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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成14ワ2473損害賠償等請求事件 判例 特許
平成15ワ10048特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14行ケ393審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 先願の地位 /  上位概念 /  下位概念 /  技術的範囲 /  出願公開 /  同一の発明 /  優先権 /  分割出願 /  権利の濫用(権利濫用) /  存続期間 /  特許発明 /  実施 /  設定登録 /  審判制度 /  訂正審判 /  誤記の訂正 /  訂正の目的 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  審決確定(審決が確定) / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 203号 審決取消請求事件
原告 四国化工機株式会社
訴訟代理人弁理士 廣田雅紀
同 小澤誠次
同 岡晴子
被告 エービーテトラ パック
訴訟代理人弁理士 三好秀和
同 岩崎幸邦
同 原裕子
同 鹿又弘子
同 清水正三
同 田中義敏
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が無効2000-35277事件について平成13年4月3日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「包装材料をヒートシールする方法及び装置」とする特許第1795565号(1981年10月8日のスウェーデン国における出願に基づく優先権を主張して昭和57年10月8日に出願(以下「本件出願」という。)。平成5年10月28日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,本件特許について,平成11年10月19日に,特許請求の範囲請求項3を削除する訂正の審判を請求した。特許庁は,この請求を平成11年審判第39085号事件として審理し,その結果,平成12年3月23日に,これを認める審決をし,これが確定した(以下「本件訂正」という。)。
原告は,平成12年5月23日,「特許第1795565号の特許を無効とする。」との審判を請求した(以下「本件無効審判請求」という。)。特許庁は,この請求を無効2000-35277号事件として審理し,その結果,平成13年4月3日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同月13日にその謄本を原告に送達した。
2 審決の理由の要点 別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,@本件訂正に係る請求項3の削除は,特許法126条1項(平成6年法律第116号による改正前のものをいう,以下,同じ)ただし書1号の「特許請求の範囲減縮」に当たる,A訂正審判を請求することの適否の判断に当たり,同条1項ただし書各号に掲げる事項を目的とすることに加えて,更に,その特許に「正し改めるべき誤り」があるか否か,特許権が無効とされるような瑕疵があるか否か,分割に係る子出願など他の出願の事情等について考慮すべきではない,B本件訂正審判の請求が権利の濫用に当たるとは認められないから,本件訂正は適法なものである,として,請求人(原告)主張の無効理由をすべて排斥するものである。
3 訂正により削除された本件特許の特許請求の範囲請求項3(これによって特定される発明を,以下,「本件発明」という。) 「積層材料(10,11)をヒートシールするための装置にして,各積層材料は,熱可塑性材料層(3)と,導電性材料層(4)と,繊維質材料の支持層(1)とを有し,かつ各積層材料は,その一表面を覆いかつ該積層材料の融点より低い融点の熱可塑性材料の外層(3)を有し, 前記熱可塑性材料層(3)を,中央シール帯域(13)およびその両側シール帯域(14)に沿って互いに重ね合わせるとともに,該両シール帯域(13,14)以内で互いに接触させ, 前記積層材料同士(10,11)を両シール帯域(13,14)内で細長いシールジョー(5)と対向ジョー(12)との間で圧して加熱し,溶融した熱可塑性材料を冷却固化させるようにして,前記積層材料同士(10,11)をヒートシールするための装置において, 前記シールジョ-(5)は, 