例では,上述した第1実施例の分波膜に代えて,ガラス基板34上に形成した分岐膜35が光路中に挿入されている。」(【0021】), 「図3を参照すると,本発明の第3実施例に係る光分岐デバイスが概略的に示されている。本実施例の光分岐デバイスは図2に示した光分岐デバイスと類似しており,光路中に光アイソレータ40が挿入されている点が図2に示した光分岐デバイスと相違する。」(【0027】), 「光アイソレータ40は特公昭61-58809号公報に開示されたような一対の楔状複屈折性結晶板を用いて偏光依存性を解消した型の光アイソレータが望ましい。他の型の光アイソレータも使用可能である。・・・即ち,一対の楔状複屈折結晶板41,42の間にファラデー回転子43が配置されており,複屈折結晶板42の光学軸は複屈折結晶板41の光学軸に対して光軸回りに45°回転して配置されている。・・・この光アイソレータ40によれば,逆方向の光は光アイソレータ40により阻止されるのではなく,常光及び異常光としてそれぞれ異なる角度の屈折を受けるため,光ファイバ31,32に結合することはなく,光アイソレータとして有効に機能する。」(【0028】〜【0030】) (判決注・図3記載の第3実施例が引用例発明である。) (3) 引用例の上記記載によれば,この引用例発明(第3実施例)では,その第1実施例と同様に「光ファイバ・・・から出射された光ビームをコリメートビーム(判決注・平行光束)にする位置にレンズ・・・が配置されている」(甲第7号証【0016】参照)ものと認められるから,偏光無依存型光アイソレータは平行光束中に挿入されたものであると認められる。したがって,この引用例発明の分岐膜と偏光無依存型アイソレータとの間に別途のレンズを加えれば,偏光無依存型光アイソレータを収束又は発散光中に配置することとなることが明らかである。
引用例発明で好ましいものとして用いられている偏光無依存型アイソレータは,「一対の楔状複屈折性結晶板を用いて偏光依存性を解消した型の光アイソレータ」(甲第7号証【0028】),すなわち,「楔形アイソレータ」であること,この楔形アイソレータが,平行光束中以外では有効に動作しないことは当事者間に争いがない。このように,平行光束中でのみ有効に作動する楔形アイソレータを用いている引用例発明を出発点にして,そのような光アイソレータを用いたまま,分岐膜と光アイソレータとの間にレンズを配置することは,容易に実施できるものではないことが明らかであり,したがってまた,そのようなことを考えることもないことが明らかである。
(4) 被告は,引用例に「他の型の光アイソレータも使用可能である。」(甲第7号証【0028】)と記載されていることから,引用例発明の偏光無依存型光アイソレータが,楔形アイソレータに限定されておらず,他の型の,収束光束中で用いることができる偏光無依存型光アイソレータを含む,そして,偏光無依存型光アイソレータを収束光束中に配置して用いることは,甲8の2刊行物,甲8の3刊行物,乙2刊行物,乙3刊行物,乙4刊行物にみられるように周知である,したがって,引用例発明における光アイソレータが平行光学系中で使用されるものに限ることを前提とした原告の主張は,誤りである,と主張している。
しかしながら,たとい,引用例に,「他の型の光アイソレータも使用可能である。」と記載されており,かつ,偏光無依存型光アイソレータを収束光束中に配置して用いることが周知であるとしても,引用例発明においては,光アイソレータは平行光束中に配置されるものとされていることは,前述のとおりなのであるから,同発明で用いられる光アイソレータとして考えられているのが,平行光束中に使用されるものに限られるのは,当然のことというべきである。被告の主張は,引用例の上記表現が引用例発明の説明の一環としてなされたものであることを忘れ,これを文脈を離れて理解して,「他の型」に,収束光学系中で使用されるものも含まれる,とするものであり,失当である。引用例発明における光アイソレータは,楔形アイソレータである必要はないとはいえ,平行光学系中で使用されるものに限られるというべきである。そして,このように,平行光束中で使用される光アイソレータを配置した引用例発明を出発点にして,このような光アイソレータを用いたまま,分岐膜と光アイソレータの間にレンズを配置することは,容易に想到できることではないという以外にない。
決定は,本件第8発明と引用例発明との相違点について,「本件第8発明においては,甲第1号証刊行物に記載のものにおける第2レンズを第3レンズとし,分岐膜と光アイソレータとの間に第2レンズを配置することと同等である。」(決定書9頁第27行〜29行)と判断した上で,これを前提に,論を進めている。
しかしながら,決定の上記論証は,その出発点において既に誤っているという以外にない。引用例発明の第2レンズを第3レンズとし,分岐膜と光アイソレータとの間に第2レンズを配置しただけでは,本件第8発明と同じものとはならない。同じものとするには,光アイソレータを平行光束中で使用されるものから,収束光束中で使用されるものに変える必要があるからである。結局,決定は,本件第8発明と引用例発明との間の光アイソレータいおける相違を看過したため,この点についての検討を経ないまま,その結論に至ったものというべきである。
(5) 被告は,光アイソレータに応じて,それに入射する光束の平行,収束等の状態をレンズにより変えることは周知の事項であり,レンズの用い方に関する光学的技術として自明なことである,と主張する。この趣旨は,平行光学系で使用する光アイソレータを収束光学系で使用する光アイソレータに置き換えることは容易であり,収束光学系で使用する光アイソレータを用いる場合には,平行光束を収束光束に変換するためのレンズを配置することは自明である,ということであろう。
しかしながら,決定は,「一方の入射側光導波路と他方の出射側光導波路との間には,・・偏光無依存型光アイソレータ・・・を配置」(決定書9頁15行〜17行)したことを本件第8発明と引用例発明との一致点と認定した上で,上記前提に立って,「配置された光学素子を光ビームが順次通過する形の光部品において,レンズは光部品において光ビームをどのように発散,収束させるかに応じたものを必要な位置に配置すべきものであることは,光学技術として明らかなことであり,甲第1号証刊行物に記載のものにおいて,分岐膜と光アイソレータとの間にレンズを配置することは,この意味での明らかな事項を示したにすぎないものであって,それによって何ら格別な技術的特徴が与えられることはない。」(決定書9頁30行〜36行)と説示しただけで,「それゆえ,本件第8発明は,甲第1号証刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである」(決定書9頁37行〜38行)との結論を導いているのである。決定のこの判断においては,引用例発明における光アイソレータを前提として,レンズを必要な位置に配置するだけで,引用例発明と本件第8発明とが同等なものとなる,との考え方が示されているにすぎないという以外にないのであり,決定のこの判断には,引用例発明の,平行光束中で使用することが可能な偏光無依存型光アイソレータを,収束光束中で使用することが可能な他の偏光無依存型光アイソレータに置換し,その上で新たにレンズを配置するとの,被告が本訴において主張するような判断が含まれていると解すべき余地はない。このように,被告の上記主張は,決定の判断理由と異なる内容のものであるから,本訴において,この主張の当否について判断することはできないというべきである。本件第8発明の進歩性については,上記被告主張の当否の形で検討することが可能であるとしても,そしてまた,その結果,本件第8発明の進歩性が否定されることがあり得るとしても,この点は,改めて,異議申立て手続における審判体により,判断されるべきである。
3 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由1には理由がある。そこで,原告の請求を認容することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