関連審決 | 無効2001-35091 無効2001-35273 |
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関連ワード | 分割出願 / 特許発明 / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
523号
審決取消請求事件
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原告A 訴訟代理人弁理士 伊藤充 被告 パナソニックモバイルコミュニケーションズ株式会社 訴訟代理人弁護士 大野聖二 訴訟代理人弁理士 森田耕司 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/02/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が無効2001-35091号事件について平成13年10月16日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「車両ナビゲーション方法」とする登録第2722365号の特許(昭和60年4月20日に出願された特願昭60-83632号(以下「本件原出願」という。)について平成4年4月4日になされた分割出願(以下「本件分割出願」という。)に基づき,平成9年11月28日に設定登録された。 以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。 被告は,平成13年3月6日と同年6月27日に,本件特許(特許請求の範囲に記載された請求項は,一つのみである。)を無効にすることについて審判を請求した。 特許庁は,これらの請求をそれぞれ無効2001-35091号事件,無効2001-35273号事件として,審理の併合をした上,審理し,その結果,平成13年10月16日,「特許第2722365号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,審決の謄本を同年同月26日に原告に送達した。なお,無効2001-35273号事件についてなされた審決については,審決取消訴訟が提起され(当庁平成13年(行ケ)第524号審決取消請求事件),既に判決がなされている。 2 特許請求の範囲 「1.衛星航法等絶対位置検出装置で検出される緯度経度情報等車両の絶対位置情報と, 各走行情報検出器(走行距離計及び走行方向検出器等)で検出される車両の走行情報と, 各アークの分岐関係を含む情報を有する相対モード地図情報と, 該相対モード地図情報の各アークに対応づけられた絶対位置情報を有する絶対モード地図情報に基づき, 前記絶対位置情報に対応する絶対モード地図情報上のアークを検索し, 相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターンと前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき,前記相対モード地図情報に対応する相対表示地図情報(経路名称及び/又は道案内等)を表示する ことを特徴とする車両ナビゲーション方法。」 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件発明は,本件原出願の願書に添付された明細書及び図面(以下,まとめて「原明細書」という。)に記載された発明と認めることができず,本件分割出願を,特許法44条1項に規定される要件を備えているものとすることはできないから,その出願日は,現実の出願日である平成4年4月4日となるとした上,本件発明は,特開平3-26913号公報に記載された発明と同一であると認められる,とするものである。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決は,原明細書の記載を読み誤った結果,「本件発明の「相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターンと前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」との構成(判決注・以下「本件構成」という。)が,原明細書等に記載されていたと認めることはできない。」(審決書9頁2段)と誤って認定したものであり,この誤りが結論に影響することは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 1 本件構成中の「相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターン」について 原明細書には,「そこでシナリオは,第28図,第29図に示すように,少なくとも1回の誤選択に対応すべく記載される。