関連審決 | 無効2000-35655 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 発明の詳細な説明 / 翻訳文 / 参酌 / 置き換え / 置換 / 置換可能性 / 置換容易性 / 容易に想到(容易想到性) / 不存在 / 信義則 / 特許発明 / 実施 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
519号
審決取消請求事件
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原告 株式会社片岡機械製作所 訴訟代理人弁理士 福田賢三、福田伸一、福田武通 被告 カンプフゲゼルシャフト ミット ベシュレ ンクテル ハフツング ウント コンパニー マシーネンファブリーク 訴訟代理人弁護士 加藤義明 同 弁理士 久野琢也、アインゼル・フェリックス=ライン ハルト |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/03/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が無効2000−35655号事件について平成13年10月10日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
主文第1項と同旨の判決。 |
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事案の概要
本件は、特許を無効とした審決に対する審決取消訴訟である。 1 手続の経緯 原告は、発明の名称を「シート分割巻取装置」とする特許第1832090号(昭和61年8月18日出願、平成6年3月29日登録。以下「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。 被告は、平成12年12月6日、原告を被請求人として、本件特許につき無効審判の請求をした(無効2000-35655号事件)。これに対し、原告から平成13年3月16日に訂正の請求がされ、特許庁は、平成13年10月10日、「訂正を認める。特許第1832090号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし、その謄本を平成13年10月22日に原告に送達した。 2 本件発明の要旨(平成13年3月16日付け訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の記載)【請求項1】 スリッターにより分割して両側へ振分けた帯状シートを、回転駆動機構により中心駆動される巻芯にタッチローラを介して巻取り、巻太りにつれて巻芯の支持位置を上記タッチローラから離す巻取装置において、 振分け片側毎に設けられ、夫々、シート幅方向に直角な方向にのびる案内レールと、 上記案内レールに沿って進退可能であって、該案内レールにより上下方向及びシート幅方向への動きを阻止されるはめ合い部材を固定した脚台と、 上記脚台に固定され、振分け片側毎にシート幅方向に設けた間隔調整台と、 上記間隔調整台に摺動可能に支持され、該間隔調整台に固定可能であって、巻芯に対応して設けた左右一対の巻芯支持体と、 シートの巻太りにつれて前記脚台、間隔調整台、巻芯支持体を一体に後退させ、 該巻芯支持体における巻芯支持位置をタッチローラから離すことが可能であると共に、当該脚台、間隔調整台、巻芯支持体における進退方向への動きを制止する駆動装置とを備えることを特徴とするシート分割巻取装置。 3 審決の理由の要点 審決の理由は、別紙審決の写し(審決)の理由欄記載のとおりである。要するに、本件発明は、第1引用例(米国特許第2984427号明細書、甲9・審判甲1)、第2引用例(特公昭57-28658号公報、甲10・審判甲2)及び第3引用例(特公昭43-28412号公報、甲12・審判甲4)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号の規定に該当し、無効とすべきものである、というものである。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決は、第1引用例及び第3引用例の認定を誤り(取消事由1、2)、第1引用例と第2引用例との置換容易性についての判断を誤った(取消事由3)ものであり、これらの誤りが審決の結論に影響することは明らかであるから、取り消されるべきものである。 1 取消事由1(本件発明と第1引用例記載の発明との対比における認定の誤り) (1)審決は、第1引用例(甲第9号証)の空圧装置42、43について、 「(第1引用例)の「空圧装置」は、ウエブ(ストリップ)の巻太りにつれて前記軸受要素21、23を後退させ、該軸受要素21、23における巻軸11、12の支持位置をプラテンドラム13から離すことが可能であるので、前者(注、本件発明)の「駆動装置」に対応する。」(審決6頁〜7頁)と認定したうえ、本件発明と第1引用例に記載された発明とは、「シートの巻太りにつれて前記脚台、巻芯支持体を一体に後退させ、該巻芯支持体における巻芯支持位置をタッチローラから離すことが可能である駆動装置とを備える」(審決7頁)点で一致すると認定した。 (2)しかし、第1引用例の空圧装置は「圧力調整手段」として機能するものであり、本件発明の「駆動装置」に対応するものではない。 第1引用例は、ウエブ材料をロールに巻き取るための装置、特に分割・巻取装置の改良に関し、より具体的には、巻取ロールの周縁とプラテンドラムの周縁との間の圧力を高度に制御する装置に関するものである。この目的意識のもと、第1引用例は各種の構造を採用したが、その中の1つが空圧装置であり、この空圧装置で巻取ロールとプラテンドラムとの間の圧力を制御するものである。 (3)第1引用例は、第1図等を一見すれば明らかなように、定置タイプのプラテンドラム13を備えている。定置タイプであるから、当然、自ら移動することはできない。したがって、第1引用例においては、巻太りにつれて、もっぱら巻軸11側を後退させなければならない。 第1引用例は、上記巻軸を後退させるためにガイド装置を設けた。このガイド装置は、一対の平行軌道部材15を設け、これによって巻軸の両端の軸受要素21、 23を支持しようとするものである。 上記平行軌道部材は、第1図の実施例にあるように水平であってもよいが、所望によりドラムから下方に傾斜(若しくは湾曲)していてもよいとされている(翻訳文3頁2行以下)。そして、上記のように下方へ傾斜(若しくは湾曲)させる意味は、巻取ロールの直径が増加して巻取ロールの静止重量が増加することによって生じる、巻軸のボールベアリングにおいて累進的に増加する摩擦を補償し、巻軸をプラテンドラムから離すような力を発生させる状況を得るためである。 (4)すなわち、巻取ロールとプラテンドラムとの間の圧力調整を意識しないのであれば、第1引用例での空圧装置は不要である。極論すれば、空圧装置が存在せずとも、巻太りに伴い、巻軸はガイド装置によって後方へ移動するものである。そのために、第1引用例は上記平行軌道部材と軸受要素の組み合わせを採用し、かつ、さまざまなケースを想定して、平行軌道部材の形態を水平のみならず、下方傾斜、下方湾曲のように変化させようとしたものである。 以上のことからすれば、第1引用例の空圧装置に、本件発明の駆動装置のような「(シートの巻太りにつれて)巻芯支持位置をタッチローラから離す」、「進退方向の動きを制止する 」という技術思想は存在しない。 (5)第1引用例の空圧装置は、もっぱら、軸受要素、巻軸を介して巻取ロールとプラテンドラムとの間の接触圧を調整するためにのみ存在するものであり、巻取ロールの巻太り力によって巻軸側がプラテンドラムから離れる動きを妨げるものではないが、自らの力で積極的に巻軸側を後退させるものではない。巻軸側が後退しようとする推力は、あくまでも巻太り力によって得られるものである。被告は、巻き取りによってロールの直径が増大すること、そして、これに原因して、巻軸側に後退する力を与える巻太り力の発生を見落している。 (6)シートの巻太りに伴い巻取ロールの重量は増加する。すると、軸受要素と平行軌道部材との間の摩擦も増加する。巻太りに従い、巻軸側が巻太り力で後退しようとしても、摩擦力(抵抗)が過大になり、そのままではいかんともし難い状況になる場合が考えられ、予定の接触圧を得ることができなくなってしまう。そこで、空圧装置のピストンの力を巻軸側がプラテンドラムから離れる方向に作用させることにより増加分の摩擦を打ち消すべく左右のチャンバに加える圧力を調整し、 所望の接触圧を維持しようとするものである。第1引用例に記載され、被告が引用する「巻取ロールの重量の増大とともに・・・(中略)・・・押圧する傾向があることがわかった。」とは上記事象を意味するものである。空圧装置(ピストン)は、プラテンドラムと巻取ロールとの間の圧力の所望値と、時には上記巻太り力を上回る力となる摩擦力(巻軸側の後退を妨げようとする力)とを勘案し、自らに課せられた圧力調整という役割を全うしようとしているにすぎない。 (7)以上のとおり、第1引用例の空圧装置を本件発明の駆動装置に関連付けた本件審決は、第1引用例の認定・判断において誤っている。 2 取消事由2(第3引用例に関する認定の誤り及びこれに基づく相違点@についての判断の誤り) (1)本件審決は、第3引用例(甲第12号証)の組立部分74、76について、「シートの巻太りにつれて巻返しアーム36、38、40、42を後退させ、 巻返しアーム36、38、40、42における巻芯支持位置を主接触ドラム26から離すことが可能である圧縮空気シリンダとピストンからなる組立部分74、76とを備えている。」(審決6頁)と認定し、この認定に基づいて、第1引用例に記載されたものの軸受け要素を、第3引用例に記載されたものの構造に置き換え、本件発明と第1引用例記載の発明との相違点iに係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである旨認定した。 (2)しかし、第3引用例の組立部分は「締め圧力制御手段」として機能するものであり、ここに、巻返しアーム36、38、40、42における巻芯支持位置を主接触ドラム26から離すという思想は存在しない。 これは、「上記圧縮空気シリンダとピストンとの組立部分74,76の制御が上記巻返しロール28,30と上記主接触ドラム26との間の上記締め圧力を制御するものである。」(甲第12号証3頁左欄)との記載から明らかである。 (3)第1引用例と同じく、第3引用例も定置タイプの主接触ドラム26を備える。