前記熱可塑性材料層(3)を含む前記積層材料(10,11)を,前記両シール帯域(13,14)に沿って,前記対向ジョー(12)に対して押し付けるための平らな押圧表面を有する本体(6)と, 該本体(6)の平らな押圧表面に形成された溝と, 該構内に嵌合され,且つ前記本体(6)の平らな押圧表面に一致するようにされた作用面(8)を有し,前記熱可塑性材料を溶融材料にするように前記熱可塑性材料層(3)を加熱するための導電性加熱棒(7)とを含み, 前記細長いシールジョーの作用面(8)は,前記両側シール帯域(14)に沿って,前記熱可塑性材料層(3)の一つに押し付けられるようになっており,かつ, 前記作用面(8)には,該作用面から突出する断面がほぼ矩形の平らな先端面を有する突条(9)が設けられ, 前記加熱棒(7)に高周波電力を印加するとともに,前記中央シール帯域(13)以内において,前記突条(9)の先端面で前記熱可塑性材料層(3)を互いに押しつけるようになっており,これにより,前記熱可塑性材料層(3)は,前記シール帯域(13,14)内で溶融して,溶融した熱可塑性材料が前記導電性材料層(4)の表面より流出されるが,これが,前記シール帯域(13,14)の外側の前記熱可塑性材料層(3)の溶融していない部分によりせき止められるようになっていることを特徴とする積層材料のヒートシール装置。」
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、「手続の経緯」,「審判請求人の主張」,「本件訂正に係る発明の認定」(審決書7頁13行まで)は認め,「主張の検討」,「むすび」(審決書7頁14行〜9頁6行)は争う。
審決は,特許法126条1項の「訂正」の解釈を誤り(取消事由1),特許法126条1項ただし書1号の「特許請求の範囲減縮」の解釈を誤った(取消事由2)結果,本件訂正が適法である,との誤った判断をしたものであり,これらの誤りがそれぞれ結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(特許法126条1項の「訂正」の解釈の誤り) (1) 審決は,特許法126条1項の「訂正」の語について,「特許法第126条第1項は,同項ただし書第1号ないし3号に掲げる事項を目的とする訂正に限り,その訂正をすることについて審判を請求できる旨規定している。従って,同項ただし書第1号ないし3号に掲げる事項を目的とする訂正である限り,その訂正をすることについて審判を請求することは認められるとするのが相当であり,例え一般的に「訂正」とは「誤りを正し改めること」等の意味であっても,同項ただし書第1号ないし3号に掲げる事項を目的とすることに加えて,更に,その特許に「正し改めるべき誤り」があるか否か,等についてまで考慮すべきではない。」(審決書7頁16行〜24行),「訂正の審判を請求することの適否を判断するにあたり,同項ただし書第1号ないし3号に掲げる事項を目的とすることに加えて,更に,その特許に特許権が無効とされるような瑕疵があるか否か,等についてまで考慮すべきではない」(審決書7頁27行〜30行)と判断したが,いずれも誤りである。
(2) 法文の解釈に際しては,そこに用いられた語句を通常一般的に用いられている意味に解するのが原則であり,通常一般的に用いられている意味は,国語辞典によることが普通である。国語辞典(甲第4,第5号証)によれば,「訂正」とは,「誤りを正しく直すこと」,「誤りを正しく改めること」を意味する。誤り(瑕疵)のないものを訂正することは論理的に不可能である。「誤りを正しく直すことのない訂正」は,特許法126条に規定する「訂正」に当たらないと解すべきである。
(3) このことは,特許法126条1項の立法趣旨に照らしても明らかである。
同条項の立法趣旨は,特許の一部に瑕疵があって,そのままでは当該特許が無効とされる場合に,第三者に不測の損害を与えない範囲において,その瑕疵を治癒する訂正の機会を認め,本来有効な発明の保護を図ることにあるから(甲第6,第8ないし第11号証参照),瑕疵のない特許については,同条項に基づく訂正の対象とはならないと解すべきである。
(4) 特許法126条1項は,昭和34年改正前の特許法(大正10年法。以下「旧特許法」という。)53条1項に由来する。旧特許法53条1項は,訂正の許可の審判は,「特許請求ノ範囲ノ減縮」,「誤記ノ訂正」,「不明瞭ナル記載ノ釈明」を目的とすることのほかに,「明細書又ハ図面カ不完全ニ製作セラレタルコト」を要件としており,そこでは,誤りのない明細書や図面は,訂正の審判の対象にならないことが,条文上も明らかであった。
