関連審決 | 異議2000-71637 |
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関連ワード | 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 合理的な理由 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
490号
特許取消決定取消請求事件
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原告 日本電波工業株式会社 訴訟代理人弁理士 嶋宣之 同 松浦恵治 被告 特許庁長官太田 信一郎 指定代理人 小林信雄 同 川名幹夫 同 大橋良三 同 高橋泰史 同 涌井幸一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/02/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が異議2000-71637号事件について平成12年11月6日にした「特許第2969526号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「表面実装用小型水晶発振器」とする特許第2969526号の特許(平成2年3月22日特許出願,平成11年8月27日設定登録,以下「本件特許」という。)の特許権者である。 本件特許に対し,請求項1につき,特許異議の申立てがあり,その申立ては,異議2000-71637号事件として審理された。原告は,この審理の過程で,平成12年9月22日,本件特許の出願に係る願書に添付された明細書の訂正を請求した(以下,この訂正を「本件訂正」という。本件訂正による訂正後の明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。)。特許庁は,上記事件につき審理し,その結果,平成12年11月6日,「訂正を認める。特許第2969526号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定をし,平成12年11月22日にその謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲(本件訂正による訂正後のもの。これにより特定される発明を,以下「本件発明」という。) 「【請求項1】積層セラミックからなる凹状の容器本体内にATカットからなる水晶片とICとを配置し,該容器本体の側壁上面に設けた溶接リングと金属カバーとをシーム溶接により接合して密封した表面実装用の水晶発振器において,前記容器本体の一端側に段部を設けて水晶片の一端側を保持し,前記容器本体の底面と前記水晶片との間隙に前記ICを位置させて,前記容器本体の底面に前記ICを固着するとともに,前記積層セラミックの積層面から導電路が延出して前記容器本体の外表面に前記水晶片の両端子を別個に導出したことを特徴とする水晶発振器。」 3 決定の理由 決定は,別紙決定書の写しのとおり,本件訂正を認めた上,本件発明は,本件特許出願前に頒布された刊行物である特公昭57-4130号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された発明(具体的には第13図に記載された発明である。以下「引用発明1」という。)及び特開昭62-165418号公報に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである,と認定判断した。 決定が,上記認定判断において,本件発明と引用発明1との一致点・相違点として認定したところは,次のとおりである。 一致点 「セラミックからなる凹状の容器本体内に水晶片とICとを配置した表面実装用の水晶発振器において,前記容器本体の一端側に段部を設けて水晶片の一端側を保持し,前記容器本体の底面と前記水晶片との間隙に前記ICを位置させて,前記容器本体の底面に前記ICを配置するとともに,前記容器本体の外表面に前記水晶片の両端子を導出したことを特徴とする水晶発振器。」 