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関連審決 異議2001-71351
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  技術常識 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 160号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社寺岡精工
訴訟代理人弁理士 志賀正武
同 高橋詔男
同 赤尾 謙一郎
同 鈴木三義
同 西和哉
被告 特許庁長官太田 信一郎
指定代理人 市野要助
同 吉國信雄
同 高木進
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/02/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2001-71351号事件について平成14年2月20日にした決定を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,下記特許異議の申立てに係る下記特許(以下「本件特許」という。)の特許権者であり,その手続の経緯は次のとおりである。
平成 7年 5月29日 特許出願 平成12年 9月 8日 設定登録(特許第3106905号「ラベルプリンタおよびラベル」) 平成13年4月26日及び5月7日 計3件の特許異議の申立て(異議2001-71351号) 同 年12月18日 原告による明細書の訂正請求 平成14年 2月20日 上記訂正を認め,本件特許を取り消す旨の決定 同 年 3月11日 原告への決定謄本送達 2 上記訂正後の発明(以下「本件発明」という。)の要旨 【請求項1】 少なくとも商品名と価格とバーコード化した商品番号とを商品に貼付するためのラベルに印字するラベルプリンタにおいて,1枚のラベル上における,少なくとも商品名欄,POP欄,バーコード欄,並びに通常価格が印字される値段欄の印字フォーマットを記憶する記憶手段と,前記記憶手段の記憶内容に基づき,前記1枚のラベル上に,前記商品名欄には商品名を,前記バーコード欄にはNONPLUバーコードを印字すると共に,前記POP欄には他の文字と比較して大きく太い文字で,該NONPLUバーコードが示す価格と等しい特売価格を印字する印字手段と,を具備し,前記POP欄は前記1枚のラベル内で前記商品名欄,バーコード欄,並びに値段欄に比較して最大の欄であると共に,目立つ色で着色されたラベルを発行することを特徴とするラベルプリンタ。
【請求項2】 少なくとも商品名欄,NONPLUバーコードを表示するバーコード欄,POP欄を有し,前記POP欄は前記1枚のラベル内で前記商品名欄,バーコード欄,並びに通常価格が印字される値段欄に比較して最大の欄であると共に,目立つ色で着色され,他の欄に表示された文字と比較して大きく太い文字で,前記NONPLUバーコードが示す価格と等しい特売価格を印字されていることを特徴とする商品に貼付するためのラベル。
(以下,請求項1記載の本件発明を「本件発明1」,請求項2記載の本件発明を「本件発明2」という。) 3 本件決定の理由 本件決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,上記訂正請求に係る訂正を認めた上,本件発明は,特開昭63-294340号公報(本訴甲3,以下「刊行物1」という。),実願昭62-126928号(実開昭64-32574号公報)のマイクロフィルム(本訴甲4,以下「刊行物2」という。)及び特開昭61-192568号公報(本訴甲5,以下「刊行物3」という。)記載の各発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は,特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条2項の規定により,取り消されるべきものとした。
原告主張の本件決定取消事由
