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関連審決 不服2004-4147
関連ワード 発明者 /  有用性 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  加工 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10383号 審決取消請求事件
原告 ガラスリソーシング株式会社
訴訟代理人弁理士 入交孝雄
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 岡田孝博,長谷川一郎,大橋康史,青木博文
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/02/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2004-4147号事件について平成17年1月5日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,原告が,名称を「廃ガラス破砕粒からなる透水性地盤改良用資材」とする発明につき特許出願をしたが拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,発明の進歩性の欠如(特許法29条2項),先願明細書記載の発明との同一(同法29条の2)を理由に,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
前記特許出願の願書に添付された明細書(甲5)の記載によれば,「本発明は,一般廃棄物,産業廃棄物として産出される瓶ガラス,板ガラス,あるいは陶磁器などのガラス質の廃棄物を原料として,新たな用途に再生する技術に関するものであり,具体的には土木建築用の地盤改良用資材,あるいは耕地,畑地の土壌の通水性を向上する透水性地盤改良用資材に関するものである。」(段落【0001】),「解決しようとする問題点は,ガラス瓶などのガラス質廃棄物をその形態や成分組成,色合いなどに応じた選別を必要とせず,これらのガラス質の特性を活用して有効に利用できる用途を創出し,そのため,これらのガラス質廃棄物を有効利用できる用途に適合した形態を確認し,また,その形態に加工する低コストで大量生産可能な製造方法を創出することにある。」(段落【0005】)とされている。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本願発明(甲5) 発明の名称:「廃ガラス破砕粒からなる透水性地盤改良用資材」 出願番号:特願2000-141184号 出願日:平成12年5月15日 (2) 本件手続(甲4,9) 拒絶査定日:平成16年1月28日 審判請求日:平成16年3月2日(不服2004-4147号) 審決日:平成17年1月5日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成17年1月27日2 本願発明の要旨(請求項1ないし5のうち請求項1のみを記載する。以下,請求項1の発明を「本願発明」という。)【請求項1】 瓶ガラス,板ガラス,あるいは陶磁器などのガラス質原料を破砕して細粒化したガラス粒からなる透水性地盤改良用資材。
3 審決の理由の要点 審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,@本願発明は,刊行物1(特開平8-246437号公報,本訴甲1)に記載の発明(以下「刊行物1発明」という。)及び刊行物2(特開平11-319791号公報,本訴甲2)に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,また,A先願(特願平10-320095号,特開2000-144748号公報,本訴甲3)の願書に最初に添付された明細書(以下「先願明細書」という。)に記載の発明と同一であるから,同法29条の2の規定により特許を受けることができない,というものである。
(1) 特許法29条2項違反についての審決の判断 「刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。
『空隙を有するように部分接着して,軟弱地盤の圧密強化や液状化防止に役立つ,棒状透水性ブロックからなる地盤排水材料を得るための無機発泡体であって,自動車窓ガラスやビール,酒,ジュース等の飲料水用ガラス瓶および調味料用ガラス瓶等の廃ガラスを利用して得た発泡ガラスビーズからなる,無機発泡体。』」 「本願発明と,刊行物1発明とを対比すると,・・・両者は,『瓶ガラスなどのガラス質原料を利用した,透水性地盤改良用資材。』の点で一致し,以下の点で相違している。
相違点:『資材』が,本願発明は,ガラス質原料を破砕して細粒化したガラス粒であるのに対し,刊行物1発明は,ガラス質原料を利用して得た発泡ガラスビーズからなる無機発泡体である点 上記相違点について検討する。
