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事件 |
平成
14年
(ワ)
10725号
特許専用実施権設定登録手続等請求事件
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原告 株式会社セルフーズジャパン 訴訟代理人弁護士 山川博光 同 世戸孝司 被告A 訴訟代理人弁護士 坂恵昌弘 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2003/03/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告は,原告に対し,別紙目録記載の特許権について,範囲を全部,地域を日本全国,期間を存続期間満了までとする専用実施権の設定登録手続をせよ。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 主文第1項と同旨 2 被告は,原告に対し,5610万円及びこれに対する平成14年1月29日(弁済期の翌日)から支払済みまで年15%の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は,原告が,別紙目録記載の特許権(以下「本件特許権」という。)につき,特許権者である被告から専用実施権の設定を受けたと主張して,被告に対し,専用実施権の設定登録手続を求めるとともに(第1,1),被告に貸し付けた貸金5610万円につき,貸金元本の返還及び遅延損害金の支払を求めている(第1,2)事案である。 原告の上記請求に対して,被告は,本件特許権についての専用実施権の設定に際しては,その対価として2億円を前払する旨の合意があったところ,そのうち4000万円余りが未払であるとして,残額のうち4000万円の支払まで設定登録手続を拒絶する旨を述べて引換給付判決を求めるとともに,原告主張の貸金については,その全額を専用実施権設定の対価に充当する旨の合意が成立していると主張して,これを争っている。 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により認定した事実。 後者については,末尾に該当する証拠を掲げた。) (1) 被告は,本件特許権の特許権者である。 (2) 原告は,被告との間で,平成14年1月25日,本件特許権につき,被告が原告に対し,範囲を全部,地域を日本全国,期間を本件特許権の存続期間満了までとする専用実施権を設定する旨の契約を締結した(以下,この契約を「本件専用実施権設定契約」という。)。 (3) 原告は,被告に対し,本件特許権に専用実施権を設定する際のロイヤリティの一部の前払として,合計1億1000万円を支払った。 (4) 被告は,平成13年11月28日ころ,原告との間で,弁済期を同年12月28日,利息を年5%,遅延損害金を年15%との定めで,5610万円を借り受ける旨の契約を締結した(甲7,原告代表者,被告本人。以下,当該契約に係る貸金を「本件貸金」という。)。 2 本件の争点 (1) 原告と被告は,本件特許権についての専用実施権設定のロイヤリティの額を2億円とし,その全額を原告が被告に支払うのと引換えに専用実施権の設定登録手続をする旨の合意をしたかどうか(争点1) (2) 原告と被告は,本件貸金につき,本件特許権についての専用実施権設定のロイヤリティの一部に充当する旨の合意をしたかどうか(争点2) 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(ロイヤリティの支払と専用実施権設定登録手続を同時履行とする旨の合意の存否)について 【被告の主張】 ア 被告は,平成13年8月14日,原告代表者から,被告が代表者を務める訴外日本セルフーズ株式会社(以下「日本セルフーズ」という。)の事業資金として,原告が被告に対し2億円を融資するとの申出を受け,これを承諾した。 イ 上記の合意に基づき,被告は原告から次のとおり金員の交付を受けた。 