関連審決 |
審判1995-26534
審判1996-9550 審判1996-15217 |
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関連ワード | 冒認出願(冒認) / 承継 / 発明者 / 考案者 / 自然法則 / 技術的思想 / 創作性(創作) / 共同発明 / 29条の2(拡大された先願の地位) / 出願公開 / 実質的に同一 / 着想 / 登録実用新案 / 禁反言 / 特許発明 / 実施 / 構成要件 / 共同発明者 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 補助参加 / |
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事件 |
平成
11年
(行ケ)
330号
審決取消請求事件
平成 11年 (行ケ) 331号 審決取消請求事件 平成 11年 (行ケ) 332号 審決取消請求事件 |
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甲,乙,丙事件原告 A(以下「原告A」という。) 甲,乙,丙事件原告 B(以下「原告B」という。) 原告ら補助参加人 株式会社大喜産業(以下「大喜 産業」という。) 原告ら及び補助参加人訴訟代理人弁護士 井上治典 同 酒井辰馬 原告ら訴訟代理人弁護士 井上逸子甲,乙,丙事件被告 大喜商事株式会社(以下「被 告」という。) 訴訟代理人弁護士 河原和郎 同 井上周子 訴訟代理人弁理士 三原靖雄 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/03/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が平成7年審判第26534号事件について平成11年8月20日にした審決を取り消す。 2 特許庁が平成8年審判第9550号事件について平成11年8月20日にした審決を取り消す。 3 特許庁が平成8年審判第15217号事件について平成11年8月20日にした審決を取り消す。 4 訴訟費用は,全事件を通じ,被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告ら 主文と同旨 2 被告 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,原告らの負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) 甲事件 原告らは,発明の名称を「建築用内部足場」とする特許第1937145号の特許(昭和62年9月22日出願(以下「本件特許出願」という。),平成7年6月9日設定登録,以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。 被告は,本件特許を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は,これを平成7年審判第26534号事件として審理し,その結果,平成11年8月20日,「特許第1937145号発明の特許を無効とする。」との審決をし,同年9月8日にその謄本を原告らに送達した。 (2) 乙事件 被告は,考案の名称を「蝶番」とする実用新案登録第2097711号の登録実用新案(昭和62年9月4日出願(以下「本件登録出願2」という。),平成8年1月26日設定登録,以下「本件登録実用新案2」といい,本件登録実用新案2に係る考案を「本件考案2」という。その登録を「本件実用新案登録2」という。)の実用新案権者である。 原告らは,本件実用新案登録2を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は,これを平成8年審判第9550号事件として審理し,その結果,平成11年8月20日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年9月8日にその謄本を原告らに送達した。 (3) 丙事件 被告は,考案の名称を「内装用仮設足場」とする実用新案登録第1981339号の登録実用新案(昭和62年9月3日出願(以下「本件登録出願1」という。),平成5年8月27日設定登録,以下「本件登録実用新案1」といい,本件登録実用新案1に係る考案を「本件考案1」という。その登録を「本件実用新案登録1」という。)の実用新案権者である。 