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関連審決 異議2000-73918
関連ワード 進歩性(29条2項) /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  実質的同一 /  技術的手段 /  遡及 /  分割出願 /  実質的に同一 /  実質的同一性 /  設定登録 /  請求の範囲 /  取消決定 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 230号 特許取消決定取消請求事件
原告 大日本スクリーン製造株式会社
訴訟代理人弁理士 杉谷勉
被告 特許庁長官太田 信一郎
指定代理人 刈間宏信
同 簔輪安夫
同 粟津憲一
同 大橋良三
同 大野克人
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/02/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が異議2000-73918号事件について平成13年4月4日にした特許取消決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「基板処理装置」とする特許第3034484号の特許(平成2年5月18日に出願された平成2年特許願第137490号の分割出願として,平成9年5月27日に特許出願(以下「本件出願」という。)され,平成12年2月18日に特許権設定登録された。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許の請求項1,2について,特許異議の申立てがなされた。特許庁は,これを異議2000-73918号事件として審理し,その結果,平成13年4月4日に,「特許第3034484号の請求項1及び2に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年4月23日にその謄本を原告に送達した。
2 本件特許請求の範囲 「【請求項1】基板を多段に収納する複数個のカセットを載置する静止したカセット載置用の基台と, 前記カセット載置用の基台に沿って移動し,かつ基板を上下多段に収納しているカセットの収納高さを昇降して,カセットから基板を取り出すインデクサー搬送ユニットと, 複数個の処理ユニットへ基板を搬送するプロセス搬送ユニットと, 前記インデクサー搬送ユニットと前記プロセス搬送ユニットとの間であって,前記インデクサー搬送ユニットの移動域の外に設定された基板待機位置で基板を載置して,基板の位置合わせを行う基板位置合わせ機構とを備え, 前記インデクサー搬送ユニットは,カセットから取り出した基板を,前記基板待機位置にある基板位置合わせ機構に移載し,前記基板位置合わせ機構は,移載された基板の位置合わせを行い,前記プロセス搬送ユニットは,位置合わせされた基板を受け取って,前記複数個の処理ユニットへ搬送することを特徴とする基板処理装置」(以下「本件発明1」という。) 「【請求項2】基板を多段に収納する複数個のカセットを載置する静止したカセット載置用の基台と, 前記カセット載置用の基台に沿って移動し,かつ基板を上下多段に収納しているカセットの収納高さを昇降して,カセットから基板を取り出すインデクサー搬送ユニットと, 複数個の処理ユニットに沿って移動し,これらの処理ユニットへ基板を搬送するプロセス搬送ユニットと, 前記インデクサー搬送ユニットと前記プロセス搬送ユニットとの間であって,前記インデクサー搬送ユニットの移動域の外で,かつ前記プロセス搬送ユニットの処理ユニットに沿った移動域の外に設定された基板待機位置で基板を載置して,基板の位置合わせを行う基板位置合わせ機構とを備え, 前記インデクサー搬送ユニットは,カセットから取り出した基板を,前記基板待機位置にある基板位置合わせ機構に移載し,前記基板位置合わせ機構は,移載された基板の位置合わせを行い,前記プロセス搬送ユニットは,位置合わせされた基板を受け取って,前記複数個の処理ユニットへ搬送することを特徴とする基板処理装置」(以下「本件発明2」という。) 3 決定の理由の要点 別紙決定書の写し記載のとおりである。要するに,本件発明1,2(以下,両者を併せて「本件各発明」ということがある。)は,いずれも,先願である特願平2-126407号の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下,両者を併せて「先願明細書」という。本訴甲第3号証は,上記出願の公開公報である。)に記載された発明(以下「先願発明」という。)と同一であるから,特許法29条の2の規定に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
