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関連審決 異議2000-74430
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  援用権(援用) /  参酌 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  設定登録 /  請求の範囲 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 477号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社三共
訴訟代理人弁理士 岩壁冬樹、須藤浩
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 二宮千久、松川直樹、山口由木、林栄二、高木進
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/04
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が異議第2000-74430号事件について平成13年9月4日にした決定を取り消す、との判決。
事案の概要
1.特許庁における手続の経緯 原告は、発明の名称を「遊技機」とする特許第3050862号(平成11年1月13日特許出願、平成12年3月31日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。本件特許につき、異議申立て(異議2000-74430号事件)があり、原告は、平成13年6月26日に訂正請求を行ったが、特許庁は、平成13年9月4日に、「訂正を認める。特許第3050862号の請求項1乃至9に係る特許を取り消す。」との決定をし、その謄本を同年9月25日に原告に送達した。
2.本件発明の要旨(訂正後の特許請求の範囲の記載)【請求項1】 表示状態が変化可能な複数の表示領域を有する可変表示部を含み、
変動開始の条件の成立に応じて前記表示領域に表示される識別情報の変動を開始し、識別情報の表示結果があらかじめ定められた特定表示態様となったことを条件として遊技者に所定の遊技価値が付与可能となる遊技機であって、遊技の進行を制御するマイクロコンピュータを含む遊技制御手段およびマイクロコンピュータの外に設けられたコマンド出力部を搭載した遊技制御基板と、前記遊技制御手段からのコマンドを受信して受信したコマンドに応じて遊技機を構成する各部の制御を行う制御手段が搭載されたサブ基板とを有し、前記遊技制御基板における前記コマンド出力部は前記マイクロコンピュータからのコマンドを出力する出力ポートと出力ドライバとを含み、前記出力ドライバは論理レベルが確定するCMOS論理ICで構成され、前記サブ基板における前記遊技制御基板からのコマンドを受信するコマンド入力部は単方向に信号を伝達可能な論理回路で構成されていることを特徴とする遊技機。 【請求項2】 表示状態が変化可能な複数の表示領域を有する可変表示部を含み、
変動開始の条件の成立に応じて前記表示領域に表示される識別情報の変動を開始し、識別情報の表示結果があらかじめ定められた特定表示態様となったことを条件として遊技者に所定の遊技価値が付与可能となる遊技機であって、遊技の進行を制御するマイクロコンピュータを含む遊技制御手段およびマイクロコンピュータの外に設けられたコマンド出力部を搭載した遊技制御基板と、前記遊技制御手段からのコマンドを受信して受信したコマンドに応じて遊技機を構成する各部の制御を行う制御手段が搭載されたサブ基板とを有し、前記遊技制御基板における前記コマンド出力部は前記マイクロコンピュータからのコマンドを出力する出力ポートと出力ドライバとを含み、前記出力ドライバは論理レベルが確定するTTL論理ICで構成され、前記サブ基板における前記遊技制御基板からのコマンドを受信するコマンド入力部は単方向に信号を伝達可能な論理回路で構成されていることを特徴とする遊技機。
