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関連審決 無効2000-35670
関連ワード 反復(反復可能性) /  技術的思想 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  数値限定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 575号 審決取消請求事件
原告 近畿車輛株式会社
訴訟代理人弁護士 三山峻司
同 弁理士 福島三雄
同 野中誠一
同 小山方宜
被告 日本フネン株式会社
訴訟代理人弁護士 田倉整
同 内藤義三
同 弁理士 田村公總
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2000-35670号事件について平成13年11月9日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,下記ア記載の特許(以下,その請求項1に係る発明を「本件発明」と,本件発明に係る特許を「本件特許」という。)の特許権者,被告は,本件特許の無効審判請求人であり,その経緯は下記イのとおりである。
ア 登録第1861289号 発明の名称 「採光窓付き鋼製ドアの製造方法」 特許出願 昭和63年7月20日 設定登録 平成6年8月8日 イ 平成12年12月12日 無効審判請求(無効2000-35670号) 平成13年11月 9日 本件特許を無効とする旨の審決 同 年11月22日 原告への審決謄本送達 2 本件発明の要旨 採光窓部の絞り線のコーナー半径が絞り加工によってほぼ20o以下に形成される両面フラッシュドアにおいて, 前面と背面パネルの少なくともいずれか一方の採光窓部の絞り線より内側にパネル板厚のほぼ8倍以上のフランジ代を残した開口を設け, 該開口の各コーナー部に前記絞り線の各コーナーの曲線部分中央からの最短距離がパネル板厚のほぼ8倍以下となる隅フランジ代を,先端に丸味を備えた切れ目または切り欠きによって形成し, 上記構成の両パネルを絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ, フランジ代が折り曲げられた両パネルをドア枠体と採光窓枠とに接着剤その他の手段を用いて固着し, 両パネルと一体化された採光窓枠に採光用窓ガラスを挿入して保持させたことを特徴とする採光窓付き鋼製ドアの製造方法
3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件発明は,特公昭53-11791号公報(審判甲1,本訴甲3,以下「引用例1」という。)及び実開昭63-62219号のマイクロフィルム(審判甲6,本訴甲4,以下「引用例2」という。)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであり,同法123条1項1号に該当し,無効とすべきものとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本件発明と引用例1記載の発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),また,本件発明と引用例1記載の発明との相違点1,2についての判断及び同3についての判断をそれぞれ誤った(取消事由2,3)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明と引用例1記載の発明との一致点の認定の誤り) (1) 審決は,引用例1記載の発明の「窓2の輪郭線」及び「プレス加工」が,それぞれ本件発明の「採光窓部の絞り線」及び「絞り加工」に相当するとし(審決謄本6頁「5.対比」欄),また,引用例1記載の発明は,開口部のコーナー部にも隅フランジ代を形成する(同7頁第2段落)との認定に基づいて,本件発明と引用例1記載の発明との一致点として,「採光窓部の絞り線のコーナー半径が絞り加工によって所定の寸法に形成される両面フラッシュドアにおいて,前面と背面パネルの少なくともいずれか一方の採光窓部の絞り線より内側に所定の寸法のフランジ代を残した開口を設け,該開口の各コーナー部に前記絞り線の各コーナーの曲線部分中央からの最短距離が所定の寸法の隅フランジ代を形成し,上記構成の両パネルを絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ,フランジ代が折り曲げられた両パネルをドア枠体と採光窓枠とに接着剤その他の手段を用いて固着し,両パネルと一体化された採光窓枠に採光用窓ガラスを挿入して保持させた採光窓付き鋼製ドアの製造方法」を認定する(同7頁[一致点]の項)が,以下のとおり,誤りである。
