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関連審決 審判1999-19349
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  優先権 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  拒絶審決 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 247号 審決取消請求事件
原告 オセーテクノロジーズビーブイ
訴訟代理人弁理士 伊東忠彦、湯原忠男
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 小川謙、小林信雄、高橋泰史、林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/01/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
本判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が平成11年審判第19349号事件について平成12年12月25日にした審決を取り消す、との判決。
事案の概要
本件は、拒絶審決に対する審決取消請求である。
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「ディジタル画像データの印刷装置」とする発明につき、平成7年5月25日特許出願し(特願平7-126867号、優先権主張日1994年6月7日(オランダ国出願)及び同年12月22日(欧州特許出願))、拒絶査定を受けた(平成11年9月8日拒絶査定謄本送達)ので、平成11年12月6日に拒絶査定不服審判を請求したが(平成11年審判第19349号事件)、特許庁は、
平成12年12月25日、「本件審判請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本を平成13年1月31日に原告に送達した(出訴期間として90日付加)。
2 発明の要旨(平成11年12月6日付け手続補正書(甲4)により補正された特許請求の範囲)【請求項1】操作者によって操作される操作手段を備えた操作ユニットと、
ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する少なくとも1台の入力ユニットと、
画像保持体に画像データファイルを印刷する印刷ユニットと、
印刷用のデータファイルが記憶される記憶装置と、
該印刷ユニット及び該操作ユニットに接続され、該記憶装置に記憶された該印刷用のデータファイルを上記印刷ユニットによって印刷させる制御ユニットと を有するディジタル画像データの印刷装置であって、
該制御ユニットは、該操作手段を介して操作者から、該記憶装置に記憶された該印刷用のデータファイルの中で印刷用の特定のデータファイルを(「の」は誤記)指定し、指定された該特定のデータファイルを印刷させる印刷コマンドを受けたときに限り、受信された何れかの該印刷用のデータファイルに対応した画像データファイルが印刷されるよう適合されている ことを特徴とする印刷装置。
(以下、この発明を「本願発明」という。)【請求項2】ないし【請求項13】(記載省略) 3 審決の理由の要旨 審決の理由は別紙審決の写しのとおりである。要するに、本願発明は、特開平6-103359号公報(引用例1、甲5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決は、本願発明と引用例1(甲5)に記載された発明との一致点及び相違点の認定を誤り(取消事由1)、相違点についての判断を誤った(取消事由2)ものであるから、違法であり、取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り) (1) 審決が、引用例1の「スキャナ2」が本願発明の「入力ユニット」に相当する、とした点は、誤りである。
引用例1におけるスキャナは、光ディスク等の大容量記憶媒体に記憶するために、図面の原稿を光学的に読み取るためのものである。本願発明の入力ユニットは、印刷するために、ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信するためのものであり、両者は異なる。引用例1のスキャナは、本願の請求項9における「走査ユニット」に対応するものである。
(2) 審決が、引用例1の「画像メモリ105」が本願発明の「記憶装置」に相当する、とした点は、誤りである。
引用例1の画像メモリ105には、本願発明における印刷用のデータファイルでなく、画像データファイルに相当する画像情報等のデータが記憶される。
本願発明の「記憶装置」は、ネットワークを介して外部供給源から供給された印刷用のデータファイルが記憶される記憶装置であり、この記憶装置に記憶された印刷用のデータファイルのうち、印刷するように指定された印刷用のデータファイルに対応した画像データファイルが印刷されるものである。直ちに印刷可能なデータである画像データを記憶する引用例1の「画像メモリ105」は、直ちに印刷可能なデータを記憶していない本願発明の「記憶装置」に相当するものではない。
(3) 審決が、引用例1の「システム制御部101」が本願発明の「制御ユニット」に相当する、とした点は誤りである。
本願発明の「制御ユニット」は、印刷ユニットに接続されており、記憶装置に記憶された印刷用のデータファイルの中の指定された特定のデータファイルを印刷させる印刷コマンドを受けたときに、該印刷用のデータファイルに対応した画像データファイルを印刷するように制御するものである。
