関連審決 | 審判1999-35359 訂正2001-39215 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / クレーム / 登録実用新案 / 特許発明 / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 減縮 / 変更 / 訂正明細書 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
325号
審決取消請求事件
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原告 株式会社エンテック 訴訟代理人弁理士 吉井剛、吉井雅栄 被告 特許庁長官太田信一郎 指定代理人 渡邊真、村本佳史、高木進、林栄二 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/03/11 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が訂正2001-39215号事件について平成14年5月22日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「食品収納容器」とする本件特許第2879212号発明(平成10年1月31日特許出願、平成11年1月29日設定登録)の特許権者であるが、平成13年11月22日、本件特許につき訂正の審判請求をし、訂正2001-39215号事件として係属したが、平成14年5月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年6月1日原告に送達された。 2 訂正前(特許設定登録時)の本件発明の要旨 【請求項1】食品を収納した状態でそのまま保存したり暖め調理したりなどし得る容器を、上部に開口部を有する容体と、この容体の開口部を閉塞し得る蓋体とで構成し、この蓋体の所定の部分に周囲に日付目盛を配する回転体を水平回動自在に設け、この回転体の上面部にこの回転体を回動操作し得る摘まみ部を設け、この摘まみ部に前記日付目盛を指示し得る日付指示部を設け、前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を前記回転体の軸芯部に設けたことを特徴とする食品収納容器。 【請求項2】前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔,前記回転体に貫通形成した孔及び前記摘まみ部に貫通形成した孔を回転体の軸芯部に縦列状態若しくは重合状態にして連通配設したことを特徴とする請求項1記載の食品収納容器。 【請求項3】前記回転体の下面部に設けた軸部を前記蓋体に設けた蒸気抜孔に回動自在に嵌挿係着し、この軸部に前記孔を設けて、前記蒸気抜孔とこの孔とを重合状態にして連通配設したことを特徴とする請求項1,2いずれか1項に記載の食品収納容器。 【請求項4】前記摘まみ部を前記回転体の軸芯部上を横断する状態で一体突出成形し、この摘まみ部に貫通形成した孔と回転体に貫通形成した孔とを一体連通形成したことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の食品収納容器。 【請求項5】前記開閉切り替え機構を、前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔,前記回転体に貫通形成した孔及び前記摘まみ部に貫通形成した孔を開閉し得る開閉操作部を移動自在に前記摘まみ部に設けて構成したことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の食品収納容器。 【請求項6】前記摘まみ部を蓋体の上面から埋没させた状態で設けたことを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の食品収納容器。 