【請求項3】 サブ基板のコマンド入力部はCMOS論理ICを含む請求項1または請求項2記載の遊技機。 【請求項4】 サブ基板のコマンド入力部はTTL論理ICを含む請求項1または請求項2記載の遊技機。 【請求項5】 遊技制御基板とサブ基板との間では、遊技制御基板からサブ基板への方向にのみデータが転送可能である請求項1乃至請求項4記載の遊技機。 【請求項6】 遊技制御基板のコマンド出力部は、遊技制御基板からサブ基板への方向にのみ信号を通過させる請求項5記載の遊技機。 【請求項7】 遊技制御手段からサブ基板の制御手段に出力された情報は、遊技制御手段とサブ基板の制御手段との間で論理反転しない請求項1乃至請求項6記載の遊技機。 【請求項8】 遊技制御手段およびサブ基板の制御手段の内部で情報は論理反転しない請求項7記載の遊技機。 【請求項9】 サブ基板は複数あり、サブ基板は、遊技制御基板以外の基板であって、マイクロコンピュータが搭載されている全ての基板である請求項1乃至請求項8記載の遊技機。
3.決定の理由の要点 決定は、別紙決定の写しのとおり、請求項1乃至9の発明は、特開平10-118281号公報(甲第1号証。以下、「第1引用例」といい、これに記載された発明を「引用発明」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、請求項1乃至9の発明についての特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、したがって、請求項1乃至9の発明の特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものであるとした。
原告主張の決定取消事由の要点
決定は、請求項1乃至9の発明(本件発明)と引用発明との相違点についての判断を誤り、本件発明が容易になし得たものとの判断に至ったものであり、決定の上記誤りは結論に影響を及ぼすものであるから、取り消されるべきである。
1.請求項1の発明(相違点Aについての判断の誤り) 決定は、請求項1の発明と引用発明との相違点A「遊技制御基板における出力ドライバが、本件請求項1の発明では、論理レベルが確定するCMOS論理ICで構成されるのに対し、引用発明では、フォトカプラで構成された信号回路209で構成される点」について、一般にマイクロコンピュータを構成要素とする半導体装置の技術分野において、出力ドライバを論理レベルが確定するCMOS論理回路で構成することは周知技術(例えば、第3引用例〔特開平63-33922号公報〕、
第4引用例〔特開平4-105109号参照。以下、周知技術Aという。〕、第5引用例〔特開平5-283607号公報〕)である。」としたうえで、「半導体装置を搭載した基板等を単体で検査できるようにするという一般的な技術課題に基づいて、引用発明に示される、マイクロコンピュータを構成要素とする半導体装置を搭載した基板における出力ドライバとして、前記周知技術Aのごとき論理レベルが確定するCMOS論理ICを採用して、相違点Aにかかる本件請求項1の発明のように構成することは当業者が容易に想到できるもの」であり、その作用効果も当業者が容易に予測し得ることである、旨判断したが、誤りである。
1-1.当業者(周知技術A)について (1)マイクロコンピュータを構成要素とする半導体装置の技術分野において、
半導体装置における出力ドライバを論理レベルが確定するCMOS論理ICで構成すること(周知技術A)に関して、周知技術Aの根拠とされている第3引用例(甲第3号証)には、出力ポートを内蔵したマイクロコンピュータが記載されている(例えば、3頁右上欄15、16行)。さらに、周知技術Aの根拠とされている第5引用例(甲第5号証)には、半導体集積回路装置中の2つのLSIチップ間の信号伝送に際して信号配線上にCMOS回路のバッファが設置されていることが記載されている(例えば、第7頁段落【0043】、【0044】、図3、図4)。
すると、周知技術Aに関して証されていることは、マイクロコンピュータを始めとするLSI又は半導体集積回路装置において、その出力段の出力ポート又は内部のバッファにおいて論理レベルが確定するCMOS回路(当業者が一般的に認識する74HC244C等のCMOS論理ICではなく、CMOS素子と呼ぶべきもの。)で構成することが知られているということにすぎない。
すなわち、周知技術Aは、マイクロコンピュータを始めとするLSI又は半導体集積回路装置においてその出力段の出力ポート又は内部のバッファにおいて論理レベルが確定するを使用することであると解するのが相当である。