原告らは,本件実用新案登録1を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は,これを平成8年審判第15217号事件として審理し,その結果,平成11年8月20日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年9月8日にその謄本を原告らに送達した。 2 本件特許の特許請求の範囲(甲事件)及び本件各登録実用新案の実用新案登録請求の範囲(乙,丙事件) (1) 甲事件 「表面に滑り止めを施した一対のパネルを同一高さでつき合せ状態に配置し,つき合せ端の反対側のパネルの端部の前後それぞれに伸縮自在な脚部を回動自在に取付け,パネルのつき合せ端部の下方の四隅部に設けられた伸縮自在な脚部と,脚部の挿入部と,両パネルを股がるように左右の脚部の挿入部間に横架した横杆と,前後の脚部の挿入部間に架設した連接部材と,横杆と各パネルのつき合せ端部との間を内側のリンクと外側のリンクで連結し,外側のリンクの連結ピン間距離を内側のリンクの連結ピン間距離より長くしてパネルと2個一組のリンクと横杆の間に不等脚台形リンク機構を形成し,パネルのつき合せ端部と反対側のパネル端部に取付けた脚部の下方と連接部材とをロッドで連結し,各脚部の下端それぞれにキャスターを取り付けるとともに,伸縮自在な脚部の長さを調整する高さ調整用ロックを各脚部に設け,各パネルを上記不等脚台形リンク機構により水平状態から垂直状態に回動したとき各パネル間に適宜間隔をあける状態とするとともにパネルのつき合せ端の反対側の端部の脚部をロッドでパネル裏面側に回動して横方向への突出を少なくしたことを特徴とした建築用内部足場」 (2) 乙事件 「全体の形状が,それぞれL字状の二個の部材からなり,その一は,両辺とも略同一に近い長さに形成した短杆とし,他は,短杆よりも長く,一辺は極端に短く形成した長杆とし,これら短杆,長杆の端部にそれぞれ枢支軸を設け,機枠に対して,開き板が垂直に位置する際に,長杆の長い片と短杆の一片とが平行になるように枢支軸を軸着することを特徴とする蝶番。」 (3) 丙事件 「二重管によるストツパーピン付きの伸縮柱を四つ角に配置し,これらの二重管である伸縮柱の外管同志を梁材と桁材とで接合する軸組本体と,軸組本体の梁間の中間付近を境として背中合わせに起立できる二枚の作業床と,キヤンテイーレバーを外管の上部に形設させた二重管によるストツパーピン付き伸縮柱とを設け,展開した作業床の上面にヒンジの一部を突出させず,かつ,二枚の作業床が背中合わせに起立できるように,L字状の平板を二枚一組に組み合わせた特殊ヒンジ二組で,前記軸組本体の梁材と二枚の作業床の一端とをそれぞれ枢支連結し,該二枚の作業床の各々の他端裏面に対して,前記キヤンテイーレバーを外管の上部に形設させた二重管によるストツパーピン付き伸縮柱のキヤンテイーレバーの末端付近を枢着させ,該キヤンテイーレバーを外管の上部に形設させた二重管によるストツパーピン付き伸縮柱の内管の下端付近に梁ブラケツトを突設させ,該梁ブラケツトと前述の軸組本体の桁材とをコンネクテイングロツドで枢支連結し,前述の各々の伸縮柱の下端にキヤスターを設置したことを特徴とする内装用仮設足場」 3 審決の理由 別紙審決書の理由の写し(甲,乙,丙事件とも各審決の理由の記載は同一である。以下,甲,乙,丙事件の各審決をまとめて,単に「審決」ということがある。)のとおりである。要するに,@本件考案1及び2の真正の考案者を原告Bであると認めることはできないから,本件各実用新案登録は,考案について登録を受ける権利を承継しないものの出願に対してなされたものであるとはいえず,昭和62年法律第27号による改正前の実用新案法37条1項4号の規定に該当して実用新案登録を受けることができないものである,とすることはできない,また,本件考案1及び2を共同による考案とすることもできない(乙,丙事件),A本件発明は,その出願の日前の出願であって,その出願後に出願公開された本件考案1に係る実願昭62-135450号の願書に添付した明細書又は図面に記載された考案と実質的に同一であり,かつ,本件発明の発明者が本件考案1,2の考案者と同一であるとも,本件発明の出願の時において,その出願人が本件各実用新案登録出願の出願人と同一であるとも認められないから,本件特許は,特許法29条の2第1項の規定に違反してなされたものである(甲事件),というものである。 |
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原告ら主張の審決取消事由の要点
