関連審決 | 異議2001-72903 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 訂正明細書 / 取消決定 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
388号
特許取消決定取消請求事件
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原告 東亜機工株式会社 同訴訟代理人弁理士 谷藤孝司 被告 特許庁長官太田 信一郎 同指定代理人 西村綾子 同 村本佳史 同 高木進 同 大橋良三 同 涌井幸一 同 鈴木公子 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/03/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が異議2001-72903号事件について平成14年6月13日にした決定を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,特許庁が,原告を特許権者とする特許に係る特許異議の申立てについて,原告請求に係る訂正を認めたものの,特許を取り消す旨の異議の決定をしたことから,原告が,被告に対し,上記異議の決定の取消しを求めた事案である。 1 争いのない事実 (1) 原告は,平成10年3月6日,発明の名称を「ウエットシート用収納袋」とする発明につき,特許出願を行い,同13年3月16日設定登録(特許第3169352号,以下「本件特許」という)を受けた。 (2) 株式会社フクヨーの平成13年10月19日付け特許異議申立てに基づき,特許庁が,原告に対し,本件特許の取消理由通知をしたことから,原告は,その指定期間内である同14年3月27日,本件特許について,特許請求の範囲を次のとおりとする訂正請求をした(以下「請求項1から6」につき,順次「本件請求項1から6」という)。 【請求項1】 ウエットシート(2)を収納する袋本体(6)と,この袋本体(6)に形成されたウエットシート(2)の取り出し口(5)と,この取り出し口(5)を開閉自在に密閉状に塞ぐ開閉蓋(12)とを備えたウエットシート用収納袋において,天然材料を主たる材料とした主シート材(19)と,この主シート材(19)の内側に形成された合成樹脂製の防水皮膜(20)とを備えた複合シート材(13)により袋本体(6)を構成し,この袋本体(6)の主シート材(19)側に,開閉蓋(12)が粘着剤(11)を介して剥離自在に貼着される合成樹脂製の補強フィルム(10)を設け,袋本体(6)の内側に,天然材料の厚紙からなり且つ袋本体(6)の取り出し口(5)の周辺を平坦状に保形する保形板(8)と,この保形板(8)を内側から覆う保護フィルム(9)とを設け,この保護フィルム(9)を保形板(8)の外側で防水皮膜(20)に固着して保形板(8)を袋本体(6)の内側に固定し,ウエットシート(2)を取り出すときに,後続のウエットシート(2)に抵抗を付与して後続のウエットシート(2)が若干突出するように,保護フィルム(9)の取り出し口(21)を袋本体(6)の取り出し口(5)及び保形板(8)の開口部(7)よりも小さくしたことを特徴とするウエットシート用収納袋。 【請求項2】 袋本体(6)の一部を切除して取り出し口(5)を形成したことを特徴とする請求項1に記載のウエットシート用収納袋。 【請求項3】 取り出し口(5)を塞ぐ開閉蓋(12)を,天然材料を使用した主シート材(19)と,この主シート材(19)の内側に形成された防水皮膜(20)とを備えた複合シート材(13)からなるカバーシートにより構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のウエットシート用収納袋。 【請求項4】 主シート材(19)に,天然繊維を主たる材料とした紙,不織布シート材を用いたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のウエットシート用収納袋。 【請求項5】 主シート材(19)に,ポリオレフィン系等の溶融樹脂材料をコーティングして防水皮膜(20)を形成したことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のウエットシート用収納袋。 【請求項6】 主シート材(19)に,ポリオレフィン系等の合成樹脂フィルムを貼着して防水皮膜(20)を形成したことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のウエットシート用収納袋。 (3) 特許庁は,平成14年6月13日,上記(2)の訂正請求に係る訂正を認めた上で,要旨,次のとおり判断し,本件請求項1から6は,いずれも,刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件請求項1から6に係る発明の特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,取消しを免れないと決定し(以下「本件決定」という),本件決定謄本は,同年7月1日,原告に送達された。 ア 本件請求項1の発明においては,保形板が「天然材料の厚紙」からなり,「保形板を内側から覆う保護フィルムとを設け,この保護フィルムを保形板の外側で防水皮膜に固着して保形板を袋本体の内側に固定し,ウエットシートを取り出すときに,後続のウエットシートに抵抗を付与して後続のウエットシートが若干突出するように,保護フィルムの取り出し口を袋本体の取り出し口及び保形板の開口部よりも小さくした」構成であるのに対し,特公平6-45385号公報(甲7,以下「刊行物1」という)記載の発明においては,トレイ部材(保形板に相当)は,「液体が染み込まないように・・・紙とフィルムをラミネートしたもの」からなり,封入袋の頂面(袋本体の内側に相当)に固着され,その底面には次のウェットティッシュが随伴して連続的に引き出されることを防止するための開口(機能的に保護フィルムの取り出し口に相当)が設けられている構成である点において,本件請求項1の発明と刊行物1記載の発明とは相違する(本件決定における相違点3,以下「本件相違点」という)。 