特許法126条1項では,上記「明細書又ハ図面カ不完全ニ製作セラレタルコト」が削除されているものの,これは,同要件を不要としたのではなく,そこで用いられている「訂正」が通常一般的に意味するところ,すなわち「誤りを正しく直すこと」,「誤りを正し改めること」からして,省略しても大正10年法と実質的に変わらない,と解されたためであるにすぎない。
(5) 審決は,特許法126条1項の「訂正」の意味についての判断が求められているにもかかわらず,この点について実質的に何ら判断を示していない。このことからも審決は,取り消されるべきである。
2 取消事由2(特許法126条1項の「特許請求の範囲減縮」の解釈の誤り) (1) 審決は,「「請求項の削除」は,特許請求の範囲にある複数の請求項の内の一部の請求項を削除することであるから,「特許請求の範囲減縮」の概念に含まれるとするのが相当である。」(審決書8頁19行〜21行),「特許法第17条の2第4項・・・の規定は,「補正を,すでに行った審査結果を有効に活用できる範囲のものとすること」・・・を目的としたものであり,特許法第126条第1項の規定とは立法の趣旨を明らかに異にするので,特許法第126条第1項ただし書第1号の規定の解釈に際し,特許法第17条の2第4項の規定を考慮する必要はない。」(8頁26行〜31行),「特許法第126条第1項ただし書第1号ないし3号に掲げる事項を目的とする訂正である限り,その訂正をすることについて審判を請求することは認められるとするのが相当であり,同項ただし書第1ないし3号に掲げる事項を目的とすることに加えて,更に,他の出願の事情などについてまで考慮すべきではない。このことは,子出願についても同様であって,子出願が特許される際の権利範囲の適否は,当該子出願の審査または審理において判断されるべきものであり,本件訂正の審判を請求することの適否を判断するに当たって考慮されるべき事項ではない。」(審決書8頁6行〜14行)と判断したが,いずれも誤りである。
(2) 「減縮」と「削除」とは,通常,明確に区別される概念であるから,削除して特許請求の範囲に何も残さない「請求項の削除」が「特許請求の範囲減縮」に該当しないことは,文言上明らかである。
平成6年法律第116号により新たに規定された特許法17条の2第4項は,1号に「請求項の削除」を,同2号に「特許請求の範囲減縮」をそれぞれ規定しており,「請求項の削除」と「特許請求の範囲減縮」とを異なる概念としていることが明らかである。特許法126条1項において,同じ「特許請求の範囲減縮」という文言を,17条の2第4項とは異なる意味で規定することはあり得ないことであるから,特許法126条1項の「特許請求の範囲減縮」には,「請求項の削除」は含まれないというべきである。
(3) 本件特許について適用される平成6年法律第116号による改正前の特許法126条3項(以下,「特許法126条3項」というときは,これを意味する。)は,「第1項ただし書第1号の場合は,訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。」と規定している。「訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明」とは,訂正が「特許請求の範囲減縮」を目的とする場合には,減縮の行われた請求項に係る発明であることは明らかである。「請求項の削除」が「特許請求の範囲減縮」に含まれるとすると,請求項の削除により当該請求項に残る発明はないのであるから,特許法126条3項により「請求項の削除」を目的とする訂正が認められる場合はあり得ないことになる。
(4) 特許庁は,特許法126条1項について,請求項の削除などの特許請求の範囲の欄の実質的な減縮についても,特許請求の範囲減縮として扱う,という運用をしている。これは,上位概念の発明が記載された請求項に瑕疵があり,このような瑕疵のある請求項を削除して,下位概念の発明が記載された請求項を順次繰り上げる場合など,訂正の審判の立法趣旨に則った訂正により請求項が削除された場合には,実務上,「特許請求の範囲減縮」として取り扱って妨げない,との趣旨であると解される。
仮に,上記運用が許されるとしても,本件訂正における「請求項の削除」を「特許請求の範囲減縮」に当たるとすることは,次に述べるとおり,上記運用の趣旨を超えて,著しい不合理を来すものであるから,許されないというべきである。
ア 本件訂正の目的は,本件特許の特許請求の範囲に記載された請求項の中の一つを,瑕疵がないにもかかわらず削除することにより,本件出願の一部を新たな特許出願とした分割出願に係る同一の発明について新たに特許を得ようとするものである。このような訂正は,特許の一部に瑕疵がある場合に,第三者に不測の損害を与えない範囲において,その瑕疵を治癒する訂正の機会を認め,発明の保護を図る,という訂正審判の立法趣旨に則ったものでなく,上記運用の趣旨を逸脱するものであることが明らかである。