審決も認めるように、巻返しアームは、往復台を介して、シート幅方向に直角な方向にのびる床道により台上に滑動自在に装着されているのであり、上記組立部分が存在しなくとも、巻太りにつれて主接触ドラムから離れる。前記組立部分は第1引用例の空圧装置と同様、巻返しロールの周縁と主接触ドラムの周縁との間の圧力を制御するために存在している。 (4)したがって、第3引用例の組立部分を本件発明の駆動装置に関連付けた本件審決は、第3引用例の認定・判断においても誤っており、この認定を前提とする相違点@についての判断も誤りである。 3 取消事由3(第1引用例と第2引用例との置換容易性についての判断の誤り) (1)審決は、本件発明と第1引用例記載の発明との相違点Aについて、「甲第1号証(第1引用例)記載のものの空圧装置を、(第2引用例の)静止ナットと、 送り軸7と、送りモータ6とからなる駆動装置に置き換え、上記相違点Aのようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである」(審決8、9頁)、「(審判)甲第1号証(第1引用例)記載のものの空圧装置を、(審判)甲第2号証(第2引用例)記載の駆動装置により置換し、空圧装置が奏するウエブの巻太りにつれて軸受要素を後退させ、巻軸の支持位置をプラテンドラムから離すという機能を(審判)甲第2号証(第2引用例)の駆動装置により奏するように置換することは、当業者が容易に想到し得たことである」(審決9頁)と判断した。 (2)しかし、第1引用例の「空圧装置」が「圧力調整機構」であるのに対して、第2引用例における「静止ナットと、送り軸7と、送りモータ6とからなる駆動装置」は、ロール保持体4を移動させるための「移動機構」である。両者は、その存在意義、即ち目的において明らかに相違する構成要素である。 (3)しかも、審決も「ここで、上記置換により、空圧装置が奏する圧力調整機能が失われる」(審決10頁)と認めるように、両者の置換は、第1引用例の「空圧装置」の存在意義(=圧力調整機能)を否定することにつながる。先に主張したように、第1引用例の主目的は「巻取ロールの周縁とプラテンドラムの周縁との間の圧力調整」である。上記置換により圧力調整機能が失われるならば、そもそも、 第1引用例は成立し得ないこと明白である。 (4)この点に関し、審決は「このこと(=置換)によりウエブの巻取が不可能となるとは解されず、」と認定している。 確かに、巻き取るという動作自体は不可能ではないということができるが、これはもはや第1引用例が意図する、そして、昨今の精密巻取が意図する巻取とはいうことができない。 (5)さらに加えて、審決は「本件特許発明も、タッチローラと巻芯との間の圧力調整手段を、発明の構成に欠くことができない事項とはしていないことから見ても、圧力調整手段が失われることをもって、(審判)甲第1号証(第1引用例)記載の空圧装置を、(審判)甲第2号証(第2引用例)記載の駆動装置に置換し難いということはできない。」(審決10頁)と認定している。 しかし、本件発明においても、特許公報(甲第3号証)に「第2図に示すように、両側のタッチローラ2を、夫々の支持腕21をもつ調整台22が交互に入り組んで支持する。そして、調整台22にはタッチローラ押付け機構23のほか、図示しない周知の検出装置、制御装置が設けられている。」(3頁5欄1〜5行)と記載されているように、実施例においても圧力調整手段は存在する。 ちなみに、第1引用例は「空圧装置」、第2引用例は「圧力手段23」、第3引用例は「圧縮空気シリンダとピストンとの組立部分74、76」が、各々、圧力調整手段として機能する。 さらに、特開平60-236958号(甲第13号証)の第1図の実施例においては、巻取揺動アームAの基端部分にある流体圧シリンダ、第6図の実施例においては「流体圧シリンダ18」が、各々、圧力調整手段として機能する(4頁左上欄)。 いずれの事例においても、それが特許請求の範囲に記されるかどうかはともかくとして、「圧力調整手段」は明瞭に存在する。「圧力調整手段」の不存在は、実質的な高速/精密巻取の不能を意味する。 すなわち、第1引用例の空圧装置と第2引用例の駆動装置との置換は、実質的な巻取不能につながるものである。 (6)したがって、第1引用例の「空圧装置」と第2引用例の「駆動装置」とは、圧力調整と移動機構という全く異なった目的の下で存在する構成要素であり、 置換可能性は全くない。審決の判断は誤りである。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1に対して (1)原告は、第1引用例においては、巻太りにつれて、もっぱら巻軸11側を後退させなければならないことを認めており、巻軸11の後退とは、巻軸11の支持位置をプラテンドラム13から離すことを意味しているのであるから、巻軸11に圧力を作用させる空圧装置42、43は、結局、巻取ロール10eにおけるストリップ10bの巻太りにつれて軸受要素21、23を後退させ、該軸受要素21、 23における巻軸11の支持位置をプラテンドラム13から離すことを可能にするものといえる。確かに、空圧装置42、43は圧力調整手段であるともいえるが、 圧力を制御するものである以上、巻軸11の支持位置を巻太りにつれてプラテンドラム13から離すことを可能にするものでなければならないことは理屈上当然のことである。 