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関連審決 異議1999-72390 審判1999-39026
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13行ケ470特許取消決定取消請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  同日出願 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  特許出願日 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  侵害 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  審決確定(審決が確定) /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 419号 特許取消決定取消請求事件
原告A
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 白樫泰子,村山隆,山口由木,林 栄二,高木 進
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/01/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が平成11年異議第72390号事件について平成12年9月19日にした決定を取り消す。
事案の概要
1 前提となる事実等 (1) 特許庁における手続の経緯 (1-1) 本件特許 特許権者 A(原告) 発明の名称 「定規ガイド付きペン」 特許出願日 平成5年4月20日(同日出願の実願平5-28458号を平成9年3月3日に特許出願に変更) 設定登録日 平成10年10月23日 特許番号 特許第2841292号 (1-2) 訂正審判(甲2-2,15) 訂正審判請求 平成11年3月10日(平成11年審判第39026号) 審決の日 平成11年7月21日 審決の結論 訂正することを認める。
審決確定日 平成11年8月18日 (1-3) 本件手続 特許異議事件番号 平成11年異議第72390号 異議の決定の日 平成12年9月19日 決定の結論 「特許第2841292号の請求項1に係る特許を取り消す。」 決定謄本送達日 平成12年10月7日(原告に対し) (2) 本件発明の要旨(前記(1-2)の訂正後の請求項1に記載された発明) 「根元部が円柱状で先がくさび状のフェルトペンのペン先に,定規ガイドとなるガイド部を設けた定規ガイド付きペンにおいて,ガイド部は,筒部と筒部の先に設けたペン先の形状に添ってすき間なく接した突片からなり,その突片の先端は定規を使用して筆記した際に描く方向に対して丸くなっていることを特徴とする定規ガイド付きペン。」 (3) 決定の理由 本件決定の理由は,【別紙】の「異議の決定の理由」に記載のとおりである。要するに,本件発明は,刊行物1(実願昭53-64411号(実開昭54-166945号)のマイクロフィルム,甲4),刊行物2(実願昭53-177018号(実開昭55-93580号)のマイクロフィルム,甲5),刊行物3(実願昭58-56371号(実開昭59-162281号)のマイクロフィルム,甲6),刊行物4(実願昭56-162234号(実開昭58-66982号)のマイクロフィルム,甲7),刊行物5(カタログ(東京ハット株式会社,昭和53年7月15日発行,甲11)及び刊行物6(1991トンボ鉛筆総合カタログ,甲12)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める,というものである。
2 争点(決定取消事由) A 進歩性の判断の誤り a 相違点の認定の誤り(看過)(取消事由1) b 相違点(1)に関する判断の誤り(取消事由2) c 相違点(2)に関する判断の誤り(取消事由3) d 本件発明の顕著な効果の看過(取消事由4) B 審判における手続の違法(取消事由5) 3 原告の主張の要点 (1) 取消事由1(相違点の認定の誤り(看過)) (1-1) 決定は,本件発明と刊行物1記載の発明(実用新案であるが,本件発明との対比において,以下「刊行物1発明」という。)とを比較し,両者の一致点として,「ペン先に,定規ガイドとなるガイド部を設けた定規ガイド付きペンにおいて,ガイド部は,筒部と筒部の先に設けた突片からなり,その突片の先端は定規を使用して筆記した際に描く方向に対して丸くなっていることを特徴とする定規ガイド付きペンである点」と認定し,さらに,相違点(1)として,「フェルトペンのペン先が,前者(注:本件発明)では,根元部が円柱状で先がくさび状であるのに対し,後者(注:刊行物1発明)では,根元部及び先が共に円柱状である点」と,相違点(2)として,「ガイド部が,前者(注:本件発明)では,筒部の先に設けたペン先の形状に添ってすき間なく接した突片からなるのに対し,後者(注:刊行物1発明)ではそのようになっていない点」と認定した。
(1-2) 決定は,「突片の先端は定規を使用して筆記した際に描く方向に対して丸くなっている」点を一致点として認定しているところ,刊行物1発明も「丸くなっている」という点は認めるが,以下の点で誤っている。
すなわち,刊行物1発明においては,定規ガイド部(甲4における(3’))の形状について単に「へら状のガイド部」としか定義されておらず,また,第3図,第6図を参照しても,ガイド部は左右に開いてしまっており,ただ丸いというだけで,ペン先の傾き,描く方向を考慮しているとはいい難い。描く方向に対して考慮して丸くなっているというには,せめて本件特許公報(甲2の1)の3頁の図12,図13のようになっていなければ,考慮しているとはいえない。
「へら」とは「物を練ったり,筋をつけたりする道具」(広辞苑)とされており,筋を付けたりする目的要素を含む言葉であって,本件発明は,これとは逆に,筆記面にいかに傷を付けないようにするかという点に創意工夫が存するものであって,この点に大きな違いがある。
本件発明の場合には,@「へら状」のように筆記面(紙など)に点状に接するのではなく,線以上の面で接することになるので筆圧の分散化により筆記面が傷つきにくくなる,Aペンを描く方向に対して傾けても,紙に接しやすくなる部分がペン軸の傾きに合わせて外形にも添った形で丸くなるので,「へら状のガイド部」と比較しても圧倒的に紙などに傷が付きにくい,という優れた作用効果がある。