イ 特許庁は,このように複数の請求項の一部の請求項が削除される場合の「訂正後における特許請求の範囲」とは,訂正の行われない他の請求項のことである,との運用をしている。しかし,このような運用は,瑕疵のない発明と同一の発明を別異の特許として権利化することを不可能とする,という特許法126条3項の法的機能を没却し,瑕疵のない発明と同一の発明について,新たな特許を成立させるという不合理を可能とすることになる。
特許法39条1項は,「同一の発明について異なった日に二以上の特許出願があったときは,最先の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。」と規定しており,他方,先願の発明が登録されると,登録された先願の発明が無効審判により無効とされた場合にも,その権利は初めからなかったものとされるだけで,その特許出願自体がなかったものとされるわけではないから,先願の発明が登録された後は,後願の発明が特許されることはあり得ない。特許法のこの考え方は,分割出願の場合も同じであり,原出願の発明が登録された以上,その登録が存続しなくなっても,分割出願された同一の発明が登録されることはあり得ないのである。
ところが,請求項の削除が特許請求の範囲減縮に当たるとして訂正が認められると,特許法128条の規定による擬制により,特許出願が係属していた時点の明細書まで修正されるから,同一の発明の「後願」あるいは「新たな特許出願」の権利化が可能となる。これは第三者に不測の不利益を与えることになる。
同一の発明について二以上の特許出願があった場合,特許法39条1項に該当することを拒絶理由とする後願に対する拒絶処分は,先願発明の特許査定が確定するのを待ってなされている。本件のような「請求項の削除」の訂正が許されるとしたならば,先願発明の特許査定は事実上確定しないことになるから,後願の処分ができない状態はいつまでも続くことになる。このようなことは特許法上著しく不合理であり,特許法がこのようなことを予定していないことは明らかである。
このように,特許法における手続では,登録された特許発明について,同一の後願発明が特許されることはあり得ないはずであるのに,本件訂正は,登録された特許発明に係る請求項を削除することにより,同一の後願発明を特許しようとするものであるから,特許手続上許容されるべきではない不合理なものであり,これが,訂正審判の趣旨と目的を逸脱するものであることは明らかである。
(5) 本件訂正におけるように,本来の訂正審判の趣旨・目的から逸脱した「請求項の削除」という訂正を認めることは,第三者に不測の損害を与えるものであって,特許法126条の立法趣旨に反する。
本件訂正は,登録された特許発明に係る請求項を削除することにより,分割出願(子出願)に係る同一の発明を新たに特許しようとするものであるから,これにより,同一の発明についての特許の存続期間が延長されることになる。のみならず,分割出願(子出願)に係る発明の技術的範囲は,本件発明の技術的範囲よりも実質的に拡張されたものであり,訂正によって第三者が受ける不測の損害は,これによって更に大きいものとなる。このように,本件訂正は,特許手続上許容されるべきではない不合理なものであり,かつ,訂正審判の趣旨と目的を逸脱するものであることが明らかである。
本件訂正を認め,上記分割出願を結果的に容認することになる解釈を採ることは,「第三者に不測の損害を与えない範囲において,分割出願の機会を与えることによって,発明の保護を図る」という最高裁判決(最高裁昭和55年12月18日判決・民集34巻7号917頁,最高裁昭和56年3月13日判決・裁判集民事132号225頁)の趣旨にも反することになる。
(6) 実用新案法14条の2は,「実用新案権者は,請求項の削除を目的とするものに限り,願書に添付した明細書又は図面の訂正をすることができる。」と規定している。これは,従来は,同法において@実用新案登録請求の範囲減縮,A誤記の訂正,B不明瞭な記載の釈明を目的とする訂正が認められていたのを,平成5年の一部改正により実体的要件についての審査を行うことなく登録がなされる制度が導入されたため,訂正の可否について特許庁において実体的な審理を行う必要がなくなったことから,請求項の削除に限って訂正を認めることとし,訂正審判の形式は採用しないこととしたものである。この立法趣旨からわかるように,実用新案法14条の2は,「請求項の削除」が「実用新案登録請求の範囲減縮」に含まれず,むしろ両者が別の概念であることを示すものであるというべきである。