決定が上記結論を導くに当たり認定した本件各発明と先願発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
一致点 「基板を多段に収納する複数個のカセットを載置するカセット載置用の基台と,前記カセット載置用の基台に沿って移動し,カセットから基板を取り出すインデクサー搬送ユニットと,複数個の処理ユニットへ基板を搬送するプロセス搬送ユニットと,前記インデクサー搬送ユニットと前記プロセス搬送ユニットとの間であって,前記インデクサー搬送ユニットの移動域の外に設定された基板待機位置で基板を載置して,基板の位置合わせを行う基板位置合わせ機構とを備え,前記インデクサー搬送ユニットは,カセットから取り出した基板を,前記基板待機位置にある基板位置合わせ機構に移載し,前記基板位置合わせ機構は,移載された基板の位置合わせを行い,前記プロセス搬送ユニットは,位置合わせされた基板を受け取って,前記複数個の処理ユニットへ搬送する基板処理装置。」である点 相違点(一応の相違点) 本件各発明では,「「カセット載置用の基台」が静止しているものであって,「インデクサー搬送ユニット」が「カセットの収納高さを昇降」するのに対して,先願明細書に記載された発明(判決注・先願発明)では,「カセットステーション5」が「カセットエレベータ」により「カセット4」を上下方向に移動させるものであって,「吸着アーム11」及び「移動台12」が「カセット4」の収納高さを昇降するものでない点。」
原告主張の決定取消事由の要点
決定の理由中,6頁6行ないし26行まで,7頁8行ないし13行,7頁14行ないし29行は,争い,その余は認める。
決定は,本件各発明と先願発明との間の相違点の認定を誤り,その結果,本件各発明と先願発明とが実質的に同一であると誤って判断し(取消事由1),本件各発明と先願発明との相違点が周知技術を転換した程度の微差であるとして,これらの発明が実質的に同一である,と誤って判断した(取消事由2)。これらの誤りがそれぞれ決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,決定は違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点の認定の誤りによる実質的同一性の判断の誤り) (1) 決定の相違点の認定は,次の理由から,誤りである。
本件各発明において,「基台」の静止状態と,「インデクサー搬送ユニット」の水平移動及び昇降移動とは,複数個のカセットから基板を取り出すという目的を達成するために有機的に連係した一体不可分の関係にある構成というべきであるから,インデクサー搬送ユニットの水平移動と昇降移動とを切り離して,昇降移動の点のみを相違点として認定することは許されない。本件各発明と先願発明との間の相違点は,本件各発明が「基板を多段に収納する複数個のカセットを載置する静止したカセット載置用の基台と,前記カセット載置用の基台に沿って移動し,かつ基板を上下多段に収納しているカセットの収納高さを昇降して,カセットから基板を取り出すインデクサー搬送ユニット」(以下「構成甲」という。)を有するのに対し,先願発明がこの特徴的な構成を有しない点にある,と認定すべきである。
決定の行った相違点の認定は誤りである。
(2) 決定は,その行った相違点の認定を前提として,「カセットからの基板の取り出しやカセットへの基板の収納の際に,カセットを静止させる一方,基板の取り出しや収納を行うアームを,カセットの収納高さに沿って昇降させるように構成することは,上記周知例1及び2の・・・記載からみて,本件特許の遡及する出願日前周知の技術的手段である。」(決定書6頁13行〜17行)と認定した上,「上記一応相違する点は,カセットからの基板の取り出しやカセットへの基板の収納を行うための手段を具体化する上で,周知の技術的手段を転換したという程度の微差にすぎず,特許第3034484号の請求項1に係る発明と,特願平2-126407号の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された発明とは,実質的に同一である。」(決定書6頁22行〜26行)とした。