なお、第4引用例には、「半導体装置における出力ドライバを論理レベルが確定するCMOS論理ICで構成すること」が開示されていないので、周知技術Aの根拠として除外されるべきである。確かに、第4引用例には、各筐体を接続するバスにCMOSゲートアレイが用いられている構成が記載されており、そのバッファが、データ出力動作を行う期間においては論理レベルが確定するCMOS回路による出力ドライバとして機能するものであることは認める。しかし、第4引用例に記載されたものは、常に論理レベルが確定するCMOS回路ではない。
(2)遊技機の技術分野における当業者に、半導体装置の詳細な内部構造に関する知識は要求されないから、『半導体装置の技術分野における当業者』にとって知られている技術であることが、直ちに、パチンコ遊技機等の遊技機の技術分野における当業者にとって知られている技術であるとはいえない。したがって、請求項1の発明のような遊技機に設けられている遊技制御基板における出力ドライバとして論理レベルが確定するCMOS論理ICを採用することは、本件発明の技術分野における当業者にとっては容易であるとはいえない。
(3)フォトカプラで構成された信号回路209は一般にオープンコレクタとして使用されることが通例であるから、信号回路209としてフォトカプラに代えてCMOS論理ICを用いるのであれば、当業者は、何らかの確たる目的がない限り、通常はオープンドレインの形態でCMOS論理ICを用いると考えるべきである。
1-2.課題について (1)請求項1に記載された発明は、遊技制御基板とサブ基板とが装着されている遊技機である。したがって、請求項1の発明の顕著な効果は、遊技制御基板及びサブ基板が遊技機に装着されている状態で、遊技制御基板と他の基板との間のケーブル接続が外された状況で、遊技制御基板から他の制御基板に出力される信号出力状態を問題なく検査することができる、という点にある。
確かに、半導体装置を搭載した基板等からの信号出力状態を外部に付属装置を接続することなく単体で検査できるようにするという課題は特定の技術分野に限定されない一般的な技術課題である。しかし、請求項1の発明は、遊技制御基板単体に関する発明ではなく、遊技機に関する発明であって、遊技制御基板及びサブ基板が遊技機に装着されている状態において、遊技制御基板とサブ基板との間のケーブルを外した状況での遊技制御基板からサブ基板への信号出力状態の検査を課題としているのである。
遊技制御基板及びサブ基板が遊技機に装着されている状態において検査が可能であるということは、遊技機に設けられている電源から遊技制御基板に電力供給できる等の利点がある。一般的な基板単体検査を行う場合には電力供給手段を始めとする種々の外部機器が検査のために要求され、また、決定において相違点Aに係る技術常識の例として引用された甲第9号証(特開平3-19274号公報)に記載された発明でも、検査のために、少なくとも出力回路部に外部から電力供給(VDD及びテスト信号を供給)する必要があるはずである。
これに対して、請求項1の発明では、出力ドライバを特に選択してCMOS論理IC(請求項2の発明ではTTL論理IC)とすることにより、一般的な技術課題を解決することによって得られる効果とは異なる効果を得ることができる。
(2)遊技制御基板からサブ基板への信号出力状態を検査することと、基板を単体で検査できるようにすることの間には隔たりがあるというべきである。
基板を単体で検査するとは文字通り基板単体検査であって、遊技制御基板の単体検査では、マイクロコンピュータが本来の遊技制御を実行している状態において信号出力状態を検査することは困難である。なぜなら、請求項1の発明が適用される遊技機では、遊技盤に設けられている入賞領域への入賞に基づいていわゆる大当り遊技制御をマイクロコンピュータが実行することが通例であるが、遊技制御基板単体では、入賞領域への入賞などを検知できないからである。
これに対して、遊技制御基板及びサブ基板が遊技機に装着されている状態であれば、マイクロコンピュータが本来の遊技制御を実行している状態において信号出力状態を検査することができる。この結果、例えば入賞領域への入賞があったことを示す擬似的な信号を外部から与えることなく、遊技制御基板からサブ基板への信号出力状態を検査することができるようになる。さらに、遊技制御基板及びサブ基板が遊技機に装着されている状態で、かつ、本来の遊技制御が実行されている状態において、サブ基板へのコマンドを検査することが可能になるので、遊技が進行しているときに実際に発生する事象とサブ基板へのコマンドとが整合しているか否かも検査できるようになる。