刊行物2には,・・・ガラス瓶等の廃棄ガラスから製造したガラスカレットを,道路舗装材,埋め戻し材,舗装ブロックの敷砂等の建設用資材として使用することが記載されており,刊行物1記載の無機発泡体を刊行物2記載のガラスカレットに替えて本願発明を当業者がなす点に格別困難性は認められず,本願発明が奏する作用効果も,当業者が予期し得る程度のものであって,格別のものとはいえない。」 (2) 特許法29条の2違反についての審決の判断 「先願明細書には以下の発明が記載されていると認められる。
『地盤に透水性層を形成するために利用される原料である,瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃材を粉砕したガラス質粉末。』」 「本願発明と,上記先願明細書記載の発明とを対比すると,先願明細書記載の発明の『ガラス廃材』,『粉砕』,『ガラス質粉末』,及び『原料』は,本願発明の『ガラス質原料』,『破砕』,『細粒化したガラス粒』,及び『資材』にそれぞれ相当するから,両者は,同一である。」 (3) 審決のむすび 「したがって,本願発明は,上記刊行物1,2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,あるいは,上記先願明細書記載の発明と同一であり,しかも,本願発明の発明者が,上記先願の発明者と同一であるとも,また,本願出願時に,その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないので,特許法29条2項,あるいは,同法29条の2の規定により特許を受けることができない」
原告の主張(審決取消事由)の要点
審決は,特許法29条2項についての対比及び判断を誤り(取消事由1),また,同法29条の2についての対比及び判断を誤ったものである(取消事由2)から,取り消されるべきである。
1 取消事由1(特許法29条2項についての対比及び判断の誤り) (1) 審決が,刊行物1発明の「軟弱地盤の圧密強化や液状化防止」は本願発明の「地盤改良」に相当すると認定したのは,誤りである。
本願発明における「地盤改良」は破砕したガラス粒が堆積して透水性が発揮されることによりもたらされるものであるのに対し,刊行物1発明の「軟弱地盤の圧密強化や液状化防止」は「空隙を有するように部分接着して,軟弱地盤の圧密強化や液状化防止に役立つ,棒状透水性ブロック」という構造物の機能によりもたらされるものである。審決は,このような両発明の構造上の相違や,透水性の由来を考慮することなく,単に「軟弱地盤の圧密強化や液状化防止」「地盤改良」という文言のみを対比したものであって,不当である。
(2) 審決が,刊行物1発明と本願発明は「瓶ガラスなどのガラス質原料を利用した,透水性地盤改良用資材」という点で一致し,本願発明の「資材」はガラス粒であるのに対して,刊行物1発明の「資材」は無機発泡体である点で相違すると認定したのは,誤りである。
本願発明は,ガラス破砕粒が堆積した状態で有する透水性を利用して,廃ガラス材について透水性地盤改良用資材という新たな用途を創出したものである。これに対して,刊行物1発明は,ガラス質原料による無機発泡体(ガラスビーズ)を「空隙を有するように部分接着」させて「棒状透水性ブロック」をなすことにより初めて透水性を取得するものであって,無機発泡体自体が堆積した状態で透水性を有するものではなく,「空隙を有するように部分接着」された構造を欠く限り,透水性を得ることはできない。したがって,両発明は,個々のガラス粒ないし無機発泡体の形態のみならず,透水性を有する「集合体」なるものの形態・構造において相違するのである。このような発明の本来の構成における相違を無視し,透水性を備えるという作用効果の共通性のみを挙げても,意味のないことであり,両発明の一致点及び相違点についての審決の認定は誤りである。
(3) 審決が,刊行物1発明と本願発明との相違点に関し,刊行物2の記載を引用して本願発明の進歩性を否定したのは,誤りである。
ア 審決は,刊行物2には「ガラス瓶等の廃棄ガラスから製造したガラスカレットを,道路舗装材,埋め戻し材,舗装ブロックの敷砂等の建設用資材として使用することが記載されて」いるとしている。しかし,刊行物2には,「このような状況から,ガラスカレットの用途開発へのさまざまなアプローチがなされているが,その中で道路舗装材,埋め戻し材,・・・舗装ブロックの敷砂等の建設用資材・・・として使用することができれば,比較的大量の再利用が可能なことから,ガラスカレットのこの分野での利用開発が目下急ピッチで試みられている。」(段落【0004】)と記載されているにすぎないのであって,具体的内容を伴った技術開示がされているとはいえない。すなわち,廃ガラス材を上記の用途に用いることの可能性を指摘し,あるいは単なる願望を記述したにとどまるのであり,技術的には今後の課題とされているのである。
イ また,刊行物1発明の無機発泡体を刊行物2記載のガラスカレットに替えるとすると,ガラスカレットを「空隙を有するように部分接着」してなす棒状透水性ブロックが得られるのであって,ガラス破砕粒からなる透水性地盤改良用資材である本願発明には至らない。
あるいはまた,「空隙を有するように部分接着」する構造を無視して,刊行物1発明の無機発泡体を刊行物2記載のガラスカレットに替えるとすれば,刊行物1発明における透水性の由来は失われてしまうから,透水性を確保することができず,やはり本願発明には至らない。
