関連審決 | 不服2000-13665 |
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関連ワード | 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 優先日 / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
441号
審決取消請求事件
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原告 ファミリー株式会社 同訴訟代理人弁理士 角田嘉宏 同 高石郷 同 西谷俊男 同 幅慶司 同 古川安航 同 内山泉 被告 特許庁長官太田 信一郎 同指定代理人 平上悦司 同 梅田幸秀 同 高木進 同 大橋良三 同 涌井幸一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/02/12 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が不服2000−13665号事件について平成14年7月8日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文同旨 |
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事案の概要
本件は,原告の特許出願した発明の名称を「椅子型マッサージ機」とする発明に関する特許庁の拒絶査定に対し,原告が,拒絶査定に対する審判を請求し,その手続中に手続補正を行ったところ,特許庁が,補正後の発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないとして,上記手続補正を却下する決定を行った上で,上記審判請求について,補正前の発明は,当業者であれば,日本国内において頒布された刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとして,審判の請求は成り立たない旨の審決を行ったことから,原告が,被告に対し,上記審決の取消しを求めた事案である。 1 争いのない事実 (1) 原告は,平成11年4月14日,発明の名称を「椅子型マッサージ機」とする発明について,特許法41条に基づく優先権主張を伴う特許出願を行い(優先日同10年11月2日,出願番号特願平10-312446号),その請求項1に係る発明は,同12年1月20日付け,同年5月2日付けの各手続補正書により,次のとおりとなった(以下「本願発明」という)。 座部(3)と背凭れ部(4)とを有し,背凭れ部(4)に背,肩,腰等をマッサージするマッサージ具(8)が設けられた椅子型マッサージ機であって,背凭れ部(4)のマッサージ具(8)は,マッサージ用モータ(10)とマッサージ用モータ(10)の回転動力によって揉み玉(9)をマッサージ動作させる伝動機構(11)とを備え,前記背凭れ部(4)のマッサージ具(8)の伝動機構(11)は,前方側に突出した左右一対の支持アーム(26)を有し,前記背凭れ部(4)のマッサージ具(8)の揉み玉(9)は,左右に対をなすように,左右一対の支持アーム(26)の端部にそれぞれ取り付けられ,前記伝動機構(11)は,マッサージ用モータ(10)の動力を左右一対の支持アーム(26)に伝達して,左右に対をなす揉み玉(9)を互いに接離するように動かして揉み動作をさせるように構成され,前記座部(3)は水平状態よりも前上がりに傾斜するように配置され,この前上がりに傾斜した座部(3)に尻や太もも等をマッサージするマッサージ具(45, 46)が設けられ,このマッサージ具(45, 46)は,空気圧によって膨張収縮動作するエアセル(47, 49)を備えかつ該エアセル(47, 49)に空気を給排することにより尻や太もも等を,下側から押圧するように構成され,前記背凭れ部(4)は,垂直状態よりも後傾斜するように配置されると共に,リクライニング装置(7)により座部(3)後端部側を支点としてリクライニング可能に構成されていることを特徴とする椅子型マッサージ機。 (2) 特許庁は,本願発明について拒絶査定を行い,拒絶査定謄本が平成12年8月2日,原告に送達されたことから,原告は,特許庁に対し,同年8月29日,拒絶査定に対する審判を請求し,かつ,同年9月26日付けの手続補正書を提出した(以下「本件手続補正」という)。 (3) 本願発明は,本件手続補正により,次のとおりとなる(以下「本件補正発明」という)。