• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成15ワ3552不当利得返還請求事件 判例 特許
平成17ワ1104特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成16ワ26092特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成16ワ24626特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ10511特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 使用方法 /  技術的範囲 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  共有 /  模倣 /  クレーム /  抵触 /  存続期間 /  参酌 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  のみ用いる /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  販売数量(販売数) /  単位数量 /  乗じた額 /  販売能力 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 11年 (ワ) 19329号 特許権等に基づく侵害差止等請求事件
原告 栄豊物産株式会社
訴訟代理人弁護士 小林政明
被告 株式会社スノウチ
訴訟代理人弁護士 武田正彦
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/02/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,別紙物件目録記載のイ号ないしヌ号製品を,製造・販売してはならない。
2 被告は,その所有に係る前項記載の製品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,314万6931円及びこれに対する平成11年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。
6 この判決3項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 主文1,2項同旨 2 被告は,原告に対し,1234万8907円及びこれに対する平成11年9月11日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,被告の負担とする。
4 3項につき仮執行宣言
事案の概要
本件は,後記の実用新案権及び2件の特許権を有する原告が,被告が製造・販売している別紙物件目録記載の各製品(以下,それぞれを「イ号製品」などといい,これらを併せて「被告製品」と総称する。)のうちイ号ないしハ号製品が上記実用新案権の,ニ号ないしチ号製品が後記特許権1の,リ号及びヌ号製品が後記特許権2の特許発明技術的範囲に属し,被告製品の製造・販売が原告の実用新案権及び特許権を侵害するものであるとして,被告に対し,その製造・販売の差止め等及び損害賠償を求めている事案である。
1 争いのない事実 (1) 原告は,次の実用新案権(以下,「本件実用新案権」という。本判決末尾添付の本件実用新案権に係る実用新案登録公報〔甲1の2〕参照。なお,上記実用新案登録公報を「本件実用新案公報」という。)を有している。
登録番号 第2564570号 発明の名称 溶接用エンドタブ 出願年月日 平成3年8月2日 登録年月日 平成9年11月28日 (2) 上記(1)の実用新案権に係る,願書に添付した明細書(以下「本件実用新案明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである(以下,この考案を「本件考案」という。)。
「少なくとも一方の母材に開先加工面が形成されていない母材同士を板幅方向の端面を揃えて突合わせた継手部を溶接する際に用いる耐火物製エンドタブにおいて,開先断面にほぼ対応する溶接使用面とその両面に非使用面を備えており,かつ,開先加工面を有しない母材側の非使用面が,開先底部レベルを越えて延長した抜け落ち防止用脚部を備えた形状であることを特徴とする裏当金に載せて使用する溶接用エンドタブ。」 (3) 上記考案の構成要件を分説すれば,次のとおりである(以下,それぞれを「考案構成要件A」のようにいう。)。
A 少なくとも一方の母材に開先加工面が形成されていない母材同士を板幅方向の端面を揃えて突合わせた継手部を溶接する際に用いる耐火物製エンドタブにおいて, B 開先断面にほぼ対応する溶接使用面とその両面に非使用面を備えていること C 開先加工面を有しない母材側の非使用面が,開先底部レベルを越えて延長した抜け落ち防止用脚部を備えた形状であること D 裏当金に載せて使用する溶接用エンドタブであること (4) 本件実用新案明細書には,本件考案の目的及び作用効果として,次のように記載されている。
「(本件考案の)目的とするところは,アークロボット溶接であれ,半自動溶接であれ,同幅継手を溶接する際に,隙間埋めを行う必要がなく,しかも,アーク抜けや抜け落ちを効果的に防止し得るエンドタブを提供することにある。」(本件実用新案公報段落【0009】) 「本考案によれば,エンドタブに抜け落ち防止用脚部を設けたので,同幅継手の溶接において,抜け落ちを効果的に防止することができる。特にアークロボット溶接において好適であるが,半自動溶接においても,従来のように隙間を埋める施工が不要となる。エンドタブは耐火物製であるので繰り返し使用でき経済的である。」(本件実用新案公報段落【0024】) (5) 原告は,次の特許権(以下,「本件特許権1」という。本判決末尾添附の本件特許権1に係る特許公報〔甲2の2〕参照。なお,上記特許公報を「本件特許公報1」という。)を有している。
登録番号 第2764501号 発明の名称 溶接用セラミックエンドタブ 出願年月日 平成4年5月28日 登録年月日 平成10年4月3日 (6) 上記(5)の特許権に係る,願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書1」という。)の特許請求の範囲請求項1及び請求項3の記載は次のとおりである(以下,請求項1の発明を「本件特許発明1-1」,請求項3の発明を「本件特許発明1-3」といい,総称して「本件特許発明1」という。)。
「請求項1 表面に平坦面と堰を有する形状のセラミックエンドタブにおいて,平坦面の少なくとも下部にガス抜き用切欠きを設けたことを特徴とする溶接用セラミックエンドタブ。」 「請求項3 表面に平坦面と該平坦面の片側のみに堰を有する形状のセラミックエンドタブにおいて,該平坦面が厚さ方向にテーパーを有するガス逃げ面をなしていることを特徴とする溶接用セラミックエンドタブ。」 (7) 本件特許発明1-1の構成要件を分説すれば,次のとおりである(以下,それぞれを「構成要件1A」のようにいう。)。
1A 表面に平坦面と堰を有する形状のセラミックエンドタブにおいて, 1B 平坦面の少なくとも下部にガス抜き用切欠きを設けたこと 1C 溶接用セラミックエンドタブであること (8) 本件特許発明1-3の構成要件を分説すれば,次のとおりである(以下,それぞれを「構成要件3A」のようにいう。)。
3A 表面に平坦面と該平坦面の片側のみに堰を有する形状のセラミックエンドタブにおいて, 3B 該平坦面が厚さ方向にテーパーを有するガス逃げ面をなしていること 3C 溶接用セラミックエンドタブであること (9) 本件特許明細書1には,本件特許発明1の目的及び作用効果として,次のように記載されている。
「本発明は,より効果的にガス抜きができる溶接用エンドタブを提供することを目的としている。」(本件特許公報1,段落【0004】) 「開先内の空間がエンドタブのガス抜き切欠き4を介して外部に通じることになり,初層溶接時に発生したガスは殆どが上方に浮上乃至逸散するが,溶融物内に閉じ込められたガスはこのガス抜き切欠き4を通じて外部に放出されるので,メルト内に残留ガスが生じない。」(本件特許公報1,段落【0013】) (10) 原告は,次の特許権(以下,「本件特許権2」という。本判決末尾添附の本件特許権2に係る特許公報〔甲3の2〕参照。なお,上記特許公報を「本件特許公報2」という。)を,訴外宮地鐵工所株式会社と各持分2分の1で共有している。
登録番号 第2135356号 発明の名称 大型の箱形溶接構造物の角溶接用の溶接溝に使用するV状セラミックタブ 出願年月日 平成2年11月30日 出願公告年月日 平成8年3月29日 登録年月日 平成10年3月13日 (11) 本件特許権2の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書2」という。)の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明2」という。)。
「母材厚さに同等乃至以上の高さを有すると共に適宜厚さを有し,且つV形状を有する面の片面または両面の上部近傍に1本又は2本以上の平行な直線状スリットが分割可能な深さで形成されていることを特徴とする大型の箱形溶接構造物のダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接するために角溶接用の溶接溝に使用するV状セラミックタブ。」 (12) 本件特許発明2の構成要件を分説すれば,次のとおりである(以下,それぞれを「構成要件a」のようにいう。)。