例えば,アーク1から分岐1を直進しアーク2,分岐2を左折,アーク3,分岐3を直進する略最適径路を誤って分岐1を左折した場合,アーク11,分岐11を右折,アーク21を経て分岐3を左折と記載し,所定のアナウンス等をするこで所定の略最適径路に短時間に復帰することが出来る。」(甲第3号証7頁右上欄7行〜15行)と記載され,また,第28図,第29図には,アークの分岐関係が視覚的に図示されており,第31図には,具体的な地図上の道路の分岐関係の様子を表す図が示されている。 原明細書には,「次に,関係地図情報について説明する。前記のシナリオは,各位置の相対関係を表現するので相対モード,又は相対表示と呼ぶ,」(甲第3号証7頁左下欄5行〜7行)と記載されており,シナリオが相対モードの地図情報であることが記載されている。 このように,原明細書には,「前記相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターン」が明確に示されている。 2 本件構成中の「前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」について (1) 原明細書には,次に述べるとおり,ベヒクル局の動作が詳しく記載されている(甲第3号証5頁右下欄17行〜6頁左下欄3行参照)。また,ベヒクル局の同様の動作を表すフローチャートが原明細書の第84-1図(昭和61年9月3日付け補正(以下「本件補正」という。)後の第82-1図)に示されている。 (ア) 原明細書には,「衛星航法等により検出される緯度経度情報で,エリア表現図を検索し,エリア番号(後で説明する。)を算出する。エリア番号より,地名を検索し表示する,絶対表現図に表示する。」(甲第3号証5頁右下欄18行〜6頁左上欄2行)と記載されており,絶対モードにより緯度経度が求められることが示されている。なお,原明細書の第84-1図(本件補正後の第82-1図)の上から2個目のボックスにも「衛星航法等絶対位置検出」と記載され,絶対位置(緯度経度情報)が求められることが示されている。 (イ) 原明細書には,「緯度経度からエリアを特定し,該エリア番号から索引により相対モードに移行し,走行データにもとずき相対モードで位置検出,表示,アナウンス(以後,ナビゲートと呼ぶ)を行う。」(甲第3号証6頁右上欄2行〜6行)と記載されており,絶対モードで求めた緯度経度に基づきエリアを特定し,相対モードに移行すること,及び,相対モードで位置検出や,表示,アナウンスが行われることが示されている。 (ウ) 原明細書第84-1図(本件補正後の第82-1図)の上から3個目のボックスには,「相対モードにより位置確定可能か?」と記載されており,位置確定可能な場合には,4個目のボックスには,「パターン表示,地図表示,エリア表示,アーク表示,各種アナウンス」がなされると記載されている。さらに,4個目のボックスに引き続き,5個目のボックスには,「相対形式による各種表示各種アナウンス」がなされることが図示されている。 (エ) 地図に記録されていない地域に進入した場合には,地図情報と走行情報との比較を行って移動体の位置を検出する相対モードは使用できない。この場合には,絶対モードに移行することになる。原明細書には,このような移行の動作が「地図情報等記録媒体に記録されていない移動可能範囲・・・に移行した場合,・・・前記相対モードによる径路表示から絶対モードによる径路(衛星航法では,検出された緯度経度により,特願昭60-017743では,走行距離計及び方位検出器によるデータにより)表示される。」(甲第3号証6頁右上欄11行〜20行)と記載されている。 (2) 地図情報と走行情報とを比較することは,従来からよく知られている技術であり,原明細書ではそれほど詳しくは説明していない。この技術が従来から知られていることは,「Application of the Compact Disc in Car Information and Navigation Systems」(「SAE Technical Paper Series 840156」,Martin L.G.Thooneほか1名・国際会議及び博覧会,ミシガン州デトロイト,1984年2月27日〜3月2日,105頁〜111頁,甲第4号証。以下「甲4文献」という。)から明らかである。この甲4文献には,マップマッチングのアルゴリズムが示されている。よく知られているように,マップマッチングとは,まさに文字どおり,車両が道路上にあることを前提として,走行情報を地図と比較し,車両の位置を適宜修正する技術である。甲4文献に,「マップマッチング・アルゴリズムであり,これは我々の試験システムにも採用されている。このアルゴリズムでは,車両位置検出部から得られた座標がディジタル道路地図と関係づけられる。車両が常に道路上にあると仮定して,推定位置が対応する道路から逸脱している場合には修正がなされる。」(甲第4号証訳文6頁29行〜33行)と記載されていることからも分かるように,地図情報と走行情報とを比較することは,従来からマップマッチングとしてよく知られている技術である。 