第1引用例(甲第9号証)には「巻取ロールの重量の増大とともに、巻軸の軸受要素上の摩擦が大幅に累進的に増加する場合には、巻軸11のピストン44、45に作用する(および巻軸12の類似形式のピストンに作用する)力を累進的に増加することが有利であるが、前述のそのようなピストンは巻き取りロールをプラテンドラムから離すように押圧する傾向があることがわかった。」(5欄52〜59行、翻訳文8頁3〜7行)と記載されていることから、第1引用例の空圧装置が、 巻取ロールの重量の増大、即ち巻き太りにつれて、巻軸11の支持位置(巻芯支持位置)をプラテンドラム13から離すように巻軸11及び巻取ロールを押圧するものであることは明らかである。 (2)原告は、本件発明の「駆動装置」は、自らの力で巻芯支持体の巻芯支持位置をタッチローラから遠ざかる方向へ積極的に動かすものである、と主張する。 しかし、本件明細書の特許請求の範囲には、駆動装置に関して、「シートの巻太りにつれて前記脚台、間隔調整台、巻芯支持体を一体に後退させ、該巻芯支持体における巻芯支持位置をタッチローラから離すことが可能であると共に、当該脚台、 間隔調整台、巻芯支持体における進退方向への動きを制止する駆動装置」と記載されているにすぎず、この記載を根拠として、駆動装置が「自らの力で巻芯支持体の巻芯支持位置をタッチローラから遠ざかる方向へ積極的に動かすもの」に限定されると解することはできない。つまり、前記記載は、シートの巻太りにつれて巻芯支持体を一体に後退させ、巻芯支持位置をタッチローラから離すという機能を可能にする駆動装置を意味するものと解するべきであり、同駆動装置が、巻芯支持位置を、自らの力でタッチローラから遠ざかる方向へ積極的に動かすものか、あるいは、巻太り力を利用して動かすものかについては全く特定されていないというべきである。 さらに、本件明細書の特許請求の範囲に記載されたシート分割巻取装置の構成全体を考慮しても、駆動装置を、自らの力で巻芯支持体の巻芯支持位置をタッチローラから遠ざかる方向へ積極的に動かすものに限定して解することはできない。 (3)原告の主張する「巻太り力」とは、プラテンドラムが巻取ロールを押圧する力であって、プラテンドラムと巻取ロール間の接触圧力に起因しているものと解される。本件発明の場合も、帯状シートを巻芯に巻いたシートロールとタッチローラとの間には接触圧力が生じて維持されており、それゆえ必然的に、この接触圧力に起因して、シートロールの巻芯、即ち巻芯支持体の巻芯支持位置を後退させ、タッチローラから遠ざかる方向へ積極的に動かす「巻太り力」が発生しているはずである。そして、本件発明も第1引用例に記載のものも、シートの分割巻取装置という同一の技術分野に属するものであるから、両者の装置の間で接触圧力や「巻太り力」の大きさに有意な差が生ずる根拠は見出せない。つまり、両者の分割巻取装置において、「巻太り力」は同等の大きさであると解するべきである。したがって、 本件発明においても巻芯支持位置を後退させる推力は「巻太り力」によって得られるはずであるから、本件発明の駆動装置も、自らの力で巻芯支持体の巻芯支持位置をタッチローラから遠ざかる方向へ積極的に動かすものではあり得ないことになる。 2 取消事由2に対して 第3引用例の3頁左欄5〜22行の記載によれば、巻返しロール28、32は、 仕上りの間、即ちシートの巻太りにつれて、線78に沿って水平方向に主接触ドラム26から離れるように移動するのであり、その際に、巻返しロール28、32の水平運動を組立部分74、76により制御することによって、接触点80における締め圧力即ち接触力を制御することができるものと解される。それゆえ、組立部分74、76が、巻返しアーム36、38、40、42における巻芯支持位置を主接触ドラム26から離すことを可能にするものであることは明らかであって、本件審決の第3引用例についての認定・判断は妥当なものである。 3 取消事由3に対して (1)第1引用例の空圧装置42、43は、巻取ロール10eにおけるストリップ10bの巻太りにつれて軸受要素21、23を後退させ、該軸受要素21、23における巻軸11の支持位置をプラテンドラム13から離すことを可能にするものであるから、巻取ロール10eとプラテンドラム13との間の圧力を制御する圧力調整手段であると同時に、巻軸11の支持位置をプラテンドラム13から離す方向に移動させるための駆動装置ということができる。 したがって、第1引用例の空圧装置42、43と、第2引用例の静止ナット8と送り軸7と送りモータ6とからなる、ロール保持体4を接触ローラ19から遠ざかる方向に移動させるための駆動装置とは、巻太りにつれて巻芯支持位置をプラテンドラム13(第2引用例においては接触ローラ19)から離すという点で共通の目的を有しているといえる。それゆえ、第1引用例の空圧装置42、43を第2引用例の前記駆動装置に置き換えることは明らかに可能であって、当業者が容易に想到し得たことといえる。 (2)原告は、第1引用例の空圧装置を第2引用例の駆動装置で置き換えることは、第1引用例の空圧装置の存在意義(=圧力調整機能)を否定するものであって、圧力調整機能が失われる結果そもそも精密巻取を意図する第1引用例は成立し得ないことになる、と主張する。 