a 母材厚さに同等乃至以上の高さを有すると共に適宜厚さを有し, b V形状を有する面の片面または両面の上部近傍に1本又は2本以上の平行な直線状スリットが分割可能な深さで形成され, c 大型の箱形溶接構造物のダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接するために角溶接用の溶接溝に使用するV状セラミックタブであること (13) 本件特許明細書2には,本件特許発明2の目的及び作用効果として,次のように記載されている。
「本発明は,大型の箱型溶接構造物のダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接する場合において,溶融金属の漏れ止めができ,且つ溶接後の整形作業を簡単にすることができるタブを提供することを目的とするものである。」(本件特許公報2,3欄26〜29行) 「本発明は,箱型溶接構造物の中にダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接する場合に角溶接用の溶接溝に使用するタブをV形状のセラミック(耐火材)製とし且つスリットを形成したので,少ない種類にて種々の板厚の母材に適用できると共に,溶接後の整形作業およびコストの点で極めて有利になるという優れた効果を奏する。」(本件特許公報2,5欄3〜9行) (14) 被告の行為 被告は,少なくとも別紙物件目録記載のイ号ないしヌ号製品については,業として,現在製造・販売しており,又は過去に製造・販売していた。
(15) 構成要件の充足 ア 本件実用新案権関係 イ号及びハ号製品は,本件考案の考案構成要件B及びDを充足する。ロ号製品は,本件考案の考案構成要件A,B及びDを充足する。
イ 本件特許発明1-1関係 ニ号ないしト号製品は,本件特許発明1-1の構成要件1A及び1Cを充足する。
ウ 本件特許発明1-3関係 チ号製品は,本件特許発明1-3の構成要件3A及び3Cを充足する。
エ 本件特許発明2関係 リ号及びヌ号製品は,本件特許発明2の構成要件aを充足する。
2 争点 (1) イ号ないしハ号製品が本件考案の技術的範囲に属し,同製品の製造・販売が本件実用新案権を侵害するか(争点1)。
(2) ニ号ないしト号製品が本件特許発明1-1の技術的範囲に属し,同製品の製造・販売が本件特許権1を侵害するか(争点2)。
(3) チ号製品が本件特許発明1-3の技術的範囲に属し,同製品の製造・販売が本件特許権1を侵害するか(争点3)。
(4) リ号及びヌ号製品が本件特許発明2の技術的範囲に属し,同製品の製造・販売が本件特許権2を侵害するか(争点4)。
(5) 原告の損害等(争点5)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(イ号ないしハ号製品が本件考案の技術的範囲に属し,同製品の製造・販売が本件実用新案権を侵害するか)について (1) 原告の主張 ア 被告は,本件考案の構成要件の充足をほぼ認めている。イ号ないしハ号製品は,原告の本件考案の実施品と全く同一形状で,製品名も同一の完全模倣商品である。被告は,イ号ないしハ号製品には本件実用新案明細書記載の本件考案の作用効果がないと主張するが,同作用効果があることを十分認識して同製品を製造・販売しているのである。
イ 被告は,本件考案の溶接用エンドタブの使用対象が「突合せ継手」という特定の継手に限られると主張する。しかし,本件実用新案明細書には,請求項1に,「母材同士を板幅方向の端面を揃えて突き合わせた継手部」と記載し,発明の詳細な説明にも,同一の記載及び「板幅方向の端面を揃え,母材同士を突き合わせ溶接する」等の記載があり,本件考案の溶接用エンドタブの使用対象が「突合せ継手」という特定の継手に限られるとする趣旨の記載は全く存せず,被告の主張は明細書の記載に基づかないものである。
本件考案の溶接用エンドタブは,「母材同士を板幅方向の端面を揃えて突き合わせた継手部」に使用されるものである。すなわち,本件実用新案公報の図1及び図3のように母材同士を突き合わせた構造の継手部(図1では両側面,図3では左側面)を使用対象とするもので,図2のような板幅方向の端面を揃えていない形態で母材同士を突き合わせた構造の継手部を使用対象とするものではない。そして,本件考案の溶接用エンドタブの使用対象は,図1及び図3のような継手部分の構造を有するものであればよく,それ以上の限定はされていない。したがって,被告がいうT継手は本件考案の溶接用エンドタブの使用対象となるものである。T継手が該使用対象から除外されるとする被告の主張は,本件実用新案明細書の記載に基づかない,根拠のないものである。
本件考案の溶接用エンドタブの使用対象は,従来の抜け落ち防止脚部のない構造の溶接用エンドタブを使用した場合において,本件実用新案公報の図4(a)及び(b),特に図4(a)の「A」の箇所1点のみで隙間が生じ,その結果,従来の溶接用エンドタブを使用した場合には,その1点のみでアーク抜けや抜け落ちが生じやすい形態の継手部構造のものである。
以上のとおりであるから,本件考案では,母材同士を板幅方向の端面を揃えて突き合わせた継手部の裏当金,母材及び溶接用エンドタブの三者の関係において,従来構造の溶接用エンドタブを使用した際に「A」の箇所の1点のみでアーク抜けや抜け落ちが生じやすい形態の継手部構造のものであれば,本件考案の使用対象となるのであり,T継手において,母材同士を板幅方向の端面を揃えて突き合わせた継手部に従来構造の溶接用エンドタブを配置した場合には,前記「A」の箇所が出現するのであり,この継手部は,正に本件考案の「母材同士を板幅方向の端面を揃えて突き合わせた継手部」に該当するものである。
そして,本件考案が使用対象とする継手部は,前記のとおりであるから,従前の溶接用エンドタブを使用した場合は,「A」の部分の1点を除いたすべての箇所において,裏当金,母材及び溶接用エンドタブの三者間においては,被告がいう面接触をしており,本件考案では被告がいうような裏当金と母材との間で空隙が生じアーク抜けや溶融金属の抜け落ちは起こることはない。
ウ 次に,被告は,T継手の場合は,エンドタブに脚部がなくてもアーク抜け及び溶融金属の抜け落ちは発生せず,イ号ないしハ号製品における脚部はタブの位置決めを目的とするものであって本件考案の作用効果とは異なると主張する。しかしながら被告の上記主張は,被告作成の溶接作業標準(甲7)の15頁の記載にも反するものであり,何らの合理性もない。すなわち,同頁には「図-25 製品の基本形状」の図面と共に「図-23に示す通りタブ材のルートギャップ部と母材柱側Y軸下部との間に間隙が生じ,初層溶接時(特に端部でのスタート方法)にアーク抜けによる溶接ワークがストップすることがあります。弊社ではこの隙間が出来ない溶接ロボット用セラミックタブ(図-25)を用意しております。その取付け図を図-24に示します。」と記載されているとともに図-25にはイ号製品が,図-23には前記「A」に相当する隙間が生ずることが図示されている。
上記のとおり,被告は,本件考案の効果を,甲7において自ら肯定しているのである。
そして,被告が原告製品と完全に同一のものを製造・販売し,かつ前掲溶接作業標準において,位置決め機能については言及せずに,「A」点におけるアーク抜け防止機能のみに言及していることから,被告製品が後者の機能を発現するものであることを目的として製造・販売されていることは明白である。
仮に被告製品の脚部の目的が副次的には位置決めであっても,被告製品がアーク抜け防止を目的とするものであることは否定できない。
以上によれば,イ号ないしハ号製品は,本件考案の技術的範囲に属する。
(2) 被告の主張 ア イ号及びハ号製品は,「母材同士を‥‥突合わせた継手部を溶接する際に用いる」(考案構成要件A)ものではない。また,ロ号製品は,突合せ継手のみならず,「T継手」の溶接にも用いられるものである。そして,イ号ないしハ号製品の脚部は抜け落ち防止用(考案構成要件C)のものではない。上記以外は,本件考案の構成要件の充足は認める。被告の主張は,本件考案では前記争いのない事実(4)記載の所望の作用効果(前記第2,1(4)参照)が達成できないこと,被告のイ号ないしハ号製品は本件考案の作用効果を有するものでないことを述べるものである。以下詳しく述べる。
イ 建築に用いられる鋼材溶接には,対面する金属(母材)の間で高熱下に金属(ワイヤー)を溶融しながら母材の一部も溶融して溶接する完全溶込み溶接が,溶接部の強度が大であるため多く用いられる。完全溶込み溶接の継手の種類は突合せ継手,T継手,かど継手の3種類があり,突合せ継手とは母材を同一平面上に相対置してこれを溶接する方法であり,T継手とは一方の母材の端面を他の母材の表面に垂直に乗せて溶接する方法である。本件実用新案権においてクレームされている溶接用エンドタブは突合せ継手に用いられるものである(請求項1「母材同士を‥‥突合わせた継手部を溶接する際に用いる耐火物製エンドタブ」等)。
