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関連審決 審判1998-35242
関連ワード 技術的思想 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  同意 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 243号 審決取消請求事件
原告 有限会社リタッグ
原告 リタッグインコーポレーション
同両名訴訟代理人弁理士 神戸真
同 前田勘次
同両名訴訟代理人弁護士 舟橋直昭
被告 株式会社ウチコン
同訴訟代理人弁理士 小島清路
同 谷口直也
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 原告リタッグ インコーポレーションのために,この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が平成10年審判第35242号事件について平成14年4月3日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,原告らを特許権者とする特許について,被告が無効審判を請求したところ,特許庁が,上記特許を無効とする旨の審決をしたことから,原告らが,被告に対し,上記審決の取消しを求めた事案である。
1 争いのない事実等 (1) Aは,平成5年3月1日,発明の名称を「騒音の発生しない側溝」とする発明について特許出願し,同8年4月30日,特許権の設定登録を受けたが(特許第2514918号,以下「本件特許」という),同日,上記特許権の持分10分の7が原告有限会社リタッグに,持分10分の3が原告リタッグ インコーポレーションに移転し,同9年3月10日,特許原簿にその旨の登録がなされた(甲2)。
(2) 本件特許の特許請求の範囲(以下「本件発明」という)は,次のとおりである。
接面部a5が全面にわたって曲面に成形加工された側溝蓋1と,前記側溝蓋1の接面部a5に対応する接面部b6が全面にわたって前記側溝蓋1の接面部a5の曲面に対して幾何学的に相似な曲面に成形加工された側溝2とからなり,前記側溝蓋1と側溝2との密着性を高め,前記側溝蓋1にかかる垂直荷重が前記側溝蓋1及び側溝2の接面部a5,b6を介して分散されて側溝2に伝達されることを特徴とする騒音の発生しない側溝。
(3) 被告は,特許庁に対し,平成10年5月28日,本件発明は,出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであるなどと主張して,本件特許を無効にすることについて審判を請求したところ,同庁は,同12年4月11日,要旨次のとおり認定判断した上で,上記審判の請求は成り立たない旨の審決(以下「第1次審決」という)を行い,その謄本は,同年5月1日,被告に送達された。
ア 実開昭63-18590号公報(甲6,以下「引用例1」という)には,接面部が全面にわたって傾斜面に成形加工された側溝蓋と,前記側溝蓋の接面部に対応する接面部が全面にわたって上記側溝蓋の接面部の傾斜面に対して同様に傾斜面に成形加工された側溝の蓋掛け部とからなり,上記側溝蓋と側溝の蓋掛け部との密着性を高め,上記側溝蓋にかかる垂直荷重が上記側溝蓋及び側溝の蓋掛け部の接面部を介して側溝の蓋掛け部に伝達される騒音の発生しない側溝が記載されている。
イ 他方,特開昭53-145347号公報(甲7,以下「引用例2」という)には,接面部が全面にわたって曲面に成形加工されたマンホール蓋の突縁部と,前記マンホール蓋の突縁部の接面部に対応する接面部が全面にわたって上記マンホール蓋の突縁部の接面部の曲面に対して同様に曲面に成形加工された受板の嵌合溝とからなり,上記マンホール蓋の突縁部と受板の嵌合溝との密着性を高め,上記マンホール蓋の突縁部にかかる垂直荷重が上記マンホール蓋の突縁部及び受板の嵌合溝の接面部を介して分散されて受板の嵌合溝に伝達される騒音の発生しないマンホール蓋構造が記載されている。
ウ 本件発明と上記引用例1記載の考案とを対比すると,本件発明においては,側溝蓋と側溝との接面部が全面にわたって曲面とその全面にわたって曲面に対して幾何学的に相似な曲面に成形加工され,側溝蓋にかかる垂直荷重が側溝蓋及び側溝の接面部を介して分散されて側溝に伝達されるのに対し,上記引用例1記載の考案においては,側溝蓋と側溝の蓋掛け部(側溝)との接面部が,それぞれ傾斜面に成形加工されている点で相違する。
