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関連ワード 反復(反復可能性) /  製造方法 /  新規性 /  公然実施(29条1項2号) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  独立特許要件 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 189号 審決取消請求事件
原告 旭工業繊維株式会社
訴訟代理人弁護士 会田恒司
同 弁理士 荒井潤
被告 大塚実業株式会社
訴訟代理人弁理士 本多一郎
同 本多敬子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/02/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2001−35398号事件について平成14年3月19日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,下記ア記載の特許(以下「本件特許」といい,その特許発明を「本件発明」という。)の特許権者,原告は,本件特許の無効審判(平成11年審判第35204号及び無効2001-35398号,以下それぞれ「前件無効審判」及び「本件無効審判」という。)の請求人であり,その経緯は下記イのとおりである。
ア 特許第2601402号「蒸米のこしき布」 特許出願 平成5年11月4日 設定登録 平成9年1月29日 イ(前件無効審判関係) 平成11年 5月 6日 無効審判請求(平成11年審判第35204号) 平成12年10月 2日 本件特許を無効とする旨の審決 同 年11月20日 被告が上記審決の取消しを求める取消訴訟を東京高等裁判所に提起(平成12年(行ケ)第442号) 平成13年 2月14日 被告による明細書の訂正審判請求(訂正2001-39026号,その訂正を以下「本件訂正」という。) 同 年 4月 3日 本件訂正を認める旨の審決(以下「訂正審決」という。) 同 年 5月17日 上記無効審決を取り消す旨の判決(そのころ同判決は確定し,事件が再び特許庁に係属) 同 年10月12日 前件無効審判の請求を不成立とする旨の審決 (本件無効審判関係) 平成13年 9月12日 無効審判請求(無効2001-35398号) 平成14年 3月19日 本件無効審判の請求を不成立とする旨の審決(以下「本件審決」という。) 同 年 3月29日 原告への本件審決謄本送達 2 特許請求の範囲の記載 (1) 本件訂正前の特許請求の範囲の記載 【請求項1】 蒸気の通りが良く,白米が布目より脱落しない適度の大きさの目開空間を有する合成繊維のモノフィラメント糸で構成されている蒸米のこしき布。
【請求項2】 モノフィラメント糸のたて密度とよこ密度との和が4〜60本/2.54Cm平方である請求項1記載の蒸米のこしき布。
【請求項3】 モノフィラメント糸の太さが300〜5000デニールである請求項1記載の蒸米のこしき布。
【請求項4】 吸水性がないモノフィラメント糸で構成されている請求項1記載の蒸米のこしき布。
【請求項5】 モノフィラメント糸織物で構成されている請求項1記載の蒸米のこしき布。
(2) 本件訂正後の特許請求の範囲の記載 【請求項1】 ポリプロピレン繊維のモノフィラメント糸織物で構成され,モノフィラメント糸のたて密度とよこ密度との和が4〜60本/2.54Cm平方で,蒸気の通りが良く,白米が布目より脱落しない適度の大きさの目開空間を有する蒸米のこしき布。
【請求項2】 モノフィラメント糸の太さが300〜5000デニールである請求項1記載の蒸米のこしき布。
(以下,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1記載の発明を「訂正発明1」,同請求項2記載の発明を「訂正発明2」といい,これらを併せて「訂正発明」と総称する。) 3 本件審決の理由 本件審決は,別添本件審決謄本写し記載のとおり,請求人(原告)の製造及び販売したES強力網による蒸米ネットは,本件出願前に公知とされ,かつ,公然実施されたもの(以下その発明を「引用発明」という。)であるとした上,訂正発明が,引用発明と同一であるとも,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえず,本件訂正に関して独立特許要件を認めた訂正審決の判断に誤りはないから,特許法123条1項8号の規定により本件特許を無効とすることはできないとした。
