関連審決 | 異議2001-72640 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 相違点の判断 / 技術常識 / 分割出願 / 容易に想到(容易想到性) / 設定登録 / 請求の範囲 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
183号
特許取消決定取消請求事件
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原告 パロマ工業株式会社 原告 東邦瓦斯株式会社 原告ら訴訟代理人 弁理士 石田喜樹、齊藤純子、上田恭一 被告 特許庁長官太田信一郎 指定代理人 原慧、橋本康重、高木進、林栄二 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/03/20 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告らの求めた裁判
特許庁が異議2001-72640号事件について平成14年3月1日にした決定を取り消す、との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告らは、発明の名称を「グリル」とする特許第3150313号(「本件特許」。平成6年5月7日出願の特願平6-117671号からの分割出願。平成13年1月19日設定登録)の特許権者である。本件特許について、特許異議の申立てがされ(異議2001-72640号)、特許庁は、平成14年3月1日、「特許第3150313号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定をし、その謄本を同年3月22日に原告らに送達した。 2 特許請求の範囲(以下の請求項1、2に係る発明をそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)【請求項1】 バーナを備えたグリル庫と、そのグリル庫に連通して上記バーナの燃焼により発生した排気を排出する排気通路とを設けたグリルであって、 上記バーナを上記グリル庫の左右両側に、上記排気通路を上記グリル庫の後部に夫々設けて、上記左右のバーナから発生した排気が上記グリル庫内に滞留した後、上記グリル庫の後方へ移動して上記グリル庫と排気通路との連通部を通過して上記排気通路に至る燃焼排気経路を形成し、上記グリル庫内に滞留する排気中に調理品を載置するグリル網を設けて、上記調理品を排気熱により加熱調理可能としたことを特徴とするグリル。 【請求項2】 連通部をグリル網より下位置となるように形成した請求項1に記載のグリル。 3 決定の理由の要旨 (1) 決定の理由は、要するに、本件発明1、2は、刊行物1(実公昭47-783号公報。甲第2号証)、刊行物2(特公昭47-46234号公報。甲第3号証)及び刊行物3(実願平4-4655号(実開平5-63434号)のCD-ROM。甲第4号証)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明1、2についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものであり、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条2項の規定により、取り消されるべきである、というものである。 (2) 決定の本件発明1、2と刊行物1記載の発明との一致点・相違点の認定、及び相違点についての判断は、以下のとおりである(決定の理由中の「4.対比・判断」をそのまま引用する。)。 ・ 本件発明1について 本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された「バナー2」、「内罐1」、「煙道6」、「焙焼器」、「出口5」、「焼網4」は、それぞれ本件発明1の「バーナ」、「グリル庫」、「排気通路」、「グリル」、「連通部」、「グリル網」に相当し、また、刊行物1に記載されたものも本件発明と同様に内罐内に滞留する排気中に焼網が設けられ、調理品を内罐内に滞留する排気の熱により加熱調理するものと認められるから、両者は、「バーナを備えたグリル庫と、そのグリル庫に連通して上記バーナの燃焼により発生した排気を排出する排気通路とを設けたグリルであって、上記のバーナから発生した排気が上記グリル庫内に滞留した後、上記グリル庫と排気通路との連通部を通過して上記排気通路に至る燃焼排気経路を形成し、上記グリル庫内に滞留する排気中に調理品を載置するグリル網を設けて、上記調理品を排気熱により加熱調理可能としたことを特徴とするグリル」である点で一致し、次の点で相違する。 