エ 相違点について検討すると,上記引用例2記載の発明におけるマンホール蓋の突縁部と受板の嵌合溝は,同一断面形状を有するものであるが,このような形状は,「曲面に対して幾何学的に相似な曲面」には該当しないから,本件発明におけるような,側溝蓋と側溝との接面部は,全面にわたって曲面とその全面にわたって曲面に対して幾何学的に相似な曲面に成形加工され,側溝蓋にかかる垂直荷重が側溝蓋及び側溝の接面部を介して分散されて側溝に伝達されるとの点は,開示も,示唆もされていない。
オ したがって,本件発明については,上記引用例1記載の考案に,上記引用例2記載の発明等を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
(4) そこで,被告は,当庁に対し,平成12年5月25日,第1次審決の取消訴訟を提起したところ,当庁は,同13年4月12日,要旨次のとおり認定判断した上で,第1次審決を取り消す旨の判決をした(以下「第1次判決」という)。なお,これを不服とした原告は,最高裁判所に対し,上告受理の申立てをしたが,同裁判所は,平成13年9月25日,上告を受理しない旨の決定をしたことから,第1次判決は,確定した。
ア 「幾何学的に合同」すなわち同一形状のものも,「幾何学的に相似」に該当するから,第1次審決が,上記(3)エのとおり,引用例2記載の発明の突縁部と嵌合溝との接面部について,本件発明の「曲面に対して幾何学的に相似な曲面」に該当しないとした第1次審決の認定は誤りである。
イ そして,この誤りが,この認定を根拠として,本件発明を,引用例1記載の考案と引用例2記載の発明の組合せに基づいて,当業者が容易に発明をすることができたということはできない,とした審決の判断に影響を及ぼすことは,明らかである。
(5) これを受けて,特許庁は,改めて審理した結果,平成14年4月3日,要旨次のとおり認定判断した上で,本件特許を無効とする旨の審決(以下「本件審決」という)をしたことから,原告は,被告に対し,上記無効審決の取消しを求めて,本件訴訟を提起した。
ア 引用例1には,接面部がほぼ全面にわたって傾斜面に成形加工された側溝蓋と,前記側溝蓋の接面部に対応する接面部がほぼ全面にわたって前記側溝蓋の接面部の傾斜面に対して同様に傾斜面に成形加工された側溝の蓋掛け部とからなり,上記側溝蓋と側溝の蓋掛け部との密着性を高め,上記側溝蓋にかかる垂直荷重が上記側溝蓋及び側溝の蓋掛け部の接面部を介して側溝の蓋掛け部に伝達される騒音の発生しない側溝が記載されている(以下「引用考案」という)。
イ 他方,引用例2の第3図には,接面部が全面にわたって曲面に成形加工された蓋の突縁部と,前記蓋の突縁部の接面部に対応する接面部が全面にわたって上記蓋の突縁部の接面部の曲面に対して幾何学的に合同な曲面に成形加工された受板の嵌合溝とからなり,上記蓋の突縁部と受板の嵌合溝との密着性を高め,上記蓋の突縁部にかかる垂直荷重が上記蓋の突縁部及び受板の嵌合溝の接面部を介して分散されて受板の嵌合溝に伝達される騒音の発生しない地下構造物用蓋構造が記載されている(以下「引用発明」という)。
ウ 本件発明と引用考案を対比すると,本件発明においては,側溝蓋の接面部が全面にわたって曲面に成形加工されるとともに,側溝の接面部は,全面にわたって側溝蓋の接面部の曲面に対して幾何学的に相似な曲面に成形加工され,側溝蓋にかかる垂直荷重が側溝蓋及び側溝の接面部を介して分散されて側溝に伝達されるのに対し,引用考案においては,側溝蓋と側溝の蓋掛け部(側溝)との接面部は,それぞれ傾斜面に成形加工されている点で相違する。
エ しかしながら,側溝蓋と側溝が同一断面形状のものも,本件発明の「幾何学的に相似」に該当すると認められるところ,上記相違点に係る構成は,引用例2に記載されているといえ,しかも,引用例1と2とは,いずれも,地下構造物用蓋にかかる技術分野に属するものであるから,引用例1に記載された側溝蓋と側溝の傾斜部にかえて,引用例2に記載された側溝蓋と側溝の構成を適用して本件発明の上記相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到できた事項にすぎない。
(6) 引用例2の第3図には,本件審決の指摘する引用発明が記載されている。
2 争点 (1) 本件審決の進歩性判断の当否 ア 原告らの主張 (ア)a 引用例1に記載された側溝蓋と側溝との傾斜部にかえて,引用例2に記載された蓋と蓋受部の構成を適用すると,側溝蓋には突縁部を設け,側溝の蓋受部には嵌合溝を設けることになるが,このような側溝蓋と側溝は,本件発明とは異なる。