3 訂正に係る本件発明(訂正発明)の要旨 【請求項1】食品を収納した状態でそのまま保存をしたり電子レンジによる暖め調理をしたりする容器を、上部に開口部を有する容体と、この容体の開口部を閉塞する蓋体とで構成し、この蓋体の所定の部分には円形の底浅部と底深部とから成る段状の陥没部が設けられ、この陥没部の底深部には挿通孔が貫通形成され、陥没部内には水平回動自在な平面視円形状の回転体が設けられ、この回転体の高さは、前記底深部の深さと同一に設定されており、この回転体の下面部には貫通孔を形成した円筒係止体が設けられ、この円筒係止体の下端縁部には鍔部及び切欠部が設けられ、この鍔部は該円筒係止体を前記挿通孔に圧入した際、該挿通孔に回動自在に嵌挿係着されるように構成され、回転体の周囲にして底浅部には日付目盛が設けられ、回転体の上面部には該回転体を回動操作し得る摘まみ部が該回転体の軸芯部上を横断する状態で一体突出成形され、この摘まみ部には略中央から基端側にかけて凹溝が設けられ、この凹溝の内壁面にはガイド溝が形成されており、この摘まみ部の凹溝の底面には前記円筒係止体の貫通孔の開口端である孔が設けられ、この孔と貫通孔とが縦列状態に連通配設されて構成される蒸気抜孔が回転体の軸芯部に設けられ、摘まみ部の一端には底浅部に設けた前記日付目盛を指示し得る先端尖鋭の日付指示部が設けられ、凹溝には該凹溝をスライド移動する上端に凹凸の山形形状を形成したスライド体が設けられ、このスライド体は前記ガイド溝によってガイドされる構成であり、摘まみ部は蓋体の上面から埋没した状態で設けられていることを特徴とする食品収納容器。 4 審決の理由 別紙審決の理由のとおりであるが、その要点は、次のとおりである。 訂正発明は、下記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 刊行物1;実公平6-44863号公報 刊行物2;登録実用新案第3030089号公報 刊行物3;ギフト商品カタログ「シャディ96年総合版」抜粋写し 刊行物4;実願平3-104180号(実開平4-118349号)のマイクロフィルム |
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原告主張の審決取消事由
審決は、本件訂正により限定された下記の構成a)〜c)を当業者の設計変更の範囲内であると誤認し、訂正発明が、刊行物1〜4記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると誤って判断したものである。 a)蓋体の所定の部分には円形の底浅部と底深部とから成る段状の陥没部が設けられ、この陥没部の底浅部には挿通孔が貫通形成され、陥没部内には水平回動自在な平面視円形状の回転体が設けられ、この回転体の高さは、前記底深部の深さと同一に設定されており、回転体の周囲にして底浅部には日付目盛が設けられ、摘まみ部は蓋体の上面から埋没した状態で設けられる点。(上記食品容器の日付目盛、回転体及び摘まみ部を蓋体の表面より突出させないように構成を限定した点。) b)回転体の下面部には貫通孔を形成した円筒係止体が設けられ、この円筒係止体の下端縁部には鍔部及び切欠部が設けられ、この鍔部は該円筒係止体を前記挿通孔に圧入した際、該挿通孔に回動自在に嵌挿係着されるように構成される点。(上記食品容器の回転体の軸芯部を蓋体の挿通孔に挿通して抜け出さないような構成に限定した点。) c)回転体の上面部には該回転体を回動操作し得る摘まみ部が該回転体の軸芯部上を横断する状態で一体突出成形され、この摘まみ部には略中央から基端側にかけて凹溝が設けられ、この凹溝の内壁面にはガイド溝が形成されており、この摘まみ部の凹溝の底面には前記円筒係止体の貫通孔の開口端である孔が設けられ、この孔と貫通孔とが縦列状態に連通配設されて構成される蒸気抜孔が回転体の軸芯部に設けられ、摘まみ部の一端には底浅部に設けた前記日付目盛を指示し得る先端尖鋭の日付指示部が設けられ、凹溝には該凹溝をスライド移動する上端に凹凸の山形形状を形成したスライド体が設けられ、このスライド体は前記ガイド溝によってガイドされる構成である点。(上記食品容器の回転体の上面に設ける摘まみ部の構成と、 該摘まみ部に設けられる蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構の構成を限定した点。) |
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当裁判所の判断