引用例1の「システム制御部101」は、印刷ユニットに相当するプリンタ7に接続されておらず、また、記憶装置に記憶された印刷用のデータファイルの中の、
指定された特定のデータファイルを印刷させる印刷コマンドを受けたときに、該印刷用のデータファイルに対応した画像データファイルを印刷するように制御するものではないので、本願発明の「制御ユニット」に相当するものではない。
(4) 審決は、上記のとおり、対応関係の認定を誤っているから、これに基づく一致点の認定も誤りである。
(5) 審決認定の相違点1は、正しくは、「入力ユニットが、本願発明では、・・・受信する入力ユニットであるのに対して、引用例1では、スキャナのみであり、ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する入力ユニットは記載されていない」とすべきである。
(6) 審決認定の相違点2は、正しくは、「記憶装置に記憶されるデータファイルが、・・・引用例1では、スキャナ2あるいは書替型の光ディスク4より読み込まれた画像情報等のデータを記憶するものである点」とすべきである。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り) 審決は、本願発明と引用例1記載の発明との相違点1ないし4の判断を誤っている。
(1)相違点1について 審決は、「ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信することは、ファクス及びメイル等により周知のことであるから、引用例1のものをネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信するようにすることは当業者が容易に推考することができることである。」と判断したが、誤りである。
ア 審決は、引用例1に記載されたスキャナに関する記載に基づいて、本願発明におけるネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する入力ユニットが、どのようにして導き出されるかを判断していない。
イ 引用例1の入力装置であるスキャナは、光ディスク等の大容量記憶媒体に記憶するために図面の原稿を光学的に読み取るためのものである。このスキャナは、ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する本願発明の入力ユニットとは機能が異なるものであって、引用例1のスキャナを、ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する入力ユニットに置き換えることはできない。
ウ 引用例1に記載された情報ファイル装置が、ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信して印刷することは、記載も示唆もされていない。したがって、引用例1に記載された発明において、入力装置であるスキャナとは別に、ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する入力ユニットを設けることは、容易になし得ることではない。
エ ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信することがファクス及びメイル等により周知のことであったとしても、引用例1の情報ファイル装置にファクス及びメイル等の通信手段を結びつける理由がないから、
引用例1に記載された発明において、ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する入力ユニットを設けることは、容易になし得ることではない。
(2) 相違点2について 審決は、「引用例1においても、「画像メモリ105に記憶されたデータをプリンタ7に出力する単位データにして記憶するプリンタ1/F回路112を具備している」と記載されており、画像メモリには印刷に用いるデータが記憶されている。」と認定判断したが、誤りである。引用例1の画像メモリ105には、印刷にも用いられる「スキャナ2あるいは書替型の光ディスク4より読み込まれた画像情報等のデータ」を記憶するものであり、本願発明のように印刷用のデータが記憶されるものではない。
本願発明の「記憶装置」が記憶する「印刷用のデータファイル」は、「ページ記述言語に従って印刷用の書類を表す形式である符号化形式」のような「印刷用のデータファイル」である。審決は、本願発明の「印刷用のデータファイル」の技術意義を理解しておらず、相違点2に関する判断を誤っている。
(3) 相違点3について 審決は、「別々の装置、手段またはユニットを目的に合わせて集め、その目的の名前で装置を呼ぶことは当業者の通常行っていることであるから、引用例1のものは、・・・装置として印刷装置と呼ぶことは当業者が適宜行うことができることである。また、本願発明は、操作ユニットと、入力ユニットと、印刷ユニットと、記憶ユニットと、・・・制御ユニットとを有する印刷装置であるが、各ユニットが独立に設けられているとも一体に設けられているとも特許請求の範囲には限定されておらず、これらの別々のユニットを目的に合わせて集め、これを印刷装置と言うことに格別意味があることではない。」と判断したが、誤りである。 ア 本願発明における印刷装置は、別々のユニットを目的に合わせて集めたものを印刷装置と称しているものではない。引用例1における「キーボードと、マウスと、プリンタと、画像メモリと・・・システム制御部」を組み合わせた全体を印刷装置と称することには、無理がある。
イ 仮に全体を印刷装置と称することができるとしても、その印刷装置は、