(2) すなわち,本件発明は,アルミ製などを対象としない鋼製ドアであることを必須の要件とし,乙種防火戸以上の防火扉として採用され得るドアを製作することができる製造方法の提供を技術的課題としている。実際,本件発明による扉は,火災発生を想定した防火性能試験において,一定の温度の火炎を扉に直接吹き付けて60分試験体の加熱温度が耐火標準加熱温度となることを要求される甲種防火扉にも合格している。これに対し,引用例1記載のドアはスチール材とアルミ材とを等価値で選択的に使用するものであり,さらに,金属製の挟持用リブで直接ガラスを挟持するという,火災時にガラス割れを発生するおそれの高い構成となっていることからも明らかなように,防火扉として使用されるドアを提供することを技術的課題としているものではなく,したがって,防火戸として使用し得る鋼製ドアの製造方法について記載されているものではない。
このように,本件発明と引用例1記載の発明とは,解決しようとする技術的課題において全く異なっているにもかかわらず,審決は,単純に一致点の認定を行い,さらに,建築基準法施行令の防火戸構造の解釈適用を明らかに誤って,引用例1記載の発明のドアも防火戸構造を有するものであるとの誤った認定に基づく対比検討を行ったものである。
(3) また,「絞り加工」の構成に関し,本件発明においては,コーナー半径がほぼ20o以下のコーナーを,「開口6が打ち抜かれた前面パネル1を絞り加工によって長方形の絞り線4に沿って内側に絞り,絞り線4の内側の上下,左右各一対のフランジ代5,5を前面パネル1と直角をなす方向に折り曲げる」(本件明細書〔甲2〕5欄11行目以下)と説明し,「上記構成の背面パネル2に絞り加工を施し,長方形の絞り線8に沿って各フランジ代10を内側に直角に折り曲げる」(同6欄2行目以下)と説明しているとおり,「絞り加工」とは,コーナーを,直角をなす方向に折り曲げる加工を意味している。これに対し,引用例1(甲3)には,「窓2の輪郭線の部分から挟持用リブ3をフラッシュ板に対し直角に屈曲させる」とは記載されているが,「略L字型の金型12上に開口部7のコーナー部8を載置し,これをプレス加工することによって窓2のコーナー部8を円弧状に成型」するものであり(3欄16行目以下),しかも屈曲部の断面を第2図によって見ると大きな半径の円弧に形成されているものである。したがって,引用例1に本件発明の「絞り加工」の構成が記載されているとはいえない。
(4) さらに,「隅フランジ代」の構成に関し,引用例1記載の発明の開口部には,直線部分と同一幅の挟持用リブが存在するが,これがコーナー部にあるからといって,直ちに「隅フランジ代」があるとはいえない。このような同一幅の挟持用リブが,本件発明の意図する歪みと板割れを防止する「隅フランジ代」であるとはいえない。
2 取消事由2(相違点1,2についての判断の誤り) (1) 審決は,本件発明と引用例1記載の発明との相違点1,2として,本件発明では,絞り線のコーナー半径の所定の寸法を「ほぼ20o以下」,フランジ代の所定の寸法を「パネル板厚のほぼ8倍以上」とするのに対し,引用例1には,これらの特定の寸法が記載されていない点(審決謄本7頁[相違点]の欄(1),(2)項)を認定した上,当該相違点について,いずれの数値にも臨界的意義は認められず,当業者が適宜選択する事項であると判断する(同8頁6(1),(2)項)が,以下のとおり,誤りである。
(2) 審決の上記判断は,本件発明の規定する数値の臨界的意義にのみ特許性の根拠があるとの前提に立つものであるが,特許請求の範囲の記載において,ある構成要素を数値限定によって規定することは,必ずしも臨界的意義を有する場合にのみなされるわけではなく,従来技術では行われていなかった範囲を表すために用いられることもしばしばあり,このような場合,数値限定に特に臨界的意義を明記する必要はない。
