運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 容易に発明 /  遡及 /  登録実用新案 /  設定登録 /  拒絶理由通知 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 13年 (行ケ) 513号 審決取消請求事件
原告 株式会社エンテック
訴訟代理人弁理士 吉井剛、吉井雅栄
被告 株式会社森井
訴訟代理人弁護士 渡辺隆夫、弁理士 近藤彰
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/11
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年審判第35359号事件について平成13年10月9日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告が特許権者であり、発明の名称を「食品収納容器」とする本件特許第2879212号発明は、平成10年1月31日に特許出願され、平成11年1月29日に設定登録された。被告は、平成11年7月12日本件特許について無効審判の請求をした。同審判請求においては、平成11年11月8日、本件特許につき訂正請求があり、平成12年2月18日に「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(第1次審決)があった。第1次審決について被告が提起した取消訴訟(東京高裁平成12年(行ケ)第106号)において、平成13年2月28日に審決取消しの判決があって、再度行われた審判において訂正拒絶理由通知があり、原告は、その指定期間内である平成13年8月28日、上記訂正請求の手続補正をした。
これらの経過の下、平成13年10月9日、「特許第2879212号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。」との審決があり(本件審決)、その謄本は同月19日原告に送達された。
2 本件発明の要旨 (1) 特許設定登録時のもの 【請求項1】食品を収納した状態でそのまま保存したり暖め調理したりなどし得る容器を、上部に開口部を有する容体と、この容体の開口部を閉塞し得る蓋体とで構成し、この蓋体の所定の部分に周囲に日付目盛を配する回転体を水平回動自在に設け、この回転体の上面部にこの回転体を回動操作し得る摘まみ部を設け、この摘まみ部に前記日付目盛を指示し得る日付指示部を設け、前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を前記回転体の軸芯部に設けたことを特徴とする食品収納容器。 【請求項2】前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔,前記回転体に貫通形成した孔及び前記摘まみ部に貫通形成した孔を回転体の軸芯部に縦列状態若しくは重合状態にして連通配設したことを特徴とする請求項1記載の食品収納容器。
【請求項3】前記回転体の下面部に設けた軸部を前記蓋体に設けた蒸気抜孔に回動自在に嵌挿係着し、この軸部に前記孔を設けて、前記蒸気抜孔とこの孔とを重合状態にして連通配設したことを特徴とする請求項1,2いずれか1項に記載の食品収納容器。
【請求項4】前記摘まみ部を前記回転体の軸芯部上を横断する状態で一体突出成形し、この摘まみ部に貫通形成した孔と回転体に貫通形成した孔とを一体連通形成したことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の食品収納容器。
【請求項5】前記開閉切り替え機構を、前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔,前記回転体に貫通形成した孔及び前記摘まみ部に貫通形成した孔を開閉し得る開閉操作部を移動自在に前記摘まみ部に設けて構成したことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の食品収納容器。
【請求項6】前記摘まみ部を蓋体の上面から埋没させた状態で設けたことを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の食品収納容器。
(2) 訂正後(訂正補正前)のもの 【請求項1】食品を収納した状態でそのまま保存したり暖め調理したりなどし得る容器を、上部に開口部を有する容体と、この容体の開口部を閉塞し得る蓋体とで構成し、この蓋体の所定の部分に周囲に日付目盛を配する回転体を水平回動自在に設け、この回転体の上面部にこの回転体を回動操作し得る摘まみ部を設け、この摘まみ部に前記日付目盛を指示し得る日付指示部を設け、前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を前記回転体の軸芯部にして摘まみ部に設けたことを特徴とする食品収納容器。
【請求項2】前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔,前記回転体に貫通形成した孔及び前記摘まみ部に貫通形成した孔を回転体の軸芯部に縦列状態若しくは重合状態にして連通配設したことを特徴とする請求項1記載の食品収納容器。
【請求項3】前記回転体の下面部に設けた軸部を前記蓋体に設けた蒸気抜孔に回動自在に嵌挿係着し、この軸部に前記孔を設けて、前記蒸気抜孔とこの孔とを重合状態にして連通配設したことを特徴とする請求項1,2いずれか1項に記載の食品収納容器。
【請求項4】前記摘まみ部を前記回転体の軸芯部上を横断する状態で一体突出成形し、この摘まみ部に貫通形成した孔と回転体に貫通形成した孔とを一体連通形成したことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の食品収納容器。
【請求項5】前記開閉切り替え機構を、前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔,前記回転体に貫通形成した孔及び前記摘まみ部に貫通形成した孔を開閉し得る開閉操作部を移動自在に前記摘まみ部に設けて構成したことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の食品収納容器。