本願発明が前提としているネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する印刷装置(いわゆるプリントサーバ)ではない。
(4) 相違点4について 審決は、「データファイル中のデータを印刷するときに、記憶装置に記憶されたデータファイルの中で特定のデータファイルを指定し、指定された特定のデータファイルを印刷させる印刷コマンドを受けたときに限り、データファイルに対応した画像データファイルが印刷されるようにすることは、通常に行っていることであるから、引用例1のものをネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信するものとした時に、印刷時に引用例1の制御部が、本願発明の制御ユニットと同様な動作をするようにすることは当業者が容易に考えられることである。そして、本願発明は、前記引用例1に記載された発明から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとは認められない。」と判断したが、誤りである。
ア 審決では「引用例1のものをネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信するものとした時」を前提にして判断しているが、この前提が誤りである。
イ 引用例1の画像メモリ105では、記憶装置(画像メモリ105)に記憶されたデータファイルの中から、特定のデータファイルを指定することはできない。したがって、引用例1における制御部は、「記憶装置に記憶された該印刷用のデータファイルの中で印刷用の特定のデータファイルを指定し、指定された該特定のデータファイルを印刷させる印刷コマンドを受けたときに限り、受信された何れかの該印刷用のデータファイルに対応した画像データファイルが印刷されるよう」制御することはできない。
ウ 本願発明は、ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する印刷装置(いわゆるプリントサーバ)に関する発明である。また、本願発明における印刷装置の制御ユニットは、記憶装置に記憶されたネットワークを介して外部供給源から受信した印刷用のデータファイルの中から特定のデータファイルを指定し、指定されたデータファイルを印刷させる印刷コマンドを受けたときに限り、受信された何れかの印刷用のデータファイルに対応した画像データファイルを印刷するように制御するものである。このような制御ユニットの制御により、
本願発明は、ワークステーションでなく、いわゆるプリントサーバにおいて印刷ジョブを管理することができ、また、自分自身の印刷物を他の利用者の印刷物の山の中で探す必要がなくなるという効果を奏する。
一方、引用例1に記載されたものは、ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する記載も、示唆もなく、また、ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信するように構成する契機がない。従って、本願発明における効果、つまり、いわゆるプリントサーバにおいて印刷ジョブを管理することができ、また、自分自身の印刷物を他の利用者の印刷物の山の中で探す必要がなくなるという効果を予測することはできない。
被告の反論の要点
1 取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り)に対して 審決における一致点及び相違点の認定に誤りはない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)に対して (1)相違点1について ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信することは、周知慣用のことであって、文書のデータファイルを扱う者ならば絶えず考えていることと認められる。したがって、上記の点が記載も示唆されていないから、容易になし得ないとの原告の主張は理由がない。
(2)相違点2について 引用例1において、画像メモリにどのようなデータが記憶されていたとしても、
画像メモリに記憶されたデータがプリンタ7にハード出力されることは明白である。よって、画像メモリ105には印刷に用いるデータが記憶されている。
本願発明の「記憶装置」は「ページ記述言語に従って印刷用の書類を表わす形式である符号化形式」のような「印刷用のデータファイル」を記憶するものである等の原告の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって、理由がない。
(3)相違点3について 引用例1にはプリンタが存在しており、このプリンタをキーボードと、マウスと、画像メモリと、システム制御部を用いて動作させることは明らかなことであるから、プリンタを持つ装置を印刷装置と呼ぶことに不自然さはない。
さらに、ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する印刷装置(いわゆるプリントサーバ、ファクシミリ)は、周知慣用のものであり、引用例1のものをネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する印刷装置とすることは当業者が容易に想到することである。