本件決定は,本件発明1と刊行物1記載の発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),両者の相違点1,2についての判断をそれぞれ誤り(取消事由2,3),本件発明1の効果を看過し(取消事由4),本件発明2についての進歩性の判断を誤った(取消事由5)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 本件決定は,刊行物1記載の発明の「印字データを記憶する手段」及び「POPラベル,バーコードラベル」がそれぞれ本件発明1の「印字フォーマットを記憶する手段」及び「POP欄,バーコード欄」に相当する(決定謄本6頁(4)の項の第1段落)と認定し,また,刊行物1記載の発明のラベルプリンタは本件発明1のラベルプリンタと同様にPLUファイルを有する(同7頁第1段落)と認定するが,いずれも誤りである。
(2) まず,本件発明における「印字フォーマット」とは,特許公報(甲2)の図3に示されているとおり,複数の印字データを1枚のラベル上にどのように,どの位置に印字するかを決めるためのものであり,印字データ自体(商品番号,品名,単価,特売価格等)ではない。これに対し,刊行物1(甲3)記載の発明における「ラベルの種類と印字データを記憶する記憶手段」(特許請求の範囲の第3段落)は,第5,6図にあるように,印字データ自体の記憶手段にすぎず,両者は明らかに異なっている。
(3) 次に,刊行物1記載の発明の「POPラベル,バーコードラベル」とは,ラベル全体が絵柄(POP)ないしバーコードのものを意味するのに対し,本件発明1の「POP欄,バーコード欄」における「欄」とは,印字項目を印字するエリア(囲み)を意味するものである。刊行物1記載の発明の「POPラベル,バーコードラベル」においては,ラベル全体に絵柄やバーコードが印字されるため,印字エリアを指定する必要がなく,本件発明1における「POP欄,バーコード欄」という概念が存在しない。
(4) また,本件発明1は,特許請求の範囲の記載から明らかなように,PLUファイルに相当する構成がない以上,刊行物1記載の発明のラベルプリンタが本件発明1のラベルプリンタと同様にPLUファイルを有するとした本件決定の認定(決定謄本7頁第1段落)は誤りである。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り) (1) 本件決定は,本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点1として,「本件特許発明1(注,本件発明1。以下同じ。)の印字フォーマット記憶手段が『1枚のラベル上における,少なくとも商品名欄,POP欄,バーコード欄,並びに通常価格が印字される値段欄の印字フォーマットを記憶する記憶手段』であり,本件特許発明1の印字手段が『1枚のラベル上に,前記商品名欄には商品名を,前記バーコード欄にはNONPLUバーコードを印字すると共に,前記POP欄には他の文字と比較して大きく太い文字で,該NONPLUバーコードが示す価格と等しい特売価格を印字する印字手段』であるのに対して,刊行物1に記載された発明の印字フォーマット手段は,複数枚のラベルに品名やバーコードや値段等を印字する記憶手段を有してはいるが,『POP欄に相当する部分に他の文字と比較して大きく太い文字で,NONPLUバーコードが示す価格と等しい特売価格を印字する印字手段』を有していない点」(本件決定謄本7頁第3〜第4段落)を認定した上,当該相違点1について,@「刊行物2には,1枚のラベル上にPOP欄,バーコード欄が設けられ,当日の閉店間際の売れ残り商品に対し見切り価格にする価格変動に対応して1枚のラベル上のPOP欄の価格変更(特売価格に相当)とそれにあわせて変更するバーコード欄の数字を大きく太い文字でPOP欄に印刷することが開示され」ているとの認定(同頁最終段落),A「刊行物3には,1枚のラベル上に,商品名,POP欄,バーコード欄が設定され・・・そのラベルのPOP欄には他の文字と比較して大きく太い文字で価格を印字することが記載され」ているとの認定(同頁最終段落)に基づいて,「これら刊行物2及び3記載の事項と周知事項を刊行物1に適用して上記相違点1を想到することは当業者が容易になし得る事項である」(同8頁第1段落)と判断するが,誤りである。