b aのような側溝構造では,側溝の蓋受部の嵌合溝に小石等の異物が溜まり,そのまま蓋をすれば,蓋と蓋受部の間に異物が挟み込まれることとなるから,小石等の異物を挟み込むことがなくなり,側溝清掃時の蓋上げ作業が容易で,設置工事も簡略化できるという本件発明の作用効果を奏し得ない。
また,aのような側溝構造では,突縁部と嵌合溝の嵌合構造となるため,蓋上げ作業においては,蓋を垂直に持ち上げなければならず,設置作業の際には,蓋の突縁部と嵌合溝の内側の受板とが衝突すると受板が欠けるおそれがあるため,蓋を真上から垂直に降ろさなければならないから,蓋上げ作業,設置工事が簡略化されるという本件発明の作用効果を奏し得ない。
c 以上によれば,本件審決において,当業者が容易に想到できた事項にすぎないと判断された「引用例1に記載された側溝蓋と側溝との傾斜部にかえて,引用例2に記載された側溝蓋と側溝の構成を適用して本件発明の相違点に係る構成とすること」は,そもそもできないというべきである。したがって,これができることを前提とした上で,進歩性の判断をした本件審決の判断は,誤りである。
(イ)a(a) 引用例1では,側溝の蓋鳴り等の騒音を防止するためには,側溝と蓋とを堅固に嵌合させることが必要であるとして,傾斜面が採用されている。
他方,引用例2では,マンホール蓋の騒音を防止するためには,蓋と受枠との緊締状態を維持させることが必要であるとして,蓋の突縁部と受板の嵌合溝とが採用されている。
(b) これに対し,本件発明は,側溝と蓋とを堅固に嵌合させるものでも,蓋と受枠との緊締状態を維持するものでもない。
従来の側溝においては,蓋受け部のフラット部の平面精度が満足されていないために,側溝蓋と側溝とは,点状(極めて狭い面積)での接触状態にならざるをえなかったことから,ガタツキによる騒音が発生していたところ,本件発明は,従来並みの面精度であっても,互いに幾何学的に相似な曲面に形成された側溝蓋の接面部と側溝の接面部とが接することにより,点状であった従来の接触状態を,線状の接触状態に広げることで,側溝蓋と側溝とを設置するだけで,側溝蓋の自重で両者は従来品よりも,密着性を増し,ガタツキによる騒音を防止するものであるから,引用例1,2とは,技術的思想が全く異なるものである。
b また,仮に,被告の反論(ア)のとおり,「引用例1に記載された側溝蓋と側溝との傾斜部にかえて,引用例2に記載された蓋と蓋受部の構成を適用」するということが,側溝蓋と側溝との接触部分を曲面にするだけのことであるとしても,コンクリート製品において,完全に合同な曲面を製造することは,完全な平面を製造することと比べて,遙かに困難なことであるから,側溝蓋と側溝との接触部分を曲面とした場合に,側溝蓋と側溝との接触面をほぼ全面で接触させることにより,両者を堅固に嵌合させるという引用例1の作用効果を維持することは,現実的には不可能というべきである。
c したがって,引用例1に記載された側溝蓋と側溝の傾斜部にかえて,引用例2に記載された側溝蓋と側溝の構成を適用することにより,本件発明を想到することは,当業者であっても容易になし得るものではない。しかるに,本件審決は,誤って,前記1(5)エのとおり,当業者が容易に想到できた事項にすぎないと判断した。なお,本件発明の進歩性が欠如する理由について,明確な記載がない点においても,本件審決には,不備がある。
イ 被告の反論 (ア) 原告らの主張(ア)について 引用例2には,マンホール蓋構造において,「蓋と蓋受部とが密着していないと騒音という問題が生じ」るところ,「蓋と蓋受部とを曲面で密着させることにより騒音を防止することができる」という技術的思想が開示されている。
そして,引用考案が,突縁部や嵌合溝という構成を有していなくても,側溝蓋と側溝が堅固に嵌合し,騒音を防止できるものであることは明らかであるから,引用例2に開示された上記技術的思想を,引用考案に応用する場合に,わざわざ,突縁部,蓋受部という構成を採用する必要はない。
したがって,「引用例1に記載された側溝蓋と側溝との傾斜部にかえて,引用例2に記載された蓋と蓋受部の構成を適用」するということは,側溝蓋と側溝との接触部分を曲面にするだけのことであり,原告らが主張するように,側溝蓋には突縁部を設けたり,側溝の蓋受部には嵌合溝を設けたりするということにはならない。