受取年月日 受取金額 平成13年8月1日 976万円 平成13年8月3日 4049万7480円 平成13年9月26日 1000万円 平成13年9月27日 4000万円 平成13年12月12日 1481万9726円 平成14年1月10日 2411万0942円 平成14年2月1日 1750万3288円 合計 1億5669万1436円 ウ そして,被告は原告から上記イに基づき,下記の額の金銭を借り受け,返済することを内容とする消費貸借契約を締結した。 契約日 金額 平成13年9月25日 5000万円 平成13年12月5日 1500万円 (ただし,借主の名義は日本セルフーズ) 平成13年12月ころ 5610万円 (本件貸金) エ その後,平成14年1月9日,原告の申入れにより,被告は,原告から融資を受ける2億円全額について,本件特許権につき原告に専用実施権を設定する際に原告から支払われるロイヤリティの前払とすることを合意した。 その結果,上記の合意時までに被告が原告から受け取った1億1507万7206円については,ロイヤリティの前払金の受領ということに切り替えられた。そして,上記の合意後,被告は,原告から,平成14年1月10日に2411万0942円,同年2月1日に1750万3288円をそれぞれロイヤリティの前払金として受領した。 上記のとおり,被告は,現在までに原告からロイヤリティの前払金として合計1億5669万1436円を受領したが,2億円との差額の4000万円余りが未払となっている。 オ よって,被告は,同時履行の抗弁権の行使として,原告が上記差額に相当する4000万円を支払うまで,本件専用実施権の設定登録手続をすることを拒絶する。 【原告の主張】 ア 原告が,被告に対し,平成13年8月14日,2億円を融資する旨申し入れたとの事実は否認する。 イ 上記「被告の主張」欄のイに記載の金員授受の事実関係は正確でない。 正しくは,次のとおりである。 @ 被告は,平成13年8月3日,訴外有限会社キリン商事(以下「キリン商事」という。)から5500万円を借り受けた(被告主張の976万円と4049万7480円を合計したものに対応する。)。 A 被告は,平成13年9月25日,原告から5000万円を借り受けた(被告主張の1000万円と4000万円を合計したものに対応する。)。 B 日本セルフーズは,平成13年12月5日,原告から1500万円を借り受けた(被告主張の1481万9726円に対応する。)。 C 日本セルフーズは,平成14年1月10日,原告から2500万円を借り受けた(被告主張の2411万0942円に対応する。)。 D 日本セルフーズは,平成14年1月31日,原告から2000万円を借り受けた(被告主張の1750万3288円に対応する。)。 ウ 原告と被告が,平成14年1月9日,原告が被告に対して融資することを約した2億円全額を専用実施権設定のロイヤリティに切り替える旨の合意したことは,否認する。 原告と被告は,ロイヤリティの支払については,「毎月末日までの工場渡価格の5%を翌月末日限り支払う」(甲2)として,ランニング・ロイヤリティ方式により支払うことを合意していたものである。 エ 原告は,被告に対し,前払ロイヤリティ4000万円の支払義務を負わないし,これと引換えに本件専用実施権の設定登録手続をする旨合意したことはない。したがって,ロイヤリティの支払と専用実施権設定登録手続との同時履行をいう被告の主張(抗弁)は,理由がない。 (2) 争点2(本件貸金をロイヤリティの一部の前払に充当する旨の合意の存否)について 【被告の主張】 ア 原告と被告は,平成14年1月9日,原告からの融資額2億円につき,本件特許権に専用実施権を設定する際に支払われるロイヤリティの前払金に充当することを合意した。その結果,上記合意時までに被告が原告から受領した1億1507万7206円については,ロイヤリティの前払金に切り替えられたが,本件貸金は,上記の既受領分に含まれている。 イ 原告は,後記「原告の主張」欄記載のとおり,本件貸金はロイヤリティの前払とは区別される旨主張するが,被告はキリン商事から5500万円を借り受けたことはなく,原告に対して同金員の代位弁済を依頼したこともないのであるから,原告の主張は理由がない。 ウ 以上のとおり,本件貸金は,原告と被告の合意により,ロイヤリティの前払金に充当されたのであるから,原告の被告に対する本件貸金の返還請求権は消滅している。 