相違点 「本件発明は,容器の材料に積層セラミックを用いているのに対して,刊行物1のものは,容器の材料を単にセラミックとしか記載していない点」(相違点1) 「本件発明は,水晶片がATカットからなっているのに対して,刊行物1のものは,NTカットからなっている点」(相違点2) 「本件発明は,封止構造,すなわち,容器本体の側壁上面に設けた溶接リングと金属カバーとをシーム溶接により接合して密封した封止構造を有しているのに対して,刊行物1には封止構造については記載がない点」(相違点3) 「本件発明においては,ICを容器本体の底面に固定したのに対して,刊行物1においては,ICの固定構造については記載がない点」(相違点4) 「本件発明は,積層セラミックの積層面から導電路が延出しているのに対して,刊行物1には,導電路については明確には記載されていない点」(相違点5) 「本件発明は,水晶片の両端子を別個に導出しているのに対して,刊行物1記載のものは,水晶片の両端子を別個には導出していない点」(相違点6) |
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原告主張の決定取消事由の要点
決定は,本件発明と引用発明1との一致点の認定を誤り(取消事由1),本件発明の進歩性の判断を誤った(取消事由2)ものであり,これらの誤りが決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 決定の本件発明と引用発明1との一致点の認定には重大な誤りがある。 決定は,「刊行物1には,従来例として,第1欄第36行〜第2欄第3行に,「振動子1は数十ミクロンのATカット水晶板からフォトエッチングで抜き取られる。電極2,3はワイヤー4,5をボンディングすることによって端子6,7に接続される。」と記載されており,さらに,第13図の説明として,「IC49とこのメタライズ部はボンディングワイヤ50で接続され,ケース外のメタライズ部51を通じてリード取り出しが行われる。」と記載されている。この従来例の説明及び第13図及びその説明を考慮すると,刊行物1からは,容器本体の外表面に水晶片の両端子を導出させていることが読み取れる。」(決定書7頁第5,第6段落)と,認定し,この認定を前提として,本件発明と引用発明1とを対比し,「両者は,「・・・前記容器本体の外表面に前記水晶片の両端子を導出したことを特徴とする水晶発振器。」である点で一致」(決定書8頁第4段落)するとした。 (2) しかし,刊行物1の説明の全体を検討しても,刊行物1からは,「容器本体の外表面に水晶片の両端子を導出させていること」は全く読み取ることができない。 (ア) 刊行物1の第13図に示されている複数の端子(メタライズ部51)とは,本件発明で採用している「水晶片の両端子」ではなく,「IC電極の各端子」である。刊行物1の第13図に関する説明では,「第13図は本発明の特徴を最大限に発揮する実施例の概観図である。ケース46には段47が作られ段上で影をつけた部分48にはメタライズが施されている。IC49とこのメタライズ部はボンディングワイヤ50で接続され,ケース外のメタライズ部51に通じてリード取り出しが行われる。」(甲第3号証5欄第3段落)と記載されているにすぎない。 本件発明及び引用発明1に係る水晶発振器は,基本的には水晶振動子とコンデンサーと増幅器とから構成される。そして,その中のコンデンサーと増幅器をICとし,このICに水晶振動子を接続するのが一般的な構成である。 これを別紙参考図(原告が刊行物1の第13図を拡大したうえで番号等の書き込みをしたもの(甲第5号証)。)で見れば,引用発明1の水晶発振器は,IC49と水晶振動子52とをケース46内に組み込むとともに,このICと水晶振動子とをワイヤー100,金属板105及びワイヤー101で接続している構成であると容易に想像することができる。また,刊行物1の符号51(メタライズ部)はIC49の外部端子である。この符号51に並ぶように表示された斜線部分の外部端子110,111,112,113は,刊行物1の第13図においては何らの符号も付されていないのであるから,特に断りのない限り,符号51と同様の外部端子であると考えられる。水晶振動子52は,IC49に接続され,水晶発振器として動作することが可能な構成となっているので,外部端子112,113を水晶振動子の両端子であると考えるべき合理的な理由は存在しない。