このように,本件発明は,ガイド部の突片の先端を,ただ丸くするのではなく,描く方向に対して考慮して丸くすることにより,刊行物1発明以上の際だって優れた作用効果を発揮するものであるから,「定規を使用して筆記した際に描く方向に対して丸くなっている」との本件発明の要件を一致点として認定したのは誤りであり,本件発明の「描く方向に対して」が考慮されているかどうかを相違点に加えるべきである。
(2) 取消事由2(相違点(1)に関する判断の誤り) 決定は,相違点(1)につき,「後者(注:刊行物1発明)の定規ガイド機能を有するフェルトペンのペン先において,先を円柱状に代えてくさび状にしてみることに格別困難性は認められない。」と判断しているが,以下の点において,誤っている。
(2-1) 本件特許出願の後に出願され,ペン先が本件発明と同じ形態である「根元部が円柱状で先がくさび状」の定規ガイド付きペンの出願が,特許の設定登録を受けている(特許第2896883号,甲16)。この第2896883号発明は,その請求項5の内容が刊行物1(甲4)及び刊行物2(甲5)の内容と酷似しているにもかかわらず,ペン先の形態が異なるというだけで(甲4のペン先の形態は根元部及び先が円柱状,甲5のペン先の形態は四角柱状で先は斜めに切られた四角柱),特許登録されているのであり,本件発明だけが,刊行物1(甲4)とペン先の形態が異なるだけでは格別困難性が認められないというのは差別であり,矛盾である。
(2-2) 定規ガイド部は,ペン先のようにインクを吐出したり描いたりするものではなく,役割や目的が異なるものであるし,刊行物1発明(甲4)のペン先が「根元部が円柱状でペン先が先細りの円柱状」であるのに対し,本件発明のペン先は「根元部が円柱状でペン先がくさび状」である上,定規ガイド部の突片の数や形態が大きく異なるのであるから,決定のように,ペン先の形態を代えて推考容易と判断するのは,あまりにも安易に結論を導くものといわざるを得ない。
(2-3) 審判段階における取消理由通知(甲3)において,「上記刊行物4には,『本考案は,…第7図に示すように,一般的な円柱状孔を有するチップホルダーに適用し得るよう円柱状ペン先1’とし,ペン先の先端部を扁平化したものでもあってよい』ことが記載されている。」とされていることからすれば,特許庁は,形状の異なる,根元部が円柱状のペン先にも格別困難性もなく応用(適用)することができることを指摘するものと推測される。しかしながら,仮に,刊行物4(甲7)のペン先を「根元部が円柱状でペン先が先細りの円柱状」又は「砲弾型」のものに応用(適用)することを考えた場合は,刊行物4(甲7)の「平板状の形状」との記載,「インキ通路が互いに列状に位置し」との記載等からみて,「平板状」から上記「砲弾型」に推考することは,かなりの困難性(ほぼ不可能)を伴い,容易に推考することができるとは到底いえない。
このように,ペン先そのものですら形態を置換して当てはめることは困難を極める場合があるにもかかわらず,ペン先の付随物である定規ガイドにペン先の形態を置換した場合だけに容易に推考することができるというのは矛盾であり,論理的に成立しない。
(3) 取消事由3(相違点(2)に関する判断の誤り) 決定は,刊行物2,3が,「ガイド部をインキ芯にそわせて,すき間なく接して設ける」という技術思想を開示しており,これを刊行物1に適用することは容易であるとする。
しかしながら,刊行物2(甲5)には,定規ガイド部を「根元部が円柱状で先がくさび状」のペン先に適用することができることに関して何らの記載もなく,また,刊行物3(甲6)にも,定規ガイド部を,「根元部が円柱状で先がくさび状」のペン先の形態から,「砲弾型」又は「根元部が円柱状で先が先細りの円柱状」のペン先に適用することができることについての記載はない。
さらに,決定は,「その際,相違点(1)で検討したように,フェルトペンのペン先が,根元部が円柱状で先がくさび状である場合においても,当然,ガイド部はペン先の形状に添ってすき間なく接するように構成するものと認められる。」としている。
しかしながら,刊行物1(甲4)には,定規ガイド部を,「根元部が円柱状でペン先が先細りの円柱状」又は「砲弾型」のペン先の形態から,「根元部が円柱状で先がくさび状のペン先」に適用することができることについての記載はない。
刊行物の記載事項と当該刊行物頒布時の技術常識に基づいて,当業者がその物を作ることができるものであることが明らかであるように記載されていない場合には,当該刊行物の記載をもって引用発明とされるべきではない。本件発明は,決定の引用する各刊行物から当業者が容易に発明し得たものとすることはできない。
(4) 取消事由4(本件発明の顕著な効果の看過) 決定は,下記のような本件発明の奏する顕著な効果を看過して,本件発明が引用刊行物から容易に発明することができるとの誤った結論に至っている。
(4-1) 本件発明を刊行物1発明(甲4)と比較した場合,次のような利点がある。
本件発明の定規ガイド部は,ペン先のフェルトの形状に添わせてあり,刊行物1の「へら状のガイド部」などのようにガイド部が左右に開いていないので,@左右に開いていない分,ペン軸を斜めに傾けても,紙などに定規ガイド部が当たりにくく,紙に傷をつけにくい(刊行物1の第3図(イ)では,ペン軸を斜めに傾けると,定規ガイド部が強く張り出してしまい,フェルトが隠れてしまうので,定規ガイド部で紙などに傷がついてしまいやすくなり,また,張り出した分だけインクがかすれる原因にもなる。),Aフェルトペンがペンの軸方向を中心に回転して振れてしまっても,定規ガイド部が左右に広がらない分,ペン先と定規との距離が変化しにくい,B定規を使わずに文字を書く時,定規ガイド部を上側にして使用しても,定規ガイド部がフェルトの形状に添わせてあり,定規ガイド部の左右の広がりもない分だけ,ペン先が見えやすい,C定規を使用したときも,定規ガイド部が左右に開いていない分,ペン先が見えやすい,という利点がある。
また,描く方向性を考慮していない「へら状の定規ガイド部」とは違い,描く方向に対して丸くなっているので,D「へら状」のように筆記面に点状に接するのではなく,線又は面で接することになるので,筆圧の分散化により紙などの筆記面が傷つきにくい,Eペンを描く方向に対して傾けても,紙に接しやすくなる部分がペン軸の傾きに合わせてペンの外形にも添った形で丸くなるので,「へら状のガイド部」と比較しても圧倒的に紙などに跡が付きにくい,という利点がある。