本件発明の特許性は,特許請求の範囲に記載のとおり,「鋼製ドア」の採光窓部の「コーナー半径をほぼ20o以下」とし,「フランジ代をパネル板厚のほぼ8倍以上」とし,さらに「絞り線の各コーナーの曲線部分中央からの最短距離がパネル板厚のほぼ8倍以下となる隅フランジ代」を「絞り加工により」形成し,その隅フランジ代を「先端に丸みを備えた切れ目又は切り欠き」によって形成するという各構成要素の有機的な組合せの中にあるものである。
そして,本件発明が,採光窓のコーナー半径をほぼ20o以下とした技術的意義は,次のようなものである。すなわち,採光窓においては,できるだけ長方形の窓に仕上げることが要請されていたところ,この要請に応ずるためには,採光窓のコーナー半径を小さくすることが必要である一方,従来,同半径がほぼ20o以下のものにおいては,絞り加工によってはドアとしての条件を満たした製品を提供できないとされていた。これを解決したのが本件発明であり,鋼製ドアでは従来行われていなかった,コーナー半径がぼぼ20o以下と極めて小さい半径としつつ,直線部のフランジ代とコーナー部の隅フランジ代とが連続して形成されており,しかも乙種防火扉の性能以上の性能を有する扉の製造に成功したものである。
採光窓のコーナー半径がほぼ20o以下であるとする数値自体をもって臨界的意義がないとした審決の判断の誤りは明らかである。
(3) また,審決の上記判断は,採光窓のコーナー半径をほぼ20o以下にすることの困難性を何ら検討していないが,コーナー半径を小さくするほど絞り加工が困難となるのは技術常識である。そして,隅フランジを十分に形成しつつコーナー半径をほぼ20o以下にする絞り加工を行うことが周知技術であったことを示す証拠はなく,引用例1(甲3)も,窓部のコーナー半径を小さくした場合の絞り加工の困難性を全く考慮していない。本件発明は,その困難性を前提に,隅フランジを十分に形成しつつコーナー半径をほぼ20o以下にするフラッシュドアを絞り加工により製造することを可能にするとともに,防火性能を有し,仕上がりが良好で,量産化を可能とする鋼製ドアを初めて提供したものである。審決は,このような作用効果の予測性についても触れていない。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り) (1) 審決は,本件発明と引用例1記載の発明との相違点3として,引用例1には,本件発明の規定する隅フランジ代の寸法(「パネル板厚のほぼ8倍以下」)及び形成態様(「先端に丸味を備えた切れ目または切り欠きによって」形成)が記載されていない点を認定(審決謄本7頁[相違点](3)項)した上,当該相違点中の隅フランジ代の形成態様に係る構成につき,引用例2(甲4)には,「プレス加工により板部材に屈曲部を有するフランジを成形加工する際に,歪みの発生を回避するために,板部材の開口の各コーナー部に隅フランジ代を,先端に丸味を備えた切り欠きによって形成すること」が記載されているとの認定(同5頁下から2番目の段落)を前提に,同記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものと判断し(同9頁第1段落),また,隅フランジ代の寸法に係る構成につき,当業者が実験を反復することにより最適化し得る設計的事項であると判断する(同頁第2段落)が,以下のとおり,誤りである。
(2) 引用例2(甲4)記載の発明は,表面の美観が極めて重要視される自動車のサイドボディーパネルにフランジを形成する方法に関するものであり,プレスにより直線部のフランジを折り曲げた場合に,開口部の屈曲部(コーナー部)外方に歪みが生じて美観が損なわれるのを防止することを主眼とするものであって,屈曲部にフランジを形成することを意図するものではない。このことは,引用例2の「考案が解決しようとする問題点」の項の説明から明らかであり,むしろ,本件発明が積極的に隅フランジ代を形成するのとは逆に,四隅の屈曲部をできるだけ残さないように切り欠くものであって,技術的思想を異にする。しかも,第2図の図示する切り欠きは,コーナーの円弧に沿うコーナー全長にわたって大きく円弧状に切り欠かれたものであり,また,第4図の図示するフランジの寸法は,直線辺部でさえ板厚の約2倍しかないのであり,このようなコーナー部をパンチによって加工した場合,コーナー部は丸味のある屈曲部が形成されるにとどまり,隅フランジ代が形成される余地はない。このような引用例2記載の発明を引用例1記載の発明と組み合わせたとしても,上記相違点に係る構成を想到し得るものではない。