【原告の主張】 ア 被告は,平成13年8月3日,キリン商事から弁済期を平成13年10月31日,利息年20%として5500万円を借り受けた。しかし,被告は弁済期を過ぎても元利金を支払わなかったため,原告は被告の依頼を受けて,同年11月28日,元金及び利息に相当する5610万円を代位弁済した。 この代位弁済金につき,原告の被告に対する貸付けという形で契約書を作成したのが,本件貸金である。それゆえ,本件貸金は,本件特許権に関する専用実施権設定のロイヤリティの一部として原告が被告に支払った1億1000万円(前記第2,1(3))とは性格を異にし,ロイヤリティの前払に充当する旨の合意の対象外のものである。 イ 被告は,本件貸金の当初の弁済期である平成13年12月28日に弁済することができなかったので,原告は被告の要請により,弁済期を平成14年1月28日まで猶予した。 ウ 平成14年1月28日は経過した。 エ よって,原告は被告に対し,本件貸金5610万円及びこれに対する弁済期の翌日である平成14年1月29日から支払済みまで約定の年15%の割合による遅延損害金の支払を求める。 |
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当裁判所の判断
1 当裁判所の認定した事実 (1) 前記の前提となる事実(第2,1)に証拠(甲1,2,3の1,2,4〜10,12〜14,20,21,乙1〜7,9〜13,原告代表者,被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。 ア 原告は,平成13年8月13日,大豆を主体原料にした食品の加工,製造,販売及び輸出入を行うことを主な目的として設立された会社である。 被告は,平成元年ころから,大豆の加工方法の研究開発,加工した大豆製品の輸入販売等を手がけており,現在,兵庫県宝塚市に本店を置き,食品加工販売等を業とする日本セルフーズの代表取締役の地位にあるが,同社は,実質的にみて,被告の個人企業である。また,被告は,平成13年9月30日から平成14年12月16日まで,原告会社の取締役に就任していた。 イ 被告は,平成13年7月,B(後に原告会社の取締役に就任。以下「B」という)の紹介でD(後に原告会社の取締役に就任。以下「D」という。)に会った。Dは,当時特許出願中であった本件特許権に係る発明の内容に興味を持ち,被告に対し,資金提供をすることを申し出た。被告は,同月末までに支払等に充てるための運転資金が必要だったので,とりあえず5000万円の融資を求めたところ,Dと同様被告の事業に興味を持ったC(後に原告会社の取締役会長に就任。以下「C」という。)は,同年8月1日,手元にあった自分の現金8万ドルをBをして被告のもとに持参させた。被告は,これを円に両替して,その結果手数料等を引いて得られた976万円を,同日,日本セルフーズ名義の銀行預金口座(以下「本件口座」という。)に入金した。 ウ 被告は,Cに対して,残りの約4000万円の融資を実行するよう求めたが,Cには融通できる資金がなかったため,被告に金融業者のキリン商事を紹介し,同社から被告が第三者振出の約束手形の割引という方法で融資を受けることにした。そして,前記イの976万円については,Cが立て替え支払ったことにし,被告は,その分も含めてキリン商事から借り入れることとした。そこで,被告とCは,平成13年8月3日,東京にあるDの事務所で落ち合い,被告がキリン商事から5500万円を弁済期同年10月31日,利息年20%との約定で借り受ける旨の金銭消費貸借契約書(甲13)を作成した。その際,被告はBの指示であらかじめ取得していた同年8月1日付けの印鑑登録証明書(甲14)を持参した。また,上記契約には,被告,C,Dのほか,原告代表者とBも立ち会っていたが,キリン商事の担当者は同席していなかった。そして,Cは,同日,5500万円から立て替えた976万円,手形の割引料,及び振込手数料を控除した4049万7480円をキリン商事に代わって本件口座に送金した。 