1 訂正事項 (1) 訂正前の「食品を収納した状態でそのまま保存したり暖め調理したりなどし得る容器を、上部に開口部を有する容体と、この容体の開口部を閉塞し得る蓋体とで構成し、この蓋体の所定の部分に周囲に日付目盛を配する回転体を水平回動自在に設け、この回転体の上面部にこの回転体を回動操作し得る摘まみ部を設け、この摘まみ部に前記日付目盛を指示し得る日付指示部を設け、前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を前記回転体の軸芯部にして摘まみ部に設けた食品収納容器。」(前記第2の2の構成を基準にして平成11年11月8日にされた訂正請求に係る構成)が、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であることは、本件特許の無効審判請求(平成11年審判第35359号)の第1次審決を取り消した判決(東京高裁平成12年(行ケ)第106号平成13年2月28日判決、甲第9号証)で説示されているとおりであり、この点を覆すべき事実関係に関する主張立証はない。 (2) 訂正発明では、構成が更に前記審決取消事由に記載のa)〜c)のように限定されている(審決認定のとおりであり、原告の争うところではない。)。 審決は、訂正事項a)〜c)は当業者であれば通常行うことのできる範囲の設計変更であって、格別相違を要することではなく、これらの事項による効果も、刊行物1〜4に記載された発明から予測できる程度のものであるなどと認定判断した。 2 訂正事項a)について 原告は、訂正事項a)について、「段状の陥没部は、日付目盛を目立たせるための構成であり、また、日付目盛の摩耗消失が防止できる。そして、回転体の高さを底深部と同一の高さにし、回転体の上面(日付指示部)と底浅部とを面一として日付指示部が日付目盛を的確に指示できるようにしている。」と主張する。 しかし、刊行物2(登録実用新案第3030089号公報、甲第6号証)には、 容器内に保存した日を容易な手段によって特定することができる食品容器に関する記載があり、従来の容器の蓋体においては、蓋体の上面に突出して設けられている日付数字13、摘み14では見栄えが良くない上に他のものに接触してしまうので、日付リング5を蓋体21に形成された環状凹溝内23に収めると、蓋体21上から不必要に出張ることなく、容器2の見栄えが良くなるとの周知の技術事項が記載されているものと認めることができる。そして、原告主張の日付目盛を目立たせることは、このように刊行物2にも記載のあるような見栄えを良くするという周知の課題を解決する上で当然考慮される設計事項であり、また、日付目盛の摩耗消失を防止できること及び日付指示部が日付目盛を的確に指示できることは、上記の周知技術事項及び設計事項から当然予測される程度のものと認めるべきものである。 3 訂正事項b)について 原告は、訂正事項b)について、「円筒係止体は、縮径できることは必須ではなく、通常であれば挿通孔と同径にする。しかし、組み立てをより良好にするため、 「訂正クレーム」は円筒係止体を縮径できるようにし、その縮径可能な構成を最も安価に行える切欠部の形成により行っている。また、円筒係止体の挿通孔からの抜け止めも本来、必須ではなく、製品をより商品価値の高いものとするための工夫であり、また、抜け止め構造そのものも、鍔部ではなく、例えば、回転体の外周面と底深部内周面とに凹凸嵌合部を設けたりすることでも可能であるが、あえて、コストがかからない鍔部を採用した。」と主張する。 しかし、製造コストを下げることが本件出願前周知の課題であることは自明のことであり、このために採用された原告主張の構成も設計変更事項にすぎず、格別創意を要することではないとした審決の認定判断に、誤りは認められない。(円柱係止体を挿通孔に回動自在に嵌挿係着するに当たり、円筒係止体の下端縁部に切欠部を設け、円柱係止体を挿通孔に圧入できるようにして作業性を高め製造コストを下げることは、刊行物4(実願平3-104180号(実開平4-118349号)のマイクロフィルム、甲第8号証)からみても、当業者ならば商品化の際に適宜採用し得る設計的事項にすぎないことが明らかである。) 4 訂正事項c)について 原告は、訂正事項c)について、「回転体を回動操作し得る摘まみ部が、該回転体の軸芯部上を横断する状態で一体突出成形されている構成も、回転体を最も良く回動操作し得る構成である。孔と貫通孔とが縦列状態に連通配設されて構成される蒸気抜孔という限定についても同様で、最も効果的な構成の蒸気抜孔である」と主張する。 しかし、刊行物1(実公平6-44863号公報、甲第5号証)の図2、4、5に記載の回動摘3(回動部材)からも明らかなように、回転体の上面部に当該回転体を回動操作し得る摘まみ部を、当該回転体の軸芯部上を横断する状態で一体突出成形することは、当該技術分野において本件出願前周知であると認められる。また、蒸気を抜く経路を敢えて曲げる必然性も認められないので、原告の上記主張に係る点は格別のものとはいえない。 5 まとめ 原告が審決取消事由として主張するところは、以上の2〜4に要約したところに尽きるものと理解されるが、これらの主張はいずれも採用することができない。 したがって、訂正事項a)、b)、c)を「当業者であれば通常行うことのできる範囲の設計変更であって、格別創意を要することではない」とした審決の判断に誤りはなく、訂正発明は刊行物1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとした審決の認定判断に誤りはない。 |