確かに、本件明細書(甲第6号証)には、タッチローラ2、支持腕21、調整台22、タッチローラ押付け機構23、検出装置、制御装置、駆動装置本体16、ネジ棒16a等の構成要素に基づいて、圧力調整機能を奏する可能性のある実施例の構成が開示されているようである。しかし、本件明細書の特許請求の範囲には、前記構成要素に相当するものとして「タッチローラ」と「駆動装置」が記載されているにすぎず、支持腕21、調整台22、タッチローラ押付け機構23、検出装置、 制御装置については、記載はもちろん、示唆すらもされていない。そして、単に、 「タッチローラ」と「駆動装置」のみによっては、圧力調整機能を達成し得ないことは前記実施例の記載から明らかであり、さらには、原告自身も「つまり、本件発明の駆動装置は、自ら接触圧制御に寄与するものではないのである。」と認めているのであるから、本件発明は、圧力調整機能を奏するための構成を明らかに意図的に排除した巻取装置に関するものであると解される。そして、本件発明は、圧力調整機能を奏するための構成を意図的に排除したものでありながら、本件明細書の記載によれば、「したがって、帯状シートを高速で巻取ったとしても、その巻芯支持体が上下方向やシート幅方向、更には進退方向に振動し、がたつきを生じさせることはない。」(3頁10〜12行)という作用を奏し、「巻取中における巻芯支持体の進退方向へのがたつきが制止されるので、後退途中の巻芯支持体の位置を確実に制御することができる。」(6頁23、24行)という効果を奏するものとされている。 したがって、本件発明が圧力調整機能を明確に放棄した巻取装置に関するものである以上、原告が、前記置換の可能性についての本件審決の認定・判断に対して、 置換に際して圧力調整機能が失われるから精密巻取ができないとか、実質的な巻取不能につながるなどと主張することは明らかな信義則違反である。 よって、原告の前記主張は誤りであって、審決の認定・判断は妥当なものである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明と第1引用例記載の発明との対比における認定の誤り)について (1)原告は、第1引用例に記載された空圧装置は「圧力調整手段」として機能するものであり、本件発明の「駆動装置」に対応するものではないと主張する。 (2)本件発明の「駆動装置」について ア 甲第3号証(本件特許公告公報)及び甲第6号証(平成13年3月16日付け訂正請求書に添付された明細書)によれば、訂正後の本件明細書には、以下の記載がある。 @ (発明が解決しようとする課題)の欄に、 「上記公報に記載のものは、単に案内レール上に巻芯支持体を載せ、その重力で案内レール上に保持しているに過ぎない。つまり、シートの巻取りに際して生ずる振動等の要因により、その巻芯支持体は案内レール上で上下方向やシート幅方向、更には進退方向に微小に動き、がたつきを生ずる。そのため、上記公報の形式を採用した場合には、例えば横滑りし易い性質を有するプラスチックフィルムシートの巻取りに際し、がたつきを生じない程度に巻取速度を落とさなければ、その振動によってロールの端面が不揃いになり、甚だしい場合には巻取中にシートが完全に横ずれし、作業を停止しなければならない。 すなわち、上記公報に記載のものによっては、昨今における高速巻取の要請に応えることができない。」との記載。 A (課題を解決するための手段)の欄に、 「本発明は、この種の巻取装置において品質のよいシートロールを得るには、従来より種々提案されている巻取張力や接触圧、巻取位置へのシート供給張力の制御のみではなく、そのシートロール自体が高速回転してもがたつきを生じないことが必要であるという点に鑑み開発されたものであって」との記載。 B (作用)の欄に、 「本発明における巻芯支持体は、はめ合い部材を固定した脚台、間隔調整台を介して、シート幅方向に直角な方向にのびる案内レールに支持されて進退可能であるものの、上下方向及びシート幅方向への動きを阻止されている。しかも、上記巻芯支持体は、脚台、間隔調整台を介して、駆動装置により、その進退方向への自由な動きも制止されている。したがって、帯状シートを高速で巻取ったとしても、その巻芯支持体が上下方向やシート幅方向、更には進退方向に振動し、がたつきを生じさせることはない。」との記載。 C(実施例)の欄に、 「駆動装置16により、脚台14、間隔調整台13を介してすべての巻芯支持体10、10をタッチローラ2の方へ前進させ、第1図左側の鎖線のようにして巻芯Cをタッチローラ2に接しさせる。つまり、駆動用のネジ棒16aは脚台14の下面に設けたメネジ16bに螺合しているので、駆動装置本体16で上記ネジ棒16aを回転させることにより、当該脚台14は前進、又は後進が可能である。」、 「巻芯支持体10は、間隔調整台13の脚台14のメネジ16bを介して駆動装置16のネジ棒16aにより、その進退方向への自由な動きを制止されている。すなわち、巻芯支持体10、間隔調整台13、脚台14、案内レール12a、駆動装置のすべてが一体の抗振構造となって巻芯Cの振動を抑えるものであり、それ故、高速でシート巻取りを行ったとしても、シートロールにおいてシートの横ずれを生ずるような振動は生じない。」との記載。 D(発明の効果)の欄に、 「本発明によれば、巻芯を支持する巻芯支持体における上下方向、シート幅方向、 更には進退方向へのがたつきを防止することができるのであり、従来装置に比して画期的に振動阻止力を強め、振動によるシート横ずれ現象の防止、シートロール端面の不均一防止をはかることが可能になる。