【相違点】 本件発明1がバーナをグリル庫の左右両側に、排気通路をグリル庫の後部に夫々設けて、グリル庫内に滞留した排気をグリル庫の後方へ移動してグリル庫と排気通路との連通部を通過して排気通路に至る燃焼排気通路を形成したのに対し、刊行物1に記載のものでは、バーナをグリル網の下方のグリル庫前後両側に、また、排気通路をグリル庫の側部、上部、及び後部に亘って設け、グリル庫内に滞留した排気をグリル庫の側方へ移動してグリル庫と排気通路との連通部を通過して排気通路に至る燃焼排気通路を形成した点。 上記相違点について検討すると、刊行物3には、グリルにおいて、バーナをグリル庫の左右両側に設けたものが、また、刊行物2には、焙焼器(本件発明1の「グリル」に相当)において、煙道(本件発明の「排気通路」に相当)を焙焼室(本件発明の「グリル庫」に相当)の後部に設け、焙焼室内に滞留した排気を焙焼室の後方へ移動して排気口8(本件発明の「連通部」に相当)を通過して煙道に至る燃焼排気通路を形成したものがそれぞれ記載されている。 したがって、刊行物1に記載のグリルにおいて、刊行物3に記載されたバーナの配置、及び、刊行物2に記載された煙道の配置を適用して、上記相違点における本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 また、本件発明1が奏する作用、効果は、刊行物1〜3の記載から予測できたものであって、格別のものとはいえない。 ・ 本件発明2について 本件発明2と刊行物1に記載された発明とを対比すると、本件発明2は、請求項1を引用し、さらに構成を付加、限定するものであり、両者は、本件発明1と刊行物1に記載された発明との上記一致点に加えて、連通部をグリル網より下位置となるように形成した点で一致し、上記した本件発明1と刊行物1に記載された発明との相違点と同一の点で相違する。 しかしながら、該相違点については本件発明1の検討で述べたとおりであるから、刊行物1に記載の発明に刊行物2、3に記載の上記技術手段を適用して本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 また、本件発明2が奏する作用、効果は、刊行物1〜3の記載から予測できたものであって、格別のものとはいえない。 |
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原告ら主張の取消事由の要点
決定は、本件発明1と刊行物1記載の発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点の判断を誤り(取消事由2)、 さらに本件発明1の効果を看過し(取消事由3)、その結果、本件発明1の進歩性の判断を誤り、その誤った判断を前提とすることにより本件発明2の進歩性の判断も誤った(取消事由4)ものであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(本件発明1と刊行物1記載の発明との一致点の認定の誤り) 決定における一致点の認定は、以下に述べるとおり、誤りである。 (1) 刊行物1記載の焙焼器においては、バナー2による直火焼調理がされるのであって、内罐内に滞留する排気熱による加熱調理を意図したものでない。確かに、刊行物1の図面からみると、内罐の構造上焼煙が内罐内に滞留する場合もあろうが、「被焙焼物から発した燃焼されるいとまなく出口7から出た不燃焼煙を」(2欄11〜13行)という記載からすると、不燃焼煙を長く滞留させようとするものではなく、逆に不燃焼煙が素早く内罐から排出されてしまうため、改めて出口上のガスバナー8で完全燃焼させようとするものである。 これに対し、本件発明1では、バーナから発生した排気の滞留によってグリル庫全体に熱がこもり、この排気中の調理品にむらなく熱が行き渡る結果、グリルによる「篭り焼き」ができるのである。 (2) 被告は、刊行物1記載の焙焼器もその燃焼ガスは焙焼室内に滞留することは明らかであると主張するが、刊行物1記載の焙焼器が、被焙焼物から発生してすぐ排出されてしまう不燃焼煙の再燃焼を意図するものである以上、当該焙焼器が間接調理(「篭り焼き」)ではなく直火焼調理用の焙焼器であることは明白である。かかる直火焼調理用の焙焼器における燃焼ガスの滞留について論じることは無意味である。 2 取消事由2(本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点の判断の誤り) 決定における本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点についての判断は、単に、決定が認定した相違点のうち、バーナの配置に関する部分は刊行物3に、排気通路の配置及び燃焼排気通路の経路に関する部分は刊行物2に、それぞれ記載されているというものにすぎず、それらの構成の有機的な結合については考慮も評価もしていなから、誤りである。 (1) 刊行物2に記載の発明は、焙焼器の底部に設けられる受皿の改良によって受皿内の水の蒸発を防止すると共に熱効率の向上を目的としたものであって、燃焼排気による加熱の作用効果への言及はない。 刊行物3に記載された発明は、表面燃焼式の上火バーナをグリル庫内の上部両側に設けることで、グリル庫の高さを大きくしなくても大きな調理品を調理可能とする発明であって、調理品の加熱は上火バーナからの熱輻射(直火)により行うという従来からの技術にとどまる。特に、同刊行物には排気通路や連通口の位置や形態については全く記載されておらず、燃焼排気をグリル庫内からどのようにして排出するのか不明であるとともに、燃焼排気で調理品を加熱調理するという技術思想は何らうかがえない。 以上のように、刊行物2、3記載の発明は、本件発明1の課題である@グリル庫内の熱の保存と排気の滞留やAグリル庫中央部の加熱の確保を意図するものではなく、燃焼排気をグリル庫内に滞留させることによって調理品にむらなく熱が行き渡るようにするという本件発明1の作用、効果は発揮されないし、またそれらを示唆する記載もない。 同様に、刊行物1記載の発明も「焙焼器における焙焼煙の消滅」を課題としており、本件発明の前記課題@やAを意図するものではないし、ましてや本件発明1と同様の作用、効果を発揮するものでもない。 したがって、たとえ前記刊行物1ないし3記載の発明が本件発明1と同種の焙焼器やグリルに関する発明であるとしても、それらはいずれも本件発明1とは技術的課題を異にしており、刊行物1記載の発明に刊行物2、3の発明を転用することは当業者といえども容易に想到し得ないところである。 (2) 被告は、刊行物1、2に記載の発明は、上記課題@及びAを実質的に解決していると主張するが、刊行物1記載の発明が上記課題を有していないことは前述のとおりである。刊行物2記載の発明に関しては、その構成から、燃焼排気の滞留が想定できなくもないが、バーナー管3、4は、刊行物1と同様、前後に配置されているので、後方のバーナー管4の燃焼排気は、調理加熱に寄与せずにそのまま排気口8から排出されやすく、本件発明1に比して熱効率が悪いとともに、焙焼室1内に排気を良好に滞留させ温度分布を均一化させることは難しい。したがって、 刊行物2において上記課題@やAが実質的に解決されているということもできない。 3 取消事由3(本件発明1の効果の看過) 決定は、本件発明1の効果を看過しており、「本件発明1が奏する作用、効果は、刊行物1〜3の記載から予測できたものであって、格別のものとはいえない。」との決定の判断は誤りである。 (1) 刊行物1記載のものでは、前後のバナーとそれらに直交する方向である側方に出口が配置されており、刊行物2記載のものでは前後のバーナと焙焼室の後方に排気口が配置されている。刊行物3には排気口の記載は全くない。 そこで、刊行物1や刊行物2の燃焼排気のグリル庫内の流れを考えてみると、刊行物1は、前後のバナーからグリル庫側方の出口に向って燃焼排気が流れることになり、グリル庫中央部の出口と反対側の燃焼排気が疎になり、温度の均一化が達成できない。また、刊行物2では、燃焼排気はグリル庫の後方の排気口に向って流れるが、後方のバーナの熱が排気口から逃げやすく、熱効率という観点からも好ましくない。 (2) これに対し、本件発明1は、グリル庫の左右にバーナを配置し、それらと直交する方向であるグリル庫後方に排気通路を設けた配置となっているので、燃焼排気が左右からグリル庫の中央に向かい、中央部で互いにぶつかり合うことで撹拌され、更により温度の高い後方へ自然と誘導されるので、グリル庫内の温度分布が均一化し、熱効率もよいのである。したがって、本件発明1によれば、燃焼排気によって調理品を焼けむらなく良好に加熱調理できるという顕著な作用、効果を奏するのであり、これは刊行物1〜3記載の発明から予想される効果の総和以上のものである。 4 取消事由4(本件発明2の進歩性の判断の誤り) 本件発明1が進歩性を有するものである以上、本件発明1の構成を「連通部をグリル網より下位置となるように形成した」点で限定した本件発明2も進歩性を有するのは明らかである。 |
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被告の反論