エ 原告会社が設立された後の平成13年8月14日,被告,原告代表者,C及びBは,大阪市梅田の関西文化サロンで会談し,原告会社が被告に対して,継続して資金を提供していくことを確認した。その際,原告会社の側から被告の希望する3億円の融資は無理であるという趣旨の発言はあったが,融資の金額を具体的にいくらにするという確定的な合意はされなかった。 そして,上記の確認事項に基づき,平成13年9月25日付けで,貸主を原告,借主を被告とする5000万円の金銭消費貸借契約書(乙3)が作成された。これに基づき,同月26日,1000万円,同月27日,4000万円が,それぞれ原告会社から本件口座に送金された。 オ 被告は,キリン商事から借り受けた5500万円を弁済期に返済することができなかった。そこで,原告は,平成13年11月28日,被告の依頼を受けて,上記貸金につき元本と利息を合計した5610万円を代位弁済した。そして,原告は,そのころ,被告に対し,弁済期を同年12月28日,利息を年5%,遅延損害金を年15%として5610万円を貸し付ける旨の金銭消費貸借契約書(甲7)を作成して,被告に郵送した。被告は,同契約書の「借主」欄に記名押印した上で,これを原告に返送した(これが本件貸金である。)。 カ 前記平成13年8月14日の原・被告間の確認事項に基づく2回目の融資として,同年12月5日,貸主を原告,借主を日本セルフーズとする1500万円の金銭消費貸借契約書(乙4)が作成された。この契約書では,被告の希望により借主の名義は日本セルフーズとされたが,原告も,被告と日本セルフーズが実質上一体の関係にあることから,名義上の借主は会社であっても,実際上は被告に対して融資をするという認識であり,特に,これについて異議を述べなかった。そして,上記合意に基づき,平成13年12月12日,1500万円から前払利息と振込手数料を控除した1481万9726円が原告会社から本件口座に送金された。 キ 本件貸金については,弁済期が平成13年12月28日と定められたが,被告は,返済が困難であったため,その少し前に返済期日の延期を申し出た。 原告代表者はこれを了承し,返済期日を平成14年1月28日まで延期する旨の「借入金返済期日延長願い」と題する書面(甲8)を作成して,被告に送付した。 そこで,被告は,これに押捺した上で原告に返送した。 ク 原告代表者は,被告との間で,融資や今後の事業の展開について条件などを詰めておく必要性を感じ,平成14年1月9日付けで「日本セルフーズ株式会社 代表取締役A」あての「(株)セルフーズジャパンに関わる下記確認事項の件」と題する書面(乙1の1枚目)を作成した。 この書面には,「1.融資に関する条件」の1)の項として,「弊社C会長と貴殿との融資(総額1億円)に関する約束(口頭による)について,すでに一部は実行されておりますが,残額についても原則として,実行する用意があります。」と記載され,2)の項として,「弊社の権利関係を明確にするために,弊社と貴殿との間に平成13年8月31日付けにて締結された特許専用実施権設定契約書及び,総販売代理店契約書に記載されている米国法人設立にともなう,契約書再整備に直ちに協力頂く必要があります。」と記載されている。また,「2.その他弊社が貴殿に確約する件」の1)の項として,「(株)セルフーズジャパンの株式に対する新株引受権2400株分を譲渡する。」と記載されている。 ケ 被告を含めた原告会社の役員の間では,平成14年1月9日,上記書面をたたき台にした話合いが行われ,その結果,合意された事項を確認した書面(乙1の2枚目)が作成された。それには,「1.融資に関する条件」の1)の項として,「融資に関しては,A氏へのロイヤリティーの前払いとする。尚,4500万円の支払いに関しては,平成14年1月10日に2500万円,平成14年1月31日に2000万円を支払うものとする。」と記載され,2)の項として,「契約書再整備には,A氏は全面的に協力する。」と記載されている。また,「2.その他弊社が貴殿に確約する件」の1)の項として,「新株引受権2400株分譲渡に関して了解」と記載されている。 コ 上記平成14年1月9日の合意に基づく原告の被告に対する融資として,同年1月10日付けで2500万円,同月31日付けで2000万円の金銭消費貸借契約書(いずれも,貸主は原告,借主は日本セルフーズ〔乙5,6〕)が作成された。