したがって、遊技制御基板及びサブ基板が遊技機に装着されている状態において、遊技制御基板とサブ基板との間のケーブルを外した状態での遊技制御基板からサブ基板への信号出力状態を検査できるように構成した場合には、第1引用例に記載されているような出力ドライバとしてフォトカプラを用いる構成に比べて、格別の効果を得ることができる。このように、遊技機分野において有利な効果を奏する発明において、その有利な効果は参酌されるべきである。
2.請求項2の発明(相違点Cについての判断の誤り) 決定は、相違点C「遊技制御板における出力ドライバが、本件請求項2の発明では、論理レベルが確定するTTL論理ICで構成されるのに対し、引用発明では、フォトカプラで構成された信号回路209で構成される点」について、「一般にディジタルICの技術分野において、出力ドライバに含まれる、論理レベルが確定する論理ICを、TTL論理IC又はCMOS論理ICで構成することは周知技術(例えば、第6引用例〔基礎からのディジタルIC〕参照。以下、周知技術Cという。)であり」としたうえ、引用発明に周知技術A及びCを適用して相違点Cに係る請求項2の発明とすることは当業者が容易に想到し得ることであり、その作用効果も当業者が容易に予測し得ることである、旨認定したが、誤りである。
(1)第6引用例(甲第6号証)には、TTL論理ICがいかなるものであるか、及びCMOS論理ICがいかなるものであるかが記載されているだけであり、
TTL論理IC又はCMOS論理ICを論理レベルが確定する出力ドライバとして採用することが周知技術であることを証するものとなっていない。
(2)しかも、前述のとおり、相違点Aについての判断には、当業者についての認定の誤り、及び本件発明の課題についての認定の誤りが存在する。
よって、引用発明に前記周知技術A及びCを適用して前記相違点Cに係る請求項2の発明の構成とすることは「当業者が容易に想到できるもの」との認定も誤りである。
3.請求項3乃至9の発明 請求項3乃至9の発明は、請求項1の発明又は請求項2の発明の構成要素をすべて含むものであるから、上記1.及び2.についての主張を援用する。
被告の反論の骨子
周知技術についての認定、周知技術を引用発明に適用して請求項1、2の発明とすることの容易性についての判断に、決定はいずれも誤りはない。
当裁判所の判断
1.請求項1の発明について1-1.当業者(周知技術A)について (1)原告は、決定において周知技術Aの根拠とされた第3引用例(甲第3号証)には、出力ポートを内蔵したマイクロコンピュータが記載されているのであり、同じく第5引用例(甲第5号証)には、半導体集積回路装置中の2つのLSIチップ間の信号伝送に際して信号配線上にCMOS回路のバッファが設置されていることが記載されており、第4引用例(甲第4号証)は周知技術Aの根拠としては除外されるべきであるから、周知技術Aとして認定できるのは、マイクロコンピュータを始めとするLSI又は半導体集積回路においてその出力段の出力ポート又は内部のバッファにおいて論理レベルが確定するCMOS素子を使用することにとどまると主張する。
しかしながら、半導体装置における出力ドライバを論理レベルが確定するCMOS論理ICで構成することは、マイクロコンピュータを構成要素とする半導体装置の技術分野における周知技術であるというべきであって、このことは、例えば甲第4号証(第4引用例)からも明らかである。
なお、原告が第4引用例は周知技術Aの根拠からは除外されるべきであると主張するので、念のために検討するに、第4引用例に記載のCMOSゲートアレイが、データ出力動作を行う期間においては、論理レベルが確定するCMOS回路による出力ドライバとして機能するものである点に争いはない。また、第4引用例のCMOSゲートアレイが、データ入力動作を行う期間とデータ出力動作を行う期間とを、その動作タイミングを制御する手段によって切り分けて動作させる必要があるのは、データバスを介してデータを双方向に入出力するからであり、双方向のデータ入出力を行わない出力ドライバでは、データ入力動作を行う期間を考慮する必要がないことは明らかである。したがって、決定が、第4引用例に記載された出力ドライバが論理レベルが確定するCMOS論理ICであるとの前提に立って周知技術Aを認定したことに誤りはないというべきである。