1 取消事由1に対して 本件特許明細書には、バーナから発生した排気のグリル庫内での滞留について「連通部7がグリル網15より下に設けられていることから、これらの排気はいったんグリル庫10に滞留する。そして、排気の圧力が少し上昇してはじめて下降を開始し、連通部7を通過していく。そのため、従来とは違って、グリル庫10内の熱が排気の流れと一緒になって排気口6へ抜けてしまうことがなく、グリル庫10内に熱がこもって、調理品A,B全体にわたってむらなく中まで焼けるようになる。」(本件特許公報3頁左欄13〜20行)と記載されている。この記載によれば、グリル庫内に排気が滞留するための構造上の条件は、バーナから発生した排気をグリル庫内から外部に排出する連通部がグリル網より下に設けられていることと解されるが、そのような構成は刊行物1に記載された焙焼器も本件発明1と同様に備えている。刊行物1記載の発明においても、燃焼ガスが焙焼室内に滞留することは明らかである。 2 取消事由2に対して (1) 刊行物1、2に記載の発明は、いずれもその排気出口が焼網より下方に設けられているので、排気を内罐内に滞留させる構成を有するものであって、原告らの主張する本件発明の課題@、Aは実質的に解決されている。 (2) 刊行物2記載のものも、「バーナに点火すると、炎孔5、6、7から出る燃焼ガスは矢印の如く被燃焼物を上下より加熱する。」(1頁2欄5〜7行)と記載され、第1図には、垂直炎孔7からの燃焼ガスが焙焼室1後壁に沿って上昇し、上壁で反転することが示されていることから、焙焼室内に排気を滞留させることを意図していることは明らかである。 (3) 刊行物1記載の発明において、そのバナーを焙焼室左右に配置し、出口を焙焼室後方に配置して本件発明1の構成とすることは、当業者であれば刊行物1〜3に記載の発明に基づいて容易に想到し得たことである。 3 取消事由3に対して 原告らは、刊行物1記載のものは前後のバナーからグリル庫側方の出口に向かって燃焼排気が流れることになり、グリル庫中央部の出口と反対側の燃焼排気が疎になり、温度の均一化が達成できないと主張するが、刊行物1記載のものも、燃焼排気が前後からグリル庫の中央に向かい、中央部で互いにぶつかり合うことで撹拌され、更により温度の高い側方へ自然と誘導されるので、グリル庫内の温度分布が均一化し、熱効率もよくなることになる。原告らが主張するようにグリル庫内の温度分布の均一化及び熱効率について両者に相違が生ずるはずがない。 4 取消事由4に対して 決定の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1と刊行物1記載の発明との一致点認定の誤り)について (1) 原告らは、刊行物1記載の焙焼器は、調理品を内罐内に滞留する排気の熱により加熱調理するものではないから、決定における本件発明1と刊行物1記載の発明との一致点の認定は誤りであると主張する。 (2) 刊行物1(甲第2号証)の図面には、焙焼器の内罐1内に配置された焼網4の下に煙道6に連通した出口5を設け、さらに出口5より下にバナー2を設けた配置が示されている。この配置において、バナー2より発生した燃焼排気は、高温であるため内罐1内を上昇し、その一部は焼網4に到達する前に焼網4より下に配置されている出口5から直接排気されるということができるが、技術常識からして、燃焼排気の大部分は、出口5から直接排気されずに焼網4に載置された被焙焼物を加熱し、その後さらに内罐1内を上昇し内罐1上部に滞留すると考えられる。 そして、燃焼排気の量が増大し排気の圧力が上昇するとともに、内罐1上部に滞留する燃焼排気は内罐1内を下降して出口5に達し、出口5から排気されることも、技術常識上明らかである。 このような燃焼排気の流れの中で、焼網4に載置された被焙焼物は出口5より内罐1内上方に位置するのであるから、内罐1上部に滞留する燃焼排気は、当然、下降して出口5に達する前に、焼網4に載置された被焙焼物をその排気熱により加熱することになる。 したがって、刊行物1中に調理品を内罐内に滞留する排気の熱により加熱調理するものであるとの積極的な記載はないものの、刊行物1記載の発明も本件発明1と同様に、「グリル庫(内罐)内に滞留する排気中に調理品を載置するグリル網(焼網4)を設けて、上記調理品を排気熱により加熱調理可能とした」ものであることは明らかである。決定における本件発明1と刊行物1記載の発明との一致点の認定に誤りはない。 (3) 原告らは、刊行物1記載の発明が「焙焼器」であり、また被焙焼物から発生した焼煙の再燃焼を意図するものであることから、刊行物1記載の焙焼器がバーナの炎により直火調理を行うものであって、内罐内に滞留する排気熱による間接調理を意図したものではないと主張する。しかし、意図していると否とにかかわらず、刊行物1記載のものにおいて、炎から生じる燃焼排気が内罐1上部に上昇し、 内罐1内に滞留し、その後下降して、被焙焼物が燃焼排気の排気熱により加熱調理されると認められることは前示のとおりであるから、原告らの主張は採用することができない。 原告ら主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点についての判断の誤り)について (1) 原告らは、刊行物2(甲第3号証)に記載された発明は、燃焼排気による加熱を意図したものではなく、燃焼排気による加熱の作用、効果への言及はないと主張する。 