イ(ア) トレイ部材(本件請求項1の発明の「保形板」に相当)について,刊行物1記載の発明のように,紙とフィルムが一体となったラミネート材として構成するか,本件請求項1の発明のように,保形板と保護フィルムの別体で構成するかは当業者であれば適宜採用することができる程度の事項にすぎないものであり,その際,厚紙を保護フィルムで内側から覆うために,保護フィルムを保形板の外側で防水皮膜に固着したことは,当業者であれば自明の事項にすぎない。 (イ) そして,本件請求項1の発明のように,保護フィルムで厚紙を内側から覆った場合(別体とした場合)に,刊行物1記載の発明のトレイ底面に形成した開口に機能的に相当する開口を保護フィルムに形成する必要があることも,当業者であれば自明の事項にすぎない。 (ウ) したがって,刊行物1記載の発明等から,本件請求項1の発明を構成することは,当業者が容易に想到しうるものである。 ウ 本件請求項2から6の各発明は,いずれも,本件請求項1の引用形式請求項であるところ,刊行物1記載の発明等から,本件請求項2から6の各発明を構成することも,当業者が容易に想到しうるものである。 (4) そこで,原告は,被告に対し,平成14年7月30日,本件決定の本件相違点に係る進歩性の判断は誤りであるとして,本件決定の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 争点 本件相違点に係る構成は,当業者が容易に想到しうるものか否か。 (1) 原告の主張 ア 本件決定のうち上記争いのない事実(3)イ(ア)記載の部分について (ア) 本件請求項1の発明の保形板と保護フィルムは,単に,紙とフィルムが一体となったラミネート材からなる刊行物1記載の発明のトレイ部材を,紙とフィルムに分けただけのものではなく,保護フィルムを保形板の外側で防水皮膜に固着して保形板を袋本体の内側に固定し,かつ,ウエットシートを取り出すときに,後続のウエットシートに抵抗を付与して後続のウエットシートが若干突出するように,保護フィルムの取り出し口を袋本体の取り出し口及び保形板の開口部よりも小さくしたものである。なお,ラミネート材(積層材)が,異なる材料からなる別々のシート材を重ねて用いていたものを,作業に便利なように予め接着や溶着等により積層して一体としておき,1枚のシート材として用いるようになったものであることは認める。 (イ) また,被告が主張するように,水分や水蒸気の多いところで,防水性の壁面や台等の基材に,1枚の紙を水分が染み込まないように固着しようとする場合に,その紙より一回り大きなビニールなどの防水性フィルムシートで紙を覆って外側で固着することが,本件出願前に一般的にごく普通に行われてきた防水手段であるとしても,1枚の紙を防水性の基材に固着する方法としては,まずもって1枚の紙そのものを基材に固着するのが通常であるから,本件請求項1の発明のように,1枚の紙そのものを基材に固着することなく,防水性フィルムシートを1枚の紙の外側で防水性の基材に固着する方法を用いることが自明であるということはできない。 (ウ) 以上によれば,トレイ部材(本件請求項1の発明の「保形板」に相当)について,刊行物1記載の発明のように,紙とフィルムが一体となったラミネート材として構成するか,本件請求項1の発明のように,保形板と保護フィルムの別体で構成するかは,当業者であれば適宜採用することができる程度の事項にすぎないと断ずることはできない。したがって,本件決定のうち上記争いのない事実(3)イ(ア)記載の部分の判断は,誤りである。 イ 本件決定のうち上記争いのない事実(3)イ(イ)記載の部分について (ア) 被告が主張するように,箱の厚紙の板材に,楕円形や略四角形の開口を設け,該開口を内側から覆ったフィルムにスリット状の取り出し口を形成して,シートを1枚ずつ順次取り出す手段が,通常のティッシュペーパー用のものとして,本件特許出願前の当該技術分野において日常的にごく普通に用いられているとしても,これは,後続のティッシュペーパーが大きく突出したままの状態で放置しても問題の生じないドライティッシュペーパー用の取り出し手段に関するものであり,開閉蓋を粘着剤を介して収納袋側に貼着して密封する必要のあるウエットシート用収納袋に,直ちに適用することができるものではない。 その点はさておくとしても,上記周知の取り出し手段は,本件請求項1の発明における収納袋本体の取り出し口と保形板の開口部という2個の開口を有し,かつ,保護フィルムの取り出し口をこれら開口よりも小さくするという構成を有していない点,また,保形板の外側部分において,収納袋の防水皮膜にフィルムを貼付するという構成を有していない点において,本件請求項1の発明と異なるものであるので,刊行物1記載の発明に,このような周知技術を適用しても,本件請求項1の発明を想到することはできない。 (イ) また,刊行物1記載の発明に,このような周知技術を適用することは,トレイ部材のラミネート材のうち,紙の部分とフィルムの部分のそれぞれに開口を設け,かつ,後者を小さくすることであるが,ラミネート材にこのような加工を施すことは非常に困難である。 (ウ) 以上によれば,被告が主張するように,上記周知の取り出し手段が存在することをもって,刊行物1記載の発明のトレイ底面に形成した開口に機能的に相当する開口を保護フィルムの方に形成すること,すなわち,ウエットシートを取り出すときに,後続のウエットシートに抵抗を付与して後続のウエットシートが若干突出するように,保護フィルムの取り出し口を袋本体の取り出し口及び保形板の開口部よりも小さくした構成にすることが,当業者であれば自ずと明らかであるということはできない。したがって,本件決定のうち争いのない事実(3)イ(イ)の判断は,誤りである。 ウ 本件請求項1の発明の顕著な作用効果の看過 かえって,本件請求項1の発明は,ラミネート材を立体成形したトレイ部材を用いる刊行物1記載の発明のような従来技術と比較して,次のような顕著な作用効果を有しているものである。 (ア) 保形板に,天然材料の厚紙を使用しているため,廃棄時に,公害を発生させ難い。 (イ) ウエットシートの水分が保形板の内外周縁に吸収されることを防止することによって,a ウエットシートが乾燥することを防止することができ,また,b 保形板が板厚方向へ膨張し,開閉蓋による密封性が損なわれることを防止することができ,さらに,c 保形板の内周縁に黴が発生し,その黴がウエットシートに付着することを防止することができる。 (ウ) a 保形板に単純な厚紙の板材を用いているのみならず,保形板及び保護フィルムについては,市販の材料をそれぞれの所定形状に切断するだけで足り,保形板に塑性変形するまでの所定時間加圧状態を維持して立体成形することが不要である,また,b 保形板を袋本体の内側に固定するなどの工程を経なくとも,保護フィルムを防水皮膜に固着するだけで,保形板を袋本体の内側に固定することができる,さらに,c 保形板に嵩張りが少ないことから製袋の作業性に優れているなど,加工工程の簡素化,加工費用の削減をすることができる。 (エ) 保形板及び保護フィルムの内外方向の寸法を比較的薄く構成し,その容積を小さくすることにより,袋本体の大きさを小さくしながらも,ウエットシートの収納量を充分に確保することができる。 (オ) 開閉蓋の貼着に際して,ウエットシートの突出部を介して保護フィルムに対して下側の圧力がかかったとき,保形板の外側の固着部分を支点として保護フィルムが無理なく下側に変形するため,保護フィルムやその貼付箇所の損傷を防止することができるのみならず,収容するための凹部等を予め設けることなく,ウエットシートの突出部分を容易に収容することができ,その密封性を確保することができる。 (カ) 保形板によって袋本体の取り出し口の周辺を確実に平坦状に保形することができ,また,保護フィルムの弛みを防止することができる。 エ 以上によれば,本件請求項1の発明について,当業者が刊行物1記載の発明等に基づいて,容易に想到しうるものということはできないから,本件決定のうち上記争いのない事実(3)イ(ウ)の判断は,誤りである。 オ なお,本件請求項1の発明が,上記のとおり,当業者が刊行物1記載の発明等に基づいて,容易に想到しうるものではない以上,同発明の引用形式請求項である本件請求項2から6の各発明についても,当業者が刊行物1記載の発明等に基づいて,容易に想到しうるものではないから,本件決定のうち上記争いのない事実(3)ウの判断も,誤りである。 (2) 被告の主張 ア 本件決定のうち上記争いのない事実(3)イ(ア)記載の部分について (ア) ラミネート材(積層材)は,異なる材料からなる別々のシート材を重ねて用いていたものを,作業に便利なように予め接着や溶着等により積層して一体としておき,1枚のシート材として用いるようになったものであるところ,別々のシート材として用いるか,一体のシート材として用いるかは,必要に応じて当業者が適宜選択可能なことであるから,紙とフィルムが一体となったラミネート材からなる刊行物1記載の発明のトレイ部材について,紙とフィルムを別々にして,保形板と保護フィルムとして用いることは,当業者が適宜採用することができる事項である。 (イ) ウエットシートは,水分を含んでいるので,その収納容器の内面を防水性の材料にしなければならないことは,当該技術分野における常識である。 そして,水分や水蒸気の多いところで,防水性の壁面や台等の基材に,1枚の紙を水分が染み込まないように固着しようとする場合に,その紙より一回り大きなビニール等の防水性フィルムシートで紙を覆って外側で固着することは,本件特許出願前に一般的にごく普通に行われてきた防水手段であり,厚紙の場合であっても,このような固定方法により,厚紙の外周縁からの水分の浸透を防ぐことができることは明らかである。 このような防水手段の技術的背景において,刊行物1記載の発明のラミネート材からなるトレイ部材について,紙とフィルムを別々にして,保形板と保護フィルムとして用いる場合に,保形板を保護フィルムで内側から覆って防水するためには,保護フィルムを保形板の外側で封入袋の頂面(袋本体の内側に相当)に固着すればよいことは,自ずと明らかである。 (ウ) 以上によれば,本件決定のうち上記争いのない事実(3)イ(ア)記載の部分の判断には,誤りはない。 イ 本件決定のうち上記争いのない事実(3)イ(イ)記載の部分について (ア) 保護フィルムで厚紙を内側から覆った場合に,ウエットシートを取り出すためには,厚紙にも,保護フィルムにも,ウエットシートの出口を設けなければならないところ,箱の厚紙の板材に,楕円形や略四角形の開口を設け,同開口を内側から覆ったフィルムにスリット状の取り出し口を形成して,シートを1枚ずつ順次取り出す手段は,通常のティッシュペーパー用のものとして,本件特許出願前の当該技術分野において日常的にごく普通に用いられているものである。 このような取り出し手段の技術的背景に照らせば,刊行物1記載の発明のトレイ底面に形成した開口に機能的に相当する開口を保護フィルムの方に形成すること,すなわち,ウエットシートを取り出すときに,後続のウエットシートに抵抗を付与して後続のウエットシートが若干突出するように,保護フィルムの取り出し口を袋本体の取り出し口及び保形板の開口部よりも小さくした構成にすることは,当業者であれば自ずと明らかになってくることである。 (イ) また,厚紙と保護フィルムの双方に,ウエットシートを把持する部分を設けるとすれば,製造工程で双方の位置合わせが必要となったり,使用時に不都合が生じることから,必然的に,厚紙には大きな開口部を設け,保護フィルムについてのみ,ウエットシートを把持する部分を設けることとなるのであり,これは,当然に採用される技術的事項にすぎない。 (ウ) 以上によれば,本件決定のうち上記争いのない事実(3)イ(イ)記載の部分の判断には,誤りはない。 ウ 原告の主張する本件請求項1の発明の顕著な作用効果について 本件請求項1の発明について,原告の主張する各作用効果は,次のとおり,いずれも格別顕著なものということはできない。 (ア) 原告の主張(ア)について a 従来の合成樹脂に代えて,廃棄時に公害を発生させ難い天然材料を用いることは,ごく普通に行われていることである。 b また,本件請求項1の発明については,天然材料でないものが一定量含まれているため,収納袋全体を焼却処分した場合に,全く有毒ガスを発生しないというものではない。 c 以上によれば,原告の主張(ア)の作用効果が格別顕著なものということはできない。 (イ) 原告の主張(イ)について a 仮に,刊行物1記載の発明のトレイ部材が,別々の紙とフィルムによって構成されているとすれば,水分がそれらの端面に付着した場合,水分が紙とフィルムの隙間に滲入し,多量の水分が紙の表面から浸透して,トレイ部材が厚く膨れる可能性が大きい。 しかしながら,刊行物1記載の発明のトレイ部材は,ラミネート材(積層材)で形成されているところ,本来,ラミネート材は,異なる種類のシートが接着や溶着により,ぴったりと積層され,一体となって1枚のシートを形成するものであり,また,その端面はごく薄いものであるから,水分がそれらの端面に付着したとしても,水分が紙とフィルムの隙間に滲入し難い構造になっている。