そして,これらに基づき,平成14年1月10日,2500万円から前払利息と振込手数料を控除した2411万0942円が,同年2月1日,2000万円から前払利息と振込手数料に加えて上記ケ記載の新株引受権の発行手数料を控除した1750万3288円が,それぞれ原告会社から本件口座に送金された。 サ 原告と被告の間では,上記平成14年1月9日の合意に基づく契約書の再整備として,同月25日,「特許専用実施権設定に関する契約書」(甲2)が作成された(本件専用実施権設定契約)。 この契約書では,対価に関し,第3条で,原告は被告に対して,本件特許権の専用実施権設定の対価として,原告が製造し販売する特許製品の毎月末日までの工場渡価格の5%を,翌月末日限り,被告の指定する銀行口座に振り込み送金して支払う旨記載されている。 シ 原告会社は,平成14年2月1日の段階で,本件口座に合計1億5669万1436円を送金していたが,被告は2億円から上記金額を控除した額にほぼ相当する4000万円について原告が被告に融資をする約束があり,それがいまだに実行されていないとの認識を持っていた。そこで,被告は,平成14年3月26日に開催された原告会社の取締役会で,4000万円の支払を求めたが,他の役員の賛同を得られなかった。被告は,同月29日の午前中,原告に対し,4000万円をその日の午後3時までに日本セルフーズあてに振り込むことなどを求める内容のファクシミリを送付したが,原告会社監査役のEから「円満解決のためにはいったん要求を取り下げた方がよい」旨の説得を受け,同日午後,上記ファクシミリの内容,文言を撤回し,陳謝する旨のファクシミリを送付した。 ス しかし,被告は,4000万円の支払要求自体は撤回せず,本件特許権についての専用実施権の設定登録手続を求める原告代理人弁護士(本訴の原告代理人と同一)の平成14年4月1日付け通知書(甲3の1)に対して,原告代表者あての書面で,@ 問題解決のためには4000万円の支払がされることが前提であり,その後に専用実施権の設定登録手続を行う予定である旨,A 原告代理人弁護士には,被告代理人弁護士(本訴の被告代理人と同一)から回答する旨を返答した。 その後,被告代理人弁護士は,同月18日付けで「ご通知」と題する書面(甲6)を原告代理人弁護士あてに送付したが,この書面には「平成14年3月26日に開催されたセルフーズジャパンの取締役会の決議により同社の通知人に対する融資をロイヤリティ(契約金)に変更すると共に同社は通知人に対しロイヤリティとしてさらに追加して40,000,000円を平成14年3月末日までに支払う旨約束されました。しかるに同社はいまだに追加分のロイヤリティ40,000,000円の支払いをされていません。以上の次第で通知人としては上記問題が解決されることが同社に対する実施権登録の前提でありますのでよろしくお願いします。」と記載されていた。 (2) 事実認定に関する補足説明(被告の主張について) 被告は,平成13年8月14日,原告代表者から,日本セルフーズの事業資金として2億円を融資するとの申出を受けた旨主張し,被告本人も,平成13年8月14日に関西文化サロンで原告代表者らと会談した際の話の内容として,「3億円は難しいから2億円でお願いしますということになりました。」「アメリカでの事業を展開するための資金として援助してあげようというような話でございました。」と供述している。しかし,上記の会談において原告から総額2億円の融資の申出があったことを裏付ける契約書や覚書等の客観的な証拠は存在しない。 また,この点について,平成14年3月29日,被告が原告あてにファクシミリで送信した文書(同じ内容で書留郵便で送付された文書として甲4が提出されている。ただし,この文書は,同日の午後撤回された。)には,「約束の4,000万円を本日3時までに日本セルフーズ株式会社宛に振り込む事。」という記載があり,同年4月18日付けの被告代理人弁護士作成の「ご通知」と題する書面(甲6)には「平成14年3月26日に開催されたセルフーズジャパンの取締役会の決議により同社の通知人に対する融資をロイヤリティ(契約金)に変更すると共に同社は通知人に対しロイヤリティとしてさらに追加して40,000,000円を平成14年3月末日までに支払う旨約束されました。」