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結論
よって、主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
平成14年(行ケ)第325号訂正2001-39215号審決の理由1.請求の要旨本件審判の請求の要旨は、特許第2879212号発明(平成10年1月31日出願、平成11年1月29日設定登録)の明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。 上記訂正明細書の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。 「【請求項1】食品を収納した状態でそのまま保存をしたり電子レンジによる暖め調理をしたりする容器を、上部に開口部を有する容体と、この容体の開口部を閉塞する蓋体とで構成し、この蓋体の所定の部分には円形の底浅部と底深部とから成る段状の陥没部が設けられ、この陥没部の底深部には挿通孔が貫通形成され、陥没部内には水平回動自在な平面視円形状の回転体が設けられ、この回転体の高さは、 前記底深部の深さと同一に設定されており、この回転体の下面部には貫通孔を形成した円筒係止体が設けられ、この円筒係止体の下端縁部には鍔部及び切欠部が設けられ、この鍔部は該円筒係止体を前記挿通孔に圧入した際、該挿通孔に回動自在に嵌挿係着されるように構成され、回転体の周囲にして底浅部には日付目盛が設けられ、回転体の上面部には該回転体を回動操作し得る摘まみ部が該回転体の軸芯部上を横断する状態で一体突出成形され、この摘まみ部には略中央から基端側にかけて凹溝が設けられ、この凹溝の内壁面にはガイド溝が形成されており、この摘まみ部の凹溝の底面には前記円筒係止体の貫通孔の開口端である孔が設けられ、この孔と貫通孔とが縦列状態に連通配設されて構成される蒸気抜孔が回転体の軸芯部に設けられ、摘まみ部の一端には底浅部に設けた前記日付目盛を指示し得る先端尖鋭の日付指示部が設けられ、凹溝には該凹溝をスライド移動する上端に凹凸の山形形状を形成したスライド体が設けられ、このスライド体は前記ガイド溝によってガイドされる構成であり、摘まみ部は蓋体の上面から埋没した状態で設けられていることを特徴とする食品収納容器。」2.訂正拒絶理由の概要一方、平成14年1月28日付けで通知した訂正の拒絶理由の概要は、次のとおりである。 「本件訂正明細書の請求項1に係る発明(本件訂正発明)は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、 特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。したがって、本件審判の訂正請求は、特許法第126条第4項の規定に適合しない。」刊行物1;実公平6-44863号公報刊行物2;登録実用新案第3030089号公報刊行物3;ギフト商品カタログ「シャディ96年総合版」抜粋写し刊行物4;実願平3-104180号(実開平4-118349号)のマイクロフィルム3.引用刊行物の記載事項刊行物1(実公平6-44863号公報)には、食品を収納し、且つ直接電子レンジで加熱することができる食品用容器に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。 「【実施例】次に本考案の実施例について説明する。本考案に係る食品用容器は、図1、2、3に示すように、耐熱性樹脂で形成した容器本体1と、容器本体1に略密嵌する蓋体2と、蓋体2の上面に装着される回動摘(回動部材)3とからなり、蓋体2の上面適宜位置に円形の浅い凹部21を形成すると共に、その中心に支軸22を突設し、凹部21内における支軸22の所定の外周部分に、大小の通気孔23、24、25を設け、凹部21の外周の蓋体2の上面に前記通気孔23、24、25と対応する記号L、M、S並びに前記通気孔記号と反対位置に指示目印4を設けてなる。