また、巻取中における巻芯支持体の進退方向へのがたつきが制止されるので、後退途中の巻芯支持体の位置を確実に制御することができる。」との記載。 イ 以上の記載によれば、本件発明は、シート分割巻取装置において、品質のよいシートロールを得るために、巻芯支持体が上下方向やシート幅方向、さらには、進退方向の振動・がたつきを生じさせないようにすることを目的とし、特許請求の範囲に記載された構成、特に、案内レールにより上下方向及びシート幅方向への動きを阻止されるはめ合い部材を固定した脚台と、シートの巻太りにつれて脚台、間隔調整台及び巻芯支持体を一体に後退させ、巻芯支持体における巻芯支持位置をタッチローラから離すことが可能であるとともに、脚台、間隔調整台及び巻芯支持体における進退方向への動き(振動)を制止する駆動装置とを備えることを特徴とするものであると認められる。 ウ ところで、「駆動」という用語は、広辞苑第5版によれば「動力を与えて動かすこと」ことを意味する。本件発明の「駆動装置」についても「駆動」がこれと異なる意味に用いられていると認めるべき根拠は、本件明細書の中には見いだすことができない。そして、本件明細書の発明の詳細な説明によれば、本件発明の「駆動装置」は、脚台、間隔調整台及び巻芯支持体を一体に「前進又は後退させる」と共に、当該脚台、間隔調整台及び巻芯支持体の「進退方向への自由な動きを制止する」機能があるものとして説明され、実施例においても、駆動装置本体16でネジ棒16aを回転させ、メネジ16bを介して脚台14を前進又は後退させている。してみると、本件発明にいう「駆動装置」とは、脚台等を能動的に動かすものであると認めるのが相当である。 被告は、本件明細書の特許請求の範囲には、駆動装置に関して、「シートの巻太りにつれて前記脚台、間隔調整台、巻芯支持体を一体に後退させ、該巻芯支持体における巻芯支持位置をタッチローラから離すことが可能であると共に、当該脚台、 間隔調整台、巻芯支持体における進退方向への動きを制止する駆動装置」と記載されているにすぎないから、「駆動装置」を「能動的に動かすもの」に限定して解することはできないと主張する。しかし、「駆動」という語の一般的な語義に加え、 巻芯支持体等を前進又は後退させるとともにその進退方向への動きを制止するという本件明細書に開示された駆動装置の機能は、受動的に動く装置では実現できないものであるから、「駆動装置」とは、能動的に動かす装置であって、単に受動的に動くにすぎないものは「駆動装置」ではないというべきである。 (3) 第1引用例の「空圧装置」について そこで、第1引用例の「空圧装置」が本件発明の「駆動装置」に相当するものかどうかを検討する。 ア 甲第9号証(米国特許第2984427号明細書)によれば、第1引用例には次の記載がある。 「さらに別の目的は、巻取ロールとプラテンドラムとの間に最小の均一圧力を維持し、それによって、均一密度のまっすぐな端面のロールを製造するために、前述の力を制御するために感度がよく正確なシステムを提供することであり、同システムは、必要に応じて均一に維持することができるより大きな圧力を上記ロールとドラムとの間に提供するよう調節可能である。」(2欄7行〜14行・翻訳文2頁12〜16行)「巻軸装着手段は、上記ドラム軸に常に平行でありながらプラテンドラムに対する上記平面で巻軸の軸の運動を可能にするガイド装置を含む。上記ガイド装置は、各巻軸用に向かい合ったシャフト端に一対の軌道部材を含み、この軌道部材は、まっすぐで水平であり、それぞれ各シャフト端に1つずつある一対の可動巻軸軸受要素を運動可能に支持する。巻軸を、前述のように常に上記ドラム軸に平行に保持するが、上記巻軸がドラム軸に対して、すなわちドラム軸に向かって、またはドラム軸から離れるように動くことができるようにするための適切な傾斜防止手段が設けられる。・・・上記一対の軌道部材は、前述のように水平ではなく、ドラムから下方に傾斜してもよく、・・・上記傾斜は、巻取ロールの重量が増加するときに発生する摩擦を補償するように選択することができる。あるいは、上記一対の軌道部材は、まっすぐであり下に傾斜する代わりに下方に湾曲してもよく、湾曲は、直径が増加するときに巻取ロールの重量が累進的に増加することによって生じる摩擦を補償するように選択することができる。・・・本発明の好適な実施態様において、上記軌道部材は水平である、なぜなら特に種々の軽く伸びやすいウエブ材料に最適合なものである。(水平ではなく)傾斜した軌道部材を利用する本発明の形態は、他の種類のウエブ材料、たとえば比較的高い密度のウエブ材料とともに使用するために有利に利用することができる。」(2欄22行〜65行・翻訳文2頁22行〜3頁17行)「巻軸11用のそのような装着は、巻軸11を水平姿勢に支持するための、且つ巻軸11を、常に水平面にあり上記ドラムに対して平行であるように、プラテンドラム13に向かっておよびこれから離れるように動かすことができるための適切な手段を具備する。これは、一対の平行軌道部材15、16によって達成され、平行軌道部材の一方、すなわち平行軌道部材15は、図3に斜視図で部分的に示され、これは、いずれか適切な手段によって間隔をおいて固定的に保持される一対の平行な溝レール17、18を具備し、これらには、可動軸受要素21の凸縁19、20をそれぞれ受容するための溝17a、18aが設けられ、可動軸受要素21には内腔22が設けられ、その中に上記巻軸11の一方の端が延在し、その中で、適切な減摩軸受によって支持されることが好ましい。」