突合せ継手の溶接において裏当金を用いる場合には相対する母材を裏当金と面接触する形で裏当金に載置することが一般である(乙2の3参照)。このような形で母材を裏当金上に置き両端にタブを当て開先内においてワイヤーを溶融すると,母材,裏当金及びタブはいずれも面接触しているのでアーク抜けや溶融金属の抜け落ちが起こることはない。ところで本件考案によれば,エンドタブは「開先断面にほぼ対応する溶接使用面とその両面に非使用面を備えており,かつ,開先加工面を有しない母材側の非使用面が,開先底部レベルを越えて延長した抜け落ち防止用脚部を備え」ているというのであるから,上記脚部が裏当金と衝突しないようにタブを取り付けるためには本件実用新案公報図5に示されているように開先加工面を有しない母材と裏当金とは線接触することになる。このような線接触の場合には,裏当金と母材との間は母材の溶融が進むにつれて空隙が生じ,アーク抜けや溶融金属の抜け落ちが起こり安定した溶接は困難になる。したがって,突合せ継手において本件考案に示されるような構造のタブを使用するならば,脚部により多少の抜け落ち防止効果はあるにせよ,線接触に起因する溶接困難という前記の欠陥が存するため,実用には到底適さない。よって,本件考案はその明細書に開示されている用法に従う限り,所期の目的・作用効果を奏することはできない。
ウ イ号ないしハ号製品について説明すると,これら製品はT継手に用いることを目的として設計され,製造されているもので,母材同士を突き合わせて継手部を溶接する際に用いるものではない(ロ号製品は,突合せ継手のみならずT継手の溶接においても使用されるものである。)。すなわち開先加工面を有する母材を開先加工面を有しない母材に対して板幅方向の端面を揃えて直角に対置し,裏当金を両母材にそれぞれ面接触するように置く(乙2の4参照)。両母材と裏当金をこのように配置すれば三者は充分な接触面を持つので,本件考案の線接触において見られるようなアーク抜けや溶融金属の抜け落ちは生じない。その上で上記被告製品を端面の揃った両母材の側面に密着して裏当金上に載置するとアーク抜けおよび溶融金属の側面からの抜け落ちを防止することができるのである(別紙イ-2図参照)。別紙イ-2図から明らかなように,T継手の場合エンドタブには脚部はなくてもアーク抜け及び溶融金属の抜け落ちは発生しない。上記被告製品において脚部を設けた理由は,溶接作業に際して作業員は分厚い手袋をはめるのが常であるが,タブは形状が小さいため,それを所定の位置に固定することが困難であるところ,裏当金に嵌合するように脚部を設けると,タブの位置決めが容易になり,作業能率が高まるからである。すなわちイ号ないしハ号製品における脚部はタブの位置決めを目的とするもので,この目的に沿う作用効果がある。なお,ロ号製品の脚部は,タブの位置決め及びタブを積重ね固定することを目的とするものである。
エ したがって,これら製品は,本件考案と目的・作用効果を異にし,本件実用新案権に抵触しない。
2 争点2(ニ号ないしト号製品が本件特許発明1-1の技術的範囲に属し,同製品の製造・販売が本件特許権1を侵害するか)について (1) 原告の主張 ア 被告は,本件特許発明1-1の構成要件の充足をほぼ認めている。ニ号ないしト号製品は,原告の同特許発明実施品と全く同一形状で,製品名も同一の完全模倣商品である。被告は,ニ号ないしト号製品には本件特許明細書1記載の本件特許発明1-1の作用効果がないと主張するが,同作用効果があることを十分認識して同製品を製造・販売しているのである。
イ 被告は「溶融物自体からガスが発生することはあり得ない」とし,それを前提として,本件特許発明1がその目的,作用効果を達成し得ないと主張するが,溶接母材には,ガス発生の原因となる表面付着水分あるいは内蔵ガスが存在し,そのガスが溶接時には発生するのであり,そのことは甲8(「現代溶接技術体系第7巻 半自動・自動アーク溶接」)の28頁〜29頁の記載から明らかである。
ウ また,溶接は切欠きあるいは厚さ方向にテーパーを有するエンドタブの底部からスタートし,この底部部分が初層溶接部となるから,明細書に記載のとおり,この部分にガスが取り込まれブローホールが発生しやすくなるのであり,本件特許発明1では,この部分に切欠きあるいはテーパーを形成することにより,明細書記載の目的,作用効果を達成するものである。
エ 被告は,シールドガスを逃がすためタブの底部に切欠きを設けることはあり得ない,さらにガスが金属内を横もしくは下方に向かって移動してタブの底部の切欠きを通りもしくはタブの平坦面のテーパーを伝わって外部に逃げ出すということは起こり得ないと主張するが,これらの主張は被告作成の溶接施工要領書(甲9)の5ないし7頁及び同溶接作業標準(甲7)の4頁に記載の,タブの底部の孔がガス抜きのものであるとの記載に反するものであり,かつ被告の他の主張とも矛盾するもので,不合理である。
オ ニ号ないしト号製品の切欠きは,被告主張のエのとおりのことを解決 する目的あるいは回避可能とするものであるかどうか原告は知らないが,仮に被告主張のとおりであったとしても,被告の上記製品は本件特許発明1-1の構成要件を備えるものであるから,本件特許明細書1記載の目的,作用効果を達成するものであることを否定することはできない。
(2) 被告の主張 ア ニ号ないしト号製品が,平坦面の下端に肉厚方向に貫通する孔又は切欠き(構成要件1B)を備えていることは認めるが,これはガス抜き孔ではない。それ以外は,本件特許発明1-1の構成要件の充足は認める。被告の主張は,本件特許発明1-1では前記争いのない事実(9)記載の作用効果(前記第2,1(9)参照)が達成できないこと,被告の上記製品は本件特許発明1-1の作用効果を有するものでないことを述べるものである。以下詳しく述べる。
先行技術に対する本件特許権1の解決課題は,本件特許明細書1の記載によれば「溶接時には溶融物からガスが発生するが,これが浮上しきれないで溶融メタル内に残留して凝固すると溶接欠陥となることは良く知られている。この溶接欠陥は特に初層溶接部において生じ易いことから,従来より様々なガス抜き対策が検討され,提案されている。しかし,いずれも効果的なものが見当らないのが実情である。」(本件特許公報1,段落【0003】)「本発明は,かかる状況に鑑みて,より効果的にガス抜きができる溶接用エンドタブを提供することを目的としている。」(同段落【0004】)と述べられ,解決手段として「本発明の溶接用エンドタブは,表面に平坦面と堰を有する形状のセラミックエンドタブにおいて,平坦面の少なくとも下部にガス抜き用切欠きを設けた」(同段落【0005】)こと及び「表面に平坦面と該平坦面の片側のみに堰を有する形状のセラミックエンドタブにおいて,該平坦面が厚さ方向にテーパーを有するガス逃げ面をなしている」(同段落【0006】)とされている。
ウ 本件特許明細書1の上記記載では,溶接時にガスが発生するというが,溶融物自体からガスが発生することはあり得ないので,発生するとすれば,それはガスシールドアーク溶接において用いられるシールドガスのことか,あるいは何らかの原因で溶融物内に閉じ込められたガス以外にない。ガスシールドアーク溶接法では外気(空気)と遮断してアーク放電を行うため炭酸ガス等でエアカーテンを作るが,その際のガスをシールドガスといい,シールドガスは溶融物の表面に吹きつけられるものの,溶融物の内部に溶け込むことはない。したがってシールドガスを逃すためタブの底部に切欠きを設けることはあり得ない。また何らかの理由で溶融物にガスが閉じ込められたとしても溶融金属は粘性が高くかつ凝固が早い(約2,3秒で凝固する)ためガスは上方に移動することはあっても金属内を横もしくは下方に向かって移動してタブ底部の切欠きを通りもしくはタブの平坦面のテーパーを伝わって外部に逃げ出すということは起こり得ない。よって本件特許発明1の前記の目的,作用効果は請求項1もしくは3に開示された技術をもっては到底達成し得ないものである。
エ 他方,ニ号ないしト号製品では,これら製品の底部の切欠きは,溶接時にタブで塞ぎ止められている溶接線の両端部では噴射するシールドガスが壁となるタブにはね返り,その風圧により溶融金属がタブ付近の隅々まで行き渡ることが困難となり母材端部付近に溶接不足を起こし,かつこの風圧により中央方向に流れた溶融金属がそのまま凝固し折り返し溶接の際に溶かし切れないために底部で融合不良を起こす問題を解決するためのものである。すなわちタブの底部に切欠きを設けることにより,溶融金属を中央方向への1方向のみでなく,中央方向及び端部方向の2方向に流すことを図り,その結果初層溶接において溶融金属を溶接端部の隅々にまで送り込むことができ,溶接不足や融合不良等の欠陥を回避することを可能としたのである。
したがって,ニ号ないしト号製品は,本件特許発明1-1の作用効果を奏せず,同特許発明技術的範囲に属さない。
3 争点3(チ号製品が本件特許発明1-3の技術的範囲に属し,同製品の製造・販売が本件特許権1を侵害するか)について (1) 原告の主張 上記2(1)に同じ。チ号製品のテーパーは,被告主張のイのとおりのことを解決する目的あるいは回避可能とするものであるかどうか原告は知らないが,仮に被告主張のとおりであったとしても,その製品も本件特許発明1-3の構成要件を備えるものであるから,本件特許明細書1記載の目的,作用効果を達成するものであることを否定することはできない。
(2) 被告の主張 ア チ号製品がテーパー(構成要件3B)を備えていることは認めるが,これは溶融物内に閉じこめられたガスをテーパー面を通じて外部に放出する目的で設けられたものではない。それ以外は,本件特許発明1-3の構成要件の充足は認める。被告の主張は,前同様に,本件特許発明1-3では前記争いのない事実(13)記載の作用効果(前記第2,1(13)参照)が達成できないこと,チ号製品は本件特許発明1-3の作用効果を有するものでないことを述べるものである。
