関連審決 | 無効2001-35184 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 技術的意義 / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
5号
審決取消請求事件
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原告 日機装株式会社 訴訟代理人弁理士 福村直樹 被告 テルモ株式会社 訴訟代理人弁護士 吉原省三、小松勉、三輪拓也、竹田吉孝 同 弁理士 中澤直樹 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/03/06 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が無効2001−35184号事件について平成13年11月28日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
主文同旨の判決 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 被告は、下記アの特許(以下「本件特許」といい、その請求項1ないし5の発明を総称して「本件発明」、各発明をその請求項の番号に従い「本件発明1」などという。)の特許権者、原告は、下記イの無効審判の請求人である。 ア 本件特許 特許第2981909号 発明の名称 「液体流路を有する装置の気泡除去方法及びその装置」 出願日 平成2年6月20日 設定登録日 平成11年9月24日 イ 無効審判 無効2001-35184号事件 審判請求 平成13年4月26日 審決 平成13年11月28日 「本件審判の請求は成り立たない。」 (同年12月10日原告に謄本送達) 2 本件特許の特許請求の範囲の記載【請求項1】気体は通すが液体は通さない壁面から構成される液体流路を有する装置の液体流路に、間欠的に液体を流し、該液体流路内に存在する気泡を除去することを特徴とする、液体流路を有する装置の気泡除去方法。 【請求項2】液体流入口、気体は通すが液体は通さない壁面から構成される液体流路及び液体流出口を備える液体流路を有する装置と、該液体流路を有する装置よりも上流側に配設され、前記液体流路を有する装置の液体流入口を介して液体流路に液体を移送する液体移送手段と、前記液体流路への液体の移送を間欠的に行なわしめる液体移送調整手段と、を備えることを特徴とする、液体流路を有する装置の気泡除去装置。 【請求項3】液体流路を有する装置よりも下流側に、除泡手段が配設されている、 請求項2記載の装置。 【請求項4】液体流路を有する装置よりも下流側に、液体流路を有する装置の液体流路内を通過する液体の圧力を高めるための小径流路部が配設されている、請求項2記載の装置。 【請求項5】除泡手段よりも下流側に、除泡手段内を通過する液体の圧力を高めるための小径流路部が配設されている、請求項3記載の装置。 3 審決の理由の要旨 審決は、本件発明1ないし5は、いずれも公知の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、その特許を無効とすることができないとした。その認定判断の要旨は以下のとおりである(審決中の「甲第1号証」、「甲第2号証」をそれぞれ「刊行物1」、「刊行物2」と言い換え、本訴の証拠番号及び文献名を付記し、証拠番号を本訴の証拠番号に差し替える以外は、審決の「理由」欄の「5.対比、判断」及び「6.むすび」の記載をそのまま引用する。)。 5.対比、判断 5-1.本件発明1について 刊行物1に記載された事項からみて、刊行物1(甲第2号証。「遠心ポンプと外部潅流型膜型肺を組み合わせたsimplified veno-arterial bypass systemの実験的検討」人工臓器18巻2号440〜443頁1989年)に記載された方法も充填時のair抜きを行うものであり、その際液体による気泡の除去が行われると認められるから、刊行物1には、外部潅流型中空糸膜型肺に液体を流し、外部潅流型中空糸膜型肺の気泡を除去する方法、が記載されていると認められる。 そして、本件発明1と刊行物1に記載された方法とを対比すると、後者における「外部潅流型中空糸膜型肺」は、その機能からみて「気体は通すが液体は通さない壁面から構成される液体流路」を有するものであり、前者における「気体は通すが液体は通さない壁面から構成される液体流路を有する装置」に相当するものと認められる。そして、後者においても、液体は、外部潅流型中空糸膜型肺の気体は通すが液体は通さない壁面から構成される液体流路に流されるものと認められるから、 両者は、 気体は通すが液体は通さない壁面から構成される液体流路を有する装置の液体流路に液体を流し、該液体流路内に存在する気泡を除去する、液体流路を有する装置の気泡除去方法。で一致し、 ア.前者は、液体流路に間欠的に液体を流して該液体流路内に存在する気泡を除去するものであるのに対し、後者は、液体流路内に存在する気泡を除去するための液体流路への液体の流し方について何等特定がない点。 において相違する。 そこで、相違点ア.について検討すると、刊行物2(甲第3号証。河野南雄、山口美佐子共著「初心者のための血液透析の手技と看護」〔改訂版〕15〜22頁新興医学出版社昭和63年)に記載された事項からみて、刊行物2には、ゆっくり実施するダイアライザーのプライミングにおいて、血液ポンプをゆっくり回転させて、生食水により動脈回路、ダイアライザーさらに静脈回路を満たしたのち、ひきつづき血液ポンプをゆっくり回転させて、ダイアライザーや血液回路内の消毒薬を完全にあらいながすと同時に、生食水などで充填する工程において、ダイアライザー内の空気を完全においだすために、ダイアライザー下方の動脈回路をときどきしめてファイバー内の空気を追い出し、さらに、空気が出ていきやすいようにダイアライザーの上部を鉗子で軽くたたいてダイアライザーの静脈側にたまった空気を追い出す方法が記載されている。 刊行物2に記載の「ファイバー内」は、「ダイアライザー」なる装置において液体が流れる経路であるから、「気体は通すが液体は通さない壁面から構成される」ものではないが「液体流路」といえるものであるから、刊行物2に記載された事項において液体流路内の空気を追い出す操作は図27に示される操作であるといえる。