(3欄72行〜4欄12行・翻訳文5頁4〜14行)「上記巻取ロール10eとプラテンドラム13との間に圧力を精密な程度に制御するのを達成するために、シリンダ46、47内にそれぞれピストン44、45を有する一対の空圧装置42、43が設けられている。圧力を加えられた流体が、巻軸11をプラテンドラム13に向けるように押圧するために、上記シリンダ内の右側チャンバ46a、47a内に方向づけられ、そのような流体は、たとえば手動弁50の制御下でダクト49によって上記右側チャンバ46a、47aに導かれる主導管48からの空気である。また、上記シリンダ46、47内のそれぞれの左側チャンバ46b、47bは、手動弁51の制御下で逆流体圧力を受け、手動弁51は、 左側チャンバと主導管48との両方に接続された導管52に挿入されている。ピストン44、45の向い合った側の圧力の差を(弁50、51によって)制御することによって、プラテンドラム13上の巻取ロール10eの前述の圧力に関して、きわめて精密な制御を得ることができる。巻取ロールの重量の増大とともに、巻軸の軸受要素上の摩擦が大幅に累進的に増加する場合には、巻軸11のピストン44、 45に作用する(および巻軸12の類似形式のピストンに作用する)力を累進的に増加することが有利であるが、前述のそのようなピストンは巻き取りロ一ルをプラテンドラムから離すように押圧する傾向があることがわかった。これは、弁50、 51、したがってピストン44、45用の自動制御手段によって自動的に行うことができる。たとえば、旋回シャフト26に動作的に接続されたカム53(図1)は、カムフォロアー55を有する適切な弁制御手段54によって弁50、51にも動作的に接続され、それによって上記の結果が得られる。」(5欄33行〜66行・翻訳文7頁20行〜8頁11行) イ 以上の記載によれば、第1引用例の「空圧装置」は、巻取ロールとプラテンドラムとの間の圧力を均一に維持するための装置であって、巻軸を能動的に移動させたうえ、その位置で巻軸の進退方向への動き(振動)を制止する機能を有するものではないと認められる。第1引用例のものにおいて、巻軸をプラテンドラムに向かって及びこれから離れるように移動させる手段は、平行な、又は下方に傾斜した、あるいは下方に湾曲した一対の軌道部材を含むガイド装置である(第1引用例には、通常の軽く伸びやすいウエブ材料には水平な軌道部材が好適であること、 比較的高い密度のウエブ材料では、巻取ロールの重量が増加するときに発生する摩擦を補償するように、下方に傾斜した、あるいは下方に湾曲した軌道部材を選択することが示されている。)。 (4)以上の検討結果によると、本件発明の駆動装置は、能動的に、脚台、間隔調整台、巻芯支持体を一体に前進又は後退させ、かつ、進退方向への動きを制止するものであるのに対し、第1引用例の「空圧装置」は、巻取ロールとプラテンドラムとの間の圧力を精密に制御するための装置であって、巻軸を能動的に後退させ又は進退方向への動きを制止するものではない。 したがって、審決が、「後者(第1引用例)の「空圧装置」は、ウエブ(ストリップ)の巻太りにつれて前記軸受要素21、23を後退させ、該軸受要素21、23における巻軸11、12の支持位置をプラテンドラム13から離すことが可能であるので、前者(本件発明)の「駆動装置」に対応する」との認定に立って、本件発明と第1引用例に記載された発明とが「シートの巻太りにつれて前記脚台、巻芯支持体を一体に後退させ、該巻芯支持体における巻芯支持位置をタッチローラから離すことが可能である駆動装置とを備えること」で一致する、と認定したことは誤りであるというべきである。 (5)被告は、第1引用例には「巻取ロールの重量の増大とともに、巻軸の軸受要素上の摩擦が大幅に累進的に増加する場合には、巻軸11のピストン44、45に作用する(および巻軸12の類似形式のピストンに作用する)力を累進的に増加することが有利であるが、前述のそのようなピストンは巻き取りロ一ルをプラテンドラムから離すように押圧する傾向があることがわかった。」(甲第9号証5欄51行〜59行・翻訳文8頁3〜7行)と記載されていることから、第1引用例の空圧装置が、巻取ロールの重量の増大、すなわち巻き太りにつれて、巻軸11の支持位置(巻芯支持位置)をプラテンドラム13から離すように巻軸11及び巻取ロールを押圧するものであることは明らかであると主張している。 しかしながら、被告の摘記した箇所の直後には、「これは、弁50、51、したがってピストン44、45用の自動制御手段によって自動的に行うことができる。 たとえば、旋回シャフト26に動作的に接続されたカム53(図1)は、カムフォロアー55を有する適切な弁制御手段54によって弁50、51にも動作的に接続され、それによって上記の結果が得られる。」