(2) 刊行物2(甲4)記載の発明の「販促売価シール」は,「1枚のラベル上にPOP欄が設けられ」たものではなく,単に見切り価格を印字しているにすぎない。すなわち,商品名欄や値段欄は別の計量ラベルに印字されるのであるから,「販促売価シール」全体がPOPラベルとして機能するものであり,本件発明1の「POP欄」に相当する構成が開示されているとはいえない。また,刊行物2記載の発明では,「販促売価シール」は単独使用ができず,商品名等が印字されたラベルを別に貼付する必要があるから,1つの特売商品に対して,2枚のラベルを貼り付ける必要があり,本件発明の課題(本件明細書〔甲2の3〕段落【0003】参照)を解決することができない。なお,刊行物2の第三図のシールには,1枚のラベル上にバーコード欄等の複数の欄がレイアウトされているが,これは,あらかじめ決まった版をもとに同一内容を大量「印刷」するシールにすぎず,個々の商品ごとのデータに基づいて制御する「印字」とは技術が相違する。
(3) 刊行物3(甲5)記載の発明のラベルには,「広告の品」と印字された欄があるが,これがPOPであるとの記載はなく,しかも,商品名(「あさり」)と同じ行に印字されていることからすると,商品名が長くなる場合には印字されないと考えられるものであるから,「広告の品」と印字された欄がPOP欄であるとはいえない。また,上記「広告の品」との記載はメッセージであって価格(特売価格)ではないから,「POP欄には他の文字と比較して大きく太い文字で価格を印字することが記載されて」いるとした本件決定の認定(上記(1)A)が誤りであることは明らかである。
(4) 以上のとおり,刊行物2,3には,相違点1に係る構成が開示されているとはいえないが,仮に,これらの開示があったとしても,これを刊行物1記載の発明に適用することが容易に想到し得たものとはいえない。すなわち,POPラベル,計量ラベル(値段ラベル)及びバーコードラベルの印字内容を1枚のラベルに集約すると,もともと目立つようにされたPOPの内容が商品名や値段等の文字,あるいはバーコードの印字と近接して目立たなくなるという懸念があり,また,従来のPOPラベルも通常の計量ラベルと同様の大きさがあったため,これらを集めて1枚とするとラベルが大きくなりすぎて,特に裏が粘着性のラベルでは扱いが困難になるという懸念があった。このため,本件出願前には,1枚のラベル上にPOP欄と商品名欄等を集めて本件発明1の構成としたラベルは存在せず,ラベルプリンタ業界では,POPラベルと計量ラベルを集めて1枚とすることに大きな阻害要因があったのは疑いのない事実である。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り) (1) 本件決定は,本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点2として,「本件特許発明1は『POP欄は前記1枚のラベル内で前記商品名欄,バーコード欄,並びに値段欄に比較して最大の欄であると共に,目立つ色で着色されたラベルを発行する』という特徴を有しているのに対して,刊行物1記載の発明はそのような最大の欄とし且つ目立つようにする特徴を有していない点」(決定謄本7頁第5段落)を認定した上,当該相違点2について,「刊行物3には,印字情報の中で強調したい部分があるときには,その部分を線で囲んだり,特に太字で印刷することにより対処したり,目立つ色で着色することが記載されており,1枚のラベル内のPOP欄を強調したい場合にはこれを参照にして該POP欄をラベル内の他の商品名欄,バーコード欄,及び値段欄に比較して最大の欄であるようにするとともに,目立つ色で着色するようにして特に目立つようにする程度のことは格別の工夫を要することもなくなし得る事項である」(同8頁第2段落)と判断するが,誤りである。
(2) 刊行物3(甲5)には,印字情報を強調することは記載されているが,ラベルの限られたスペースの中で,どの欄もお客に見やすくするために大きくしたいという希望があるところ,POPラベルと同様の効果を得るための重要な構成であるPOP欄を,商品名欄,バーコード欄,及び値段欄に比較して最大の欄にすることについては記載がない。また,刊行物3には,単に印字情報を強調するために大きくしたり太くすることが記載されているにすぎず,これはPOP欄を最大の欄にすることの示唆とはならない。