したがって,刊行物1の第13図に示されている実施例である引用発明1は,別紙回路図(甲第10号証)の図1に示した回路構成を取っているものである,とみるべきである。 刊行物1には,水晶振動子の端子に関して,ICと接続する端子(内部接続線路)とは別の端子をケースから導出していることについては,その直接的な記載もなければこれを示唆する記載もないのである。 (イ) 刊行物1の従来例及び第9図ないし第12図の各実施例は,振動子とICとを同一容器に収容するものではなく,単に水晶振動子の支持構造を示しているものにすぎない。したがって,決定が,前記のとおり,「この従来例の説明及び第13図及びその説明を考慮すると,刊行物1からは,容器本体の外表面に水晶片の両端子を導出させていることが読み取れる。」(決定書7頁第6段落)と認定しているのは,根拠がないことである。すなわち,刊行物1の従来例に,水晶振動子の両端子をボンディングワイヤ等を用いて出力している構成が示されているのは事実であるとしても,そこにおいては,ICは組み込まれておらず,水晶振動子しかないのであるから,これを水晶振動子とIC回路とを組み込んだ発振器とそのケースである引用発明1(刊行物1の第13図のもの)にそのまま当てはめることはできないのである。 (ウ) 以上からすれば,引用発明1における複数の端子(メタライズ部51)が,ICに接続するための「IC電極の各端子」であることは,明らかなことというべきである。 (3) 本件明細書には,「この実施例では,第2図に示したように,外部端子は電源端子(未図示),共通電位端子(アース)E,スタンバイ端子S(未図示),出力端子Oの他に,第2図の回路図に示したように水晶振動子11の両端子a,bを延出している。」(甲第2号証4欄第1段落)との記載があり,特許請求の範囲の記載においても,この点を明確にするため「・・・,前記積層セラミックの積層面から導電路が延出して前記容器本体の外表面に前記水晶片の両端子を別個に導出したことを特徴とする水晶発振器。」と記載されている。 これらの記載からすれば,本件明細書の第2図に示された「端子a,b」とは,ICに接続するための,単なる「IC電極の各端子」の意味ではなく,水晶振動子から延出した「水晶振動子11の端子a,b」の意味であることが明らかである。 以上によれば,決定で示された本件発明と引用発明1との一致点の上記認定中,「前記容器本体の外表面に前記水晶片の両端子を導出した」との部分には,引用発明1を誤認したため,両発明の相違点とすべきところを一致点としたという,重大な誤りがあることが明らかである。 2 取消事由2(相違点6についての認定判断の誤り) (1) 決定は,本件発明と引用発明1との相違点の一つ(相違点6)として,「本件発明は,水晶片の両端子を別個に導出しているのに対して,刊行物1記載のものは,水晶片の両端子を別個には導出していない点」(決定書9頁第3段落)を認定し,この相違点6について,「刊行物1には,水晶片の両端子を導出することが記載されており,一方,本件発明においては,発振器の回路構成について何等具体的な記載がないから,両端子を別個に導出することに格別の意味は見いだせない。したがって,水晶片の両端子を別個に導出した点は単なる設計事項にすぎないものである。」(決定書9頁最下段)と認定判断した。 しかし,上記のとおり,刊行物1には,そもそも「水晶片の両端子を導出する」ことは記載されていない。したがって,決定が相違点6についての検討において行った,引用発明1の上記認定は,誤っており,このような誤った認定を前提として導き出された判断も,当然に誤りである。 本件明細書には,「そして,外表面には水晶振動子の端子a,bを別個に導出したので,水晶振動子単体としても利用できるとともに,例えば発振回路のC-MOSICが故障したとしても予備回路を設けることにより動作し得る」(甲第2号証4欄20行〜23行,本件訂正)と記載されている。水晶振動子から別個に導出した両端子(一対の端子)の利用形態は,別紙説明図(甲第8号証)に示したとおり,「(1)水晶振動子単体としての利用」,「(2)ICが故障した場合の利用」,「(3)不可回路の接続に利用」,及び,「(4)水晶振動子の測定に利用」,のそれぞれの利用が可能であり,これらの利用形態は,いずれも水晶振動子の両端子が導出されていればこそ実施し得るものである。 