(イ) 原告らの主張(イ)について a 引用例1の図1には,本件特許の特許公報(甲1)の図1と同様に,側溝蓋と側溝の全ての接面部が密着している側溝が記載されている。
また,本件発明は,側溝蓋と側溝の密着性を高めることにより騒音を防止するものであり,蓋を設置することにより,蓋と蓋受部が自重で密着するものであるところ,蓋に荷重が加わることにより,密着する曲面同士が強く押し付けられる結果,側溝蓋と側溝が強固に嵌合するものである。
したがって,本件発明における「側溝蓋と側溝の密着性を高める」ということと,引用例1における「側溝蓋と側溝が堅固に嵌合する」ということは,実質的に同義というべきであり,本件発明と引用例1記載の考案とは,蓋と蓋受部とを強く密着させることにより騒音を防止するという技術的思想が実質的に共通するというべきである。
b 次に,引用例2の図3には,本件特許の特許公報(甲1)の図1と同様に,蓋と受枠の両接面部が密着しているマンホール蓋構造が記載されている。
また,引用発明は,従来技術について,「ガタツキ,振動,騒音,ズレ上りがマンホール蓋と受枠との間隙によって生じるといった欠点があった。」とした上で,かかる問題を解決しようとするものである。そうであれば,引用発明は,蓋と受枠とを緊締して両者を強く密着させることにより,マンホール蓋と受枠との間隙によって生じる騒音を防止するものである。
これに対し,本件発明は,上記aのとおり,蓋の荷重が加わることで,密着する曲面同士が強く押し付けられる結果,側溝蓋と側溝が強く密着することにより,蓋と蓋受部との間隙によって生じる騒音を防止しているものである。
したがって,本件発明における「側溝蓋と側溝の密着性を高める」ということと,引用例2における「緊締状態を維持させる」ということも,実質的に同義というべきであり,本件発明と引用発明とは,接面部を強く密着させて騒音を防止するという技術的思想が実質的に共通するというべきである。なお,引用発明と本件発明とが,密着性を高めて騒音を防止するという技術的思想において共通していることは,第1次判決において,当然の前提とされていたものであるから,これを否定する原告らの主張は,行政事件訴訟法33条1項の拘束力に反するものである。
c 以上によれば,引用例1に記載された側溝蓋と側溝との傾斜部にかえて,引用例2に記載された側溝蓋と側溝の構成を適用して本件発明の相違点に係る構成とすることは,当業者であれば,容易に想到し得る程度のものにすぎない。
(2) 手続的瑕疵の有無 ア 原告らの主張 特許庁は,審判手続において,原告らの同意を得ることなく,被告提出に係る偽造証拠(甲8から10)について撤回することを認めてはならなかったにもかかわらず,誤って,上記各証拠の撤回を許容した。
イ 被告の反論 原告らの指摘する各証拠は,偽造証拠ではない。
また,特許庁は,本件審決において,引用考案及び引用発明に基づき,進歩性を否定したものであるところ,原告らの指摘する各証拠の存否によって,上記各発明の技術内容が変化するものではないから,上記各証拠の撤回の許否は,本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。したがって,原告らの主張は,本件審決の取消事由足り得ないものである。
争点に対する判断
1 争点(1)(本件審決の進歩性判断の当否)について (1) 原告らの主張(ア)について 原告らは,本件審決において,当業者が容易に想到できた事項にすぎないと判断された「引用例1に記載された側溝蓋と側溝との傾斜部にかえて,引用例2に記載された側溝蓋と側溝の構成を適用して本件発明の相違点に係る構成とすること」は,そもそもできないと主張するので,まず,引用例1記載の考案について,その技術的意味を含めて検討した上で,これと本件発明との相違点,引用発明の技術的意味について,それぞれ検討を加え,その上で,原告らの上記主張の当否について検討する。
ア 引用例1記載の考案について (ア) 証拠(甲6)によれば,引用例1には,次の各記載のあることが認められる。
a 2.実用新案登録請求の範囲 (1)側壁の内側上部に設けられた蓋掛け部および該側溝に掛けるための蓋から成るコンクリート側溝において,前記蓋掛け部および該蓋掛け部に接する側溝蓋の側面を各々側溝内部に向って下向きに傾斜部を設けたことを特徴とするコンクリート側溝(1頁実用新案登録請求の範囲1項)。