4 取消事由4(効果の看過) 本件決定は,「本件特許発明1の効果も,刊行物1に記載された発明及び刊行物2,3に記載されたような事項から当業者であれば極めて自然に予測することができる程度のものであって,格別のものとはいえない」(決定謄本8頁第3段落)と判断するが,誤りである。すなわち,本件発明1は,上記の構成により,「ラベルを商品に貼り付ける作業が1回で済む」,「客にとって最も関心の高い特売価格が,最初に目にはい」る(本件明細書〔甲2の3〕段落【0030】),通常価格と「特売価格との対比により割引額がわかる」(同【0027】)という効果を奏するのであって,これらの効果は刊行物1〜3のいずれにも記載及び示唆がない。
5 取消事由5(本件発明2の進歩性の判断の誤り) 本件発明1の進歩性に関する上記1〜4の本件決定の誤りは,本件発明2についてもそのまま妥当するから,本件発明2が刊行物1〜3記載の各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする本件決定の判断も誤りというべきである。
被告の反論
本件決定の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について 刊行物1には,印字フォーマットを記憶する箇所につき記載はないが,本件の出願前において,電子秤を有するラベルプリンタであって,商品名,重量,単価,値段,加工日等の商品データと,バーコードラベル等のフォーマットデータとをCPUに接続されるRAMに格納して記憶する手段を有するものは当業者において知られており(例えば,特開平6-312733号公報〔乙2〕),これを参照すれば,刊行物1記載の発明のラベルの種類と印字データを記憶する手段は,印字フォーマットを記憶する手段を包含するデータ記憶手段にほかならない。
また,原告は,刊行物1記載の発明の「POPラベル,バーコードラベル」は本件発明1の「POP欄,バーコード欄」に相当するとした本件決定の認定が誤りであると主張するが,刊行物1記載のものでも,複数枚のラベル(第16図〜第18図)上にそれぞれ商品名,値段等の欄に相当する部分(第16図),POPの欄に相当する部分(第17図),および,バーコードの欄に相当する部分(第18図)を設けて印刷されていることは明らかであるから,1枚のラベルであるか複数枚のラベルであるかの違いがあるとしても,複数枚(第16図〜第18図)のラベルの商品名,値段,POP,バーコード等の各欄に相当する部分を有するラベルが全体として,開示されており,これらの複数枚のラベルの各欄(区画された部分)が,本件発明のラベルの商品名欄,値段欄,POP欄,バーコード欄等の各欄に実質的に相当するといい得る。
さらに,原告は,本件決定が「刊行物1に記載された発明のラベルプリンタは,本件特許発明1のラベルプリンタと同様にPLUファイルを有し」(決定謄本7頁1行目以下)ているとした認定の誤りを主張するところ,当該一致点の認定の一部の表現で筆がすべった部分があるとしても,相違点の認定及びこれに基づく容易想到性の判断に誤りはない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について 1枚のラベル上に複数の欄を設けて印字する構成は,刊行物2の第三図にも記載されている,当業者によく知られた技術事項にすぎない。
また,原告は,刊行物2記載のシールは決まった版をもとに大量「印刷」するシールにすぎず,個々の商品ごとのデータに基づいて制御する「印字」とは技術が相違すると主張するが,刊行物2には,従来技術として「ハンドラベラー又は,オートラベルプリンターによってその商品の売価がラベルによって表示される」(3頁10行目以下)と記載されているから,刊行物2のシールは,ハンドラベラー又はオートラベルプリンターによって「印字」されるものであり,しかも,数字やバーコードが任意に変更できるのであるから,その「印字」は,個々の商品ごとのデータに基づいて制御されるものであることは明らかである。
さらに,原告は,刊行物3記載のラベルの「広告の品」がPOP欄であるとはいえないと主張するが,POPとは「Point Of Purchase」(甲8の237頁最下段),すなわち「買いのポイント」のことであり,刊行物3の第1図において、赤色で強調印字された「広告の品」や「250」の値段部分は、目に付きやすいものであり、POPに相当する欄であることは明らかである。