別紙説明図(甲第8号証)の利用形態の上記(1)及び(2)は,本件明細書の従来例第4図(b)で示されるような周知の発振回路を接続すればよいことであり,このようなことは当業者にとって自明の利用方法である。上記(3)は,「電子回路ノウハウ 発振回路の完全マスター」(稲葉保著,151頁,図7-14,甲第9号証)に示されるように,水晶発振器を構成する水晶振動子の端子に電圧可変容量素子を接続し,電圧可変容量素子に制御電圧を印加して水晶発振器の発振周波数を制御すればよいことであり,このようなことは周知の技術事項である。したがって,この利用も,当業者にとって自明の利用方法である。上記(4)は,水晶振動子の両端子を測定器に接続してインピーダンス特性を測定することであり,これまた,当業者にとって自明の利用方法である。 従来は,発振器に水晶振動子をいったん組み込んだ後に,その水晶振動子を単体として利用するという考え方は全く存在しなかった。本件発明は,水晶振動子の両端子を容器本体の外表面に設けることによって,前記(1)ないし(4)の利用が可能になったものであり,この点において,本件発明と引用発明1との間には決定的な相違がある。 (2) 特開昭61-50414号公報(乙第1号証,以下「乙1文献」という。)について 被告が周知技術として引用する乙1文献は,原告の出願に係るものである。乙1文献の発振器ユニット(水晶発振器)は,一組の蓋体とリード端子を有する基板を用いたもので,本件発明のように凹状の容器本体を積層セラミックで構成して積層セラミックの積層面から導電路を延出した表面実装用の水晶発振器ではない。また,乙1文献の第5図の発振器ユニットにおいては,確かに水晶振動子(水晶片21)を保持した外部端子が導出されているものの,「発振器とし動作させるためには水晶片21を保持する外部端子31に発振回路素子の一部を外部にて接続する必要があるので,実用上5本以上のリード端子を容器から導出することが望ましい」(乙第1号証4頁右上欄13行〜17行)と記載されていることから分かるとおり,ここでは,水晶片21と発振回路素子(IC等)とを内部では接続していないため,水晶片21を保持する外部端子と回路側としての発振回路素子に接続した端子とを外部で接続する必要があるのである。これを図で示せば,別紙回路図(甲第10号証)の【図3】のとおりであり,振動子の端9,10と接続するICからの端子12,13を外部に導出して両者が外部において接続されるものである(「実用上5本のリード線を容器から導出する」との上記記載は,「水晶振動子の外部端子を除いて5本のリード線を容器から導出する」との意味である。)。 これに対し,本件発明は,別紙回路図の【図2】のとおり,水晶振動子とICとを内部で接続した上で,水晶振動子の両端子を外部に導出するものである。 したがって,本件発明と乙1文献に記載された技術とはそもそも異なるのであり,水晶片の端子を別個に導出する本件発明は,格別の効果を期待できるものであり,決定の上記判断は誤りである。 |
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被告の反論の骨子
決定の認定判断はいずれも正当であって,決定を取り消すべき理由はない。 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について 刊行物1には,その第5図について,金属被膜18,19上に水晶振動子を接着し,裏,表の電極をボンディングワイヤ20,21を用いてピン22,23に導くこと,及び,水晶振動子とともにこれと共働するICをも同一容器に収納することが記載されている(甲第3号証2欄32行〜3欄19行)。そして,刊行物1の第10図ないし第13図の実施例は,上記記載を前提として記載されているのであるから,水晶振動子とともに共働するICを同一容器に収納し,水晶振動子が接着された金属膜とボンディングワイヤにより,側壁中を通ってケース外部に通じていることが記載又は示唆されている,ということができる。 したがって,決定が「前記容器本体の外表面に前記水晶片の両端子を導出したことを特徴とする水晶発振器。」(決定書8頁第4段落)を本件発明と引用発明1との一致点と認定したことに誤りはない。 