原告主張の審決取消事由
本件審決は,訂正発明と引用発明とは同一でないとの誤った判断をする(取消事由1)とともに,訂正発明が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえないとの誤った判断をした(取消事由2)結果,本件特許には特許法123条1項8号所定の無効事由は認められないとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(新規性の判断の誤り) (1) 本件審決は,「前者(注,訂正発明1)におけるポリプロピレン繊維のモノフィラメントは単成分であるのに対して,後者(注,引用発明)の蒸米ネットにおけるES強力網は芯側のポリプロピレンと鞘側のポリエチレンの2層複合タイプであって,鞘側のポリエチレンが熱処理で接着されているモノフィラメントである点で相違している」(本件審決謄本10頁4(1)(ア)の項の第2段落)と認定した上で,「単成分の繊維と2層の複合繊維は,繊維としての製造方法,その構成,例えば,繊維内の界面の有無,この有無に基づく各種の物性等が異なるから,上記の各繊維による蒸米のこしき布と蒸米ネットは同一であるということはできない」(同項の第3段落)と判断するところ,前段の相違点の認定自体は認めるが,後段の同一性の判断は誤りである。そして,訂正発明1の従属項に係る訂正発明2についても,本件審決には同様の誤りがある。
(2) 引用発明の蒸米ネットの構成要件は,@ チッソ株式会社製のES繊維,すなわち,芯部がポリプロピレンで鞘部がポリエチレンの繊維のモノフィラメント糸織物で構成され,A モノフィラメント糸のたて密度とよこ密度が2.54cm平方当り各18本,すなわち,たて密度とよこ密度との和が36本/2.54cm平方で,B 蒸気の通りが良く,白米が布目より脱落しない適度の大きさの目開空間を有する蒸米のこしき布というものであって,引用発明においても,外側にポリエチレンがコーティングされてはいるものの,ポリプロピレン繊維が用いられている。そして,訂正発明1は,「ポリプロピレン繊維のモノフィラメント糸」と規定しているが,「ポリプロピレンのみによる」繊維と規定するものでないから,第三者がポリプロピレンの繊維の周りに他の材質のものをコーティングしたモノフィラメント糸織物で前記A,Bの構成を具備する蒸米のこしき布を製造販売した場合,被告は,訂正発明1と同一であると主張することは明らかである。したがって,ポリプロピレン繊維に他の物質が付着したものが,訂正発明1の「ポリプロピレン繊維」に含まれないとする本件審決の判断は誤りであり,訂正発明1は引用発明と同一というべきである。
また,本件審決は,単成分の繊維と2層の複合繊維は,製造方法,界面の有無,物性等が異なる点を挙げるが,ES繊維の製造方法はポリプロピレンのみの繊維の製造方法よりも複雑とはなるものの,芯部のポリプロピレン部の製造方法はポリプロピレン繊維の製造方法と全く同じであり,また,界面の有無等により物性が異なるものではないから,上記の同一性を否定する根拠となるものではない。
2 取消事由2(進歩性の判断の誤り) (1) 訂正発明は,引用発明におけるES繊維のポリエチレン部分の材料をポリエチレンに類似するポリプロピレンに置き換えて,全体がポリプロピレンのモノフィラメント糸としたにすぎないものである。また,以下に述べるとおり,引用発明におけるES繊維に代えて,ポリプロピレンの単独樹脂から成るモノフィラメント糸織物を用いることは,当業者が容易に想到し得たことである。
ア 特開平1-321947号公報(甲73)には,ポリプロピレン等の単一の素材熱可塑性樹脂のモノフィラメント糸によるネット状織物の改良技術として,ES繊維を含む複合モノフィラメントによるネット状物が記載され,このネット状物が従来のポリプロピレン等の単一樹脂繊維から成るネット状物の利用法と同様の各種の分野,用途に利用できることが記載されている。