3 本件無効審判請求の対象について 本件無効審判請求により無効を求める範囲は第3項の発明だけであり,第1項及び第2項の発明は含まれない。
原告は,平成5年法律第26号により訂正無効の審判に関する規定(特許法129条,130条)が削除され,訂正が不適法であった場合には同法123条の特許無効の審判における無効理由とすることとした法改正後の特許法123条1項8号の規定に基づき,審判請求をしたものである。
本件特許の請求項3は削除により存在しなくなったから,同項の発明は無効審判の対象とならない,とすると,請求項の削除という訂正が,適法かどうかを争うことができなくなり,上記改正の前には訂正無効の審判において争うことができたことが,同改正の後には特許法123条の特許無効の審判においては争うことができないという,不当な結論になる。
4 無効審判請求の利益について 請求項を削除する訂正審決が確定すると,その請求項に係る発明についての出願自体もなかったものとみなされる(特許法128条)。
本件特許の請求項3を削除する本件訂正が特許法123条1項8号に該当する不適法なものであることを理由として,請求項3記載の発明に係る特許を無効とする審決が確定すると,上記みなし規定である特許法128条の適用がなくなり,本件特許の請求項3記載の発明に係る特許出願は,先願の地位を失わないことになる。
これにより,本件特許の請求項3に係る発明と同一発明である本件特許からの分割出願(子出願)は,適法な分割出願として認められず無効となり,その結果,この分割出願からの分割出願(孫出願)2件も無効となる。その結果,これらの各分割出願(子出願及び孫出願)に基づく権利行使が違法なものとして許されなくなる。これが本件無効審判請求の利益である。
このように,原告には本件特許の請求項3記載の発明に係る特許を無効とする審判を請求する利益がある。
被告の反論の要点
審決の認定,判断は正当であり,審決に,取消事由となるべき瑕疵はない。
1 取消事由1(特許法126条1項の「訂正」の解釈の誤り)について 原告は,「訂正」の意味を解釈するに当たり,形式的な文理解釈のみが正しいとし,文理解釈以外の解釈を排除している。しかし,このような原告の解釈は,特許法1条に規定された法の趣旨・目的及び各条文の規定の趣旨・目的を無視するものであって,誤りである。
2 取消事由2(特許法126条1項の「特許請求の範囲減縮」の解釈の誤り)について (1) 原告の主張は,形式的な文理解釈を唯一の正しい解釈とするものであり,法の目的,趣旨に従って解釈することを排除するものであるから,誤りである。
特許発明技術的範囲は,特許請求の範囲の各請求項ごとに定まり,特許権の行使は各請求項ごとに行使できるのであるから,特許請求の範囲に記載された複数の請求項のうちの一部の請求項を削除することは,特許請求の範囲減縮の概念に含まれることが明らかである。
(2) 実用新案法14条の2は,「実用新案権者は,請求項の削除を目的とするものに限り,願書に添付した明細書又は図面の訂正をすることができる。」と規定し,請求項の削除に限って訂正を認容している。実用新案法と特許法とは,その目的,趣旨を同じくするから,実用新案法において請求項の削除が「訂正」に属するものとされ,しかも,許される唯一の「訂正」とされている以上,特許法においても請求項の削除による訂正が認容されることは当然である。
3 本件無効審判請求の対象について 本件訂正により,本件特許の特許請求の範囲は,請求項1及び2のみになっており,請求項3は存在しない(特許法128条)。
原告が「特許第1795565号の特許を無効とする。」との請求の趣旨により本件審判請求により無効とすることを求めた範囲は,本件特許の特許請求の範囲第1項及び第2項であるとみるべきである。
4 無効審判請求の利益について 本件発明は,請求項3が削除されたことにより,もはや本件特許の対象ではなくなっている。このような本件特許の対象となっていない本件発明に係る特許について,無効審判を請求する利益はない。
当裁判所の判断
1 本件無効審判請求の対象について 無効審判請求の対象は,審判請求書の記載によって,決められるものであり,審判請求書に記載されていないものが,無効審判の対象となることは,ありえない(特許法131条2項参照)。
本件特許について適用される昭和62年法律第27号による改正前の特許法123条によれば,特許無効審判は,「発明ごと」に請求するものとされているから,本件特許のうち,どの発明が本件無効審判請求の対象とされているか,という観点から検討する。