2 取消事由2(相違点6についての認定判断の誤り)について 乙1文献には,「近年においては,各種電子機器の小型化指向に伴い,水晶片と例えばIC,LSI等の半導体素子や抵抗コンデンサ等の回路素子とを一つの容器内に封入した複合圧電ユニットが注目されている。」(1頁右下欄13行〜17行),「本発明の複合圧電ユニットの説明にあっては,複合圧電ユニットを例えば発振器ユニットとして説明する。」(2頁左下欄10行〜12行),「第5図は本発明の,更に他の実施例図で,この実施例図においては,基板15を保持し,容器14外に導出する外部端子22を容器内にて,水晶片22の保持部材として利用できるようにしたもので,第5図(a)は発振器ユニットの断面図,同図(b)は主要部分の分解図である。図中,31は水晶片21を保持する外部端子で,この外部端子31は,水平方向に,スリット32が形成された先端部が折曲されて,水晶片21の両端部を前記スリット32にて狭持した」(4頁左上欄18行〜右上欄6行),「この実施例においては発振器とし動作させるためには水晶片21を保持する外部端子31に発振回路素子の一部を外部にて接続する必要があるので,実用上5本以上のリード端子を容器から導出することが望ましい。」(4頁右上欄13行〜17行)ことが記載されている。 上記記載によれば,水晶片とIC,LSI等の半導体素子や抵抗,コンデンサ等の回路素子とを一つの容器内に封入した発振器ユニットにおいて,水晶片の両端子を容器の外部に導出する外部端子は周知の事項である。 このように,水晶片の両端子を容器の外部に別個に導出することは周知の事項であるから,決定が,「水晶片の両端子を別個に導出した点は単なる設計事項にすぎないものである」と判断した点に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について 決定は,「本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると,・・・両者は,「セラミックからなる凹状の容器本体内に水晶片とICとを配置した表面実装用の水晶発振器において,前記容器本体の一端側に段部を設けて水晶片の一端側を保持し,前記容器本体の底面と前記水晶片との間隙に前記ICを位置させて,前記容器本体の底面に前記ICを配置するとともに,前記容器本体の外表面に前記水晶片の両端子を導出したことを特徴とする水晶発振器。」である点で一致し」(決定書8頁第4段落)と認定した。原告は,刊行物1からは,「容器本体の外表面に水晶片の両端子を導出させていること」は全く読み取ることができず,決定の上記認定中,「前記容器本体の外表面に前記水晶片の両端子を導出した」点で一致するとの認定には,相違点とすべきところを一致点とした重大な誤りがある,と主張する。 刊行物1には,「本発明は音叉型水晶振動子の固定支持方法に関する。本発明の目的は水晶と収納ケース材料との熱膨張率の違いによるひずみが水晶振動子に悪い影響をおよぼさないようにすることにある。」(甲第3号証1欄23行〜26行),「第5図に示すように絶縁体24で台をつくりその表面を2分割した金属被膜18,19でおおい,この被膜上に振動子を接着する。裏,表の電極はボンディングワイヤ20,21を用いてピン22,23に導かれている。」(同3欄7行〜12行),「従来振動子を収納するケースとしては金属製のものがもっぱら用いられてきた。しかし振動子とともにこれと共働するICをも同一容器に収納すれば,さらに小型化が期待できる。この場合にはリード線のとり出し方などの見地からケースがセラミック等の絶縁体でできている方が好都合である。」(同3欄13行〜19行),「第13図は本発明の特徴を最大限に発揮する実施例の概観図である。 ケース46には段47が作られ段上で影をつけた部分48にはメタライズが施されている。IC49とこのメタライズ部はボンディングワイヤ50で接続され,ケース外のメタライズ部51に通じてリード取り出しが行われる。また,水晶振動子52は先の例で示した方法で接着,固定されている。この図より明らかなように,本例ではICと振動子が非常にコンパクトに一体化されており,本発明の特徴をいかんなく発揮する。」(同5欄17行〜6欄1行),「本発明を用いれば,セラミック製のケースの特長を十分に発揮し,耐衝撃性も改善されるので,特に腕時計に用いた場合の効用は大きい。」