(4)相違点4について ア 既に述べたように、ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信することは、周知慣用のことである また、引用例1の5頁左欄26行〜30行には、「そこで複数の縮小画像を表示する画像情報に組立て、それを画像メモリ105に移し、CRTディスプレイ3で表示する縮小表示手段と、前記表示された縮小画像を指定するステップS32ルーチンからなる画像指定手段と、」と記載され、画像メモリ105を用いて画像を指定することも記載されており、さらに、1つの記憶装置を部分部分に分けて記憶領域を割り当てることは通常に行われていることであり、記憶装置の記憶容量の大きさも必要に応じて選択し得ることであり、引用例1の画像メモリに他にどのような動作を行わせるかは当業者が適宜選択することであるから、引用例1のものをネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信するものとした時に、印刷時に引用例1の制御部が、本願発明の制御ユニットと同様な動作をするようにすることは当業者が容易に考えられることである。
イ 原告は、本願発明における効果、つまり、いわゆるプリントサーバにおいて印刷ジョブを管理することができ、また、自分自身の印刷物を他の利用者の印刷物の山の中で探す必要がなくなるという効果を予測することはできないと主張するが、上記主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものではない。たしかに、本願発明は、いわゆるプリントサーバにおいて印刷ジョブを管理することを排除するものではないが、本件特許明細書の段落【0048】で「上述の如くの装置を参照して本発明を説明したが、本発明はかかる装置に限定されるものではない。多数の別の実施例を特許請求の範囲に記載された範囲内で実現することが可能であり、それらの実施例は保護範囲内に入るものと考えられる。」としているように、プリントサーバに限定されるものではないから、原告の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
一般的に、記憶装置に記憶された、複数のデータファイルから特定のデータファイルを指示して、指示したデータファイルを印刷することは、通常に行われていることであり、また、ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信し、必要なものを印刷出力する印刷装置は、周知慣用のもの(乙第1ないし第4号証)であるから、引用例1のものをネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信するものとした時に、印刷時に引用例1の制御部が本願発明の制御ユニットと同様な動作をすることは当業者が容易に想到することである。その効果も予測し得るものである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り)について (1)本願発明の「入力ユニット」に関する対比について 原告は、審決が、引用例1の「スキャナ2」は本願発明の「入力ユニット」に相当する、と認定した点につき、引用例1におけるスキャナはネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する入力ユニットとは機能が異なり、審決の上記認定は誤りであると主張する。
しかし、引用例1の「スキャナ2」は、画像情報等を読み取り、原稿を入力する機能を有するものであり、入力という点で本願発明の「入力ユニット」と共通し、
「入力ユニット」であるということができる。そして、審決は、「本願発明では、
ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する」点については、相違点1として認定しているところである。
したがって、審決が、引用例1の「スキャナ2」は本願発明の「入力ユニット」に相当する、とした点に誤りは認められない。
(2)本願発明の「記憶装置」に関する対比について 原告は、審決が、引用例1の「画像メモリ105」は、本願発明の「記憶装置」に相当する、と認定した点につき、引用例1の「画像メモリ105」に記憶される情報は印刷用のデータファイルではないので、審決の上記認定は誤りであると主張する。
しかし、引用例1の「画像メモリ」が記憶機能を有し、「記憶」という点で本願発明の「記憶装置」と共通することは明らかであるから、引用例1の「画像メモリ」は「記憶装置」であると認められる。
そして、特許請求の範囲(請求項1)には、「記憶装置」について、「印刷用のデータファイルが記憶される記憶装置」、「該記憶装置に記憶された該印刷用のデータファイル」との記載がされているところ、「本願発明では、印刷用のデータファイルが記憶される」点については、審決が相違点2として認定しているところである。
原告は、また、直ちに印刷可能なデータである画像データを記憶する引用例1の「画像メモリ105」は、直ちに印刷可能なデータを記憶していない本願発明の「記憶装置」に相当するものではないと主張するが、特許請求の範囲(請求項1)には、「記憶装置」について「印刷用のデータファイルが記憶される記憶装置」、
「該記憶装置に記憶された該印刷用のデータファイル」と記載されているのみであり、「印刷用のデータファイル」が「直ちに印刷可能なデータ」であるか否かに関しては何ら限定する記載は認められないから、原告の上記主張は、前提を欠くものであって、理由がない。
以上によれば、審決が、引用例1の画像メモリ105は本願発明の記憶装置に相当する、とした点に誤りは認められない。
(3)本願発明の「制御ユニット」に関する対比について 原告は、審決が、引用例1の「システム制御部101」は、本願発明の「制御ユニット」に相当する、と認定した点につき、引用例1の「システム制御部101」は、印刷ユニットに相当するプリンタ7に接続されておらず、また、記憶装置に記憶された印刷用のデータファイルの中の、指定された特定のデータファイルを印刷させる印刷コマンドを受けたときに、該印刷用のデータファイルに対応した画像データファイルを印刷するように制御するものではないので、誤りであると主張する。