審決は,この点に関し,「各種地図情報等と走行情報との相互関係の比較がどのような内容の処理であるのか,相対モードでの位置検出とはどのような検出法であるのかにつき,具体的な記載はないのであるから・・・アークの分岐関係を含む地図情報パターンと各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置を確定するとの技術事項までを把握することはできない。」(審決書8頁末行〜9頁10行)と,指摘している。 しかし,特許明細書とは,従来知られていない新しい発明について説明し,開示をする書面である。したがって,従来から知られている技術については,それほど詳しく説明する必要はない。また,特許発明とは,特許請求の範囲に記載されている全体の構成について把握されるものであり,その全体を分解し,構成要素一つ一つを見ればそれらは従来技術であることも多い。 「地図情報と走行情報の比較」は,上で述べたように,従来からよく知られている技術である。原明細書においてこれについて詳しく説明されていないのは,この技術が従来技術であるためその必要がなかったからであるにすぎない。したがって,「地図情報と走行情報の比較」が把握できないという審決の認定は明らかに誤っている。 「地図情報と走行情報の比較」は,甲4文献に記載されたとおり,原出願前から世の中に知られている技術事項である。そして,この比較の結果,車両位置が確定できれば,それは相対モードで位置の確定ができた場合の一例に相当することはいうまでもないことである。 (3) 原明細書には,「本出願人の出願になる特願昭60-017343に記載の各種地図情報等と,走行情報との相互関係を比較することにより移動体の位置を検出する」(甲第3号証2頁右上欄15行〜18行)という形で,相対モードで,各種地図情報と走行情報との比較により移動体の位置を検出することが記載されている。 審決は,この点について,「被請求人が指摘する,「各種地図情報と,走行情報との相互関係を比較することにより,移動体の位置を検出するシステム。」との記載は,・・・絶対モード位置検出について記載したものと解されるのであって,本件発明の「前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」との技術事項を示すものと解することはできない。」(審決書10頁第1段落)と認定している。 審決のこの認定の根拠は,原明細書に「絶対モード位置検出(衛星航法,特願昭60-017743等による位置検出)処理され」(甲第3号証6頁右上欄)と記載されていることに基づいており,特願昭60-017743の明細書には絶対モードが記載されている,ということを理由とするものである。 特願昭60-017743の明細書に絶対モードが記載されていることは事実である。しかし,そのことは,決して,そこに絶対モード「のみ」が記載され,相対モードが記載されていない,ということを意味するものではない。審決は,特願昭60-017743の明細書に絶対モードのみが記載されていると誤認した結果,原明細書の「特願昭60-017743に記載の各種地図情報等と,走行情報との相互関係を比較することにより移動体の位置を検出するシステム。」(甲第3号証2頁右上欄15行〜18行)を,本件発明の「前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」との技術事項を示すものと解することはできない,という誤った認定をしたものと考えられる。 審決のこの認定が誤りであることは,次のことから明らかである。 審決の認定によれば,原明細書の「絶対モード位置検出(衛星航法,特願昭60-017743等による位置検出)」(甲第3号証6頁右上欄)と,「各種地図情報等と,走行情報との相互関係を比較することにより移動体の位置を検出するシステム。」(同2頁右上欄)とが同一のものであることになる。しかし,原明細書の「絶対モード位置検出(衛星航法,特願昭60-017743等による位置検出)」(甲第3号証6頁右上欄)も,「各種地図情報等と,走行情報との相互関係を比較することにより移動体の位置を検出するシステム。」(同2頁右上欄)と同様に,「各種地図情報等と,走行情報との相互関係を比較」しているはずである。ところが,原明細書には,上記記載に続いて「地図情報等記録媒体に記録されていない移動可能範囲・・・に移行した場合,・・・前記相対モードによる径路表示から絶対モードによる径路(衛星航法では,検出された緯度経度により,特願昭60-017743では,走行距離計及び方位検出器によるデータにより)表示される。」(甲第3号証6頁右上欄11行〜20行)と記載されており,絶対モードは,地図情報に記録されていない範囲(地図に載っていない地域)でも利用することができるものであることが分かる。このことは,上記「各種地図情報等と,走行情報との相互関係を比較」していることと明らかに矛盾する。なぜなら,地図に載っていない地域で地図情報と走行情報とを比較することは原理的に不可能だからである。 