そして,定規ガイド部がペンの外形に添った形態でペン軸の中心に向かって回り込むので,F定規を使用しない時でも,定規ガイド部が紙等に接触しにくく,筆記の妨げになりにくい,G定規ガイド部の強度が大きくなり耐久性が向上する,H定規ガイド部の厚みを薄くすることができる,という利点がある。
(4-2) 本件発明を刊行物2(甲5)の発明と比較した場合,次のような優れた作用効果を発揮する。
刊行物2とは異なり,本件発明の定規ガイド部は,全周囲を覆うのはフェルトペンの根元部に位置する部分だけで,そこからペン先に向かった突片が定規に接する限定された部分にのみ位置するので,@ペン先を必要以上に覆ってしまうことがないので,ペン先もよく見え,操作性がよい,Aペン先の側面は,定規に接触させることがないので,ガイド部は不要となり,広く開けることができ,ペン先がより見えやすくで書きやすい,B軸芯に向かって斜めに切れ込む側面部は覆わない(その位置に突片はこない)ので,ペン先だけが摩耗してしまったら,定規ガイド部の位置を上下にずらして修正,固定することも可能である,という作用効果がある。
また,本件発明においては,定規ガイド部の先端を描く方向に対して丸くするというのは,軸芯の傾きを考慮するものであり,しかも,刊行物2の図面のように,同じ高さで全周囲を覆うことがないので,Cフェルトペンを傾けて描いても,定規ガイド部が紙に接触するのは線又は面状になるので,紙が傷つきにくい(刊行物2では,傾けると定規ガイド部は鋭利な線状または点状で接触しやすくなる。),Dフェルトペンを傾けて描いても,軸芯の傾きも考慮した形態となるので,ペン軸の傾きを阻害しない,という作用効果がある。
そして,E本件発明では,定規ガイド部の先端の四すみに鋭利な角が生じるようなことがないので,紙などを傷つけることを飛躍的に軽減,改善することができるとの効果もある。
(4-3) 本件発明を刊行物3(甲6)の発明と比較した場合,次のような利点がある。
刊行物3において,第2図のようにペン先を研摩すると,先端の四すみに,合成樹脂の薄膜層が鋭利なナイフ状に残ることになる。また,同第3図のように使用すると,薄膜層とペン先の硬さの違い,摩耗度の違いなどにより,合成樹脂の薄膜層の鋭利な部分が紙に触れ,書き味を損ねるほか,紙に傷を付けたり,跡を残すなどの不都合が考えられる。しかるに本件発明は,定規ガイド部の紙に触れる部分が描く方向に対して丸くなっているので,@紙などに傷が付きにくく,A書き味が非常に滑らかで,Bペン先が見やすくなる,との利点がある。
そして,刊行物3においては,ペン先の直径が大きくなるほど定規の厚みが必要になり,「根元部が円柱状でペン先が先細りの円柱状」又は「砲弾型」のペン先への適用にはごく限られた大きさでしか実用,応用できず,ペン先の直径の大きさに限界があった。しかし,C本件発明を「根元部が円柱状でペン先が先細りの円柱状」又は「砲弾型」のペン先に適用した場合,定規ガイド部を合成繊維製ペン先の外周に位置させるだけでなく,ペン先の中心に近い部分まで添わせるので,いかなる大きさの砲弾型のペン先でもペン先と定規の高さに合わせた定規ガイド部を作製することができるという優れた作用効果を発揮する。
(5) 取消事由5(審判における手続の違法) 特許庁は,異議申立の審理段階で取消理由通知書(甲3)を発行したが,原告はその時点で刊行物5及び6(甲11,12)の送付を受けておらず,これらが送付されたのは,取消理由通知書の送付があってから160日以上過ぎてからである。
このようにして,原告は,刊行物5及び6を検討する機会を与えられないまま,取消理由通知書受け取りの日から60日以内で異議意見書を作成することになった。また,訂正請求をしようとしたところ,取消理由通知書受け取りから60日を経過していることを理由に認められなかった。 以上の刊行物5及び6の送付遅延は,「審判長は特許異議申立書の副本を特許権者に送付しなければならない。」とする特許法115条3項に違反する疑いがあり,また,原告は,異議申立の審理手続において訂正請求の機会を与えられなかったものであって,特許法120条の4第1項にも違反する疑いがある。
よって,決定には瑕疵があり,取り消されるべきである。
4 被告の主張の要点 (1) 取消事由1(相違点の認定の誤り(看過))に対して (1-1) 刊行物1(甲4)の第3図(イ)の本考案の正面図,(ロ)の背面図及び第6図(イ),(ロ)の本考案の実施例図における図面の左右両側の方向は,同第5図の本考案を定規を用いて直線を引いたりする場合の実施例図を参照すると,定規を用いて描く方向であることが明らかである。そうすると,へら状のガイド部(3’)の先端の形状は,第3図(イ),(ロ)及び第6図(イ),(ロ)の形状からみて,「定規を使用して筆記した際に描く方向に対して丸くなっている」ことが認められる。したがって,「へら状のガイド部(3’)の先端の形状は,定規を使用して筆記した際に描く方向に対して丸くなっていることが(刊行物1に)記載されている。」との認定に誤りはない。本件発明と刊行物1発明は,「ガイド部の先端が描く方向に対して丸くなっている」構成を有する点で一致している。
(1-2) 原告は,「描く方向に対して考慮して丸くなっているというには,せめて本件特許公報(甲2の1)の3頁の図12,図13のようになっていなければ,考慮しているとはいえない。」旨主張するが,上記図12,図13は,本件出願のもととなった実用新案登録出願の願書に添付した図面(乙1)には記載されておらず,また,本件特許の訂正明細書(甲2-2)において削除されている。上記主張は,本件の上記明細書及び図面の記載に基づかないものである。
よって,決定における一致点及び相違点の認定に誤りはない。
(2) 取消事由2(相違点(1)に関する判断の誤り)に対して 原告は,第2896883号の特許(甲16)を引用して主張するが,同特許は,本件特許とは何ら関係のないものであり,失当である。
刊行物3(甲6)には,根元部が円柱状で先がくさび状であるフェルトペンにおいても,ペン先の定規に当接する部分を覆うようにして,定規を用いて線を引く場合,定規を汚さないようにすることが記載され,しかも,根元部が円柱状で先がくさび状であるペン先は,刊行物4〜6(甲7,11,12)にも記載されているように周知である。これらのことを考慮し,刊行物1(甲4)の定規ガイド機能を有するフェルトペンのペン先において,根元部が円柱状で先がくさび状である周知のペン先の形状を適用して,先を円柱状に代えてくさび状にしてみることに格別困難性は認められない。
以上が決定における相違点(1)についての判断であって,この判断に誤りはない。
