関連ワード | 特許を受ける権利 / 反復(反復可能性) / 名義変更 / 善意 / 公信力 / 移転登録 / 変更 / |
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事件 |
平成
14年
(ワ)
3976号
特許権移転登録手続請求事件
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原告 大和工業株式会社 同訴訟代理人弁護士 宮岡孝之 同 外山奈央子 被告A 同訴訟代理人弁護士 景山米夫 |
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裁判所 | 名古屋地方裁判所 |
判決言渡日 | 2003/02/21 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告は原告に対し,別紙目録1ないし3記載の特許権について,真正な登録名義の回復を原因とする移転登録手続をせよ。 2 原告が,別紙目録6ないし28記載の発明について,特許を受ける権利を有することを確認する。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文同旨 |
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事案の概要
本件は,原告が,被告の得ている特許権の登録名義等は原告の無権代表者から譲り受けたものであると主張して,被告に対して,特許権に基づき真正な登録名義の回復を原因とする移転登録手続を求め,特許を受ける権利に基づき原告が同権利を有することの確認を求めた事案である。 1 当事者間に争いのない事実 (1) 当事者について ア 原告は,パチンコ遊技機の製造,開発を目的とする株式会社である。 イ Bは,平成9年5月8日に行われた商号変更前から原告の代表取締役であった。 ウ Bは,平成11年3月31日,原告の取締役会において,代表取締役を解任され,同年4月1日,取締役辞任を申し出たため,同日,Bの代表取締役解任登記がなされ,同年8月30日,取締役退任登記がなされた。 エ Bの息子である被告は,かつて原告の取締役であったことがあり,平成12年3月8日当時,パチンコ遊技機部品メーカーである株式会社バイザックの代表取締役であるとともに,後にBが代表取締役に就任したパチンコ遊技機の開発,製造,販売を目的とする株式会社アイエムジーの取締役でもあった。 (2) 特許権等の取得について 原告は,別紙目録記載の発明について,同目録記載のとおり,登録出願を行い,うち1ないし3については,同目録記載のとおり登録された。 (3) Cへの名義人変更について ア Bは,平成11年4月8日,原告の代表者として,別紙目録記載1ないし3の特許権をCに譲渡し,登録名義が同人に変更された。 イ Bは,同月6日ころ,原告の代表者として,別紙目録記載6ないし28記載の特許を受ける権利(以下,同目録記載1ないし3の権利と併せて「本件各権利」という。)をCに譲渡し,その名義人を同人に変更した。 (4) Cから原告への名義変更について ア Cは,平成12年3月8日,被告に対し,別紙目録記載1ないし3の特許権を譲渡し,登録名義が同人に変更された。 イ Cは,同日,被告に対し,別紙目録記載6ないし28の特許権を受ける権利を譲渡し,その名義人を同人に変更した。 2 争点及び当事者の主張の要旨 原告は,Bの代表権喪失を被告に主張できるか。 (被告) (1) C及び被告は,本件各権利を譲り受けた際,いずれも,Bが原告の代表権を喪失していたことを知らなかった。したがって,C若しくは被告は,民法112条,109条の第三者に当たり(適用ないし類推適用),原告は,Bの代表権喪失を主張できない。 (2) Cは,平成11年4月6日ころないし同月8日,本件各権利の譲渡を受けたものであるところ,この時点は,Bの代表取締役解任登記がなされて間がないから,登記簿を確認することが困難であって,商法12条の「正当ノ事由」に当たる。よって,原告は,Bの代表権喪失を主張できない。 (原告) 被告の主張は,いずれも否認ないし争う。 (1) 株式会社が代表取締役の退任及び代表権の喪失について登記をしたときは,その後,その者が会社の代表者として第三者とした取引について,民法112条等の適用はなく,専ら商法12条が適用されるというのが,確立した判例法理である。 そもそも,Cは,Bから本件各権利を譲り受けた当時,Bが原告の代表取締役を解任された事実を認識していた。 (2) 商法12条の「正当ノ事由」は,登記を知ろうとしても知り得ない客観的障害のみをいうところ,原告主張の事情は,これに当たらない。したがって,被告の主張は失当である。 |
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判断