もしも,ラミネート材において,水分が紙とフィルムの隙間に滲入するというのであれば,その内外周の端面に防水剤を塗布するなり,ラミネート材を張るなどの防水手段を講じてしかるべきであるにもかかわらず,刊行物1記載の発明においては,何らの手段も施されていないことからも,このことは,明らかである。 また,刊行物1記載の実施例を参照すれば,ウェットティッシュを把持する箇所は,引き出されようとするウェットティッシュの動きにより,幾分上方に曲折する状態になるから,ウェットティッシュと接触するのは,ラミネート材の端面ではなく,表面のフィルム部分のような状態になる。 以上によれば,刊行物1記載の発明のような従来技術においても,ウエットシートの水分がトレイ部材の内外周縁を通じて奪われ,ウエットシートが乾燥することや,ウエットシートの水分がトレイ部材の内外周縁に吸収され,トレイ部材が板厚方向へ膨張することを防止することができ,開閉蓋による密封性を確保することができたというべきである。 b また,保形板を内側から保護フィルムで覆うことによって保形板の外周縁の防水性が確保され,その場合に,刊行物1記載の発明のトレイ底面に形成した開口に機能的に相当する開口を保護フィルムに形成した結果,保護フィルムによってウエットシートが保持されることとなり,そのことによって,保形板の内周縁の防水性も確保され,原告の主張(イ)のような効果を奏することとなることは,上記ア(イ)やイ(ア)の技術的背景に照らせば,当業者が予測可能なものである。 c 以上によれば,原告の主張(イ)の作用効果が格別顕著なものということはできない。 (ウ) 原告の主張(ウ)について a 刊行物1記載の発明のトレイ部材には,市販のラミネート材を使用することができるところ,上記トレイ部材を加工するためには,当該ラミネート材に,単に,真空成形,プレス成形,射出成形,プレス加工,折曲げ加工,打抜き加工等を施して凹部22を形成すればよいのであるから,本件請求項1の発明において,別々に所要形状に切断・開口した保形板と保護フィルムを,一連の工程の中で位置合わせなどして固定し,一体の製品にしていくことと比べ,むしろ加工工数は少なく,何ら繁雑なものではない。 b また,保護フィルムを防水皮膜に固着するだけで,保形板を袋本体の内側に固定することができることは,上記ア(イ)の技術的背景に照らせば,ごく自然な選択の結果にすぎない。 c 以上によれば,原告の主張(ウ)の作用効果が格別顕著なものということはできない。 (エ) 原告の主張(エ)について a 厚紙である保形板を内側から保護フィルムで覆う場合に内外方向の寸法が薄くなり,その容積が小さくなることは,ごく普通のことである。 b また,刊行物1記載の発明のトレイ部材の凹部が,収納袋全体の小型化のために,できる限り浅く設計されることは明らかであり,しかも,ウエットシートの厚さがごく薄いことを考慮すれば,上記凹部の側壁の高さは,1から2o程度といったごく浅いものである。これに対し,本件請求項1の発明において,刊行物1記載の発明のトレイ部材の凹部の深さに対応する箇所は,袋本体の取り出し口5の厚さと保形板の開口部7の厚さを加えた深さ(以下「開口の深さ」という)であるところ,実施例としては,保形板の厚さだけで,3oもあるものが摘示されているのであるから,本件請求項1の発明の開口の深さが,刊行物1記載の発明のトレイ部材の凹部の深さと比較して,より浅いということはできない。 c 以上によれば,原告の主張(エ)の作用効果が格別顕著なものということはできない。 (オ) 原告の主張(オ)について a 刊行物1記載の発明には,本件請求項1の発明と比べて,突出するウエットシートをトレイ部材の凹部に遙かに確実に収納し,開閉蓋を確実に貼着することができるという長所がある。 b また,本件請求項1の発明は,開口の深さによって,次のウエットシートを収容する空間が確保されているのであって,仮に,保護フィルムの変形によってウエットシートを収容することがありうるとしても,それは可能性にすぎない。 c 以上によれば,原告の主張(オ)の作用効果が格別顕著なものということはできない。 (カ) 原告の主張(カ)について 原告の主張(カ)の作用効果が格別顕著なものということはできない。 エ 以上によれば,本件請求項1の発明については,当業者が刊行物1記載の発明等に基づいて,容易に想到しうるものであるから,本件決定のうち上記争いのない事実(3)イ(ウ)の判断には,誤りはない。 オ なお,本件請求項1の発明が,上記のとおり,当業者が刊行物1記載の発明等に基づいて,容易に想到しうるものである以上,同発明の引用形式請求項である本件請求項2から6の各発明についても,当業者が刊行物1記載の発明等に基づいて,容易に想到しうるものであるから,本件決定のうち上記争いのない事実(3)ウの判断には,誤りはない。 |
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争点に対する判断
1 原告の主張ア(本件決定のうち上記争いのない事実(3)イ(ア)記載の部分について)について (1) 原告の主張(ア)について ラミネート材(積層材)が,異なる材料からなる別々のシート材を重ねて用いていたものを,作業に便利なように予め接着や溶着等により積層して一体としておき,1枚のシート材として用いるようになったものであることは,当事者間に争いがない。 このようなラミネート材の構成や形成経緯に照らせば,紙とフィルムが一体となったラミネート材からなる刊行物1記載の発明のトレイ部材について,紙とフィルムを別々にして,保形板と保護フィルムとして用いる程度のことは,必要に応じて当業者が適宜選択可能なことというべきである。 したがって,上記争いのない事実(3)イ(ア)のとおり,「トレイ部材(本件請求項1の発明の「保形板」に相当)について,刊行物1記載の発明のように,紙とフィルムが一体となったラミネート材として構成するか,本件請求項1の発明のように,保形板と保護フィルムの別体で構成するかは当業者であれば適宜採用することができる程度の事項にすぎないもの」であるとした本件決定の判断部分には,誤りはないというべきである。 なお,原告は,本件請求項1の発明の保形板と保護フィルムについて,単に,刊行物1記載の発明のラミネート材からなるトレイ部材を,紙とフィルムに分けただけのものではなく,保護フィルムを保形板の外側で防水皮膜に固着して保形板を袋本体の内側に固定し,かつ,ウエットシートを取り出すときに,後続のウエットシートに抵抗を付与して後続のウエットシートが若干突出するように,保護フィルムの取り出し口を袋本体の取り出し口及び保形板の開口部よりも小さくしたものであると主張するが,これらの各構成に係る想到容易性については,後記1(2),2において,別途検討する。 (2) 原告の主張(イ)について ア 刊行物1記載の発明の封入袋1の袋体本体11に封入されるウエットシートが水分を含むものであることは明らかであるから,上記袋体本体11の内面における防水性を確保しなければならないことは,当該技術分野における常識というべきである。 そして,雨の掛かる屋外や浴室内等のように,水分や水蒸気の多いところで,防水性の壁面や台等の基材に,1枚の紙を水分が染み込まないように固着する場合に,その紙より一回り大きなビニール等の防水性フィルムシートで紙を覆って外側で固着することは,本件特許出願前に,日常的に用いられている手段というべきであり,厚紙の場合であっても,このような手段により,厚紙の外周縁からの水分の浸透を防ぐことができることは明らかというべきである(公知の事実)。 イ 上記アのような技術常識を考慮すれば,紙とフィルムが一体となったラミネート材からなる刊行物1記載の発明のトレイ部材について,紙とフィルムを別々にして,保形板と保護フィルムとして用いる場合に,封入袋1の袋体本体11の内面における防水性を確保するために,保護フィルムを保形板の外側で封入袋1の袋体本体11の頂面に固着することは,当業者であれば自明の事項というべきである。 ウ この点,原告は,1枚の紙を防水性の基材に固着する方法としては,まずもって1枚の紙そのものを基材に固着するのが通常であるから,本件請求項1の発明のように,1枚の紙そのものを基材に固着することなく,防水性フィルムシートを1枚の紙の外側で防水性の基材に固着する方法を用いることが自明であるということはできないと主張する。 しかしながら,防水性フィルムシートを1枚の紙の外側で防水性の基材に固着する場合に,防水性フィルムシートの固着場所を1枚の紙の外縁に接着した場所とすれば,1枚の紙の動きが防水性フィルムシートと基材との間で制約されることとなるために,1枚の紙そのものを基材に固着しなくても,1枚の紙そのものを固着したのと同様の状態になることは明らかというべきである。 そして,このような方法を採用すれば,1枚の紙を別の1枚の紙に差し替えることが必要となった場合に,1枚の紙を基材から剥がすという手間が省けるという利点や,1枚の紙そのものを基材に固着するとすれば,基材に残ることとなりかねない接着剤が基材に残らないという利点等が得られることは明らかであり,また,特に,水平な台の基材の上に,1枚の紙を固着する場合には,1枚の紙そのものを基材に固着しなくとも,1枚の紙が基材の上で動じることはないのであるから,上記方法を採ることは,ごく自然な選択というべきである。 そうすると,原告の上記主張は,採用することができない。 エ したがって,上記争いのない事実(3)イ(ア)のとおり,「厚紙を保護フィルムで内側から覆うために,保護フィルムを保形板の外側で防水皮膜に固着したことは,当業者であれば自明の事項にすぎない」とした本件決定の判断部分には,誤りはないというべきである。 (3) 以上によれば,本件決定のうち上記争いのない事実(3)イ(ア)記載の部分の判断には,誤りはないというべきである。 2 原告の主張イ(本件決定のうち上記争いのない事実(3)イ(イ)記載の部分について)について (1) 上記のとおり,紙とフィルムが一体となったラミネート材からなる刊行物1記載の発明のトレイ部材について,紙とフィルムを別々にして,保形板と保護フィルムとして用いる場合に,これらを封入されたウエットシートの取り出し口として機能させるためには,紙の部分,フィルムの部分のそれぞれに,ウエットシートの出口を設けなければならないのは自明というべきである。 そして,箱の厚紙の板材に,楕円形や略四角形の開口を設け,同開口を内側から覆ったフィルムに,スリット状の取り出し口を形成して,シートを1枚ずつ順次取り出す手段は,通常の乾燥したティッシュペーパー用のものとして,本件特許出願前に,日常的に用いられている手段というべきである(公知の事実)。 (2) 上記(1)に照らせば,紙とフィルムが一体となったラミネート材からなる刊行物1記載の発明のトレイ部材について,紙とフィルムを別々に使うこととし,また,封入袋1の袋体本体11の内面における防水性を確保するために,保護フィルムを保形板の外側で封入袋1の袋体本体11の頂面に固着する際に,さらに,後続のウエットシートに抵抗を付与して後続のウエットシートが若干突出するように,保護フィルムの取り出し口を,収納袋本体の取り出し口及び保形板の開口部よりも小さなスリット状のものとすることは,当業者であれば自明の事項というべきである。 (3) 原告の主張について ア 原告の主張(ア)について (ア) まず,原告は,上記周知の取り出し手段について,後続のティッシュペーパーが大きく突出したままの状態で放置しても問題の生じないドライティッシュペーパー用の取り出し手段に関するものであり,開閉蓋を粘着剤を介して収納袋側に貼着して密封する必要のあるウエットシート用収納袋に,直ちに適用することができるものではないと主張する。 しかしながら,上記周知の取り出し手段については,フィルムに形成したスリット状の取り出し口がシートに抵抗を与えることにより,シート1枚ずつを順次取り出せるようにするものであることは明らかなところ,どの程度後続のシートを突出させるかは,上記スリット状の取り出し口がシートに与える抵抗の大きさによって左右されることも明らかというべきであるから,上記スリット状の取り出し口の中でもシートに与える抵抗の大きいものを採用すれば,後続のシートが大きく突出したままの状態で放置されることにはならないというべきである。 そうすると,上記周知の取り出し手段については,当業者であれば,簡易な設計変更を加えることによって,容易に,ウエットシート用の収納袋にも適用し得るものというべきである。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 (イ) 次に,原告は,上記周知の取り出し手段は,本件請求項1の発明における収納袋本体の取り出し口と保形板の開口部という2個の開口を有し,かつ,保護フィルムの取り出し口をこれら開口よりも小さくするという構成を有していない点,また,保形板の外側部分において,収納袋の防水皮膜にフィルムを貼付するという構成を有していない点において,本件請求項1の発明とは異なるものであるので,刊行物1記載の発明に,このような周知技術を適用しても,本件請求項1の発明を想到することはできないと主張する。 