イ チ号製品は,突合せ継手及びT継手の異幅溶接に用いられるものであるが,溶接後,柱側に向かって7度広がる溶接端部ビードを確保するためにタブの溶接使用面にテーパーを付しているものである(チ-2図及びチ-3図参照)。タブを用いることにより,溶接ビードの端部形状は柱に対して7度広がり,スムースな応力の流れをもつことになる。
したがって,チ号製品では,本件特許発明1-3の作用効果を奏せず,同特許発明技術的範囲に属さない。
4 争点4(リ号及びヌ号製品が本件特許発明2の技術的範囲に属し,同製品の製造・販売が本件特許権2を侵害するか)について (1) 原告の主張 ア 被告は,本件特許発明2の構成要件の充足をほぼ認めている。リ号及びヌ号製品は,原告の同特許発明実施品と全く同一形状で,製品名も同一の完全模倣商品である。
イ 被告は,該タブの上面がエレクトロスラグ溶接部のスキンプレートのウエブとフランジからなる上部表面と同一平面を形成することが必要であると主張するが,このようなことは,そもそも本件特許発明2と無関係なものであり失当である。本件特許発明2の特許請求の範囲には,そのような要件はそもそも存在しない。
また,V状セラミックタブの上面とスキンプレートのウエブとフランジからなる上部表面とが同一平面を形成するようにする際にも,スリットにより切断後直ちに前記同一平面を形成する場合のみでなく,その後微調整する態様も本件特許発明2に含まれることももちろんである。すなわち,スリットとスリットの間には,所定の間隔があり,そのことは図示されてもいる。この間隔とスキンプレートの厚さとがすべての場合において一致するものではないから,該タブの上面は必要に応じて研削等により微調整できるものであり,本件特許発明2においても,このような微調整を何ら排除するものではなく,必要に応じてこのような微調整を行うことによりV状セラミックタブの上面とスキンプレートのウエブとフランジからなる上部表面とが同一平面を形成するようにできるのである。
ウ 被告は,リ号及びヌ号製品に関し,それがエレクトロスラグ溶接に使用でき,それに使用するものであるにもかかわらず,貫通ダイヤフラム形式の角型鋼管柱のシャフト製作に使用し,スリットは余盛り寸法を図る目安として用いられるものであると主張する。しかしながら,被告は,リ号及びヌ号製品の貫通ダイヤフラム形式の角型鋼管柱のシャフト製作への使用については,観念的な使用可能性を主張するのみであり,実際に被告主張の方法で使用していることを裏付けるに足りる事実については,何ら具体的開示をしない。このような被告の対応自体が,被告主張の使用方法ではリ号及びヌ号製品が使用されていないことの何よりの証拠である。
(2) 被告の主張 ア リ号製品とヌ号製品は,同一目的の製品の,旧製品と新製品である。旧製品は平成6年12月に発売し,平成11年11月に販売を打ち切った。旧製品を今後製造・販売する予定はない。
イ リ号及びヌ号製品の備えるスリットは,「分割可能な深さ」(構成要件b)のものではない。また,同製品は,構成要件cの用途に使用されるものではない。それ以外は,本件特許発明2の構成要件の充足は認める。被告の主張は,被告の上記製品は本件特許発明2とは用途を異にし,したがって本件特許発明2の作用効果を有するものでないことを述べるものである。以下詳しく述べる。
ウ 本件特許発明2は,「大型の箱型溶接構造物のダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接する場合において,溶融金属の漏れ止めができ,且つ溶接後の整形作業を簡単にすることができるタブを提供することを目的と」(本件特許明細書2,3欄26行ないし29行)し,その解決手段として「母材厚さに同等乃至以上の高さを有すると共に適宜厚さを有し,且つV形状を有する面の片面又は両面の上部近傍に,1本又は2本以上の平行な直線状スリットが分割可能な深さで形成されていることを特徴とする大型の箱型溶接構造物のダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接するために角溶接用の溶接溝に使用するV状セラミックタブ」(本件特許明細書2,3欄34行ないし40行)を提供するものである。本件特許明細書2に記述されているこのV状セラミックタブの使用方法に沿った使用をするためには,タブの形状および寸法は,角溶接用開先の内面形状と同一で,かつタブの上面がエレクトロスラグ溶接部のスキンプレートのウエブとフランジからなる上部表面と同一平面をなさなければならない。このV状セラミックタブにスリットを設けている理由もタブの形状及び寸法を角溶接用開先の内面形状に適合させ,スキンプレートのウエブとフランジからなる上部表面とタブ上面とが同一平面を形成せしめるためである(別紙リ-2ないし5図参照。これらの図は,本件特許公報2の第1図,第2図及び第4図に図示されているタブのそれぞれの使用方法を示す)。
エ しかし,リ号及びヌ号製品は,その形状及び寸法から,角溶接用開先の内面に合致させることは困難であるし,したがってまたスキンプレートのウエブとフランジからなる上部表面とタブ上面とが同一平面を形成させることもできない(別紙リ-6図参照)。このような構造を持つリ号及びヌ号製品は,本件特許発明2と同様の目的に用いられるものではなく,したがって同様の作用効果を上げるものでもない。
オ リ号及びヌ号製品は,貫通ダイヤフラム形式の角型鋼管柱のシャフト製作に用いられるものである。貫通ダイヤフラムと角型鋼管の溶接は角型鋼管の4辺を1辺ごとに溶接するが,溶接中に両端部より溶融金属が漏れ出すので,溶融金属の漏出を防ぐため溶接部の4辺にタブを差し込み,漏れ止めとするものである。スリットは,余盛寸法を測る目安として設けられているものである(別紙リ-7図参照)。リ号及びヌ号製品におけるスリットの深さは,構成要件bにいうような「分割可能な深さ」ではない。リ号製品のスリットを利用してタブを分割しようとすれば,タブ全体が破砕されるか,割れ目に凹凸が生じるかして使用の目的を達成することはできない。リ号製品のスリットは,溶融時にスリット内に溶融金属が流れ込み,そのまま固まるので,溶接完了後に金属表面にスリットの形が残ることがあり好ましくないため,新製品ではスリットの深さを浅くし,そのような欠陥をなくしたのである。
以上のように,リ号及びヌ号製品では,本件特許発明2とは全く異なった目的及び作用効果の下に製造・販売されているものであるから,同特許発明技術的範囲に属さない。
5 争点5(原告の損害)について (1) 原告の主張 ア 被告製品の販売数量について (ア) イ号製品について 平成9年11月28日から平成13年11月6日までの間に,被告が販売したイ号製品VSR3,VLR3,VLR50の数量は,いずれも1か月当たり2000個,各製品とも合計9万4000個を下らない。
(イ) ロ号製品について 上記(ア)の期間に,被告が販売したロ号製品の数量は,1か月当たり3000個で合計14万1000個を下らない。
(ウ) ハ号製品について 上記(ア)の期間に,被告が販売したハ号製品の数量は,1か月当たり2000個で合計9万4000個を下らない。
(エ) ニ号ないしチ号製品について 平成10年4月3日から平成13年11月6日までの間に被告が販売したニ号ないしチ号製品の数量は,いずれも,1か月当たり2000個,各製品とも合計8万6000個を下らない。
(オ) リ号製品について 平成10年3月13日から平成13年11月6日までの間に,被告が販売したリ号製品の数量は,1か月当たり1000個で合計4万3000個を下らない。
(カ) ヌ号製品について 平成11年11月1日から平成13年11月6日までの間に,被告が販売したヌ号製品の数量は,1か月当たり1000個で合計2万5000個を下らない。
イ 被告の主張する販売数量が真実でないこと 被告は真実の販売個数を開示していない。
(ア) けだし,被告が主張する程度の被告製品の販売数量では,金型代等のコストの面からしても到底引き合わないし,原告の元従業員で現在被告従業員となっているA,B両名が関与して本件実用新案権や本件特許権1,2を侵害する完全模倣商品であるとの認識を持って敢えて販売した点や,裁判所が弁論準備手続期日において権利侵害を認める心証を開示して損害額についての審理に入った後も,被告製品の販売を継続する方法を模索し,その後も販売を自粛しない点からも,被告はこれらの製品の販売によってかなりの利益をあげていたものと考えられる。それでありながら,5年余りの期間の販売数量がわずか合計16万6460個などということは考えられない。
(イ) 被告は,「平成11年3月31日以前の在庫数等は,同年7月に税務署の監査が行われ,調査済みの書類の必要なもの以外は処分した」と主張する。
そして,文書提出命令に対して,「商品管理帳簿」と題する書面(甲24の1ないし3)を提出した。しかし,前者については,「必要なもの」では,何が必要だかわからないし,被告の提出した「商品管理帳簿」と題する書面は,単に商品の残高を示すにすぎず,仕入れ,出荷及び残高を一覧できる機能を持たないものであり,商品管理機能を有する帳簿ではない。商品管理帳簿は商法上当然保存していなければならないものであり,被告においても,上記のような商品管理機能を有する帳簿があるはずであるが,被告はそれを提出していない。
また,被告の提出する乙7ないし乙9と,甲24の1ないし3との間にも齟齬がある。