このように,審決の上記認定によれば,原明細書の記載に矛盾が生じてしまうため,審決の上記認定が誤っていることは明らかである。 (4) 被告は,特開平3-26913号公報(乙第3号証。以下「乙3文献」という。),特開平4-50718号公報(乙第4号証。以下「乙4文献」という。)を用いて本件発明の内容を認定し,その上で,本件発明が原明細書には記載されていない,と主張している。 乙3文献及び乙4文献には,パターンマッチングに関する発明が記載されている。したがって,被告が主張するように,「一定の演算処理によって,走行パターンと一致する道路を見つけだすこと」に関する記載があるのは当然である。 しかし,本件発明は,そもそもパターンマッチングに限定される発明ではないので,パターンマッチングに関する乙3文献及び乙4文献に基づいて本件発明の構成を認定することは不可能であり,不当である。 |
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被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。 1 原告は,原明細書における分岐関係の記載に基づき,「相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターン」が原明細書に記載されている,と主張している。 しかし,原告が指摘しているのは,走行パターンとの比較処理には関係のない,単なる分岐関係を示す地図情報である。したがって,原告の指摘する記載箇所から,「相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターン」が原明細書に記載されているとは認められない。 2(1) 原告は,原明細書のいくつかの記載を挙げて,「前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」が原明細書に記載されている,と主張している。 しかし,分割出願の要件を満たすためには,分割出願される発明が,原明細書に「発明として」記載されていなければならない。原告の挙げる記載をどのように検討しても,相対モード地図情報上のアークの分岐関係を含む地図情報パターンと各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の車両の位置を確定する,との技術事項を把握することはできない。 本件発明は,各地点の走行情報を積算した走行パターンを用いる以上,乙3文献及び乙4文献にも示されているように,少なくとも,距離や方位といった各地点の走行情報を何らかの形で記憶手段に蓄積して積算し,走行路形状を得ること,及び,走行経路形状である走行パターンと道路形状である地図情報パターンというパターン同士を,パターンの回転,類似度計算等により比較する演算処理が必要である。しかし,原明細書の「各種地図情報等と,走行情報との相互関係を比較」及び「相対モードで位置検出」という記載からは,各地点の走行情報を蓄積して走行パターンを求めるという技術思想も,そのような走行パターンと道路形状のパターンを比較する演算処理技術も,読みとることはできず,原明細書のどこにも,このような技術思想を示唆する記載は,存在していないのである。 (2) 原告は,特願昭60-017743の明細書に相対モードが記載されていないとは原明細書のどこにも示されていない,と主張している。 そもそも,特願昭60-017743の明細書の記載内容は,同明細書の記載内容ということだけで,原明細書の記載内容になるわけではないから,同明細書の記載内容が何であるかについては,議論する必要がない。したがって,審決が問題にしているのも,特願昭60-017743の明細書自体に何が記載されているのかではない。審決が問題にしているのは,原明細書に,何が記載されているか,特に,「各種地図情報と,走行情報との相互関係を比較することにより,移動体の位置を検出するシステム。」がどのように記載されているかである。審決は,原明細書に,「本出願人の出願になる特願昭60-017743に記載の各種地図情報等と,走行情報との相互関係を比較することにより移動体の位置を検出するシステム。」(甲第3号証2頁右上欄15行〜18行)及び「相対モードによるナビゲートに並行して絶対モード位置検出(衛星航法,特願昭60-017743等による位置検出)処理され」(同6頁右上欄8行〜11行)との記載があり,両記載に共通する「特願昭60-017743」より,原明細書においては,前者の位置検出は絶対モード位置検出に関する記載としか読みとれないとしているのである。 |
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当裁判所の判断