しかし,「カセットからの基板の取り出しやカセットへの基板の収納の際に,カセットを静止させる一方,基板の取り出しや収納を行うアームを,カセットの収納高さに沿って昇降させるように構成すること」(以下「構成乙」という。)が,仮に周知の技術であったとしても,前記「構成甲」が周知の技術ということになるわけではない。本件各発明は「構成甲」により,基板の取出しに際してカセットが移動しないので,カセットの振動に伴う塵埃の発生がなく,カセット内の基板を汚染することがない,という先願発明では得られない特有の効果を奏する。したがって,「構成甲」を相違点として正しく認定するならば,この相違点について,「カセットからの基板の取り出しやカセットへの基板の収納を行うための手段を具体化する上で,周知の技術的手段を転換したという程度の微差にすぎず」(決定書6頁22行〜24行)ということはできない。決定の上記判断は誤りである。
2 取消事由2(周知技術に基づく実質的同一性の判断の誤り) (1) 決定は,上記のとおり,決定の認定した相違点につき,「カセットからの基板の取り出しやカセットへの基板の収納を行うための手段を具体化する上で,周知の技術的手段を転換したという程度の微差にすぎず」(決定書6頁22行〜24行)とした。
しかしながら,決定が「構成乙」が周知技術であることの根拠として引用した特開昭63-133521号公報(甲第4号証。以下「周知例1」という。)及び特開昭62-222906号公報(甲第5号証。以下「周知例2」という。)にそれぞれ記載された発明と,先願発明や本件各発明とは,カセットに収納された基板を取り扱うという包括的技術分野においては共通しているものの,発明の各部の構成に著しい差異があるため,具体的技術分野においては相違している。周知例1,2は,前記「構成乙」が先願発明や本件各発明に係る具体的技術分野における周知技術であることの根拠とはならない。すなわち,次のとおりである。
周知例1及び周知例2に記載された各発明は,カセットからの基板の取出しと,取り出した基板の処理部への搬送とを,共通の搬送機構が行うもので,この搬送機構の周囲(基板を保持するアームの旋回軌道上)にカセットや処理部が配置された,いわゆる「クラスタータイプ」の基板処置装置に係るものである。この種の装置には,搬送機構に備えられたアームは昇降および旋回移動するが,搬送機構の全体としては移動しない,という特徴がある。
これに対し,先願発明や本件各発明に記載された基板処理装置は,上記のクラスタータイプの基板処理装置とは別のタイプの基板処理装置として開発されたものであり,多くの処理部やカセットをできるだけコンパクトに配置するとともに,処理効率を向上させるために,カセットから基板を取り出す搬送機構と,取り出した基板を処理部へ搬送する搬送機構とを個別に備えている。
先願発明や本件各発明と上記各周知例の技術とは,このように,それぞれの属する具体的技術分野が異なるのであるから,決定認定の相違点につき,決定のいうように,「カセットからの取り出しやカセットへの基板の収納を行うための手段を具体化する上で,周知の技術的手段を転換したという程度の微差にすぎず」ということはできず,したがって,この点で異なる本件各発明と先願発明とを,実質的に同一であるとすることもできないというべきである。
(2) 複数個のカセットから基板を取り出すという目的達成のための具体化手段として,次の四つの技術的手段が存在し得る。
第1の技術的手段は,複数個のカセットを水平移動させ,次に特定カセットを昇降させるものである。この第1の技術的手段を採用したものに,特開昭63-86448号公報(甲第6号証)に記載された「半導体ウエハの搬送装置」がある。
第2の技術的手段は,複数個のカセットを水平移動させ,次に搬送機構を昇降させるものである。この第2の技術的手段を採用したものに,特開平1-227451号公報(甲第7号証)に記載された処理装置がある。
第3の技術的手段は,搬送機構を水平移動させ,次に特定カセットを昇降させるものである。先願発明は,この第3の技術的手段を備えている。
第4の技術的手段は,搬送機構を水平移動させ,次に搬送機構を昇降させるものである。本件各発明は,この第4の技術的手段を備えている。