しかしながら,紙とフィルムが一体となったラミネート材からなる刊行物1記載の発明のトレイ部材について,紙とフィルムを別々にして,保形板と保護フィルムとして用いる場合に,封入されたウエットシートをこの部分から取り出す手段として,上記周知の取り出し手段を適用するならば,刊行物1記載の発明の封入袋1の袋体本体11には,取り出し口12が別途存在しているのであるから(甲7),前記取り出し口12と保形板の開口部という2個の開口を有するものとなることは明らかというべきであり,また,保護フィルムの取り出し口は,スリット状に形成されるのであるから,これが上記取り出し口12や保形板の開口部よりも小さなものとなることも明らかというべきである。 しかも,上記のとおり,紙とフィルムが一体となったラミネート材からなる刊行物1記載の発明のトレイ部材について,紙とフィルムを別々にして,保形板と保護フィルムとして用いる場合に,封入袋1の袋体本体11の内面における防水性を確保するために,保護フィルムを保形板の外側で封入袋1の袋体本体11の頂面に固着することは,当業者であれば自明の事項というべきである。 そうすると,上記周知の取り出し手段が,原告の主張するような点において,本件請求項1の発明とは異なるものであるとしても,刊行物1記載の発明に,上記周知の取り出し手段を適用することにより,本件請求項1の発明を想到することができないわけではない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 イ 原告の主張(イ)について 原告は,刊行物1記載の発明に,上記周知の取り出し手段を適用することは,トレイ部材のラミネート材のうち,紙の部分とフィルムの部分のそれぞれに開口を設け,かつ,後者を小さくすることであるが,ラミネート材にこのような加工を施すことは非常に困難であると主張する。 しかしながら,上記のとおり,紙とフィルムが一体となったラミネート材からなる刊行物1記載の発明のトレイ部材について,紙とフィルムを別々にして,保形板と保護フィルムとして用いる程度のことは,必要に応じて当業者が適宜選択可能なことというべきであることを前提とし,このような置換が行われた後に,さらに,別々になった保形板と保護フィルムのそれぞれに開口を設け,かつ,後者を小さくすることについて,当業者が容易に想到しうるものであるとした本件決定の判断の当否が問題とされるべきところ,原告の上記主張は,紙の部分とフィルムの部分が未だラミネート材として合体していることを前提としたものであるから,失当というべきであり,採用することができない。 (4) この点,本件決定のうち上記争いのない事実(3)イ(イ)記載の部分の判断は,言葉足らずの感は免れないものの,上記(1)(2)と同趣旨をいうものとして理解することができる。 (5) したがって,本件決定のうち上記争いのない事実(3)イ(イ)記載の部分の判断にも,誤りはないというべきである。 3 原告の主張ウ(本件請求項1の発明の顕著な作用効果の看過)について (1) 原告の主張(ア)について ア 廃棄時に公害を発生させ難くするために,従来の合成樹脂に代えて,天然材料を用いることは,ごく普通に行われていることである(乙2から4)。 イ また,本件請求項1に,「天然材料を主たる材料とした主シート材(19)と,この主シート材(19)の内側に形成された合成樹脂製の防水皮膜(20)とを備えた複合シート材(13)により袋本体(6)を構成し,この袋本体(6)の主シート材(19)側に,開閉蓋(12)が粘着剤(11)を介して剥離自在に貼着される合成樹脂製の補強フィルム(10)を設け」と記載されているとおり,本件請求項1の発明には,天然材料でない防水皮膜や補強フィルム等が含まれているから,本件請求項1の発明の収納袋全体を焼却処分した場合に,有毒ガスが全く発生しないというわけでもないことは明らかというべきである。 ウ したがって,原告の主張(ア)の作用効果をもって,本件請求項1の発明独自の効果とか,格別な効果ということはできない。 (2) 原告の主張(イ)について ア まず,本件請求項1の発明においては,保形板の開口部の広さや保形板の厚さは特定されておらず,本件特許の訂正明細書(甲5)【0011】に,「保形板8に厚紙等を使用する場合,その厚さは袋本体6の上面部4側の大きさによっても異なるが,例えば0.5oから3.0o程度の厚さが適当である。」と記載されているに留まるのであり,しかも,保護フィルムの取り出し口が保形板の開口部よりも小さいという以外には,保形板の開口部と保護フィルムの取り出し口の大きさの相関関係も特定されていないのであるから,本件請求項1の発明の実施例には,例えば,保形板の開口部と保護フィルムの取り出し口の大きさの違いが少なく,かつ,保形板の厚さが大きいために,保護フィルムに保持されて突出するウエットシートの部分が容易に保形板の内周縁に接触してしまい,ウエットシートの水分が保形板の内周縁を通じて奪われ,これを吸収した保形板が板厚方向へ膨張するようなものも包含されているといわざるをえない。そうすると,原告の主張(イ)の作用効果は,本件請求項1の発明の実施例如何にかかわらず,同発明が有する本質的な効果とはいえないことからも,格別な効果と解することはできない。 イ また,本件請求項1の発明のとおり,厚紙である保形板を保護フィルムで覆い,保形板の外側で防水皮膜に固着し,かつ,ウエットシートを取り出すときに,後続のウエットシートに抵抗を付与して後続のウエットシートが若干突出するように,保護フィルムの取り出し口を保形板の開口部よりも小さくするならば,そのような構成をとらない場合と比較して,当然に,ウエットシートが厚紙である保形板の内外周縁に接触する可能性は低くなり,その結果,ウエットシートの水分が保形板の内周縁を通じて奪われる可能性や,これを吸収した保形板が板厚方向へ膨張する可能性も低くなるというべきであるから,本件請求項1の発明が原告の主張(イ)の作用効果を有するとしても,その作用効果については,当業者であれば,予測可能なものというべきである。 ウ しかも,刊行物1記載の発明は,ウェットティッシュの包装体である以上,ウェットティッシュの水分が,その包装体を構成する部分に奪われて,ウェットティッシュが乾燥することを防止することが当然の課題となっているというべきところ,刊行物1(甲7)に,「トレイ部材2材料としては,合成樹脂(シート状,発泡体状等),比較的薄い金属板,または液体が染み込まないように合成樹脂をコーティングした紙,紙とフィルムまたはアルミフォイルとをラミネートしたもの等を用いればよい。」