なお,下線部が上記補正により付加された部分である。 座部(3)と背凭れ部(4)とを有し,背凭れ部(4)に背,肩,腰等をマッサージするマッサージ具(8)が設けられた椅子型マッサージ機であって,背凭れ部(4)のマッサージ具(8)は,マッサージ用モータ(10)とマッサージ用モータ(10)の回転動力によって揉み玉(9)をマッサージ動作させる伝動機構(11)とを備え,前記背凭れ部(4)のマッサージ具(8)の伝動機構(11)は,前方側に突出した左右一対の支持アーム(26)を有し,前記背凭れ部(4)のマッサージ具(8)の揉み玉(9)は,左右に対をなすように,左右一対の支持アーム(26)の端部にそれぞれ取り付けられ,前記伝動機構(11)は,マッサージ用モータ(10)の動力を左右一対の支持アーム(26)に伝達して,左右に対をなす揉み玉(9)を互いに接離するように動かして揉み動作をさせるように構成され,前記背凭れ部(4)のマッサージ具(8)は,背凭れ部(4)を昇降するように構成され, 前記座部(3)は水平状態よりも前上がりに傾斜するように配置され,この前上がりに傾斜した座部(3)に尻や太もも等をマッサージするマッサージ具(45, 46)が設けられ,このマッサージ具(45,46)は,空気圧によって膨張収縮動作するエアセル(47, 49)を備えかつ該エアセル(47, 49)に空気を給排することにより尻や太もも等を,下側から押圧するように構成され,前記背凭れ部(4)は,垂直状態よりも後傾斜するように配置されると共に,リクライニング装置(7)により座部(3)後端部側を支点としてリクライニング可能に構成され,座部(3)の下方にフットレスト(5)が設けられ,フットレスト(5)に,左右の足を別々に挟持することができる溝形の足保持部(51, 51)が設けられ,フットレスト(5)に足をマッサージするマッサージ具(53, 58)が設けられ,前記フットレスト(5)のマッサージ具(53, 58)は,空気圧によって膨張収縮動作するエアセル(54, 59)を備えかつ該エアセル(54, 59)に空気を給排することにより前記足保持部(51, 51)に挟持した左右の足をマッサージするように構成され ていることを特徴とする椅子型マッサージ機。 (4) 特許庁は,平成14年7月8日,概ね,特開平9-122193号公報(以下「刊行物1」という)記載の発明(以下「引用発明1」という)において,背板に設けられた「気嚢3」は,本件補正発明の「背等をマッサージするマッサージ具」に相当するところ,本件補正発明と引用発明1とは,「背凭れ部のマッサージ具は,背凭れ部を昇降するように構成され」ている点等で一致するとした上で,本件補正発明と引用発明1との各相違点について,特開平6-245968号公報(以下「刊行物2」という)に記載された発明(以下「引用発明2」という)及び本願発明の特許出願前の周知技術を採用することにより構成することは,いずれも,当業者であれば容易になし得たものであり,また,本件補正発明によってもたらされる効果も,格別のものとはいえないから,本件補正発明は,特許法159条1項,53条1項,17条の2第5項,126条4項,29条2項に基づき,特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるとして,本件手続補正を却下する旨の決定(以下「本件決定」という)を行った上で,本願発明は,当業者であれば,引用発明1,2及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項に基づき,特許を受けることができないものであるとして,拒絶査定に対する審判請求も成り立たない旨の審決(以下「本件審決」という)を行い,本件決定謄本及び本件審決謄本は,いずれも,同月29日,原告に送達された。 2 争点 本件審決に関し,原告の主張する次の各取消事由の当否。 (1) 原告の主張 ア 本件補正発明と引用発明1との相違点の看過 引用発明1の背板に設けられた「気嚢3」は,本件補正発明の「背凭れ部(4)のマッサージ具(8)」に相当するものの,上記「気嚢3」は,摺擦機構の左右に対設され,かつ,上下方向に複数固設されているのに対し,上記マッサージ具(8)は,「背凭れ部(4)を昇降するように構成され」ているから,本件補正発明と引用発明1とは,「背凭れ部のマッサージ具は,背凭れ部を昇降するように構成され」ている点で一致するものとはいえず,したがって,この点を相違点とすべきであったにもかかわらず,特許庁は,誤って,これを看過し,その想到容易性の判断をしないまま,本件補正発明は,特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるとして,本件審決の前提となる本件決定を行った。 