イ 平成3年5月NBC工業株式会社発行の産業資材用メッシュのカタログ(甲3,68)及び平成5年4月同社発行の同カタログ(甲2,67)には,ES繊維のモノフィラメント糸による網とポリプロピレン繊維のモノフィラメント糸による網がサンプル付で載せられている。ES繊維のモノフィラメント糸による蒸米ネットが公知であれば,それよりも古くから存在する単純な繊維であるポリプロピレンのモノフィラメント糸による網を蒸米ネットに使用することは,当業者が容易に想到することである。
ウ 蒸米ネットは,「こしき」からの「吊り上げ」の工程を考えた場合,現在のクレーン等で複数の荷物を包み込んで運ぶために用いる網と全く同一の目的及び機能を有するものであるところ,萩原工業株式会社発行の「メルタック」のパンフレット(甲77,その配布時期は昭和63年ころである〔甲78〜80参照〕。)には,ES繊維と同様,芯部をポリプロピレン,鞘部をポリエチレンとする繊維による網からなるコンテナーバック用基布が記載されており,また,実願昭56-193790号(実開昭58-98389)のマイクロフィルム(甲81)及び平成8年8月10日財団法人日本規格協会発行の「日本工業規格 フレキシブルコンテナ」(甲83)には,ポリプロピレン繊維の網をコンテナ用に用いることが記載されている。
エ 「蒸きょう」工程及び「こしき」からの「吊り上げ」工程からして,蒸米ネットは蒸気の通りが良く,蒸米が落ちない目開空間を有することが好適であるところ,ポリプロピレン繊維による網は,昭和61年以前から「あらゆるものの篩分け」の用途に使用され,「食品等のふるい」にも用いられてきたものである(昭和61年7月1日NBC工業株式会社発行の「NBC工業五十年史」〔甲76号〕145頁,216頁)。
オ ES繊維と同一の繊維によるモノフィラメント糸から成る「メルタック」の用途として防虫網の用途が知られており(前掲甲77),ポリプロピレン繊維による網も防虫網として使用されている(前掲甲76)ことからも,ES繊維による網とポリプロピレン繊維による網に代替性があったことが明らかである。
カ フィルター用途においても,ポリプロピレン繊維とES繊維とが用いられている(平成12年11月チッソフィルター株式会社発行の「FILTER MATERIALS 総合カタログ」〔甲85〕)。
キ 審判における証人伊藤昇の証言によれば,化学繊維についての知識を有する者にとって,蒸米のこしき布に使用する合成繊維としては,ポリプロピレンとES繊維ということにならざるを得ないことが明らかである。
(2) 本件訂正前の本件発明の明細書(甲63)の表(2頁)には,実施例1として「PPモノフィラメント糸」,すなわちポリプロピレンのモノフィラメント糸による織物を使用した例を挙げ,実施例2として「PP,PE複合モノフィラメント糸」,すなわちES繊維による織物を使用した例が挙げられているところ,「表1に示す通り従来の甑布では28kgのはらいめしがあったのに対して,本発明の実施例1,2の甑布を使用した場合のはらいめしは0である」(段落【0008】)と,実施例1と2とではその作用効果が同一であることが記載されている。
仮に,ポリプロピレンのモノフィラメント糸による織物を使用したことによって,ES繊維のモノフィラメント糸による織物を使用した場合と比べ何らかの相違があるとしても,それはポリプロピレン糸がそれ自体として有する固有の特性によるもので格別のものとはいえない。
(3) 本件審決は,「蒸米のこしき布は,相当な重量の蒸米に対して高熱時に多数回反復して使用されるという,極めて過酷な条件下で使用できることが要求されるものであるから・・・『蒸米のこしき布』の発明である以上は,これに十分に耐え得る耐久性等の使用性能を有することが必要なことは言うまでもないことである」(本件審決謄本11頁(2)の項の第2段落)と,耐久性等の使用性能を問題とし,「引張り強度等において劣っているポリプロピレン繊維を使用するモノフィラメント糸については・・・具体的に確認されない限り蒸米のこしき布として使用できるなどと,直ちにはいうことはできない」(同12頁第1段落)と判断する。しかしながら,本件明細書に,本件訂正の前後を通じて全く記載されていない耐久性等の使用性能を判断基準として進歩性を判断すること自体,重大な誤りである。そして,ES繊維の芯部及び鞘部を構成するポリプロピレン及びポリエチレンの耐久性等の使用性能は本件特許の出願前において公知であり,昭和52年6月25日ダイヤモンド社発行の「産業全書 合成繊維」(甲72)138頁の表からも明らかなように,本件審決が問題とする引張強度の点については,ポリエチレンが5.0〜9.0であるのに対しポリプロピレンは4.5〜7.5であり,大きな相違はない。
