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関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  先行技術 /  優先権 /  共同出願 /  国内優先権 /  実質的に同一 /  名義変更 /  質権設定 /  移転登録 /  対価 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (ネ) 10073号 特許出願人移転登録手続協力義務確認請求控訴事件
控訴人 株式会社八巳路訴訟承継人破産者株式会社八巳路破産管 財人和田宏徳
同訴訟代理人弁護士 亀井美智子
同 大村健
同 樋口明巳
同 由木竜太
同 美和薫
同 深町周輔
被控訴人 株式会社エルシーコーポレーション
同訴訟代理人弁護士 福永宏
同 福永孝
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/10/26
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 控訴人と被控訴人との間において,控訴人が原判決別紙特許出願目録記載2の特許を受ける権利につき2分の1の持分権を有することを確認する。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 主文と同旨
事案の概要
1 事案の要旨 本件は,株式会社八巳路(以下「八巳路」という。)が,被控訴人からの借入金債務150万円を被担保債権として,原判決別紙特許出願目録記載1の特許出願(以下「本件特許出願1」という。)に係る特許を受ける権利の2分の1の持分権につき被控訴人のために譲渡担保権を設定したが,その後の借増し分を含め借入金債務全額が弁済又は弁済供託により消滅した旨主張して,上記特許出願に基づく国内優先権を主張して八巳路と被控訴人が共同してした上記目録記載2の特許出願(以下「本件特許出願2」という。)に係る特許を受ける権利の2分の1の持分権(被控訴人の持分権)を八巳路が有することの確認を求めた事案である(なお,本件特許出願1と2に係る各特許を受ける権利は,実質的に同一のものであるから,以下,両権利を「本件権利」,その各持分権を「本件持分権」ということがある。)。
これに対し,被控訴人は,本件持分権を代金150万円で八巳路から買い受けたのであって,譲渡担保権の設定を受けたのではない旨主張して争っている。 原判決は,八巳路の本訴請求を棄却したため,これを不服とする八巳路が本件控訴を提起したものである。
なお,本件控訴後の平成17年6月28日に八巳路につき破産手続が開始されたため,破産管財人が本件訴訟手続を受継した。
2 争いのない事実等(証拠を掲記したもの以外,当事者間に争いがない。) (1) 八巳路は,平成14年9月18日,本件特許出願1をした。
(2) 八巳路は,同月25日,被控訴人から150万円(以下「本件金員」ともいう。)の振込送金を受けた。
(3) 八巳路は,同年10月2日,本件特許出願1に係る特許を受ける権利の2分の1の持分権を被控訴人に譲渡し(その旨特許庁長官に対し届出),その結果,上記特許出願は,八巳路と被控訴人との共同出願となった(上記譲渡が譲渡担保権の設定によるものか否かが,後記のとおり,本件の争点である。)。
(4) 被控訴人は,本件特許出願1の代理人となったP1弁理士から,同年9月19日,出願手数料及び先行技術調査に係る報酬として29万1750円の,同月24日,住所変更手続に係る報酬として2万6050円の各請求を受け,同年10月25日,これをP1弁理士に支払った(乙10の1〜3)。
(5) 八巳路は,平成15年3月5日,被控訴人との間で,八巳路が被控訴人から元金400万円を返済期日平成16年2月28日,金利年率2%との約定で借り受ける旨の金銭消費貸借契約を締結し,これに基づき,被控訴人から400万円の振込送金を受けた。上記契約に係る借用証書には,本件特許出願1に係る「特許権」につき「担保」設定する旨の記載がある(甲5。この担保に供される特許権が,本件持分権であるか,残余の2分の1の持分権であるかについては争いがある。)。
(6) 八巳路と被控訴人は,平成15年9月7日,本件特許出願1に係る発明に基づく国内優先権を主張して,同発明にその後の発明も含めた包括的な発明について,本件特許出願2をした。したがって,被控訴人は,本件特許出願2に係る特許を受ける権利についても2分の1の持分権(本件持分権)を有する。
(7) 八巳路は,平成16年1月22日到達の書面をもって,被控訴人に対し,八巳路から600万円の支払を受けるのと引換えに本件持分権を返還するよう求めたが,被控訴人はこれを拒否した。
(8) 八巳路は,同年11月29日到達の書面をもって,被控訴人に対し,上記600万円の弁済受領を催告した(甲15の1・2)。これに対し,被控訴人は,同金額のうち本件金員(150万円)及び上記(4)の29万1750円の合計179万1750円については本件持分権を確定的に取得する対価として支払ったものであるとしてその弁済受領を拒絶し,(5)の貸付金元金400万円及びこれに対する利息・損害金合計23万3555円についてはその弁済を受領する意思を表明した(甲12)。