そして、図27の説明文には「血液ポンプをゆっくり回転させながらダイアライザーの下を、時々、鉗子でとめて、ファイバー内の空気を追い出す。」との記載がある。しかし、図27の説明文を如何に検討しても、いかなる作用でファイバー内の空気が追い出されるのか明確でない。 たしかに、血液ポンプをゆっくり回転させながら動脈回路をしめたままにしておくことにより不都合が生じることが想定されるから、動脈回路をしめる操作をしたのちには、図28に示される操作の前か後かは不明ではあるが、動脈回路をあける操作が必要である。そして、刊行物2の図27の説明文における「時々、鉗子でとめ」るためには、このしめる操作とあける操作を交互に複数回行うことになり、結果的に、流体流路には、本件の願書に添付された明細書第14頁15〜17行(特許公報第4頁第7欄5,6行参照。)で定義された「間欠的」に生食水が流れることにはなる。しかし、刊行物2には、このしめる操作とあける操作を交互に複数回行うことによる作用について何等記載がない。 してみると、刊行物2に、動脈回路をしめる操作とあける操作を交互に複数回行うことにより流体流路に間欠的に生食水を流して流体流路内の空気を追い出すことが示唆されていると認めることはできない。 そして、本件発明1は、液体流路に間欠的に液体を流して該液体流路内に存在する気泡を除去することを構成要件としたことにより、短時間で液体流路に付着する気泡を除去するという格別な効果を奏するものである。 したがって、気体は通すが液体は通さない壁面から構成されるものではない液体流路を有する装置から空気を除去する方法に関する刊行物2に記載された事項を、 刊行物1に記載された気体は通すが液体は通さない壁面から構成される液体流路を有する装置に適用することが当業者にとって容易か否かを判断するまでもなく、本件発明1は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 さらに、甲第4号証及び甲第5号証に記載された事項を検討しても、液体流路に間欠的に液体を流して該液体流路内に存在する気泡を除去することは記載されておらず、かかる事項を示唆する記載もない。よって、本件発明1は、刊行物1、2、 甲第4、第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 5-2.本件発明2について 刊行物1に記載された事項からみて、刊行物1に記載された装置も充填時のair抜きを行うものであり、その際液体による気泡の除去が行われると認められるから、 刊行物1には、外部潅流型中空糸膜型肺の上流側に配設され、該外部潅流型中空糸膜型肺に液体を流す遠心ポンプと、外部潅流型中空糸膜型肺とを備える外部潅流型中空糸膜型肺の気泡除去装置、が記載されていると認められる。 そして、本件発明2と刊行物1に記載された装置とを対比すると、後者における「外部潅流型中空糸膜型肺」は、液体流入口、液体流出口と共に、その機能からみて、「気体は通すが液体は通さない壁面から構成される液体流路」を備えるものであるから、前者における「液体流路を有する装置」に相当するものと認められる。 そして、後者における「遠心ポンプ」は、外部潅流型中空糸膜型肺の液体流入口を介して該外部潅流型中空糸膜型肺の「気体は通すが液体は通さない壁面から構成される液体流路」に液体を流すものであるから、前者における「液体移送手段」に相当するものと認められる。よって、両者は、 液体流入口、気体は通すが液体は通さない壁面から構成される液体流路及び液体流出口を備える液体流路を有する装置と、該液体流路を有する装置よりも上流側に配設され、前記液体流路を有する装置の液体流入口を介して液体流路に液体を移送する液体移送手段を備える、液体流路を有する装置の気泡除去装置。で一致し、 イ.前者は、前記液体流路への液体の移送を間欠的に行なわしめる液体移送調整手段を備えたものであるのに対し、後者は、係る手段を備えていない点において相違する。 そこで、相違点イ.について検討すると、刊行物2には、液体流入口、液体流出口と共に、「気体は通すが液体は通さない壁面から構成される」ものではないが「液体流路」を備える装置であるダイアライザーと、ダイアライザーの上流側に配設され、ダイアライザーの液体流路に液体を移送する血液ポンプを備える、ダイアライザーから空気を除去する装置が記載されており、さらに該装置を使用してダイアライザーの液体流路から空気を除去する方法として上記5-1.で述べたとおりの事項が記載されている。 そして、上記5-1.で述べたとおり、図27に示されるダイアライザー下方の動脈回路をしめる操作をしたのちには、図28に示される操作の前か後かは不明ではあるが、動脈回路をあける操作が必要である。そして、図27の説明文における「時々、鉗子でとめ」るためには、このしめる操作とあける操作を交互に複数回行うことになり、このしめる操作とあける操作を交互に複数回行うことにより、結果的に、流体流路に本件明細書第14頁15〜17行(特許公報第4頁第7欄5,6行参照)で定義された「間欠的」に生食水が流れることになる。しかし、図27にダイアライザー下方の血液回路を人が鉗子でしめている様子が図示されていることからみて、刊行物2には、人が鉗子を用いて直接ダイアライザー下方の血液回路を、時々、しめることが記載されているにすぎない。そして、装置を使用する人による操作がその装置の構成部分であるとはいえないから、刊行物2には、ダイアライザーから空気を除去する装置の構成部分として、液体流路への液体の移送を間欠的に行わしめる手段が記載されているとはいえない。また、かかる事項が、刊行物2に示唆されているとも認められない。 そして、本件発明2は、液体流路を有する装置の気泡除去装置において、液体流路への液体の移送を間欠的に行わしめる液体移送調整手段を備えることを構成要件としたことにより、短時間で液体流路に付着する気泡を除去するという格別な効果を奏するものである。 したがって、気体は通すが液体は通さない壁面から構成されるものではない液体流路を有する装置から空気を除去する装置に関する刊行物2に記載された事項を刊行物1に記載された気体は通すが液体は通さない壁面から構成される液体流路を有する装置に適用することが当業者にとって容易か否かを判断するまでもなく、本件発明2は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 さらに、甲第4号証及び甲第5号証に記載された事項を検討しても、液体流路を有する装置の気泡除去装置において、液体流路への液体の移送を間欠的に行わしめる手段を備えることは記載されておらず、かかる事項を示唆する記載もない。