(3) 取消事由3(相違点(2)に関する判断の誤り)に対して 刊行物2,3(甲5,6)に記載されているガイド部をインキ芯に添わせて,すき間なく接して設けるという技術思想を適用して,刊行物1(甲4)において,ガイド部(3’)を軸芯(1)(ペン先)の形状に添ってすき間なく接するように構成してみることは,当業者が容易に推考し得ることと認められ,その際,相違点(1)で検討したように,フェルトペンのペン先が,根元部が円柱状で先がくさび状である場合においても,当然,ガイド部はペン先の形状に添ってすき間なく接するように構成するものと認められる。
上記のように判断した決定に誤りはない。
(4) 取消事由4(本件発明の顕著な効果の看過)に対して 原告は,本件発明の作用効果について,刊行物1(甲4),刊行物2(甲5),刊行物3(甲6)と比較して主張している。
しかし,刊行物1との比較に係るD,E,刊行物2との比較に係るC,D,E,刊行物3との比較に係る@,A,Bは,ガイド部が「描く方向に対して丸くなっている」ことによる効果であり,刊行物2との比較に係る@,A,Bは,「ガイド部は,筒部と筒部の先に設けた突片からなる」ことによる効果であって,いずれも刊行物1の記載から自明な効果である。
また,刊行物1との比較に係る@,A,B,Cは,「定規ガイド部をペン先の形状に添ってすき間なく接した」ことによる効果の主張であるが,このような効果は本件訂正明細書(甲2-2)に記載されておらず,しかも,刊行物2又は刊行物3に記載の発明から,当業者が容易に予測することができる程度のものである。
なお,刊行物1との比較に係るF,G,Hに記載の「定規ガイド部がペン軸の中心に向かって回り込む」こと,刊行物2との比較に係るEに記載の「定規ガイド部の先端四すみに鋭利な角が生じるようなことがない」こと,又は,刊行物3との比較に係るCに記載の「砲弾型のペン先」は,本件発明の構成ではなく,これらの構成に基づく効果の主張は,本件発明の構成に基づかないものである。
(5) 取消事由5(審判における手続の違法)に対して 刊行物5,6(甲11,12)は,本件特許が訂正審判の確定により訂正されたことから,審判長が異議申立人に対する審尋を行った結果,異議申立人から提出された回答書の中で引用されたものであり,その回答書自体は,特許法115条3項の特許異議申立書には該当しない。したがって,その回答書及び刊行物5,6の送付(甲14)が遅れたことをもって,上記規定に違反するとの主張は妥当でない。
また,刊行物5,6は,取消理由通知では,「根元部が円柱状で先がくさび状であるフェルトペン」が周知であることを示す証拠として挙げた複数の公知の刊行物の一部であり,刊行物5,6が提出されたか否かにより,上記周知の事実を変更するものではなく,取消理由が変更されるものではないので,刊行物5,6の送付後に改めて同一の理由により取消理由を通知し,訂正請求の機会を与えなかったことが違法であるとはいえない。
また,審判長は,刊行物5,6を送付して,原告に対し意見書を提出する機会を設けている(甲14)。
なお,原告自身,取消理由通知に対する意見書の中で,「根元部が円柱状で先がくさび状であるフェルトペン」が周知であることを認めている(乙3)。
以上のとおり,本件異議申立の審理手続に原告の主張するような違法性はない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の認定の誤り(看過))について (1) 甲第2号証の1,2によれば,本件発明における「ガイド部・・・の突片の先端は定規を使用して筆記した際に描く方向に対して丸くなっている」との構成の意味するところは,本件発明の明細書(甲2-1)中の【図1】(正面図)においてみると,同図面の左右方向が「筆記した際に描く方向」であって,ガイド部2の突片の先端部分が,同突片の最先端の点(図面中のガイド部最下部)を頂点として左右に丸くなっている状態をもって,「突片の先端は定規を使用して筆記した際に描く方向に対して丸くなっている」というものであることが認められる(この点は当事者間に争いがないものと認められる。) そこで,刊行物1発明(甲4)をみるに,その明細書には,定規ガイド部の先端の形状がどのようなものであるかについて,具体的な記述はないが,第3図,第6図等から,定規ガイド部の先端が,最先端の点を頂点として左右に丸みを帯びた形状となっていることが認められる(先端が丸くなっているとの限りでは,原告も認める。)。
そして,刊行物1(甲4)には,定規ガイド部に関し,以下のような記載があることが認められる。
「本考案は,・・・従来からあるフェルトペンの容器部(2)から円筒(4),(5)を介して連接する硬質筒部(3)の先端に,第3図の様にへら状のガイド部(3’)を設け,その先端が軸心(1)の先端よりも僅か短かめになる様に固定したものである。本考案はこのような構造であるから使用する場合はへら状のガイド部(3’)を定規にあてて紙面に対して平行に直線を引くようにする。」(甲4,明細書2頁〜3頁) 「第5図は定規(6’)を用いて直線を引く場合の使用法である。」(同3頁) 「第5図は本考案を定規を用いて直線を引いたりする場合の実施例図。」(同4頁) 以上の記載及び図面の内容に照らせば,刊行物1発明の「へら状のガイド部」の先端付近の丸みを帯びた部分は,定規を使用した際に描く方向(定規に沿ってペンを移動させる方向,上記第3図(イ),(ロ)及び第6図の左右方向)に丸みを帯びるように構成されていることが明らかである。
(2) 原告は,本件発明は,ガイド部の突片の先端を,ただ丸くするのではなく,描く方向に対して考慮して丸くすることにより,刊行物1発明以上の際だって優れた作用効果を発揮するものであるから,本件発明の「描く方向に対して」が考慮されているかどうかを相違点に加えるべきである旨主張する。
しかし,本件発明の訂正明細書(甲2-2)における請求の範囲には,「ガイド部・・・の突片の先端は定規を使用して筆記した際に描く方向に対して丸くなっている」(同1頁)と記載されているだけで,他に先端形状に関する特別な限定事項があるわけではない。また,同明細書の発明の詳細な説明欄においても,「ガイド部の突片の先端の部分は,定規を使用して筆記した際に描く方向に対して鋭利にならない様に丸くしてある」(同2頁)との記載があるのみである。よって,ガイド部突片の先端形状について,特許請求の範囲の記載(「描く方向に対して丸くなっている」)以上に特別な意味内容を付加的に考慮すべき根拠はない。