審決の理由のうち,「第一 手続の経緯,本件特許発明・登録実用新案」(2頁2行〜5頁15行)は認める。第二の「一 平成8年審判第15217号(事件T)」の「1 請求人,A及びBの主張」のうち,5頁16行から6頁7行までは争い,6頁8行から7頁12行までは認める。「2 被請求人,大喜商事株式会社の主張」(7頁13行〜10頁6行)は認める。「二 平成8年審判第9550号(事件U)」の「1 請求人,A及びBの主張」(10頁7行〜12頁16行)は争う。「2 被請求人,大喜商事株式会社の主張」(12頁17行〜14頁6行)は認める。「三 平成7年審判第26534号(事件V)」(14頁7行〜18頁7行)は認める。「第三 当審の判断」(18頁8行〜36頁3行)は争う。 審決は,原告Bが,少なくとも,本件発明及び本件考案1,2に係る内装用仮設足場(以下,併せて「本件足場」ということがある。)の共同考案者,発明者の一人であるにもかかわらず,これを認めなかったものであり,この認定判断の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。 1 審決は,本件考案1,2について「Bによってなされた指示の中には,本件考案1における内装用仮設足場としての構成のすべてについての,換言すれば本件考案1の実用新案登録請求の範囲に記載されたすべての構成要件にわたっての,具体的な指示はなく,特に,「キヤンテイーレバーを外管の上部に形設させた二重管によるストッパーピン付き伸縮柱とを設け,展開した作業床の上面にヒンジの一部を突出させず,かつ,二枚の作業床が背中合わせに起立できるように,L字状の平板を二枚一組に組み合わせた特殊ヒンジ二組で,前記軸組本体の梁材と二枚の作業床の一端とをそれぞれ枢支連結し,該二枚の作業床の各々の他端裏面に対して,前記キヤンテイーレバーを外管の上部に形設させた二重管によるストッパーピン付き伸縮柱のキヤンテイーレバーの末端付近を枢着させ,該キヤンテイーレバーを外管の上部に形設させた二重管によるストッパーピン付き伸縮柱の内管の下端付近に梁ブラケツトを突設させ,該梁ブラケットと前述の軸組本体の桁材とをコンネクテイングロツドで枢支連結し」との技術事項は,示唆するところもない。」(審決書25頁5行〜26頁6行),「Bは,従来の足場がもつ欠点を指摘し,大喜商事によって販売されていた,折り畳み式舞台(「ポータブルステージ」)を参考にしつつ,これら欠点を解決した装置の製作を依頼したものであり,基本的な課題,アイデアを提示したのみに過ぎず,本件考案1及び2に係る,上記におけるような具体的な着想,創作を何ら行ってはいないものとするのが相当である。」(26頁18行〜27頁5行)と判断した。 そもそも本件足場が発明としての価値を有する最大の理由は,内装工事用の足場である点にあり,原告Bは,この点の指示を行っている。原告Bの指示がなければ,内装・建築工事などに全く無縁であった被告が,本件足場を開発できる可能性は全くあり得なかったのであるから,この点を軽視すべきではない。 原告Bは,当時の被告側の担当者である土肥潤一(以下「土肥」という。)に対し,本件足場の機能や具体的な規格に加え,天板を蝶番にしてキャスターにより移動することができるものとの,本件足場の機能的特徴の極めて重要な部分の指示も行っている。 2 共同発明(考案)者とは,2人以上の者が,単なる協力でなく,実質的に協力し,発明(考案)を完成させた場合の,その2人以上の者のことである。発明(考案)は,「技術的思想の創作」であるから,実質的な協力の有無は,専らこの観点から判断すべきである。 ある者が提供した着想が新しい場合には,着想提供者は発明者となり,新しい着想を具体化した者は,その具体化が当業者にとって自明程度のことに属さない場合に限り,共同発明(考案)者となる,とするのが相当である。 本件においては,原告Bは新しい着想を提供した者であるから,発明(考案)者に相当する。この着想を具体化したのは被告であったとしても,被告は,せいぜい,共同発明(考案)者の地位を得るにとどまるものであり,被告が単独で発明(考案)したとすることはできない。 実際には,原告Bの指示は,着想の提供にとどまらず,ある程度具体的な形状・機構的特徴をもその内容に含んでいた。このことは,原告Bが,被告に,本件足場の製作を依頼する前に,他者に,本件足場と同種の形状的・機構的特徴を有する試作品を製作させていたことからも明らかである。 3 被告は,原告Bからの指示を海生工業及びスガハラ機工等に単に伝達したにすぎず,具体的考案は,海生工業及びスガハラ機工と共同で行われたものであって,被告が単独で考案したものではない。 4 以上のとおり,原告Bは,少なくとも共同発明(考案)者の一人には当たると判断されるべきである。 |