2 取消事由2(特許法29条の2についての対比及び判断の誤り) (1) 審決が,先願明細書に「地盤に透水性層を形成するために利用される原料である,瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃材を粉砕したガラス質粉末」が記載されていると認定したのは,誤りである。
先願明細書の【請求項3】には「ガラス質廃材粉末に発泡材を添加し,熱処理して砕石状になったガラス質発泡体」と記載され,また,段落【0015】には,「ガラス質発泡体による透水性層とローム質土による難透水性層を順次積層させることで,このガラス質発泡体による透水性層が排水性を促進する部分として安定した地盤が得られ」と記載されている。このように,先願明細書の記載において透水性層を形成するのはガラス質発泡体なのであって,ガラス質粉末の状態で透水性層を形成するものではない。したがって,審決が,先願明細書に記載の発明における「ガラス質粉末」を「地盤に透水性層を形成するために利用される原料」であるとしたのは,誤りである。
(2) 審決が,先願明細書に記載の発明と本願発明とを対比して,前者の「ガラス廃材」「粉砕」「ガラス質粉末」「原料」は,後者の「ガラス質原料」「破砕」「細粒化したガラス粒」「資材」にそれぞれ相当すると認定して,両発明は同一であると判断したのは,誤りである。
先願明細書に記載の発明における「原料」は「地盤に透水性層を形成するために利用される原料」であるところ,上記のとおり地盤に透水層を形成するのはガラス質発泡体であって,ガラス質粉末の透水性は不明である。他方,本願発明における「資材」は「破砕」して「細粒化したガラス粒」であって,その透水性を利用することに技術的意義があるのであるから,このような技術的意義の相違を無視し,単に各用語を羅列して対比するのは,技術的根拠を欠くものである。
従来における廃ガラス材の処理は,他の資材に混入して処分するなどの,いわば希釈材や無害物としての処理であったのに対し,本願発明は,ガラス破砕粒の性質を利用することによって新たな有用性を見い出したものである点に特徴がある。原告は,ガラス破砕粒の特性を確認し,ガラス破砕粒が天然砂以上に透水性に優れていることを突き止めたものである。
しかるに,審決は,上記のような本願発明の技術的意義を考慮せず,両発明に関する用語を単に羅列して対比し,両発明は同一であると判断したものであり,同判断は技術的根拠を欠くものである。
被告の反論の要点
審決には,特許法29条2項についての対比及び判断に誤りはなく,また,同法29条の2についての対比及び判断にも誤りはない。
1 取消事由1(特許法29条2項についての対比及び判断の誤り)に対して (1) 審決が,刊行物1発明の「軟弱地盤の圧密強化や液状化防止」は本願発明の「地盤改良」に相当すると認定したことに,誤りはない。
本願発明のガラス粒は,それ自体が単体として透水性を有するものではなく,複数のガラス粒の集合体,あるいは,ガラス粒を含む複数の粒状物の集合体が,透水性という作用を有するものであり,本願発明における「地盤改良」も,これらの集合体の透水性により達成されるものである。一方,刊行物1発明の「無機発泡体」も,それらの集合体,すなわち,無機発泡体を空隙を有するように部分接着して得られる棒状透水性ブロックが透水性を有するものであり,同発明における「軟弱地盤の圧密強化や液状化防止」は,「無機発泡体」の集合体により達成される作用である。したがって,刊行物1発明の「軟弱地盤の圧密強化や液状化防止」は,本願発明の「地盤改良」に相当する。 (2) 審決が,刊行物1発明と本願発明とは「瓶ガラスなどのガラス質原料を利用した,透水性地盤改良用資材」という点で一致し,本願発明の「資材」はガラス粒であるのに対して刊行物1発明の「資材」は無機発泡体である点で相違すると認定したことに,誤りはない。
審決は,本願発明の「ガラス粒」と刊行物1発明である「・・・棒状透水性ブロックからなる地盤排水材料を得るための無機発泡体であって,・・・発泡ガラスビーズからなる,無機発泡体」とを対比し,「無機発泡体」の集合体である棒状透水性ブロックが,「透水性地盤」を形成するためのものであると認定したものである。すなわち,本願発明の「ガラス粒」と刊行物1発明の「無機発泡体」とは,それらの集合体,あるいは,それを含む複数の粒状物の集合体が透水性を備える点で共通する。
そして,「資材」という用語は,「ある物を作るもととなる材料」(広辞苑第五版)を意味するものであるから,本願発明の「ガラス粒」も刊行物1発明の「無機発泡体」も「資材」であることは明らかである。
したがって,本願発明と刊行物1発明とを対比すれば,「瓶ガラスなどのガラス質原料を利用した,透水性地盤改良用資材」という点で一致し,本願発明の「資材」はガラス粒であるのに対して,刊行物1発明の「資材」は無機発泡体である点で相違する。
(3) 審決が,刊行物1発明と本願発明との相違点に関し,刊行物2の記載を引用して本願発明の進歩性を否定したことに,誤りはない。
刊行物2の記載(段落【0004】)によれば,少なくとも,ガラスカレットを「建設用資材あるいは砕石の一部代用として使用すること」が強く示唆されているから,この記載に接した当業者であれば,ガラスカレットを建設・土木の技術分野における資材として用いることは,ごく自然に想起し得ることである。