また,原告は,描く方向に対して考慮して丸くなっているというには,せめて本件特許公報(甲2の1)の3頁の図12,図13のようになっていなければ,考慮しているとはいえない旨主張するが,上記図12,図13は,本件発明の訂正明細書(甲2-2)において削除された実施例に関する図であって,これを主張の基礎とすることは失当である。
(3) 以上によれば,本件発明と刊行物1発明とは,「ペン先に,定規ガイドとなるガイド部を設けた定規ガイド付きペンにおいて,ガイド部は,筒部と筒部の先に設けた突片からなり,その突片の先端は定規を使用して筆記した際に描く方向に対して丸くなっていることを特徴とする定規ガイド付きペンである」との構成を有する点で一致するものであるものと認められるのであり,この点に関する決定の認定に誤りはない。
原告の取消事由1に関する主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点(1)に関する判断の誤り)について (1) 原告は,前記のとおり,本件発明よりも後願である特許第2896883号が登録されていることを取り上げて,本件発明のみ進歩性を否定することは矛盾である旨主張する。
しかし,上記特許発明は,本件発明とどの程度類似するかはともかく,本件発明の特許とは別個の特許であることは明らかであって,特許異議の制度上,各特許を取り消すべきか否かは,個別に判断されるものであり,上記特許が登録されていることから,直ちに本件発明の特許を取り消すことが違法となるものではない。よって,この点に関する原告の主張は失当である。
念のため,特許第2896883号(甲16)をみておくと,その請求項1は,ペン先の基質部分の材料を特定するとともに繊維の太さに数値的限定を加え,被覆部材の厚さや抗菌性等の限定を加えるなど,本件発明の開示内容にはない種々の限定要素が加えられていることが認められる。請求項2ないし4も同様である。そして,原告が取り上げる請求項5は,請求項1,2又は4を引用した上,ペン先先端の基質部分からの突出量を数値的にさらに限定したものである。そうすると,原告が主張するように,本件特許と特許第2896883号とがその有効性について同じ結論とならなければ矛盾するなどといい得るのかということ自体が疑問である。
(2) 次に,相違点(1)に関する決定の判断の誤りをいう点について検討する。
(2-1) 刊行物4(甲7)の第7図には,「根元部が円柱状で先がくさび状」のペン先が記載されている。そして,刊行物5(甲11)は,スポンジ構造や多孔構造のペン先のカタログであると認められ,「C-CH-P」と表示された製品は明らかに「根元部が円柱状で先がくさび状」の形状であることが認められる。また,刊行物6(甲12)は,株式会社トンボ鉛筆の製品カタログであって,「暗記ペン」と称される蛍光ペンは「根元部が円柱状で先がくさび状」のペン先を有していることが認められる。これらの記載からすれば,本件出願の時点で「根元部が円柱状で先がくさび状」のペン先は,一般に採用されている周知の形状であったことが認められる。
また,刊行物3(甲6)では,ペン先の外周に合成樹脂の薄膜を一体的に被覆せしめた後,所定寸法に切断し,根元部が円柱状で先がくさび状になるように研摩することによって,合成樹脂部分を,定規を使用した際のガイド部として用いることが開示されている。
このように,「根元部が円柱状で先がくさび状」のペン先が周知であること,また,このような形状のペン先の周囲に定規のガイド部を設けることが知られていることが明らかであるので,刊行物1発明のペン先を「根元部が円柱状で先がくさび状」のものに代えることは,当業者であれば容易になし得るものと認められる。これと同旨の決定の判断は,是認し得るものである。
(2-2) 原告は,刊行物4(甲7)のペン先の構造を例に挙げ,平板状から砲弾型等に変更することは構造上極めて困難であり,このように,ペン先そのものですら形態を置換して当てはめることは困難を極める場合があるにもかかわらず,ペン先の付随物である定規ガイドにペン先の形態を置換した場合だけに容易に推考することができるというのは矛盾であり,論理的に成立しない旨主張する。
しかしながら,決定は,ある特定構造のペン先の先端をくさび状に変更することの容易さを評価したものではなく,先端がくさび状であるペン先を含む,様々な形状のペン先がマーキング用フェルトペンの技術分野では周知となっていることを前提に,定規ガイド部をこのような種々の形状のペン先に適用してみることの容易想到性を判断しているものであって,その判断過程を含め,相違点(1)に関する決定の判断は,是認し得るものである。
原告の主張は採用の限りではない。
3 取消事由3(相違点(2)に関する判断の誤り)について (1) 原告は,刊行物2(甲5)には,定規ガイド部(ペン先の形状に添ってすき間なく接した突片)を「根元部が円柱状で先がくさび状」のペン先に適用することができることに関して何らの記載もなく,また,刊行物3(甲6)にも,定規ガイド部を,「根元部が円柱状で先がくさび状」のペン先の形態から,「砲弾型」又は「根元部が円柱状で先が先細りの円柱状」のペン先に適用することができることについての記載はない旨主張する。
そこで,刊行物2をみると,第17図ないし第23図には,フェルトペン容器に取り付けるタイプの線引き汚れ防止カバーが開示され,そのカバーは,根元部及び先端が四すみで先端部を斜めに切り落としたペン先の周囲にすき間なく接した形態であることが認められる。また,第24ないし31図には,差し込みタイプのカバーであって,ペン先の前面及び両側面をすき間なく覆ったキャップが開示されている。
次に,刊行物3には,円柱状のマーキングペンのペン先の外周に合成樹脂の薄膜層を一体的に被覆させ,これを根元部が円柱状で先がくさび状になるように研摩することによって,外周部に残った前記樹脂薄膜層が定規を使用したときの色付きを防止することが開示されている。
以上のような刊行物の開示内容を総合すると,フェルトペンの定規ガイドをペン先の周囲にすき間なく接するように構成することは周知であると認められ,これを根元部が円柱状で先がくさび状のペン先に適用する際に,刊行物3に開示される態様を採用することができることは,当業者が容易に理解し得ることが明らかである。このような理解に基づいて,刊行物1発明の「へら状のガイド部」の形状を,ペン先の形状に添ってすき間なく接するように構成すること,その際,相違点(1)のように,フェルトペンのペン先が,根元部が円柱状で先がくさび状である場合においても,ガイド部はペン先の形状に添ってすき間なく接するように構成することは,当業者が容易に推考し得るものと認められる。