引用例1(甲5)には、「【0012】図1において、主制御手段1には、・・・プリンタ7が接続されている。」、「【0013】主制御手段1は、各種制御を行なうマイクロコンピュータ等から構成されるシステム制御部101、・・・ハード出力を行なう際に画像メモリ105に記憶されたデータをプリンタ7に出力する単位のデータにして記憶するプリンタI/F回路112を具備している。」と記載されており、その図1には、システム制御部101が、プリンタI/F回路112を介してプリンタ7に接続されていることが示されている。
そうすると、引用例1の「システム制御部101」は、「制御」機能を有し、さらに、データをプリンタ7に出力しているのであるから、実質的にプリンタ7に接続されており、これらの点で、本願発明の「制御ユニット」と共通するということができる。
特許請求の範囲(請求項1)には、「制御ユニット」について、「該制御ユニットは、該操作手段を介して操作者から、該記憶装置に記憶された該印刷用のデータファイルの中で印刷用の特定のデータファイルを指定し、指定された該特定のデータファイルを印刷させる印刷コマンドを受けたときに限り、受信された何れかの該印刷用のデータファイルに対応した画像データファイルが印刷されるよう適合されている」と記載されているが、審決は、この点については、相違点4として認定しているところである。
以上によれば、審決が、引用例1の「システム制御部101」は本願発明の「制御ユニット」に相当する、とした点に誤りは認められない。
(4)一致点及び相違点の認定について 以上(1)ないし(3)に説示したところからすれば、審決のした一致点の認定及び相違点の認定に原告の主張するような誤りがないことは明らかである。
原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1)相違点1の判断について 原告は、相違点1について、審決が「ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信することは、ファクス及びメイル等により周知のことであるから、引用例1のものをネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信するようにすることは当業者が容易に推考することができることである。」(審決書4頁)と判断したことは誤りである、と主張する。
ア 審決は、「ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信することは、ファクス及びメイル等により周知」という事実を提示し、この事実を根拠として、「引用例1のものをネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信するようにすることは当業者が容易に推考することができることである。」と判断したものである。
原告は、審決の上記判断に対し、引用例1におけるスキャナはネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する入力ユニットとは機能が異なるから、引用例1における入力装置であるスキャナをネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する入力ユニットに置き換えることはできないと主張するが、引用例1における「スキャナ2」は、本願発明の「入力ユニット」に相当する入力装置と認められるものであるから(前示1(1))、これを他の周知の入力装置に置き換えることに、格別の困難があるとは認められない。
イ 原告は、引用例1に記載された発明において、入力装置であるスキャナとは別に、ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する入力ユニットを設けることは容易になし得ることではないと主張するが、スキャナとは別にこれと異なる他の周知の入力装置を設けることに格別の困難があるとは認められない。
原告は、また、引用例1の情報ファイル装置にファクス及びメイル等の通信手段を結びつける理由がなく、容易になし得ることではないと主張するが、引用例1におけるスキャナが入力装置であり、また、「ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信すること」がファクス及びメイル等により周知であることにかんがみると、引用例1の情報ファイル装置にこのような他の周知の外部供給源からの受信手段を結びつけることに格別の困難があるとは認められない。
(2)相違点2の判断について 原告は、相違点2について、審決が、「「引用例1においても、「画像メモリ105に記憶されたデータをプリンタ7に出力する単位のデータにして記憶するプリンタI/F回路112を具備している」と記載されており、画像メモリには印刷に用いるデータが記憶されている。」(審決書4頁)と判断した点につき、本願発明の「記憶装置」は、ビットマップの形式のような「印刷にも用いるデータ」ではなく、「ページ記述言語に従って印刷用の書類を表す形式である符号化形式」のような「印刷用のデータファイル」を記憶するものであり、審決の相違点2に関する判断は誤りであると主張する。
しかしながら、特許請求の範囲(請求項1)には「印刷用のデータファイルが記憶される」との記載があるが、この「印刷用のデータファイル」について、これをさらに原告の主張する内容のものに限定する記載は認められない。したがって、原告の上記主張は、本願発明の特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって、理由がない。