したがって、「マイクロコンピュータを構成要素とする半導体装置の技術分野において、出力ドライバを論理レベルが確定するCMOS論理ICで構成することは周知である」とした決定の判断に誤りはない。
(2)原告は、遊技機の技術分野における当業者に、半導体装置の詳細な内部構造に関する知識は要求されないから、半導体装置の分野における当業者に半導体装置における出力ドライバを論理レベルが確定するCMOS論理ICで構成することが知られていたとしても、そのことから直ちに、それがパチンコ遊技機等の遊技機の技術分野における当業者に知られている技術であるとはいえないと主張する。
しかし、遊戯機の遊技制御基板を構成するデータ伝送回路の具体的構成として、第1引用例である特許明細書にフォトカプラで構成された信号回路209が記載されていることからすると、遊技機の技術分野に属する当業者がデータ伝送回路の技術について知識を有していることは容易に推断されるから、同じデータ伝送回路の範疇に属する技術として、出力ドライバを論理レベルが確定するCMOS論理ICで構成することについても、遊技機の技術分野に属する当業者が知識を有していることは明らかである。
したがって、出力ドライバを論理レベルが確定するCMOS論理ICで構成することは、遊技機の技術分野における当業者にも知られている技術であるといえるから、第1引用例に示される、マイクロコンピュータを構成要素とする半導体装置を搭載した基板における出力ドライバとして、フォトカプラで構成された信号回路209に代えて、周知技術Aのごとき論理レベルが確定するCMOS論理ICを採用して、相違点Aに係る請求項1の発明の構成のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことというべきである。これと同旨の決定の判断に誤りはない。
(3)原告は、引用発明のフォトカプラで構成された信号回路209は、一般にオープンコレクタとして使用されることが通例であるから、信号回路209としてフォトカプラに代えてCMOS論理ICを用いるのであれば、当業者は、何らかの確たる目的がない限り、通常はオープンドレインの形態でCMOS論理ICを用いると考えるべきであると主張する。
しかし、半導体装置における出力ドライバを論理レベルが確定するCMOS論理ICで構成することは、上記のように半導体装置の技術分野における当業者にとって周知技術であり、フォトカプラで構成された信号回路をCMOS論理ICで構成される出力ドライバで置き換える場合に、「論理が確定するCMOS論理IC」を除外する格別の理由も見当たらないから、原告の上記主張は採用することができない。
1-2.課題について (1)原告は、決定においては請求項1の発明の課題を正しく認識することなく、異なる課題を基礎として請求項1の発明の進歩性を否定するという認定判断がされている旨、主張する。
半導体装置を搭載した基板等を単体で検査できるようにするということが一般的な技術課題であることに争いはない。また、半導体装置の出力ドライバとしてCMOS論理ICを採用するとその出力レベルが確定するから、出力ドライバとしてオープンドレイン構造の半導体素子を採用するときのように半導体装置の外部に電源及びプルアップ抵抗等の付属装置を接続する必要がなく、半導体装置の信号出力状態をそのまま検査できるという作用効果を奏することは技術常識である(弁論の全趣旨)。
そうすると、上記一般的技術課題及び技術常識に基いて、引用発明に示される、マイクロコンピュータを構成要素とする半導体装置を搭載した基板における出力ドライバとして、論理レベルが確定するCMOS論理ICを採用することは、当業者が容易に想到することができたというべきものである。
(2)原告は、「遊戯制御基板からサブ基板への信号出力状態を検査する」ことと、「基板を単体で検査できるようにする」ことの間には隔たりがあると主張する。しかし、「基板を単体で検査する」場合、基板が装置に装着される以前に、あるいは、装着された装置から基板を取り外して基板を検査する以外に、基板が装置に装着されたままの状態でその入出力を検査する方法があることは明らかである。
装置に装着されたまま遊戯制御基板とサブ基板との間のケーブルをはずした状態で遊戯制御基板からサブ基板への信号出力状態を検査することは、「基板を単体で検査する」一態様にすぎず、両者の間に原告の主張するような隔たりがあるとはいえない。