審決は,「本件発明の「相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターンと前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」との構成が,原明細書等に記載されていたと認めることはできない。」(審決書9頁14行〜17行)と認定している。 原告は,審決が問題とした上記構成(本件構成)を「相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターン」と「前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」とに分け,このいずれもが原明細書に記載されている,と主張する。 しかし,本件構成は,上記のとおり,地図情報パターンと走行パターンとの比較により車両の位置を確定するというものであるから,これを原告主張のように二つに分けて論じるだけで足りるとすることはできない。特許法44条1項は,「特許出願人は,願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内に限り,二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」と規定しているのであるから,本件構成を含む本件発明全体が,そこに示された発明であるものとして,当業者が理解し,実施し得る程度に,原明細書に記載されている必要があるのである。審決は,本件発明の構成中,少なくとも本件構成が原明細書に記載されていない,と認定判断したものであるから,まず,本件構成が原明細書に記載されているかどうかについて,判断する。 1 原明細書には,「そこでシナリオは,第28図,第29図に示すように,少なくとも1回の誤選択に対応すべく記載される。例えば,アーク1から分岐1を直進しアーク2,分岐2を左折,アーク3,分岐3を直進する略最適径路を誤って分岐1を左折した場合,アーク11,分岐11を右折,アーク21を経て分岐3を左折と記載し」(甲第3号証7頁右上欄7行〜13行),「次に,関係地図情報について説明する。前記のシナリオは,各位置の相対関係を表現するので相対モード又は,相対表示と呼ぶ」(同7頁左下欄5行〜7行)との記載がなされ,第28図及び第29図には誤走行復帰説明図が,第31図には経路記載説明図が示されている。 原告は,本件構成中の「相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターン」について,原明細書の上記記載及び図面を挙げ,分岐関係が記録されていること及びシナリオが相対モードの地図情報であることが明確に示されている,と主張する。 しかし,原明細書の上記記載及び図面には,「分岐」,「相対モード」に関する記載は認められるものの,「地図情報パターン」との記載はなく,「各走行情報から算出される走行パターン」との比較の対象として「地図情報パターン」を用いる旨の記載も認められない。そうである以上,原明細書については,少なくとも,各走行情報から算出される走行パターンとの比較の対象として,「前記アークの分岐関係を含む地図情報パターン」が記載されていると積極的に認めることはできない,ということができる。 審決は,上記のように,本件発明の「相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターンと前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」との本件構成が原明細書に記載されているかどうかを問題としているのであり,この問題に肯定的に答えるためには,「走行パターン」と比較されるべき,「相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターン」が原明細書に示されていなければならないのであるから,走行パターンとの比較と無関係に分岐や相対モードの記載があると主張するだけの原告の上記主張は,主張自体としても理由がないことが明らかである。 2 原明細書には,「衛星航法等により検出される緯度経度情報で,エリア表現図を検索し,エリア番号(後で説明する。)を算出する。エリア番号より,地名を検索し表示する,絶対表現図に表示する。」(甲第3号証5頁右下欄18行〜6頁左上欄2行),「位置検出装置により検出される緯度経度からエリアを特定し,該エリア番号から索引により相対モードに移行し,走行データにもとずき相対モードで位置検出,表示,アナウンス(以後,ナビゲートと呼ぶ)を行う。」(同6頁右上欄1行〜6行),「地図情報等記録媒体に記録されていない移動可能範囲(通常,利用されない空地,全国用地図情報等記録媒体に記載のない細部の道,新規に造られた道路)に移行した場合,及びアークエリア,ノードエリアの範囲外に移行した場合,その旨アナウンスし,前記相対モードによる径路表示から絶対モードによる径路(衛星航法では,検出された緯度経度により,特願昭60-017743では,走行距離計及び方位検出器によるデータにより)表示される。」