1 商法は,商人に関する取引上重要な一定の事項を登記事項と定めた上,12条において,商人は,上記事項については登記をしない限りこれを善意の第三者に対抗することができないとするとともに,登記をしたときは善意の第三者にもこれを対抗することができ,第三者は同条所定の「正当ノ事由」のない限りこれを否定できない旨定めている。これは,一般に,商人の取引活動が大量的反復的であり,利害関係を有する者も不特定多数の者に及ぶことから,登記事項を定め,民法とは別に登記に上記のような特別の効力を付与したものと解される。そうすると,株式会社の代表取締役の解任がなされ,その旨の登記がなされた後は,専ら商法12条のみが適用され,「正当ノ事由」がない限り,その代表権喪失を善意の第三者にも対抗することができるのであって,民法112条及び109条を適用若しくは類推適用する余地はないというべきである(最高裁判所第二小法廷昭和49年3月22日判決・民集28巻2号368頁参照)。 そして,上記のような商業登記の制度趣旨によれば,「正当ノ事由」とは,交通,通信の途絶,登記簿の滅失・汚損のような登記簿を知ろうとしても知ることができない客観的障害事由ないしこれに準ずる事由をいうものと解するのが相当である。 この点につき,被告は,Cが本件各権利を譲り受けた当時,Bの代表取締役解任登記から間がないことを理由に「正当ノ事由」が存在する旨主張するところ,前記当事者間に争いのない事実によれば,上記解任登記から上記取引まで5ないし7日間の期間であって,その間に登記を調査確認することは十分に可能であり,また,上記取引の対象とされた本件各権利は,パチンコ遊戯機器の製造,開発を目的とする原告にとって極めて重要な資産であると考えられる上,原告を代表するBとCとの間で,同種の取引が継続的に行われてきたものでもないから,「正当ノ事由」の存在を認めることはできない。 また,被告については,善意であった旨主張するにとどまるが,特許登録原簿の登録に公信力を認めることはできないから,仮にCが本件各権利の権利者であると信じたとしても,上記のとおり,Cが正当な権利者たり得ない以上,被告も同様といわざるを得ない。 したがって,被告の主張はいずれも採用できない。 2 よって,原告の請求は,いずれも理由があるから認容することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
(別紙)目録1特許権登録番号第1732707号名称電動式パチンコ機における打球発射装置出願日昭和61年12月27日公告日平成4年3月18日登録日平成5年2月17日2特許権登録番号第1866521号名称パチンコ機の景品球排出装置出願日昭和62年8月6日公告日平成5年11月10日登録日平成6年8月26日3特許権登録番号第2864105号名称パチンコ機の打球発射装置出願日平成7年5月10日公告日平成8年11月19日登録日平成10年12月18日6特許を受ける権利公開番号特開平06-246054名称パチンコ球の払出装置出願日平成5年2月25日公開日平成6年9月6日7特許を受ける権利公開番号特開平07-144055名称パチンコ球の払出装置出願日平成5年11月22日公開日平成7年6月6日8特許を受ける権利公開番号特開平09-173559名称パチンコ機の表示装置出願日平成7年12月21日公開日平成9年7月8日9特許を受ける権利公開番号特開平09-225107名称パチンコ機の前面枠出願日平成8年2月26日公開日平成9年9月2日10特許を受ける権利公開番号特開平09-234277名称パチンコ球の払出装置出願日平成8年2月29日公開日平成9年9月9日11特許を受ける権利公開番号特開平10-244039名称パチンコ遊技機出願日平成9年3月5日公開日平成10年9月14日12特許を受ける権利公開番号特開平10-277210名称パチンコ機における発射球検出装置出願日平成9年4月10日公開日平成10年10月20日13特許を受ける権利公開番号特開平09-51981名称画像表示装置を備えたパチンコ機出願日平成7年8月11日公開日平成9年2月25日14特許を受ける権利公開番号特開平09-70479名称情報表示装置を備えたパチンコ機出願日平成7年9月6日公開日平成9年3月18日15特許を受ける権利公開番号特開平09-192304名称パチンコ機の電動風車及びその電動風車を用いた可変表示装置出願日平成8年1月22日公開日平成9年7月29日16特許を受ける権利公開番号特開平09-24138名称画像表示装置を備えたパチンコ機出願日平成7年7月11日公開日平成9年1月28日17特許を受ける権利公開番号特開平11-042333名称パチンコ遊技機の発射レール出願日平成9年7月24日公開日平成11年2月16日18特許を受ける権利公開番号特開平11-104295名称封入球式パチンコ遊技機出願日平成9年9月30日公開日平成11年4月20日19特許を受ける権利公開番号特開平11-137784名称パチンコ機出願日平成9年11月7日公開日平成11年5月25日20特許を受ける権利公開番号特開平11-197299名称パチンコ遊技機における音声再生装置出願日平成10年1月14日公開日平成11年7月27日21特許を受ける権利公開番号特開平11-206987名称パチンコ遊技機出願日平成10年1月21日公開日平成11年8月3日22特許を受ける権利公開番号特開平11-216245名称パチンコ遊技機の基板ケース構造出願日平成10年1月30日公開日平成11年8月10日23特許を受ける権利公開番号特開平11-221322名称パチンコ遊技機出願日平成10年2月6日公開日平成11年8月17日24特許を受ける権利公開番号特開平11-253642名称パチンコ遊技機の不正防止装置出願日平成10年3月11日公開日平成11年9月21日25特許を受ける権利公開番号特開平11-267346名称カード式パチンコ遊技機出願日平成10年3月20日公開日平成11年10月5日26特許を受ける権利公開番号特開平11-276672名称パチンコ遊技機の入賞装置出願日平成10年3月30日公開日平成11年10月12日27特許を受ける権利公開番号特開平11-299990名称パチンコ遊技機の入賞装置出願日平成10年4月17日公開日平成11年11月2日28特許を受ける権利公開番号特開平11-325019名称合成樹脂製ねじ出願日平成10年5月19日公開日平成11年11月26日 |
裁判長裁判官 | 加藤幸雄 |
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裁判官 | 舟橋恭子 |
裁判官 | 富岡貴美 |