(3) 次に,上記相違点に係る構成中,隅フランジ代の寸法を「パネル板厚のほぼ8倍以下」とする点について設計的事項であるとした審決の判断は,相違点2に係る上記1の誤った判断を前提とするものであって,誤りに帰する。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(本件発明と引用例1記載の発明との一致点の認定の誤り)について 原告は,本件発明が「防火戸」として使用し得る鋼製ドアの製造方法にあるとし,また,本件発明の「絞り加工」がフランジを直角に曲げることであると主張するが,いずれも特許請求の記載に基づかない主張であり,失当である。また,引用例1(甲3)には,屈曲部を有するフランジを成形加工することが記載されており,「隅フランジ代」の記載がないとの原告の主張も理由がない。
2 取消事由2(相違点1,2についての判断の誤り)について 原告は,相違点1,2に係る数値限定に臨界的意義がないとした審決の判断を誤りであると主張する以上,その臨界的意義が示されるべきであるのに,この点について何らの主張もしていない。「ほぼ20o以下」のような上限さえあいまいで,下限も定めていないような数値限定や「パネル板厚のほぼ8倍以上」というような数値限定が,およそ臨界的意義を有するとはいえない。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について 原告は,引用例2記載の発明は屈曲部にフランジを形成することを意図するものではない旨主張するが,引用例2記載の発明がフランジを形成する技術であることは,その記載によって明らかであり,また,相違点3の隅フランジ代の寸法に係る「パネル板厚のほぼ8倍以下」との数値限定も,およそ臨界的意義を有しないことは,上記と同様であるから,原告の主張は理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明と引用例1記載の発明との一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,本件発明は,アルミ製などを対象としない鋼製ドアであることを必須の要件とすること,乙種防火戸以上の防火扉として採用され得るドアを製作することができる製造方法の提供を技術的課題としていることを根拠として,引用例1記載の発明との相違を主張する。
しかし,刊行物1(甲3)の発明の詳細な説明の冒頭には,「本発明はスチール材或いはアルミ材等を打抜いて形成する窓付きフラッシュドアの製造法に関するもの」と記載されているから,スチール材による鋼製ドアの製造法が開示されていることは明らかであり,その限度で,本件発明との相違はないというべきであり,アルミ製のドアへの適用が可能かどうかの違いは,この認定を何ら左右しない。
また,本件発明は,本件明細書(甲2)の特許請求の範囲の記載から明らかなように,乙種防火戸以上の防火扉とすることを構成要件とするものでないから,この点に係る原告の主張は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載によらずに本件発明の要旨を認定すべき旨の主張にほかならない。そうすると,防火扉への適用に関する発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情もない本件においては,上記主張はそれ自体失当である。