(9) そこで,八巳路は,同年12月2日,被控訴人が弁済受領を認容した423万3555円を被控訴人指定の銀行預金口座に振り込んで弁済するとともに,同月8日,被控訴人が弁済受領を拒絶した合計191万8393円を供託した。供託書記載の供託金の内訳は,@本件金員150万円,これに対する同年2月28日まで年2%の割合による約定利息4万2739円及び同月29日から同年12月1日までの遅延損害金6万8054円,A立替金29万1750円,これに対する同年2月28日まで年2%の割合による約定利息2614円及び同月29日から同年12月1日までの遅延損害金1万3236円である(甲14)。
3 争点及びこれに関する当事者の主張 次のとおり当審における当事者双方の主張の要点を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」の2,3に記載のとおりであるから,これを引用する。
4 当審における控訴人の主張の要点 (1) 「権利譲渡に関する承諾書」(甲2)について 「権利譲渡に関する承諾書」(甲2)は,特許法上の出願人名義変更届に添付するための定型書式である「譲渡証書」として作成されたものであって,契約書ではない。
(2) 借入金の請求書(甲3の2)について 平成14年9月24日に被控訴人にファックス送信されたのは,八巳路の押印のない「権利譲渡に関する承諾書」の書式であり,借入金の請求書(甲3の2)が送信されていないとすれば,被控訴人にとって,振込み金額が明示された書面が何も存在しないことになり,何のお金であるか不明なまま本件金員を出金することはあり得ないから,甲3の2がファックス送信されたことは明らかである。
(3) 借用証書(甲5,17)について 甲17は,平成15年3月4日ころに八巳路がP2に提案した借用証書案である。そこにおける「(借入総額金八百五拾萬円の内)」との記載は,本件金員150万円の借入れの際,ウコンの効能が客観的に明らかになれば1000万円までの融資をする旨被控訴人が約束したため,1000万円から150万円を差し引いた850万円の借入金総額が残っているという趣旨である(なお,これに対し,P2は,上記記載部分を抹消してP3にファックス送信してきた。)。したがって,本件金員(150万円)は融資であって,本件金員と甲5の400万円は,被控訴人が当初約束した1000万円の融資の一部であったものである。
(4) 「特許権担保の解除」と題する書面(甲8)について 「特許権担保の解除」と題する書面(甲8)に「六百万」という金額を書いたのはP2自身である。この600万円という数字は,本件金員(150万円),甲5の400万円及び特許出願手数料等の立替金に利息を加えた金額であり,このこと自体本件金員が借入金であることを表しているものである。
(5) 原判決は,八巳路が,残余の持分権に担保が設定されていたのに,ベリタスに対し,そのような設定はされていないと虚偽の回答をしたと認定しているが,甲19(P3の陳述書)によれば,八巳路がベリタスに対し,本件権利についての被控訴人による担保設定に関し,虚偽の回答をしたことがないことが明らかである。
5 控訴人の主張に対する被控訴人の反論 控訴人の主張はすべて争う。
当裁判所の判断
当裁判所も,本訴請求は理由がないと判断する。その理由は,次のとおり補正付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の補正 (1) 原判決10頁12行目の「11〔一部〕」を「11〔一部〕,16」に,同頁13行目の「24」を「24,25」に,それぞれ改める。
(2) 同11頁17行目の「本件権利について特許出願」を「本件特許出願1」に改める。
(3) 同12頁11行目の末尾に「これを受けて,同年10月2日,本件特許出願1に係る特許を受ける権利の2分の1の持分権について,八巳路から被控訴人への譲渡(その旨特許庁長官に対し届出)が行われた。」を加える。
(4) 同13頁6行目の「平成14年12月ころ」を「平成14年11月から12月ころ」に改める。
(5) 同14頁10行目の「原告」を「P4」に改める。
(6) 同17頁下から6行目の次に,以下の段落を加える。
「さらに,平成15年3月5日に八巳路・被控訴人間で作成された貸金400万円についての借用証書(甲5)においても,『5.担保 特願2002-270851皮膚外用剤の特許権』と記載されており,担保設定の対象が,本件特許出願1に係る特許を受ける権利(本件権利)の2分の1の持分権に限定される旨の記載はないところ,このことに照らせば,既に本件権利の2分の1の持分権(本件持分権)については八巳路から被控訴人に売り渡されているため,さらに残りの2分の1の持分権(その余の持分権)について担保設定の対象とされたものと解するのが自然である。現に,P4及びその妻が作成した平成15年11月12日付け文書(乙14の2)において,『400万円借入のいきさつ(850万円)』との見出しの下に,『私は,担保の件は借用書の記入のときに初めて知った。』との記載があることも,上記の解釈を裏付けるものである。」 (7) 同17頁下から2行目から1行目にかけての「されている」の次に「(控訴人が当審において提出した甲21(P3の本人尋問調書)及び甲24(P3の陳述書)中,控訴人の上記主張に副う記載部分は,たやすく採用することができない。)」を加える。