よって、本件発明2は、刊行物1、2、甲第4、第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 5-3.本件発明3について 本件発明3は、本件発明2に「液体流路を有する装置よりも下流側に、除泡手段が配設されている」なる事項を付加したものである。 しかし、本件発明2は、上記5-2.で述べたとおりのものであるから、「液体流路を有する装置よりも下流側に、除泡手段が配設されている」ことについて判断するまでもなく、本件発明3は、上記5-2.で述べた理由により、刊行物1、 2、甲第4、第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 5-4.本件発明4について 本件発明4は、本件発明2に「液体流路を有する装置よりも下流側に、液体流路を有する装置の液体流路内を通過する液体の圧力を高めるための小径流路部が配設されている」なる事項を付加したものである。 しかし、本件発明2は、上記5-2.で述べたとおりのものであるから、「液体流路を有する装置よりも下流側に、除泡手段が配設されている」ことについて判断するまでもなく、本件発明4は、上記5-2.で述べた理由により、刊行物1、 2、甲第4、第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 5-5.本件発明5について 本件発明5は、本件発明2を引用する本件発明3に「除泡手段よりも下流側に、 除泡手段内を通過する液体の圧力を高めるための小径流路部が配設されている」なる事項を付加したものである。 しかし、本件発明2は、上記5-2.で述べたとおりのものであるから、「液体流路を有する装置よりも下流側に、除泡手段が配設されている」ことについて判断するまでもなく、本件発明4は、上記5-2.で述べた理由により、刊行物1、 2、甲第4、第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 6.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1乃至5の特許を無効とすることができない。 |
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原告の主張の要点
審決は、(1)本件発明1及び2の作用効果の認定を誤り、(2)刊行物2に記載された技術事項の認定を誤り、(3)その結果、本件発明1及び2の進歩性の判断を誤り、(4)さらに、本件発明3ないし5の進歩性の判断を誤ったものであるから、取り消されるべきである。 1 本件発明1及び2の作用効果の認定の誤り (1) 審決は、「本件発明1は、液体流路に間欠的に液体を流して該液体流路内に存在する気泡を除去することを構成要件としたことにより、短時間で液体流路に付着する気泡を除去するという格別な効果を奏するものである。」、「本件発明2は、液体流路を有する装置の気泡除去装置において、液体流路への液体の移送を間欠的に行わしめる液体移送調整手段を備えることを構成要件としたことにより、 短時間で液体流路に付着する気泡を除去するという格別な効果を奏するものである。」として、「間欠的に液体を流す」ことに格別な効果がある旨認定しているが、誤りである。 (2) 本件発明は、「間欠的に液体を流すこと」により「液体流路内面に付着した気泡が間欠流の勢いによって液体流路内面から離脱して流体内に浮遊する」という作用と、「浮遊する気泡を含有する液体がその流れとともに気体は通すが液体を通さない壁面に到達した場合に、液体中に浮遊する気泡が該壁面に接触したときには、その気泡は該壁面を通り抜けて除去される」という作用との相加的効果を奏するものにすぎない。本件発明には、被告の主張するような、液体流路に間欠流を流してやることの作用と、その間欠流を、気体は通すが液体は通さない壁面から構成される液体流路を有する装置の液体流路に流してやることによる作用との「相乗効果」はない。 (3) また、甲第12号証(特開昭63-315061号公報)に示されるように、液体流路への液体の移送を間欠的に行わしめる手段、及び「血液回路の端部に開閉弁を設け間欠的に弁の操作を行いフラッシングを行う」ことにより「気泡の追い出し」を行うことは公知であるから、「液体流路に付着する気泡を除去すること」は格別な効果ではない。 (4) 被告は、本件発明により、「短時間で気泡を除去することができること」を、本件発明1及び2の顕著な技術的効果であると主張する。 しかしながら、本件明細書(甲第6号証)に記載された試験例を参照すると、 「遠心ポンプ33の駆動を再び定常流に戻し、鉗子を使って回路をたたいたが、直径20μm以上の気泡は検出されなかった。よって、本発明に従って、間欠流によりプライミングを行うことにより、液体流路中の気泡を除去できることが確認された」(11欄13〜18行)とあるように、間欠流によって液体流路内全体に存在する気泡を除去することが効率的になったことは確認されているが、気体は通すが液体を通さない壁面を気泡が通過することが効率的に行われるようになったかどうかは、実証されていない。 2 刊行物2に記載された技術的事項の認定の誤り (1) 審決は、刊行物2には、「動脈回路をしめる操作とあける操作を交互に複数回行うことにより液体流路に間欠的に生食水を流して流体流路内の空気を追い出すことが示唆されていると認めることはできない。」、「ダイアライザーから空気を除去する装置の構成部分として、液体流路への液体の移送を間欠的に行わしめる手段が記載されているとはいえない。」、と認定判断しているが、誤りである。 (2) 刊行物2の21頁の図27には、「血液ポンプをゆっくり回転させながらダイアライザーの下を、時々、鉗子でとめて、ファイバー内の空気を追い出す。」との説明文が添えられている。この説明文は、「血液ポンプをゆっくり回転させながらダイアライザーの下を、時々、鉗子でとめ」るという第1の動作と、 「ファイバー内の空気を追い出す」という第2の動作を表現したものである。また、刊行物2の同じ頁には、「ダイアライザー内の空気を完全に追い出すために、 ダイアライザー下方の動脈回路をときどきしめて」と記載されている。