(同6欄2行〜5行)との記載がある。 刊行物1のこれらの記載によれば,刊行物1には,水晶振動子の固定支持に関する発明において,振動子とともにこれと共働するICをも同一容器に収納すればさらに小型化が期待でき,この場合にはケースがセラミック等の絶縁体でできている方が好都合であることが示され,その第13図には,ICと振動子が同一容器内に収納されること及びIC49がボンディングワイヤ50でメタライズ部48と接続され,ケース外のメタライズ部51に通じてリード線の取り出しが行われることが開示されているものと認められる。 刊行物1の第13図(引用発明1は,これにより示される発明である。)には,ケース46内の水晶振動子52の図面上左側にボンディングワイヤ50と同様な2本の線が描かれ,これに対応するケース46の外側の位置にメタライズ部51と同様な斜線で影をつけた部分が描かれているものの,これがどのような機能を有するものであるかについては明確な記載がない。 したがって,刊行物1の上記記載及びその第13図によっても,引用発明1の回路構成については,それが,別紙回路図の【図1】に示されるように,水晶振動子とICをケース内部で接続し,ICを外部と接続したものであるのか,同回路図の【図2】に示されるように,水晶振動子とICをケース内部で接続し,ICを外部と接続した上で,水晶振動子の両端子を別途導出したものであるのか,同回路図の【図3】に示されるように,水晶振動子とICをケース内部で接続せずに,水晶振動子の両端子とICとをケース外部に別途導出したものであるのかは,明らかではなく,そのいずれとも解し得るものである。すなわち,引用発明1の回路構成は,別紙回路図の【図2】,【図3】のとおり,水晶振動子の両端子を別個にケース外部に導出しているものである可能性もあるものの,別紙回路図の【図1】のとおり,水晶振動子の両端子を別個にケース外部に導出しているものではない可能性もあり,これをそのいずれであるとも認定することはできない。 これに対し,本件発明は,その請求項1に記載されたとおり,「前記積層セラミックの積層面から導電路が延出して前記容器本体の外表面に前記水晶片の両端子を別個に導出したことを特徴とする水晶発振器」であり,この記載からすれば,本件発明は,別紙回路図の【図2】及び【図3】の回路構成のものの双方を含むものであり,同回路図の【図1】の回路構成のものは含まない,と解することができる。また,本件明細書の第2図(本件発明の一実施例の発振回路図)の記載は,別紙回路図の【図2】の回路構成のものを示すものであり,本件明細書の【発明の詳細な説明の欄】の(実施例)中の「そして,外表面には水晶振動子の端子a,bを別個に導出したので,水晶振動子単体としても利用できるとともに,例えば発振回路のC-MOSICが故障したとしても予備回路を設けることにより動作し得る。」(甲第2号証4欄20行〜23行・本件訂正)との記載は,同回路図の【図3】の回路構成のものをも説明しているものと理解することができることからすれば,このような本件明細書の発明の詳細な説明とその図面からも,本件発明は,請求項1の記載のとおり,別紙回路図の【図2】及び【図3】の回路構成のものを含むものであり,同回路図の【図1】の回路構成のものを含まない,ものというべきである。 決定は,本件発明と引用発明1について,「前記容器本体の外表面に前記水晶片の両端子を導出した」(決定書8頁第4段落)ことを一致点と認定し,その上で,「本件発明は,水晶片の両端子を別個に導出しているのに対して,刊行物1記載のものは,水晶片の両端子を別個には導出していない点」(決定書9頁第3段落)を相違点6と認定している。本件発明は,前記認定のとおり,水晶片の両端子を容器本体の外表面に別個に導出したものであるのに対し,引用発明1は,前記認定のとおり,水晶片の両端子を容器本体の外表面に別個に導出したものであるとまで認定することはできないものであるから,相違点6の認定に誤りはない(決定の相違点6の上記認定は,本件発明については,そのとおりであり,引用発明1については,水晶片の両端子を別個に導出したものと認定することができない(そうである可能性も否定はできない)ものを,「水晶片の両端子を別個には導出していない」と積極的に認定している点でやや不正確な点はあるものの,両者間の相違点を強調して認定した上で,後記2のとおり,これを単なる設計事項にすぎない,と認定判断したのであるから,本件発明の特許性についての検討における相違点の認定としては,これを誤りということはできない。 