したがって,民事訴訟法224条3項の適用,あるいは同法248条の適用により,原告の利益の救済が図られるべきである。
ウ 原告の利益率について 本件実用新案権及び本件特許権1及び2の実施品であり,被告製品の各製品に対応する原告の製品(以下,これらを「原告商品」と総称する。)について,原告がこれを販売する価格,仕入価格,諸経費,純利益は,いずれも別紙原告商品販売価格等一覧表記載のとおりである。原告は,原告商品を販売する際の経費としては,人件費及び配送料以外には要するものはなく,それらは諸経費欄記載の額である。よって,純利益額も同表記載のとおりとなる。なお,ロ号製品については,これに厳密に対応する原告の商品が存在しないところ,ロ号製品は中央のスリットに沿って分割して2つの製品として利用するものであるから,分割後の製品と機能及び大きさが最も類似するイ号製品(1)の対応品の2個分として計算した。
そうすると,同表記載の単位数量当たりの利益の額を,上記アの被告製品の販売数量乗じた額の総合計は,3033万8750円となるところ,原告は,被告に対し,このうち一部請求として1234万8907円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払を求める。
(2) 被告の主張 ア 被告製品の販売数量について 原告主張の各製品の販売期間における被告製品の販売数量は,別紙「株式会社スノウチ製品販売数量データー」記載のとおりである。被告は,提出すべき文書はすべて提出し,正しい販売数量を開示している。被告は,乙9における期首在庫の一部を不明とした理由の一つとして,「平成11年3月31日以前の在庫数等は,同年7月に税務署の監査が行われ,調査済みの書類の必要なもの以外は処分した」と回答した。商法上保存義務のある文書については,平成5年4月1日以降のものについてはコンピュータにおける電磁記録の形で保存している。それ以前のものについては一部欠落はあるものはあるが,商法上の保存義務の問題は別として,本件において提出した文書の信憑性とは無関係である。
したがって,民事訴訟法224条3項,あるいは同法248条を適用する余地はない。
イ 原告の利益率について (ア) 原告主張の経費について 原告主張の経費及び計算方法は,恣意的で信憑性に乏しい。人件費は,販売担当者の総人件費を,原告の総売上中原告商品の売上げの占める割合で案分することが合理的である。また,配送手数料は,原告主張の1個当たり14銭に原告の1か月の総販売個数15万2812個を乗ずると,2万円強となるが,15万個の商品を注文数に応じて需要先にその都度配送する手数料が1か月2万円程度とは,到底首肯できない。さらに,経費には,原告の主張するものだけでなく,人件費のうち原告が加えていないと思われる法定福利費,労働保険料等,他の経費として販売費,宣伝広告費,収入印紙代,水道光熱費,車輌諸経費等も加えられるべきである。
(イ) ロ号製品について 原告は,ロ号製品については,同製品に対応する原告製品の販売価格及び仕入価格は,機能と大きさが最も類似するイ号製品の2個分に準じて計算しており,ロ号製品の販売を行っていないことが明らかである。そうすると,ロ号製品については,実用新案法29条1項の適用はないというべきで,この点の原告の主張は失当である。
当裁判所に対する判断
1 争点1(イ号ないしハ号製品が本件考案の技術的範囲に属し,同製品の製造・販売が本件実用新案権を侵害するか)について イ号ないしハ号製品については,イ号及びハ号製品が本件考案の構成要件B及びDを充足すること,ロ号製品が本件考案の考案構成要件A,B及びDを充足することは,当事者間に争いがない。したがって,イ号及びハ号製品が考案構成要件Aを充足するかどうか,イ号ないしハ号製品が考案構成要件Cを充足するかどうかが,争点である。
(1) 考案構成要件Aの意味 被告は,考案構成要件Aの「突合わせた継手部を溶接する際に用いる」とは,「突合せ継手」,すなわち2つの母材の端と端をほぼ同一平面内で突き合せて接合する継手(乙1の3)を意味し,本件考案は,「突合せ継手」という特定の継手にのみ用いるものであると主張するので,この点につき検討する。
上記「突合わせた継手部」の記載が含まれる,「母材同士を板幅方向の端面を揃えて突合わせた継手部を溶接する際に用いる」の記載は,本件考案の耐火物製エンドタブが使用される溶接の態様を規定したものであるが,「継手部」を修飾する「母材同士を板幅方向の端面を揃えて突合わせた」の部分の記載は,単に継手部を形成する母材同士の配設関係を規定したにすぎないと解される。そして,「突合わせた」とは,一般的には,「2つのものを近づけ向い合わせること」(広辞苑第5版)を意味するから,母材同士を板幅方向の端面を揃えて近づけ向かい合わせた,という配設関係にある継手であれば,具体的な継手の種類を問わないと解するのが相当である。
被告の上記主張は,「母材同士を板幅方向の端面を揃えて突合わせた継手」の記載が「母材同士を板幅方向の端面を揃えて」と「突合わせた継手」に分断され,かつ,「突合わせた継手」が継手の種類としての「突合せ継手」を意味するとの前提に立つものであるが,「母材同士を板幅方向の端面を揃えて突合わせた」の記載は,上記のとおり母材同士の配設関係の規定として一体的に解すべきであり,しかも,「突合わせた継手」の文言を「突合せ継手」と解釈することも,通常の日本語の解釈として成り立たないものというほかない。上記被告の主張は採用できない。
(2) イ号及びハ号製品は考案構成要件Aを充足するか 被告は,イ号及びハ号製品は,「T継手」にのみ用いるものであり,「突合せ継手」に用いることはできず,また,ロ号製品は,「突合せ継手」のみならず「T継手」に用いられるものであると主張する。
上記(1)のとおり,「母材同士を板幅方向の端面を揃えて突合わせた継手部」とは,母材同士を板幅方向の端面を揃えて近づけ向かい合わせた,という配設関係にある継手であれば,具体的な継手の種類を問わないものである。そうすると,被告がいうように,イ号及びハ号製品が「T継手」に用いるものであったとしても,考案構成要件Aを充足するものである(なお,上記のとおり,ロ号製品の考案構成要件Aの充足性については争いがないが,ロ号製品は,「T継手」のみならず「突合せ継手」にも用いられるというのであるから,明らかに考案構成要件Aを充足するものである。)。
(3) 考案構成要件Cの充足性 考案構成要件Cの「開先底部レベルを越えて延長した抜け落ち防止用脚部」における「抜け落ち」が,溶接の際の「アーク抜けや抜け落ち」を意味することについては,解釈につき,当事者間に争いがない。被告は,イ号ないしハ号製品が「T継手」をその用途とするものであるとしたうえで,「T継手」に用いられる同製品の脚部は,アーク抜けの防止のためのものでなく,位置決めを容易にするためのものである,と主張する。
そこで,上記被告製品の用途につき検討する。まず,ロ号製品は,「T継手」のみならず「突合せ継手」に用いられるというのであるから,ロ号製品については,上記の被告の主張はそもそも成り立たない。次に,イ号製品については,被告作成の「SUNOXセラミックタブを用いた正しい溶接施工のための溶接作業標準」(甲7)の4頁に,「(2) 形状についての解説」として,「特に異幅用には柱側にあたる部分に応力のスムースな逃げを考慮してテーパー(溶着金属の逃面)を付けてあります。」,「同幅レ型溶接形状において通常バックステップ方式のタブ材では柱側材端部に隙間が生じ」,などと記載されている。この点からすれば,被告は,イ号製品が「T継手」の溶接に適したものとの認識であったと考えられる。
しかし,イ号製品は,本件実用新案公報の図8に記載される実施例とその形状が同一であり,かつ,同図に記載される形状のタブは,同公報の図5に記載されるように,いわゆる突合せ継手の溶接にも用いることができることからすると,イ号製品が「T継手」の溶接に専ら用いられるものと認めることはできない。そうすると,イ号製品についても,被告の上記主張は採用できない。さらに,ハ号製品についても,「T継手」のみに用いられることを示す証拠はなく,他の種類の継手の溶接に用いることができないと認める理由はないから,上記と同様である。よって,いずれの製品についても,上記被告の主張は採用できない。
ところで,上記甲7には,「柱と梁のフランジ幅が同じ場合の溶接にSUNOX-セラミックタブを用いる際は,図-23に示す通りタブ材のルートギャップ部と母材柱側Y軸下部との間に間隙が生じ,初層溶接時(特に端部でのスタート方法)にアーク抜けによる溶接ワークがストップすることがあります。弊社ではこの隙間が出来ない溶接ロボット用セラミックタブ(図-25)を用意しております。その取付け図を図-24に示します。」と記載されている。この記載からすると,「T継手」の溶接の場合であっても,アーク抜けが生じることがあり,このアーク抜けは,図-25に記載されるような,いわゆる脚部を設けたタブによって防止できると解される。