これと同旨の決定の判断は,是認し得るものであって,原告の主張は直ちには採用することができない。
(2) 原告は,刊行物1(甲4)には,定規ガイド部を,「根元部が円柱状でペン先が先細りの円柱状」又は「砲弾型」のペン先の形態から,「根元部が円柱状で先がくさび状のペン先」に適用することができることについての記載がない旨も主張する。
しかしながら,引用例とされた発明(刊行物1発明)において,本件発明との差異に対応する構成が実際に開示されていることまでが要求されるものではないばかりか,前記のとおり,刊行物2及び3には,ペン先に定規ガイドを設けること,定規ガイドをペン先の周囲をすき間なく覆うように構成することが開示され,刊行物3には,周知である根元部が円柱状で先がくさび状のペン先(刊行物4ないし6参照)に定規ガイドを設けることが開示されており,これらの刊行物には本件発明と刊行物1発明との相違点(2)についての差異を充足するすべての技術思想が開示されていると認められるのであり,これらを組み合わせることを阻害する要因も特段見当たらないのであるから,前記のように,決定が相違点(2)についてした判断は,是認し得るものである。この点に関する原告の主張も採用の限りではない。
4 取消事由4(本件発明の顕著な効果の看過)について 原告は,本件発明が,刊行物1ないし3にはみられない顕著な作用効果を奏するものであり,決定は,これを看過した違法がある旨主張する。
しかしながら,原告の主張する作用効果は,刊行物1ないし3の記載から自明であるか,当業者が容易に予測することができる程度の効果であるもの,又は,明細書を検討しても本件発明の構成であると確定し得ないような構成に基づく作用効果の主張であって,いずれも,本件発明の進歩性を肯定し得るに足りないものというほかない。
よって,決定には,原告主張の違法があるとは認められない。
5 取消事由5(審判における手続の違法)について 原告は,審判手続が特許法115条3項,120条の4第1項に違反する疑いがある旨主張する。具体的には,刊行物5及び6(甲11,12)を見る機会を与えられないまま取消理由通知に対する異議意見書を作成せざるを得なかったこと,刊行物5及び6が送付されたのは,取消理由通知の送付から160日以上過ぎてからであり,原告が訂正請求をしようとしたところ,取消理由通知から60日が経過していることを理由に認められなかったことをいうものである。
検討するに,証拠(甲3,11ないし14,乙3)及び弁論の全趣旨によれば,特許庁は,原告に対し,平成11年9月1日付けで本件異議申立書副本及び刊行物1ないし4(写し)を送付したこと,その後,異議申立人から回答書副本及び刊行物5,6が提出され,同年12月6日付けをもって取消理由通知をしたが,上記刊行物5,6(写し)等は,平成12年5月30日付け発送をもって原告に送付したことが認められる。
他方,証拠(上記証拠及び甲17ないし21)並びに弁論の全趣旨によれば,刊行物5,6は,周知事実を裏付けるための証拠の一部として追加されたものであること,上記取消理由通知書(甲3)においては,詳細な取消理由が記載され,その中で刊行物1ないし6が特定して記載され,それぞれの記載内容も摘示され,刊行物4の記載内容とともに,刊行物5,6は「根元部が円柱状で先がくさび状のフェルトペン」が記載されているとの摘示がされていること,この周知事実を裏付ける証拠は刊行物5,6のみではなく,これらの有無により周知事実の認定は左右されないものと認められる上,原告自身も刊行物5,6を受領する前の特許異議意見書において,当該周知事実自体については争わないとの趣旨を述べていること,刊行物5,6(写し)の送付前後で取消理由自体に変更はないものと認められること,本訴提起後ではあるが,原告には訂正審判請求の機会があり,現に少なくとも1回はその権利を実行したこと(平成13年11月20日付けで訂正審判請求をし,同年12月10日付けで原告自ら審判請求を取り下げて終了。なお,原告は,同月31日付けで再度の訂正審判請求をし,本訴口頭弁論終結時において,審判の結論は出ていないが,原告も本訴の進行を希望している。)などの事情も認められる。
以上の諸事情に照らせば,本件において,刊行物5及び6の写しが取消理由通知に対する異議意見書の提出期限までに原告に送付されず,取消理由通知の送付から160日以上過ぎてから送付されたことをもって,特許法115条3項に違反するものであるということはできず,また,原告が主張するように,原告が訂正請求をしようとしたところ,取消理由通知から60日が経過していることを理由に認められないとの趣旨のやりとりが特許庁との間であったとしても,直ちに特許法120条の4第1項に違反するものとも断じ得ない(仮に,原告の主張が同条の4第2項違反の疑いをもいうものであるとしても同様である。また,刊行物5,6(写し)の送付通知(甲14)において,意見があれば60日以内に意見書を提出されたい旨の記載があるが,意見を述べる機会を念のため裁量的に付与した趣旨であると解され,このことから直ちに,訂正請求に関して原告が主張する上記やりとりを違法であるということは困難である。)。さらに,実質的にみても,原告の手続上保護されるべき権利が侵害されたとはいえないし,ましてや上記の各点が決定の結論に影響を及ぼすべきものとも認められない。
よって,原告の上記主張は,いずれも採用の限りではない。
6 結論 以上のとおり,原告主張の決定取消事由はいずれも理由がなく,その他決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
【別紙】異議の決定の理由平成11年異議第72390号,平成12年9月19日付け決定(下記は,上記異議の決定の理由部分について,文書の書式を変更したが,用字用語の点を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)理由1.手続の経緯本件特許第2841292号の請求項1に係る発明についての出願は、出願日が平成5年4月20日である実願平5-28458号を平成9年3月3日に特許出願に変更したものであって、平成10年10月23日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、訂正審判(審判11-39026)が請求され、その訂正審決が確定し、その特許について、異議申立人株式会社トンボ鉛筆、テイボー株式会社及びBより特許異議の申し立てがなされ、平成11年12月6日付けで取消理由通知がなされ、平成12年2月14日に意見書が提出され、平成12年5月12日付けで異議申立人の提出した回答書の副本を送付し、平成12年7月10日付けで意見書が提出されたものである。