このように,複数個のカセットから基板を取り出すための具体化手段は,選択肢が多いのであるから,第3の技術的手段のみが開示された先願発明に,本件各発明が採用する第4の技術的手段が記載されているに等しいということはできない。しかも,第4の技術的手段は,カセットから基板を取り出す過程でカセットが全く振動しないため,振動に起因した塵埃発生のおそれがないものである点において,第1ないし第3の各技術的手段とは異質である。
決定が認定した一応相違する点(本件各発明では,「カセット載置用の基台」が静止し,「インデクサー搬送ユニット」が「カセット収納高さを昇降」するのに対し,先願発明では,「カセットステーション5」が「カセットエレベータ」により「カセット4」を上下方向に移動させるものであって,「吸着アーム11」及び「移動台12」が「カセット4」の収納高さを昇降するものではない点。)について,カセットからの基板の取出しやカセットへの基板の収納を行うための手段を具体化する上で,周知の技術的手段を転換したという程度の微差にすぎない,とした決定の判断は誤りであり,本件各発明と先願発明とは実質的に同一である,ということはできない。
被告の反論の骨子
決定の認定判断は,正当であり,決定を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(相違点の認定の誤りによる実質的同一性判断の誤り)について (1) いずれも,インデクサー搬送ユニットによりカセットから基板を取り出すに当たり必要となる移動である,二つの方向の移動,すなわち,カセット載置用の基台に沿った移動である水平移動と,カセットの収納高さに沿った移動である昇降移動とは,それぞれ独立した移動形態であって,相互に関連した移動ではないから,すなわち,水平移動に伴った結果として昇降移動が行われるわけでも,昇降移動に伴った結果として水平移動が行われるわけでもないから,水平移動に係る構成と昇降移動に係る構成とは,個別に認識することが可能である。
水平移動と昇降移動とを,相互に一体不可分のものとして相違点を認定すべきであるとの原告の主張は,失当である。
(2) 決定の相違点の認定及びこれに基づく実質的同一性の判断に誤りはない。
2 取消事由2(周知技術に基づく実質的同一性の判断の誤り)について (1) 周知例1,2に示された技術も,先願発明及び本件各発明も,共に,カセットに収納された基板を取り扱う技術に関するものであり,当該技術に携わる当業者が,カセットからの基板の取出しや,カセットへの基板の収納に関する技術を研究し,又は設計する際に,参考とされるものである。単に具体的な構成が異なることのみから技術分野が相違するとする原告の主張は,失当である。
(2) 原告は,複数個のカセットから基板を取り出すための技術的手段には,四つの技術的手段が考えられ,本件各発明の技術的手段は,他の三つの技術的手段と比較して異質であるから,本件各発明と先願発明とを,実質的に同一であるとすることはできない,と主張する。
しかしながら,先願発明において,インデクサー搬送ユニットを昇降させるように構成することは,カセットからの基板の取出しやカセットへの基板の収納を行うための手段を具体化する上で,周知の技術的手段(「複数のカセットを載置する静止したカセット載置用の基台に沿って移動するインデクサー搬送ユニットが,カセットから基板を取り出す際に,カセットの収納高さを昇降する」という構成全体が,本件出願前,既に周知であったことは,乙第4,第5号証によっても明らかである。)を転換したという程度の事項である。水平移動を行うインデクサー搬送ユニットを昇降させるように構成すれば,本件各発明と同様に,塵埃を生じさせないという効果を奏することが明らかである以上,本件各発明の技術的手段が,原告主張の他の三つの技術的手段と比較して異質であるかどうかに関わらず,本件各発明と,先願発明とは,実質的に同一であるというべきである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の認定の誤りによる実質的同一性判断の誤り)について (1) 原告は,本件各発明において,複数個のカセットを載置する基台は静止しており,インデクサー搬送ユニットの方が水平移動および昇降移動のいずれも行う,という構成は,連係した一体不可分な構成であり,この中からインデクサー搬送ユニットの昇降移動の点のみを切り離して,相違点として認定することは許されない,と主張する。
本件各発明において,@カセットを載置する基台が静止していること,Aインデクサー搬送ユニットが水平移動すること,Bインデクサー搬送ユニットが昇降移動すること,の各構成は,そのいずれもが,特許請求の範囲に記載された構成であるという意味においては,一体不可分の構成であるということができる。