回動摘3は前記凹部21に嵌合する大きさで支軸22に取り付けて凹部21内を自在に回動できるようにし、かつ回動の際に前記通気孔23、24、 25と対応する位置に連通孔31を形成し、またその表面に日付目盛5を設けてなり、前記日付目盛5を形成するに際して日付目盛5と指示目印4とが一致する範囲では、通気孔23、24、25と連通孔31とは連通しない範囲に形成する。 而して前記の容器を食品の貯蔵収納に使用する場合は、回動摘3を回動して、食品を収納した日付と対応する日付目盛5と指示目印4と一致せしめておく(図3イ参照)。従って後日単に蓋体2の当該指示を視認するのみで食品の収納日を知ることができる。しかも回動摘3による日付指示状態の場合は、通気孔23、24、25の何れもが閉塞されており、食品の収納に何ら不都合は無い。また電子レンジでの加熱調理に使用する際は、回動摘3を回動して通気孔23、24、25の何れかを選択して連通孔31と一致せしめて連通し、収納してなる食品に応じて、適宜な蒸気抜きがなされる通気面積となるように調整し、レンジ加熱を行うものである(図3ロ参照)。 また本考案は前記実施例に限定されるものではなく、図4、5に示すように、蓋体2の凹部21の外周部分に日付目盛5を設け、回動摘3に指示目印4を設け、回動摘5の回動操作によって食品の貯蔵収納時の日付メモリ並びにレンジ加熱時の蒸気抜き調整を行っても良い。 更に図6に示すように、通気孔23a、24a、25aを同じ大きさ若しくは大小異ならせると共に、回動摘3aに連通孔31を設けず、前記各通気孔の一つ若しくは複数を開閉する切欠部31aを形成した回動摘3aに日付目盛若しくは指示目印を付設しても良い等回動部材が日付指示部の動作部を兼ねるものであれば、回動部材の形態並びに通気部の構成及び日付指示部の形態は任意に定めることができる。」(段落【0009】〜【0012】)刊行物2(登録実用新案第3030089号公報)には、容器内に保存した日を容易な手段によって特定することができる食品容器に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。 「なお、上記実施形態は、あくまでも一例であり、様々に設計変更可能である。 たとえば、本実施形態の上記日付リングは、その上面に日付数字が付されていたが、日付数字は日付リングの側面に付しても良いのはいうまでもない。また、日付数字を特定する指標は、図1(a)に示された位置に限らず、日付リングに隣接して日付数字を特定できる位置であれば何処に設けてもよい。その他、リング上に指標を設け、リングに隣接する位置に日付数字を付すように構成してもよい。 また、本実施形態では、日付リングは、日付リングの内側面に突設した環状凸部を環状凹溝の内側内壁のその半径方向に窪んだ環状凹部に係合させることにより嵌合保持されたが、その他、日付リングの外側面に突設した環状凸部を環状凹溝の外側内壁のその半径方向に窪んだ環状凹部に係合させるもの、日付リングの外側面に窪んだ環状凹部を環状凹溝の外側内壁のその半径方向に突出した環状凸部に係合させるもの、日付リングの内側面に窪んだ環状凹部を環状凹溝の内側内壁のその半径方向に突出した環状凸部に係合させるものの何れの組み合わせにより、環状凹溝に日付リングを嵌合保持してもよい。 その他、必ずしも環状凹溝を設け、その内部に日付リングが収まるように、日付リングを取り付ける必要はなく、フラットな蓋体上に日付リングを取り付けても良いのはいうまでもない。」(段落【0034】〜【0036】)刊行物3(ギフト商品カタログ「シャディ96年総合版」抜粋写し)の第488頁には、レンジシール容器の写真が掲載されているとともに、蒸気穴と日付メモリーの説明事項が記載されており、該容器の写真と説明事項からは、以下の1)〜5)の事項がみてとれるものである。 1)レンジシール容器は、食品を収納したままの状態で保存したり電子レンジで調理することのできる容器であって、容体及び「フタ」とで構成され、この「フタ」には円板状部材及びこれを取り囲む型で配設されるリング状部材が取り付けられていること。 2)上記円板状部材の上部(上記写真に示される上下の位置関係で示す。以下同じ。)の小径の孔は上記説明文にいう「蒸気穴」であり、同円板状部材下部の縦長形状の孔から突き出している突起物(レバー)のスライド変位によって開閉操作されるものであること。 3)上記円板状部材は、突起物(レバー)及びこれと一体となってフタと平行に延びる部材がスライド変位できるように、フタとの間に隙間を有する態様でこれに取り付けられていること。 4)上記円板状部材に対向するフタ部分には、蒸気を抜くための穴があること。 5)上記リング状部材には、上記円板状部材の指示部と相まって日付を示す機能を持つ数字が記載されており、また、同リング状部材を回動させるための突起状の摘まみが設けられていること。 