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被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であって,審決を取り消すべき理由はない。 1 原告らが本件考案1,2を共同で考案,開発したというためには,単に基本的な課題,アイディアを提示するだけでなく,本件各考案の構成要件についての,明細書記載の所定の作用効果を奏する技術事項を示唆する具体的な指示を出したという場合でなければならない。 原告らは,本件足場について,@軽くて,移動できて,折り畳み自由なものがほしいとの希望を伝え,A具体的には,エレベーターに乗るように高さを1950ミリメートル,幅450ミリメートルとすること,B広げたままで平行移動させることができるようにキャスターを付けること,C作業中に下が見えるようにすること,D950ミリメートルから1150ミリメートルの間で高さの調節ができることを,細かな説明をせずに,略図を示して,大体こんな風にと指示したに過ぎない。被告は,この程度の大まかな説明,要求に基づいて,とりあえず二種類の試作品を製作して,そのうちの一つを原告中山に示したところ,同原告が,イメージどおりのものができあがっていることに満足して,その後は,青色に塗ることと,二種類作られていた天板のうち,網目状の方を選んだこと以外には指示,要求をしないことから,そのまま,実用品の製作に着手したものである。 原告らが指示・要求した上記@ないしDの事項は,いずれも,それ自体,何ら機構,機能等の技術的な事項を含まない,単なる,規格,仕様,性能についての発注者としての要望,指示,要求にすぎない。しかも,これらの事項は,いずれも,当時の被告製品である「ポータブルステージ」の規格,性能を大幅に変更するようなものではなかった。 このような,原告らの指示・要求の内容,性格,指示・要求の仕方,及びこれらに基づいた被告の試作品製作の経緯等から,原告らの要望,指示・要求は,本件考案1,2の構成要件や所定の技術事項については何ら影響を与えていないということができる。 2 原告らが提供した着想がいかに新しいものであっても,発明・考案の構成要件部分や所定の技術事項について,何らの提供がなされていない場合には,「着想を具体化した者」ということはできない。 原告らの行為は,単にポータブルステージを作業用足場に転用するという着想,転用できることや,転用するための情報を被告に提供したというにすぎない。 被告は,原告らの申入れを契機として,その基本的な構造をそのまま流用してセーフティベースを製作したものであるから,この点が原告らの着想,創作に基づくものということはできない。 3 以上のとおりであるから,原告らを,本件考案1,2の共同考案者であるとすることはできない。 4 原告らは,本件考案1,2と同じ内容である本件発明について,被告との共同発明とせず,原告Bを発明者として,本件特許登録を受けている。 本件考案1,2が共同考案であるとの原告らの主張は,自らの発明にかかるものとして特許出願した行為の不当性まで自白するものであって,禁反言の法理に違反する,不当なものである。 |
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当裁判所の判断
1 事実関係について 証拠(甲第3ないし第6号証,第8,第9号証,第10号証の1,2,第13号証,第14号証の1ないし4,第15ないし第20号証,乙第1号証の1ないし6,第4号証の1ないし4,第5号証の1,2,第6号証の1ないし5,第7号証,第8号証の1ないし3,第9ないし15号証)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,甲第10号証の1,2,乙第1号証の5,第9ないし第11号証中,これに反する部分は,採用することができない。 (1) 原告中山は,昭和39年から平成2年まで,建設用資材の販売等や内装工事を業とする大興物産株式会社(以下「大興物産」という。)の従業員であった者であり,大興物産を退社した後,大喜産業(本件訴訟の原告補助参加人)を設立してその代表取締役に就任し,現在に至っている。 原告Bは,昭和60年から大興物産の従業員として勤務している者である。 原告中山が大興物産に勤務していた当時,同原告と原告Bとは,上司と部下の関係にあった。 (2) 原告Bは,昭和59年ころ,建物の内装工事現場で足場を組む仕事に従事した。当時,建物の内装工事において一般に行われていた足場組みに関する作業は,足場の材料である足場用の板と脚立を建物内に搬入し,これらをゴムバンドで組んで足場を作り,内装作業場所が変わるたびに足場の解体,組立てを繰り返し,内装作業終了後,足場を解体して材料の板と脚立を建物外に搬出するというものであった。原告Bは,このような足場組みの方法は,時間がかかりすぎ,作業の負担も大きいことなどから,このような作業の在り方を改善する必要があると考え,建物のエレベーターに搬入して作業現場まで持ち上げることができる移動式の内装工事現場用の足場を開発しようと思い立った。 