しかしながら,上記の意味で一体不可分の構成であるということは,一致点及び相違点の認定に当たって,各構成を切り離して把握することは許されない,との結論に直ちに結び付くものではない。むしろ,ある発明と他の発明との一致点及び相違点の認定に当たっては,それらの発明の各構成を切り離して把握することが許されないとする特段の事情が認められない限り,適宜切り離された各構成ごとに把握して対比することは,同一性や進歩性についての判断を合理的にするためにも,当然に行われるべきことである。
本件において,上記特段の事情を認めるに足りる証拠はない。搬送機構の水平移動と昇降移動との間に,これを切り離して把握することが許されないとする理由はない(複数個のカセットから基板を取り出すという目的達成のための具体化手段であるカセット及び搬送機構の移動形態については,複数の組合わせがあり得ることは,原告自身の主張するところである。このような主張が原告によってなされること自体,上記のように切り離して把握することが少しも不自然なことでないことを物語るというべきである。)。
決定が,本件各発明においては,「カセット載置用の基台」が静止しているものであって,「インデクサー搬送ユニット」が昇降移動するのに対し,先願発明においては,前者に相当する「カセットステーション」が上下方向に移動するものであって,後者に相当する「吸着アーム」及び「移動台」が昇降するものではないことを,一応の相違点として認定したことに誤りはない。
原告の真にいわんとするところが,現実の装置においては,水平移動も昇降移動も必要であり,水平移動の要素を無視した昇降移動ということはあり得ないのであるから,昇降移動を水平移動から切り離して前者だけに目を向けることは許されない,ということであるとすれば,それ自体は正当な主張である。しかし,決定は,相違点だけを認定したわけではなく,一致点も認定し,その中に,水平移動するのはインデクサー搬送ユニットである点を挙げているのである。決定の行った相違点の認定が,このように,水平移動についての一致点の認定を前提にして行われたものである以上,これを,水平移動を離れて昇降移動だけに目を向けたものとすることはできない。原告主張の点が十分に考慮されているか否かは,相違点の認定に関する問題ではなく,相違点についての判断が適切になされているか,の検討において論ずべき問題である。
(2) 決定の一応の相違点の認定に誤りがあるとはいえないことは,(1)で説示したとおりである。決定の一応の相違点の認定に誤りがあることを前提とする原告の主張は,失当である。
(3) 以上のとおりであるから,取消事由1は,理由がない。
2 取消事由2(周知技術に基づく実質的同一性の判断の誤り)について (1) 原告は,周知例1,2にそれぞれ記載された発明は,先願発明や本件各発明と技術分野を異にするものであるから,周知例1,2に基づき決定が周知技術として認定した,「カセットからの基板の取り出しやカセットへの基板の収納の際に,カセットを静止させる一方,基板の取り出しや収納を行うアームを,カセットの収納高さに沿って昇降させるように構成すること」は,先願発明や本件各発明の技術分野における周知技術とはいえない,と主張する。
しかしながら,甲第2ないし第5号証によれば,周知例1,2に記載された発明と,先願発明及び本件各発明とは,いずれもカセットに収納された基板を取り扱うという技術に関する発明である点において共通するものであることが認められるから(この点は原告も認めるところである。),これらの発明が技術分野を同じくすることは明らかであり,決定が周知例1,2に記載された技術が先願発明及び本件各発明と同じ技術分野に属することを前提にして判断したこと自体には,何ら誤りはない。
もっとも,原告の上記主張は,上記の意味での技術分野を問題にするものではなく,審決が周知技術が示されているものの例として挙げた周知例1,2に記載されている技術は,先願発明や本件各発明におけるように,搬送ユニットが水平移動する場合のものではないのであるから,この点を無視して,これらに示されている搬送ユニットが昇降するという技術(搬送ユニットが水平移動しないものにおける技術)を,先願発明(搬送ユニットが水平移動するものである。)の一部に持ってくることを,当然のことであるとすることはできない,との趣旨である,と解することができる。