イ 本件補正発明及び本願発明の進歩性判断の誤り (ア) 引用発明1に引用発明2を適用することについては,適用阻害要因が存在し,(イ) 本件補正発明及び本願発明は,顕著な作用効果を有するものであり,かつ,(ウ) 本件補正発明及び本願発明は,顕著な商業的成功を収めたにもかかわらず,特許庁は,誤って,これらの各事情を看過し,本件補正発明及び本願発明について,当業者であれば,引用発明1,2及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとして,その進歩性を否定し,本件決定及び本件審決を行った。 (2) 被告の反論 ア 原告の主張ア(本件補正発明と引用発明1との相違点の看過)について 刊行物1の記載によれば,引用発明1の背板に設けられた「気嚢3」は,順次上下に膨張収縮させることにより,マッサージの作用部分を上下に昇降させることができるものであるから,本件補正発明と引用発明1とは,背凭れ部のマッサージの作用部分が,背凭れ部を昇降するように構成されている点で,機能的に一致するというべきであり,「背凭れ部のマッサージ具は,背凭れ部を昇降するように構成され」ている点を一致点とした本件決定の認定に誤りはない。 イ 原告の主張イ(本件補正発明及び本願発明の進歩性判断の誤り)について (ア) 引用発明1に引用発明2を適用することについては,適用阻害要因は存在せず,(イ) 本件補正発明及び本願発明は,格別の作用効果を有するものではなく,かつ,(ウ) 本件補正発明及び本願発明が仮に顕著な商業的成功を収めたとしても,そのことだけで進歩性が肯定されるわけではないから,本件補正発明及び本願発明の進歩性を否定した本件決定及び本件審決の判断に誤りはない。 |
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争点に対する判断
1 原告の主張ア(本件補正発明と引用発明1との相違点の看過)について (1) 前記第2,1(3)の事実及び証拠(甲5)によれば,本件補正発明の明細書には,次の各記載のあることが認められる。 【特許請求の範囲】 【請求項1】座部(3)と背凭れ部(4)とを有し,背凭れ部(4)に背,肩,腰等をマッサージするマッサージ具(8)が設けられた椅子型マッサージ機であって,・・・前記背凭れ部(4)のマッサージ具(8)は,背凭れ部(4)を昇降するように構成され,・・・特徴とする椅子型マッサージ機。 ・・・ 【発明の詳細な説明】 ・・・ 【0006】 【課題を解決するための手段】上記問題点を解決する本発明の技術手段は,座部3と背凭れ部4とを有する椅子型マッサージ機において,背凭れ部4に機械式のマッサージ具8が設けられ,・・・また,背凭れ部5に設けた機械式のマッサージ具8によって,強く叩いたり,早く揉み動作したりして肩,腰,背等を適度の強さで効果的なマッサージをすることができる。・・・ 【0007】本発明の他の技術手段は,前記機械式のマッサージ具8は,モータ10とモータ10の回転動力によって揉み玉12をマッサージ動作させる伝動機構11とを備える点にある。従って,モータ10の回転動力によって,揉み玉9で使用者の肩,腰,背等を激しく叩いたり,強く揉んだりして,肩,腰,背等を適度の強さで効果的なマッサージをすることが可能になる。・・・ 【0008】本発明の他の技術手段は,前記機械式のマッサージ具8は,背凭れ部4を昇降するように構成されている点にある。従って,機械式のマッサージ具8によって,使用者の肩,腰,背等を広範囲に亘って激しく叩いたり,強く揉んだりして,適度の強さで効果的なマッサージをすることが可能になる。・・・ 【0009】従って,背凭れ部4の機械式のマッサージ具8によって肩,腰,背等を効果的にマッサージでき・・・ ・・・ 【実施の形態】・・・ 【0017】背凭れ部4に機械式のマッサージ具8が内蔵されている。マッサージ具8は,図3にも示す如く複数の揉み玉(マッサージ用のローラ)9と,マッサージ用モータ10と,マッサージ用モータ10の回転動力を揉み玉9に伝達して該各揉み玉9に揉み動作や叩き動作をさせる伝動機構11と,支持枠14とを有し,マッサージ具8は,昇降手段13により背凭れ部4内を上下動可能に構成されている。