しかし、刊行物2の第1図には、焙焼室1内において焼網を置く載置台2より下に煙道9に連通した排気口9を設けた配置が示され、しかも垂直炎孔7からの燃焼ガスが焙焼室1後壁に沿って上昇し、上壁で反転した後載置台2の方向へ下降する様子が矢印で示されているから、刊行物2記載の焙焼器において、焙焼室1内で燃焼排気が滞留することは明らかである。後方のバーナー管4の燃焼排気の一部がそのまま排気口8から排出されることがあるとしても、第1図に示された燃焼排気の流れを示す矢印からみて、後方のバーナー管4の燃焼排気の大部分は、焙焼室1内で滞留し、載置台2上の焼網に載せられた被焙焼物を加熱した後、排気口8から排出されると考えられる。 したがって、刊行物2に燃焼排気を滞留させて加熱することについて直接の記載がないとしても、刊行物2記載の発明が客観的にみて燃焼排気を滞留させる構成を備えていることは明らかであり、その構成の結果として、被調理物が滞留した燃焼排気により加熱されることも当業者には明らかである。 (2) 原告らは、刊行物1、2はいずれも@グリル庫内の熱の保存と排気の滞留、Aグリル庫中央部の加熱の確保という本件発明1の課題を意図しておらず、かかる刊行物1に刊行物2を転用することは当業者といえども容易に想到することはできないと主張する。 しかし、刊行物1、2記載の焙焼器がいずれも燃焼排気を焙焼室内で滞留させ、 被調理物を燃焼排気により加熱するものであることは前示のとおりである。 そして、焙焼室内で滞留する燃焼排気をどのように移動させて排気するかという点に関して、刊行物1記載の発明に刊行物2に記載された技術事項を適用することに格別の困難性は見いだせない。 (3) 原告らは、刊行物3についても、刊行物1、2と同様、本件発明1の上記課題@及びAを意図しておらず、かかる刊行物1に刊行物3を転用することは当業者といえども容易に想到することはできないと主張するが、グリル庫内のどこにバーナを設けるかは、バーナを備えたグリルを設計するに当たり、当業者が当然試みるであろう設計事項であり、バーナの配置として刊行物3記載のようにグリル庫の左右両側に設けることは当業者が適宜採用し得る選択肢の一つにすぎないというべきである。 (4) 以上の理由で、「刊行物1に記載のグリルにおいて、刊行物3に記載されたバーナの配置、及び、刊行物2に記載された煙道の配置を適用して、上記相違点における本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。」とした決定の判断に誤りはない。 3 取消事由3について 原告らは、本件発明1は、グリル庫の左右にバーナを配置し、それらと直交する方向であるグリル庫後方に排気通路を設けた配置となっているので、燃焼排気が左右からグリル庫の中央に向かい、中央部で互いにぶつかり合うことで撹拌され、更により温度の高い後方へ自然と誘導され、グリル庫内の温度分布が均一化し、熱効率もよいという格別の効果を奏すると主張する。 しかしながら、刊行物3記載のようにグリル庫の左右両側にバーナを設けるものにおいて、燃焼排気が左右からグリル庫の中央に向かい、中央部で互いにぶつかり合うことで撹拌され、グリル庫内の温度分布が均一化されるのは明らかである。 また、刊行物1、2に記載のものにおいてもバーナは焙焼室内で対向するように配置されているので、燃焼排気は焙焼室の中央部で互いにぶつかり合うことで撹拌されると考えられる。 さらに、燃焼排気の排気口を刊行物2のように焙焼室の後部に設ければ、密閉された焙焼室内においては、バーナから発生し、撹拌された排気が焙焼室の後方へ移動して焙焼室から排出されることも自ずと明らかである。 してみると、原告らが主張するグリル庫内の温度分布が均一化し、熱効率もよいという本件発明1の効果は、刊行物1〜3に開示されている事項から当業者の予測し得る程度のものというべきである。 したがって、「本件発明1が奏する作用、効果は、刊行物1〜3の記載から予測できたものであって、格別のものとはいえない。」とした本件決定の判断に誤りはない。 4 取消事由4について 原告らは、上記取消事由1ないし3を前提とし、さらに本件発明1の構成を「連通部をグリル網より下位置となるように形成した点で限定した本件発明2の進歩性を主張しているが、取消事由1ないし3にいずれも理由がないことは前示のとおりであり、しかも「連通部をグリル網より下位置となるように形成した」点が刊行物1に示されていることも前示のとおりである。 したがって、本件発明2に進歩性はなく、決定における本件発明2についての判断に誤りはない。 取消事由4は理由がない。 |
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結論
原告らの主張する取消事由はすべて理由がなく、本件決定には取り消すべき瑕疵が見当たらないから、原告らの請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 古城春実 |