(8) 同18頁下から5行目の「被告から原告が」を「被控訴人が八巳路から」に,同下から2行目の「ものである,」を「ものである,と供述する。」に,それぞれ改める。
(9) 同19頁下から9行目の「原告」を「P4」に,同20頁4行目の「被告」を「P2」に,それぞれ改める。
2 当審における控訴人の主張に対する判断 (1) 控訴人は,「権利譲渡に関する承諾書」(甲2)は,特許法上の出願人名義変更届に添付するための定型書式である「譲渡証書」として作成されたものであって,契約書ではないと主張する。
しかし,八巳路が上記「権利譲渡に関する承諾書」を2通作成し,割印を押して,その1通を被控訴人に交付したことは,控訴人自身認めているところであり(控訴人準備書面(1)4頁),その記載内容に照らしても,同承諾書が単に特許法上の手続のためのみに作成されたものであるということができないことは明らかである。
(2) 控訴人は,平成14年9月24日に被控訴人にファックス送信されたのは八巳路の押印のない「権利譲渡に関する承諾書」の書式であったことを理由に,甲3の2がファックス送信されたことは明らかである旨主張する。
しかし,乙41及び44(P2の陳述書)によれば,同日,八巳路の押印(割印を含む。)のある上記承諾書が被控訴人宛にファックス送信されたことが認められる。P3の陳述書(甲24)中には,八巳路の押印のある上記承諾書をファックスしたことはない旨の記載部分があるが,乙41及び44に照らしにわかに採用することができない。控訴人は,乙41のファックス送信記録部分は偽造されたものである旨主張するが,これを客観的に裏付ける証拠はなく,乙41の体裁等に照らしても,同部分は真正に成立したものと認められる。したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
(3) 控訴人は,平成15年3月4日ころに八巳路がP2に提案した借用証書案(甲17)に「(借入総額金八百五拾萬円の内)」との記載があることから,本件金員(150万円)は,被控訴人が当初約束した1000万円の融資の一部であった旨主張する。
しかし,控訴人も自認するとおり,P2は,上記提案に対し上記記載部分を抹消してP3にファックス送信してきたものであり,最終的な借用証書(甲5)においても,上記記載部分に相当する記載は一切残されていない。したがって,上記経緯は,むしろ,被控訴人側としては,貸付金総額が1000万円ないし850万円であるとの認識を有していなかったことを示すものというべきであり,上記記載部分をもって本件金員が融資であったことを根拠づけることはできない。かえって,控訴人の主張するように当初の融資予定額が1000万円であり,本件金員がその一部であるとするならば,上記記載における「借入総額」としては本件金員を含めた1000万円と記載されるのが自然であるとも考えられるのに,あえて本件金員を除いた850万円を「借入総額」として記載しているのは,本件金員が貸付金とは別の性質のものであることを示すものともいうことができる。
(4) 控訴人は,「特許権担保の解除」と題する書面(甲8)における600万円という数字は,本件金員(150万円),甲5の400万円及び特許出願手数料等の立替金に利息を加えた金額であり,本件金員が借入金であることを表していると主張する。
しかし,前記引用に係る原判決認定のとおり,上記書面は,P2が入院中のP4から銀行に見せるために必要であるなどと懇願されて作成したものにすぎないから,同書面の記載をもって本件金員が借入金であることを裏付ける根拠とすることはできない。
(5) なお,控訴人は,P3の陳述書(甲19)によれば,八巳路がベリタスに対し,本件権利についての被控訴人による担保設定に関し,虚偽の回答をしたことがないことが明らかである旨主張する。
上記陳述書(甲19)には,P3がベリタスの代表者であるP5に対し,平成15年2月27日,八巳路が被控訴人に本件権利を担保として提供していることを伝えてある旨などの陳述記載がある。しかし,上記陳述記載の内容は,P3自身の他の陳述書(乙13の1)における陳述記載(「〔平成15年〕7月26日 P5社長・P6様・P4社長・P3で面会し本案件の条件等で合意し書類に署名した。…このときに,P5社長よりP4社長に対し本特許申請中の権利には,質権設定等の縛りはないですねという質問があるもすぐさまP4社長は否定されました。
このことに対しては,P3は何故事実を述べなかったのか大変後悔しています。」)や,ベリタス代表者P5の陳述記載(乙2)(「平成15年7月26日…契約書に署名する前にP5がP4社長とP3社長に,八巳路が持っている特許には担保権も質権も設定されていませんか,とたずねると,二人ともその様な設定はされていないと明言したので署名をした。」)に照らし,信用することができない。
3 結論 以上によれば,控訴人の被控訴人に対する本訴請求を棄却すべきものとした原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 沖中康人
裁判官 若林辰繁