・・・ b 3.考案の詳細な説明 (a)[産業上の利用分野] 本考案は,コンクリート側溝に関するものであり,更に詳しくは,道路の側部に設けられ,雨水等の排水を充分に行うことができ,かつ堅固に嵌合して蓋鳴り等の騒音が発生しないコンクリート側溝に関する(2頁1から7行目)。 (b)[従来の技術] ・・・現在用いられている側溝は,第4図に示されている如く該側溝壁上端部に蓋掛け部4を設け,その蓋掛け部平面を水平にされ,その上に側溝蓋4(2の誤記)が掛けられている(2頁8から16行)。・・・ (c)[考案が解決しようとする問題点] しかしながら,前述の第4図および第5図におけるコンクリート側溝1および11には,構造上いくつかの欠点があり,好ましくない。まずその1つは,側溝側壁1の上部に側溝蓋4(2の誤記)が該蓋掛け部に平行に掛けられるが,蓋の下面部が,コンクリート打設時にこて仕上部となり,多少とはいえ凹凸が形成されるので,蓋掛け後,蓋の上を歩行者,自転車,場合により自動車等が乗ることにより蓋鳴りが生じ,この音が側溝内部で共鳴して大きくなり,騒音となる。
その結果,特に夜間の住宅街等では,この騒音による苦情が多いという問題点があった(3頁13行目から4頁6行目)。・・・ ・・・本考案の目的は,蓋鳴りがなく,・・・有用なコンクリート側溝を提供することにある(5頁12から17行目)。
(d)[問題を解決するための手段] 前記目的は,コンクリート側溝の蓋掛け部の底面とこれに対応した蓋に,内部に向って,それぞれ傾斜部を設けたことにより達成した。即ち,本考案は側溝の上部に設けられた蓋掛け部および側溝蓋の側面を夫々側溝内部に向って下向きに傾斜部を設けると共に該側溝蓋の長手方向の両側に水抜切欠を少なくとも1つ設けたコンクリート側溝である。
側壁内側の傾斜部23の角度は30°〜60°の範囲,特に約45°が好ましい。しかしながら,これに限定される必要はなく,蓋が充分掛けられる傾斜角であれば良いことは明らかである。
また側溝蓋の傾斜は側壁内側の傾斜が45°に対応しているので,蓋の上に載荷重が掛ると,その反力が蓋の中央部の引っ張り側に圧縮応力として働き,蓋の強度を増大させる(5頁18行目から6頁15行目)。・・・ (e)[実施例] 第1図は本考案のコンクリート側溝の断面図・・・である。
第1図において,1は側壁,41は蓋掛け部 23は傾斜部である。この傾斜部23は,側溝の内部に向って設けられ,側壁1に対して約45゜の角度に形成されている(7頁14行目から8頁3行目)。・・・ (f)[本考案の効果] 本考案は,コンクリート側溝の蓋掛け部41に傾斜を設けると共に,これと対応した部分に傾斜を設けた蓋を設置することにより,蓋鳴りを防止することができる(9頁9から13行目)・・・ c 4.図面の簡単な説明 第1図は本考案のコンクリート側溝の断面図・・・であり,第4図は従来のコンクリート側溝の断面図および第5図は側溝の側壁下部を薄く形成したコンクリート側溝の他の従来例の断面図である(11頁1から8行目)。・・・ (イ) 上記(ア)の各記載によれば,引用例1の実施例は,側溝蓋22と側溝の蓋掛け部41の接面部を傾斜部23とすることで,側溝蓋22にかかる垂直荷重が,傾斜部23を介して側溝の蓋掛け部41に伝達され,また,上記垂直荷重が傾斜部23に作用することで,側溝の蓋掛け部41からは,側溝蓋22に対し,それぞれ,相向かい合った側溝の蓋掛け部41の方向へ向かって,反力が生じることから,相向かい合って働く反力によって,側溝蓋22と側溝の蓋掛け部41の密着性が高まり,側溝蓋22と側溝の蓋掛け部41とが堅固に嵌合し,蓋鳴りを防止するものということができる。なお,このように,下向き傾斜面からなる溝に,これに対応した傾斜面を有する部材を差し込んだ場合に,差し込まれた部材にかかる垂直荷重によって溝の左右傾斜面に生じる反力が,垂直荷重と比較して大きなものとなることは,「くさび効果」として,周知な事項であるところ,この「くさび効果」により生じた反力により,溝の左右傾斜面と差し込まれた部材の間に密着性が生まれることは明らかというべきである。
以上によれば,引用例1には,本件審決において認定されているとおり(前記争いのない事実等(5)ア参照),引用考案すなわち「接面部がほぼ全面にわたって傾斜面に成形加工された側溝蓋と,前記側溝蓋の接面部に対応する接面部がほぼ全面にわたって前記側溝蓋の接面部の傾斜面に対して同様に傾斜面に成形加工された側溝の蓋掛け部とからなり,上記側溝蓋と側溝の蓋掛け部との密着性を高め,上記側溝蓋にかかる垂直荷重が上記側溝蓋及び側溝の蓋掛け部の接面部を介して側溝の蓋掛け部に伝達される騒音の発生しない側溝」が記載されているということができ,また,引用考案においては,「くさび効果」によって,側溝蓋と側溝の蓋掛け部の密着性が高められているということができる。