原告は,1枚のラベル上にPOP欄と商品名欄等を集めて印字することの阻害要因についても主張するが,上記特定の項目を1枚のラベルに集めることについてのニーズがすでに業界に存在していたことは,本件出願前に公知の各種ラベルプリンタのカタログ(乙3,4の各1)からも明らかである。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について 刊行物3には,ラベルの記載の一部を着色で目立つようにすることが記載されており,POP欄を目立つ色で着色することは,格別の工夫を要することなくなし得るものにすぎない。
4 取消事由4(効果の看過)について 原告は,本件発明1は「ラベルを商品に貼り付ける作業が1回で済む」という効果を奏すると主張しているが,刊行物1〜3に示されるように,1枚のラベルに2個以上の情報を表示させて印字することは業界の常識であって,さらに多くの情報を同時に印字してラベルの貼付作業を少ない回数(1回)とすることは,これらのことから当業者が容易に予測できることであり,格別のことではない。また,「客にとって最も関心の高い特売価格が,最初に目にはいる」との効果は,刊行物3記載の発明でも同様得られるものであり,通常価格と「特売価格との対比により割引額がわかる」との効果は,通常価格と特売価格を別のラベルにしても奏されるものであるから,本件発明1にのみ特有の効果であるとはいえない。
5 取消事由5(本件発明2の進歩性の判断の誤り)について 本件発明1に関する前記各主張が理由のないものである以上,これを前提とする本件発明2に関する主張も理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,刊行物1記載の発明の「印字データを記憶する手段」が本件発明1の「印字フォーマットを記憶する手段」に相当するとした本件決定の認定の誤りを主張するが,刊行物1(甲3)には,「プロモーションラベルとは,第16図に示すような一般的計量ラベル(値付けラベル)の形状と印字フォーマットを持つ」(3頁右下欄最終段落)との記載があり,これに第16図の図示を総合すれば,刊行物1記載のラベルプリンタが,商品名欄と値段欄の印字フォーマットを有することは明らかである。そして,刊行物1は,当該印字フォーマットを「記憶する手段」について明示的に言及しているものではないが,刊行物1記載の発明が,第16図の図示のようなラベルを発行するCPU制御のラベルプリンタである以上,技術常識からして,原告の主張する「印字データ」のみを記憶する手段にととまらず,「印字フォーマット」を記憶する手段をも備えるものと認めることができるから,本件決定の上記認定に誤りがあるとはいえない。
(2) 原告は,刊行物1記載の発明の「POPラベル,バーコードラベル」が本件発明1の「POP欄,バーコード欄」に相当するとした本件決定の認定の誤りを主張するが,刊行物1記載の発明もPOPラベル(第17図参照)やバーコードラベル(第18図参照)の印刷を行うものである以上,その印字エリアである「POP欄,バーコード欄」を備えることは明らかである。原告の上記主張は,ラベル全体に絵柄やバーコードが印字される態様のものか(刊行物1記載の発明),1枚のラベル内に上記各欄を設けるものか(本件発明1)との相違を前提とするものと理解されるが,本件決定は,この点については,別途相違点1として認定,判断しているのであるから,上記の相違を理由として本件決定の一致点の認定の誤りをいうのは,本件決定の認定判断の趣旨を正解しないものといわざるを得ない。
(3) 原告は,本件発明1はPLUファイルに相当する構成がないから,「刊行物1記載の発明のラベルプリンタは本件発明1のラベルプリンタと同様にPLUファイルを有する」とした本件決定の認定は誤りである旨主張する。確かに,本件発明1は,特許請求の範囲の記載から明らかなように,PLUファイルに相当する構成を有するものではなく,むしろ,「NONPLUバーコード」を印字するものであるから,本件決定の上記認定は,それ自体を取り上げれば誤りというほかない。