そして,刊行物1発明の「無機発泡体」と刊行物2記載の「ガラスカレット」とは,廃ガラスを利用する点,及び,建設・土木の技術分野に用いられる点で共通し,しかも,刊行物2には,ガラスカレットを,道路舗装材,埋戻し材,舗装ブロックの敷砂等の建設用資材として使用することが示唆されている。
したがって,刊行物1発明の「無機発泡体」を刊行物2記載の「ガラスカレット」に替えて,本願発明の構成に至ることは,当業者が容易になし得たものである。
2 取消事由2(特許法29条の2についての対比及び判断の誤り)に対して (1) 審決が,先願明細書に「地盤に透水性層を形成するために利用される原料である,瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃材を粉砕したガラス質粉末」が記載されていると認定したことに,誤りはない。
先願明細書に記載の発明における「ガラス質粉末」は,ガラス質発泡体を製造するための原料であり,製造されたガラス質発泡体は,地盤に透水性層を形成するために利用されるものである。したがって,先願明細書には,「地盤に透水性層を形成するために利用される原料である,・・・ガラス質粉末」が記載されている。
(2) 審決が,先願明細書に記載の発明と本願発明とを対比して,前者の「ガラス廃材」「粉砕」「ガラス質粉末」「原料」は,後者の「ガラス質原料」「破砕」「細粒化したガラス粒」「資材」にそれぞれ相当すると認定して,両発明は同一であると判断したことに,誤りはない。
先願明細書に記載の発明における「ガラス質粉末」は,瓶ガラスや板ガラス等の「ガラス廃材」を「粉砕」したものであって,ガラス質発泡体を製造するための原料であり,製造されたガラス質発泡体は,地盤に透水性層を形成されるために利用される。一方,本願発明の「細粒化したガラス粒」は,瓶ガラスや板ガラス等の「ガラス質原料」を「破砕」したものであり,集合体となることによって,透水性を備えるものである。したがって,先願明細書に記載の発明における「原料」と本願発明の「資材」とは,透水性の作用を奏するものに利用される点で一致し,先願明細書に記載の発明の「ガラス廃材」「粉砕」「ガラス質粉末」「原料」は,本願発明の「ガラス質原料」「破砕」「細粒化したガラス粒」「資材」にそれぞれ相当する。
当裁判所の判断
1 本件においては,まず,発明の同一性が問題となっている取消事由2(特許法29条の2についての対比及び判断の誤り)について判断する。
(1) 審決が,先願明細書に「地盤に透水性層を形成するために利用される原料である,瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃材を粉砕したガラス質粉末」が記載されていると認定した点について ア 先願明細書(甲3)には,次の内容が記載されている。
「【請求項3】瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃材を粉砕したガラス質廃材粉末に発泡材を添加し,熱処理して砕石状になったガラス質発泡体による透水性層と,ローム質土による難透水性層を順次積層させることを特徴としたガラス廃材利用の軽量混合土の施工法。」 「【0015】請求項3記載の本発明によれば,ガラス質発泡体はガラス質廃材を利用して製造するものであり,資源のリサイクル有効活用により安価な製造コストで得られ,再資源化に際しても環境汚染への心配がなく,環境保全に適するとともに,ガラス質発泡体による透水性層とローム質土による難透水性層を順次積層させることで,このガラス質発泡体による透水性層が排水性を促進する部分として安定した地盤が得られ,しかも,ガラス質発泡体による透水性層は軽量化が実現できるので,変形係数が小さく,地震等の周辺地盤の変形に破壊することなく,追随することができる。」 イ 以上によれば,先願明細書には,@「ガラス質発泡体」を透水性層として地盤に形成すること,A「ガラス質発泡体」は,「瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃材を粉砕したガラス質廃材粉末に発泡材を添加し,熱処理して砕石状」にして製造されることが記載されている。すなわち,「瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃材を粉砕したガラス質廃材粉末」は,透水性層となる「ガラス質発泡体」の原料であることが記載されているものである。
したがって,先願明細書には,「地盤に透水性層を形成するために利用される原料である,瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃材を粉砕したガラス質粉末」が記載されているものと認められる。
ウ 以上に対し,原告は,先願明細書の記載において透水性層を形成するのはガラス質発泡体であって,ガラス質粉末の状態で透水性層を形成するものではないから,審決の上記認定は誤りであると主張する。