(4) また,本件審決は,「ES繊維は,鞘側の低融点成分が,その融点以上かつ芯部の高融点成分の融点以下で熱接着されている複合タイプのものであるのに対して,ポリプロピレンによるモノフィラメント糸は単成分である点で相違している」(本件審決謄本12頁第2段落)と,訂正発明1,2が「熱接着された」構成であるとの前提で進歩性の判断をしているが,熱接着されていることは訂正発明1,2の構成要件とはなっていない。
被告の反論
本件審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(新規性の判断の誤り)について 単成分の繊維と2層の複合繊維は,繊維としての製造方法,その構成,例えば,繊維内の界面の有無,界面の有無に基づく各種の物性等が異なることは技術的に明らかであり,また,栃木県繊維工業試験場作成の試験結果報告書(検乙1,2)にも示されているとおりである。すなわち,引用発明と同様,芯部がポリプロピレンで鞘部がポリエチレンの繊維の1000デニールのモノフィラメント糸織物で構成され,モノフィラメント糸のたて密度とよこ密度が2.54cm平方当り各20本である端布(検乙1の試料)と,これに対応するデニール数及び密度のポリプロピレン繊維のモノフィラメント糸織物の端布(検乙2の試料)とでは,引張強さ,伸び率及び引裂強さにおいて,顕著な違いがあることが示されており,ES繊維による織物の場合には,交差点での熱接着に起因する大幅な強度の低下が起こることが明らかである。
2 取消事由2(進歩性の判断の誤り)について (1) 訂正発明が,ポリエチレンから成る鞘の部分のみを取り出して芯と同じ材料であるポリプロピレンに置換し,ポリプロピレンのモノフィラメント糸としたにすぎないとする原告の主張は,化合物としての繊維本来の特性を無視したものであり,失当である。本件訂正前の本件発明の明細書(甲63)の2頁の表の結果では,確かに,蒸米が接着しないという作用効果の点では差異はないが,長期にわたる過酷な使用条件下での耐久性においても差異がないことまでを示しているものではなく,上記表の結果から,すべてにおいて作用効果が全く同じであるとするのは誤りである。なお,蒸米のこしき布は,相当な重量の蒸米に対して高熱時に多数回反復して使用されるという,極めて過酷な条件下で使用できることが要求されるものであるから,「蒸米のこしき布」の発明である以上は,これに十分に耐え得る耐久性等の使用性能を有することが必要なことはいうまでもない。
(2) ES繊維は,所期の目的を達成する上で延伸倍率が極めて重要な要因であるとともに,延伸倍率以外にも複合比等を所定の範囲内に定める必要があり,特殊な複合繊維であるといえる。したがって,たとえ同一のカタログにES繊維のモノフィラメント糸による網とポリプロピレンの単一繊維のモノフィラメント糸による網が掲載されていたとしても,このような特殊なES繊維の蒸米のネットを,安価で以前から知られているポリプロピレンのモノフィラメント糸で代用することができるとか,ポリプロピレン繊維の方が蒸米のこしき布として実際に使用したときには長期にわたる耐久性に優れているなどの点は,当業者が容易に想到し得るものではない。
当裁判所の判断
1 取消事由2(進歩性の判断の誤り)について (1) 引用発明の蒸米ネットにおけるES繊維が,芯側のポリプロピレンと鞘側のポリエチレンの2層複合タイプであることは当事者間に争いがない(前記第3の1(1)参照)ところ,原告は,引用発明の上記ES繊維に代えて,ポリプロピレンの単独樹脂から成るモノフィラメント糸織物を用いることは,当業者が容易に想到し得たことであると主張するので,以下,ポリプロピレン繊維のモノフィラメント糸織物とES繊維のモノフィラメント糸織物の代替性という観点(下記(2))及び作用効果の観点(下記(3))から,順次検討する。