【請求項6】前記摘まみ部を蓋体の上面から埋没させた状態で設けたことを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の食品収納容器。
(3) 訂正補正後のもの 【請求項1】食品を収納した状態でそのまま保存をしたり電子レンジによる暖め調理をしたりする容器を、上部に開口部を有する容体と、この容体の開口部を閉塞する蓋体とで構成し、この蓋体の所定の部分には円形の底浅部と底深部とから成る段状の陥没部が設けられ、この陥没部の底深部には挿通孔が貫通形成され、陥没部内には水平回動自在な平面視円形状の回転体が設けられ、この回転体の高さは、前記底深部の深さと同一に設定されており、この回転体の下面部には貫通孔を形成した円筒係止体が設けられ、この円筒係止体の下端縁部には鍔部及び切欠部が設けられ、この鍔部は該円筒係止体を前記挿通孔に圧入した際、該挿通孔に回動自在に嵌挿係着されるように構成され、回転体の周囲にして底浅部には日付目盛が設けられ、回転体の上面部には該回転体を回動操作し得る摘まみ部が該回転体の軸芯部上を横断する状態で一体突出成形され、この摘まみ部には略中央から基端側にかけて凹溝が設けられ、この凹溝の内壁面にはガイド溝が形成されており、この摘まみ部の凹溝の底面には前記円筒係止体の貫通孔の開口端である孔が設けられ、この孔と貫通孔とが縦列状態に連通配設されて構成される蒸気抜孔が回転体の軸芯部に設けられ、摘まみ部の一端には底浅部に設けた前記日付目盛を指示し得る先端尖鋭の日付指示部が設けられ、凹溝には該凹溝をスライド移動する上端に凹凸の山形形状を形成したスライド体が設けられ、このスライド体は前記ガイド溝によってガイドされる構成であり、摘まみ部は蓋体の上面から埋没した状態で設けられていることを特徴とする食品収納容器。
3 審決の理由の要点 (1) 訂正補正のうち、特許請求の範囲に関するものは、訂正請求書で訂正した特許請求の範囲の記載を更に特許請求の範囲減縮を目的として補正しようとするものであるから、訂正請求書の要旨を変更する補正である。したがって、訂正補正は、特許法134条5項で準用する特許法131条2項の規定に適合しないから、
認めることができない。
(2) 訂正補正前の訂正発明1〜6(請求項1〜6に記載の発明)は、刊行物1(実公平6-44863号公報)、刊行物2(登録実用新案第3030089号公報)及び刊行物3(ギフト商品カタログ「シャディ96年総合版」抜粋写し)に記載された発明並びに本件出願前周知の事項に基づいて(周知の事項は訂正発明6についてのみ引用)、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(3) 特許設定登録時の本件発明1〜6(請求項1〜6に記載の発明)も、審判甲第1号証(刊行物1と同じ)、審判甲第2号証(刊行物2と同じ)及び審判甲第5号証(刊行物3と同じ)に記載された発明並びに本件出願前周知の事項に基づいて(周知の事項は本件発明6についてのみ引用)、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許を受けることができないものである。
原告主張の審決取消事由
以下の理由により、訂正補正を不適法なものとした審決の判断は誤りである。
審決の理由の要点の(1)の認定判断は、東京高裁平成8年(行ケ)第222号平成11年6月3日判決に依拠している。この平成11年東京高判以前、特許庁は、特許請求の範囲減縮のあった場合に更に特許請求の範囲減縮訂正することを認めていたが、この判決後、特許庁はこれを認めないこととなった。
本件の経緯は、平成11年11月8日、答弁書提出とともに訂正請求をした、平成12年2月18日に無効審判請求を成り立たないとする審決があり、被告からの提訴に基づき審決取消しの判決があり、再度審理されることとなった審判で訂正拒絶理由通知を受け、平成13年8月28日、本件訂正補正をした、そして、本件審決によって訂正請求が不適法なものとされたというにある。このように審決取消しの東京高裁判決が介在した場合には、特許権者の帰責はないか又は薄弱であるから、このような場合にまで、平成11年東京高判の示した法理を適用することはできない。平成11年東京高判を適用する事案に該当するか否かは、当初の訂正請求が不十分であった場合の特許権者の帰責性と審理手続遅延との比較衡量によって決せられるべきである。
本件の訂正請求当初において平成11年東京高判は出ておらず、特許権者である原告にとって、更なる訂正ができないという認識はなかった、仮に本件において平成11年東京高判を適用するとしたら、法律不遡及の原則の趣旨にもとる。
当裁判所の判断
原告主張に係る平成11年東京高判は、「特許法134条5項において準用する同法131条2項本文は、「前項の規定により提出した請求書の補正は、その要旨を変更するものであってはならない。」と規定しており、これによれば、訂正請求書の補正は、訂正請求書の要旨を変更しない範囲で許される」と判断したものである。審決も、この判決の指針に基づいて、審決の理由の要点(1)のとおり判断したものと理解される。そして、審決が認定したように、本件訂正補正が訂正請求書の要旨を変更するものであること自体について、原告はこれを争う具体的な事由を主張していない。
原告は、平成11年東京高判が示した上記法理に異論を述べるものではなく、本事案においては、特段の事情があるからこの法理を適用すべきではないと主張するものである。
ところで、本件特許に関しては、本訴提起後の平成13年11月22日、原告から新たな訂正審判の請求があり(訂正2001-39215号)、その請求に係る特許請求の範囲に関する内容は、本件訂正補正におけるものと同一のものである(甲第6号証及び乙第1号証)。この訂正審判請求に関しては、平成14年5月22日にこれを不成立とする審決があり、これに対する取消訴訟が同一の受訴裁判所に係属し(平成14年(行ケ)第325号)、本訴と同時に口頭弁論終結となり、本判決と同時に判決言渡し予定となっている。このように、本件では、訂正補正の内容に係る訂正が別途の訂正審判請求内容のものとなっていて、この内容の可否についての司法判断が示されるという事情もあることを考えると、本件において原告主張のような特段の事情があるということはできない。
結局、本件訂正補正は訂正請求書の要旨を変更するもので不適法なものであるとした審決の判断に、原告主張の誤りはないというべきである。
結論
よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利