しかし,本件決定は,本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点1として,本件発明1は「・・・NONPLUバーコードを印字すると共に・・・該NONPLUバーコードが示す価格と等しい特売価格を印字する印字手段」を有するのに対して,刊行物1記載の発明が当該構成を有していない点を正しく認定した(審決謄本7頁第3〜第4段落)上,当該相違点1に係る構成の容易想到性の判断をしているのであるから,上記の誤りは,本件決定の結論に影響を及ぼすものとはいえない。
したがって,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り) (1) 原告は,刊行物2記載の発明の「販促売価シール」は,「1枚のラベル上にPOP欄が設けられ」たものではなく,単に見切り価格を印字しているにすぎないから,本件発明1の「POP欄」に相当する構成が開示されているとはいえない旨主張する。しかし,刊行物2(甲4)には,「スーパーマーケット等で使用している従来の販促売価シール(特価シール・見切り品シール等)に,ポス・ターミナル(ポス・レジスター)用のバーコードをつけた(印刷した)バーコード付き販促売価シール」(実用新案登録請求の範囲)の発明が記載されており,「尚,図における580円の数字はどんな数字にも変更ができる。その際,バーコードも数字にあわせて変更する」(明細書3頁最終段落)との記載及び第三図の図示を総合すれば,1枚のラベル上にPOPに相当する特売価格(¥580)の表示とこれに合わせて変更されるバーコードとを印刷することが開示されていることは明らかである。
この点について,原告は,上記シールは,あらかじめ決まった版をもとに同一内容を大量「印刷」するものにすぎず,個々の商品ごとのデータに基づいて制御する「印字」とは技術が相違する旨主張するが,刊行物2には,上記シールがあらかじめ決まった版をもとに同一内容を大量印刷するものであるとの趣旨の記載はなく,かえって,従来技術として,「ハンドラベラー又は,オートラベルプリンターによってその商品の売価がラベルによって表示される」(明細書2頁2の項)と記載しており,この記載によれば,刊行物2記載の販促売価シールも,個々の商品ごとのデータに基づいて制御する印字を前提とするものと理解されるものである。
また,本件出願当時の技術常識という観点からも,例えば,平成3年3月ころ株式会社石田衡器製作所が作成及び頒布したと認められる(乙4の2〜5)ラベルプリンタのカタログ「IL-2145U」(乙4の1)には,刊行物2記載の上記シールと同様,1枚のラベル上に特売価格とバーコードとが印刷されたラベルが記載されているところ,「トマト(3コ入)(加工日)92.12. 1」との表示も併せて印刷されており,個々の商品ごとのデータに基づいて制御する印字技術によっていることは明らかであり,刊行物2にいう「印刷」もこれと同趣旨と見ることに妨げはない。
そうすると,「刊行物2には,1枚のラベル上にPOP欄,バーコード欄が設けられ,当日の閉店間際の売れ残り商品に対し見切り価格にする価格変動に対応して1枚のラベル上のPOP欄の価格変更(特売価格に相当)とそれにあわせて変更するバーコード欄の数字を大きく太い文字でPOP欄に印刷することが開示され」ているとした本件決定の認定に誤りはないというべきである。
(2) 原告は,刊行物3記載の発明のラベルの「広告の品」と印字された欄がPOP欄であるとはいえない旨主張するところ,確かに,刊行物3(甲5)の第1図のラベルには,「広告の品」との表示部分に特売価格の表示がないのに対し,本件発明1は,特許請求の範囲の記載にあるとおり,「POP欄」と「値段欄」を別個の欄として規定する一方,「POP欄には・・・NONPLUバーコードが示す価格と等しい価格を印字する印字手段」を備えるものとして規定しているのであるから,本件発明1の「POP欄」は,少なくとも,値段欄に表示の価格とは異なる上記価格(特売価格)を印字する欄として規定されているということができ,この限りで,刊行物3の第1図のラベルの「広告の品」との表示部分をもって,直ちに本件発明の「POP欄」に相当するものと即断することはできない。