そして,決定が,一方で,前記のとおり,「前記容器本体の外表面に前記水晶片の両端子を導出した」(決定書8頁第4段落)点を,本件発明と引用発明1との一致点と認定しつつ,他方では,上記のとおり,「本件発明は,水晶片の両端子を別個に導出しているのに対して,刊行物1記載のものは,水晶片の両端子を別個には導出していない点」を相違点6として認定していることを前提に,この両者を矛盾することなく理解しようとすれば,引用発明1においては,水晶片の両端子を別個にではなく導出したこと,すなわち,水晶片の両端子からの出力をICの導出を通じて間接的に導出している,との趣旨であると解す以外にない。そうすると,決定の一致点の上記認定は,「水晶片の両端子を導出した」との表現は不正確ではあるものの,その認定には何ら誤りはない,というべきである。 原告は,刊行物1の説明の全体を検討しても,刊行物1からは,「容器本体の外表面に水晶片の両端子を導出させていること」は全く読み取ることができない,と主張する。この原告の主張は,刊行物1からは,「容器本体の外表面に水晶片の両端子を別個に導出させていること」は全く読みとることができない,との主張であることは,原告の主張自体から明らかである。決定が,「水晶片の両端子を別個に導出させていること」を本件発明と引用発明1との相違点6として認定していることは,前記のとおりであるから,原告のこの主張は,決定の一致点認定の趣旨を,決定の上記相違点6の認定とは矛盾する趣旨のものに理解した上で,これを論難するものにすぎず,その主張は理由がないという以外にない。 本件発明と引用発明1についての,決定の一致点の認定に誤りはない。取消事由1は,理由がない。 2 取消事由2(相違点6についての認定判断の誤り)について 決定は,相違点6(「本件発明は,水晶片の両端子を別個に導出しているのに対して,刊行物1記載のものは,水晶片の両端子を別個には導出していない点」)について,「刊行物1には,水晶片の両端子を導出することが記載されており,一方,本件発明においては,発振器の回路構成について何等具体的な記載がないから,両端子を別個に導出することに格別の意味は見いだせない。したがって,水晶片の両端子を別個に導出した点は単なる設計事項にすぎないものである。」(決定書9頁最下段)と判断した。 乙1文献には,「本発明は,電極が形成された圧電片を,半導体や抵抗コンデンサ等の回路素子共々一つの容器内に封入した複合圧電ユニットに関する。」(乙第1号証1頁右下欄4行〜6行),「以上の点に鑑み,本発明はなされたもので,電極が形成された圧電片を半導体等の他の回路素子共々一つの容器内に封入し,小型で回路基板に直接装着できる圧電ユニツトを提供することを目的とし」(同2頁右上欄下から2行〜左下欄3行),「第5図は本発明の,更に他の実施例図で,この実施例図においては,基板15を保持し,容器14外に導出する外部端子22を容器内にて,水晶片22の保持部材として利用できるようにしたもので,第5図(a)は発振器ユニットの断面図,同図(b)は主要部分の分解図である。 図中,31は水晶片21を保持する外部端子で,この外部端子31は,水平方向にスリット32が形成された先端部が折曲されて,水晶片21の両端部を前記スリット32にて狭持した」(同4頁左上欄18行〜右上欄6行)との記載がある。 これによれば,乙1文献には,圧電片を半導体等の他の回路素子共々一つの容器内に封入するものにおいて,水晶片を外部端子で保持することが示されており,したがって,水晶片の両端子を容器の外部に別個に導出することは,周知の技術である,ということができる。 また,水晶片の両端子を別個に導出することにより得られる利用形態として,原告が主張する「(1)水晶振動子単体としての利用」,「(2)ICが故障した場合の利用」,「(3)付加回路の接続に利用」,「(4)水晶振動子の測定に利用」は,このような構成を採用することに伴う自明の効果というべきものであって,乙1文献に記載されたものにおいても当然に可能なものであるということができ,格別のものではない。 