この記載は、「ダイアライザー内の空気を完全に追い出す」という動作を実現する「ために」、「ダイアライザー下方の動脈回路をときどきしめる」という動作が必要であること、つまり、「ダイアライザー下方の動脈回路をときどきしめる」という動作が原因となって、「ダイアライザー内の空気を完全に追い出す」という結果が生じることを示している。 (3) 審決は、「(刊行物2には)ダイアライザー内の空気を完全においだすために、ダイアライザー下方の動脈回路をときどきしめてファイバー内の空気を・・・追い出す方法が記載されている」、「「ファイバー内」は・・・「液体流路」といえる」、「「時々、鉗子でとめ」ることは「しめる操作と開ける操作を交互に複数回行うこと」であり、結果的に「流体流路には、「間欠的」に食塩水が流れることになる」(同6頁)と認定している。そうであれば、「いかなる作用でファイバー内の空気が追い出されるのか」といった「作用」や「しめる操作と開ける操作を交互に複数回おこなうことによる作用」に言及するまでもなく、刊行物2の図27及びその説明文は、「動脈回路をしめる操作とあける操作を交互に複数回行うことにより液体流路に間欠的に生食水を流して液体流路内の空気を追い出すことを示唆している」ということになるはずである。 (4) また、審決は、刊行物2には人が直接鉗子を操作することしか記載されていないというが、鉗子それ自体は、一定の目的を達成するための器具(道具)である。鉗子自体に着目すれば、鉗子は、人力を駆動源として開閉動作を行い、この開閉動作により液体流路への液体の移送を間欠的に行っているのであるから、液体移送調整手段である。審決は、鉗子を操作する人だけに注目して、鉗子自体を看過し、その結果、本訴刊行物2には、ダイアライザーから空気を除去する装置の構成部分として、液体流路への液体の移送を間欠的に行わしめる手段が記載されているとはいえない、とする誤った判断をしている。 (5) 被告は、本件発明において「間欠的に」とは、短時間の間に行われることを前提として、液体流量とを繰り返し大小に変化させることであると主張し、刊行物2に記載された操作は、同号証16頁に「プライミングはゆっくり実施し・・・30分以上は時間をかける。」と記載されているから、空気抜き工程を含めて非常にゆっくり行われることが前提となっている、と主張する。しかしながら、甲第16号証(鈴鹿医療科学大学医用工学部臨床工学科教授竹澤真吾作成の「ダイアライザーのプライミングについての宣誓書」)の記載からも明らかなように、上記記載は、「いわゆるプライミングを慎重にも慎重を重ねて実施する」と理解すべきである。もともと時間のかかるプライミング操作を慎重に慎重を重ねて行うという意味で、「30分以上は時間をかける」と記載しているのである。 また、被告は、本件発明2における液体移送調整手段とは、その実施例に示すように、制御回路49のような液体流量の大小を制御する手段をいうと主張するが、 本件特許の請求項2には、「液体流路への液体の移送を間欠的に行わしめる液体移送調整手段」と記載されているだけで特段の限定がないから、「制御回路」のようなものに限定はされず、鉗子も液体移送調整手段である。 (6) 以上のとおり、刊行物2には、「動脈回路をしめる操作とあける操作を交互に複数回行うことにより液体流路に間欠的に生食水を流して液体流路内の空気を追い出すこと」及び「ダイアライザーから空気を除去する装置において、液体流路への液体の移送を間欠的に行わしめる液体移送調整手段」が記載されている。これらが刊行物2に記載も示唆もされていないとした審決は誤りである。 3 本件発明1及び2の進歩性についての判断の誤り (1) 本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点アは、「前者は、液体流路に間欠的に液体を流して該液体流路内に存在する気泡を除去するものであるのに対し、後者は、液体流路内に存在する気泡を除去するための液体流路への液体の流し方について何等特定がない点。」というものであるところ、2で述べたとおり、刊行物には、相違点アに係る「動脈回路をしめる操作とあける操作とを交互に複数回行うことにより液体流路に間欠的に生食水を流して液体流路内の空気を追い出すこと」という事項が示唆されている。また、本件発明1は、1で述べたとおり、格別の効果を奏するものでもない。 (2) 本件発明2と刊行物1記載の発明との相違点イは、「前者は、前記液体流路への液体の移送を間欠的に行なわしめる液体移送調整手段を備えたものであるのに対し、後者は、係る手段を備えていない点」というものであるところ、2で述べたとおり、刊行物2に記載された鉗子は液体移送調整手段といえるものであるから、刊行物2には、相違点イに係る「ダイアライザーから空気を除去する装置の構成部分として、液体流路への液体の移送を間欠的に行わしめる手段」が記載されている。また、本件発明2は、1で述べたとおり、格別な効果を奏するものでもない。 (3) そうすると、刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された技術的事項を適用し、本件発明1及び2に想到することに困難はない。そして、相違点ア及び相違点イに係る本件発明の構成により奏される効果も格別なことではないのであるから、本件発明1及び2に進歩性を認めた審決の判断は誤っている。 4 本件発明3ないし5の進歩性についての判断の誤り 審決は、本件発明3ないし5は、本件発明2に従属する発明であり、本件発明2が刊行物1、刊行物2、甲第4、第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえないことを理由として、進歩性があるとの判断を行っているが、本件発明2に対する判断が誤っているから、本件発明3ないし5の進歩性についての判断も誤りである。 |
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被告の反論の要点