・・・ ・・・ 【発明の効果】・・・しかも,背凭れ部5に機械式のマッサージ具8が設けられているので,肩,腰,背等を機械式のマッサージ具8によって適度の強さで効果的なマッサージをすることができる。・・・ (2) 他方,証拠(甲6)によれば,刊行物1には,次の各記載のあることが認められる。 【特許請求の範囲】 【請求項1】椅子型基体の背板中央を上下に移動可能な摺擦体を配設し,その摺擦機構部を挟んだ背板の左右と坐台に気嚢を配置し,該各気嚢が圧気の給排によって同時に,又は各別に膨縮するようにしたことを特徴とする複合マッサージ機。 ・・・ 【請求項3】背板における左右の気嚢および坐台の気嚢が,それぞれ独立した複数の気嚢から構成された請求項1又は2記載の複合マッサージ機。 【発明の詳細な説明】 ・・・ 【発明が解決しようとする手段】・・・ 【0005】即ち,椅子型基体の少なくとも背板中央に,一定間隔で対置され,上下に移動可能な摺擦体と,該摺擦機構部を挟んで左右に気嚢を配設し,該各気嚢が圧気の給排によって同時に,又は各別に膨縮し得るようにするという手段を用いたものである。 【0006】・・・上記左右の気嚢を上下に独立した複数の気嚢から構成し,各気嚢が同時に,または上下交互に膨縮可能にするという手段も用いたものである。 ・・・ 【発明の実施の形態】・・・ 【0008】図1において,1は坐台1a及び背板1bを備えた椅子型基体,2は背板1bの中央部を後述するような摺擦機構によって上下に移動可能なロール等からなる摺擦体,また3は,上記背板1bの上記摺擦機構の左右に対設された複数の気嚢である。 【0009】上記背板1bの気嚢3は,摺擦体2の軌道を挟んで左右の列に分設されるものであるが,最上段に配設された左右の気嚢3a・3aは,首筋を挟圧する位置に設けられる他,最上段のものを含めて左右各列は,上下複数個の独立した気嚢3a・3b・3c・・・・から構成されていて,それぞれにコンプレッサー(図示せず)に通ずる圧気ホース4を備え,コンプレッサーから分配器等を介して各気嚢に通じ,各列に圧気の給排を可能としたものである。 【0010】即ち各列の気嚢は,例えば最上段の左右の気嚢3a,3aに同時に給気して膨張させた後,内部圧気を排出して収縮可能とし,次いで,次段の気嚢3b,3bに圧気を給排して,この段の気嚢を同時に膨縮させるというように順次下段の気嚢へと移行させるものである。 ・・・ 【0012】この他,上記各気嚢に対する圧気の配分方法は,上述した実施形態のものに限らず,配気順序は種々な組み合わせが可能であり,使用者はリモコン操作によってそれを任意に選択できるようにしたものである。 ・・・ 【発明の効果】・・・ 【0019】一方,上記摺擦体を挟んで左右に気嚢を縦設したことにより,上下に独立して配設された各気嚢が,同列同時に行われる圧気の給排を受けて順次膨張・収縮を繰り返す間にその広い面による按捏効果を発揮し,快適に背筋を揉みほぐして,上述した摺擦体による軽擦又は按捏機能と相俟って,背中全面の筋肉疲労を回復させる上で格別の効果を奏するのである。 ・・・ 【図面の簡単な説明】 【図1】基台の表生地を除去した本発明の複合マッサージ機の斜視図 (3) 上記(1)(2)の各記載に照らすと,引用発明1において,背板に設けられた「気嚢3」は,圧気の給排を受けて順次膨張・収縮を繰り返すことで按捏効果を発揮し,快適に背筋を揉みほぐすものであるから,確かに,本件決定の指摘するとおり,本件補正発明の「背等をマッサージするマッサージ具(8)」に相当するということができる。 しかしながら,上記(2)の各記載に照らすと,引用発明1において,背板に設けられた「気嚢3」は,摺擦体の左右に対になって,複数段設けられ,各段の「気嚢3」は,それぞれ独立して,背板の特定の場所に固定して設置されるものであり,「気嚢3」自身は,上下に昇降するものではないから,引用発明1において,背板に設けられた「気嚢3」が,本件補正発明の「マッサージ具(8)」の如く「背凭れ部を昇降するように構成され」ているということはできない。 したがって,本件補正発明と引用発明1とは,「背凭れ部のマッサージ具は,背凭れ部を昇降するように構成され」ている点で一致するということはできず,本件決定の本件補正発明と引用発明1との対比においては,本件補正発明の背凭れ部のマッサージ具は背凭れ部を昇降するように構成されているのに対し,引用発明1の背凭れ部のマッサージ具はかかる構成を備えていない点が相違点とされるべきであったにもかかわらず,特許庁は,誤って,これを看過したものというべきである。 (4) この点に関し,被告は,第2,2(2)アのとおり反論するので,この反論について検討する。 