(同6頁右上欄11行〜20行),「各種地図情報等と,走行情報との相互関係を比較することにより移動体の位置を検出する」(2頁右上欄16行〜18行)との記載がされ,第84-1図(本件補正後の第82-1図)には,「ベヒクル局」についての流れ図が示され,その上から3個目のボックスには,「相対モードにより位置確定可能か?」と記載され,位置確定可能な場合には,「パターン表示,地図表示,エリア表示,アーク表示,各種アナウンス」がなされると4個目のボックスに記載されており,5個目のボックスには,「相対形式による各種表示各種アナウンス」がなされることが記載されている。 原告は,本件構成中の「前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」について,原明細書の上記記載及び図面を挙げ,絶対モードにより緯度経度が求められること,絶対モードで求めた緯度経度に基づき相対モードに移行すること,相対モードで位置検出や,表示,アナウンスが行われること,地図に記録されていない地域に進入した場合には絶対モードに移行すること,相対モードでは「各種地図情報等と,走行情報との相互関係を比較することにより移動体の位置を検出する」ことが示されている,と主張する。 しかしながら,原告の挙げた原明細書の上記箇所をみても,「各走行情報から算出される走行パターン」との記載,及び,このような走行パターンを「前記アークの分岐関係を含む地図情報パターン」との比較に用いるとの記載を見いだすことはできない。 すなわち,本件発明においては,各地点の走行情報を積算した走行パターンを用いる以上,乙3文献及び乙4文献にも示されているように,距離や方位といった各地点の走行情報を何らかの形で記憶手段に蓄積して積算し,走行路形状を得ること,及び,走行経路形状である走行パターン及び道路形状である地図情報パターンというパターン同士を,パターンの回転,類似度計算等により比較する演算処理が必要不可欠な処理となる(乙第3,第4号証)。しかし,原明細書の「各種地図情報等と,走行情報との相互関係を比較」との上記記載及び「相対モードで位置検出」との上記記載からは,各地点の走行情報を蓄積して走行パターンを求めるという技術思想を読み取ることはできず,まして,そのような走行パターンと道路形状のパターンを比較する演算処理に関しても,何らの示唆も得られない。その他,原明細書のどこにも,このような技術思想を直接示す記載も,それを示唆する記載も,認めることはできないのである。 原告は,審決が「各種地図情報等と走行情報との相互関係の比較がどのような内容の処理であるのか,相対モードでの位置検出とはどのような検出法であるのかにつき,具体的な記載はないのであるから,上記原明細書等の記載からは,各種地図情報等と走行情報との相互関係を比較することにより移動体の位置を検出するとの技術が特願昭60-017743に記載されていたこと,相対モードでの位置検出が走行データにもとづくものであること,相対モードにより位置確定可能な場合があること,が把握されるにとどまるのであって,さらにすすんで,相対モード地図情報上のアークの分岐関係を含む地図情報パターンと各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の車両の位置を確定するとの技術事項までを把握することはできない。」(審決書8頁末行〜9頁10行)と認定した点につき,審決指摘の技術につき原明細書で詳しく説明をしていないのは,それらが従来技術であるためその必要がなかったからであるにすぎない,と主張する。 しかし,上に述べた特許法44条1項の規定によれば,分割出願をするためには,分割の対象となる事項が原明細書に発明として記載されていることを要するのであり,原明細書に発明として記載されていないにもかかわらず,原明細書に記載された事項に周知の技術事項を勝手に付け加えたものを発明として構成し,これを分割出願の対象とする,ということは許されないのである。 原告は,周知の技術事項として,甲4文献における,「マップマッチング・アルゴリズムであり,これは我々の試験システムにも採用されている。このアルゴリズムでは,車両位置検出部から得られた座標がディジタル道路地図と関係づけられる。車両が常に道路上にあると仮定して,推定位置が対応する道路から逸脱している場合には修正がなされる。」(甲第4号証訳文6頁29行〜33行)との記載を挙げ,この記載から,地図情報と走行情報とを比較することは,従来からマップマッチングとしてよく知られている技術である,と主張する。 しかし,甲4文献の上記記載は,自立航法技術(車両の走行による距離と方向,及び/又は,これら数値の微分値を図るセンサに基づいて,既知のスタート地点から走行の軌跡を計算するもの)におけるセンサの計測誤差の蓄積の補正を,推定位置が対応する道路から逸脱している場合の修正としてなされることを記述しているものであり(甲第4号証訳文6頁第3,第4段落),この記載と原明細書の上記記載を総合しても,本件構成(「相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターンと前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」)が原明細書に記載されているものと認めることができないことは明らかである。 