被告としては、本件発明における「間欠的に液体を流すこと」の技術的意義及びそれに基づく構成の比較についての審決の認定は是認できない。以下では、これらの点も含めて原告の主張に反論する。 1 原告の主張1(本件発明1及び2の作用効果の認定の誤り)に対して (1) 本件発明1及び2のいずれにおいても、気体は通すが液体は通さない壁面から構成される液体流路を有する装置の液体流路に、間欠的に液体を流してやることで、まず、液体流路内面に付着した気泡は間欠流の勢いによって除去されることになる。その気泡は液流に沿って流れていき、気体は通すが液体は通さない壁面側に向かうが、この流れも間欠流であることから、気体は通すが液体は通さない壁面に対して流れ込んでいくとき、流れの勢い、特に低流量から高流量へと短時間に移行するときのエネルギーによって、液体流路内の気泡は、気体は通すが液体は通さない壁面を通して、効率的に除去されることになる。 このように本件発明の作用は、液体流路に間欠流を流してやることの作用と、その間欠流を、気体は通すが液体は通さない壁面から構成される液体流路を有する装置の液体流路に流してやることによる作用との相乗作用によって得られるものであり(本件明細書:甲第6号証2頁右欄作用の項、5頁左欄下から4行〜右欄12行)、このような相乗作用は、従来まったく見出されることのなかった新たな知見でもあったものである。 (2) そして、このような相乗作用により、主として、「煩雑な操作を要することなく、短時間で人工肺やチューブ、コネクタ等の液体流路を有する装置の液体流路に付着した気泡を除去することができる方法ならびにその実施に使用する装置が提供される。」(甲第6号証6頁左欄下から4行〜右欄1行)という顕著な効果が認められることになる。 (3) 「間欠的に」の意味については、明細書において特に定義しているように、「液体の流量が大きくなったり、小さくなったりすることを繰り返すこと」(甲第6号証4頁左欄5〜6行)に他ならない。そして、本件発明は、この「間欠的」な動作によって繰り返し生じる流量差により、上記相乗作用を生じさせて、煩雑な操作を要することなく、効率的な気泡除去を短時間で行わせようとするものであるから、「間欠的に」とは、短時間の間に行われる繰り返し動作であることが当然の前提となる。そのことは、例えば、本件明細書の試験例において、「3秒毎に遠心ポンプ33のON・OFFを繰り返し、ONの時間を2秒間、0FFの時間を2秒間として3分間欠駆動させた」(甲第6号証6頁左欄11〜13行)とあるように、分単位の中で何度も繰り返し行われる短時間レベルの動作の例を開示していることからも十分理解できる。すなわち、本件発明において、「間欠的に」とは、 短時間の間に行われることを前提にして、液体流量を繰り返し大小に変化させるというものである。 (4) 原告は、新たな証拠である甲第12号証を引用して、本件発明の効果は格別な効果でないと主張するが、甲第12号証は、本件無効審判において何ら提示されていない新たな証拠であるから、内容を検討するまでもなく(もっとも内容は特定条件の際のフラッシングが記載されるのみ)、原告の主張は失当である。 2 原告の主張2(刊行物2に記載された技術的事項の認定の誤り)に対して (1) 刊行物2には、ダイアライザー(人工腎臓)とポンプとチューブとからなる回路におけるプライミング操作が開示されている。ポンプは、18頁の図19に示されるようにローラポンプが用いられる例である。 そして、プライミングの具体的方法としては、「第3段階:いわゆるプライミングをする」という項において記載があり、4)項に次のような記載がなされている。「その後もひきつづき血液ポンプをゆっくり回転させて、ダイアライザーや血液回路内の消毒薬を完全にあらいながすと同時に、生食水などで充填する。この間、ダイアライザー内の空気を完全においだすために、ダイアライザー下方の動脈回路をときどきしめて、ダイアライザーの静脈側にたまった空気を鉗子の把持部でたたいたりしておいだすようにする(図27,28)。」 (2) この記載において、引用されている図面には、ダイアライザーの下方のチューブを鉗子でとめて、その流れを止めている状態(図27)と、ダイアライザーを片手にもち、もう一方の手で鉗子でダイアライザー上部をたたいて空気を逃がす状態(図28)とが示されている。 すなわち、刊行物2には、@生食水などをチューブに流し込み、流路全体に充填させることで空気除去をすること、Aまた、その空気除去を徹底させるために、時々、ダイアライザーの液流入側をいったん鉗子で止めること、Bさらにダイアライザーをたたいたりすることで空気を強制的に追い出すことが開示されているといえる。 (3) また、「B.いわゆるプライミングの注意事項」という項において、 「・・・2.たとえば、HFKでは繊細な中空糸ホローファイバーho11ow fiberの一本一本が確実に生食水などで充填され、ダイアライザー内に、空気が絶対に入らないようにする。3.2のためにも、いわゆるプライミングはゆっくり実施し、・・・30分以上は時間をかける。」と記載されていて、このプライミングは、上記@乃至Bの空気抜き工程を含めて非常にゆっくり行われることが前提となっている。 (4) したがって、刊行物2には、本件発明の構成である、液体流路に対して、短時間の間に液体流量を繰り返し大小に変化させて流すことのみにより、効率的に気泡を除去するという事項は、開示されていない。 (5) 審決の、刊行物2には「間欠的に」液体を流すこと自体は開示されているとの認定には大きな過誤がある。本件発明の「間欠的」な動作は、上述のように、1回の流量の大小変化の動作がきわめて短時間になされることを前提にしているのに対し、刊行物2では、鉗子の固定・開放という1回の操作が短時間で行われることを前提とするかどうか不明であり、鉗子の固定を解いた1回目の操作に続く、次の固定・開放操作が短時間内に行われるかどうかも不明であって、さらに、 次の固定・開放操作が必ず行われるかどうかすら不明である。したがって、刊行物2の操作は、本件発明の「間欠的」における「繰り返し」という要素が欠如しているといえるし、仮に次の操作が行われるとしても、それは短時間を前提にしているものでないことが明白である。このように、刊行物2の記載事項は、本件発明の「間欠的に液体を流す」構成とは、技術的意義が明瞭に異なっているのであって、 審決の認定は誤っている。 (6) 原告は、刊行物2に示される鉗子の固定操作に関する記載から、それを開放する操作によって、空気を追いだす作用も当然導き出されると主張するが、そもそも刊行物2には、本件発明1、2にいう「間欠的に液体を流す」という事項自体が示されていないのであるから、本件発明1、2のような効率的な気泡の除去作用についても示唆されるはずがない。また、刊行物2の記載を忠実に読めば、鉗子の固定と開放操作によって空気を追いだすことが記載してあると断言できるものではない。