と記載されている。さらに,被告本人は,「(4000万円の支払がないと本件特許権に専用実施権を設定することはできないと)当初からそういうふうに申し上げております。」と供述している。 しかしながら,仮に,被告の主張するように,原告と被告との間で原告が被告に対して2億円を融資することが合意され,平成14年1月9日に合意された事項を確認した書面(乙1の2枚目)に記載された同月10日の2500万円,同月31日の2000万円の融資に加えて,更に4000万円余りの額の融資が予定されていたというのであれば,同書面(乙1の2枚目)や同月25日付けの特許専用実施権設定に関する契約書(甲2)において,この点について何らの記載がないのは,不自然である。 また,平成14年3月26日の原告会社の取締役会においてその旨の決議がされたという点についても,被告は途中で会議を退席したため,決議されたかどうかは確認していないこと(被告本人は「決議していると思います。」と自らの推測を述べているにとどまる。本人尋問調書20頁参照)に照らせば,この点に関する被告本人の供述は信用することができず,被告が一方的に作成した上記各書面の記載から4000万円の支払約束があった事実を認めることはできない。 これらの点を考慮すれば,被告の主張に沿う被告本人の前記供述は,書証等による裏付けを欠くものであり,反対趣旨の原告代表者の供述に照らしても,これを措信することはできない。 2 争点1(ロイヤリティの支払と専用実施権設定登録手続を同時履行とする旨の合意の存否)について (1) 4000万円の支払約束について 上記1において認定した事実によれば,平成13年8月14日,原告と被告の間で,原告が被告に対し総額2億円を融資する旨の合意が成立したことを認めることはできない。それゆえ,被告が平成13年8月1日から同14年2月1日にかけて原告から送金を受けた合計1億5669万1436円と2億円との差額にほぼ相当する4000万円について,原告が被告に対し追加して支払う旨の約束があったと認めることはできない。 (2) まとめ 以上によれば,ロイヤリティ前払の未払額として原告が被告に対して4000万円の支払義務を負う事実を認めることはできないから,4000万円の支払と専用実施権設定登録手続との同時履行をいう被告の抗弁は,理由がない。 したがって,本件特許権につき,本件専用実施権設定契約に基づく専用実施権の設定登録手続を求める原告の請求(前記第1,1)は,理由がある。 3 争点2(本件貸金をロイヤリティの一部の前払に充当する旨の合意の存否)について (1) 判断 前記1(1)において認定した事実によれば,本件貸金の弁済期は平成13年12月28日と定められたが,当事者双方の合意により,返済期日は,融資に関する条件等を確認する合意のされた平成14年1月9日の直前の同13年12月28日ころに同14年1月28日まで延期されたこと,上記平成14年1月9日の合意事項を確認した書面では,「融資に関しては,A氏へのロイヤリティーの前払いとする。」とのみ記載され,本件貸金をロイヤリティの前払に充当しない旨の留保は付されていないこと,原告は延期された後の弁済期である平成14年1月28日の経過後,被告に対して本件貸金の返済を求めた形跡はなく,むしろ,同年2月1日,本件口座に1750万3288円を送金していること,原告代理人弁護士作成の平成14年4月1日付け通知書(甲3の1)においても,原告は本件特許権についての専用実施権の設定登録手続に協力するよう求めるだけで,本件貸金については何ら言及していないことがそれぞれ認められる。 上記の事実によれば,原告と被告は,平成14年1月9日の融資等に関する話合いにおいて,本件貸金を本件特許権に関する専用実施権設定のロイヤリティの一部に充当する旨合意したものと認めることができる。 (2) 原告の主張について 原告は,本件貸金は,キリン商事の被告に対する貸付金につき原告が代位弁済したことに基づく求償金であり,本件特許権に関する専用実施権設定のロイヤリティの一部として支払った1億1000万円(前記第2,1(3))とは性格を異にし,ロイヤリティの前払に充当する旨の合意の対象外のものであると主張する。