審決が挙げている周知例1,2に示されている技術が,搬送ユニットが水平移動する場合のものではない点において先願発明や本件各発明と異なることは,明らかである(甲第4,第5号証)。そうだとすると,決定が昇降移動を搬送ユニットに行わせるように構成することは周知技術であるとして,その例として周知例1,2記載の技術を挙げながら,上記の点について何ら触れるところがないまま,相違点につき,「カセットからの基板の取り出しやカセットへの基板の収納を行うための手段を具体化する上で,周知の技術的手段を転換したという程度の微差にすぎず,」(審決書6頁22行〜24行)としたことには,本件に適用するのに不適切であるかもしれない周知技術(搬送ユニットが水平移動しないものにおける周知技術)を認定しておきながら,何の理由付けもなく本件にこれを適用したか,本件に適用するにふさわしい周知技術(搬送ユニットが水平移動するものにおける周知技術)を認定したものの,それにふさわしくない周知例を挙げたか,のいずれかの誤りがあることになるというべきである。しかしながら,特開昭61-45804号(乙第4号証)及び特開平1-103849号(乙第5号証)には,いずれも,半導体ウエハ搬送装置において,カセット載置用の基台に沿って水平移動する搬送ユニットが,カセットから基台を取り出す際に昇降移動する技術が,従来例におけるものとしてなど,格別目新しいものではないことを示す形で記載されており,これらの記載によれば,水平移動も昇降移動も共に搬送ユニットに行わせる構成は,本件出願の日とみなされる日当時周知の技術であったと認められる。
この周知技術に照らすならば,搬送ユニットが昇降するという技術を,搬送ユニットが水平移動する場合である先願発明の一部に持ってくることは,当業者であれば,当然に適宜行うことである,というべきであり,「上記一応相違する点は,カセットからの基板の取り出しやカセットへの基板の収納を行うための手段を具体化する上で,周知の技術的手段を転換したという程度の微差にすぎず,特許第3034484号の請求項1に係る発明と,特願平2-126407号の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された発明とは,実質的に同一である。」(審決書6頁22行〜26行),「上記一応相違する点は,上記4-1で記載したとおり,カセットからの基板の取り出しやカセットへの基板の収納を行うための手段を具体化する上での微差にすぎず,特許第3034484号の請求項2に係る発明と,特願平2-126407号の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された発明とは,実質的に同一である。」(審決書7頁9行〜13行)との審決の判断は,結局のところ,誤りなきに帰するということができる。
原告の上記主張は,採用することができない。
(2) 原告は,数個のカセットから基板を取り出すという目的達成のための具体化手段として四つの技術的手段があり,どのような手段を採用するかについての選択肢が多いのであるから,先願発明に,本件各発明が採用する技術的手段が記載されているに等しいとはいえない,本件各発明と先願発明との相違点が,カセットからの基板の取出しやカセットへの基板の収納を行うための手段を具体化する上で,周知の技術的手段を転換したという程度の微差にすぎない,とした決定の判断は誤りである,と主張する。
しかしながら,技術的手段の選択肢が多いからといって,そのことから直ちに,その技術的手段相互の間の実質的同一性が否定されることにはならないことは,上記(1)に説示したところに照らし,明らかである。
原告は,本件各発明が採用する技術的手段は,振動に起因した塵埃発生のおそれがないものであって,他の技術的手段とは異質であるから,本件各発明と先願発明とは,実質的に同一であるということはできない,と主張する。
しかしながら,振動に起因する塵埃発生を防止するという効果は,先願発明の一部を上記周知技術に転換することにより当然に奏せられる効果にすぎない。
この程度の効果があることをもって,本件各発明と先願発明との実質的同一性が失われるということはできない。
(3) 原告の主張は,いずれも採用することができず,取消事由2も理由がない。
結論
以上のとおりであるから,原告主張の決定取消事由はいずれも理由がなく,その他,決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久