原告は,乙3文献及び乙4文献には,パターンマッチングに関する発明が記載されているのに対し,本件発明は,そもそもパターンマッチングに限定される発明ではないので,パターンマッチングに関する乙3文献及び乙4文献に基づいて,本件発明の構成を認定することは不当である,と主張する。しかし,原告が主張する「パターンマッチング」との語の意味が明確かどうかは別としても(原明細書にも,本件明細書にも,この用語は使用されていない。),本件出願が適法な分割出願であるというためには,原明細書に「相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターンと前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」との本件構成が明確に記載されていなければならないことに変わりはなく,原明細書にそのような構成を意味する記載が必要であるのに,そのような記載がないことは上記のとおりである以上,原告の上記主張は理由がない。 3 原告は,審決が,「被請求人が指摘する,「各種地図情報と,走行情報との相互関係を比較することにより,移動体の位置を検出するシステム。」との記載は,原明細書等の「本出願人の出願になる特願昭60-017743に記載の各種地図情報等と,走行情報との相互関係を比較することにより移動体の位置を検出するシステム。」(2頁右上欄15-18行)との記載の一部であるところ,原明細書等には「相対モードによるナビゲートに並行して絶対モード位置検出(衛星航法,特願昭60-017743等による位置検出)処理され」(6頁右上欄8-11行)とも記載されているのであるから,被請求人の指摘する上記記載は,絶対モード位置検出について記載したものと解されるのであって,本件発明の「前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」との技術事項を示すものと解することはできない。」(審決書10頁1行〜12行)と判断した点につき,これを誤りである,と主張する。 原告は,その根拠として,特願昭60-017743の明細書に絶対モード「のみ」が記載され,相対モードが記載されていないとは認められないことなどを主張する。 原明細書には,特願昭60-017743の明細書について詳細な記載がされているわけではなく,特願昭60-017743は出願されただけの明細書であり,刊行物ではないから,第三者はその内容を知ることができない。したがって,特願昭60-017743の明細書等に「絶対モード」のみが記載されているというべき根拠を見出すことはできないのであるから,原明細書における「相対モードによるナビゲートに並行して絶対モード位置検出(衛星航法,特願昭60-017743等による位置検出)処理され」(甲第3号証6頁右上欄8行〜11行及び16行〜20行)との記載が,「絶対モード」に関するものであるとしても,原明細書の「本出願人の出願になる特願昭60-017743に記載の各種地図情報等と,走行情報との相互関係を比較することにより移動体の位置を検出するシステム。」(甲第3号証2頁右上欄15行〜18行)との記載も,「絶対モード」に関するものである,というべき根拠は認められない。したがって,審決が,上記のように,原明細書の上記記載(甲第3号証2頁右上欄15行〜18行)について「被請求人の指摘する上記記載は,絶対モード位置検出について記載したものと解される」(審決書10頁8行〜10行)とした点は十分な根拠を有しないものという以外にない。 しかしながら,審決は,上記箇所では,最終的に,「本件発明の「前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」との技術事項を示すものと解することはできない。」(審決書10頁10行〜12行)との結論を述べているのであり,原明細書の上記記載(甲第3号証2頁右上欄15行〜18行)が「絶対モード」に関するものでないとしても,このことにより,直ちに本件発明の「前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」との事項が原明細書に示されているということはできないことは上記のとおりであり,審決の上記箇所の結論部分が誤りであるということはできない。 原告の上記主張は,審決における分割出願の要件の判断の本論を離れた傍論の一部に関するものであり,この点の誤りが審決の分割出願の要件の判断に影響するものということはできないのである。 |
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結論
以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 高瀬順久 |