(8欄37から41行目)と記載されていることに照らすと,刊行物1記載の発明では,トレイ部材の材料に,ウェットティッシュの水分を奪わない材料や水分が染み込まない工夫を加えたものを用いることで,程度差はありうるとしても,上記課題を解決していたものと認められるから,従来技術においても,原告の主張(イ)の作用効果は存在したものというべきである。 なお,この点について,原告は,刊行物1記載の発明のトレイ部材の材料として,紙とフィルムまたはアルミフォイルとをラミネートしたものを用いたところ,トレイ部材の内周縁がウェットティッシュの水分を吸収するため,その内周縁に,空気中の雑菌による黴が発生し易く,ウェットティッシュを取り出すときに,トレイ部材の内周縁の黴がウェットティッシュに付着するなどの問題点があったと主張するが,これを客観的に裏付けるに足りる証拠は存在しない。また,刊行物1記載の発明のトレイ部材の材料は,紙とフィルムまたはアルミフォイルとをラミネートしたものに限られるものではないから,原告の主張するとおりであるとしても,上記実施例をもって,直ちに,刊行物1記載の発明について,トレイ部材の内周縁がウェットティッシュの水分を吸収するため,その内周縁に,空気中の雑菌による黴が発生し易く,ウェットティッシュを取り出すときに,トレイ部材の内周縁の黴がウェットティッシュに付着するなどの問題点があると断ずることはできない。そうすると,原告の上記主張は,採用することができない。 エ したがって,原告の主張(イ)の作用効果をもって,本件請求項1の発明独自の効果とか,格別な効果ということはできない。 (3) 原告の主張(ウ)について ア 原告の主張aについて 確かに,刊行物1記載の発明のトレイ部材は,立体形状であるところ(甲7),このようなトレイ部材を作成するためには,ラミネート材等を所定形状に切断した上で,塑性変形するまでの所定時間加圧状態を維持して立体成形しなければならないことが明らかであるのに対し,本件請求項1の発明の保形板と保護フィルムは,単純な平面の厚紙の板材とフィルムを材料とするところ,これらについては,単に,所定形状に切断するだけで足りるものであり,塑性変形するまでの所定時間加圧状態を維持して立体成形する必要のないことも明らかである。 しかしながら,上記差異が,加工工程の簡素化や加工費用の削減につながるにしても,本件請求項1の発明が解決しようとした課題(甲5の【0003】,【0004】参照)とは何ら関係のない作用効果であることからも明らかなとおり,原告の主張aの作用効果を格別な効果と解することは到底できない。 イ 原告の主張bについて まず,本件特許の訂正明細書(甲5)の発明の詳細な説明【0014】に,「なお,保形板8を複合シート材13の防水皮膜20側にセットしたときに,この保形板8が複合シート材13上で移動しないように,保形板8を複合シート材13上に接着剤等で仮止めしても良い。」と記載されていることに照らすと,本件請求項1の発明においても,保形板を複合シート材に仮止めするという工程を経る必要のある場合が存在するというべきである。そうすると,原告の主張bの作用効果は,本件請求項1の発明の実施例如何にかかわらず,同発明が有する本質的な効果でもないことから,格別な効果とはいえない。 また,本件請求項1の発明が原告の主張bの作用効果を有するとしても,上記1(2)イの技術常識に照らすと,この作用効果は,自然な選択の結果にすぎないというべきであるから,当業者であれば,予測可能なものというべきである。 ウ 原告の主張cについて 上記のとおり,本件請求項1の発明においては,保形板の厚さが特定されておらず,本件特許の訂正明細書(甲5)【0011】に,「保形板8に厚紙等を使用する場合,その厚さは袋本体6の上面部4側の大きさによっても異なるが,例えば0.5oから3.0o程度の厚さが適当である。」と記載されているに留まるのであるから,本件請求項1の発明の実施例には,例えば,保形板が厚く,その嵩張りが大きいために,製袋の作業性において優れているとはいえないものも包含されているといわざるをえない。そうすると,原告の主張cの作用効果についても,本件請求項1の発明の本質的な効果でないこともあって,格別な効果とはいえない。 また,刊行物1(甲7)においては,トレイ部材の厚さは特定されていないものの,日用品であるウェットティッシュ,ウエットシートの封入容器について,小型化を図ることは,ごくありふれた課題というべきであり,当業者であれば,刊行物1記載の発明において,トレイ部材をより薄いものとするように試みることは自明の事項というべきであるから,本件請求項1の発明の保形板が厚紙からなるものであり,他方,刊行物1記載の発明のトレイ部材が立体的なものであるからといって,直ちに,本件請求項1の発明の保形板が,刊行物1記載の発明のトレイ部材と比較して,嵩張りが少ないために,製袋の作業性に優れていると断ずることはできない。 エ 以上の各事情に照らすと,本件請求項1の発明と刊行物1記載の発明の加工工程等には,多少の差異が認められるものの,当業者であれば,加工工程の簡素化,加工費用の削減を試みることは自明の事項というべきであるから,この程度の差異をもって,直ちに,原告の主張(ウ)の作用効果が格別なものということはできない。 (4) 原告の主張(エ)について ア まず,上記のとおり,本件請求項1の発明においては,保形板の厚さが特定されておらず,本件特許の訂正明細書(甲5)【0011】に,「保形板8に厚紙等を使用する場合,その厚さは袋本体6の上面部4側の大きさによっても異なるが,例えば0.5oから3.0o程度の厚さが適当である。」と記載されているに留まるのであるから,本件請求項1の発明の実施例には,例えば,保形板が厚く,内外方向の寸法が厚く,その容積が大きいために,袋本体におけるウエットシートの収納量を充分に確保できないものも包含されているといわざるをえない。そうすると,原告の主張(エ)の作用効果については,本件請求項1の発明の本質的な効果とはいえない。 イ また,本件請求項1の発明において,保形板の厚さを薄いものとすれば,保形板の厚い場合と比較して,当然に,袋本体におけるウエットシートの収納量を大きくすることができるというべきであるから,本件請求項1の発明が原告の主張(エ)の作用効果を有するとしても,その作用効果については,当業者であれば,予測可能なものというべきである。 