この点,被告の技術担当者であるAの陳述書(乙5)には,「当時は私の勉強不足で従来の標準形同幅母材使用のセラミックタブ(VSR3の脚部のないもの)を用いると垂直堰の下部と柱フランジ,裏当て金の間に小さな間隙が生じ,(「溶接作業標準」15頁図23参照),それがアーク抜けの原因になると考えていたのです。それを防止するために脚部が必要だと考えていたのですが,このようなアーク抜けの発生は溶接域の端部から溶接を開始するとき(これは欠陥のある溶接方法で正しい溶接手順ではありません)にのみ生ずるもので,端部から離れた位置で溶接を開始するならば(これが正しい方法です)このようなアーク抜けは起こりません。このことは,実験上も実証されています。」(4頁9.)とあり,上記「溶接作業標準」が誤りである旨を述べている。しかしながら,上記陳述内容は,何ら客観的な証拠によって裏づけられたものではないから,当該陳述書の内容のみをもって甲7に記載される内容を覆すことはできない。かえって,上記陳述書によっても,イ号製品が本件考案と同様,アーク抜けの防止を狙った製品であることが明らかであるというべきで,同製品は,考案構成要件Cを充足すると認められる。
これと同様に主張されているロ号及びハ号製品も,同様に考案構成要件Cを充足する。
なお,仮に,イ号ないしハ号製品に,その脚部にタブの位置決めを容易にするという副次的な作用効果があるとしても,そのことは上記の主位的な作用効果が同じである限り,イ号ないしハ号製品が本件考案の技術的範囲に属すると認める妨げとなるものではない。
以上よれば,イ号ないしハ号製品は,本件考案の構成要件をすべて充足するから,本件考案の技術的範囲に属する。
2 争点2,3(ニ号ないしト号製品が本件特許発明1-1の技術的範囲に属し,また,チ号製品が同1-3の技術的範囲に属し,それぞれ同製品の製造・販売が本件特許権1を侵害するか)について ニ号ないしト号製品については,本件特許発明1-1の構成要件1A及び1Cを充足することは当事者間に争いがないので,構成要件1Bを充足するかどうかが争点である。
チ号製品については,本件特許発明1-3の構成要件3A及び3Cを充足することは当事者間に争いがないので,構成要件3Bを充足するかどうかが争点である。
(1) 構成要件1Bの充足性 構成要件1Bにおける,「ガス抜き用切り欠き」とは,本件特許発明1-1が「溶接用セラミックエンドタブ」であることからすると,溶接時に発生するガスを抜くことができる切り欠きであると解される。
他方,被告作成の「SUNOX・セラミック・タブを用いた溶接工法 溶接施工要領書」(甲9)には,ニ号及びホ号製品につき,「ガス抜き孔付き」である旨が記載されている。また,被告は,ニ号ないしト号製品の切り欠きは,ガスシールドアーク溶接法において,溶接線の両端部では噴射するシールドガスが壁となるタブにはね返り,その風圧により溶融金属がタブ付近の隅々まで行き渡ることが困難となり母材端部付近に溶接不足を起こし,かつこの風圧により中央方向に流れた溶融金属がそのまま凝固し折り返し溶接の際に溶かし切れないために底部で融合不良を起こす問題を解決するために,シールドガスの通り路として設けたものであると主張する。これらのことからすると,ニ号ないしト号製品の切り欠きは,明らかに溶接時に発生するガスを抜くことができる切り欠きであり,また,シールドガスを抜くことができる切り欠きである以上,他の要因により別のガスが発生した場合にも,シールドガスの風圧によって当該別のガスも抜くことができると考えられる。
そうすると,ニ号ないしト号製品も「ガス抜き用切り欠き」が設けられたものである以上,考案構成要件1Bを充足するものというべきである。
なお,被告は,本件特許明細書1に,上記ガスの具体的由来が,溶接時の溶融物から発生するものである旨記載されていることについて,溶融物自体からガスが発生することはあり得ないと主張し,さらに,何らかの理由で溶融物にガスが閉じ込められたとしても,そのガスは上方に移動することはあっても金属内を横もしくは下方に向かって移動してタブ底部の切り欠きを通りもしくはタブの平坦面のテーパーを伝わって外部に逃げ出すということは起こりえないと主張する。
しかし,甲8の文献(現代溶接技術大系第7巻「半自動・自動アーク溶接」)の28頁に,「しかし,実際の溶接では,‥‥溶接アーク近傍での大気の巻込み,溶接電極ワイヤや母材表面に付着した水分,あるいはもともと母材やワイヤに含まれるガスなどがあり,溶接金属へ溶解するガス源を完全になくすることは不可能である。このような場合,溶接金属は高温の溶融状態でガスを溶解し,その凝固過程で液相と固相との大きな溶解度の差のため過飽和のガスを急激に放出し,溶融金属内に気泡を形成する。この気泡は,一定の大きさに成長すると普通,浮力によってビード表面に浮上し,大気中に逃げ出すが,気泡が浮上するまえに,溶接金属表面が凝固を完了してしまうと,金属内にとりこまれて,そのまま残留し,ブローホール(気孔)となる。」と記載されていることからすると,溶接においては,種々の要因に由来するガスが溶融金属に溶解されており,これが,大気中に逃げたり,あるいは,金属内に残留して気孔を形成したりするものと解される。そうすると,本件特許明細書1における,「溶接時には溶融物からガスが発生する」との記載は,技術的に何ら矛盾するものではない。
また,タブ付近の溶融物中にガスが残留しており,そのガスが溶融物から放出された場合には,ガスは,タブ底部の切り欠きもしくはチ号製品におけるタブの平坦面のテーパーを伝わって外部に逃げ出すことができると考えられるから,このような現象が起こり得ないとはいえない。
そうすると,上記被告の主張は理由がないというべきである。
(2) 構成要件3Bの充足性 チ号製品についても,上記同様に,タブの平坦面のテーパーを伝わって外部にガスが逃げ出すことができると考えられるから,構成要件3Bを充足する。なお,上記のように同製品が本件特許発明1の作用効果を有すると考えられるところ,これに加えて,被告主張のような,7度広がった溶接端部ビードを成形するという作用効果が存しても,そのことにより同製品が本件特許発明1の技術的範囲に属しないことになるものではない。
(3) ニ号ないしチ号製品についての小括 以上によれば,ニ号ないしト号製品は本件特許発明1-1の,チ号製品は本件特許発明1-3の,各技術的範囲に属する。
3 争点4(リ号及びヌ号製品が本件特許発明2の技術的範囲に属し,同製品の製造・販売が本件特許権2を侵害するか)について リ号及びヌ号製品については,本件特許発明2の構成要件aを充足することは当事者間に争いがないので,構成要件b,cを充足するかどうかが争点である。
(1) 構成要件bの充足性 リ号及びヌ号製品が,直線状のスリットを備えていることは当事者間に争いがないところ,被告は,このスリットは分割可能な深さでない旨を主張するので,まずこの点につき検討する。
構成要件bにおける「スリットが分割可能な深さで形成されている」とは,どのようにして分割することが可能である深さを意味するのかが,その文言のみからは明らかでないので,本件特許明細書2の「発明の詳細な説明」欄の記載を参酌する。
本件特許明細書2の「発明の詳細な説明」欄には,スリットの深さについては,「スリットの深は,スリットから上部分を分割する際に容易に折ることができる深さ及び幅であればよい。」とのみ説明されている。そして,「折る」とは,物体を切り離す意味で用いるときには,切り離す部分と残す部分との間の部位に対して,その部位を正確に特定することなく急激に力を作用させて,切り離すことを意味するものである。
これを前提に甲23の実験を見ると,リ号製品及びこれに対応する原告製品に関する実験においては,平たがねをスリットに対して適当に当て,ハンマーの一撃で急激に力を作用させることによって,分割が行われていることが確認できるから,リ号製品及びこれに対応する原告製品は,容易に折ることができると考えられる。リ号製品とヌ号製品はその備えるスリットの深さが異なるだけの製品であることは当事者間に争いがないところ,前掲甲23によれば,ヌ号製品についても,平たがねとハンマーを使用すれば,タブを破砕することなくスリットで分割することができ,分割に多少の難易及び分割面の凹凸の程度に多少の差異があるのみである(リ号製品の方が容易に分割でき,凹凸も少ない。)ことが認められる。しかし,この程度の凹凸は,「分割可能」を否定するものとはならない。
さらに,被告は,もともとリ号製品の構成についてはこれを認め(被告準備書面(三)3頁),ヌ号製品の構成についても同様(被告第7準備書面)であるから,分割可能である点については自白したものであるところ,仮に錯誤を理由に自白の撤回を主張するものとしても,分割可能であることは上記のとおり証拠により認定できるから,いずれにしても被告の主張は認められない。
また,被告は,上記スリットが分割のためのものではなく,余盛寸法を測る目安のためのものであるとも主張するが,仮に上記分割のためのものであることに加えてそのような用途があるとしても,構成要件bを充足するとの判断に影響するものではない。
以上によれば,リ号及びヌ号製品は,構成要件bを充足する。
(2) 構成要件cの充足性 被告は,リ号及びヌ号製品は,その形状及び寸法から,角溶接用開先の内面に合致させることは困難であり,したがってスキンプレートのウエブとフランジからなる上部表面とタブ上面とが同一平面を形成させることもできないので,このような構造を持つ同製品は,本件特許発明2と同様の目的に用いられるものでなく,したがって同様の作用効果を上げるものでない,と主張する。