(甲第9号証5欄59行〜66行(翻訳文8頁7行〜11行)と記載されており、この記載及び一対の軌道部材を含むガイド装置の前示のとおりの機能を参酌すれば、被告の摘記した部分は、巻取ロールの重量の増大は径の増大と等価であるから、巻軸はガイド装置の機能によってプラテンドラムから離れるように移動し、これとともに旋回シャフトが回転するが、この回転に応じてカム及びカムフォロアーを介して弁制御手段により弁を制御し、ピストンに加わる圧力を変化させるものであり、重量の増大とともに、摩擦力が大幅に増加すると、ピストンに加わる圧力は、巻き取りロ一ルをプラテンドラムから離す方向に働くことを示したものであると理解される。空圧装置は、巻取ロールとプラテンドラムとの間の圧力を均一に維持するための装置であり、巻軸を後退させ又は進退方向への動きを制止するものではない。 この点に関する被告の主張は採用することができない。 (6)また、被告は、本件の特許請求の範囲には、駆動装置が、巻芯支持位置を、自らの力でタッチローラから遠ざかる方向へ積極的に動かすものか、あるいは、巻太り力を利用して動かすものかについては全く特定されていないと主張するが、この主張に理由のないことは、既に示したとおりである。 (7)さらに、被告は、本件発明も第1引用例に記載のものも、シートの分割巻取装置という同一の技術分野に属するものであり、両者の装置の間で接触圧力や「巻太り力」の大きさに有意な差はないから、巻芯支持位置を後退させる推力も同じであると主張している。 しかしながら、本件発明においては、接触圧力や「巻太り力」により、受動的に巻芯支持体を移動させることは可能であるとしても、「駆動装置」自体は、前示のとおり、脚台、間隔調整台及び巻芯支持体を一体に前進又は後退させ、進退方向への巻心支持体の動き(振動)を制止し得るようなものでなければならない。ところが、第1引用例に記載された発明においては、「巻軸11を、常に水平面にあり上記ドラムに対して平行であるように、プラテンドラム13に向かって及びこれから離れるように動かすことができるための適切な手段を具備する。これは、一対の平行軌道部材15、16によって達成され、」との記載から、能動的な巻軸移動手段を設けることなく、軌道部材のみを設置し、接触圧力や「巻太り力」を利用した受動的な巻軸移動手段としていることが明らかである。 したがって、第1引用例に本件発明の「駆動装置」に相当するものがあるということはできず、この点に関する被告の主張は採用することができない。 (8)以上によれば、原告主張の取消事由1は理由がある。 2 取消事由3(第1引用例と第2引用例との置換容易性についての判断の誤り)について (1)原告は、第1引用例の「空圧装置」は「圧力調整機構」であるのに対して、第2引用例における「静止ナットと、送り軸7と、送りモータ6とからなる駆動装置」はロール保持体4を移動させるための「移動機構」であり、両者は、その存在意義、すなわち目的において明らかに相違する構成要素であるから、両者を置換し得るとした審決の判断は誤りであると主張する。 (2)前示のとおり、第1引用例の空圧装置は、巻取ロールとプラテンドラムとの間の圧力を精密に制御して均一に維持する機能を有し、巻軸を能動的に動かす機能を有するものではないのに対し、第2引用例における駆動装置は、圧力調整機構としての機能を持たない能動的な移動機構であるから、特段の事情がない限り、両者を置換することは考えられないことである。 すなわち、第1引用例に記載された発明は、巻取ロールとプラテンドラムとの間の圧力を均一に維持することを目的とし、この圧力を精密に制御するべく空圧装置を採用したのであるから、圧力調整機能を失うような置換は、発明本来の目的を放棄することとなる。この点で、第1引用例に記載された発明の空圧装置を第2引用例の駆動装置に置換することには、阻害要因があるというべきである。 (3)被告は、本件発明は、圧力調整機能を奏するための構成を明らかに意図的に排除した巻取装置に関するものであるから、置換容易性の判断に際して、圧力調整機能が失われることは考慮されるべきでないと主張する。 しかしながら、巻取装置において何らかの圧力調整手段を設けることが当業者にとって自明であれば、そのような圧力調整手段は特許請求の範囲には記載されないのがむしろ普通というべきであるから、本件発明の特許請求の範囲に圧力調整手段が記載されていないという一事をもって、本件発明から圧力調整機能を奏するための構成が意図的に排除されていると認めることはできず、他に、本件明細書中に圧力調整手段を意図的に排除していると認めるような記載はない。したがって、置換容易性の判断に際して、圧力調整機能が失われることは考慮されるべきでないとの主張は、採用することができない。 (4)以上のとおりであるから、第1引用例記載の発明の空圧装置を、第2引用例に記載された駆動装置により置換して相違点Aに係る本件発明の構成とすることが容易であるとした審決の判断は、誤りである。よって、原告主張の取消事由3は理由がある。 3 結論 以上のとおり、取消事由1及び取消事由3には理由があり、本件発明と第1引用例記載の発明との対比における認定の誤り、及び、第1引用例の空圧装置と第2引用例の駆動装置との置換容易性についての判断の誤りが、本件発明の想到容易性についての審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、他の取消事由について検討するまでもなく、審決は違法として取り消されるべきものである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 古城春実 |
裁判官 | 田中昌利 |