そうすると,決定が,相違点6について,上記のように「単なる設計事項にすぎない」と判断した点に誤りがあるということはできない。 原告は,決定が,「刊行物1には,水晶片の両端子を導出することが記載されて」(決定書9頁最下段)いることを相違点6の判断の根拠の一つとしていることから,相違点6の判断は誤りである,と主張する。 しかし,決定が,「刊行物1には,水晶片の両端子を導出することが記載されて」いると認定した趣旨は,引用発明1においては,水晶片の両端子を別個にではなく導出したこと,すなわち,水晶片の両端子からの出力を間接的に導出している,との趣旨と解すべきであることは,前記のとおりであるから,上記認定の周知技術からすれば,水晶片の両端子を別個に導出した点が単なる設計事項にすぎないものである,との決定の結論には何ら誤りはない,ということができる。 原告は,乙1文献に記載された発振器ユニット(水晶発振器)は,一組の蓋体とリード端子を有する基板を用いたもので,本件発明のように凹状の容器本体を積層セラミックで構成して積層セラミックの積層面から導電路を延出した表面実装用の水晶発振器ではない,と主張する。 しかし,本件発明と引用発明1とが「セラミックからなる凹状の容器本体内に水晶片とICとを配置した表面実装用の水晶発振器」(決定書8頁第4段落)との構成において一致することについて争いはない。また,決定が,本件発明と引用発明1との対比において,相違点1として「本件発明は,容器の材料に積層セラミックを用いているのに対して,刊行物1のものは,容器の材料を単にセラミックとしか記載していない点」(決定書8頁第5段落)を認定し,同じく相違点5として「本件発明は,積層セラミックの積層面から導電路が延出しているのに対して,刊行物1には,導電路については明確には記載されていない点 」(決定書9頁第2段落)を認定し,相違点1について,「積層セラミックは,材料として当該技術分野において周知のものあるから(判決注・「ものであるから」の誤記と認める。),セラミックに代えて積層セラミックを用た(判決注・「用いた」の誤記と認める。)ことに格別困難性はない。」(決定書9頁第4段落)と判断し,相違点5について,「セラミックの面から導電路を延出することは,本件出願時において周知の技術事項であるから,積層セラミックの積層面から導電路を延出した点に格別困難性はない。」(決定書9頁第7段落)と判断した点についても,争いはない。 このように,引用発明1は,凹状の容器本体をセラミックで構成したものであるとはいえ,水晶片とICとを共々一つの容器内に配置した表面実装用の水晶発振器であり,他方,乙1文献は,「電極が形成された圧電片を,半導体や抵抗コンデンサ等の回路素子共々一つの容器内に封入した複合圧電ユニット」に関するものであるから,乙1文献に記載されている水晶発振器が,一組の蓋体とリード端子を有する基板を用いたものである点で,引用発明1とは異なるとはいえ,両者は,技術分野を同じくするというにとどまらず,互いに密接に関係する技術である,ということができる。そうである以上,乙1文献に示された,水晶子の両端子を別個に導出するという周知の技術手段を引用発明1に適用することを格別困難なものとすることはできない。 原告は,乙1文献の第5図の発振器ユニットは,水晶片21と発振回路素子(IC等)とを内部では接続しておらず,別紙回路図の【図3】のとおりの構成であるため,水晶片21を保持する外部端子と回路側としての発振回路素子に接続した端子とを外部で接続する必要があり,この点において,本件発明とはそもそも異なるものである,と主張する。 しかし,本件発明の請求項1の記載及び本件明細書の記載等から,本件発明が別紙回路図の【図2】及び【図3】のものを含むものであると認められることは,上述のとおりであるから,本件発明と乙1文献記載のものとで,水晶片と回路素子との接続に関して,原告が主張するような相違はない。したがって,乙1文献記載の周知の技術手段を引用発明1へ適用することを妨げる事由があるとの原告の主張は採用することができない。 3 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,その他,決定には,これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 高瀬順久 |