(2) 本件発明の「絞り加工」の構成に関し,原告は,当該「絞り加工」とは,コーナーを直角をなす方向に折り曲げる加工を意味するのに対し,刊行物1記載の発明のコーナーは円弧状に成型されており,両者は異なる旨主張する。しかし,「絞り加工」との文言自体が,一般に「コーナーを直角をなす方向に折り曲げる加工」を意味するものと解すべき証拠はなく,本件明細書(甲2)の特許請求の範囲の記載においても,フランジ部分の折り曲げ角度について特段の限定を加えていないことは,その文言上明らかであるから,上記主張は,専ら本件明細書の発明の詳細な説明の記載(5欄11行目以下,6欄2行目以下)を根拠として,特許請求の範囲の記載に基づかない限定を加えるものにほかならず,それ自体失当である。なお,仮に,原告の主張する「絞り加工」の意味を前提としたとしても,引用例1(甲3)は,窓コーナー部の挟持用リブの形成方法に関し,「開口部7に於ける四ケ所のコーナー部8〜11を順次コーナー用のプレス機に導入し,窓2の輪郭線の部分から挟持用リブ3をフラッシュ板1に対し直角に屈曲させる。即ちプレス機に配設した略L字型の金型12上に開口部7のコーナー部8を載置し,これをプレス加工することによって窓2のコーナー部8を円弧状に成型した後・・・フラッシュ板1を90°回転させコーナー部9を曲げ加工し・・・コーナー部10,11に相当する挟持用リブも屈曲させるものである」(明細書3欄12行目以下)と記載されており,これを「絞り加工」と認めるに何ら妨げはない。
(3) 本件発明の「隅フランジ代」の構成に関し,原告は,引用例1記載の挟持用リブは直線部と同一幅であるから,本件発明の意図する歪みと板割れを防止する「隅フランジ代」ではない旨主張する。しかし,審決は,隅フランジ代の幅寸法に関する相違は,「相違点3」として認定の上,これについて判断をしている(審決謄本7頁[相違点](3)項,8頁6(3)項)のであるから,この点の相違をいう原告の主張は,審決の一致点の認定の誤りを何ら基礎付けるものとはいえない。
(4) したがって,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点1,2についての判断の誤り)について (1) 原告は,本件発明と引用例1記載の発明との相違点についての審決の判断は,数値の臨界的意義にのみ特許性の根拠を求めることを前提とするものであるところ,本件発明の特許性は,数値を含む各構成要件の有機的な組合せの中にあるとして,その誤りを主張する。しかし,本件発明に限らず,およそ発明の各構成要件は,それぞれに有機的な関連性をもって一つの技術的思想としての発明を構成するものであるが,その進歩性の判断においては,各構成要件に示された技術的内容を,従来技術と比較して,公知の発明との相違点に係る構成ごとに個別にその容易想到性を判断する手法が誤りであるとはいえない。そして,当該構成が数値限定を含むものであれば,それが臨界的意義を有するものであるのか,当業者の適宜採用し得るものであるかを検討するのは,むしろ当然のことであって,これを誤りということはできない。結局,原告の上記主張は,独自の見解に立って審決を非難するものといわざるを得ず,採用することができない。
(2) 次に,原告は,審決の判断において,採光窓のコーナー半径をほぼ20o以下にすることの困難性が何ら検討されていない旨主張するところ,確かに,本件明細書(甲2)には,「採光窓部のコーナー半径が20o程度以下になると,絞り加工されるパネルの開口部コーナーに歪や板割れが発生し,ドアの美感を損なうことが知られている」(2欄「従来の技術」冒頭)との困難性が指摘されていることが認められる。しかし,本件明細書(甲2)の「上記製造方法によって採光窓付き鋼製ドアを作ると,採光窓部の各絞り線に沿ったフランジ代をパネル板厚の8倍以上でドアの構成に必要な寸法に設定した場合にも,採光窓部の各コーナーの隅フランジ代を絞り加工によって歪が生じないパネル板厚のほぼ8倍以下にするとともに,切れ目または切り欠きの先端部に形成した丸味によって隅フランジ代に板割れを生じさせないから,表裏パネルの美感を損なわせなくなる」との記載(4欄「作用」)を併せ考慮すると,本件明細書の前者の記載は,コーナー半径を20o以下とすると歪みや板割れの問題が生ずるという従来技術において認識されていた課題を示すものにほかならず,その課題を解決するために,隅フランジ代を,「パネル板厚のほぼ8倍以下」とするとともに,「先端に丸味を備えた切れ目または切り欠きによって形成」すること,すなわち,相違点3に係る構成を採用したものと認められる。原告の主張するように,本件発明の意図するものが,そのような歪みや板割れといった課題の解決にあるというのであれば,その進歩性の判断に当たって中心的に検討されるべきことは,当該課題の解決手段として採用された上記構成についての当業者の予測困難性あるいは予測困難な顕著な作用効果の問題にあるというべきであるから,本件明細書の上記記載は,コーナー半径をほぼ20o以下とした数値限定を採用すること自体の困難性を根拠付けるものではなく,当業者の適宜採用し得る事項というべきである。