すなわち、図27において、生食水は鉗子で止めた下方のチューブ側からダイアライザーに流入することになるが、図27、28及びその説明によれば、空気を追い出すのは、あくまで図28の操作で行うと読むのが自然な解釈である。もっとも、鉗子の固定の後は確かにそれを開放する操作があるかもしれないが、その開放操作によって、空気を効率的に除去するとは当業者は決して読めない。それは、刊行物2に示されるプライミングは、図19から見て、動脈側のチューブがローラポンプ(血液ポンプ)に接続されている装置における方法であり、ローラポンプはチューブを強制的にしごくことにより液体を移送するものであることから、高圧流を得るために、鉗子により回路の一部をいったん止めた後開放するような操作を行おうとすると、チューブの内圧が高まり、破裂するおそれが生じてしまうからである(本件明細書:甲第6号証4頁左欄42〜48行参照)。 (7) 原告は、鉗子は液体移送調整手段に相当すると主張するが、本件発明2における液体移送調整手段とは、その実施例に示すように、制御回路49のような液体流量の大小を制御する手段をいうのであって(甲第6号証3頁)、むしろ鉗子自体は液体移送手段の一部とでもいうべきものである。そして、鉗子をいつ固定するかはまさに人が行うのであるから、刊行物2において、あえて液体移送調整手段に相当する手段を探すとすれば人以外にない。したがって、人が関与することを根拠として、装置構成が異なるとした審決の認定は何ら間違いがない。 3 原告の主張3(本件発明1及び2の進歩性の判断の誤り)に対して 刊行物2に、本件発明1及び2にいう「間欠的」な動作が開示されていない以上、原告の主張は意味がない。しかも、原告の主張は、原告独自の特異な技術的常識に基づいて、刊行物2を解釈したところに立脚するものであるから、もともと失当である。 4 原告の主張4(本件発明3ないし5の進歩性の判断の誤り)に対して (1) 刊行物2に、本件発明にいう「間欠的」な動作が開示されていない以上、原告の主張は意味がない。しかも、原告の主張は、原告独自の特異な技術的常識に基づいて、刊行物2を解釈したことろに立脚するものであるから、もともと失当である。 (2) 原告は、審決は本件発明2の進歩性の判断を誤っているので、それを前提にした本件発明3ないし5の進歩性の判断が違法であるとしているが、本件発明2の進歩性の判断において、審決の結論に誤りはないから、この点の原告の主張も失当である。 |
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当裁判所の判断
1 刊行物2に記載された技術的事項(原告の主張2)について 本件では、(本件発明における「間欠的に」の意味いかんも含めて)刊行物2に記載された技術事項が主要な争点となっており、原告は、刊行物2には、「動脈回路をしめる操作とあける操作を交互に複数回行うことにより液体流路に間欠的に生食水を流して液体流路内の空気を追い出すこと」、「ダイアライザーから空気を除去する装置の構成部分として、液体流路への液体の移送を間欠的に行わしめる手段」が記載ないし示唆されていると主張するので、まず、この点を検討する。 (1) 甲第3号証によれば、刊行物2(「初心者のための血液透析の手技と看護」)には、以下の記載が認められる。 @「X.いわゆるプライミング(血液回路の洗浄と充填) いわゆるプライミングとは、ダイアライザーと血液回路の生食水による洗浄、その後の生食水による充填である(ヘパリン加生食水を充填することもある)。」(第15頁1〜5行)との記載。 A「B.いわゆるプライミングの注意事項 1. 清潔・確実に実施する。 2. たとえば、HFKのでは繊細な中空糸ホローファイバーhollow fiberの一本一本が確実に生食水などで充填され、ダイアライザー内に、空気が絶対に入らないようにする。 3. 2のためにも、いわゆるプライミングはゆっくり実施し、ダイアライザー内に・・・などの消毒剤や、・・・グリセリンなどを完全に洗いながすためにも30分以上は時間をかける。 C.いわゆるプライミングの手技と要領 第1段階:ダイアライザーをホルダーにセットして、ダイアライザーに透析液の供給ホースと排液ホースを接続する(図15)。 このさい、ホルダーにはダイアライザーの動脈側(赤いキャップの方、 図15のA)を上に、静脈側(青いキャップ、図15のV)を下にしてとりつける。そして透析液の供給ホース(in)をダイアライザーの静脈側に、排液ホース(out)を動脈側に接置する。 第2段階:動脈回路と静脈回路を供給装置にセットする(図16) 1)動脈回路をとりだし、供給装置にむかって右側に、エア・トラップを逆にしてとりつけ、回路の先の方に鉗子をかけて点滴スタンドなどにかけておく(図17、18)。そして回路のポンプシグメント(太目になった部分)を血液ポンプにはめこむ・・・(図19)。 2)静脈回路を供給装置にむかって左側にとりつける(図20)。このさい、回路の先端の青色のキャップに鉗子をかけ、バケツの中に不潔にならないようにしてブラさげておく・・・(図21)。 第3段階:いわゆるプライミングをする 1)動脈回路のセットとプライミング:生食水ボトルと動脈回路とを輸液セットで連結する(図22)。動脈回路の先端(赤いキャップの方)にかけた鉗子をはずし、生食水で回路の先端まで十分に洗ったら(ながした生食水は動脈回路の先端からすてる)、生食水を充填して、再び鉗子をかけておく(図23)。 その後、血液ポンプをゆっくりまわして、回路を生食水であらいながす。動脈回路のエア・トラップの液面が約2/3の高さになる程度に生食水をプールしたら、エア・トラップをたててホルダーにとりつけ、さらに回路内を生食水で完全にみたし、血液ポンプをとめる。 回路の先端(赤いキャップとは反対側の端)ちかくに、一旦、鉗子をかけ、回路をダイアライザーの動脈側にしっかりはめこむ(図24)。 2)ホルダーにとりつけてあるダイアライザーを逆にして静脈側を上方にし、静脈回路をダイアライザーの静脈側にしっかりはめこむ(図25)。 3)回路の鉗子をはずし、血液ポンプを再度、ゆっくり回転させて、生食水をダイアライザー内から静脈回路へとながす。静脈エア・トラップ内に生食水を約2/3の高さまでプールできたら、エア・トラップをホルダーにはめこむ(図26)。 4)その後もひきつづき血液ポンプをゆっくり回転させて、ダイアライザーや血液回路内の消毒薬を完全にあらいながすと同時に、生食水などで充填する。 