(2) 代替性について ア 特公昭63-3969号公報(乙2)には,「複合モノフィラメントの製造法」の発明に関し,「本発明は熱接着性を有し,かつ熱接着後の単糸の強度及び単糸間の接着強力の優れた複合モノフィラメント(以下「複合MF」と略記する。)の製造法に関するものである。更に詳しくは,鞘側に低融点ポリオレフィン樹脂成分を,芯側に融点の高いポリプロピレン(以下「高融点PP」と略記する。)を使用して,鞘芯型の口金を用いて溶融押出し冷却固化後延伸してなる熱接着性を有し,かつ強度の優れたポリオレフィン樹脂複合MFの製造法である。一般にポリオレフィン樹脂を溶融押出し冷却後延伸してなる単一成分のモノフィラメント(以下「通常MF」と略記する。)は機械的強度,耐薬品性,耐腐食性,耐水性,成形性等が優れていることから,ロープ,漁網等の水産資材及び防虫網,防風網,ゴルフネット,遮光ネット,フィルター,土木シート等の陸上用ネット類に加工され巾広く使用されている。ところで陸上用ネット類は主に編織加工して使用されその機械的強度が強いことが実用上の特徴となっているが編織物の縦,横交絡部(以下「網目」と言う。)は結合されておらず比較的に自由な為,編,織加工時及びネット製品の施行時あるいは実用状態によっては網目がずれてネット製品の主たる目的である遮蔽あるいは保護効果を逸失したり外観の見映えが悪くなり美観を損う等の欠点がある」(1頁左下欄〜右下欄)と記載され,実施例として,種々のPP(ポリプロピレン)を芯成分とし,種々のHDPE(高密度ポリエチレン),LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)を鞘成分とする複合モノフィラメントを成織してネット状物とすることが記載されていることが認められる。
乙2の上記記載によれば,ポリオレフィン単一成分のモノフィラメントからなるネット類の種々の問題点を解決するために,芯部がポリプロピレンで鞘部がポリエチレンの複合モノフィラメントからなるネット状織物が開発されたことが認められる。
イ 次に,特開平1-321947号公報(甲73)には,「ネット状物」の発明に関し,「[従来の技術] 従来より,フラットヤーンやモノフィラメントヤーンよりなるネット状物が各分野において広く利用されている。例えば,農業関係においては,遮光ネット,寒冷紗,防風ネット,防虫網,野菜の包装用ネットその他にフラットヤーンやモノフィラメントヤーンよりなるネット状の織物が用いられている。また,建築土木関係においては,塗料飛散防止ネット,植生ネットその他において前記同様のフラットヤーンやモノフィラメントヤーンによるネット状織物が多用されている」(1頁右下欄〜2頁左上欄),「[解決しようとする課題] しかし,これらに使用されているフラットヤーンやモノフィラメントヤーンは,経糸緯糸ともに単一の素材からなるもので,経糸と緯糸の交叉部は接着されていない。・・・そこで,経糸および緯糸に用いられる熱可塑性樹脂のフラットヤーンあるいはモノフィラメントヤーンの交叉部を熱接着することとしたものであるが,この場合,単一樹脂からなるものでは,熱接着の際の軟化によって延伸の効果や強度が低下するおそれがあり,またヒートシール加工して使用した場合に,該ヒートシール部分の強度が劣り,耐久性に問題がある」(2頁左上欄〜右上欄),「本発明は・・・芯鞘の2層構造をなすモノフィラメントヤーンで,鞘層のポリマー融点もしくは軟化点が芯層のポリマー融点もしくは軟化点より10℃以上低いものから成る複合モノフィラメントヤーンを経緯両糸に用いて製織し,鞘層のポリマー軟化点以上の温度で経緯両糸の交叉部を熱接着することもできる」([課題を解決するための手段]欄,2頁左下欄),「本発明のネット状物は,上述した農業用,土木建築用,日用雑貨類,産業用資材等各種の分野において広く好適に利用できる」([発明の効果]欄,5頁右上欄)との記載が認められる。
甲73の上記記載によれば,単一樹脂のモノフィラメントから成るネット状織物の種々の問題点を解決するために,芯鞘の2層構造をなすモノフィラメントから成るネット状織物が開発されたこと,単一樹脂のモノフィラメントから成るネット状織物と芯鞘の2層構造をなすモノフィラメントから成るネット状織物とは,同様の分野に適用できるとされていることが認められる。