イ 本件発明と引用考案の相違点について そして,上記アのとおり,引用例1には,引用考案が記載されているとすれば,両者の相違点は,本件審決において認定されているとおり(前記争いのない事実等(5)ウ参照),本件発明においては,側溝蓋の接面部が全面にわたって曲面に成形加工されるとともに,側溝の接面部は,全面にわたって側溝蓋の接面部の曲面に対して幾何学的に相似な曲面に成形加工され,側溝蓋にかかる垂直荷重が側溝蓋及び側溝の接面部を介して分散されて側溝に伝達されるのに対し,引用考案においては,側溝蓋と側溝の蓋掛け部(側溝)との接面部は,それぞれ傾斜面に成形加工されている点ということができる。
ウ 引用発明の技術的意味について (ア) 前記争いのない事実等(6)のとおり,引用例2の第3図には,引用発明が記載されているところ,証拠(甲7)によれば,引用例2には,次の各記載のあることが認められる。
a 3.発明の詳細な説明 (a) ・・・この発明は地下構造物用蓋(1)の周縁の一部又は全周の下面に先細形状の突縁部(2)を設け,又蓋(1)の受枠(3)側に上記突縁部(2)との嵌合溝(4)を形成する状態に二重の受板(5),(5)′を突設させてなる地下構造物用蓋構造に係るものである(6頁右下欄13から17行目)。
(b) この発明では蓋(1)の突縁部(2)を受枠(3)の嵌合溝(4)に嵌合させて使用するもので,蓋(1)に荷重Pがかかれば先細り突縁部(2)は嵌合溝(4)を滑り下り,突縁部(2)は二重の受板(5),(5)′をそれぞれ押圧し,又受板(5),(5)′はそれぞれ反力R,R′をもって突縁部(2)の抗力を受け,蓋(1)は荷重Pと反力R,R′の垂直成分との平衡した位置で停止する(7頁左上欄11から17行目)。
(c) 二枚の受板(5),(5)′によって蓋(1)を緊締する状態を維持しているので,蓋(1)と受枠(3)との間に生じるガタツキ,振動,騒音が発生しない。反力R,R′の値は突縁部(2)の内外それぞれの傾斜角度によっても調整できる。第3図は突縁部,受板の形状の他の例を示すものである(7頁左下欄6から11行目)。
(d) 本発明によれば・・・受枠(3)による緊締により蓋(1)のガタツキ,振動,騒音が著しく減少でき(7頁左下欄12から18行目)・・・ b 4.図面の簡単な説明 第1図は本発明地下構造物用蓋構造の実施例を示す一部切欠平面図,第2図は第1図I-I線における拡大縦断面図,第3図は他の突縁部,受板の実施態様を示す説明図である(7頁右下欄4から7行目)。
(イ) 上記(ア)の各記載によれば,引用発明も,蓋(1)の突縁部(2)と受板(5),(5)′の接面部を傾斜面とすることで,蓋(1)にかかる垂直荷重が傾斜面を介して受板(5),(5)′に伝達され,また,上記垂直荷重が傾斜面に作用することで,受板(5),(5)′からは,突縁部(2)に対し,それぞれ,相向かい合った傾斜面となっている受板(5)′,(5)の方向へ向かって,反力が生じることから,相向かい合って働く反力によって,蓋(1)の突縁部(2)と受板(5),(5)′や嵌合溝(4)との密着性が高まり,蓋(1)の突縁部(2)と受枠(3)との緊締状態を維持し,蓋(1)のガタツキや,振動,騒音を減少するものということ,すなわち,引用考案と同様に,「くさび効果」によって,蓋(1)の突縁部(2)と受板(5),(5)′の密着性が高められているものということができ,また,この効果は,蓋(1)の突縁部(2)と受板(5),(5)′の接面部を,引用例2の第2図のような断面直線状とする場合であっても,第3図のような断面曲線状(以下「「ノ」の字型の断面曲線状」という)とする場合であっても,差異はないということができる。
エ 原告らの主張の当否 上記アウによれば,引用考案において,側溝蓋22と側溝の蓋掛け部41との接面部を傾斜面とすることによって生じる「くさび効果」を利用して,側溝蓋22と側溝の蓋掛け部41の密着性を高めて,蓋鳴りを防止しているのと同様に,引用発明においても,蓋(1)の突縁部(2)と受板(5),(5)′との接面部を傾斜面とすることによって生じる「くさび効果」を利用して,蓋(1)の突縁部(2)と受板(5),(5)′の密着性を高めて,蓋のガタツキ,振動,騒音を減少しているところ,引用発明においては,引用考案には存在しない「接面部を断面直線状とする場合であっても,「ノ」の字型の断面曲線状とする場合であっても,差異はない」という技術的思想が開示されているのであるから,引用考案に,引用発明の技術的思想を応用する場合に,「接面部を断面直線状とする場合であっても,「ノ」の字型の断面曲線状とする場合であっても,差異はない」という部分のみを抽出して,適用することは,ごく自然な発想というべきである。