なお、上記1)〜5)は、東京高等裁判所判決(平成12年(行ケ)第106号)第9頁20行〜第10頁10行参照。 刊行物4(実願平3-104180号(実開平4-118349号)のマイクロフィルム)には、食品を電子レンジなどで加熱するために使用される食品の保存用容器に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。 「前記切替部材60には、蓋体50の前記通気孔56と合致する連通孔66が形成されているとともに、前記蓋体50の内底面部55から突設された回動軸57と軸着する軸孔67が形成されていて、前記凹部54内を摺動しつつ回動する。符号69は前記切替部材60をつまんで回動するための凹部である。 使用者は前記切替部材60の凹部69をつまんで回動させ、前記通気孔56を連通孔66に重合させたりずらしたりして、蓋物の通気および密閉を行う。 また、図6からもよりよく理解できるように、この実施例において前記切替部材60は、凹部54の深さと同じ高さを有し、かつその直径とほぼ同じ大きさに形成されているので、前記凹部54内に突出しないように収容されて蓋体50の上面部58が略平面を構成するようになっている。 そのため、図中の鎖線で示したように複数個の蓋物を安定して積み重ねることができる。符号59はさらに安定性を高めるために積み重ねられる蓋物の容器本体の底部と重なるよう前記蓋体50の上面部58に形成された曲面部である。」(段落【0020】、【0021】)4.対比・判断東京高等裁判所判決(平成12年(行ケ)第106号)によれば、日付指示部と蒸気抜孔の開閉切り替え機構を有する食品収納容器においては、日付指示機能と蒸気抜孔の開閉機能を実現するための構成について、日付目盛と日付指示部のいずれを固定とし、あるいは回転可能とするかなどの点を含め、各部材の担う機能を維持しつつ、その具体的な態様について適宜変更を加えることは、当業者の設計変更の範囲内であるということができ、上記刊行物1〜3に記載された技術事項から、 「食品を収納した状態でそのまま保存したり暖め調理したりなどし得る容器を、上部に開口部を有する容体と、この容体の開口部を閉塞し得る蓋体とで構成し、この蓋体の所定の部分に周囲に日付目盛を配する回転体を水平回動自在に設け、この回転体の上面部にこの回転体を回動操作し得る摘まみ部を設け、この摘まみ部に前記日付目盛を指示し得る日付指示部を設け、前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を前記回転体の軸芯部にして摘まみ部に設けた食品容器。」とすることは、当業者が容易になし得た発明であるとしている。(上記東京高等裁判所判決の「第5当裁判所の判断」参照。)そこで、上記東京高等裁判所判決で刊行物1〜3に記載された発明から容易になし得た発明であるとした上記食品容器(審理をやり直して無効の審決がなされた本件特許発明に相当)の構成からさらに減縮された本件訂正発明の構成について検討する。 本件訂正発明では、上記食品容器の構成をさらに下記a)〜c)のように構成を限定している。 a)蓋体の所定の部分には円形の底浅部と底深部とから成る段状の陥没部が設けられ、この陥没部の底浅部には挿通孔が貫通形成され、陥没部内には水平回動自在な平面視円形状の回転体が設けられ、この回転体の高さは、前記底深部の深さと同一に設定されており、回転体の周囲にして底浅部には日付目盛が設けられ、摘まみ部は蓋体の上面から埋没した状態で設けられる点。(上記食品容器の日付目盛、回転体及び摘まみ部を蓋体の表面より突出させないように構成を限定した点。)b)回転体の下面部には貫通孔を形成した円筒係止体が設けられ、この円筒係止体の下端縁部には鍔部及び切欠部が設けられ、この鍔部は該円筒係止体を前記挿通孔に圧入した際、該挿通孔に回動自在に嵌挿係着されるように構成される点。(上記食品容器の回転体の軸芯部を蓋体の挿通孔に挿通して抜け出さないような構成に限定した点。)c)回転体の上面部には該回転体を回動操作し得る摘まみ部が該回転体の軸芯部上を横断する状態で一体突出成形され、この摘まみ部には略中央から基端側にかけて凹溝が設けられ、この凹溝の内壁面にはガイド溝が形成されており、この摘まみ部の凹溝の底面には前記円筒係止体の貫通孔の開口端である孔が設けられ、この孔と貫通孔とが縦列状態に連通配設されて構成される蒸気抜孔が回転体の軸芯部に設けられ、摘まみ部の一端には底浅部に設けた前記日付目盛を指示し得る先端尖鋭の日付指示部が設けられ、凹溝には該凹溝をスライド移動する上端に凹凸の山形形状を形成したスライド体が設けられ、このスライド体は前記ガイド溝によってガイドされる構成である点。