また,原告代表者も「代位弁済をしたお金ですから,当然彼(被告)に頼まれて一時的に立て替えたお金ですから,(ロイヤリティの前払金に)含まれないと我々は考えております。」と供述している。 たしかに,本件貸金は,原告がキリン商事の被告に対する5500万円の貸金につき代位弁済したことにより取得した求償金5610万円を目的とした準消費貸借であるが,キリン商事による貸付けといっても,前記1(1)のウ認定の事実によれば,その実質は,後に原告会社の役員に就任することになるC,Dらの主導で行われた融資であって,平成13年9月ないし同年12月に行われた原告の被告に対する融資と実質的に異なるところはないと認められ,現に,本件貸金についての契約書(甲7)は,「金銭消費貸借契約書」との題名の通常の消費貸借契約の契約書であって,原告から被告への融資として貸し付けられた他の貸付金の契約書(乙3,4)と何ら変わるところがない。また,本件貸金の返済期限の延長を認めて,原告が作成して被告に送付して押印を求めた書面(甲8)も,「借入金返済延長願い」と題され,その文面も「借入金」につき返済期日の延期を求める旨が記載されているものであり,これらによれば,原告においては,本件貸金も,他の融資としての貸付金と区別することなく,全く同列に扱っていたものと認めるのが相当である。 仮に,原告の主張するように,本件貸金がロイヤリティの前払に充当されないのであれば,平成14年1月9日の合意事項を書面にまとめる際に,本件貸金はロイヤリティの前払に充当されない旨の留保なり,注記を付することのが当然であったはずであるが,同書面(乙1の2枚目)にはそのような記載はされていない。 また,仮に本件貸金がロイヤリティの前払に充当されないのであれば,本件貸金については,被告は,当初の返済期限である平成13年12月28日に返済することができず,返済期限を平成14年1月28日に延長したものであって,延長した同期限に被告から返済を受けられることが確実に予見されるような状況にあったとは認められない(前記認定事実からすれば,当時の被告の経済状況からすれば,同期限における返済はあやぶまれる状況にあったというべきである。)ことからすれば,原告としては,平成14年1月9日の合意事項を書面にまとめる際に,本件貸金がロイヤリティの前払に充当されない旨を明記し,その返済と同月31日付けのロイヤリティ前払2000万円の支払との関係について言及するのが当然であったはずであるが,同書面(乙1の2枚目)にはそのような記載はされていない。そして,返済期日である同月28日に本件貸金の返済がされていないにもかかわらず,同書面に記載された同月31日付けのロイヤリティ前払2000万円は,同年2月1日に原告会社から被告の口座に送金されているが,本件貸金との相殺等がまったく検討されないまま,上記2000万円の送金がされていることからすれば,本件貸金についてもロイヤリティ前払に充当されることが合意されており,更に追加の支払として,前記合意書面(乙1の2枚目)に記載された合計4500万円の支払がされる旨が原・被告間で合意されていたと認めるのが相当である。 (3) まとめ 以上の認定判断によれば,本件貸金については,その返済期日前に,原・被告間で,本件特許権についての専用実施権設定のロイヤリティの一部に充当する旨の合意がされたものと認められるから,これにより原告の被告に対する本件貸金の返還請求権は消滅したものというべきである。よって,被告の抗弁は理由がある。 |
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結論
以上によれば,原告の請求のうち,被告に対し,本件特許権につき専用実施権の設定登録手続を求める請求(前記第1,1)は理由があるが,本件貸金の返還及びこれに対する平成14年1月29日から支払済みまで年15%の割合による遅延損害金の支払を求める請求(同第1,2)は理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 和久田道雄 |
裁判官 | 青木孝之 |