しかしながら,本件出願当時の技術水準を参酌した場合,この種のラベルにおいて,買い得感をアピールするためのコマーシャルメッセージとともに値引き後の特売価格を併せて印字するという程度のことは,普通に行われていた周知慣用の技術にすぎないというべきである。すなわち,上記(1)で認定した刊行物2記載の販促売価シールもその一例であるし,昭和63年4月ころ原告が作成及び発行したと認められる(乙3の3)ラベルプリンタのカタログ「DP-110GS」(乙3の1)には,「寄せ鍋セット」のラベルとして,「お買得品 1パック 980円」との印字のあるラベルが記載されており,当該価格が値引き後の特売価格であることは,「1480値段(円)」との記載部分との対比から自明であるし,前掲乙4の1のカタログには,「今がお買得 ¥500」,「お買得! 480円」等の表示の印字された各種のラベルが記載されており,しかも,これらのラベルには,バーコードを併せて印刷してあるものも含まれている(乙4の1のカタログの2頁右下欄参照)。これらのラベル及びラベルプリンタから理解される本件出願当時の技術常識を勘案した場合,刊行物3記載の発明を刊行物1記載の発明に適用するに当たって,「広告の品」と印字された欄に特売価格を併せて表示するようにする程度のことは,当業者の当然に考慮する事項にすぎないというべきであり,この点についての本件決定の判断に誤りがあるとはいえない。
(3) 原告は,刊行物2,3に,相違点1に係る構成が開示されているとしても,POPラベル,計量ラベル(値段ラベル)及びバーコードラベルの印字内容を1枚のラベルに集約すると,POPの内容が目立たなくなり,あるいは,ラベルが大きくなりすぎて扱いが困難になるという懸念があるから,これらを集めて1枚とすることには阻害要因がある旨主張する。しかし,前掲乙3の1のカタログには,「調理方法や召し上り方等をお知らせする商品メッセージ,特売等をお知らせするコマーシャルメッセージを自在にインサート可能」としたラベルプリンタが記載されているとともに,その印字されたラベルとして,POPラベルと計量ラベルとを1枚のラベルに集約したものが記載されていること,前掲乙4の1には,バーコードラベルとPOPラベルとを1枚のラベルに集約したものが記載されていることが認められ,このようなラベル及びラベルプリンタが当業者に広く知られていたことを考慮すれば,刊行物2,3記載の各発明を刊行物1記載の発明に適用して,上記各ラベルを1枚のラベルに集約することに,格別の阻害要因があったということはできない。
したがって,原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について 原告は,刊行物3(甲5)には,印字情報を強調することは記載されているが,POP欄を,商品名欄,バーコード欄及び値段欄に比較して最大の欄にすることについては記載がない旨主張するが,刊行物3(甲5)には,「本実施例では,『広告の品』を特定情報17として赤色にて異色発色させるようにした」(4頁右下欄第2段落),「本実施例によれば,特定情報17の印字がラベル1において極めて目立つように強調された状態で印字されることになり,強調メッセージの表現を的確に行なうことができる」(同欄第1段落)との記載からも明らかなように,POP欄を強調することが記載されているのであるから,この記載に接した当業者において,POP欄を強調する手段として,これを他の欄に比較して最大の欄とすることに格別の困難性があるとはいえない。
したがって,原告の取消事由3の主張は理由がない。
4 取消事由4(効果の看過)について 原告は,本件発明1は,「ラベルを商品に貼り付ける作業が1回で済む」,「客にとって最も関心の高い特売価格が,最初に目にはいる」,通常価格と「特売価格との対比により割引額がわかる」という効果を奏する旨主張するが,これらの効果は,刊行物1〜3や前掲乙3,4の各1のパンフレットに開示されている周知の事項から当業者の予測し得る程度のものというべきであり,その主張は理由がない。
5 取消事由5(本件発明2の進歩性の判断の誤り)について 原告は,上記取消事由1〜4を前提として,本件発明2の進歩性の判断の誤りを主張するが,上記取消事由がいずれも理由がない以上,この点の主張も理由がないことに帰する。
6 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利