本件無効審判請求書には,「審判請求に係る発明の数 1」との記載及び「請求の趣旨」として,「特許第1795565号の特許を無効とする。」,との記載がある。本件特許には,もともとは,@請求項1及び2に記載された発明(請求項2は請求項1の実施態様項である。)及びA請求項3に記載された発明の二つの発明があったものの,本件無効審判請求の時点においては,請求項3に記載された発明は,本件訂正により請求項3が削除された結果,存在していなかったのであるから,本件無効審判請求書の上記の記載を普通に見れば,本件無効審判請求の対象は,削除されずに残っている請求項1及び2に記載された発明である,と解するのが素直であるようにも思える。
しかしながら,本件審判請求書の「(3)本件特許を無効とすべき理由」には,@請求項第3項について,これを本件訂正により削除したことが適法な訂正とはいえず許されない,との記載があるだけで,そのことが請求項第1項及び第2項を無効とすることに結び付く,との趣旨の記載は一切見当たらないこと,A本件訂正を認めると,本件特許からの子出願を適法とすることになる結果,特許請求の範囲を実質的に拡張し,訂正に名を借りた技術内容の変更を認める結果を招来するので,このような結果を防止するために,本件訂正は認められないと解すべきである,あるいは,本件訂正請求は権利の濫用に当たり許されない,として,請求項第3項に関し,実質的に訂正無効の主張に相当する記載があること,が認められる。本件審判請求書のこれらの記載に照らすと,そこにおいて,無効審判の対象とされているのは,請求項第3項に係る発明であると解するのが相当である。
2 無効審判請求の利益について (1) 被告は,本件特許について,平成11年10月19日に特許請求の範囲請求項3を削除する訂正の審判を請求し,特許庁は,この請求を平成11年審判第39085号事件として審理し,その結果,平成12年3月23日に,これを認める審決をした(当事者間に争いがない。)。
願書に添付した明細書又は図面の訂正をすべき審決が確定したときは,その訂正後における明細書又は図面により特許出願,出願公開,特許をすべき旨の査定又は審決及び特許権の登録がされたものとみなされる(特許法128条)。
特許無効審判は特許に無効理由が存在する場合に,行政処分としての特許の効力を排除するために,これを無効とする制度である。本件特許の請求項3は,本件訂正により出願当初から存在しないものとみなされるに至ったのであるから,本件特許の請求項3については,もはや,無効審判により排除すべき行政処分としての特許は存在しない。
したがって,原告には,もはや,行政処分として存在せず,特許としての効力を有しなくなった本件特許の請求項3について無効審判の請求をする利益はない,というべきである。
特許法123条1項8号は,訂正無効審判制度の廃止に伴い平成5年法律第26号によって追加されて以来,特許の願書に添付した明細書又は図面の訂正が不適法である場合を特許の無効事由の一つとして挙げている。しかしながら,同号は,訂正審判後にも存続し,行政処分として効力を有する特許についての規定であって,請求項が削除され,訂正審判後には特許として存続しなくなったものには適用がないと解すべきであることは,上述したところから明らかである。
(2) 原告は,本件特許の請求項3の発明を無効とすることによって,これと発明が同一である本件特許からの分割出願を不適法とする,という利益を有する,と主張する。
しかしながら,特許無効審判の請求の利益は,存在する特許の効力を排除する利益があるか否かについて判断されるべきものである。本件特許の請求項3の発明に係る特許は,請求項3が削除されたことにより,もはや特許として存在しなくなり,行政処分としての効力がなくなったのであるから,これを更に無効と評価した場合に他の出願に及ぼす影響などは,無効審判請求の利益の有無の判断にあたって,もはや考慮すべき余地はない,というべきである。
本件出願からの分割出願の適法性の問題は,分割による子出願自体に係る適法性を争う手続において解決されるべき事柄であって,本件特許に係る無効審判請求手続において解決されるべき事柄ではない。
原告の主張は,採用することができない。
3 原告が本訴において本件審決の取消しを求めるのは,取消しに基づいて,改めて,特許庁において,本件特許を無効にすることについての審判がなされるようにするためであり,それ以外のためであることはあり得ない。そして,そうであるとすると,上記のとおり,本件特許を無効にする利益の認められない原告には,本件審決の取消を求める法律上の利益はなく,本件訴訟につき,訴えの利益はない,と解するのが相当である。
結論
以上のとおり,原告の本件訴えは,訴えの利益を欠く不適法なものであるから,これを却下することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