2.本件発明本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、訂正された特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるものである。
「根元部が円柱状で先がくさび状のフェルトペンのペン先に、定規ガイドとなるガイド部を設けた定規ガイド付きペンにおいて、ガイド部は、筒部と筒部の先に設けたペン先の形状に添ってすき間なく接した突片からなり、その突片の先端は定規を使用して筆記した際に描く方向に対して丸くなっていることを特徴とする定規ガイド付きペン。」3.引用刊行物記載の発明先の取消理由通知において引用した刊行物1:実願昭53-64411号(実開昭54-166945号)のマイクロフィルム、刊行物2:実願昭53-177018号(実開昭55-93580号)のマイクロフィルム、刊行物3:実願昭58-56371号(実開昭59-162281号)のマイクロフィルム、刊行物4:実願昭56-162234号(実開昭58-66982号)のマイクロフィルム、
刊行物5:カタログ(東京ハット株式会社、昭和53年7月15日発行)(第1頁、CーCHーP参照)、刊行物6:1991トンボ鉛筆総合カタログ(JAN4901991640656参照)には、以下のとおり記載されている。
上記刊行物1には、「もし硬質筒部(3)までの板厚のない薄い定規(6′)だと軸芯(1)に接して直線を引くことになる為、定規(6′)の接触面を汚してしまったり、又、紙面にインクが滲んで汚すなどの欠点が起きてしまう。」(第1頁第18行〜第2頁第1行)こと、
「硬質筒部(3)に取りはずし可能の筆記具用罫線引きガイド具などがあるが、
これらはあくまで取りはずしとしての機能を果たす際、指にインクが付着して汚したりまた紛失しやすいなどの難点がある。」(第2頁第14行〜第18行)こと、
「本考案は、このような難点を除くために考案されたもので、従来からあるフェルトペンの容器部(2)から円筒(4)、(5)を介して連接する硬質筒部(3)の先端に、第3図の様にへら状のガイド部(3′)を設け、その先端が軸芯(1)の先端よりも僅か短かめになるように固定したものである。本考案はこのような構造であるから使用する場合はへら状のガイド部(3′)を定規にあてて紙面に対して平行に直線を引くようにする。尚、へら状のガイド部(3′)の先端よりも軸芯(1)の先端の方が僅かではあるが出ているので文字を書くことが可能である。」(第2頁第19行〜第3頁第9行)こと、
第3図ないし第6図を参照すると、へら状のガイド部(3′)の先端の形状は、
定規を使用して筆記した際に描く方向に対して丸くなっていることが記載されている。
第3図ないし第6図の記載によれば、フェルトペンの軸芯(1)(ペン先に相当)の形状は、根元部及び先が円柱状であるものと認められる。
したがって、上記刊行物1には、根元部及び先が円柱状であるフェルトペンの軸芯(1)(ペン先)に、へら状のガイド部(3′)を設けたフェルトペンにおいて、へら状のガイド部(3′)は、硬質筒部(3)の先に設けられ、へら状のガイド部(3′)の先端は、定規を使用して筆記した際に描く方向に対して丸くなっていることを特徴とするフェルトペンが記載されている。
上記刊行物2には、「この実用新案は、線引きの汚れ防止となるカバーを設けたフェルトペンに関する」(第1頁第8行〜第9行)こと、
「アダプタ式とし、線引きの場合に、インキ芯(2)に取り付け使用し、字を書く場合は取りはずせるように考案したものである。」(第2頁第3行〜第5行)こと、
「第15図より第16図は、インキ芯(2)全体にカバーするものでなく、線引きに当る部分一側にカバー片(3′)を差し込み使用出来るようにしたものである。第17図より第23図に関しては、フェルトペン容器(1)の先端及びインキ芯(2)の大きさに合わせたカバー(3)をインキ芯(2)の先端より約0.5mm手前までの長さにして、フェルトペン容器に取り付けたものである。第24図より第31図に関しては、・・・カバーに関しては、インキ芯(2)にそわせて両側面にカバー(4)が取り付けられるようになるが、後面は、インキ芯にそわせてのカバーは取り付けず(第29図及び第31図参照)フェルトペン容器(1)より5mm位両面を長くし、この部分を手で持って、取り付け、取りはずしの場合に利用するようにした。」(第3頁第2行〜第20行)ことが記載されている。
第26図の角芯の場合の先端部の拡大側面図によれば、第24図(角芯の場合の先端部の拡大後面図)と第28図(角芯の場合の先端部の拡大前面図)と同様に、
カバー(4)の前面部において、カバー(4)の内側にインキ芯(2)の外周が点線により示されているから、前面も、両側面と同様にインキ芯(2)にそわせてカバー(4)が取り付けられていることが認められる。
上記刊行物3には、「太さ1〜10デニール位の合成繊維を集束して合成樹脂製接着剤を含浸させ、乾燥、固化させた、いわゆる合成繊維製ペン先の外周に、合成樹脂の薄膜を、エキストルーダーにより一体的に被覆せしめたのち所定寸法に切断し図面に示すような、ナイフ状に研磨し、ペン先端近くまでの未研磨部分に合成樹脂の薄膜層を残したマーキングペンのペン先。」(実用新案登録請求の範囲)であること、
「本考案は定規を用いて線を引いても、定規を汚さない、繊維製のマーキングペン、ペン先に関する。」(第1頁第14行〜第16行)こと、
「本考案は、この繊維ペン先の外周にエキストルーダーにより合成樹脂の薄膜を一体的にとりつけたものであって、特に最近ペン先形状が線引きを主目的としたいわゆるナイフカットと称する形状に研磨したものは、定規を用いて、線を引く事が多いが、本考案によれば定規1に当接する部分2は繊維部分3が露出していないから定規を汚すおそれがない。」(第2頁第18行〜第3頁第5行)ことが記載されている。
上記刊行物4には、「本考案は、・・・第7図に示すように、一般的な円柱状孔を有するチップホルダーに適用し得るよう円柱状ペン先1′とし、ペン先先端部を偏平化したものであってもよい」(第7頁第12行〜第17行)ことが記載されている。
上記刊行物5、6には、「根元部が円柱状で先がくさび状のペン先」が記載されている。
4.対比・判断そこで、本件発明(以下「前者」という。)と上記刊行物1に記載された発明(以下「後者」という。)とを比較する。
両者は、定規ガイド付きペンであって、