そうであれば,本件審決のうち,「引用例1に記載された側溝蓋と側溝の傾斜部にかえて,引用例2に記載された側溝蓋と側溝の構成を適用」するとしている部分は,原告らが主張するように,引用例1の側溝蓋に突縁部を設けたり,側溝の蓋受部に嵌合溝を設けることを意味するものではなく,引用例1において傾斜面(断面直線状)となっている側溝蓋と側溝との接面部について,「ノ」の字型の断面曲線状とすることを意味するものであることは明らかというべきである。
オ 小括 したがって,原告らの主張(ア)aは,採用することができず,また,これを前提とする原告らの主張(ア)bも,前提を欠くものであり,採用することができない。そして,「引用例1に記載された側溝蓋と側溝との傾斜部にかえて,引用例2に記載された側溝蓋と側溝の構成を適用して本件発明の上記相違点に係る構成とすること」ができるとした本件審決の判断には,誤りはないというべきである。
(2) 原告らの主張(イ)について ア 原告らの主張(イ)aについて (ア) 引用考案において,側溝蓋22と側溝の蓋掛け部41との密着性を高めて,側溝蓋22と側溝の蓋掛け部41とを堅固に嵌合させており,また,引用発明において,蓋(1)の突縁部(2)と受板(5),(5)′の嵌合溝(4)との密着性を高めて,蓋(1)の突縁部(2)と受枠(5),(5)′との緊締状態を維持しているのが,いずれも,「くさび効果」を利用してのものであることは,上記判断のとおりである。
(イ)a 他方,本件発明は,前記争いのない事実等(2)のとおり,側溝蓋1と側溝2との密着性を高め,前記側溝蓋1にかかる垂直荷重が前記側溝蓋1及び側溝2の接面部a5,b6を介して分散されて側溝2に伝達されることを特徴とする騒音の発生しない側溝であるところ,証拠(甲1)によれば,本件発明の特許公報には,次の各記載のあることが認められる。
(a)【発明の詳細な説明】 ・・・ 【0003】 【発明が解消しようとする課題】側溝蓋のガタッキによる騒音防止のため,特にフラット部の平面精度が要求されるが,満足されていない。・・・ 【0004】この発明は,このような従来の技術の欠点を除去して,新規な形状の,騒音の発生しない側溝を提供するものである。
【0005】 【課題を解決するための手段】図1はこの発明の原理を説明する図である。まず図1の正面図で示すように,接面部を曲面に成形加工した側溝蓋1を,幾何学的に相似な曲面に成形加工した接面部を持つ側溝2に,密着するように設置する。
【0006】 【作用】この様にして幾何学的に相似した曲面を持った側溝蓋1と側溝2を設置すると,両者は側溝蓋1の自重により密着する。
・・・ 【0008】 【発明の効果】この発明は側溝蓋の接面部と側溝の接面部が曲面で密着することに特徴が有る。これにより車両等の通過騒音を解消することが可能になり・・・ 【0009】・・・また側溝蓋と側溝の接触面積が広くなり安定性が増す。
【0010】また,側溝蓋に垂直加重がかかった場合,接触面が曲面であるために,力線が分散され,側溝蓋にかかる負担が軽減され耐用年数が延びる。
・・・ 【0012】以上のようにこの発明は側溝蓋の接面部,側溝の接面部を曲面に成形加工することにより側溝蓋,側溝の密着を計るものであり・・・ (b)【図面の簡単な説明】 b 上記aの各記載に照らせば,本件発明は,側溝蓋1と側溝2の接面部を「ノ」の字型の曲面とすることで,側溝蓋1にかかる垂直荷重が,側溝蓋1及び側溝2の接面部a5,b6を介して側溝2に伝達され,また,上記垂直荷重が「ノ」の字型の曲面となっている接面部に作用することで,側溝2の接面部b6からは,側溝蓋1に対し,それぞれ,相向かい合った側溝2の接面部b6の方向へ向かって,反力が生じることから,相向かい合って働く反力によって,側溝蓋1と側溝2との密着性が高まり,側溝蓋1のガタツキによる騒音を防止するものということ,すなわち,引用考案及び引用発明と同様に,「くさび効果」を利用して,蓋鳴り(蓋のガタツキによる騒音)を防止しているものということができる。
(ウ) 以上によれば,本件発明の技術的思想と引用考案及び引用発明の技術的思想とは,いずれも,「くさび効果」を利用して,蓋鳴り(蓋のガタツキによる騒音)を防止するものとして共通するものであり,これらが,全く異なるものであるということはできない。