しかしながら,被告の上記製品は,本件特許明細書2に実施例として記載された物と全く同一の形状で,同明細書に記載された用途から推測し得る寸法とほぼ同一の大きさであり,材質もほぼ同じセラミックであるから,このような製品が,本件特許発明2の用途に使用することができないとは考えられない。この点につき,C氏の陳述書(乙3)は,リ号製品は,本件特許発明2の用途である大型の箱型溶接構造物(四面ボックス柱)の内ダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接する際に,開先溝に溶融金属の漏れ止めとして取り付けることは不可能である,その理由は図面に示された形状のタブ材では溶融金属の漏れを防ぐことはできないからである旨を述べるが,上記のように同一形状及び材質のものでありながら不可能な理由は具体的に明らかにされておらず,同陳述書の内容は措信できない。
また,スキンプレートのウエブとフランジからなる上部表面とタブ上面とが同一平面を形成させることができないと本件特許発明2の用途に利用できないとの主張も根拠が明らかでない(むしろ,甲15の,エレクトロスラグ溶接の実演の模様からすれば,粘土を盛ったり,かつその上に銅製エンドタブを載せたりするのであるから,タブ上面が多少傾きがあっても,調節することができ,利用することの妨げにならないというべきである。)。
以上のとおり,被告の主張は採用できず,リ号及びヌ号製品は構成要件cを充足するものと認められる。
そうすると,前記のとおり,リ号及びヌ号製品が構成要件aを充足することは当事者間に争いがないから,同製品は本件特許発明2の構成要件をすべて充足し,その技術的範囲に属する。
4 原告の損害 (1) 特許法102条1項の意義 本件における原告の損害賠償請求は,特許法102条1項及び実用新案法29条1項に基づくものである。以下,特許法102条1項につき規定の趣旨を検討するが,説示する内容は実用新案法29条1項についても同様である。
ア 特許法102条1項は,排他的独占権という特許権の本質に基づき,特許権を侵害する製品(以下「侵害品」ということがある。)と特許権者の製品(以下「権利者製品」ということがある。)が市場において補完関係に立つという擬制の下に設けられた規定というべきである。すなわち,そもそも特許権は,技術を独占的に実施する権利であるから,当該技術を利用した製品は特許権者しか販売できないはずであって,特許発明実施品は市場において代替性を欠くものとしてとらえられるべきであり,このような考え方に基づき,侵害品と権利者製品とは市場において補完関係に立つという擬制の下に,同項は設けられたものである。
このような前提の下においては,侵害品の販売による損害は,特許権者の市場機会の喪失としてとらえられるべきものであり,侵害品の販売は,当該販売時における特許権者の市場機会を直接奪うだけでなく,購入者の下において侵害品の使用等が継続されることにより,特許権者のそれ以降の市場機会をも喪失させるものである。
したがって,同項にいう「実施の能力」については,これを侵害品の販売時に厳密に対応する時期における具体的な製造能力,販売能力でなく,特許権者において,金融機関等から融資を受けて設備投資を行うなどして,当該特許権の存続期間内に一定量の製品の製造,販売を行う潜在的能力を備えている場合には,原則として,「実施の能力」を有するものと解するのが相当である。
イ 次に,同項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは,侵害に係る特許権を実施するものであって,侵害品と市場において排他的な関係に立つ製品を意味するものである。
証拠(甲15,甲31等)によれば,原告は,本件実用新案権の実施品として,イ号製品の3つの型式に対応する形状・大きさの各製品3種類,ハ号製品に対応する形状・大きさの製品,本件特許権1の実施品として,ニ号ないしチ号製品に対応する形状・大きさの各製品,本件特許権2の実施品として,リ号及びヌ号製品に対応する形状・大きさの各製品を,それぞれ製造・販売しており,いくつかの製品については,原告と被告で型式番号まで同じであることが認められる。そうすると,イ号,ハ号ないしヌ号製品については,別紙「原告商品販売価格等一覧表」記載の各原告商品をもって「侵害行為の行為がなければ販売することができた物」と認めるのが相当である。
この点に関して,被告は,ロ号製品については,原告がこれと対応する製品を販売していないから,特許法102条1項の適用がない旨を主張する。しかしながら,イ号ないしハ号製品は,本件考案の技術的範囲に属するものであって,これらの間には具体的な形態につき相違があるとはいえ,本件考案の実施例の間での態様の差異にすぎないものである。そして,ロ号製品が,中央のスリットに沿って分割することで,2個の製品として使用されることが予定されているものであることに照らせば,ロ号製品に対応する原告商品としては,その形状・大きさが分割後のロ号製品に最も類似するイ号製品(1)の対応品の2個分とするのが相当である。
したがって,ロ号製品についても,別紙「原告商品販売価格等一覧表」記載の原告商品(イ号製品(1)の対応品の2個分)をもって「侵害行為の行為がなければ販売することができた物」と認めるのが相当である。
ウ 上記のとおり,「実施の能力」が,必ずしも侵害品販売時に厳密に対応する時期における具体的な製造販売能力を意味するものではなく,侵害品の販売により影響を受ける権利者製品の販売が,侵害品販売時に対応する時期におけるものにとどまらないことに照らせば,同項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額」についても,侵害品の販売時に厳密に対応する時期における具体的な利益の額を意味するものではなく,侵害品の販売により影響を受ける販売時期を通じての平均的な利益額と解するのが相当であり,また,「単位数量当たりの利益の額」は,仮に特許権者において侵害品の販売数量に対応する数量の権利者製品を追加的に製造販売したとすれば,当該追加的製造販売により得られたであろう利益の単位数量当たりの額(すなわち,追加的製造販売により得られたであろう売上額から追加的に製造販売するために要したであろう追加的費用(費用の増加分)を控除した額を,追加的製造販売数量で除した単位数量当たりの額)と解すべきである。このように特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」が仮定的な金額であることを考慮すると,その金額は,厳密に算定できるものではなく,ある程度の概算額として算定される性質のものと解するのが相当である。
具体的な事案において,特許権者が侵害品の販売時に厳密に対応する時期において現実に権利者製品の製造販売を行っている場合には,当該時期における権利者製品の単位数量当たりの現実の利益額を斟酌して,特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」を算定することが相当であるが,この場合においても,この利益額が上記のような性質を有する仮定的な金額であることに照らせば,「単位数量当たりの利益の額」は,必ずしも,当該時期における現実の利益額と一致するものではなく,現実の利益額は,同項にいう「単位数量当たりの利益の額」を認定する上での一応の目安にすぎないというべきである。
以上を前提に,本件における原告の損害額につき,検討する。
(2) 被告製品の販売数量 ア 認定される販売数量 証拠(甲24の1ないし3,甲30,乙7,乙8,乙10,乙11)及び弁論の全趣旨によれば,原告主張の各製品の販売期間における被告製品の販売数量は,別紙「株式会社スノウチ製品販売数量データー」記載のとおりと認められる。ただし,同表のうち,リ号製品は,販売期間が平成8年3月29日からとなっているので,上記証拠に基づいて,原告主張の平成10年3月13日(本件特許権2の登録日)以降の分を求めると,1万0440個となる(なお,原告は当初,別紙「株式会社スノウチ製品販売数量データー」記載の各製品に加え,イ号製品の型式番号として「VLR55」,ハ号製品の型式番号として「RV-W」という製品が存在すると主張していた(訴状)。しかしながら,証拠(乙10)によれば,このうち「VLR55」については存在しないこと,「RV-W」については製品名としては存在したものの,受注がなく廃番となり,その後受注があった際には,「RVWG」の製品名で販売されたこと,の各事実が認められる。したがって,被告製品として存在するものは,別紙「株式会社スノウチ製品販売数量データー」記載の各製品がすべてであると認められる。)。
販売数量に関する原告の主張について この点につき,原告は,被告は商法上保存義務のある日々商品の出入りを記録する商品管理帳簿等の文書を提出していない,被告が開示している販売数量はコストの面等から到底引き合わないものであるなどとして,被告が被告製品の正しい販売数量を開示していないと主張する。そして,原告の申立てにより文書提出命令が発令されたにもかかわらず,被告が被告製品の販売数量を明らかにする文書を提出しないものとして,民事訴訟法224条3項により原告主張の販売数量が認められるべきである,あるいは同法248条により適切な損害が認定されるべきであると主張する。
しかしながら,本件全証拠を総合しても,被告が,開示した販売数量よりも多くの製品を販売していることをうかがわせる事実は認められない。被告が提出した資料に多少の齟齬がある様子もうかがえるが,大きな数ではないし,証拠(乙12ないし乙14等)からすれば,データの誤差あるいはその読み間違い等,いずれに原因のあるものかはともかく,被告が販売数量を故意に秘匿したとまでは認められない。また,証拠(乙10,乙12,乙13)によれば,被告は,原告のいうような日々の商品の出入りを記録する商品管理帳簿を有していないが,甲24の1ないし3のような電算機処理システムによって商品を管理し得ているというのであるから,原告主張の文書を所持していなくても,不自然とまではいえない。したがって,民事訴訟法224条3項を適用する前提が存在するとまでは認められない。また,本件においては,同法248条を適用する前提も存在しない(なお,付言するに,原告は主張していないが,特許法105条の3(実用新案法30条において準用する場合を含む。)についても,同様である。)。原告の主張は,採用できない。