原告Bは,具体的には,折り畳むことができ,キャスター(方向自在小車輪)を用いることにより,折り畳んだ状態でも広げた状態でも移動できるようにした内装工事現場用足場を想定し,いくつかの業者に依頼して,試作品の製作を試みたものの,出来上がった試作品の重量が重すぎるなど,実用性のある製品は,なかなか製作できなかった。 原告Bは,昭和62年の春ころ,長崎県のホテルの宴会場にあったテーブル様のものを見て,この製品を製作する技術のあるところならば,かねてから構想していた移動式の足場を製作することができるかもしれないと考え,原告中山と相談した上で,上記ホテルに同製品を納入していたオリバー社に問い合わせたところ,同製品が被告の製作した「ポータブルステージ」という名称の製品(以下,この製品一般を「ポータブルステージ」という。)であることが判明したため,同社を通じて被告と連絡をとった。 (3) 被告は,もと額縁製造販売の仕事をしていた本谷憲朗(以下「本谷」という。)が,ホテルの宴会場の備品等の製造販売等をすることを目的として,昭和55年に設立した会社である。ポータブルステージは,ホテルの宴会場等において使用される折り畳み式のステージ台であり,被告の主力商品の一つであった。 ポータブルステージは,四隅に脚を取り付けた天板2枚を組み合わせることによって1枚の脚付きの床として構成する構造の台であり,2枚の天板は,合わせ目部分を境として,背中合わせに垂直に立てて折り畳むことができるものであった。2枚の天板の合わせ目部分の脚部には移動用のキャスターが付けられていた。 台の高さについては,高さを調節できないものと,脚部で2段階に高さを調節できるものとがあった。天板を折り畳むための蝶番は,2枚の天板を両側から同時に持ち上げて立てなければ畳めない仕組みのものであり,片側ずつ立てて折り畳むことのできる仕組みのものではなかった。 (4) 原告Bは,当時被告の従業員であった土肥に対し,被告のポータブルステージを参考にして,これに似た建設現場の足場を製作したいと述べ,被告において試作品を製作するよう依頼した。この際,原告Bは,建設用足場として,軽く,移動可能で,折り畳み自由なものがほしいとの希望を伝え,具体的には,エレベーターに乗せることができるように折り畳んだときの高さを1950ミリメートル,幅450ミリメートルから600ミリメートルの間とすること,広げたままで平行移動することができるようにキャスターを付けること,作業中に足場の下が見えるようにすること,広げたときに950ミリメートルから1150ミリメートルの間で高さの調節ができることを,略図を用いて説明し,要望した。被告は,同原告の上記要望に対し,試作品を製作することを承諾した。 (5) 被告は,建築用備品に関する知識に乏しかったため,上記試作品を製作するに当たっては,工事の実際と試作品のイメージをつかむため,本谷が,実際に工事現場に行って,従来の足場を用いた工事の状況を見るなどした。 被告は,まず,成和プレスに試作品の製作を依頼した。しかし,成和プレスが製作した試作品は,重量が重く,構造も不安定であったため,その製品化を断念し,原告Bらにこの試作品を提案しないまま,新たな試作品の製作をすることを決めた。 被告は,ポータブルステージの製作を依頼していた有限会社スガハラ機工(以下「スガハラ機工」という。)に,ポータブルステージを基にこれを改良して,上記足場の試作品を製作するように依頼した。スガハラ機工は,被告から製作の注文を受けたポータブルステージを海生工業株式会社(以下「海生工業」という。)に製作させていたことから,被告代表者である本谷,スガハラ機工の代表者である菅原實(以下「菅原」という。)及び海生工業の代表者である松本朝信(以下「松本」という。)らが,試作品の製作について,打合せをし,検討を重ねた。 菅原と土肥は,試作品に用いる蝶番について,奈良県にあるホテルにあった他社製品のステージに用いられていた蝶番の形を写してきて,この蝶番の形を元に改良を加えて試作品の蝶番を製作した。 海生工業の松本は,試作品の製作の過程で,本谷の意向を受けて,試作品についての図面のほとんどを作図した。 本谷は,原告Bに対し,昭和62年7月28日付けで,「先日は御多忙中,接見戴き誠にありがとうございました。さて製作中の足場でございますが,とりあえず一回目の提案をさして戴きます。着案された御社様を中心に考えてのものでございます。ご見当をお願い致します。製品の進度ですが,二種類の型で考案,目下製作中ですが,簡単な方の一台は今月中に完成しますが,一方の高機能の製品の方が,八月十日頃に完成致します。」と記載した書簡(甲第3号証)を送付した。 (6) 被告は,昭和62年8月ころ,蝶板とキャスターのついた卓球台様の試作品を完成した。