ウ しかも,上記のとおり,刊行物1(甲7)においては,トレイ部材の厚さは特定されていないものの,日用品であるウェットティッシュ,ウエットシートの封入容器について,小型化を図ることは,ごくありふれた課題というべきであり,当業者であれば,刊行物1記載の発明において,トレイ部材をより薄いものとするように試みることは自明の事項というべきであるから,本件請求項1の発明の保形板が厚紙からなるものであり,他方,刊行物1記載の発明のトレイ部材が立体的なものであるからといって,直ちに,本件請求項1の発明の保形板が,刊行物1記載の発明のトレイ部材と比較して,内外方向の寸法や容積がより小さいために,袋本体の大きさを小さくしながらも,ウエットシートの収納量を充分に確保することができると断ずることはできない。 エ したがって,原告の主張(エ)の作用効果をもって,本件請求項1の発明独自の効果とか,格別な効果ということはできない。 (5) 原告の主張(オ)について ア まず,本件請求項1の発明においては,保形板の大きさ,その開口部の大きさ,これらの大きさの相関関係等が何ら特定されていないのであるから,本件請求項1の発明の実施例には,例えば,保形板の大きさとその開口部の大きさがいずれも小さく,かつ,近似しているものであるために,保護フィルムが下側に変形したとしても,ウエットシートの突出部分を収容する役割を殆ど果たさないようなものも包含されているといわざるをえない。また,本件特許の訂正明細書(甲5)を精査しても,保護フィルムが下側に変形することにより,ウエットシートの突出部分を容易に収容し,その密封性を確保することができるとの説明はなされていない。そうすると,原告の主張(オ)の作用効果は,本件請求項1の発明の本質的な効果とはいえない。 イ また,本件請求項1の発明において,保形板を大きいものとすれば,そうでない場合と比較して,当然に,保護フィルムが下側に変形することにより,ウエットシートの突出部分を容易に収容し,その密封性を確保することができるというべきであるから,本件請求項1の発明が原告の主張(オ)の作用効果を有するとしても,その作用効果については,当業者であれば,予測可能なものというべきである。 ウ しかも,刊行物1記載の発明においては,ウェットティッシュの包装体である以上,ウェットティッシュの乾燥を防止するために,後続のウェットティッシュの突出部分を容易に収容し,その密封性を確保することが当然の課題となっているところ,刊行物1(甲7)に,「引出された部分がトレイ部材の凹部に保持される。」「引出されたウェットティッシュの部分はトレイ部材2の凹部22内に収容される。」(5欄41,42行目,10欄34,35行目,14欄11,12行目)と記載されていることに照らすと,刊行物1記載の発明では,トレイ部材に凹部を設け,ウェットティッシュの突出部を上記凹部に収容することで,上記課題を解決していたものと認められるから,従来技術においても,原告の主張(オ)の作用効果は存在したものというべきである。 エ したがって,原告の主張(オ)の作用効果をもって,本件請求項1の発明独自の効果とか,格別な効果ということはできない。 (6) 原告の主張(カ)について ア まず,本件請求項1の発明のように,袋本体の取り出し口の周辺を平坦状に保形する保形板と,この保形板を内側から覆う保護フィルムとを設け,この保護フィルムを保形板の外側で防水皮膜に固着して保形板を袋本体の内側に固定すれば,当然に,袋本体の取り出し口周辺を確実に平坦状に保形でき,また,保護フィルムの弛みを防止できるというべきであるから,本件請求項1の発明が原告の主張(カ)の作用効果を有するとしても,その作用効果については,当業者であれば,予測可能なものというべきである。 イ また,刊行物1(甲7)に,「トレイ部材2は開口25を設けた凹部22を有し,そして封入袋1よりもやや硬い材料から作られる。」(8欄35から37行目),「第2実施例においては,開閉蓋14付近の袋体本体11の頂面のシート面はトレイ部材2に固着されているため,ウェットティッシュ3の消費が進んで,ウェットティッシュ3の残りの量が少なくなっても,前記開閉蓋14付近の袋体本体11のシート面はほぼ緊張状態のままである。従って,該シート面に対する開閉蓋14の開閉が確実に行える。」(11欄23から29行目),「第3実施例においては,開閉蓋14付近の袋体本体11の頂面のシート面がトレイ部材2に固着され,その上,開閉蓋14も補強部材5が貼着されているため,ウェットティッシュ3の消費が進んで,ウェットティッシュ3の残りの量が少なくなっても,前記開閉蓋14付近の袋体本体11のシート面はほぼ緊張状態のままであり,しかも開閉蓋14も補強部材5により緊張状態に保たれるので,封入袋1の取出し口12周辺のシート面と開閉蓋14との間に隙間ができずに,確実に繰返し密封することができる。」(12欄10から19行目)と記載されていることに照らすと,刊行物1記載の発明においても,トレイ部材によって,袋本体の取り出し口の周辺を確実に平坦状に保形することができていたものと認められるから,従来技術においても,原告の主張(カ)の作用効果は存在したものというべきである。 ウ そうであれば,原告の主張(カ)の作用効果をもって,本件請求項1の発明独自の効果とか,格別な効果ということはできない。 (7) 以上のとおり,原告の主張ウは,いずれも採用することができない。 4 以上によれば,原告の主張アイウはいずれも採用することができず,他方,刊行物1記載の発明等から,本件請求項1の発明を構成することは,当業者が容易に想到しうるものであるとした本件決定の判断には,誤りはないというべきである。 5 また,本件請求項2から6の各発明については,いずれも,本件請求項1の引用形式請求項であるところ,原告は,本件決定のうち,本件請求項1の発明に係る部分についての取消事由のみを主張立証し,本件請求項2から6の各発明に係る部分についての独立した取消事由を主張立証しない。 そして,本件一件記録を精査しても,本件決定のうち,本件請求項2から6の各発明に係る部分について,決定を取り消すべき瑕疵は見当たらないというべきである。 6 結論 よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 北山元章 |
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裁判官 | 橋本英史 |
裁判官 | 絹川泰毅 |