(エ) これに対し,原告らは,原告らの主張(イ)a(b)のとおり主張し,ニュースの録画ビデオ(甲17)を証拠として提出する。
確かに,ニュースの録画ビデオ(甲17)には,A発明に係る側溝蓋及び側溝が紹介されているところ,側溝蓋及び側溝の接面部を幾何学的に相似な曲面,つまり,側溝蓋の曲面の曲率を側溝の蓋受け部の曲面の曲率よりも大きくする(曲がり具合をきつくする)ことで,側溝の蓋受け部の曲面と側溝蓋の曲面とが線状に接触し,多少の寸法誤差があってもこれを吸収し,側溝蓋がしっかりと側溝の蓋受け部に支持されることが説明されている。
しかしながら,本件審決は,本件発明の「幾何学的に相似な曲面」には「幾何学的に合同な曲面」の場合も含まれることを前提とした上,「幾何学的に合同な曲面」のものについては,進歩性がないとして,本件特許を無効と判断しているところ,「幾何学的に合同な曲面」の場合には,側溝の蓋受け部の曲面と側溝蓋の曲面が面状に接触することとなり,原告らの上記主張があてはまらないものとなることは明らかであるから,原告らの上記主張はそれ自体失当というべきである。
したがって,原告らの主張(イ)a(b)は,採用することができない。
イ 原告らの主張(イ)bについて 次に,原告らは,原告らの主張(イ)bのとおり主張する。
しかしながら,本件発明は,上記ア(エ)の判断のとおり,側溝蓋と側溝とを,曲面の接触面全てで密着させる,いわゆる「幾何学的に合同な曲面」の場合も含むものというべきところ,本件発明の特許公報(甲1)の「【0007】【実施例】具体的な実施例について説明すれば,側溝蓋1のコンクリート製のものは,型枠成形とし,鉄製のものについても型枠成形とし,素材は鋳鉄による。側溝2についてもコンクリート型枠成形による。また,合成樹脂,セラミックス等の新素材であっても,強度が許容されれば選択される。」という記載に照らすと,本件発明に係る側溝蓋及び側溝の素材については,コンクリート製のものであっても,鋳鉄,合成樹脂,セラミックス等の新素材のものであっても,等しく成形可能なものとして扱っているというべきであるから,原告らの主張とは相反し,本件発明においては,側溝蓋と側溝がコンクリート製のものであっても,曲面の接触面全てで密着するものを製造しうることを当然の前提にしているというべきである。
したがって,原告らの主張(イ)bは,採用することができない。
ウ 小括 以上によれば,原告らの主張(イ)は,いずれも採用することができない。
そして,上記のとおり,本件発明と引用考案及び引用発明とは,技術的思想が共通するところ,コンクリート2次製品製造業者において,鋳鉄製のマンホールの蓋を製造販売している業者が相当数存在しており(乙3),また,マンホールの蓋は,鉄製のもののみではなく,コンクリート製のものもある反面,側溝の蓋は,コンクリート製のもののみではなく,鉄製のものも存在しており(甲1,乙4),さらに,マンホールと側溝とは,いずれも,下水道工事に関わるものとして,1冊の書物の中で併せて紹介されていたりしていること(乙4)に照らすと,引用考案及び引用発明は,地下構造物用蓋として,技術分野も共通するというべきであり,しかも,本件発明の作用効果も,引用考案及び引用発明の組合せにより,当然に奏するものにすぎないというべきであるから,上記争いのない事実等(5)エのとおり判断して,本件発明の進歩性を否定した本件審決の判断には,誤りはないというべきであり,また,本件審決には,本件発明の進歩性が欠如する理由について,明確な記載がないということもできない。
2 争点(2)(手続的瑕疵の有無)について 原告らの指摘する各証拠が偽造証拠であるか否かはさておくとして,特許庁が,本件審決において,引用考案及び引用発明に基づき,進歩性を否定したことは明らかであるところ,本件一件記録を精査しても,原告らの指摘する各偽造証拠の存否によって,上記考案及び発明の技術内容が変化する余地は全く存在しない。
そうであれば,特許庁の審判手続における上記各証拠の撤回の許否は,本件審決の結論に何らの影響を及ぼすものではないから,原告らの主張は,本件審決の取消事由足り得るものではなく,採用することができない。
3 結論 以上のとおり,原告ら主張の各取消事由は,いずれも採用することができない。よって,原告らの本訴請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青柳馨
裁判官 絹川泰毅