(3) また,原告は,審決は本件発明の作用効果の予測性について触れていない旨主張するが,審決が明示的に判断する(審決謄本9頁最終段落)とおり,その作用効果は,当業者の予測し得る程度のものというべきである。すなわち,本件明細書(甲2)には,本件発明の効果として,「請求項1ないし3の採光窓付き鋼製ドアの製造方法においては,採光窓部の絞り線内側のフランジ代がパネル板厚のほぼ8倍以上となる場合に,そのフランジ代を備えたパネルの開口の各コーナー部に隅フランジ代がパネル板厚のほぼ8倍以下となる先端に丸味を備えた切れ目または切り欠きを設けているので,絞り加工によって形成される採光窓部の各コーナー部に応力の集中による歪や板割れの発生するのを防止して,美感の優れた採光窓付きドアをきわめて容易に作ることができる」(8欄10行目以下)ことが記載されているところ,引用例2(甲4)には,プレス加工により板部材に屈曲部を有するフランジを成形加工する際に,「フランジ2の四隅の屈曲部4近傍は,歪の発生を極力回避するために,略円弧状1bに切り欠かれる」(明細書4頁第2段落)ことが記載されている。これによれば,コーナー部を円弧状に切り欠くことにより,絞り加工によるフランジ形成の困難性が緩和されることが開示されていることが明らかであり,一般に,開口部コーナーの歪みや板割れの問題は,隅フランジ代を小さくするほど緩和されることは技術上自明といえることを併せ考えると,本件発明の上記効果は,引用例2の上記記載及び技術常識から,当業者の予測し得たものにすぎないというべきである。
なお,原告は,本件発明の効果として,隅フランジ代を十分に形成しつつコーナー半径をほぼ20o以下にするフラッシュドアを絞り加工により製造することを可能にした旨主張するが,本件発明において,隅フランジ代は「パネル板厚のほぼ8倍以下」であって,限りなくゼロに近づけることができるのであるから,「隅フランジ代を十分に形成しつつ」との部分は,本件発明の効果であるということはできない。また,原告は,本件発明の効果として,防火性能を有する鋼製ドアを提供するとも主張するが,本件明細書(甲2)には,従来例として紹介されている実開昭57-77478号公報の製造方法では,乙種防火戸に要求される要件を満たさなくなるという趣旨が記載されているにすぎない(2欄14行目以下,3欄12行目以下参照)から,当該製造方法を採用することなく,引用例1,2記載の各発明を組み合わせることにより,当然に予測し得たものというべきである。量産化が可能である等その余の原告主張の点についても,当業者の予測困難な顕著な作用効果であるとは到底認められない。
(4) したがって,原告の取消事由2の主張も理由がない。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について 原告は,引用例2記載の発明は,屈曲部にフランジを形成することを意図するものではなく,また,隅フランジ代が形成されるものでもないと主張する。しかし,引用例2(甲4)の「産業上の利用分野」欄(明細書1頁)の「本考案は,板部材に屈曲を有するフランジを成形加工するプレス加工装置に係り,詳しくは,屈曲部の外方に歪が発生するのが抑制されるようにしたプレス加工装置に関する」との記載,「問題点を解決するための手段」欄(同3頁)の「本考案の手段は,パンチの加圧力により板部材に,屈曲部を有するフランジを成形加工するプレス加工装置にあって・・・」との記載及び第2,第4,第5図の図示によれば,屈曲部(コーナー部分)にもフランジ代が形成されるものであることは明らかである。
また,隅フランジ代の寸法を「パネル板厚のほぼ8倍以下」とする点を設計的事項とした審決の判断に誤りがないことは,上記2の説示に照らして明らかであり,原告の取消事由3の主張は理由がない。
4 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利