後者の「へら状のガイド部(3′)」は、硬質筒部(3)の先端に設けられ、ペン先の一部分を覆う形状であって、その筒部(3)からみれば突出しており、前者のガイド部の突片は、図3〜6を参照すると、筒部からペン先の一部を覆うように突出しているものであるから、後者の「へら状のガイド部(3′)」は、前者のガイド部の突片に対応し、後者の硬質筒部(3)は前者の筒部に対応する。
したがって、両者は、ペン先に、定規ガイドとなるガイド部を設けた定規ガイド付きペンにおいて、ガイド部は、筒部と筒部の先に設けた突片からなり、その突片の先端は定規を使用して筆記した際に描く方向に対して丸くなっていることを特徴とする定規ガイド付きペンである点で一致し、(1)フェルトペンのペン先が、前者では、根元部が円柱状で先がくさび状であるのに対し、後者では、根元部及び先が共に円柱状である点、(2)ガイド部が、前者では、筒部の先に設けたペン先の形状に添ってすき間なく接した突片からなるのに対し、後者ではそのようになっていない点で相違している。
次に、上記相違点について検討する。
相違点(1)について上記刊行物3の記載及び図面の記載によれば、根元部が円柱状で先がくさび状であるフェルトペンにおいて、定規を用いて線を引く場合、定規に当接する部分を、
繊維部分3(ペン先に相当)を露出しないようにして定規を汚さないようにすることが記載され、このように、根元部が円柱状で先がくさび状であるフェルトペンにおいて、ペン先の定規に当接する部分を覆うようにすることが開示されている。また、上記刊行物4〜6に記載されるように根元部が円柱状で先がくさび状であるペン先は周知である。これらのことを考慮すると、後者の定規ガイド機能を有するフェルトペンのペン先において、先を円柱状に代えてくさび状にしてみることに格別困難性は認められない。
相違点(2)について上記刊行物2によれば、カバーに関しては、インキ芯(2)にそわせて前面及び両側面にカバー(4)が取り付けられることが認められ、また、インキ芯(2)全体にカバーするものでなく、線引きに当る部分側にカバー片(3′)を差し込むことも記載されている。
そうすると、カバー片(3′)又はカバー(3)の前面及び両側面はインキ芯(2)にそわせて設けられており、そして、第24,26,28図を参照すれば、
カバー片(3′)又はカバー(3)の前面及び両側面はインキ芯(2)にそわせて、すき間なく接して設けられているといえる。
また、上記刊行物3には、根元部が円柱状で先がくさび状であるフェルトペンにおいて、定規を用いて線を引く場合、定規に当接する部分を、繊維部分3(ペン先に相当)を露出しないようにして定規を汚さないようにするために、合成繊維製ペン先の外周に、ペン先端近くまでの未研磨部分に合成樹脂の薄膜層を残すことが記載されており、この「合成樹脂の薄膜層」は、前者の「ガイド部」に対応しているので、刊行物3のペン先とガイド部を構成する合成樹脂の薄膜層はすき間なく接しているものである。
そうすると、上記刊行物2、3に記載されるガイド部をインキ芯にそわせて、すき間なく接して設けるという技術思想を適用して、後者においても、ガイド部(3′)を軸芯(1)(ペン先)の形状に添ってすき間なく接するように構成してみることは、当業者が容易に推考し得ることと認められる。
その際、相違点(1)で検討したように、フェルトペンのペン先が、根元部が円柱状で先がくさび状である場合においても、当然、ガイド部はペン先の形状に添ってすき間なく接するように構成するものと認められる。
次に、本件発明の効果について検討する。
「定規を使って線などを書く際に、ペンのインクが定規に着いて定規や手が汚れてしまうことも無く、また、定規に着いたインクや汚れがペン先に着いてしまうことも無く、インクの色が変わってしまうことも無い。また、定規を使う度に定規に着いたインクを拭き取る手間も省ける。」という効果は、刊行物1に記載される発明に基づいて当業者が容易に予測し得る効果である。
「また、ガイド部の突片の先端の部分は、定規を使用して筆記した際に描く方向に対して鋭利にならない様に丸くしてあるので、ガイド部の突片の先が紙などに触れても紙などを傷つけてしまったり、鋭利な跡が残ってしまうこもなく、書き具合も滑らかとなる。さらに、ガイド部の突片の先が紙に直接触れない様に、最初からガイド部の突片の先端よりもペン先の方を突出するように設定すれば、ガイド部の突片は全く紙に触れることもなく、書き具合もさらに大変滑らかとなる。また、たとえ長期使用などによるペン先の摩耗が予想されても、最初からガイド部の突片の先端よりもペン先の方を突出するように設定しておけば、その分ガイド部の効果の持続性、耐久性は向上し、良い状態で長く使用できるようになる。また、ペン先をガイド部の突片の先端より突出するように設定すれば、ペン先はその分見えやすくなり、取扱いがより容易になる。」という効果は、平成10年6月15日付け手続補正書により追加されたものであり、当業者にとって自明の事項と認められる。
次に、平成12年2月14日付けの意見書において、本件発明の「定規ガイド」と刊行物1の「へら状ガイド部」との相違について主張しているが、上記相違点(2)で検討したように、刊行物1に記載された発明においても、ガイド部(3′)を軸芯(1)(ペン先)の形状に添ってすき間なく接するように構成してみることは、当業者が容易に推考し得ることであり、その効果も当業者が容易に予測し得る程度のものである。
また、平成12年2月14日付け及び平成12年7月10日付けの意見書において、本件発明の「根元部が円柱状で先がくさび状のフェルトペンのペン先」と刊行物1の「根元部及び先が共に円柱状のフェルトペンのペン先」の相違について主張しているが、上記相違点(1)で検討したように、本件発明のような「根元部が円柱状で先がくさび状のペン先」は周知であり、しかもガイド部を設けることも刊行物3に記載されており、刊行物1に記載される定規ガイド機能を有するフェルトペンのペン先において、先を円柱状に代えてくさび状にしてみることに格別困難性は認められないというものである。
したがって、意見書の主張は採用できない。
5.むすび以上のとおりであるから、本件発明は、上記刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
平成12年9月19日
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利
裁判長裁判官 永井紀昭
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