この試作品は,ほぼ,原告Bの要望どおりのものであり,その構成は,基本的にはポータブルステージの構成をそのまま流用したものであって,ただ,大きなパイプを用いないことにしたり,全体の機構を単純にしたりして軽量化を図っていること,天板を片方ずつ立てて折りたたむことのできる構造の蝶番を採用していること,高さの調節が細かくできるようにしていること,キャスターが全部の脚部に付けられていることなどの点で,ポータブルステージとは異なっていた。試作品の2枚の天板のうち,一方はアルミ板に穴を空けたもの,他方は金属製の網という構造になっており,原告らにおいて,いずれを製品として採用するかについて選択することとされていた。原告Bは,原告中山と相談した上,アルミ板に穴を空けた天板は滑りやすいことから,柔軟性のある金属製の網の天板の方を製品に採用することを決定した。原告中山は,被告に対し,製品の色を青色にし,天板の端の部分を黄色に塗ることを提案した。 その後,上記試作品は製品化され,「セーフティーベース」という商品名で大興物産を通じて販売された。本谷が昭和63年ころ大興物産に提出した「セーフティベース」に関する提案書(甲第13号証)中には,「1.この製品は,大喜商事(株)のポータブルステージの機構を応用し,内装工事足場として開発し,工事準備のスピード化と安全足場を目的に製品化したものである。」,「2.この安全足場は,大興物産(株)の着案であり,製作考案は大喜商事(株)が担当し,開発したものである。」との記載がある。 原告中山は,平成2年ころ大興物産を退社し,大喜産業を設立してその代表取締役に就任した。本谷は,大喜産業の取締役に就任した。大喜産業は,被告が製造した「セーフティーベース」と同一の商品を,「シフト・ステージ」という商品名で販売した(以下,これらの商品を併せて「本件商品」という。)。 その後,被告が自ら本件商品を販売するようになったため,被告と大喜産業らとの間で本件商品の販売をめぐる紛争が発生し,今日に至っている。 (7) 被告は,昭和62年9月3日に,本件考案1につき,発明者を本谷として本件登録出願1を,同月4日に,本件考案2につき,発明者を本谷として本件登録出願2をした。 原告らは,同年9月22日に,本件発明につき,発明者を原告Bとして,本件特許出願をした。 本件考案1及び本件発明は,いずれも本件商品を元に構成され,特許出願ないし実用新案登録出願されたものであり,本件考案2は,本件商品のうちの蝶番の部分だけについて,実用新案登録が出願されたものである。 本件商品は,本件登録実用新案1,2及び本件特許の構成要件をいずれも充足している。 2 原告Bが共同考案者ないし共同発明者であるとの主張について (1) 審決は,本件発明及び本件考案1,2の発明者・考案者について,次のよに認定判断した。 「Bによってなされた指示の中には,本件考案1における内装用仮設足場としての構成のすべてについての,換言すれば本件考案1の実用新案登録請求の範囲に記載されたすべての構成要件にわたっての,具体的な指示はなく,特に,「キヤンテイーレバーを外管の上部に形設された二重管によるストッパーピン付き伸縮柱とを設け,展開した作業床の上面にヒンジの一部を突出させず,かつ,二枚の作業床が背中合わせに起立できるように,L字状の平板を二枚一組に組み合わせた特殊ヒンジ二組で,前記軸組本体の梁材と二枚の作業床の一端とをそれぞれ枢支連結し,該二枚の作業床の各々の他端裏面に対して,前記キヤンテイーレバーを外管の上部に形設させた二重管によるストッパーピン付き伸縮柱のキヤンテイーレバーの末端付近を枢着させ,該キヤンテイーレバーを外管の上部に形設させた二重管によるストッパーピン付き伸縮柱の内管の下端付近に梁ブラケットを突設させ,該梁ブラケットと前述の軸組本体の桁材とをコンネクテイングロツドで枢支連結し」との技術事項は,示唆するところもない。 そして,本件考案1はその構成を有することにより,明細書記載の所定の作用効果を奏するものである。 又,本件考案2とBによる指示の内容とを対比すると,同様に,Bの指示の中に,本件考案2における蝶番に関する,その実用新案登録請求の範囲に記載された構成についての具体的な指示は何らされてなく,示唆するところもない。そして,本件考案2はその構成を有することにより,明細書記載の所定の作用効果を奏するものである。 以上によると,Bは,従来の足場がもつ欠点を指摘し,大喜商事によって販売されていた,折り畳み式舞台(「ポータブルステージ」)を参考にしつつ,これら欠点を解決した装置の製作を依頼したものであり,基本的な課題,アイデアを提示したのみに過ぎず,本件考案1及び2に係る,上記におけるような具体的な着想,創作を何ら行ってはいないものとするのが相当である。 