この間、ダイアライザー内の空気を完全においだすために、ダイアライザー下方の動脈回路をときどきしめて、ダイアライザーの静脈側にたまった空気を鉗子の把持部でたたいたりしておいだすようにする(図27、28)。」(16頁1行〜22頁1行)との記載。 B 図26の説明文に、「これまでの操作で、回路、ダイアライザーすべてが生食水でみたされたことになる。」との記載。 図27の説明文として「血液ポンプをゆっくり回転させながらダイアライザーの下を、時々、鉗子でとめて、ファイバー内の空気を追い出す。」との記載 図28の説明文として「空気が出ていきやすいようにダイアライザーの上部を軽くたたく。」との記載。 (2) 上記のように、刊行物2には、@いわゆるプライミングとは、ダイアライザーと血液回路の生食水による洗浄、その後の生食水による充填であること、Aプライミングの具体的操作について、繊細な中空糸ホローファイバーの一本一本が確実に生食水などで充填され、ダイアライザー内に空気が絶対に入らないようにするためにも、ゆっくり実施すべきであり、動脈回路からダイアライザー、静脈回路へと生食水を流して洗浄し、ダイアライザーや血液回路内の消毒薬を完全に洗い流すと同時に、生食水などで充填することなどが記載されており、また、Bダイアライザー内の空気を完全に追い出すために、ダイアライザーや血液回路すべてが生食水で満たされた状態で血液ポンプをゆっくり回転させながらダイアライザーの下を時々鉗子でとめてファイバー内の空気を追い出し、さらに、ダイアライザーの静脈側に溜まった空気が出て行きやすいように、ダイアライザーの上部を鉗子の把持部で軽くたたくことが記載されている。 (3) そして、「ダイアライザーの下を、時々、鉗子でとめて」とは、鉗子でとめることを複数回行うことを意味し、鉗子でとめると生食水の流れが止まり、鉗子をあけると生食水が再び流れることになるから、この操作によって生食水が間欠的に流れることは自明である。 そうすると、刊行物2の「ダイアライザーの下を、時々、鉗子でとめて、ファイバー内の空気を追い出し」との記載は、いかなる作用によりファイバー内の空気を追い出すかを直接的に記載してはいないにせよ、その文脈及び内容からみて、まさに、「動脈回路をしめる操作とあける操作を交互に複数回行うことにより液体流路に間欠的に生食水を流して液体流路内の空気を追い出すこと」を意味しているものと理解される。また、刊行物2に記載されたものにおいて、鉗子が、液体流路に間欠的に生食水を流す手段として使われている(たとえ人が操作するにしても)ことも明らかである。 (4) 被告は、刊行物2の記載を忠実に読めば、空気を追い出すのは図28の操作で行う、と読むのが自然な解釈であり、鉗子の固定と開放操作によってではないと主張する。 しかし、刊行物2には、図27の説明として「血液ポンプをゆっくり回転させながらダイアライザーの下を、時々、鉗子でとめて、ファイバー内の空気を追い出す。」と記載され、図28の説明として「空気が出ていきやすいようにダイアライザーの上部を軽くたたく。」と記載されているから、液体流路に相当するファイバー内の空気を追い出すのは、鉗子の固定と開放操作によるものであると理解される。図28の操作は、単にファイバーから追い出されて溜まったダイアライザーの上部の空気をダイアライザーから出て行かせるための操作にすぎない。 また、被告は、ローラポンプを使用している刊行物2の装置で、高圧流を得るために鉗子により回路の一部をいったん止めた後開放すると、チューブの内圧が高まり破裂するおそれが生じてしまうから、当業者は、刊行物2の記載内容から鉗子の操作によって空気を追い出していると理解するはずがないと主張する。しかし、これについては、破裂するほどチューブの内圧が高まる前に鉗子を開放すればよいだけのことであり、鉗子の固定ができないとする理由はないから、上記のような当業者の理解の妨げとなるものとは認められない。 (5) 被告は、本件発明にいう「間欠的に液体を流す」とは、短時間の間に行われる繰り返し動作であることが当然の前提であるから、非常にゆっくり行われることが前提になっている刊行物2に記載されたプライミングの操作は、「間欠的に液体を流す」こととは異なるものであって、「間欠的に液体を流す」ことが刊行物2に開示されているとはいえないと主張する。 しかしながら、「間欠」は、一定の時間を隔てて起こること(広辞苑第5版)を意味する語であるところ、本件明細書の請求項1及び2には「間欠的に液体を流す」としか記載されていないから、これを被告の主張するように「短時間の間に」液体流量を繰り返し大小に変化させて流すという限定された意味に解釈することはできない。被告は、本件明細書には、試験例として、3分間の間に2秒間隔で遠心ポンプ33のON・OFF動作が繰り返されることが記載されていると指摘するが、これは、「間欠的に液体を流す」という動作の一例を示すものにすぎず、「間欠的に」の意味を限定して解釈することの十分な根拠となるものではない。 また、刊行物2には、空気が絶対に入らないようにするためにプライミングはゆっくり実施すること、ダイアライザー内の消毒剤やグリセリンなどを完全に洗い流すために30分以上時間をかけることが記載されているが、「ダイアライザーの下を時々鉗子でとめる」という動作自体に30分以上時間をかけるとは記載されていない。 以上のことからすれば、本件発明にいう「間欠的に液体を流す」ことと、刊行物2のプライミングにおける「動脈回路をしめる操作とあける操作を交互に複数回行う」こととの間に実質的な相違があるということはできない。そして、刊行物2に、上記プライミングの操作により液体流路内に存在する空気(気泡)を除去することが記載されていると認められることは前示のとおりであるから、結局、刊行物2には、「間欠的に液体を流し、液体流路内に存在する気泡を除去すること」が示されているというべきである。 (6) 次に、本件発明2の液体移送調整手段に相当するものが刊行物2に記載されているか否かについて検討する。 被告は、本件発明2における液体移送調整手段とは、その実施例に示すように、 制御回路49のような液体流量の大小を制御する手段をいうのであって、鉗子自体は液体移送手段の一部であり、鉗子をいつ固定するかは人が行うのであるから、人が関与することを根拠として、装置構成が異なるとした審決の認定は何ら間違いがない、と主張する。 しかしながら、本件明細書の請求項2には、「液体流路への液体の移送を間欠的に行なわしめる液体移送調整手段」としか記載されておらず、また、本件明細書には、「さらに単純化すれば、制御回路49は単なる手動のON・OFFスイッチと遠心ポンプ33のモータを駆動する電源とから構成してもよい。」