しかし,ガラス質粉末の状態のままで利用する場合であれ,ガラス質粉末を加工してガラス質発泡体の状態にして利用する場合であれ,ガラス質粉末を原料として地盤に透水性層を形成するために利用するという点では異ならないのであるから,先願明細書の記載において透水性層を形成するのがガラス質発泡体であることをもって審決の前記認定を誤りであるとすることはできず,原告の前記主張は採用することができない。
(2) 審決が,先願明細書に記載の発明と本願発明とを対比して,前者の「ガラス廃材」「粉砕」「ガラス質粉末」「原料」は,後者の「ガラス質原料」「破砕」「細粒化したガラス粒」「資材」にそれぞれ相当すると認定して,両発明は同一であると判断した点について ア 本願発明の要旨は,「瓶ガラス,板ガラス,あるいは陶磁器などのガラス質原料を破砕して細粒化したガラス粒からなる透水性地盤改良用資材」である(前記第2・2参照)。
これと,先願明細書に記載の発明である「地盤に透水性層を形成するために利用される原料である,瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃材を粉砕したガラス質粉末」とを対比させると,先願明細書に記載の発明の「瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃材を粉砕したガラス質粉末」は,本願発明の「瓶ガラス,板ガラス,あるいは陶磁器などのガラス質原料を破砕して細粒化したガラス粒」に相当する。
そこで,先願明細書に記載の発明の「地盤に透水性層を形成するために利用される原料である,・・・ガラス質粉末」が本願発明の「・・・ガラス粒からなる透水性地盤改良用資材」に相当するか否かについて検討するに,「資材」とは,「ある物を作るもととなる材料」を意味する用語である(広辞苑第五版)から,先願明細書に記載の発明の「地盤に透水性層を形成するために利用される原料である,・・・ガラス質粉末」は,本願発明の「・・・ガラス粒からなる透水性地盤改良用資材」に相当するものと解するべきである。
イ 以上に対して,原告は,先願明細書に記載の発明においてガラス質粉末自体の透水性は不明であり,ガラス質粉末を加工して透水性層の形成に利用するのに対し,本願発明は,細粒化したガラス粒の透水性を利用することに技術的意義があるのであり,かかる技術的意義の相違を無視し,単に各用語を羅列して対比するのは,技術的根拠を欠くものであると主張する。
そこで検討するに,確かに,本願明細書(甲5)の発明の詳細な説明には,「ガラス瓶などの廃棄物は,・・・カレットとして各種の再生原料とするが,このカレットを更に微細に破砕して10数mm〜0.042以下の大きさにわたって破砕されたままの形態についてその形状を見ると,・・・比較的鈍角の形状となり,また,適宜分別することにより粒度の揃った細粒とすることが出来る。」(段落【0008】),「これらのガラス粒は砂と異なり,・・・砂の場合に目詰まりの原因となるシルトや粘土分を含有しておらず,透水性を要求される用途には好適である。また,これらのガラス粒は溶融して形成されたガラス質の組織のため,組織内に水分を含まず,表面の濡れ性も乏しいと云う特性があり,層状に堆積した状態で水分を加えても粒子表面が濡れるのみで粒子の間隙に水分を保持し難く,堆積層の下部から速やかに排水されると云う特性がある。」(段落【0009】)との記載がある。すなわち,本願明細書の発明の詳細な説明には,細粒化したガラス粒の透水性を利用することが記載されている。
しかし,特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最高裁昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁)。そして,本願明細書の特許請求の範囲の【請求項1】には「瓶ガラス,板ガラス,あるいは陶磁器などのガラス質原料を破砕して細粒化したガラス粒からなる透水性地盤改良用資材」と記載されているところ,同記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情は認めることができないから,本願発明の要旨を認定するに当たって発明の詳細な説明の記載を参酌することは許されないというべきである。
そこで,前記認定の本願発明の要旨を前提として,原告の前記主張について検討するに,本願発明においては,ガラス粒をどのように用いて透水性を持たせるかについての限定はないのであるから,本願発明における「ガラス粒からなる透水性地盤改良用資材」が,ガラス粒をそのままの状態で堆積させて地盤改良に用いるものであると限定して解することはできない。したがって,仮に,先願明細書に記載の発明における「ガラス質粉末」自体に透水性がなく,これを加工することによって透水層の形成に用いるものであるとしても,この点をもって,本願発明との相違点ということはできず,審決における本願発明と先願明細書に記載の発明との対比及び同一性の判断に誤りはなく,原告の前記主張は,採用することができない。
2 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由2(特許法29条の2についての対比及び判断の誤り)は理由がないから,その余について判断するまでもなく,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 清水知恵子