これに対し,大喜商事の本谷は,Bにより提示された課題,要求を受けて,これを実現すべく,本件考案1及び2の要旨に係る,上記におけるような具体的な構造,装置を創作,開発したものであるとするのが相当である。 さらに,Bは,大喜商事の本谷による創作の過程において,意見を求められたり,又述べることがあったことが窺えるものの,それは創作に実質的な影響を与えることのない単なる助言にとどまるとするのが相当であり,共同による考案とすることもできない。」(審決書25頁4行〜27頁16行),「本件発明の発明者が上記他の実用新案登録出願に係る考案(判決注・本件考案1)の考案者と同一であるとも,本件発明の出願の時において,その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められない。・・・被請求人は,「審判請求人が引用する出願1(実願昭62-135450号)の実用新案(判決注・本件登録実用新案1)及び出願2(実願昭62-136056号)の実用新案(判決注・本件登録実用新案2)は,考案者でない者がその考案について登録を受ける権利を承継しないものの出願に対して登録・公告がなされたものであり,よって,引用の実用新案登録は無効とされるべきものである。又,冒認による出願であるので先願権は存在しないものであり,引用の先願先登録の真の考案者は本審判被請求人であり,特許法29条の2の適用はないものである。」と主張しているが,真の考案者については,さきに検討したとおり,本谷憲朗であり,B純一郎は単なる補助者にすぎないことが認められる。 したがって,上記先願考案に係る考案者は,本件発明の発明者とは相違し,特許法29条の2の規定の適用が可能となるものである。」(審決書34頁13行〜18行) (2) 原告らは,原告Bは,本件発明及び本件考案1,2の共同発明者ないし共同考案者の一人とみるべきである,と主張する。 発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいい(特許法2条1項),考案とは,自然法則を利用した技術的思想の創作をいう(実用新案法2条1項)。発明者・考案者とは,これら技術的思想の創作に実質的に関与した自然人をいう,と解すべきである。 ある者を,ある技術的思想の創作に実質的に関与したものとして発明者・考案者と評価することができるかどうかは,必ずしも容易に決定できることではなく,その決定には多大の困難を伴うことも少なくない。結局のところ,具体的事案において,その技術的思想の内容や,その者がその技術的思想の創作過程において果たした役割の内容,程度などを総合的に勘案して決する以外にないというべきである。 ア 本件発明及び本件考案1について 本件発明及び本件考案1は,いずれも,従来,建築物の内装工事のうち天井等の高所作業を行う場合に用いる仮設足場について,脚立,足場板,ゴムバンドなどを用いて設営していたことによる問題点(運搬,設置上の不便や作業中の安全管理上の問題点など)を解決することを目的としてなされたものである(甲第4,第5号証)。 1で認定したところによれば,原告Bは,上記課題を認識し,この課題を解決するため,被告の商品であるポータブルステージを建設現場の足場に転用することを思い付き,被告に対し,試作品の製作を依頼し,被告の代表者である本谷らは,ポータブルステージを製作した技術を基礎として,本件商品(これは,本件発明及び本件考案1,2の実施例に相当する。)を製作したものということができる。 本件商品とポータブルステージとは,少なくとも,四隅に脚を取り付けた2枚の天板を組み合わせることによって1枚の脚付きの床とするものであり,2枚の天板を,合わせ目部分を境として,背中合わせに垂直に立てて折り畳むことができ,折り畳んだ状態でキャスターにより移動することができる,という基本的な態様において一致する。 被告は,主としてホテルの備品を製造,販売する会社であり,建築物の内装工事の実情には疎く,原告Bの指摘があるまで,ポータブルステージを建築現場に転用するという発想を持ったことはなく,ポータブルステージを転用した仮設足場の試作品を製造するようにとの依頼を受けて,初めて,工事現場を視察するなどして内装工事の実情を把握し,試作品の製造にとりかかったものであることは前記のとおりである。原告Bが着想するより前に,ポータブルステージのような基本的な態様を有する建築用足場を製造する発想が公知ないしは自明であったことを認めるに足りる証拠はない。 上に述べたところによれば,本件発明及び本件考案1においては,ポータブルステージの上記の基本的な態様を建築工事現場に転用するという着想を持つこと自体が,発明ないし考案の実現において,大きな地位を占めるものであることが明らかである。