(甲第6号証4頁左欄20〜22行)、「第2図に示した装置が、第1図の装置と異なる点は、第2図の装置においては、遠心ポンプ33は間欠的に駆動されず、連続的に駆動され、一方、制御回路49を介して弁51がチューブ31の押圧と開放を繰り返し、 これによって人工肺1の血液流入口17へはリンゲル液の間欠流が導入されることになる。」(同4頁左欄34〜39行)、「この例において、制御回路49は、第1図に基づき説明した例と同様な作動をするよう構成することができ、第1図の場合と同様、手動によるON・OFFスイッチとしてもよい。」(同4頁右欄8〜11行)と記載されており、本件発明2の液体移送調整手段は、手動のスイッチのON・OFFにより、弁がチューブの押圧と開放を繰り返すようなものを含むことが明らかである。 そうすると、本件発明2における手動のスイッチ及び弁と、刊行物2における鉗子とが対応するということができるから、本件発明2の液体移送調整手段と刊行物2に記載された鉗子とは、その機能において実質的に差異があるものではなく、したがって、刊行物2には、本件発明2の液体移送調整手段に相当するものが少なくとも示唆はされているというべきである。 (7) 以上のとおりであるから、刊行物2には、「間欠的に液体を流し、液体流路内に存在する気泡を除去すること」が記載され、また、「液体流路への液体の位相を間欠的に行わしめる液体調整手段」が示唆されているということができる。 これらの事項が刊行物2に記載も示唆もされていないとした審決の認定は誤りである。 2 原告の主張3、4(本件発明1ないし5の進歩性判断の誤り)について (1) 本件発明1について ア 審決は、刊行物2には、「動脈回路をしめる操作とあける操作とを交互に複数回行うことにより流体流路(液体流路)に間欠的に生食水を流して流体流路(液体流路)内の空気を追い出すこと」が記載されていないとの認定に基づいて、 「本件発明1は刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。」と判断したが、刊行物2に関する審決の上記認定が誤りであることは1で判断したとおりである。そして、刊行物2に関して1に認定したところを前提として検討すると、刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された技術的事項を組み合わせて、当業者が本件発明1の構成に想到することに格別の困難性は認められない。 したがって、審決が本件発明1についてした進歩性の判断は、誤りであるというべきである。 イ 被告は、本件発明は、液体流路に間欠流を流してやることの作用と、その間欠流を、気体は通すが液体は通さない壁面から構成される液体流路を有する装置の液体流路に流してやることによる作用との相乗作用により、「煩雑な操作を要することなく、短時間で人工肺やチューブ、コネクタ等の液体流路を有する装置の液体流路に付着した気泡を除去することができる方法ならびにその実施に使用する装置が提供される。」(本件明細書・甲第6号証6頁左欄下から4行〜右欄1行)、という顕著な効果を奏すると主張する。 しかしながら、被告の主張する本件発明1の顕著な効果とは、被告の主張によれば、間欠流を、気体は通すが液体は通さない壁面から構成される液体流路に流すことによって奏される効果であるというのであるから、その効果は、刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された技術的事項を適用することによって得られる構成(間欠流を、気体は通すが液体は通さない壁面から構成される液体流路に流すという構成となる。)によって当然に得られる効果に他ならない。そして、本件発明1が、上記以外の特別顕著な効果を奏することを認めるに足りる主張立証はない。 したがって、本件発明1の効果についての被告の上記主張は、上記アの判断を左右するものではない。 (2) 本件発明2について 審決は、刊行物2には、「ダイアライザーから空気を除去する装置の構成部分として、液体流路への液体の移送を間欠的に行わしめる手段」は記載されていないとの認定に基づいて、「本件発明2は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。」と判断したが、刊行物2に関する審決の上記認定が誤りであることは、1に判断したとおりであり、また、刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された技術的事項を組合せ、人が行う鉗子の操作を機械化することによって、本件発明2の構成に想到することは、当業者が容易になし得たことというべきである。本件発明の作用効果についての判断も上記(1)において説示したところと同じである。 したがって、審決が本件発明2の進歩性についてした判断は、誤りである。 (3) 本件発明3ないし5について ア 審決は、本件発明3ないし5について、本件発明2が当業者の容易になし得たものとはいえないことを理由として、進歩性があると判断している。しかしながら、前示のとおり、本件発明2が想到容易ではないとした審決の判断は誤りであり、この誤りが、本件発明2についての上記判断を前提とした本件発明3ないし5の進歩性についての判断に影響を及ぼすことは明らかである。 イ なお、被告は、本件発明3ないし5は、本件発明2を前提とするものの、それとは別発明であると主張している。これは、本件発明3ないし5に特有の構成要件に関して、進歩性の判断をすべきことを主張しているものと解される。この点、審決は、本件発明2が進歩性を有することのみを前提として、本件発明3ないし5の進歩性を認めており、各発明特有の構成要件については判断をしていないから、各発明特有の構成要件については、特許庁において改めて審理判断することが相当である。 3 結論 審決は、本件発明1及び2の進歩性についての判断を誤り、また、本件発明3ないし5に関しても、その進歩性を判断するに当たって前提となる刊行物2に記載された技術的事項に関する認定を誤ったものであって、これらの誤りは、審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。 よって、審決は取り消されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 古城春実 |