(3)原告は、遊技制御基板及びサブ基板が遊技機に装着されている状態において検査が可能であるということは、遊技機に設けられている電源から遊戯制御基板の電力供給ができる等の利点があると主張する。また、遊技制御基板及びサブ基板が遊技機に装着されている状態において、遊技制御基板とサブ基板との間のケーブルを外した状態での遊技制御基板からサブ基板への信号出力状態を検査できるように構成した場合には、第1引用例(甲第1号証)に記載されているような出力ドライバとしてフォトカプラを用いる構成に比べて、格別の効果を得ることができるとも主張する。
しかし、「遊戯制御基板199」と「払出制御回路基板152」が遊技機に装着された引用発明においても、遊戯制御基板と払出制御基板との間のケーブルをはずした状態で検査することは可能であり、原告が主張する効果を得ることができることは自明である。また、遊戯制御基板に遊技機の電源から電力供給を行うことは、既にある電源を便宜的に利用する程度のことであって顕著な利点であるとはいえない。さらに、引用発明の出力ドライバとしてフォトカプラを用いる構成と比べて生じる効果についても、技術常識及び周知技術Aとから出力ドライバを論理が確定するCMOS論理ICで構成することにより、当業者が容易に予測し得るものである。
したがって、請求項1の発明が引用発明に比較して顕著な効果を有するものであるとはいえない。
1-3.まとめ 以上のとおりであるから、決定が請求項1の発明と第1引用例記載の発明との相違点Aについてした判断に誤りはない。
2.請求項2の発明について 原告は、第6引用例(「基礎からのディジタルIC」)は、TTL論理IC又はCMOS論理ICを論理レベルが確定する出力ドライバとして採用することが周知技術であることを証するものとなっていないと主張する。
甲第6号証によれば、第6引用例には、TTL論理ICがいかなるものであるか、及びCMOS論理ICがいかなるものであるのかが記載されており、その記載から、第6引用例に記載されたTTL論理IC及びCMOS論理ICが、出力の論理レベルが確定するものであることは明らかである。さらに、同号証の「4.5 (TTL)74LSと(C-MOS)74HCの接続」(128頁〜130頁)には、「あるディジタルシステムの中で特性の異なるTTL系のICとC-MOS系のICを同時に使用するといった場合には、その境目というか継ぎ目(インターフェース)に十分注意する必要があります。実際問題としてはLS TTLとHS C-MOS間のインターフェースが最も大事になります。ここでは、電源電圧が両方とも5[V]共通の場合について考えてみます。」と記載され、「1 LS TTL出力でHS C-MOSを駆動する」に、TTL論理ICの出力でCMOS論理ICを駆動することが記載され、「2 HS C-MOS出力でLS TTLを駆動する」に、CMOS論理ICの出力でTTL論理ICを駆動することが記載されているから、TTL論理IC及びCMOS論理ICが出力ドライバとして使用されることが記載されていると認められる。
したがって、原告の主張はその根拠を欠くことが明らかであり、TTL論理IC又はCMOS論理ICを論理レベルが確定する出力ドライバとして採用することが周知技術であるとした決定の認定に誤りはない。
そして、決定における相違点Aの判断に誤りがないことは前示のとおりであるから、引用発明に周知技術A及びCを適用して相違点Cに係る請求項2の発明とすることが当業者の容易に想到し得ることである旨の決定の判断に誤りはない。
3.請求項3乃至9の発明について 請求項3乃至9の発明についての決定が取り消されるべきであるという原告の主張の根拠は、請求項1又は2の発明についての判断に誤りがあるという点に尽きるものである。
しかし、上記1及び2で検討したように、請求項1の発明についての判断、及び請求項2の発明についての判断に誤りはない。したがって、原告のこの点に関する主張は、その前提を欠くものであって、いずれも採用することができない。
4.結論 以上のとおりであるから、請求項1乃至9の発明についての決定の認定判断が誤りであるとの原告の主張は、すべて理由がなく、他に決定を取り消すべき瑕疵は認められない。よって、原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利