原告Bは,このような重要な地位を占める着想をした者として,着想のみであっても,本件発明及び本件考案1の,少なくとも共同発明者の一人には当たると評価すべきである。 しかも,原告Bは,上記着想を提供するにとどまらず,前記1(4)で認定したとおり,ポータブルステージを建設現場の足場とするための製品の仕様について,本件発明及び本件考案1の構成要件の細部にまで及んではいないものの,軽量化等の具体的な要望を被告に告げている。このように,ポータブルステージの基本的な態様を建築足場に使用するとの着想及びそのための製品の仕様についての大まかであるが一定の方向性が与えられれば,既にポータブルステージが存在する状態の下でこれを具体化することに,さほど困難があったとは考えにくく,現実に著しい困難があったことを認めるに足りる証拠もない。 被告は,原告らは,基本的な課題,アイデアを提示し,製品の規格,仕様,性能についての発注者としての要望,指示,要求をしたにすぎない,と主張する。 しかしながら,被告のこの主張は,原告Bが試作品の製作を依頼したのは,ポータブルステージの存在を前提にしてのことである,という事実を忘れたものというべきである。 確かに,前提にするものが何もない状態で,すなわち,ポータブルステージ(あるいはこれに代わる何か)のない状態で,なされたものであったのであれば,原告Bによってなされた依頼に対して被告の主張するような評価を下すことも,十分可能であろう。しかし,現実には,同原告が依頼したときには,既にポータブルステージは商品として売り出され使用されていたのであり,同原告は,これを見て,これを仮設足場に転用することに着想し,この着想に基づき,これを現実化すべく,試作品の製作を依頼したのである。そして,この依頼を受けて被告が製作した試作品がポータブルステージの基本的な構造をそのまま流用したものにすぎなかったこと,同原告が発注者としてなした要望,指示,要求は,いずれも,ポータブルステージの規格,性能を大幅に変更するようなものでなかったことは,むしろ,被告自身の強調するところである。そうだとすると,本件商品を発明するに当たり,原告Bの上記着想が果たした役割を,被告のように低く評価することができないことは明らかというべきである。被告の主張は,本件商品の発明者の認定に当たっては,ポータブルステージを既存のものとしてその存在を出発点に考えなければならないのに,そうしないで,ポータブルステージそのものの発明者であることをもって本件商品の発明者としようとするものであり,前提において誤っているという以外にない。 イ 本件考案2について 本件考案2は,本件商品の一部であるヒンジの部分の構成を取り出して権利化したものである(甲第6号証)。同考案は,原告Bの着想に基づいてなされた本件商品の創作の過程において被告において案出されたもので,本件発明及び本件考案1の実施のため不可欠な考案である。 前記のとおり,原告Bは,少なくとも本件商品の共同発明者ないし共同考案者であると認められる以上,その一部を構成し,その実施に不可欠な本件考案2の考案者がだれであるかの決定も,このことを前提とする検討により行われるべきものというべきである。 ウ 禁反言の主張について 被告は,原告らが,本件考案1,2と同じ内容である本件発明について,被告との共同発明とせず,原告Bを発明者として,本件特許登録を受けていること(乙第1号証の6参照)を指摘し,原告らが本件考案1,2を共同考案であると主張することは,自らの発明にかかるものとして特許出願した行為の不当性まで自白するものであって,禁反言の法理に違反する,不当なものである,と主張する。 しかしながら,原告らの本件の無効審判手続における主張は,原告Bが単独の発明者である,仮に,単独の発明者であるとは認められないとしても,少なくとも共同発明者には該当する,というものであることは,弁論の全趣旨から明らかである。このような主張が禁反言の法理に違反するということはできない。 (3) 以上のとおり,原告Bは,少なくとも本件商品の共同発明者ないし共同考案者の一人であり,本件各無効審判事件における結論は,これを前提に導かれなければならないのに,審決は,これを認定しないままに論を進めたものであり,審決のこの誤りが,いずれの審判事件についても,その結論に影響を及ぼすことは明らかである。 |
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結論
以上のとおりであるから,前記各無効審判事件についてなされた審決は,その余の原告らの主張の当否のいかんにかかわらず,いずれも違法なものとして,取消しを免れない。 よって,上記各審決をいずれも取り消すこととし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 阿部正幸 |