(上記食品容器の回転体の上面に設ける摘まみ部の構成と、 該摘まみ部に設けられる蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構の構成を限定した点。)上記限定した構成a)について検討するに、刊行物4には、複数個の蓋物(食品容器)を安定して積み重ねることができるようにするために、通気孔を開閉操作する切替部材の高さを蓋体の上面に形成した凹部の深さと同じ高さに形成して、該凹部に切替部材を収納することにより該切替部材を蓋体上面から突出させないようにすることが記載されている。 そうすると、上記刊行物4に記載された事項を知り得た当業者であれば、上記限定した構成a)のように蓋体上面に底浅部と底深部とからなる段状の陥没部を設け、底浅部に日付指示部を設け、回転体の高さを底深部と同一の高さとして、回転体(摘まみ部を含む)及び日付指示部を蓋体の上面から突出させないようにすることは、通常行うことのできる範囲の設計変更であって、格別創意を要することではない。 上記限定した構成b)について検討するに、回転体の下面部に設けられる円筒係止体(回転体の軸芯部)は蒸気抜きの機能を奏するように蓋体の挿通孔に挿通されるものであって、円筒係止体を蓋体の挿通孔に挿通するためには、円筒係止体の下端縁部は挿通孔内に挿通できるように縮径でき、且つ、挿通孔から抜け出さないように係止できる構造にする必要があることは、当業者であれば普通に理解できることである。 そうすると、上記限定した構成b)のように円筒係止体の下端縁部に縮径させるための切欠部と抜け出しを防ぐための鍔部を設けることは、当業者であれば通常行うことのできる範囲の設計変更であって、格別創意を要することではない。 上記限定した構成c)について検討するに、回転体上面に形成する摘まみ部を一体突出形成することは適宜採用できる程度の事項にすぎないものであり、また、摘まみ部に設けられる蒸気抜孔を開閉するための開閉切り替え機構は、回転体の軸芯部に設けられた蒸気抜孔を開閉できるような形態で設けられるものであれば、格別その構造については限定されるものではなく、適宜周知の機構(例えば、上端に凹凸を形成したスライド体)を採用することが可能なものであり、更に、摘まみ部で日付目盛を指示しようとするならば摘まみ部自体を適宜矢印に相当する形状(例えば、先端尖鋭状)に形成しなければならないことは、当業者であれば普通に理解できることである。 そうすると、上記限定した構成c)のような摘まみ部の構成とすることは、当業者であれば通常行うことのできる範囲の設計変更であって、格別創意を要することではない。 そして、本件訂正発明において上記限定した構成a)〜c)による効果も、刊行物1〜4に記載された発明から予測できる程度のもの、或いは、蓋体に貫通形成した蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を回転体に軸芯部にして摘まみ部に設けたことによる自明の効果であって、格別のものとはいえない。 以上のとおりであるから、本件訂正発明は、刊行物1〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 なお、請求人は、意見書で本件訂正発明の進歩性について主張しているが、上記東京高等裁判所の判決では、「蓋体に貫通形成した蒸気抜孔を開閉切り替え機構を前記回転体の軸芯部にして摘まみ部に設けた」という構成だけでなく、「日付指示部と蒸気抜孔の開閉切り替え機構を有する食品収納容器においては、日付指示機能と蒸気抜孔の開閉機能を実現するための構成について、日付目盛と日付指示部のいずれを固定とし、あるいは回転可能とするかなどの点を含め、各部材の担う機能を維持しつつ、その具体的な態様について適宜変更を加えることは、当業者の設計変更の範囲内であるということができる。」(判決書第9頁参照)と判示しているのである。 そうすると、本件訂正発明でさらに限定した構成a)〜c)は、判決で容易とした食品容器(請求人がいうところの訂正前発明)に各部材の担う機能を維持しつつ、その具体的な態様について適宜変更を加える程度の事項(当業者であれば通常行うことのできる範囲の設計変更)であることは、上記したとおりであるから、請求人の意見書での主張は採用することができない。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 田中昌利 |