(3)相違点3の判断について 原告は、相違点3について、審決が、「別々の装置、手段またはユニットを目的に合わせて集め、その目的の名前で装置を呼ぶことは当業者が通常行っていることであるから、引用例1のものは、・・・装置として印刷装置と呼ぶことは当業者が適宜行うことができることである。また、本願発明は、操作ユニットと、入力ユニットと、印刷ユニットと、記憶ユニットと、・・・制御ユニットとを有する印刷装置であるが、各ユニットが独立に設けられているとも一体に設けられているとも特許請求の範囲には限定されておらず、これらの別々のユニットを目的に合わせて集め、これを印刷装置と言うことに格別意味があることではない。」(審決書5頁)と判断したことが誤りであると主張する。
ア 原告は、その根拠として、引用例1におけるキーボード、マウス、プリンタ、画像メモリ及びシステム制御部は、画像メモリとプリンタを除いて、印刷との関係が全く記載されておらず、印刷における有機的な関係も不明であり、これらを組み合わせた全体を印刷装置と称することには、無理があると主張する。
しかしながら、引用例1に記載された発明がプリンタ7を備えており、印刷が可能であることは明らかであるから、その機能に着目するとき、引用例1に示されたプリンタを備えた装置は、これを印刷装置と呼ぶことができるものであり、審決の上記判断に誤りがあるとは認められない。
イ 原告は、また、仮に印刷装置と称することができるとしても、その印刷装置は、本願発明が前提としているネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信する印刷装置ではないと主張するが、その主張に理由がないことは、既に説示したところから明らかである。
(4)相違点4の判断について 原告は、相違点4について、審決が、「データファイル中のデータを印刷するときに、記憶装置に記憶されたデータファイルの中で特定のデータファイルを指定し、指定された特定のデータファイルを印刷させる印刷コマンドを受けたときに限り、データファイルに対応した画像データファイルが印刷されるようすることは、
通常に行っていることであるから、引用例1のものをネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信するものとした時に、印刷時に引用例1の制御部が、本願発明の制御ユニットと同様な動作をするようにすることは当業者が容易に考えられることである。」(審決書5頁)と判断したことは、誤りであると主張する。
ア 原告は、上記主張の根拠として、引用例1において想定していない、ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信することを前提にして、「引用例1のものをネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信するものとした時に」と判断することは誤りであると主張する。
しかし、審決は、「引用例1では、スキャナからの入力のみでネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信することは記載されていない点」を相違点1として認定し、これに関して「ネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信することは、ファクス及びメイル等により周知」と認定しているところである。技術の具体化等に際して複数の周知の技術を適用することは通常考えられるところであり、審決がネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信するという周知の技術の適用を前提とした点に誤りがあるということはできない。
イ 原告は、仮に引用例1のものをネットワークを介して外部供給源から印刷用のデータファイルを受信するものとしたとしても、本願発明の記憶装置に相当する引用例1の画像メモリ105では、記憶装置(画像メモリ105)に記憶されたデータファイルの中から、特定のデータファイルを指定することはできないと主張する。
しかし、引用例1には、「そこで複数の縮小画像を表示する画像情報に組立て、
それを画像メモリ105に移し、CRTディスプレイ3で表示する縮小表示手段と、前記表示された縮小画像を指定する・・・画像指定手段」(甲第5号証5頁左欄26行〜30行)と記載され、画像メモリ105に記憶された縮小画像データの中から特定の縮小画像データを指定することは引用例1に示されているところであるから、原告の主張には根拠がない。
ウ 原告は、また、いわゆるプリントサーバにおいて印刷ジョブを管理することができ、また、自分自身の印刷物を他の利用者の印刷物の山の中で探す必要がなくなるという本願発明の効果を予測することはできないと主張する。
しかし、審決が認定するように、「データファイル中のデータを印刷するときに、記憶装置に記憶されたデータファイルの中で特定のデータファイルを指定し、
指定された特定のデータファイルを印刷させる印刷コマンドを受けたときに限り、
データファイルに対応した画像データファイルが印刷されるようにすることは、通常に行っていること」であり(この審決の認定について争いはない。)、原告主張の上記効果は、通常に行われる技術の奏する効果であって、格別のものではないというべきである。
(5)まとめ (1)ないし(4)のとおり、原告が審決における相違点の判断の誤りとして主張するところは、いずれも理由がない。
3 結論 以上のとおりであるから、 原告主張の審決取消事由1及び2は、いずれも理由がない。原告の請求は棄却されるべきである。
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実
裁判長裁判官 永井紀昭