(3) 単位数量当たりの利益の額 証拠(甲29,甲31,甲32)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品に対応する原告商品を原告が販売する際の価格及び仕入価格は,別紙「原告商品販売価格等一覧表」のとおりと認められる。
そして,前述のとおり,特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」は,仮に特許権者において侵害品の販売数量に対応する数量の権利者製品を追加的に製造販売したとすれば,当該追加的製造販売により得られたであろう利益の単位数量当たりの額(すなわち,追加的製造販売により得られたであろう売上額から追加的に製造販売するために要したであろう追加的費用(費用の増加分)を控除した額を,追加的製造販売数量で除した単位数量当たりの額)と解すべきである。そうすると,原告商品を追加的に販売するために必要な経費としては,本件においては,配送手数料程度であると考えられる。原告は,経費として人件費を計上しているが,原告のいう人件費は,常勤の従業員の給与を指すものであるから,原告商品を追加的に販売するために要したであろう費用とはいえない。また,被告が経費として加えられるべきであると主張する,人件費のうち原告が加えていないと思われる法定福利費,労働保険料等,販売費,宣伝広告費,収入印紙代,水道光熱費,車輌諸経費等についても同様である。これら費用は,経費として控除するのは相当ではない。配送手数料以外に多少の変動経費を要することを考慮しても,その額は,別紙「原告商品販売価格等一覧表」の「諸経費」欄記載の金額を上回るものとは認められない。
そうすると,原告商品の単位数量当たりの利益の額は,同表の「純利益」欄の金額を下回るものではないと認められる。ただし,本件特許権2は,原告と訴外宮地鐵工所株式会社との共有であるから,リ号及びヌ号製品については,その利益相当額を2分の1の額とする必要がある。したがって,これら両製品については,純利益の額は10.925円となる。
(4) 原告の利益の額 上記単位数量当たりの利益の額を,上記(2)アで認定した被告製品の販売数量乗じた額の総合計は,314万6931円となる。
5 結論 以上判示したところにより,被告製品の製造・販売の差止め及びその廃棄を求める原告の請求は理由がある。また,損害賠償の請求は,314万6931円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の限度で理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
追加
物件目録後記の別紙イないしヌ号製品説明書記載のとおりのセラミックエンドタブ製品名1イ号製品VSR3,VLR3,VLR502ロ号製品ROBO-T3ハ号製品RVWG4ニ号製品V-LG5ホ号製品V-WG6ヘ号製品F-LG7ト号製品F-WG8チ号製品FMU59リ号製品A67810ヌ号製品A678イ号製品の説明書1図面の説明イ-1図はイ号製品の全体の斜視図2図面の記号の説明11母材11a開先加工面11b開先断面12母材13裏当金14セラミックエンドタブ15レ型溝16a垂直堰16b傾斜堰17脚部3イ号製品の構造の説明中央に上端から下端に通ずるレ型溝(15)からなる溶接使用面を有し,その両側に垂直堰(16a)及び傾斜堰(16b)からなる溶接非使用面を備えており,垂直堰(16a)下端に垂直堰の長軸に沿って下方に突出し,その内側端部が垂直堰(16a)よりわずかに内側まで延びている広幅の脚部(17)を有する構造の溶接用セラミックエンドタブ。
ロ号製品の説明書1図面の説明ロ-1図はロ号製品の全体の斜視図。
2図面の記号の説明24セラミックエンドタブ25ディンプル27長方形突起部28長方形凹部29分割溝3ロ号製品の構造の説明全体が略長方形で,かつ,両面に多数のディンプル(25)を均一に配置するセラミックエンドタブ(24)であって,長手方向の中央部の上端に長方形の突起部(27)を形成するとともに該突起部に対応して中央部の下端に長方形凹部(28)を形成しており,かつ中央部の中心に分割用溝(29)を形成している溶接用セラミックエンドタブ。
ハ号製品の説明書1図面の説明ハ-1図はハ号製品の全体の斜視図。
2図面の記号の説明34連結セラミックエンドタブ34aセラミックエンドタブ35レ型溝36a垂直堰36b傾斜堰37L型脚部38L型脚部と傾斜堰とで形成する空間39分割溝3ハ号製品の構造の説明中央に上端から下端に通ずるレ型溝(35)からなる溶接使用面を有し,その両側に垂直堰(36a)及び傾斜堰(36b)からなる溶接非使用面を備えており,かつ垂直堰(36a)下端に垂直堰(36a)の長軸に沿って下方に突出し,その先端部を内側に折り曲げ傾斜堰(36b)下端部まで延在させたL型脚部(37)を有する構造のセラミックエンドタブ(34a)の二体を垂直堰の側面で分割溝(39)を介して一体化した形態の構造となっている溶接用連結セラミックエンドタブ。
ニ号製品の説明書1図面の説明ニ-1図はニ号製品の全体の斜視図。
2図面の記号の説明41セラミックエンドタブ42平坦面43a垂直堰43b傾斜堰44孔3ニ号製品の構造の説明両表面に平坦面(42)とその両側に垂直堰(43a)と傾斜堰(43b)を有する形状のセラミックエンドタブ(41)であって,その平坦面(42)の下端に肉厚方向に貫通する孔(44)を備え,かつ両表面に形成された平坦面,両堰及び孔とが互いに逆転した配置関係になるように形成されている溶接用セラミックエンドタブ。
ホ号製品の説明書1図面の説明ホ-1図はホ号製品の全体の斜視図。
2図面の記号の説明41溶接用連結セラミックエンドタブ41aセラミックエンドタブ42平坦面43a垂直堰43b傾斜堰44孔45分割溝3ホ号製品の構造の説明両表面に平坦面(42)とその両側に垂直堰(43a)と傾斜堰(43b)を有する形状のセラミックエンドタブ(41)であって,その平坦面(42)の下端に肉厚方向に貫通する孔(44)を備え,かつ両表面に形成された平坦面,両堰及び孔とが互いに逆転した配置関係になるように形成されている溶接用セラミックエンドタブ(41a)の二体を垂直堰(43a)の側面で分割溝(45)を介して一体化した形態の構造となっている溶接用連結セラミックエンドタブ(41)。
へ号製品の説明書1図面の説明へ-1図はへ号製品の全体の斜視図。
2図面の記号の説明51セラミックエンドタブ52平坦面53傾斜堰54孔3へ号製品の構造の説明両表面に平坦面(52)と該平坦面の片側に傾斜堰(53)を有する形状のセラミックエンドタブ(51)であって,その平坦面(52)の下端に肉厚方向に貫通する孔(54)を備え,かつ両表面に形成された平坦面,両堰及び孔とが互いに逆転した配置関係になるように形成されている溶接用セラミックエンドタブ。
ト号製品の説明書1図面の説明ト-1図はト号製品の全体の斜視図。
2図面の記号の説明51溶接用連結セラミックエンドタブ51aセラミックエンドタブ52平坦面53傾斜堰54孔55分割溝3ト号製品の構造の説明両表面に平坦面(52)と該平坦面の片側に傾斜堰(53)を有する形状のセラミックエンドタブ(51a)であって,その平坦面(52)の下端に肉厚方向に貫通する孔(54)を備えたセラミックエンドタブ(51a)の二体を該平坦面及び傾斜堰の上端側面で分割溝(55)を介して一体化した形態の構造となっている溶接用連結セラミックエンドタブ(51)。
チ号製品の説明書1図面の説明チ-1図はチ号製品の全体の斜視図。
2図面の記号の説明61セラミックエンドタブ62平坦面63傾斜堰3チ号製品の構造の説明両表面に平坦面(62)と該平坦面の片側に傾斜堰(63)を有する形状のセラミックエンドタブ(61)であって,その平坦面が傾斜堰から反対側側部に向かって肉厚が薄くなるように厚さ方向にテーパーを有する面をなしている溶接用セラミックエンドタブ。
リ号製品の説明書1図面の説明リ-1図はリ号製品の全体の斜視図。
2図面の記号の説明71セラミックタブ72底辺73截頭75スリット3リ号製品の構造の説明所定の高さを有し,截頭三角形状を有する面の片面底辺(72)近傍に2本の平行な直線状スリット(75)を分割可能な深さで形成した截頭三角形状セラミックタブ。
ヌ号製品の説明書1図面の説明ヌ-1図はヌ号製品の全体の斜視図。
2図面の記号の説明71セラミックタブ72底辺73截頭75スリット3リ号製品の構造の説明所定の高さを有し,截頭三角形状を有する面の片面底辺(72)近傍に浅い2本の平行な直線状スリット(75)を,深さ1o程度で形成した截頭三角形状セラミックタブ。
イ-1図、ロ-1図ハ-1図、ニ-1図ホ-1図、ヘ-1図ト-1図、チ-1図リ-1図、ヌ-1図株式会社スノウチ製品販売数量データー原告商品販売価格等一覧表イ-2図チ-2図チ-3図リ-2図リ-3図リ-4図リ-5図リ-6図リ-7図
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 青木孝之
  • この表をプリントする