ウ 上記ア,イの認定判断を総合すると,ポリオレフィンの一種であるポリプロピレン単一成分のモノフィラメントから成るネット状織物は,芯部がポリプロピレンで鞘部がポリエチレンのモノフィラメントから成るネット状織物の改良品として開発され,これと同じ用途に適用可能であると認められるから,ES繊維のモノフィラメント糸織物から成る蒸米のこしき布が公知であれば,ポリプロピレン単一樹脂のモノフィラメント糸織物を,同じく「蒸米のこしき布」として使用することは,当業者が容易に想起することというべきである。本件審決は,こしき布には耐久性等の使用性能が要求され,引っ張り強度等において劣っているポリプロピレン繊維のモノフィラメント糸が,こしき布として使用できるとは直ちにはいえないとするが,平成10年1月日本化学繊維協会発行の「化学せんい」(甲37)の40頁の表によれば,引張強さ(g/d)は,ポリエチレンが5.0〜9.0であるのに対し,ポリプロピレンは4.5〜7.5であって,この程度の相違が,ポリプロピレンのモノフィラメント糸織物をこしき布へ適用することを妨げる要因になるとはいえない。
(3) 作用効果について 本件訂正前の本件発明の明細書(甲63)には,「【産業上の利用分野】この発明は,蒸米が接着しないで,且つ蒸気の通りを良くする日本酒製造の際に用いる甑布に関する」(段落【0001】),「【発明の効果】この発明の織物の蒸米のこしき布と,従来の編物の蒸米のこしき布とを用いて,白米800Kgづつの蒸米を放冷機に移送後の甑布を水に浸漬して,甑布に最後まで付着した蒸米,通称はらいめしを計量した結果を表1に示した」(段落【0006】)と記載され,同表には,実施例1としてPPモノフィラメント糸,実施例2としてPP,PE複合モノフィラメント糸をそれぞれ原糸とする織物についてはらいめしを計量した結果が示され,「表1に示す通り従来の甑布では28Kgのはらいめしがあったのに対して,本発明の実施例1,2の甑布を使用した場合のはらいめしは0である」(段落【0008】)と記載されている。
上記記載によれば,本件発明は,蒸米が接着しないで,かつ,蒸気の通りの良いこしき布の提供を目的とするものであるところ,PP(ポリプロピレン)のモノフィラメント糸織物から成るこしき布と,PP(ポリプロピレン),PE(ポリエチレン)複合モノフィラメント糸織物から成るこしき布とでは,こしき布に付着する蒸米,すなわちはらいめしの量はいずれも0であり,両者の作用効果は同等であるとの結果が示されているものと認められ,こしき布の素材として,ポリプロピレン単一成分のモノフィラメント糸織物を用いることにより,公知のES繊維のモノフィラメント糸織物を用いた場合に比べて有利な作用効果があるとは認められない。
被告は,検乙1,2の各試験結果報告書に基づいて,ES繊維の場合は熱接着に起因する強度の大幅な低下が認められる旨主張するが,そもそも,本件明細書には,本件訂正の前後を通じて,ポリプロピレンのモノフィラメント糸織物がES繊維のモノフィラメント糸織物に比べて,蒸米のこしき布としての耐久性に優れているということについて何ら記載されていないばかりか,特許請求の範囲の記載によれば,訂正発明における「ポリプロピレン繊維のモノフィラメント糸織物」が熱融着されていないものに限定されるものではないというべきであるから,検乙2の試験結果報告書は,訂正発明のうちのポリプロピレンのモノフィラメントが熱融着されていない態様についての試験結果を示すものにすぎず,検乙1,2の対比をもって,訂正発明が奏する作用効果であると認めることもできない。
(4) 以上によれば,引用発明の上記ES繊維に代えて,ポリプロピレンの単独樹脂からなるモノフィラメント糸織物を用いることが,当業者の容易に想到し得たことであるとする原告の主張は理由がある。そうすると,本件訂正に係る独立特許要件は充足されるものとして本件訂正を認めた訂正審決の判断は誤りというべきであるから,特許法123条1項8号所定の無効事由を認めなかった本件審決の判断も誤りに帰する。
2 以上のとおり,原告主張の取消事由2は理由があり,この誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,本件審決は取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利