ア 確かに,上記(2)認定の刊行物1の各記載によれば,引用発明1の背板に設けられた「気嚢3」への給排気の順序の設定次第によって,順次下段の「気嚢3」から上段の「気嚢3」へ,また,順次上段の「気嚢3」から下段の「気嚢3」へと給排気することができるから,引用発明1は,背凭れ部のマッサージの作用部分が背凭れ部を昇降する機能を有するものということができ,したがって,本件補正発明と引用発明1とは,背凭れ部のマッサージの作用部分が背凭れ部を昇降する機能を有する点で共通するところがないわけではない。 イ しかしながら,本件決定は,「引用発明1において,背板に設けられた『気嚢3』」が,本件補正発明の「背等をマッサージするマッサージ具」に相当するとの対比をした上で,本件補正発明と引用発明1とは,「背凭れ部のマッサージ具は,背凭れ部を昇降するように構成され」ている点で一致するとの文言を用いていることに,本件決定中には,本件補正発明と引用発明1について,背凭れ部のマッサージの作用部分が,背凭れ部を昇降するように構成されている点で機能的に一致するとの判断をしていることを窺わせるに足りる文言は存在しないことを併せ考慮すれば,本件決定が,本件補正発明と引用発明1について,背凭れ部のマッサージの作用部分が,背凭れ部を昇降するように構成されている点で機能的に一致するとの判断を示しているものではなく,背凭れ部のマッサージ具そのものが背凭れ部を昇降するように構成されている点で一致するとの判断を示していることは文言上明らかというべきであり,この点において,被告の反論は失当というべきである。 また,本件補正発明については,上記のとおり,背凭れ部の「マッサージ具(8)」そのものが昇降するため,背凭れ部のマッサージの作用部分が,「マッサージ具(8)」の昇降領域全体において,連続線的に昇降するものであるのに対し,引用発明1については,上記のとおり,マッサージ具である「気嚢3」自身が,それぞれの段毎に独立して,背板の特定の場所に固定して設置されるため,背凭れ部のマッサージの作用部分は,「気嚢3」の設置された背板の特定の場所に限定され,連続線的に昇降するものではなく,「気嚢3」の設置された背板の特定の場所から,隣接する上段又は下段の「気嚢3」の設置された背板の特定の場所へと飛躍するものである。したがって,上記のとおり,本件補正発明と引用発明1とは,背凭れ部のマッサージの作用部分が背凭れ部を昇降する機能を有する点で共通するところがないわけではないとしても,それぞれの機能においては,有意的な差異があるものといわざるをえないから,本件補正発明と引用発明1とは,背凭れ部のマッサージの作用部分が背凭れ部を昇降する機能の点においても,相違する点があるといわざるをえず,この点においても,被告の反論は失当というべきである。 (5) そして,上記(3)のとおり特許庁が看過した相違点に係る構成については,仮に,被告の主張するとおり,刊行物2にも記載されているようなごく一般的なものであるとしても,本件決定において,その想到容易性の判断をしている部分は一切見当たらないのであり,また,上記相違点に係る構成が刊行物2に記載されていることについては,本件決定において,全く摘示されていないのであるから,本件決定が,上記のような刊行物2の記載に基づき,上記相違点に係る構成についての想到容易性の判断を黙示的にしているものと善解することも困難といわざるをえない。 (6) 以上によれば,特許庁は,誤って,本件補正発明と引用発明1との相違点を看過したものであり,その結果,看過した相違点に係る構成について,想到容易性の判断を何らすることのないまま,本件補正発明は,特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるとして,本件決定を行ったものというべきであるから,本件決定は,結論に至るために必要な認定判断を欠くものとして,違法というべきであり,そうであれば,このような本件決定を前提として行われた本件審決についても,結論に至るために必要な認定判断を欠くものとして,違法というべきである。 2 結論 したがって,本件審決は,その余の点について判断するまでもなく,取消しを免れない。 よって,原告の本訴請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 北山元章 |
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裁判官 | 橋本英史 |
裁判官 | 絹川泰毅 |